説明

流体軸受式回転装置

【課題】軸受回転装置の薄型化を図りつつ回転性能を高め摩擦トルクと振動を小さく抑える。
【解決手段】フランジを一端側に有し他端側にハブを有する軸をスリーブの軸受に回転自在に設け、スリーブに連通穴を設け、ハブとスリーブ端面の間の第3の隙間を流通路としこの隙間を連通穴に連結することで潤滑剤の循環を可能とし、スラスト軸受を二面の動圧スラスト軸受で構成して角度剛性を高くし、かつ回転摩擦トルクを十分に小さくするでき、また、ロータ磁石とモータステータの磁気センターをほぼ一致させて磁気吸引力の発生量を制限することで、ロータ磁石の着磁バラツキによる回転振動や、回転速度変動を少なく押さえ、これらの組み合わせ効果により最適な流体軸受回転装置を実現できる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動圧流体軸受を使用した流体軸受式回転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いた記録装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させるため、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら回転装置には高速回転に適した流体軸受置が用いられている。
【0003】
流体軸受式回転装置は、軸とスリーブとの間にオイル等の潤滑剤を介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転する。流体軸受式回転装置は、非接触で機械的な摩擦は無いため高速回転に適している。
【0004】
以下、図11〜図13を参照しながら、従来の流体軸受式回転装置の一例について説明する。従来の流体軸受式回転装置は、図11に示すように、スリーブ21、軸22、抜け止め23、底板24、オイル25、ハブ27、ベース28、ロータ磁石29およびステータ30、ディスク31を備えている。
【0005】
軸22は、ハブ27と圧入、接着、圧入接着等によって一体化しており、スリーブ21の軸受穴21Aに回転可能な状態で挿入される。抜け止め23は軸22にネジ又は圧入により固定され、スリーブ21の段部21Cに収納される。軸22の外周面またはスリーブ21の内周面の少なくともいずれか一方には、ラジアル動圧発生溝21Bが形成されラジアル軸受面を構成している。また、ロータ27とスリーブ21との対向面には、図12に示すようなスパイラル状のスラスト動圧発生溝21Dが形成されスラスト軸受面を構成している。図11に示す底板24は、スリーブ21に固着されている。スリーブ21の外周面にはテーパ部21Eが設けられ、ハブ27の環状突起部27Aとの間はシール部32が設けられている。軸受内部全体はオイル等の潤滑剤が封入され、潤滑剤の気液境界面がシール部32の近傍に出来る。またスリーブ21には空気の排出を助けるための通気穴21Fが加工されている。
【0006】
ベース28には、スリーブ21が固定されている。そして、ステータ30が、ロータ磁石29に対向するようにベース28に固定される。このロータ磁石29とステータ30の軸方向の磁気センターは大きくずらせてあり、このズレを有することによって、ロータ磁石は図中、矢印A方向に吸引力を発生している。一方、ハブ27は、ロータ磁石29、ディスク31が固定される。
【0007】
ここで、以上のような構成の従来の流体軸受式回転装置の動作について以下に説明する。図11に示す、上記従来の流体軸受式回転装置においてステータ30に通電されると回転磁界が発生し、ロータ磁石29に回転力が付与される。これにより、ロータ磁石29は、ハブ27、軸22、抜け止め23、ディスク31とともに回転を開始する。これらの部材が回転すると、動圧発生溝21Bは軸受隙間に充填されたオイル25をかき集め、軸22とスリーブ21の間にポンピング圧力を発生させる。また、動圧発生溝21Dはオイル25をかき集めハブ27とスリーブ21との間にポンプ力を発生し、ロータ磁石29による図中矢印Aに示す吸引力に対向して浮上し非接触で回転を始める。
