流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置
【課題】焼結金属からなるスリーブを用いた動圧流体軸受では、表面気孔が一定以上に存在すると発生圧力が漏れて、剛性が低下し負荷荷重によって接触摩耗して故障する場合があった。
【解決手段】スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上に保つことで、動圧発生圧力が漏れることを防止し無くすことでラジアル軸受剛性の低下を防止し、従来のカバー廃止が可能になり、また、軸とスリーブの線膨張係数を軸の方を大きくなるように焼結金属からなるスリーブの原料となる金属粒子の成分を鉄系にすることで、軸受の低温での性能が良好な流体軸受装置を得ることができる。
【解決手段】スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上に保つことで、動圧発生圧力が漏れることを防止し無くすことでラジアル軸受剛性の低下を防止し、従来のカバー廃止が可能になり、また、軸とスリーブの線膨張係数を軸の方を大きくなるように焼結金属からなるスリーブの原料となる金属粒子の成分を鉄系にすることで、軸受の低温での性能が良好な流体軸受装置を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブ装置(以下、HDD装置と示す。)等の情報記録再生装置に搭載される流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いた記録装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させる必要があり、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら回転装置には高速回転に適した流体軸受装置が用いられている。
【0003】
流体軸受装置は、軸とスリーブとの間に潤滑剤であるオイルを介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転するものであり、軸とスリーブ間で機械的な摩擦はほとんど無いため高速回転に適している。
【0004】
以下、図16を参照しながら、従来の流体軸受装置の一例について説明する。図16において、軸受穴30Aを有するスリーブ30は銅合金等の金属微粒子を焼結して構成された焼結金属であり、金属または樹脂で加工されたカバー31の内部に一体に挿入固定されている。スリーブ30は銅合金を60重量%以上含む焼結金属である。そして、スリーブ30の内部にオイル41を低圧で含浸させている。また、その体積密度は約88%程度である。32は軸で、軸受穴30Aに回転自在にはめ合わされ、軸32はフランジ36を一体的に有し、フランジ36はベース40とスラスト板37間の空間、またはスリーブ30とスラスト板37の間の空間に収納され、フランジ36の片方の面はスラスト板37に対向して回転可能に設けられている。
【0005】
軸32にはロータハブ35、さらにそのロータハブ35にはロータ磁石34が固定され、ロータ磁石34に対向するモータステータ39がベース40に取り付けられ、スリーブ30の軸受穴30Aの内周面または、軸32の外周面の少なくともいずれか一方には動圧発生溝33A、33Bが設けられ、スラストフランジ36と、スラスト板37との対向面には動圧発生溝38Aを有し、また必要に応じてフランジ36とスリーブ30との対向面のいずれか一方には動圧発生溝38Bを有し、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bの近傍にはオイル41が注入されている。
【0006】
以上のように構成された従来の流体軸受装置について、図16を用いてその動作について説明する。図16において、まず、モータステータ39に通電されると回転磁界が発生し、軸32、フランジ36、ロータ磁石34がロータハブ35と共に回転をはじめる。この時、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bはオイル41をかき集めると共にポンピング圧力を発生し、軸32、フランジ36、ロータ磁石34、ロータハブ35からなるロータ部が浮上し非接触で回転する。
【0007】
図16に示すように軸32はスリーブ30の軸受穴30Aに回転自在に挿入されているが、スリーブ30はその軸受摺動面には図17の写真において黒色部分に示すように、気孔30Dを2〜20面積%程度有している。(気孔の量は単位面積あたりの気孔が占める面積の割合で表すのが一般的である。以下、表面気孔率と称す。)図5は、図16のスリーブにおける表面付近の断面図を示したものである。(図5は本発明の実施の形態の説明にも使用する。)従来の焼結スリーブの体積密度は約88%程度であり、記号Uで示すような他の領域と連通する気孔が多く存在している。
【特許文献1】特開2005−256968号公報
【特許文献2】特開2006−046540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記従来の構成では、次の様な問題点があった。
【0009】
スリーブ30は表面に気孔30Dを多数有しているために、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bのポンプ作用で軸受内部に発生した2気圧から5気圧の圧力が表面の気孔30Dから約20%以上漏れて、ラジアル軸受の剛性が20%以上低下し、軸32が回転中に非接触回転を維持できずにスリーブ30に接触して擦れる事があった。
【0010】
また、スリーブ30は、この表面の気孔30Dからスリーブ30の内部にオイル41を低圧で含浸させた材料からなるが、この時含浸されていたオイル41は、軸受内部の温度上昇等によりスリーブ30の外に流出し、さらにカバー31に滲み出して蒸発したオイルのガスが周囲の空気を汚染する問題があった。
【0011】
さらに、図16に示すように、スリーブ30の表面からはオイル41が滲み出すため、スリーブ30はカバー31で全体を覆っておかないと、やがて軸受の隙間30Aのオイルが枯渇してしまうというが欠点があった。従ってスリーブは表面からオイルが滲み出るのでベースに直接取り付けることができず、カバー31のコストが高く、またカバー31を介してベース40に取り付けるので、スリーブ30とベース40間の取り付け精度(直角度)が悪くなって回転装置の性能が悪化する場合があった。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、スリーブの表面気孔率を圧力漏れが発生しない一定範囲にすると共に、動圧溝間の最短距離(以下、リッジ幅と称する。)を臨界値以上とすることにより、表面の気孔から動圧溝で発生した圧力が漏れることを抑制し、焼結材料からなるスリーブ表面からオイルが滲み出ないようにした流体軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明の流体軸受装置は、
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、リッジ幅が0.10mm以上であることを特徴としたものである。
【0014】
また、本発明は前記スリーブが、体積密度が92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴としたものである。
【0015】
また、本発明は前記スリーブにおいて、次の関数Fの値が15.0以下であることを特徴とする流体軸受装置。
【0016】
関数F=表面気孔率/リッジ幅
さらに、本発明は前記スリーブにおいて、その材料の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄または三酸化二鉄を主体とする酸化鉄皮膜を2μm以上形成したことを特徴としたものである。
【0017】
つまり、動圧発生溝で発生した圧力を焼結材料の表面気孔から漏れないようにしたものであり、そのために焼結金属のパラメ−タである、体積密度、表面気孔率を圧力モレが発生しない一定範囲にすると共に、リッジ幅を臨界値以上にするものである。
【0018】
また、表面気孔率を一定値以下にする手段として、焼結材の体積密度を一定値以上にし、かつリッジ幅を臨界値以上にするものである。
【0019】
また、表面に一定以上の厚さの酸化鉄皮膜を施すものである。
【0020】
さらに焼結スリーブの材料は80%以上を鉄にすることでスリーブとシャフトの線膨張係数の差から発生する低温における軸受隙間の問題を解決している。
【0021】
