説明

流体素子及び積層構造体の製造方法

【課題】流路内の流体を外部から視認することのできる流体素子及び積層構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】このマイクロリアクタ1は、第2の基板として設けられるガラス基板10に対して、電鋳法により形成された複数の導電膜12A〜12Dを順次常温接合することにより形成されている。ガラス基板10と導電膜12Aは、ガラス基板10に接合膜として設けられるCr膜11を介して常温接合されており、導電膜12Aに形成された流路121がガラス基板10の上面10a側から視認できるようになっている。導電膜12A〜12Dは、それぞれ流体を通過させるための孔や溝等の形状の流路パターンを有しており、積層されることによって積層体内に流体の入口から出口にかけて連結された3次元的な流路を形成するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体素子及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部品製造において、コンピュータで設計された複雑な3次元物体を短期間で形成する方法として積層造形方法が急速に普及している。この積層造形方法は、サイズが数cm以上の比較的大きな部品に適用されることが多かったが、近年においては、精密に加工して形成される微小構造体、例えば、微小ギアや微小光学部品、マイクロ流体素子等にもこの方法が適用されている。
【0003】
マイクロ流体素子は、マイクロ流体デバイス、マイクロ・フルイディック・デバイス、マイクロ・ファブリケイテッド・デバイス、ラブ・オン・チップ、又はマイクロ・トータル・アナリシス・システム(μ−TAS)とも呼ばれるデバイスである。マイクロ流体素子は、合成、物理化学的処理、検出などの他の機能を有するマイクロ流体素子と一体化して、マイクロ化学システムを構築することもできる。マイクロ流体素子は、反応溶液の温度の均一性に優れ、温度追従性が良好で、反応時間を短縮でき、試料の量が少なくて済み、溶剤などの使用量を低減でき、デバイスの製造に要する資源やエネルギーが少なく、運転を省エネルギー化でき、廃棄物の量を低減できる等の特長があり、今後の発展が期待されている。
【0004】
また、マイクロ流体素子の一種であるマイクロリアクタは、通常の反応装置より数桁小さな微小反応場を持つ装置であり、その多くは直径が1mmからミクロンオーダーの流路を反応場とすることからマイクロチャンネルリアクタとも呼ばれる。このようなマイクロリアクタは、単位体積あたりの装置表面積が大きく、熱容量の減少による精密な温度制御が可能と考えられ、温度に敏感であり、接触面積に反応速度が支配的である触媒反応には、特に魅力的な装置として、各国で研究が進められている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、マイクロ流体素子の製造方法として、例えば、Siウェハ基板にポリイミドや熱酸化膜による離型層、及び導電層を順次形成し、この導電層上に断面パターンの反転パターンであるレジストパターン層を形成し、このレジストパターン層の空間内に、メッキにより断面パターン部材を形成し、更にレジストパターン層を除去してドナー基板を作製し、ドナー基板に、ターゲット基板を対向配置し、このターゲット基板を断面パターン部材に位置合わせして圧接した後、離間を行う処理を繰り返して、断面パターン部材をターゲット基板に転写ならびに積層して積層構造体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2006−187684号公報
【特許文献2】特開2004−358602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、流路内の流体を外部から視認することのできる流体素子及び積層構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の流体素子及び積層構造体の製造方法を提供する。
【0008】
(1)流路を構成する流路パターンを形成された構造体と、前記構造体の所定の面に露出した前記流路パターンの少なくとも一部が可視状に設けられるように前記構造体と接合される基板とを有する流体素子。
【0009】
(2)前記構造体は、電鋳法によって形成される複数の導電膜を積層して形成される前記(1)に記載の流体素子。
【0010】
(3)前記基板は、透明材料によって形成され、前記構造体と接合膜を介して接合される前記(1)に記載の流体素子。
【0011】
(4)前記導電膜は、清浄化された接合面を直接接触させることにより接合されている前記(2)に記載の流体素子。
【0012】
(5)前記透明材料は、ガラスであり、前記構造体と透明な前記接合膜を介して接合される前記(3)に記載の流体素子。
【0013】
(6)第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、前記薄膜を接合膜を介して透明な第2の基板に順次転写して積層する工程と、前記薄膜に形成された前記流路パターンが前記第2の基板を透過して視認できるように前記接合膜を処理する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【0014】
(7)第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、前記薄膜を透明な接合膜を介して透明な第2の基板に順次転写して積層する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【0015】