軸受の内部に混入した空気があった場合は通気穴21Fを通って、確率的に、内部の空気はシール部32の気液境界面から排出される。確率的にという意味は、軸受に混入した空気は気液境界面側に行く経路と元の軸受に戻る経路が存在するからである。
【0008】
これにより、軸22をスリーブ21に対して非接触の状態で回転させることができ、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドによって、回転するディスク31に対してデータの記録再生を行うことができる。
【特許文献1】特開2000−113582号公報
【特許文献2】特開2005−45876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記従来の流体軸受式回転装置では、スラスト動圧発生溝21Dが1個しかなく、ロータ磁石29の吸引力(A)に対向して流体軸受の浮上量(油膜厚さ)が決まるのであるが、このような片面スラスト流体軸受で回転モーメントに対する角度剛性を高めるためには、スラスト動圧発生溝21Dの直径を大きく設計する必要があった。そのため図13に示すように、スラスト軸受部の摩擦トルクは、ラジアル軸受部と同等以上に費やされ、その結果、回転が重くなり、モータの消費電力が多く必要になる問題点を有していた。尚、図13は各温度における流体軸受の摩擦トルクを示しており、摩擦トルクはラジアル軸受部とスラスト軸受部からなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の問題を解決するために、本願の請求項1の発明は、軸受穴を有するスリーブと、前記スリーブの軸受穴に回転自在な状態で挿入される軸と、前記軸の一端部近傍に一体的に取り付けられた円板状のフランジと、前記軸の他端部に取り付けられたディスクを搭載可能なディスク受け面を有したハブと、前記ハブと前記スリーブの一方の端面の間には第3の隙間(S3)と、前記軸の外周面またはスリーブ内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成された第4の隙間G1からなるラジアル軸受と、前記フランジの前記スリーブと対向する面には第2の隙間(S2)を有し、前記フランジとスラスト板が対向する面には第1の隙間(S1)を構成し、前記スラスト板は前記スリーブに固定され、前記スラスト板とスラスト板に対向する前記フランジ面の少なくともいずれか一方には第1のスラスト動圧溝が形成され、前記軸受穴に略平行に配設され、かつ前記第2の隙間と前記第3の隙間を連通するように設けられた連通路を備え、前記スリーブの外周面とこの外周面よりわずかに大きい直径を有する前記ハブの内周面との間に第5の隙間を有し、前記連通路と、前記第2の隙間と、前記第4の隙間と、前記第3の隙間は連通して循環経路を構成し、前記循環経路には潤滑剤が注入され、前記第1の隙間と前記第5の隙間にも潤滑剤が注入され、前記第1から第3の隙間寸法は、S3>(S1+S2)の関係を満たすように構成するものであり、潤滑剤の循環流路をハブとスリーブの間の空間に設けることで流体軸受を薄型に構成でき、しかもスラスト軸受の角度剛性を高くし、さらに回転摩擦トルクを十分に小さくすることができるものである。
【0011】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項2の発明は、フランジとフランジに対向するスリーブ端面の少なくともいずれか一方には第2のスラスト動圧溝を有しており、スラスト軸受の角度剛性を高くし、さらに回転摩擦トルクを十分に小さくできる。
【0012】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項3の発明は、前記第5の隙間の最大隙間をG2とするとき、前記隙間寸法をG2>S3>G1の関係を満たすように構成するもので、潤滑剤を確実に軸受内に保持することができる。
【0013】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項4の発明は、前記第5の隙間を構成する前記スリーブの外周面には第3の隙間に向かって隙間が小さくなる略テーパ面を有しており、潤滑剤を確実に軸受内に保持することができる。
