説明

流路部材の構造、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び画像形成装置

【課題】流路ユニットを構成する流路部材として樹脂層と金属層とからなる少なくとも2層構造の流路部材を使用した液滴吐出ヘッドにおいて、高精度な流路部材間接合が可能となり、安定した吐出特性が得られる流路部材の構造、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】複数の流路部材を積層した流路ユニットBを備えた液滴吐出ヘッドAにおいて、少なくとも一つの流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、金属層に打ち抜き加工にて形成された穴径よりも樹脂層に形成された穴径が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属、若しくは樹脂材に微細な形状を形成するための加工技術に関し、特に液滴吐出式記録ヘッドに使用する液室部を構成する金属、若しくは樹脂材の加工技術及び加工形状に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドとしては例えば液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、インクを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド等がある。
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機等の各種画像形成装置としては、記録液(例えばインク)の液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッド(印字ヘッド)をキャリッジに搭載して、このキャリッジを被記録媒体の搬送方向と直交する方向にシリアルスキャンさせるとともに、被記録媒体を記録幅に応じて間欠的に搬送し、搬送と記録を交互に繰り返すことによって被記録媒体に画像を形成(記録、印刷、印字、印写)するシリアル型画像形成装置、或いは、ライン型の記録ヘッドを搭載したライン型画像形成装置がある。
このような画像形成装置における大きな技術課題として高画質化と高速化とがある。高画質化対策としては、画像解像度の高解像化に伴って液滴を小滴化したり、ノズルを高密度化する方法があり、高速化対策としては、液滴吐出の駆動周波数を上げる方法や、1ヘッド当たりのノズル数を増やしたライン型の記録ヘッドに代表される記録ヘッドを長尺化する方法がある。
【0003】
近年、液滴吐出プリンタにおける高速化の進行による液滴吐出ヘッドの長尺化に伴い、ノズル数の増加が求められている。低コスト化を図りながら、液滴吐出ヘッドの長尺化に対応し、且つ複雑な液流路形状を形成する流路板の製作に対応するためには、液滴吐出ヘッドの製作に使用するプレート材として金属プレートや樹脂プレートが選択される。シリコン材は長尺化への対応が困難であり、コストが高いのに対して、ステンレス材は比較的有利であり選定し易いという利点を有する。
一般的に液滴吐出ヘッドは、数十ミクロン程度の径を有したノズル孔と液室とにより構成されており、複数枚のステンレスプレートにて形成される流路ユニットは、難接着材料とされるステンレス材同士を接合するプロセスが必要とされるため、多層構造はできるだけ回避される傾向にある。ステンレス材同士の接合を回避するための対策としては、金属板と樹脂板とを積層した複合板を用いる方法が知られている。また、金属板と樹脂板との複合板を加工する場合、ウエットエッチング加工、或いは打ち抜きによるプレス加工がよく使われる。
【0004】
金属板と樹脂板との複合板は、流路ユニットとして完成されるまでに少なくとも1回以上の接合プロセスを経ることとなる。また流路ユニットは流路ユニットを支えるハウジングと接合されることとなる。
従来より上記の接合工程では高精度な接合技術が要求され、また部品単位でのアライメントに用いる形状寸法にも高い精度が要求される。
従来の金属板と樹脂板との複合板(積層板)を用いた流路ユニットとしては、ステンレス材に延伸フィルムを貼り合わせた材料を振動板に使用した例が特開平11−78006号公報に示されているが、接合に用いるアライメント穴形状に関しては、特別な工法が示されずにプレス加工にて形成する旨の記述があるだけであり、この開示内容では高精度な形状を確保することが困難である。また、振動板を感光性樹脂材とステンレスとの積層材料で形成し、アライメントの穴をプレス加工にて形成して液室と接合し、流路ユニットとする工法が特開平11−342610号公報に示されているが、これも同様に接合に用いるアライメント穴形状に関しては、特別な工法が示されていない。また同じく、ステンレス材に樹脂フィルムを貼り合わせた材料を振動板に使用する例が特開2000−334946公報に示されているが、これも同様に接合に用いるアライメント穴形状に関しては、特別な工法が示されていない。
【特許文献1】特開平11−78006号公報
【特許文献2】特開平11−342610号公報