(8)第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、前記薄膜を透明な第2の基板に順次転写して積層する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【0016】
(9)前記処理は、エッチングによって前記流路パターンに応じた前記接合膜を除去することにより行われる前記(6)に記載の積層構造体の製造方法。
【0017】
(10)前記処理は、陽極酸化処理によって前記接合膜を透明化することにより行われる前記(6)に記載の積層構造体の製造方法。
【0018】
(11)前記薄膜の形成は、電鋳法で導電膜を形成することにより行われる前記(6)から(8)のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【0019】
(12)前記薄膜の接合は、清浄化された接合面を直接接触させることにより行われる前記(6)から(8)のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の流体素子によれば、流路内の流体を外部から視認することができる。
【0021】
請求項2に記載の流体素子によれば、流路を有した構造体を効率良く高精度で形成することができる。
【0022】
請求項3に記載の流体素子によれば、透明な基板と直接接合することのできない構造体との接合が可能になる。
【0023】
請求項4に記載の流体素子によれば、面倒な接合処理を要することなく十分な接合強度が得られる。
【0024】
請求項5に記載の流体素子によれば、透明なガラスを構造体に対して十分な接合強度をもって接合することができる。
【0025】
請求項6に記載の積層構造体の製造方法によれば、流路内の流体を外部から視認することができる。
【0026】
請求項7に記載の積層構造体の製造方法によれば、流路内の流体を外部から視認することができる。
【0027】
請求項8に記載の積層構造体の製造方法によれば、流路内の流体を外部から視認することができる。
【0028】
請求項9に記載の積層構造体の製造方法によれば、接合膜による接合強度を確保しながら流路内の流体を外部から視認することができる。
【0029】
請求項10に記載の積層構造体の製造方法によれば、接合膜による接合強度を確保しながら流路内の流体を外部から視認することができる。
【0030】
請求項11に記載の積層構造体の製造方法によれば、積層構造体を構成する複数の導電膜を効率良く高精度で形成することができる。
【0031】
請求項12に記載の積層構造体の製造方法によれば、面倒な接合処理を要することなく十分な接合強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【0033】
このマイクロリアクタ1は、第2の基板として設けられるガラス基板10に対して、電鋳法により形成された複数の導電膜12A〜12Dを順次常温接合することにより形成されている。ガラス基板10と導電膜12Aは、ガラス基板10に接合膜として設けられるCr膜11を介して常温接合されており、導電膜12Aに形成された流路121がガラス基板10の上面10a側から視認できるようになっている。導電膜12A〜12Dは、それぞれ流体を通過させるための孔や溝等の形状の流路パターンを有しており、積層されることによって積層体内に流体の入口から出口にかけて連結された3次元的な流路を有する積層構造体を形成するように構成されている。
【0034】
ここで「常温接合」とは、接合対象の表面に中性原子ビーム、イオンビーム等を照射して表面を清浄化した後、清浄化した接合面同士を常温(例えば、15〜25℃)雰囲気中で直接接触させ、原子同士を直接結合させる接合方法をいい、表面活性化接合ともいう。常温接合により薄膜を接合することにより、薄膜の形状や厚みの変化が少なく、高精度な積層構造体としてのマイクロリアクタ1が得られる。なお、接合の際は、無荷重でもよい。また、常温接合の他に、清浄化された接合面同士を所定の温度(例えば、100℃以下)で加熱して接合してもよい。
【0035】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタの分解斜視図である。なお、各部のサイズについては説明の都合上、実際の寸法と異なっている。
【0036】
ガラス基板10は、無色透明なガラス材からなり、上面10aは平滑な面で形成されている。また、上面10aの反対側の面である下面にはスパッタリング法等の成膜方法によって厚さ50nmで形成されたCr膜11を有する。なお、Cr膜11はガラスと導電膜との接合性を付与する接合膜であり、十分な接合性が得られれば前述した厚さに限定されず、より薄い膜であっても良い。また、Ti等の他の金属材料で形成されてもよい。
【0037】
導電膜12A〜12Dは、Niからなり、電鋳法によって厚さ50μmで形成されている。なお、導電膜12A〜12Dの上面12aには、導電膜間の接合性を高めるものとしてスパッタリング法によって図示しないAuの薄膜が設けられているが、図示省略している。導電膜12Aは反応層であり、2つの貫通孔120と、矩形状に折り返す流路パターンで形成された流路121とを有し、流路121は2つの貫通孔120に連結している。なお、流路121のサイズは、幅10〜500μmで形成することが可能であるが、本実施の形態では幅100μmで形成されている。
【0038】
導電膜12Bは貫通層であり、2つの貫通孔120を有する。
【0039】
導電膜12Cは混合層であり、4つの貫通孔120と、3つの貫通孔120に連結された流路122とを有する。流路122は幅100μmで形成されている。
【0040】
導電膜12Dは出入口層であり、流体を供給する2つの入口123A,123Bと、流体を排出する1つの出口124とを有する。