【0014】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項5の発明は、ハブにはロータ磁石を有し、前記スリーブが固定されたベース板にはモータステータが取り付けられ、ロータ磁石とモータステータの磁気センターはほぼ一致しているよう構成するので、ロータ磁石の着磁バラツキによる回転振動や、回転速度変動を少なくするものである。
【0015】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項6の発明は、スリーブは、金属焼結材料からなる焼結スリーブと、その外周を取り囲むスリーブカラーで構成され、前記焼結スリーブと前記スリーブカラーの間に前記第2の隙間と第3の隙間を連通するように連通路が構成されるので、量産性に優れた軸受を提供することができる。
【0016】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項7の発明は、前記焼結スリーブは鉄または銅を主成分とし、その焼結密度は90%以上であり、その表面は四三酸化鉄皮膜または、無電解ニッケルメッキを施すことで封孔したので、量産性に優れ軸受剛性の高い軸受を提供することができる。ここでいう焼結金属材料の密度は、焼結部品の平均密度(体積密度)と、表面の密度(面積密度)があるが、ここではJISZ2501に定義されている、脱脂後の質量を体積で除した体積密度のことを意味している。
【0017】
また、前記従来の問題を解決するために、本願の請求項8の発明は、本願の流体軸受回転装置を備えた記録再生装置であり、軸受性能が高く量産性や信頼性に優れた装置を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、潤滑剤の循環経路をハブとスリーブの間の空間に設けることで流体軸受を薄型に構成でき、スラスト軸受をフランジ両面の隙間に形成される2つの動圧スラスト軸受で構成して高角度剛性でかつ回転摩擦トルクを十分に小さくすることができ、また、ロータ磁石とモータステータの磁気センターはほぼ一致させて磁気吸引力の発生量を制限することで、ロータ磁石の着磁バラツキによる回転振動や、回転速度変動を少なくし、これらの組み合わせ効果により最適な流体軸受回転装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明の実施をするための最良の形態を具体的に示した実施の形態について、図面とともに記載する。
(実施の形態1)
【0020】
図1〜図10を用いて実施例の流体軸受式回転装置の一例について説明する。従来の 流体軸
受式回転装置は、図1〜図4に示すように、スリーブ1、軸2、フランジ3、スラスト板 4、オイル、
高流動性グリス、イオン性液体等の潤滑剤5、ハブ7、ベース板8、ロータ磁石9および ステータ10
を備えている。スリーブ1は図1においては内スリーブ1Dと外スリーブ1Eと別々に描かれているが、一体で製作してもよい。
【0021】
軸2の下端側は、フランジ3と溶接加工、圧縮成形加工等で一体化しており(軸とフランジを一体切削加工してもよい)、スリーブ1の軸受穴1Aに回転可能な状態で挿入され隙間G1を有するラジアル軸受面を構成する。フランジ3は、スリーブ1の下方に収納される。軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方には、ラジアル動圧発生溝1Bが形成されている。一方、フランジ3とスラスト板4との対向面には第1のスラスト動圧溝3Aが、また、フランジ3のスリーブ1との対向面には、第2のスラスト動圧発生溝3Bが形成されて、スリーブ1にはその軸受穴1Aに略平行に連通路としての連通穴1Cが形成されている。スラスト板4は、スリーブ1に接着、カシメ、レーザ溶接等の手段で固着されている。軸2の上端側にはディスクを搭載可能なディスク受け面を有する略カップ形状のハブ7が圧入、接着、圧入接着、レーザ溶接等の工法で固定され、スリーブ1の外周面とこの外周面よりわずかに大きい直径を有する前記略カップ形状のハブの内周面との間に最大隙間G2を有する第5の隙間であるシール部6を設けている。スラスト板4とフランジ3の間の第1の隙間、フランジ3とスリーブ1下端面の間の第2の隙間、スリーブ1の軸受穴1Aの第4の隙間、スリーブ1の上端面とハブ7の間の第3の隙間、連通穴1C、シール部6から形成される袋状の軸受隙間全体は、オイル、高流動性グリス、イオン性液体等の潤滑剤5によって充填されている。また、第2の隙間、ラジアル軸受である第4の隙間、第3の隙間は連通穴によってつながり、潤滑剤5が循環するループを形成している。