この構成により、焼結金属からなるスリーブの動圧溝で発生した圧力が焼結材料の表面から漏れないようにできるので、軸受の剛性が低下せず、擦れて焼き付きなどを起こす事がない。また、低温において、軸受隙間が狭くなり回転が重くなる問題が生じない。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、焼結金属からなるスリーブの表面の気孔を極少の一定量以下に抑えて、動圧溝で発生した圧力を焼結材料の表面から漏れないようにするので、軸受の剛性が低下せず、軸受が擦れて焼き付きなどを起こす事がない。また焼結材料の体積密度を一定値以上にして、安定して焼結スリーブ表面の気孔率を小さくする事が可能になる。さらに、表面に一定以上の厚さの酸化鉄皮膜を施すことで、さらに気孔率を小さくすることができる。また、焼結スリーブの材料は80%以上を鉄にすることで軸とスリーブの線膨張係数を同じにすることで、低温で回転が重くなる問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置の一実施の形態を、図1〜図15を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図であり、まず本発明の構成について説明する。スリーブ1の軸受穴1Aに軸2が回転自在に挿入され、軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方にパターン状の浅溝からなる動圧発生溝3A、3Bを有するラジアル軸受面を有し、軸2の上部側にはロータ磁石4を有するロータハブ5が取り付けられ、軸2の他端(図1においては、下部側)には軸2に対して直角にスラストフランジ6が一体的に取り付けられ、スラストフランジ6の下端側の軸受面はスラスト板7に対向し、スラスト板7はスリーブ1に固定され、スラストフランジ6またはスラスト板7のいずれか一方の面には螺旋状または魚骨状パターンの動圧発生溝8Aを有し、また必要に応じてスラストフランジ6の上部平面部とスリーブ1の下端面部が対向する面のいずれか一方の面には動圧発生溝8Bが設けられ、スリーブ1はモータステータ9と共にベース10に固定され、軸2とスリーブ1の間の隙間及びスラストフランジ6とスラスト板7の間の隙間はオイル等の潤滑剤11で充満されている。潤滑剤11としては、オイルの他にイオン性液体や超流動性グリスも使用することが可能である。(図1は、ラジアル動圧発生溝3A、3Bがシャフト2に形成されている図になっているが、図2のようにスリーブ1に形成されても良い。)
図2はスリーブ1にラジアル動圧発生溝3A、3Bが形成されている場合の拡大図であり、図3は図2の記号A部をさらに拡大した焼結材料の一般的説明図である。スリーブ1は多数の金属微粒子1Eが焼結されて構成されているが、スリーブ1が図示しないプレス機械で十分に加圧して成型されるために金属粒子1E間の空間はほとんど存在しない。とくにスリーブ1の表面はプレス機械による加圧が充分大きいため、その表面における残留気孔は、表面気孔率が1.5%以下になるように成型されている。3Aは動圧発生溝である。
【0024】
また、図1に示すように本発明のスリーブ1は従来のようなカバー31を必要とせず、ベース10に直接に取り付けられている。
【0025】
以上のように構成された流体軸受装置について、図1〜図14を用いて本発明の実施の形態1における流体軸受装置の動作について説明する。図1において、まず、モータステータ9に通電されると回転磁界が発生し、ロータ磁石4がロータハブ5、軸2、スラストフランジ6と共に回転を始める。回転が始まると動圧発生溝3A,3B、8A,8Bがオイル等の潤滑剤11にポンピング圧力を発生し軸受部の圧力が高まり軸2は浮上し非接触で高精度に回転する。尚ロータハブ5は図示しないが1枚または複数枚の磁気ディスクや光学式ディスクを固定しておくことが可能で、これら図示しないディスクと共に回転し、図示しないヘッドを通して電気信号の記録または再生を行う。
【0026】
ここで、動圧発生面の詳細な構成と動圧発生メカニズムについて説明する。
図3、図4は本発明のスリーブ1及び従来例のスリーブ30の動圧発生面を説明する断面拡大図である。図中Bgは溝幅、Brはリッジ幅(溝間の最短距離)を示している。焼結部材からなる動圧発生面は図3のように焼結金属粒子が焼結成形されている。動圧発生溝の加工はたとえば日本特許第1703590号に示されるように硬質なボールを用いた転造加工が行われる。図4に示すように、動圧発生面は溝部(Bg)とリッジ部(Br:溝の無い平滑部)からなり、対向する軸2の表面の平滑面との間で相対速度が与えられると、動圧発生溝3Aにより隙間が変化しているため、流体力学的な絞り効果によりリッジ部(Br)に図4のグラフで示すような高い圧力が発生し、軸2が浮上し非接触で回転する。図3に示すように、スリーブの体積密度が低いと、動圧発生面の溝部とリッジ部を連通するような貫通気孔が存在し、ここでリッジ部に発生した高い圧力が溝部に漏れてしまうことがある。
【0027】
また、上記の動圧発生面に存在する気孔について説明する。
図3と共に、図5も同様に焼結材料からなるスリーブ1の動圧発生溝面の断面図である。図5は焼結材の体積密度が約88%の場合の従来例(図16、図17)におけるスリーブ30の断面図であり、図3および図5の記号Uに示す気孔は、高圧が発生するリッジ部(Br)と低圧になる溝部(Bg)を気孔Uが連通してしまっているもので貫通気孔と称しており、流体軸受装置は軸2、32が回転中に圧力が漏れて高まらないため浮上できずに接触を起こして損傷するものである。また貫通気孔Uからは圧力が漏れるだけでなく、潤滑剤11、41がスリーブ1、30の外部に漏れ出す危険性がある。この貫通気孔Uは貫通気孔率(体積%)でその量を定量的に表わしている。
【0028】
また図5において記号Vは表面の残留する略丸状の凹みやスジ状の凹みであり、表面気孔と称している。この表面気孔Vは動圧発生溝3Aの圧力は発生には悪影響があるが、非貫通内部気孔でありスリーブ1の内部には繋がっていないので潤滑剤11が漏れ出す原因にはならない。表面気孔Vは本発明においては表面の(面積%)でその量を定量的に表わしている。また、記号Wはスリーブ1の内部に閉じ込められた気孔であり、内部気孔と称している。この内部気孔Wは表面には繋がっていないので、動圧発生溝3Aによる発生圧力を低下させる危険性もなく、潤滑剤が漏れ出す原因にもならない。この内部気孔は(体積%)でその量を表わすが、流体軸受式回転装置の性能には全く影響しないのでこの内部気孔率を管理したり測定したりする必要は無い。
【0029】
次に、本発明の実施の形態1における流体軸受装置の体積密度と気孔率について説明する。
図6は鉄系材料からなるスリーブの体積密度(%)と各種気孔率(体積%)の関係を示している。グラフG1は貫通気孔率(体積%)の実測値、グラフG2は表面気孔率を体積%で(表面気孔率は面積%と、体積%の両方で評価される)表わした実測値、グラフ3は全気孔率(体積%)である。ここで、全気孔率とは貫通気孔、非貫通内部気孔、表面気孔の3種類に分類される気孔の体積合計をスリーブ1の体積で除した値(体積%)であるが、
これは、スリーブ1の体積密度からか以下の式によって一義的に求まるものである。
【0030】
即ち、仮に体積密度が100%であれば、全気孔率は0%になる。
【0031】
全気孔率(%)=100(%)−体積密度(%)
図6からわかるように、体積密度が92%以上であれば、図示しないプレス加工により表面がしごき加工、または表面流動加工される効果によって、表面気孔率は1.5%以下(ほぼ0%から1.5%の間)になることが実験的にわかっており、本発明では体積密度を92%以上にする事で図3に説明したような圧力の漏れを防止している。
【0032】
本発明の実施の形態1における流体軸受装置の表面気孔率とラジアル剛性について説明する。
図7は表面気孔率(面積%)と流体軸受装置のラジアル剛性の性能変化を示したものである。図7において、従来のように表面気孔が2%以上20%近くの多くの気孔が存在していた場合に比べて、本発明によれば、軸受表面の貫通気孔や表面気孔などの空孔は封孔され、表面気孔率(体積%)は充分低く1.5%以下であるため、剛性の低下率はほぼ0%に近く、図16に示した従来例に比較して約20%軸受剛性が高くなり、動圧流体軸受の軸振れが少なく回転精度が高い。この現象はスリーブ1の動圧発生面表面からの圧力漏れがなくなることにより、軸受隙間において充分高い圧力が得られ、剛性が低下しないからであると推定される。図7において表面気孔率が1.5%付近に臨界点が見られるが、これは表面気孔率が1.5%以下では、圧力の低下量があまりにも微少であり性能に影響を与えない範囲内のものと考察される。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝より充分浅くて、動圧発生溝の溝幅(Bg)より圧倒的に小さい表面気孔(所謂、凹み)は圧力低下の原因にはならないものと考えられる。このことを以下に説明する。