【0041】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタを構成する導電膜を有するドナー基板を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B部における断面を示す断面図である。
【0042】
このドナー基板15は、第1の基板として、所定の表面粗さを有するステンレス基板からなり、上面15aにマイクロリアクタを構成する複数の導電膜12A〜12Dを有する。導電膜12A〜12Dは、例えば1cm角の正方形状に形成されており、転写工程における作業性を高めるために積層する順番に応じて一線状若しくは2次元アレイ状に配列されている。本実施の形態では、ガラス基板に対して導電膜12A、導電膜12B、導電膜12C、導電膜12Dの順に積層される。
【0043】
(ドナー基板の形成)
本実施の形態では、電鋳法を用いてドナー基板15を形成する。まず、ステンレス基板を準備する。次に、ドナー基板15上に厚さ30〜50μmのドライフィルムレジストを形成し、各導電膜の形状に対応したフォトマスクにより露光した後、ドライフィルムレジストを現像する。これにより、各導電膜の形状に対応してポジネガ反転したレジストパターンが形成される。次に、このレジストパターンを有するドナー基板15をめっき槽に浸漬し、レジストパターンに覆われていないドナー基板15の表面にNi電鋳膜を成長させる。なお、電鋳膜の膜厚は、ドライフィルムレジストの膜厚よりも小さくする。次に、レジストパターン及びNiの表面にスパッタリング法によってAuを成膜する。次に、レジストパターンを除去することによって、上面15aに導電膜12A〜12Dが設けられたドナー基板15が得られる。なお、ドナー基板15は、上記したステンレス基板以外に、例えば、Si、セラミック、合成樹脂等の絶縁体からなる絶縁性基板を用いることもできる。
【0044】
絶縁性基板を用いる場合は、まず、基板の表面にスピンコート法によりポリイミドを厚さ1〜5μmで塗布し、硬化処理及び表面のフッ素化処理を施すことによって離型層を形成する。次に、離型層の表面に電導性を付与するために、Ti,Cu等の金属からなる導電膜を設ける。
【0045】
(導電膜の積層)
図4(a)〜(c)は、導電膜の積層工程を概略的に示す図である。以下に、図1から図3の図面をあわせて参照しつつ、導電膜の積層について説明する。なお、マイクロリアクタ1の各断面形状に対応した複数の導電膜12A〜12Dが積層装置20における同一の積層工程を経てガラス基板10上に順次転写されるので、図4に示す導電膜12A〜12Dのうち導電膜12A,12Bの積層工程だけを説明する。そのため、図4においては、導電膜12Dの図示を省略している。
【0046】
マイクロリアクタ1を製造するにあたって、まず、図4(a)に示すように、ドナー基板15を真空槽21内の下部ステージ25上に配置し、ガラス基板10を真空槽21内の上部ステージ26に吸着等によって固定する。このガラス基板10の接合面にはCr膜11が設けられている。
【0047】
次に、排気口22から真空槽21内を排気して高真空状態あるいは超高真空状態にする。次に、下部ステージ25を上部ステージ26に対して相対的に移動させて、ガラス基板10の直下にドナー基板15の導電膜12Aを位置させる。次に、ガラス基板10に設けられるCr膜11表面にFAB(Fast Atom Bombardment)源24Aからアルゴン原子ビームを照射することにより、接合面を清浄化する。同様に、FAB源24Bから導電膜12Aの表面にアルゴン原子ビームを照射することにより、接合面を清浄化する。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、垂直ステージ28を下降させ、所定の荷重でガラス基板10とドナー基板15とを所定の時間で押圧し、ガラス基板10と導電膜12AとCr膜11を介して常温接合する。
【0049】
次に、図4(c)に示すように、垂直ステージ28を上昇させると、導電膜12Aがドナー基板15から剥離し、ガラス基板10側に転写される。これは、導電膜12AとCr膜11との接合力が導電膜12Aとドナー基板15との密着力よりも大きいからである。
【0050】
次に、下部ステージ25を移動させ、ガラス基板10の直下にドナー基板15上の導電膜12Bが配置されるように位置決めする。次に、ガラス基板10側に転写された導電膜12Aの表面(ドナー基板15に接触していた面)、及び導電膜12Bの表面にアルゴン原子ビームを照射することにより、接合面を清浄化する。
【0051】
次に、垂直ステージ28を下降させ、導電膜12Aと導電膜12Bとを常温接合させた後、垂直ステージ28を上昇させると、導電膜12Bがドナー基板15から剥離し、ガラス基板10側に転写される。
【0052】
以降、同様の工程を繰り返し、導電膜12A〜12Dの接合が完了した後、ガラス基板10を上部ステージから28から取り外すことでマイクロリアクタ1が形成される。このように常温接合によって導電膜12A〜12Dを接合して積層することで、導電膜12A〜12Dの形状や厚みの変化が少なくなる。
【0053】
図5は、Cr膜のエッチングを示し、(a)はエッチング前、(b)はエッチング後を示す部分斜視図である。
【0054】
上記したように形成されたマイクロリアクタ1に対し、ガラス基板10と導電膜12Aとの間に設けられたCr膜11を部分的に除去することによって、マイクロリアクタ1内に供給された流体の状態を外部から視認することができる。
【0055】