【0022】
ベース板8には、スリーブ1が接着等で固定されている。そして、ステータ10が、ロータ磁石9に対向するようにベース8に接着等で固定される。一方、ハブ7には、軸2が圧入、接着、圧入接着、レーザ溶接等によって固定されると共にロータ磁石9が接着等で固定され、図示しないクランプ部材をねじ止めや焼き嵌めすることによりディスク11が固定される。
【0023】
ここで、以上のような構成の本実施例の流体軸受式回転装置の動作について以下に説明する。図1〜図4の本発明流体軸受式回転装置においてステータ10に通電されると回転磁界が発生し、ロータ磁石9に回転力が付与される。これにより、ロータ磁石9は、ハブ7、軸2、フランジ3、ディスク11とともに回転を開始する。これらの部材が回転すると、動圧発生溝1B,3A,3Bは、軸受隙間に充填された潤滑剤であるオイル6をかき集め、軸2とスリーブ1の間のラジアル軸受を形成する第4の隙間、およびスラスト板とスリーブの間の第1の隙間、フランジ3とスリーブ1との間の第2の隙間にポンピング圧力を発生させ、これにより、軸2をスリーブ1とスラスト板4に対して非接触の状態で回転させることができ、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドによって、回転するディスク11に対してデータの記録再生を行うことができる。
【0024】
第1のスラスト動圧溝3Aは例えば図2に示すようにスパイラルパターンを用いている。また、第2のスラスト動圧溝3Bは例えば図3に示すようにヘリングボーンパターンを用いているが、必要に応じて潤滑剤5を外周から内周に向けて流入させる方向のパターンにすることでスラスト動圧溝3Bへ潤滑剤5を送り込む力を大きくして油膜切れ(潤滑膜切れ)を防止しても良い。(スパイラルパターンで内周に向けて流入させてもよいし、非対称ヘリングボーンパターンで内周に向けて流入させてもよい)ラジアル軸受穴1Aの動圧発生溝1Bは対称形状のヘリングボーンパターンを用いているが、必要に応じて潤滑剤5をハブ7側からフランジ3に向けて流入させる方向の非対称パターンにして、動圧発生溝1Bへ潤滑剤5を送り込む力を大きくして油膜切れを防止しても良い。
【0025】
図4においてスラスト板4とフランジ3の間の第1の隙間を図中S1とし、フランジ3とスリーブ1下端面の間の第2の隙間を図中S2とし、スリーブ1の軸受穴1Aの隙間を図中G1とし、スリーブ1上端面とハブ7の間の第3の隙間を図中S3(S3はS3aとS3bのいずれか小さい方)としたとき、これらの隙間の大小関係はS3>(S1+S2)に設定されており、すなわちフランジ3がスリーブ1とスラスト板4の間の隙間内をどの位置で回転していても、第3の隙間は確保され常に一定量の潤滑剤5を保持することができるようになっている。
【0026】
図4〜図5においてラジアル動圧発生溝1Bは図4の右部分のPに示す圧力を発生する。また第1のスラスト動圧溝3Aの図4は、下部分のPに示すように圧力を発生して図中矢印Cの支持力を発生し、一方、第2のスラスト動圧発生溝3Bも圧力を発生し矢印Bの支持力を発生するが、また、図1に示すロータ磁石9がステータ10を軸方向下側に向けて吸引する力が、図4に示される矢印Aの方向に作用し、A+B=Cの関係が成り立つようにフランジ3の浮上高さと回転位置は自動的に定まる。しかしながら本発明においては矢印Aの荷重は十分に小さくできる。それは、第2のスラスト軸受の圧力(支持力B)がロータ磁石9の吸引力と同等の働きをするためである。Aの力は図11の従来例では15グラム以上であったが、本発明では2〜3グラム程度であるために、軸受が回転起動すると共に第1のスラスト動圧発生溝3Aの力で素早く浮上するので起動時や停止時に軸受がコスレや摩耗を生じない。