【特許文献3】特開2000−334946公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、流路ユニットを構成する流路部材として樹脂層と金属層とからなる少なくとも2層構造の流路部材を使用した液滴吐出ヘッドにおいて、高精度な流路部材間接合が可能となり、安定した吐出特性が得られる流路部材の構造、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る流路部材の構造は、複数の流路部材を積層した流路ユニットを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、少なくとも一つの前記流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、前記樹脂層と前記金属層との接合界面における穴径が、前記金属層に打ち抜き加工にて形成された穴径よりも前記樹脂層に形成された穴径が大きいことを特徴とする。
請求項2の発明は、複数の流路部材を積層した流路ユニットを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、少なくとも一つの前記流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、前記樹脂層と前記金属層との接合界面における穴径が、前記金属層にエッチング加工にて形成された穴径よりも前記樹脂層に形成された穴径が大きいことを特徴とする。
請求項3の発明は、前記流路ユニットは流路板、振動板、及びノズル板を備え、前記振動板が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、前記振動板は、ステンレスから成る金属層と、ポリイミドから成る樹脂層との積層材であることを特徴とする。
【0007】
請求項5の発明は、前記金属層に形成された穴はアライメント部であることを特徴とする。
請求項6の発明は、前記金属層に形成された穴は液滴を供給する液滴供給口であることを特徴とする。
請求項7の発明は、前記樹脂層に形成された穴はフォトリソ技術により加工されていることを特徴とする。
請求項8の発明に係る液滴吐出ヘッドは、請求項1乃至7の何れか一項に記載の流路部材を備えたことを特徴とする。
請求項9の発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記流路部材はステンレス板とポリイミドシートとを貼り合せた構成を備え、前記振動板に対してノズル板をピンアライメント技術を用いて接合することで流路ユニットを形成し、前記流路ユニットと前記流路ユニットを支持するフレームと液滴吐出のための圧力を発生させる機能を備えた圧電素子ユニットとを接合することで形成されることを特徴とする。
請求項10の発明は、前記流路部材は、前記ステンレス板に対してポリイミドを塗布コートした構成を有していることを特徴とする。
請求項11の発明に係る画像形成装置は、上記液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、複数の流路部材を積層した流路ユニットを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、少なくとも一つの前記流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、前記金属層に打ち抜き加工にて形成された穴径よりも前記樹脂層に形成された穴径を大きくしたので、流路ユニットを構成する流路部材として樹脂層と金属層とからなる少なくとも2層構造の流路部材を使用した液滴吐出ヘッドにおいて、高精度な流路部材間接合が可能となり、安定した吐出特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を添付図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を示す分解斜視図であり、図2及び図3は要部縦断面図である。
液滴吐出ヘッドAは、プレス加工法、及びウエットエッチング加工法により形成した流路板(流路部材)1と、流路板1の表面側に接合されるプレス加工法により形成したノズル板(流路部材)3と、流路板1の背面側に接合され且つ積層材料を使ってプレス加工法とウエットエッチング加工法により形成した振動板(流路部材)2と、振動板2の背面側を支持する環状のフレーム部材15と、を有する。流路板1、振動板2、及びノズル板3は、流路ユニットBを構成している。
流路板1には加圧液室6、及びダンパ室50が形成されている。ノズル板3には、ノズル4となる穴が所定のピッチ、配列にて多数形成されている。振動板2には、インク供給口9が形成され、その背面には圧電素子12が配置されている。
これらの板材1、2、3から成る流路ユニットBに対してフレーム部材15を接合することにより形成された液滴吐出ヘッドAには、インク滴を吐出するノズル4と、インク流路である加圧液室6と、加圧液室6にインクを供給するためのインク供給口9と、それを介して連通する共通液室8が備わっている。
振動板2の内側には、各加圧液室6に対応して加圧液室6内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子12を接合し、この圧電素子12を金属あるいはセラミックスなどの高剛性材料で形成したベース基板13に接合している。
【0010】