まず、図2で説明したマイクロリアクタ1の入口123A,123BからCr膜11を除去するためのエッチャントを供給する。エッチング前の状態では、図5(a)に示すように、ガラス基板10と導電膜12Aとの間のCr膜11によって流路121を視認することはできない。しかし、エッチャントがマイクロリアクタ1内の貫通孔120及び流路121,122を介してガラス基板10の裏面に流れ込むと、図5(b)に示すように、流路121に露出した未接合部分のCr膜11がエッチングされて流路121が視認可能になる。
【0056】
(マイクロリアクタの動作)
以下に、マイクロリアクタ1に2つの液体を供給して混合する動作について説明する。
【0057】
まず、図2に示す導電膜12Dの下面側から入口123A,123Bに対して液性の異なる液体を同時に供給する。ここでは、第1の液体L1を入口123Aから供給し、第2の液体L2を入口123Bから供給するものとする。
【0058】
第1の液体L1及び第2の液体L2は、導電膜12Cの混合層に導入され、流路122で混合されて一体となり、貫通孔120から導電膜12Bに供給される。
【0059】
混合された液体は、導電膜12Bの貫通層を経て上層に導かれ、貫通孔120から導電膜12Aに供給される。
【0060】
導電膜12Aに供給された液体は、貫通孔120から流路121に導入され、矩形状に折り返す流路内を移動することによって拡散混合が促進される。観察者は、流路121内を移動する液体の状態について、ガラス基板10の上面10a側から観察することができる。
【0061】
流路121から貫通孔120に送り出された液体Lは、導電膜12B及び12Cの貫通孔120を経て導電膜12Dの出口124から液体L3として排出される。
【0062】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。なお、以下の説明において、第1の実施の形態と同様の構成及び機能を有する部分については、同一の符号を付している。
【0063】
このマイクロリアクタ1は、ガラス基板10と導電膜12Aとを接合する接合膜としてAl膜31を設けた点において第1の実施の形態と異なっている。また、Al膜31は、流路が設けられる部分が陽極酸化処理に基づいて透明な膜に変化した陽極酸化部31Aとなっている。
【0064】
図7は、Al膜に対する処理を示し、(a)は処理前、(b)は処理後を示す部分斜視図である。
【0065】
Al膜31は、マイクロリアクタ1の形成後に流路内にシュウ酸,リン酸等の電解液を供給し、流路内を電解液で満たした状態でAl膜31を陽極として電気分解することにより、流路121に露出したAl表面がAlからなる透明な陽極酸化部31Aに変化する。図7(a)に示すように、マイクロリアクタ1の形成直後にガラス基板10側から下層の流路が不可視の状態でも、陽極酸化処理を行うことで図7(b)に示すように流路121に接した部分のAlが酸化されて陽極酸化部31Aに変化することにより、ガラス基板10側から流路121が視認可能になる。
【0066】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【0067】
このマイクロリアクタ1は、ガラス基板10と導電膜12Aとを接合する接合膜としてSiN膜41を設けた点、図示しないが各導電膜12A〜12Dの表面にAuに代えてAlの薄膜がスパッタリング法によって設けられている点において、第1の実施の形態と異なっている。
【0068】
SiN膜41は、透明であるとともに、Alとの接合性を有することから、導電膜12Aとの接合によってガラス基板10の上面10a側から流路121を視認することが可能になる。なお、SiN膜に代えて、ガラス基板10の表面に予めAl膜を設けたものであっても良い。
【0069】
[第4の実施の形態]
図9は、本発明の第4の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【0070】
このマイクロリアクタ1は、第2の実施の形態のマイクロリアクタ1におけるターゲット基板として、ガラス基板10に代えてポリメチルメタクリレートや、ポリカーボネート等の透明樹脂からなる透明樹脂基板50を用いた点において、第2の実施の形態と異なっている。
【0071】
常温接合によるマイクロリアクタ1の形成では、熱的な制約のある樹脂材料でも、Al膜の様な導電膜でコートすることによりガラスを用いた場合と同等の高い接合強度で接合できる。また、ガラス基板と同様に上面50aから流路の視認が可能な構成を実現できるとともに、形状や厚みの変化が少ないものとできる。
【0072】
[第5の実施の形態]
図10は、本発明の第5の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【0073】
このマイクロリアクタ1は、第1の実施の形態のマイクロリアクタ1におけるターゲット基板として、ガラス基板10に代えてサファイア基板60を設けるとともに、表面にAuに代えてAlの薄膜が設けられた導電膜12Aとの間の接合膜を不要にした点において、第1の実施の形態と異なっている。
【0074】
サファイア基板60は透明であり、熱的にも安定であるので、ガラス基板と同様に上面60aから流路の視認が可能な構成を実現できるとともに、ガラスを用いた場合と同等の高い接合強度で接合できる。また、半導体プロセスを用いた工程での作業性、加工性に優れる。なお、サファイア基板に代えて、酸化亜鉛やチタン酸ストロンチウムからなる基板であっても良い。
【0075】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記した各実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形実施が可能である。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で各実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることが可能である。