【0027】
またラジアル動圧発生溝1B、第1のスラスト動圧溝3Aはそれぞれその寸法ばらつきにより、例えば第2のスラスト動圧溝3Aが図4の矢印Eに示す様に潤滑剤5を外周から内周に向けて流入させるポンプ圧力を発生した場合は、潤滑剤5は図4の矢印F方向に運搬され、その結果潤滑剤は、第3の隙間から、連通穴1Cを通って第2の隙間を経てラジアル軸受面に供給され、第3の隙間に戻るループを構成する。潤滑剤5は循環することで軸受面を冷却し、溶解した微小な空気を軸受面から第3の隙間に向けて排出する。第3の隙間には従来例のように内周に向かう方向に動圧発生溝は形成されていないため、排出された空気はシール部6から排出されやすくなる。
【0028】
また、一方、ラジアル軸受面の動圧発生溝1Bが図4において矢印H方向にオイルを運搬するように溝パターンに非対称性を有する場合は、潤滑剤は、第3の隙間から、ラジアル軸受面に供給され、第2の隙間を経て連通穴1Cを通って第3の隙間に戻る逆方向のループを構成する。また、第2のスラスト動圧溝3Aが図5の矢印Gに示す様に潤滑剤5を内周から外周に向けて流入させるポンプ圧力を発生した場合も逆方向のループを構成する。この場合も、第3の隙間には従来例のように内周に向かう方向に動圧発生溝は形成されていないため、排出された空気はシール部6から排出されやすくなる。潤滑剤がループ内を流れるその方向はどちらの方向であっても大差はなく、どちらでも許容される。
【0029】
図6は本発明の流体軸受回転装置の摩擦トルクの大きさを表したものである。図13と比較すると、ラジアル軸受部の摩擦トルクは従来例と同じ大きさであるが、スラスト軸受部は、フランジ両面のスラスト動圧発生溝3A、3Bの圧力で強力に角度剛性(軸が傾いた時に、その変位角度に対する元に戻そうとする力の割合を角度剛性という)を発生するため、フランジ3の直径及び二組のスラスト動圧溝3A,3Bは直径が十分小さくてすむため、摩擦トルクが小さく済み、モータの消費電力が抑えられる。
【0030】
図7はモータの振動量を従来例と比較したものである。本発明では図1のロータ磁石9がステータ10を軸方向に吸引する力は2〜3グラム程度であり十分に小さい。この吸引力とそのばらつきがモータ全体の振動源になって性能に悪影響を与えるのであるが、本発明ではこの振動源が小さいためにモータは低振動であり低騒音で回転することができる。
【0031】
図8〜図9においてスリーブ1の外周面とこの外周面よりわずかに大きい直径を有する前記ディスクを搭載可能なディスク受け面を有した略カップ状ハブの内周面との間(第5の隙間)に最大隙間G2を有するシール部6の隙間は最小部では第3の隙間S3とほぼ同程度であるが、最大部では800マイクロメータ程度の寸法を有しており、隙間が変化するようにテーパを有し潤滑剤5を保持している。軸受穴1Aのラジアル軸受面の隙間G1(第4の隙間)と、第3の隙間S3、及びシール部6の最大隙間G2との関係は、G2>S3>G1を満たすように設計され、潤滑剤5はその表面張力により隙間が小さい方へ移動しようとするためオイルシール効果が得られる。
【0032】
さらに排出された空気(気泡)はオイルとは逆方向に移動するため、シール部6から外部に排出されやすくなる。図9は軸受の各回転数においてシール部6の潤滑剤5に遠心力(K)が働いてその分力(Kz)がオイルをシールする力と、前述の表面張力によるオイルシール力(J)の二つの力を示している。表面張力(J)は回転数には依存せず一定値を示すが、遠心力(K)の分力(Kz)は回転数に応じて順次大きくなり、オイルシール力はそれらの和(J+Kz)であるため、オイルシール力は増加しオイルは漏れにくくなる。尚、図示しないが、ハブ7の内周面が図5に示すように隙間S1の方に向かって径が細くなっていない場合は、潤滑剤5に遠心力(K)が働くとその分力(Kz)はオイルを流出する方向に働き、オイルシール力はそれらの差(J−Kz)になるが、それでも1万rpm程度以下の回転数であれば差(J−Kz)の値は十分な量でありオイルは流出しない。
【0033】