図8はスリーブ1の軸受摺動面の拡大図、図9はその部分断面図である。図8及び図9は体積密度が92%以上100%未満の場合を示している。摺動面にはほぼ表面気孔が存在しないが、図中記号Vで示すような焼結材料の粒子間隙間による表面粒子間凹み(へこみ)、またはスジ状の1μm以下の浅い凹部が存在している、この凹みが一定深さ以上になると動圧溝の発生圧力を漏らして性能に影響する場合がある。本発明においては、このような微少な表面気孔率(面積%)の数値と流体軸受装置の性能とも関係を明らかにし、圧力漏れによる性能劣化がなく、かつ大量生産性が良好な、動圧発生溝の設計範囲とスリーブ表面の仕上がり状態を有する、流体軸受装置を以下に示すように提供している。
【0033】
図10(a)、(b)、(c)は焼結材の全気孔率(%)と、貫通気孔率(体積%)、内部気孔率(体積%)、表面気孔率(面積%)、表面粒子間の凹み深さ(μm)の関係を示したグラフである。ここで図8に記号Vで示すスリーブ1の表面粒子間に残る凹み深さは実測によれば、図10(a)に示すように全気孔率が1.5%以上では粒子間の凹みやスジが現れ始め、これらの表面粒子間凹み深さは一般の表面粗さ測定器で測定可能な0.01μm程度のものが現れ始め、全気孔率が8%の場合はこの表面粒子間の凹み深さが0.1μm程度の深さまで増加することがわかった。なお、図10(b)に示すように、貫通気孔(体積%)は全気孔率(体積%)が10%以下では発生が見られず、内部気孔(体積%)は全気孔率(体積%)とほぼ同じ数値を示した。
【0034】
尚、図10の実測データは粒子径が30μmから200μmであり、純鉄が80%の場合におけるデータである。
ここで気孔率の評価方法について説明しておく。表面気孔率(面積%)は、顕微鏡観察または写真やビデオカメラ等の撮影により単位面積当たりの気孔が占める面積比率が測定される。全気孔率(体積%)は、まず外径から計算できる見かけ上の体積V1に材質の比重ρ1を乗じると気孔等がない場合の重量W1が得られ、実際の重量W2と比較する。その重量差Δw1(=W1−W2)を材質の比重ρ1で除すると全気孔に相当する体積Δv1=(Δw1/ρ1)が得られるので、これの見かけ上の体積に占める割合(Δv1/V1)で表す、いわゆる比重法で測定される。また、表面気孔率(体積%)と貫通気孔率(体積%)の和(体積%)は、何も含まれていない軸受部材の実際の重量W2と潤滑剤を真空注油した後の重量W3の差Δw2(=W3−W2)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔と貫通気孔に相当する体積Δv2が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv2/V1)として求められる。また、表面気孔率(体積%)は、貫通気孔と表面気孔を硬化していない樹脂で埋めた後に、表面気孔の樹脂のみを洗い流して貫通気孔のみを樹脂で含浸固化して重量W4を測定し、これに潤滑剤を真空注油した後の重量W5との差Δw3(=W5−W4)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔に相当する体積Δv3が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv3/V1)として求められる。これらの測定と計算により、全気孔率(体積%)、表面気孔率(体積%)、貫通気孔率(体積%)、表面気孔率(面積%)をすべて求めることができる。なお、上記の真空注油は、特許文献の特許第3206191号等を参照のこと。
【0035】
さらに、本発明の実施の形態1における流体軸受装置の表面気孔率とラジアル剛性について、リッジ幅を変化させた場合を説明する。
図11はリッジ部の幅が0.1mmの場合と、0.05mmの場合の2種類の流体軸受装置について、ラジアル軸受にアンバランス荷重(回転しているディスクの1点に軸方向からエアを当てて、定常回転時からのRROの変化を測定するエアプッシュ試験等であり、静荷重ではなく、動荷重を加える)を加えた場合の回転軸心の偏心量を測定し剛性を求め、表面気孔率(面積%)による流体軸受装置のラジアル軸受剛性の劣化比率を測定したものである。測定結果によれば、リッジ幅が0.1mmの場合は表面気孔率が1.5%までは剛性低下が認められないが、リッジ幅が0.05mmと短い場合は表面気孔率が0.75%からラジアル剛性が低下を始めた。またいずれの場合も表面気孔率が3%になると剛性が約20%低下することが確認できた。この結果から、図6に示す体積密度が約90%以上の高密度な焼結材料のスリーブを用いた流体軸受は、図9に示す表面粒子間凹みが深くなると圧力低下を始めるものと考えられ、リッジ幅が十分長い場合は圧力漏れと剛性低下は無く、リッジ幅が短い場合は圧力漏れが起こりやすいことを示している。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝よりも深かったり、動圧発生溝の溝幅(Bg)にある程度近い長さになると表面気孔や表面粒子間凹みは動圧発生による圧力を低下させるものと考察される。
【0036】
以上の考察から、本願発明においては、表面気孔率だけでなく、リッジ幅も考慮した関数を定義し、ラジアル剛性との関係を見出した。
上記のように、動圧発生溝部のリッジ幅の影響を考慮した関数F(式1)とラジアル剛性比率の関係を図12に示している。
【0037】
関数F=表面空孔率/リッジ幅 ・・・(式1)
表面気孔率:軸受摺動面の撮影による測定値(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm)
表面気孔率は、前述したように面積%で表す場合と、体積%で表す場合があり、ここでは表面気孔率は軸受摺動面を顕微鏡、写真機、ビデオカメラ等で撮影した画像から、単位面積当たりの気孔部分の割合を示す面積%で表したものとする。また、リッジ幅は、グルーブ(動圧溝)とリッジの境界線から法線方向に測定した隣接した境界線までの距離を表しており、動圧溝間の最短距離である。図3、4、8のBrがこれに相当する。
【0038】
図12のグラフからは、関数Fの数値が15以下であれば圧力漏れがなく、剛性低下が充分少ない流体軸受が得られることがわかる。
【0039】
なお、図1に示す本発明においては、図16の従来例に示すようにカバー31が不要であり、スリーブ1のベース10への取り付け精度が高くできる。例えば図中軸受穴1Aに対するスラスト板7の直角度は2μm以下に容易かつ安定的に保つことができ、流体軸受装置の量産での性能ばらつきを抑えることができ、工業上大きな効果を得ることが可能である。さらに、焼結軸受の表面は適度に荒れており、接着するときに接着溝等をわざわざ設ける必要がないため、ローコストで安定した強度を得ることができる。
【0040】
なお、上記においては軸2が回転する実施例について説明したが、スリーブ1とロータハブ5が一体に固定されて共に回転し、軸2がベース10に一体に固定された、いわゆる軸固定式軸受構成でも同じことである。
【0041】
これまで図10と図11を用いて述べたように、焼結金属からなるスリーブ1の軸受内周面の、表面気孔率を1.5%以下で、動圧発生溝のリッジ幅を0.10mm以上にすることで高性能で信頼性が高い流体軸受装置を得ることができる。
【0042】
(実施の形態2)
実施の形態1において、図6で体積密度と気孔率の関係を示した。実施の形態1では、図6、図7、図10および図11を用いて述べたように、表面気孔率とリッジ幅を所定の値にすることでラジアル剛性の低下の少ない流体軸受装置を得ることができたが、焼結金属からなるスリーブ1の密度を体積密度の観点から管理しても同様の結果が得られる。具体的には、体積密度を92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅を0.10mm以上にすることで、高性能で信頼性が高い流体軸受装置を得ることができる。これは体積密度を92%以上にすれば、全気孔率(体積%)が8%以下になると共に、表面気孔率(面積%)はほぼゼロか、少なくとも1.5%以下になるからである。
【0043】
(実施の形態3)
図13は、図2の本発明の実施の形態のスリーブ1を、図示しない一般の油圧式プレス機械で加工する場合のプレス圧力と、式1に示した関数Fの関係を実験的に求めたものである。関数Fが15以上では表面気孔率をあまり小さくしていなかったのでプレス機械による加工圧力は10トン程度で充分加工が行えた。しかし関数Fが3程度になる様にスリーブ1を加工するためにはプレス圧を3倍以上に高めなければならず、その結果図示しない金型が短期間に応力破壊する危険性が生じた。
【0044】
特に関数Fの値を3未満にするためには図13に示すように必要なプレス圧力が急激に上昇し、大量生産性が悪くなることが確認できた。この現象は、関数Fが大きい場合はスリーブ1の原料となる鉄系金属粒子が図示しない金型内で自由に圧縮されて成型されるが、関数Fを小さくなるようにスリーブ1を加工するためには、プレス機械の圧力も大きくなり、さらに関数Fが3未満では、鉄系金属粒子が金型内でほぼ100%詰まった状態での鍛造加工に近いになるため、これ以上圧縮できない状態の鍛造加工であり、鉄系微粒子を成型するために急激に大きなプレス圧力が必要になるものと考察される。