【0076】
例えば、マイクロリアクタの形状、導電膜の枚数や厚さ等は、これに限定されるものではないことは勿論である。また、マイクロリアクタを構成する薄膜についても、上記したNi等の導電膜に限定されず、セラミックス等からなる薄膜であっても良い。
【0077】
電鋳法による導電膜についても、10〜100μmの厚さのもの、特に20〜50μmの厚さのものが多く用いられるが、500μm以上の厚さのものを形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタの分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタを構成する導電膜を有するドナー基板を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B部における断面を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、導電膜の積層工程を概略的に示す図である。
【図5】図5は、Cr膜のエッチングを示し、(a)はエッチング前、(b)はエッチング後を示す部分斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第2の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図7】図7は、Al膜に対する処理を示し、(a)は処理前、(b)は処理後を示す部分斜視図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図9】図9は、本発明の第4の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の第5の実施の形態に係る流体素子としてのマイクロリアクタを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0079】
1…マイクロリアクタ
10…ガラス基板
10a…上面
11…Cr膜
12A…導電膜
12a…上面
12A〜12D…導電膜
15…ドナー基板
15a…上面
20…積層装置
21…真空槽
22…排気口
24A,24B…FAB源
25…下部ステージ
26…上部ステージ
28…垂直ステージ
31…Al膜
31A…陽極酸化部
41…SiN膜
50…透明樹脂基板
50a…上面
60…サファイア基板
60a…上面
120…貫通孔
121,122…流路
123A,123B…入口
124…出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を構成する流路パターンを形成された構造体と、
前記構造体の所定の面に露出した前記流路パターンの少なくとも一部が可視状に設けられるように前記構造体と接合される基板とを有する流体素子。
【請求項2】
前記構造体は、電鋳法によって形成される複数の導電膜を積層して形成される請求項1に記載の流体素子。
【請求項3】
前記基板は、透明材料によって形成され、前記構造体と接合膜を介して接合される請求項1に記載の流体素子。
【請求項4】
前記導電膜は、清浄化された接合面を直接接触させることにより接合されている請求項2項に記載の流体素子。
【請求項5】
前記透明材料は、ガラスであり、前記構造体と透明な前記接合膜を介して接合される請求項3に記載の流体素子。
【請求項6】
第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、
前記薄膜を接合膜を介して透明な第2の基板に順次転写して積層する工程と、
前記薄膜に形成された前記流路パターンが前記第2の基板を透過して視認できるように前記接合膜を処理する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【請求項7】
第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、
前記薄膜を透明な接合膜を介して透明な第2の基板に順次転写して積層する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【請求項8】
第1の基板上に流路形状に応じた流路パターンを有する複数の薄膜を形成する工程と、
前記薄膜を透明な第2の基板に順次転写して積層する工程とを含む積層構造体の製造方法。
【請求項9】
前記処理は、エッチングによって前記流路パターンに応じた前記接合膜を除去することにより行われる請求項6に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項10】
前記処理は、陽極酸化処理によって前記接合膜を透明化することにより行われる請求項6に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項11】
前記薄膜の形成は、電鋳法で導電膜を形成することにより行われる請求項6から8のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項12】
前記薄膜の接合は、清浄化された接合面を直接接触させることにより行われる請求項6から8のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−136820(P2009−136820A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318074(P2007−318074)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】