尚、本実施の形態においては、スリーブ1は純鉄、ステンレス鋼、銅合金等により構成し、軸2はステンレス鋼等により構成し、その直径は2mmから5mmであり、潤滑剤6は低粘度なエステルオイルを使用している。
【0034】
また第1の隙間S1は5マイクロメータ、隙間2は10から100マイクロメータ、第3の隙間は50〜200マイクロメータ、ラジアル軸受面の隙間G1(第4の隙間)は1〜5マイクロメータとした。
【0035】
ハブ7とスリーブ1(内スリーブ1D側)に設けられた第3の隙間において、ハブ7の下面に旋盤加工等によりスパイラル溝等を加工してもよく、この場合、潤滑剤5が内部に流入しやすくすることができる。この場合は、オイルの循環方向は図4におけるFの方向が望ましい。
(実施の形態2)
【0036】
図1及び図7においてスリーブ1は金属の棒材を旋盤等で加工したものであり、連通穴1Cがドリル等で加工されているが、スリーブ1は図10に示す金属粉を焼き固めて成型した焼結スリーブ1Dとスリーブカラー1Eを組み合わせて構成しても良い。この場合、連通路である1Cは縦溝(連通溝)であり図示しない金型で成型される。また図7においてハブ7とスリーブカラーからなる第3の隙間(S3a)に対し、ハブ7と焼結スリーブの間の隙間(S3b)は同じ程度の寸法であるが、必ずしも同一である必要はない。
【0037】
焼結スリーブ1Dは鉄または銅を主成分とし、その焼結密度は90%以上であり、その表面は四三酸化鉄皮膜または、無電解ニッケルメッキを施すことで封孔しており、焼結密度を90%以上にすることで軸受表面からの動圧のモレが防止され、これ以下の密度では動圧が漏れて軸受の剛性が得られないことを解明した。
【0038】
ここでいう焼結密度とは、焼結体の表面の開気孔をワックスなどで封孔処理した状態で、焼結体の重量とアルキメデス法による体積から求めた密度を、焼結体の通常成分のみの、真の密度で除したものをいう。
【0039】
また、その表面に四三酸化鉄皮膜または、無電解ニッケルメッキを施すことで耐摩耗性と防錆効果が付与できて長期に使える信頼性が高い流体軸受回転装置が得られる。
【0040】
この流体軸受装置によっても、上記第1の実施の形態の流体軸受装置と同様な作用効果を得ることができる。
(他の実施の形態)
【0041】
図14に示すように、上記に述べた流体軸受装置及び流体軸受式回転装置を記録再生装置に使用することによって、軸受剛性に優れ信頼性が高い記録再生装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ハードディスク装置等の流体軸受式回転装置において、フランジを一端側に有し他端側にハブを有する軸をスリーブの軸受に回転自在に設け、スリーブに連通穴を設け、ハブとスリーブ端面の間の第3の隙間を流通路としこの隙間を連通穴に連結することで潤滑剤の循環を可能とし、スラスト軸受を二面の動圧スラスト軸受で構成して角度剛性を高くし、かつ回転摩擦トルクを十分に小さくするでき、また、ロータ磁石とモータステータの磁気センターをほぼ一致させて磁気吸引力の発生量を制限することで、ロータ磁石の着磁バラツキによる回転振動や、回転速度変動を少なく押さえ、これらの組み合わせ効果により最適な流体軸受回転装置を実現できる
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係る流体軸受装置の断面図
【図2】同流体軸受装置のスラスト動圧発生溝詳細図
【図3】同流体軸受装置のスラスト動圧発生溝詳細図
【図4】同流体軸受装置の詳細図
【図5】同流体軸受装置のスラスト軸受圧力図
【図6】同流体軸受装置の摩擦トルク比率説明図
【図7】同流体軸受装置の振動量比率説明図
【図8】同流体軸受装置のシール部詳細図
【図9】同流体軸受装置のオイルシール力比率説明図
【図10】同流体軸受装置の焼結スリーブ説明図
【図11】従来の流体軸受装置の断面図
【図12】同流体軸受装置のスラスト軸受動圧発生溝詳細図
【図13】同流体軸受装置の摩擦トルク比率説明図
【図14】本発明の流体軸受式回転装置を備えた記録再生装置の断面図
【符号の説明】
【0044】
1 スリーブ
1A 軸受穴
1B ラジアル動圧発生溝
1C 連通穴または連通溝
2 軸
3 フランジ
3A 第1スラスト動圧発生溝