【0045】
よって、経済性を考慮すると、図13のように関数Fの値を3以上にすることで、良好な生産性を維持することができる。したがって、ラジアル剛性と経済性を考慮すると、関数Fの値は、3以上、15以下であることが望ましい。
【0046】
(実施の形態4)
また、従来、快削鋼の棒材や銅合金棒から旋盤による旋削加工でスリーブ1を削り出し、表面に防錆と耐摩耗性向上のためにニッケルメッキを施すことがあったが、焼結材料からなるスリーブ1にニッケルメッキを施す場合には腐食性を有するメッキ液が焼結材料の内部に残り、この液があとで焼結材料に悪作用をおこす危険性があった。図1、図2に示す本発明においては、スリーブ1の材料成分は鉄80%以上であって、この焼結材料の表面に高温でのスチーム処理を施すことで表面に四酸化三鉄(Fe3O4)(通称、四三酸化鉄)または、三酸化二鉄(Fe2O3)(通称、三二酸化鉄)を主体とする皮膜を2μm以上形成している。これにより、高マンガンクロム鋼やステンレス鋼からなる軸2とスリーブ1の間の摺動面において良好なスベリと耐摩耗性を発揮し、長寿命な流体軸受装置を構成することができる。スチーム処理は、酸素量を制御しながら500℃〜600℃程度の温度で水蒸気に接触させるもので、気孔が存在する焼結材料の表面を酸化鉄皮膜で覆うことができ、表面を封孔することができる。スチーム処理による封孔効果を実現するためには、体積密度を上げることによって、封孔すべき気泡をある程度小さく少なくしておくことが重要で、本発明の気孔率や体積密度であれば、十分効果を引出すことができる。また、封孔に必要な酸化反応を行うにはある程度以上の鉄成分も必要で、鉄成分が80%以上であることが望ましい。
【0047】
また、図14に示す断面図のように、この酸化鉄皮膜の厚さを2μm以上とすることで凹みやスジを酸化鉄皮膜が滑らかに埋めてしまい、それらの深さをゼロまたは図14に示すように深さsを0.01μm程度の極めて浅い状態にすることが可能であり、その効果により表面気孔率(面積%)は極めて0%に近いものに仕上がり、潤滑剤をほぼ通さない封孔処理とすることができる。この結果、発生動圧の漏れをなくすことができ、流体軸受装置の信頼性を向上することができる。また、潤滑剤11がスリーブ1内部にしみ込むことがないので、従来例のように、あらかじめスリーブ1に潤滑剤11を含浸させておく必要はなく、外部への潤滑剤11漏れもないので、カバー31も不要とすることができる。
【0048】
(実施の形態5)
図1に示す本発明において、軸2が高マンガンクロム鋼またはステンレス鋼のいずれか一方から構成され、また、スリーブ1は90体積%以上を鉄系微粒子からなる焼結金属に構成することで、軸の線膨張係数が16.0E-6〜17.3E-6(/℃)で、スリーブの線膨張係数が11.0E-6(/℃)になるため、スリーブが銅合金である場合と比較して、低温における軸受穴22Aと軸1の間の半径隙間が広くなり、ロストルクが減少して回転が軽くなるので、潤滑剤11であるオイルの粘度が低温で増加しても、流体軸受装置の回転摩擦トルクはさほど大きくならず、モータの消費電流を少なく抑えることが可能になる。
【0049】
また、スリーブ1はマルテンサイト系ステンレスまたは、フェライト系ステンレスの鉄系微粒子を50%以上含む鉄系粒子からなる焼結金属を用いることで、軸の線膨張係数が16.0E-6〜17.3E-6(/℃)でスリーブの線膨張係数を10.3E-6(/℃)とすることができるため、低温においては軸受穴22Aと軸1の間の半径隙間が広くなり回転が軽くなるので、潤滑剤11であるオイルの粘度が低温で増加しても、流体軸受装置の回転摩擦トルクはさほど大きくならず、モータの消費電流を少なく抑えることができる。具体的に、本発明においてはSUS416、SUS420、SUS440のマルテンサイト系ステンレスや、SUS410LやSUS430等のフェライト系ステンレスが鉄系粉体の材料に選択される。
【0050】
(実施の形態6)
図15は本発明の流体軸受を組み込んだ情報記録再生処理装置である。代表的なものとしては、ハードディスク装置や光ディスク装置、光磁気ディスク装置があり、また図15のようにディスクは搭載していないが、CPUを冷却するファンを搭載したパソコンも挙げられる。12はディスク、13はクランパ部材,14は上蓋、15はヘッドアクチェータユニットを示している。本発明においては、流体軸受から潤滑剤が漏れてディスクを汚染したり、漏れた潤滑剤が蒸発したガスが装置内を汚染したりしないので、性能と信頼性に優れた情報記録再生処理装置が得られる。
【0051】
このように本発明の流体軸受装置は、スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上保つことで、圧力の漏れが無く、ラジアル軸受剛性の低下がない。また、潤滑剤11であるオイルの表面へのにじみ出しもないので、焼結スリーブをカバー無しで直接ベースやハブに取り付けることが可能である。
【0052】
なお、本発明の動圧流体軸受は、スリーブ1に形成されたラジアル軸受で説明したが、同じくスリーブ1に形成されたスラスト軸受についても同様の効果が得られる。具体的には、例えば図1におけるスラスト動圧発生溝8Bとそれに対向するスリーブで形成されるスラスト軸受で、スラスト動圧発生溝がスリーブ側に形成されている場合である。さらにラジアル軸受とスラスト軸受の特性を併せ持つ円錐軸受(コニカル軸受)にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は上記した構成によって、スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上に保つことで、発生動圧力が漏れることを防止し、漏れを無くすことでラジアル軸受剛性の低下を防止し、従来のカバーの廃止が可能になり、また、軸とスリーブの線膨張係数を軸の方を大きくなるように焼結金属からなるスリーブの原料となる金属粒子の成分を鉄系にすることで、流体軸受の低温での性能・信頼性が良好で大量生産性に優れた流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図
【図2】同流体軸受装置におけるスリーブの詳細断面図
【図3】流体軸受装置の一般的な断面図
【図4】流体軸受装置における動圧発生原理説明図
【図5】同流体軸受装置における非貫通内部気孔、貫通気孔、表面気孔の説明図
【図6】本発明の流体軸受装置の体積密度と各気孔率の説明図
【図7】同流体軸受装置の表面気孔率と剛性比率の説明図
【図8】同流体軸受装置における表面気孔の説明図
【図9】同流体軸受装置における表面気孔の説明図
【図10】同流体軸受装置における各気孔率の測定結果説明図
【図11】同流体軸受装置におけるリッジ幅による表面気孔率と剛性比率の説明図
【図12】同流体軸受装置の関数Fと剛性比率の説明図
【図13】本発明の流体軸受装置の関数Fとプレス荷重の説明図
【図14】同流体軸受装置の表面酸化鉄皮膜の説明図
【図15】同流体軸受装置を用いた情報記録再生処理装置の断面図
【図16】従来の流体軸受装置の断面図
【図17】従来の焼結材料表面の気孔の説明図
【符号の説明】
【0055】
1 スリーブ
1A 軸受穴
2 軸
3A,3B ラジアル動圧発生溝
4 ロータ磁石
5 ロータハブ
6 スラストフランジ
7 スラスト板
8A,8B スラスト動圧発生溝
9 モータステータ
10 ベース
11 潤滑剤
12 ディスク
13 クランパ部材
14 上蓋
15 ヘッドアクチェータユニット
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブ装置(以下、HDD装置と示す。)等の情報記録再生装置に搭載される流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いた記録装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させる必要があり、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら回転装置には高速回転に適した流体軸受装置が用いられている。
【0003】
流体軸受装置は、軸とスリーブとの間に潤滑剤であるオイルを介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転するものであり、軸とスリーブ間で機械的な摩擦はほとんど無いため高速回転に適している。
【0004】