また、図3に示すように各圧電素子12間には加圧液室6、6間の隔壁部1aに対応して支柱部14を設けている。ここでは、圧電素子となる圧電部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を所定ピッチで施すことで櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子12と支柱部14として形成している。支柱部14は圧電素子と同じ材料であるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。
さらに、振動板2の外周部はフレーム部材15に接着剤にて接合している。このフレーム部材15には、共通液室8となる凹部、この共通液室8に外部からインクを供給するためのインク供給穴16を形成している。フレーム部材15は、例えばエポキシ系樹脂、或いはポリフェニレンサルファイトを用いて射出成形により形成している。
流路板1は、例えばステンレス鋼材をプレート状に成形したもので、例えばプレス加工法にて加圧液室6、インク供給路7、ダンパ室50を形成し、ウエットエッチング加工法にてインク供給部を形成したものである。
振動板2は、2層構造の金属プレートに樹脂をコートして形成した積層材料から加工したもので、例えば金属プレートにはステンレス鋼と樹脂にはポリイミドを使って積層材料としている。加工方法は、プレス加工法とウエットエッチング加工法で作製している。
ノズル板3は各加圧液室6に対応した位置に直径10〜35μmのノズル4を形成している。ノズル板3としては、ステンレス鋼などの金属、金属とポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂との組み合せからなるものを用いてもよい。ここでは、ステンレス鋼にプレス加工法によりノズル4を形成している。
【0011】
ノズル4の穴径はインク滴出口側の直径で約20〜35μmとしている。さらに、各列のノズルピッチは150dpiとした。
ノズル板3のノズル面(吐出方向の表面:吐出面)には、図示しない撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。撥水処理層としては、例えば、PTFE−Ni共析メッキやフッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えばフッ化ピッチなど)を蒸着コートしたもの、シリコン系樹脂・フッ素系樹脂の溶剤塗布後の焼き付け等、インク物性に応じて選定した撥水処理膜を設けて、インクの滴形状、飛翔特性を安定化し、高品位の画像品質を得られるようにしている。
圧電素子12は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層とを交互に積層したものであり、内部電極を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極、共通電極に電気的に接続し、これらの電極にFPCケーブル17を介して駆動信号を供給するようにしている。この圧電常数がd23である圧電素子12の伸縮により加圧液室6を収縮、膨張させる。圧電素子12に駆動信号が印加され充電が行われると伸長し、また圧電素子12に充電された電荷が放電すると反対方向に収縮する。
【0012】
次に、図4(a)及び(b)は本発明に係る積層材料から成る液滴吐出ヘッドの振動板の要部平面部、及びX−X断面図である。
振動板2は、第1層膜(樹脂層)としての薄膜層2Aと、第2層膜(金属層)としての厚膜層2Bとの2層膜で構成されており、第1層膜2Aは1〜5μm程度の膜厚(好ましくは、3μm程度)、第2層膜2Bは10〜30μm程度の膜厚であり、振動板2全体としては10〜40μm程度の板厚として形成される。
振動板2は、背面に圧電素子12が接合される凸部202と、圧電素子12からの圧力を加圧液室に伝播させるためのダイアフラム部201と、圧電素子12が振動板2に干渉しないように形成された凹部203と、振動板側液供給部204と、で構成されている。振動板側液供給部204は、ヘッドの流体抵抗を可能な限り小さくする必要があるために比較的大きな穴形状となっており、第1層膜2Aと第2層膜2Bとを貫通した形状である。
【0013】
第2層膜(金属層)2Bには、圧電素子12を接合するための凸部202と、圧電素子12が振動板2へ干渉しないように形成した凹部203と、振動板2の剛性を確保するための柱等205が形成される。
第1層膜(樹脂層)2Aはポリイミド樹脂で形成され、第2層膜2Bはステンレス鋼で形成されている。
第1層膜2Aは、リソグラフィ技術を使ったウエットエッチング加工法で振動板側液供給部204を貫通形成し、第2層膜2Bの圧電素子12が接合される凸部202と圧電素子12が振動板2に干渉しないように形成された凹部203も同じくリソグラフィ技術を使ったウエットエッチング加工法で加工している。第2層膜2Bの振動板側液供給部204は、プレス加工法により貫通加工を行っている。
【0014】
次に、図5、図6、図7、図8に基づいて本発明の第2の実施形態を説明する。
図5は、本発明に係る積層材料から成る液滴吐出ヘッドの振動板2の平面図である。
流路を形成する流路形成部品(流路部材)と接合するために、振動板2にはアライメント基準穴207とアライメント用長穴208が形成されており、これらは打ち抜きのプレス加工法で加工された穴となっている。振動板側液供給部204も同様に打ち抜きのプレス加工法にて形成されている。
【0015】