3B 第2スラスト動圧発生溝
4 スラスト板
5 潤滑剤
6 シール部
7 ハブ
8 ベース板
9 ロータ磁石
10 ステータ
11 ディスク
1D 焼結スリーブまたは内スリーブ
1E スリーブカバーまたは外スリーブ
21 スリーブ
21A 軸受穴
21B ラジアル動圧発生溝
21C 段部
21D スラスト動圧発生溝
21E テーパ部
21F 通気穴
22 軸
23 抜け止め
24 底板
25 オイル
27 ハブ
27A 環状突起部
28 ベース
29 ロータ磁石
30 ステータ
31 ディスク
32 シール部
40 記録再生装置
41 流体軸受式回転装置
42 記録再生ヘッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受穴を有するスリーブと、
前記スリーブの軸受穴に回転自在な状態で挿入される軸と、
前記軸の一端部近傍に一体的に取り付けられた円板状のフランジと、
前記軸の他端部に取り付けられたディスクを搭載可能なディスク受け面を有したハブと、
前記ハブと前記スリーブの一方の端面の間には第3の隙間(S3)と、
前記軸の外周面またはスリーブ内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形 成された第
4の隙間G1からなるラジアル軸受と、
前記フランジの前記スリーブと対向する面には第2の隙間(S2)を有し、
前記フランジとスラスト板が対向する面には第1の隙間(S1)を構成し、
前記スラスト板は前記スリーブに固定され、前記スラスト板とスラスト板に対向す る前記フランジ
面の少なくともいずれか一方には第1のスラスト動圧溝が形成され、
前記軸受穴に略平行に配設され、かつ前記第2の隙間と前記第3の隙間を連通するように設けられた連通路を備え、
前記スリーブの外周面とこの外周面よりわずかに大きい直径を有する前記ハブの内周面との間に第5の隙間を有し、
前記連通路と、前記第2の隙間と、前記第4の隙間と、前記第3の隙間は連通して循環経路を構成し、
前記循環経路には潤滑剤が注入され、
前記第1の隙間と前記第5の隙間にも潤滑剤が注入され、
前記第1から第3の隙間寸法は、S3>(S1+S2)の関係を満たすように構成されている流体軸受式回転装置。
【請求項2】
前記フランジとフランジに対向する前記スリーブ端面の少なくともいずれか一方には第2のスラスト動圧溝を有する請求項1記載の流体軸受式回転装置。
【請求項3】
前記第5の隙間は最大隙間G2を有し、前記隙間寸法をG2>S3>G1の関係を満たすように構成された請求項1及び2記載の流体軸受式回転装置。
【請求項4】
前記第5の隙間を構成する前記スリーブの外周面には第3の隙間に向かって隙間が小さくなる略テーパ面を有する請求項1から請求項3に記載の流体軸受式回転装置。
【請求項5】
前記ハブはロータ磁石を有し、前記スリーブが固定されたベース板にはモータステータが取り付けられ、ロータ磁石とモータステータの磁気センターはほぼ一致しているように構成した、請求項1から請求項4に記載の流体軸受回転装置。
【請求項6】
スリーブは、金属焼結材料からなる焼結スリーブと、その外周を取り囲むスリーブカラーで構成され、前記焼結スリーブと前記スリーブカラーの間に前記第2の隙間と第3の隙間を連通するように連通路が構成された、請求項1から請求項5に記載の流体軸受回転装置。
【請求項7】
前記焼結スリーブは鉄または銅を主成分とし、その焼結密度は90%以上であり、その表面は四三酸化鉄皮膜または、無電解ニッケルメッキを施すことで封孔した請求項6に記載の流体軸受回転装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の流体軸受回転装置を備えたことを特徴とする記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−252168(P2007−252168A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76327(P2006−76327)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】