以下、図16を参照しながら、従来の流体軸受装置の一例について説明する。図16において、軸受穴30Aを有するスリーブ30は銅合金等の金属微粒子を焼結して構成された焼結金属であり、金属または樹脂で加工されたカバー31の内部に一体に挿入固定されている。スリーブ30は銅合金を60重量%以上含む焼結金属である。そして、スリーブ30の内部にオイル41を低圧で含浸させている。また、その体積密度は約88%程度である。32は軸で、軸受穴30Aに回転自在にはめ合わされ、軸32はフランジ36を一体的に有し、フランジ36はベース40とスラスト板37間の空間、またはスリーブ30とスラスト板37の間の空間に収納され、フランジ36の片方の面はスラスト板37に対向して回転可能に設けられている。
【0005】
軸32にはロータハブ35、さらにそのロータハブ35にはロータ磁石34が固定され、ロータ磁石34に対向するモータステータ39がベース40に取り付けられ、スリーブ30の軸受穴30Aの内周面または、軸32の外周面の少なくともいずれか一方には動圧発生溝33A、33Bが設けられ、スラストフランジ36と、スラスト板37との対向面には動圧発生溝38Aを有し、また必要に応じてフランジ36とスリーブ30との対向面のいずれか一方には動圧発生溝38Bを有し、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bの近傍にはオイル41が注入されている。
【0006】
以上のように構成された従来の流体軸受装置について、図16を用いてその動作について説明する。図16において、まず、モータステータ39に通電されると回転磁界が発生し、軸32、フランジ36、ロータ磁石34がロータハブ35と共に回転をはじめる。この時、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bはオイル41をかき集めると共にポンピング圧力を発生し、軸32、フランジ36、ロータ磁石34、ロータハブ35からなるロータ部が浮上し非接触で回転する。
【0007】
図16に示すように軸32はスリーブ30の軸受穴30Aに回転自在に挿入されているが、スリーブ30はその軸受摺動面には図17の写真において黒色部分に示すように、気孔30Dを2〜20面積%程度有している。(気孔の量は単位面積あたりの気孔が占める面積の割合で表すのが一般的である。以下、表面気孔率と称す。)図5は、図16のスリーブにおける表面付近の断面図を示したものである。(図5は本発明の実施の形態の説明にも使用する。)従来の焼結スリーブの体積密度は約88%程度であり、記号Uで示すような他の領域と連通する気孔が多く存在している。
【特許文献1】特開2005−256968号公報
【特許文献2】特開2006−046540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記従来の構成では、次の様な問題点があった。
【0009】
スリーブ30は表面に気孔30Dを多数有しているために、動圧発生溝33A、33B、38A、及び38Bのポンプ作用で軸受内部に発生した2気圧から5気圧の圧力が表面の気孔30Dから約20%以上漏れて、ラジアル軸受の剛性が20%以上低下し、軸32が回転中に非接触回転を維持できずにスリーブ30に接触して擦れる事があった。
【0010】
また、スリーブ30は、この表面の気孔30Dからスリーブ30の内部にオイル41を低圧で含浸させた材料からなるが、この時含浸されていたオイル41は、軸受内部の温度上昇等によりスリーブ30の外に流出し、さらにカバー31に滲み出して蒸発したオイルのガスが周囲の空気を汚染する問題があった。
【0011】
さらに、図16に示すように、スリーブ30の表面からはオイル41が滲み出すため、スリーブ30はカバー31で全体を覆っておかないと、やがて軸受の隙間30Aのオイルが枯渇してしまうというが欠点があった。従ってスリーブは表面からオイルが滲み出るのでベースに直接取り付けることができず、カバー31のコストが高く、またカバー31を介してベース40に取り付けるので、スリーブ30とベース40間の取り付け精度(直角度)が悪くなって回転装置の性能が悪化する場合があった。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、スリーブの表面気孔率を圧力漏れが発生しない一定範囲にすると共に、動圧溝間の最短距離(以下、リッジ幅と称する。)を臨界値以上とすることにより、表面の気孔から動圧溝で発生した圧力が漏れることを抑制し、焼結材料からなるスリーブ表面からオイルが滲み出ないようにした流体軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明の流体軸受装置は、
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、リッジ幅が0.10mm以上であることを特徴としたものである。
【0014】
また、本発明は前記スリーブが、体積密度が92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴としたものである。
【0015】
また、本発明は前記スリーブにおいて、次の関数Fの値が15.0以下であることを特徴とする流体軸受装置。
【0016】
関数F=表面気孔率/リッジ幅
さらに、本発明は前記スリーブにおいて、その材料の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄または三酸化二鉄を主体とする酸化鉄皮膜を2μm以上形成したことを特徴としたものである。
【0017】
つまり、動圧発生溝で発生した圧力を焼結材料の表面気孔から漏れないようにしたものであり、そのために焼結金属のパラメ−タである、体積密度、表面気孔率を圧力モレが発生しない一定範囲にすると共に、リッジ幅を臨界値以上にするものである。
【0018】
また、表面気孔率を一定値以下にする手段として、焼結材の体積密度を一定値以上にし、かつリッジ幅を臨界値以上にするものである。
【0019】
また、表面に一定以上の厚さの酸化鉄皮膜を施すものである。
【0020】
さらに焼結スリーブの材料は80%以上を鉄にすることでスリーブとシャフトの線膨張係数の差から発生する低温における軸受隙間の問題を解決している。
【0021】
この構成により、焼結金属からなるスリーブの動圧溝で発生した圧力が焼結材料の表面から漏れないようにできるので、軸受の剛性が低下せず、擦れて焼き付きなどを起こす事がない。また、低温において、軸受隙間が狭くなり回転が重くなる問題が生じない。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、焼結金属からなるスリーブの表面の気孔を極少の一定量以下に抑えて、動圧溝で発生した圧力を焼結材料の表面から漏れないようにするので、軸受の剛性が低下せず、軸受が擦れて焼き付きなどを起こす事がない。また焼結材料の体積密度を一定値以上にして、安定して焼結スリーブ表面の気孔率を小さくする事が可能になる。さらに、表面に一定以上の厚さの酸化鉄皮膜を施すことで、さらに気孔率を小さくすることができる。また、焼結スリーブの材料は80%以上を鉄にすることで軸とスリーブの線膨張係数を同じにすることで、低温で回転が重くなる問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置の一実施の形態を、図1〜図15を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図であり、まず本発明の構成について説明する。スリーブ1の軸受穴1Aに軸2が回転自在に挿入され、軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方にパターン状の浅溝からなる動圧発生溝3A、3Bを有するラジアル軸受面を有し、軸2の上部側にはロータ磁石4を有するロータハブ5が取り付けられ、軸2の他端(図1においては、下部側)には軸2に対して直角にスラストフランジ6が一体的に取り付けられ、スラストフランジ6の下端側の軸受面はスラスト板7に対向し、スラスト板7はスリーブ1に固定され、スラストフランジ6またはスラスト板7のいずれか一方の面には螺旋状または魚骨状パターンの動圧発生溝8Aを有し、また必要に応じてスラストフランジ6の上部平面部とスリーブ1の下端面部が対向する面のいずれか一方の面には動圧発生溝8Bが設けられ、スリーブ1はモータステータ9と共にベース10に固定され、軸2とスリーブ1の間の隙間及びスラストフランジ6とスラスト板7の間の隙間はオイル等の潤滑剤11で充満されている。潤滑剤11としては、オイルの他にイオン性液体や超流動性グリスも使用することが可能である。(図1は、ラジアル動圧発生溝3A、3Bがシャフト2に形成されている図になっているが、図2のようにスリーブ1に形成されても良い。)