図6は積層材料としての振動板2にアライメント基準穴207とアライメント用長穴208や振動板側液供給部204等の各種穴をプレス加工法にて加工するプロセスフローの概要図を示す。金属層としての金属プレート、例えばステンレス板610の一面に、樹脂層、例えばポリイミド膜611を塗布した積層材を使用し、フォトリソグラフィー技術を用いて、ポリイミド膜611上にレジスト膜612を塗布((1)(2))し、必要とする穴径615よりも大きな穴径613をパターニングし、ウエットエッチングにてポリイミド膜611を穴径613のように開口する(3)。次いで、レジスト膜612を剥離させ、必要とする穴径615が開口するようなポンチ614にてプレス加工を行い開口形成する((4)(5))。
なお、ここにおける穴径の比較は、金属層610と樹脂層611の接合界面における穴径の比較である。
本実施形態によれば、樹脂層と金属層の少なくとも2層で形成される液滴吐出ヘッドの流路部材において、金属層610と樹脂層611の接合界面における穴径に関して、金属層に打ち抜き加工にて形成される穴径よりも樹脂層に形成された穴径を大きくしたので、高精度化と、型磨耗防止が可能となり、安価に打ち抜き加工が行えることとなる。
【0016】
図7は振動板2に形成された加工穴の断面図である。(1)はプレス加工法によって打抜かれた加工初期の状態を示す断面図であり、(2)は打抜きを完了してバリ部を除去した状態を示す図である。
せん断後に生じる打ち抜きは、流路板1の裏面側が破断される現象によって打抜きが完了する。せん断から破断へ移行するプレス加工においては、図示するように、振動板2と接合される側の加圧液室淵部62は打込まれることによりR形状となる。加圧液室6の側壁の状態は、せん断部63と、破断部64と、打ち抜かれることにより形成されたバリ部65が残った状態で加工が完了する。バリ部65は接合工程において問題となる場合は機械的な加工より除去され平坦部66とすることが望ましいが、接合工法によってバリ部の存在が問題とならない場合は機械的な加工は必ずしも必要としない。
【0017】
次に、図8は、積層材料としての振動板に図5におけるアライメント基準穴207とアライメント用長穴208や振動板側液供給部204等の穴をウエットエッチング加工法にて加工するプロセスフローの概要図である。金属層としての金属プレート、例えばステンレス板610の上面に、樹脂層、例えばポリイミド膜611が塗布された積層材を使用し((1))、フォトリソグラフィー技術を用いてポリイミド膜611上にレジスト膜612を塗布して((2))、必要とする穴径615より大きな穴径613をパターニングし、ウエットエッチングにてポリイミド膜611を穴径613のように開口する((3))。レジスト膜612を剥離させ、再度フォトリソグラフィー技術を用いてポリイミド膜611上及びステンレス板610上に両面レジスト膜617を塗布して、必要とする穴径615より大きな穴径616を両面パターニングし((4))、ウエットエッチングにてステンレス板610に穴径615をウエットエッチング加工法にて開口形成させる((5))。
なお、ここにおける穴径の比較は、金属層と樹脂層の接合界面における穴径の比較である。
このように、金属層にエッチング加工にて形成されるべき穴の穴径よりも、樹脂層に形成する穴径を大きくしたので、両面エッチングが可能となり高精度な加工穴が形成可能な積層材料を提供できる。
【0018】
金属層と樹脂層とが積層された構造の流路部材を振動板2に適用することにより、液流路部へのゴミ混入を防ぐことができ、かつ液流路部材との接合工程を削減でき、製造コストを低下させることができる。即ち、流路部材においては、金属層側の貫通穴の穴径よりも、樹脂層側の貫通穴の穴径が同等、若しくは小さい場合には、その穴にピン等が挿入された場合に樹脂が容易に延伸したり、樹脂が引きちぎられてゴミが発生する現象が発生するが、本発明のように樹脂層側の穴径を大きくしているので、樹脂破片からなるゴミが発生しない。また、打ち抜きの場合にもその加工時に同様のゴミが発生するが、本発明によればゴミの発生を回避できる。流路板が振動板である場合には、本実施形態では貫通穴にインク供給口が含まれる。この場合には、上記のプロセスによって発生する樹脂破片がノズル径に対して大きい場合には詰まりの原因となる。
金属層と樹脂層とが積層された構造の流路部材を振動板に適用し、且つステンレスとポリイミドの積層材としたことにより、高周波振動にも耐久性のある安定した吐出特性を持った振動板を加工することができる。
金属層に液滴を供給する液滴供給口を形成することにより、液流路への異物(上記の樹脂片等)の混入を減少させることができ、安定した吐出ができるようになる。
樹脂層にフォトリソ技術により穴を加工することにより、樹脂を加工することが容易となり、機械的な加工と比べてゴミの発生が少ない積層材料を提供できる。
【0019】
上記第1及び第2の各実施形態で夫々示した流路板1、振動板2、ノズル板3、圧電素子12、フレーム15は互いに接合され、液滴吐出ヘッドAとして組み立てられるが、本発明では、金属層と樹脂層との積層材において、金属層に打ち抜き加工にて形成された穴径よりも樹脂層に形成された穴径が大きくなるようにアライメント穴を形成し、各部材同士を組み立て接合することにより、高精度な組立てが行える。これにより、安定した吐出特性を持った液滴吐出ヘッドを製造することが可能となる。
また、積層材で使用したポリイミド膜611は、塗布による積層方法以外に、貼り合わせにて積層させても差し支えない。
【0020】
次に、図9はフレーム15の構成を示す斜視図である。