図2はスリーブ1にラジアル動圧発生溝3A、3Bが形成されている場合の拡大図であり、図3は図2の記号A部をさらに拡大した焼結材料の一般的説明図である。スリーブ1は多数の金属微粒子1Eが焼結されて構成されているが、スリーブ1が図示しないプレス機械で十分に加圧して成型されるために金属粒子1E間の空間はほとんど存在しない。とくにスリーブ1の表面はプレス機械による加圧が充分大きいため、その表面における残留気孔は、表面気孔率が1.5%以下になるように成型されている。3Aは動圧発生溝である。
【0024】
また、図1に示すように本発明のスリーブ1は従来のようなカバー31を必要とせず、ベース10に直接に取り付けられている。
【0025】
以上のように構成された流体軸受装置について、図1〜図14を用いて本発明の実施の形態1における流体軸受装置の動作について説明する。図1において、まず、モータステータ9に通電されると回転磁界が発生し、ロータ磁石4がロータハブ5、軸2、スラストフランジ6と共に回転を始める。回転が始まると動圧発生溝3A,3B、8A,8Bがオイル等の潤滑剤11にポンピング圧力を発生し軸受部の圧力が高まり軸2は浮上し非接触で高精度に回転する。尚ロータハブ5は図示しないが1枚または複数枚の磁気ディスクや光学式ディスクを固定しておくことが可能で、これら図示しないディスクと共に回転し、図示しないヘッドを通して電気信号の記録または再生を行う。
【0026】
ここで、動圧発生面の詳細な構成と動圧発生メカニズムについて説明する。
図3、図4は本発明のスリーブ1及び従来例のスリーブ30の動圧発生面を説明する断面拡大図である。図中Bgは溝幅、Brはリッジ幅(溝間の最短距離)を示している。焼結部材からなる動圧発生面は図3のように焼結金属粒子が焼結成形されている。動圧発生溝の加工はたとえば日本特許第1703590号に示されるように硬質なボールを用いた転造加工が行われる。図4に示すように、動圧発生面は溝部(Bg)とリッジ部(Br:溝の無い平滑部)からなり、対向する軸2の表面の平滑面との間で相対速度が与えられると、動圧発生溝3Aにより隙間が変化しているため、流体力学的な絞り効果によりリッジ部(Br)に図4のグラフで示すような高い圧力が発生し、軸2が浮上し非接触で回転する。図3に示すように、スリーブの体積密度が低いと、動圧発生面の溝部とリッジ部を連通するような貫通気孔が存在し、ここでリッジ部に発生した高い圧力が溝部に漏れてしまうことがある。
【0027】
また、上記の動圧発生面に存在する気孔について説明する。
図3と共に、図5も同様に焼結材料からなるスリーブ1の動圧発生溝面の断面図である。図5は焼結材の体積密度が約88%の場合の従来例(図16、図17)におけるスリーブ30の断面図であり、図3および図5の記号Uに示す気孔は、高圧が発生するリッジ部(Br)と低圧になる溝部(Bg)を気孔Uが連通してしまっているもので貫通気孔と称しており、流体軸受装置は軸2、32が回転中に圧力が漏れて高まらないため浮上できずに接触を起こして損傷するものである。また貫通気孔Uからは圧力が漏れるだけでなく、潤滑剤11、41がスリーブ1、30の外部に漏れ出す危険性がある。この貫通気孔Uは貫通気孔率(体積%)でその量を定量的に表わしている。
【0028】
また図5において記号Vは表面の残留する略丸状の凹みやスジ状の凹みであり、表面気孔と称している。この表面気孔Vは動圧発生溝3Aの圧力は発生には悪影響があるが、非貫通内部気孔でありスリーブ1の内部には繋がっていないので潤滑剤11が漏れ出す原因にはならない。表面気孔Vは本発明においては表面の(面積%)でその量を定量的に表わしている。また、記号Wはスリーブ1の内部に閉じ込められた気孔であり、内部気孔と称している。この内部気孔Wは表面には繋がっていないので、動圧発生溝3Aによる発生圧力を低下させる危険性もなく、潤滑剤が漏れ出す原因にもならない。この内部気孔は(体積%)でその量を表わすが、流体軸受式回転装置の性能には全く影響しないのでこの内部気孔率を管理したり測定したりする必要は無い。
【0029】
次に、本発明の実施の形態1における流体軸受装置の体積密度と気孔率について説明する。
図6は鉄系材料からなるスリーブの体積密度(%)と各種気孔率(体積%)の関係を示している。グラフG1は貫通気孔率(体積%)の実測値、グラフG2は表面気孔率を体積%で(表面気孔率は面積%と、体積%の両方で評価される)表わした実測値、グラフ3は全気孔率(体積%)である。ここで、全気孔率とは貫通気孔、非貫通内部気孔、表面気孔の3種類に分類される気孔の体積合計をスリーブ1の体積で除した値(体積%)であるが、
これは、スリーブ1の体積密度からか以下の式によって一義的に求まるものである。
【0030】
即ち、仮に体積密度が100%であれば、全気孔率は0%になる。
【0031】
全気孔率(%)=100(%)−体積密度(%)
図6からわかるように、体積密度が92%以上であれば、図示しないプレス加工により表面がしごき加工、または表面流動加工される効果によって、表面気孔率は1.5%以下(ほぼ0%から1.5%の間)になることが実験的にわかっており、本発明では体積密度を92%以上にする事で図3に説明したような圧力の漏れを防止している。
【0032】
本発明の実施の形態1における流体軸受装置の表面気孔率とラジアル剛性について説明する。
図7は表面気孔率(面積%)と流体軸受装置のラジアル剛性の性能変化を示したものである。図7において、従来のように表面気孔が2%以上20%近くの多くの気孔が存在していた場合に比べて、本発明によれば、軸受表面の貫通気孔や表面気孔などの空孔は封孔され、表面気孔率(体積%)は充分低く1.5%以下であるため、剛性の低下率はほぼ0%に近く、図16に示した従来例に比較して約20%軸受剛性が高くなり、動圧流体軸受の軸振れが少なく回転精度が高い。この現象はスリーブ1の動圧発生面表面からの圧力漏れがなくなることにより、軸受隙間において充分高い圧力が得られ、剛性が低下しないからであると推定される。図7において表面気孔率が1.5%付近に臨界点が見られるが、これは表面気孔率が1.5%以下では、圧力の低下量があまりにも微少であり性能に影響を与えない範囲内のものと考察される。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝より充分浅くて、動圧発生溝の溝幅(Bg)より圧倒的に小さい表面気孔(所謂、凹み)は圧力低下の原因にはならないものと考えられる。このことを以下に説明する。
図8はスリーブ1の軸受摺動面の拡大図、図9はその部分断面図である。図8及び図9は体積密度が92%以上100%未満の場合を示している。摺動面にはほぼ表面気孔が存在しないが、図中記号Vで示すような焼結材料の粒子間隙間による表面粒子間凹み(へこみ)、またはスジ状の1μm以下の浅い凹部が存在している、この凹みが一定深さ以上になると動圧溝の発生圧力を漏らして性能に影響する場合がある。本発明においては、このような微少な表面気孔率(面積%)の数値と流体軸受装置の性能とも関係を明らかにし、圧力漏れによる性能劣化がなく、かつ大量生産性が良好な、動圧発生溝の設計範囲とスリーブ表面の仕上がり状態を有する、流体軸受装置を以下に示すように提供している。
【0033】
図10(a)、(b)、(c)は焼結材の全気孔率(%)と、貫通気孔率(体積%)、内部気孔率(体積%)、表面気孔率(面積%)、表面粒子間の凹み深さ(μm)の関係を示したグラフである。ここで図8に記号Vで示すスリーブ1の表面粒子間に残る凹み深さは実測によれば、図10(a)に示すように全気孔率が1.5%以上では粒子間の凹みやスジが現れ始め、これらの表面粒子間凹み深さは一般の表面粗さ測定器で測定可能な0.01μm程度のものが現れ始め、全気孔率が8%の場合はこの表面粒子間の凹み深さが0.1μm程度の深さまで増加することがわかった。なお、図10(b)に示すように、貫通気孔(体積%)は全気孔率(体積%)が10%以下では発生が見られず、内部気孔(体積%)は全気孔率(体積%)とほぼ同じ数値を示した。
【0034】
尚、図10の実測データは粒子径が30μmから200μmであり、純鉄が80%の場合におけるデータである。