本実施形態例では共通液室8は長手方向の端部で短手方向の幅が狭くなり深さが浅くなる形状となっている。このような形状とすることによりインクの流れ性と、気泡排出性を良好にすることができる。
次に、図10に示すインクカートリッジについての説明を行う。
このインクカートリッジは、ノズル70等を有する上記各実施形態のいずれかの液滴吐出ヘッド71と、この液滴吐出ヘッド71に対してインクを供給するインクタンク72とを一体化したものである。
このようにインクタンク一体型のヘッドの場合、ヘッドの歩留まり不良は直ちにインクカートリッジ全体の不良につながるので、上述したように液滴吐出特性の向上は、ヘッド一体型インクカートリッジの信頼性向上化を図れる。
【0021】
次に、本発明にかかわる液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出記録装置の一例について図11、図12を参照して説明する。なお、図11は同記録装置の斜視説明図、図12は同記録装置の機構部の側面説明図である。
この液滴吐出記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明を実施した液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納し、装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向(図11の紙面直交方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドからなるヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93にはヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0022】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0023】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
【0024】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0025】
以上のように本発明は、樹脂層と金属層の少なくとも2層で形成される液滴吐出ヘッドの流路部材において、金属層に打ち抜き加工にて形成される穴径よりも樹脂層に形成された穴径を大きくしたので、高精度化と、型磨耗防止が可能となり、安価に打ち抜き加工が行える積層材料を提供できる。なお、ここにおける穴径の比較は、金属層と樹脂層の接合界面における穴径の比較である。
また、樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成される液滴吐出ヘッドの流路部材において、金属層にエッチング加工にて形成される穴径よりも樹脂層に形成された穴径を大きくしたので、両面エッチングが可能となり高精度な加工穴が形成可能な積層材料を提供できる。
また、樹脂層と金属層との積層構造の流路部材を振動板に適用することにより液流路部へのゴミ混入を防ぐことができ、かつ液流路部材との接合工程を削減でき、製造コストが安価な積層材料を提供できる。
【0026】
また、樹脂層と金属層との積層構造の流路部材を振動板に適用し、且つステンレスとポリイミドの積層材としたことにより、高周波振動にも耐久性のある安定した吐出特性を持った振動板を加工可能な積層材料を提供できる。
また、金属層にアライメント部となる穴を形成したことにより、高精度な部品接合が可能となり、吐出特性が安定する流路部品を形成できる積層材料を提供できる。
また、金属層に液滴を供給する液滴供給口を形成することにより、液流路への異物混入を減少させることができ、安定した吐出ができる流路部品を形成できる積層材料を提供できる。
また、樹脂層にフォトリソ技術により穴を加工することにより、容易に樹脂を加工することが可能となり、機械的な加工と比べてゴミの発生が少ない積層材料を提供できる。
また、積層材料を貼り合わせることにより液滴吐出ヘッドを形成することにより、安価に吐出特性を向上させることが可能な液滴吐出ヘッドを提供できる。
また、積層材料はステンレス板とポリイミドシートを貼り合せることで積層されており、ノズル板と振動板とをピンアライメント技術を用いて接合することで流路ユニットを形成し、流路ユニットと流路ユニットを支持するフレームと、液滴吐出のための圧力を発生させる機能を備えた圧電素子ユニットとを接合するようにしたので、製造コストを抑えつつ、異物発生の少ない液滴ヘッドを形成することが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供できる。
【0027】
また、積層材料はステンレス板にポリイミドを塗布コートして積層形成されているので、接着材を用いない積層材料を提供できる。
また、画像形成装置に本発明の液滴吐出ヘッドを搭載することにより、安価で吐出特性が安定した画像形成装置を提供できる。
以上の実施形態においては液滴吐出記録装置としてインクジェットプリンタを例として説明したが、本発明はインクジェットコピー、インクジェットファックス、あるいはそれらの複合型記録装置にも適用できる。
また、本発明はインクジェット記録装置以外にも、インクジェット技術を用いたカラーフィルタ製造装置、金属配線製造装置、捺染装置、DNAチップ製造装置などの工業用製造装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の要部縦断面図である。