ここで気孔率の評価方法について説明しておく。表面気孔率(面積%)は、顕微鏡観察または写真やビデオカメラ等の撮影により単位面積当たりの気孔が占める面積比率が測定される。全気孔率(体積%)は、まず外径から計算できる見かけ上の体積V1に材質の比重ρ1を乗じると気孔等がない場合の重量W1が得られ、実際の重量W2と比較する。その重量差Δw1(=W1−W2)を材質の比重ρ1で除すると全気孔に相当する体積Δv1=(Δw1/ρ1)が得られるので、これの見かけ上の体積に占める割合(Δv1/V1)で表す、いわゆる比重法で測定される。また、表面気孔率(体積%)と貫通気孔率(体積%)の和(体積%)は、何も含まれていない軸受部材の実際の重量W2と潤滑剤を真空注油した後の重量W3の差Δw2(=W3−W2)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔と貫通気孔に相当する体積Δv2が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv2/V1)として求められる。また、表面気孔率(体積%)は、貫通気孔と表面気孔を硬化していない樹脂で埋めた後に、表面気孔の樹脂のみを洗い流して貫通気孔のみを樹脂で含浸固化して重量W4を測定し、これに潤滑剤を真空注油した後の重量W5との差Δw3(=W5−W4)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔に相当する体積Δv3が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv3/V1)として求められる。これらの測定と計算により、全気孔率(体積%)、表面気孔率(体積%)、貫通気孔率(体積%)、表面気孔率(面積%)をすべて求めることができる。なお、上記の真空注油は、特許文献の特許第3206191号等を参照のこと。
【0035】
さらに、本発明の実施の形態1における流体軸受装置の表面気孔率とラジアル剛性について、リッジ幅を変化させた場合を説明する。
図11はリッジ部の幅が0.1mmの場合と、0.05mmの場合の2種類の流体軸受装置について、ラジアル軸受にアンバランス荷重(回転しているディスクの1点に軸方向からエアを当てて、定常回転時からのRROの変化を測定するエアプッシュ試験等であり、静荷重ではなく、動荷重を加える)を加えた場合の回転軸心の偏心量を測定し剛性を求め、表面気孔率(面積%)による流体軸受装置のラジアル軸受剛性の劣化比率を測定したものである。測定結果によれば、リッジ幅が0.1mmの場合は表面気孔率が1.5%までは剛性低下が認められないが、リッジ幅が0.05mmと短い場合は表面気孔率が0.75%からラジアル剛性が低下を始めた。またいずれの場合も表面気孔率が3%になると剛性が約20%低下することが確認できた。この結果から、図6に示す体積密度が約90%以上の高密度な焼結材料のスリーブを用いた流体軸受は、図9に示す表面粒子間凹みが深くなると圧力低下を始めるものと考えられ、リッジ幅が十分長い場合は圧力漏れと剛性低下は無く、リッジ幅が短い場合は圧力漏れが起こりやすいことを示している。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝よりも深かったり、動圧発生溝の溝幅(Bg)にある程度近い長さになると表面気孔や表面粒子間凹みは動圧発生による圧力を低下させるものと考察される。
【0036】
以上の考察から、本願発明においては、表面気孔率だけでなく、リッジ幅も考慮した関数を定義し、ラジアル剛性との関係を見出した。
上記のように、動圧発生溝部のリッジ幅の影響を考慮した関数F(式1)とラジアル剛性比率の関係を図12に示している。
【0037】
関数F=表面空孔率/リッジ幅 ・・・(式1)
表面気孔率:軸受摺動面の撮影による測定値(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm)
表面気孔率は、前述したように面積%で表す場合と、体積%で表す場合があり、ここでは表面気孔率は軸受摺動面を顕微鏡、写真機、ビデオカメラ等で撮影した画像から、単位面積当たりの気孔部分の割合を示す面積%で表したものとする。また、リッジ幅は、グルーブ(動圧溝)とリッジの境界線から法線方向に測定した隣接した境界線までの距離を表しており、動圧溝間の最短距離である。図3、4、8のBrがこれに相当する。
【0038】
図12のグラフからは、関数Fの数値が15以下であれば圧力漏れがなく、剛性低下が充分少ない流体軸受が得られることがわかる。
【0039】
なお、図1に示す本発明においては、図16の従来例に示すようにカバー31が不要であり、スリーブ1のベース10への取り付け精度が高くできる。例えば図中軸受穴1Aに対するスラスト板7の直角度は2μm以下に容易かつ安定的に保つことができ、流体軸受装置の量産での性能ばらつきを抑えることができ、工業上大きな効果を得ることが可能である。さらに、焼結軸受の表面は適度に荒れており、接着するときに接着溝等をわざわざ設ける必要がないため、ローコストで安定した強度を得ることができる。
【0040】
なお、上記においては軸2が回転する実施例について説明したが、スリーブ1とロータハブ5が一体に固定されて共に回転し、軸2がベース10に一体に固定された、いわゆる軸固定式軸受構成でも同じことである。
【0041】
これまで図10と図11を用いて述べたように、焼結金属からなるスリーブ1の軸受内周面の、表面気孔率を1.5%以下で、動圧発生溝のリッジ幅を0.10mm以上にすることで高性能で信頼性が高い流体軸受装置を得ることができる。
【0042】
(実施の形態2)
実施の形態1において、図6で体積密度と気孔率の関係を示した。実施の形態1では、図6、図7、図10および図11を用いて述べたように、表面気孔率とリッジ幅を所定の値にすることでラジアル剛性の低下の少ない流体軸受装置を得ることができたが、焼結金属からなるスリーブ1の密度を体積密度の観点から管理しても同様の結果が得られる。具体的には、体積密度を92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅を0.10mm以上にすることで、高性能で信頼性が高い流体軸受装置を得ることができる。これは体積密度を92%以上にすれば、全気孔率(体積%)が8%以下になると共に、表面気孔率(面積%)はほぼゼロか、少なくとも1.5%以下になるからである。
【0043】
(実施の形態3)
図13は、図2の本発明の実施の形態のスリーブ1を、図示しない一般の油圧式プレス機械で加工する場合のプレス圧力と、式1に示した関数Fの関係を実験的に求めたものである。関数Fが15以上では表面気孔率をあまり小さくしていなかったのでプレス機械による加工圧力は10トン程度で充分加工が行えた。しかし関数Fが3程度になる様にスリーブ1を加工するためにはプレス圧を3倍以上に高めなければならず、その結果図示しない金型が短期間に応力破壊する危険性が生じた。
【0044】
特に関数Fの値を3未満にするためには図13に示すように必要なプレス圧力が急激に上昇し、大量生産性が悪くなることが確認できた。この現象は、関数Fが大きい場合はスリーブ1の原料となる鉄系金属粒子が図示しない金型内で自由に圧縮されて成型されるが、関数Fを小さくなるようにスリーブ1を加工するためには、プレス機械の圧力も大きくなり、さらに関数Fが3未満では、鉄系金属粒子が金型内でほぼ100%詰まった状態での鍛造加工に近いになるため、これ以上圧縮できない状態の鍛造加工であり、鉄系微粒子を成型するために急激に大きなプレス圧力が必要になるものと考察される。
【0045】
よって、経済性を考慮すると、図13のように関数Fの値を3以上にすることで、良好な生産性を維持することができる。したがって、ラジアル剛性と経済性を考慮すると、関数Fの値は、3以上、15以下であることが望ましい。
【0046】
(実施の形態4)
また、従来、快削鋼の棒材や銅合金棒から旋盤による旋削加工でスリーブ1を削り出し、表面に防錆と耐摩耗性向上のためにニッケルメッキを施すことがあったが、焼結材料からなるスリーブ1にニッケルメッキを施す場合には腐食性を有するメッキ液が焼結材料の内部に残り、この液があとで焼結材料に悪作用をおこす危険性があった。図1、図2に示す本発明においては、スリーブ1の材料成分は鉄80%以上であって、この焼結材料の表面に高温でのスチーム処理を施すことで表面に四酸化三鉄(Fe3O4)(通称、四三酸化鉄)または、三酸化二鉄(Fe2O3)(通称、三二酸化鉄)を主体とする皮膜を2μm以上形成している。これにより、高マンガンクロム鋼やステンレス鋼からなる軸2とスリーブ1の間の摺動面において良好なスベリと耐摩耗性を発揮し、長寿命な流体軸受装置を構成することができる。スチーム処理は、酸素量を制御しながら500℃〜600℃程度の温度で水蒸気に接触させるもので、気孔が存在する焼結材料の表面を酸化鉄皮膜で覆うことができ、表面を封孔することができる。スチーム処理による封孔効果を実現するためには、体積密度を上げることによって、封孔すべき気泡をある程度小さく少なくしておくことが重要で、本発明の気孔率や体積密度であれば、十分効果を引出すことができる。また、封孔に必要な酸化反応を行うにはある程度以上の鉄成分も必要で、鉄成分が80%以上であることが望ましい。
【0047】
また、図14に示す断面図のように、この酸化鉄皮膜の厚さを2μm以上とすることで凹みやスジを酸化鉄皮膜が滑らかに埋めてしまい、それらの深さをゼロまたは図14に示すように深さsを0.01μm程度の極めて浅い状態にすることが可能であり、その効果により表面気孔率(面積%)は極めて0%に近いものに仕上がり、潤滑剤をほぼ通さない封孔処理とすることができる。この結果、発生動圧の漏れをなくすことができ、流体軸受装置の信頼性を向上することができる。また、潤滑剤11がスリーブ1内部にしみ込むことがないので、従来例のように、あらかじめスリーブ1に潤滑剤11を含浸させておく必要はなく、外部への潤滑剤11漏れもないので、カバー31も不要とすることができる。
【0048】
(実施の形態5)
図1に示す本発明において、軸2が高マンガンクロム鋼またはステンレス鋼のいずれか一方から構成され、また、スリーブ1は90体積%以上を鉄系微粒子からなる焼結金属に構成することで、軸の線膨張係数が16.0E-6〜17.3E-6(/℃)で、スリーブの線膨張係数が11.0E-6(/℃)になるため、スリーブが銅合金である場合と比較して、低温における軸受穴22Aと軸1の間の半径隙間が広くなり、ロストルクが減少して回転が軽くなるので、潤滑剤11であるオイルの粘度が低温で増加しても、流体軸受装置の回転摩擦トルクはさほど大きくならず、モータの消費電流を少なく抑えることが可能になる。
【0049】
また、スリーブ1はマルテンサイト系ステンレスまたは、フェライト系ステンレスの鉄系微粒子を50%以上含む鉄系粒子からなる焼結金属を用いることで、軸の線膨張係数が16.0E-6〜17.3E-6(/℃)でスリーブの線膨張係数を10.3E-6(/℃)とすることができるため、低温においては軸受穴22Aと軸1の間の半径隙間が広くなり回転が軽くなるので、潤滑剤11であるオイルの粘度が低温で増加しても、流体軸受装置の回転摩擦トルクはさほど大きくならず、モータの消費電流を少なく抑えることができる。具体的に、本発明においてはSUS416、SUS420、SUS440のマルテンサイト系ステンレスや、SUS410LやSUS430等のフェライト系ステンレスが鉄系粉体の材料に選択される。
【0050】
(実施の形態6)
図15は本発明の流体軸受を組み込んだ情報記録再生処理装置である。代表的なものとしては、ハードディスク装置や光ディスク装置、光磁気ディスク装置があり、また図15のようにディスクは搭載していないが、CPUを冷却するファンを搭載したパソコンも挙げられる。12はディスク、13はクランパ部材,14は上蓋、15はヘッドアクチェータユニットを示している。本発明においては、流体軸受から潤滑剤が漏れてディスクを汚染したり、漏れた潤滑剤が蒸発したガスが装置内を汚染したりしないので、性能と信頼性に優れた情報記録再生処理装置が得られる。
【0051】
このように本発明の流体軸受装置は、スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上保つことで、圧力の漏れが無く、ラジアル軸受剛性の低下がない。また、潤滑剤11であるオイルの表面へのにじみ出しもないので、焼結スリーブをカバー無しで直接ベースやハブに取り付けることが可能である。
【0052】
なお、本発明の動圧流体軸受は、スリーブ1に形成されたラジアル軸受で説明したが、同じくスリーブ1に形成されたスラスト軸受についても同様の効果が得られる。具体的には、例えば図1におけるスラスト動圧発生溝8Bとそれに対向するスリーブで形成されるスラスト軸受で、スラスト動圧発生溝がスリーブ側に形成されている場合である。さらにラジアル軸受とスラスト軸受の特性を併せ持つ円錐軸受(コニカル軸受)にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は上記した構成によって、スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上に保つことで、発生動圧力が漏れることを防止し、漏れを無くすことでラジアル軸受剛性の低下を防止し、従来のカバーの廃止が可能になり、また、軸とスリーブの線膨張係数を軸の方を大きくなるように焼結金属からなるスリーブの原料となる金属粒子の成分を鉄系にすることで、流体軸受の低温での性能・信頼性が良好で大量生産性に優れた流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図
【図2】同流体軸受装置におけるスリーブの詳細断面図
【図3】流体軸受装置の一般的な断面図
【図4】流体軸受装置における動圧発生原理説明図
【図5】同流体軸受装置における非貫通内部気孔、貫通気孔、表面気孔の説明図
【図6】本発明の流体軸受装置の体積密度と各気孔率の説明図
【図7】同流体軸受装置の表面気孔率と剛性比率の説明図
【図8】同流体軸受装置における表面気孔の説明図
【図9】同流体軸受装置における表面気孔の説明図
【図10】同流体軸受装置における各気孔率の測定結果説明図
【図11】同流体軸受装置におけるリッジ幅による表面気孔率と剛性比率の説明図
【図12】同流体軸受装置の関数Fと剛性比率の説明図
【図13】本発明の流体軸受装置の関数Fとプレス荷重の説明図
【図14】同流体軸受装置の表面酸化鉄皮膜の説明図
【図15】同流体軸受装置を用いた情報記録再生処理装置の断面図
【図16】従来の流体軸受装置の断面図
【図17】従来の焼結材料表面の気孔の説明図
【符号の説明】
【0055】
1 スリーブ
1A 軸受穴
2 軸
3A,3B ラジアル動圧発生溝
4 ロータ磁石
5 ロータハブ
6 スラストフランジ
7 スラスト板
8A,8B スラスト動圧発生溝
9 モータステータ
10 ベース
11 潤滑剤
12 ディスク
13 クランパ部材
14 上蓋
15 ヘッドアクチェータユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、体積密度が92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項3】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、次の関数Fの値が15以下であることを特徴とする流体軸受装置。
関数F=表面空孔率(面積%)/リッジ幅(mm)
表面空孔率:動圧軸受摺動面の撮影による測定値で、気孔部面積の
割合(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm)
【請求項4】
前記関数Fの値が3以上、15以下であることを特徴とする請求項3に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記スリーブは成分の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄(Fe3O4)または、三酸化二鉄(Fe2O3)を主体とする酸化皮膜を2μm以上形成したことを特徴とする請求項1から請求項3の流体軸受装置。
【請求項6】
前記スリーブはベースに直接固定されることを特徴とする請求項1から請求項5の流体軸受装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体軸受装置を備えた情報記録再生処理装置。
【請求項1】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、体積密度が92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項3】
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、次の関数Fの値が15以下であることを特徴とする流体軸受装置。
関数F=表面空孔率(面積%)/リッジ幅(mm)
表面空孔率:動圧軸受摺動面の撮影による測定値で、気孔部面積の
割合(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm)
【請求項4】
前記関数Fの値が3以上、15以下であることを特徴とする請求項3に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記スリーブは成分の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄(Fe3O4)または、三酸化二鉄(Fe2O3)を主体とする酸化皮膜を2μm以上形成したことを特徴とする請求項1から請求項3の流体軸受装置。
【請求項6】
前記スリーブはベースに直接固定されることを特徴とする請求項1から請求項5の流体軸受装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体軸受装置を備えた情報記録再生処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−74572(P2009−74572A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241890(P2007−241890)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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