【図3】図1の要部縦断面図である。
【図4】本発明に係る積層材料から成る液滴吐出ヘッドの振動板の要部平面部、及びX−X断面図である。
【図5】本発明に係る積層材料から成る液滴吐出ヘッドの振動板の平面図である。
【図6】振動板にアライメント基準穴とアライメント用長穴や振動板側液供給部をプレス加工法にて加工するプロセスフローの概要図である。
【図7】振動板に形成された加工穴の断面図である。
【図8】振動板にアライメント基準穴とアライメント用長穴や振動板側液供給部をウエットエッチング加工法にて加工するプロセスフローの概要図である。
【図9】フレームの構成を示す斜視図である。
【図10】本発明を適用するインクカートリッジの構成説明図である。
【図11】本発明に係る液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出記録装置の斜視説明図である。
【図12】液滴吐出記録装置の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
A…液滴突出ヘッド、B…流路ユニット、1…流路板、1a…隔壁部、2…振動板、3…ノズル板、4…ノズル、6…加圧液室、7…インク供給路、8…共通液室、9…インク供給口、10…直径、12…圧電素子、12…積層型圧電素子、13…ベース基板、14…支柱部、15…フレーム、16…インク供給穴、17…FPCケーブル、50…ダンパ室、62…加圧液室淵部、64…破断部、65…バリ部、66…平坦部、70…ノズル、71…液滴吐出ヘッド、72…インクタンク、81…記録装置本体、82…印字機構部、83…用紙、84…給紙カセット、85…トレイ、86…排紙トレイ、91…主ガイドロッド、92…従ガイドロッド、93…キャリッジ、94…記録ヘッド、95…インクカートリッジ、97…主走査モータ、98…駆動プーリ、99…従動プーリ、100…タイミングベルト、101…給紙ローラ、102…フリクションパッド、103…ガイド部材、104…搬送ローラ、105…搬送コロ、106…先端コロ、107…副走査モータ、109…部材、111…搬送コロ、112…拍車、113…排紙ローラ、114…拍車、115、116…ガイド部材、117…回復装置、201…ダイアフラム部、202…凸部、203…凹部、204…振動板側液供給部、205…柱等、207…アライメント基準穴、208…アライメント用長穴、610…ステンレス板、611…ポリイミド膜、612…レジスト膜、613…穴径、614…ポンチ、615…穴径、616…穴径、617…両面レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路部材を積層した流路ユニットを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、
少なくとも一つの前記流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、
前記樹脂層と前記金属層との接合界面における穴径が、前記金属層に打ち抜き加工にて形成された穴径よりも前記樹脂層に形成された穴径が大きいことを特徴とする流路部材の構造。
【請求項2】
複数の流路部材を積層した流路ユニットを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、
少なくとも一つの前記流路部材が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成され、且つ該流路部材を貫通する穴を備えており、
前記樹脂層と前記金属層との接合界面における穴径が、前記金属層にエッチング加工にて形成された穴径よりも前記樹脂層に形成された穴径が大きいことを特徴とする流路部材の構造。
【請求項3】
前記流路ユニットは流路板、振動板、及びノズル板を備え、前記振動板が樹脂層と金属層との少なくとも2層で形成されていることを特徴とする請求項1、又は2に記載の流路部材の構造。
【請求項4】
前記振動板は、ステンレスから成る金属層と、ポリイミドから成る樹脂層との積層材であることを特徴とする請求項3に記載の流路部材の構造。
【請求項5】
前記金属層に形成された穴はアライメント部であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の流路部材の構造。
【請求項6】
前記金属層に形成された穴は液滴を供給する液滴供給口であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の流路部材の構造。
【請求項7】
前記樹脂層に形成された穴はフォトリソ技術により加工されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の流路部材の構造。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の流路部材を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記流路部材はステンレス板とポリイミドシートとを貼り合せた構成を備え、前記振動板に対してノズル板をピンアライメント技術を用いて接合することで流路ユニットを形成し、前記流路ユニットと前記流路ユニットを支持するフレームと液滴吐出のための圧力を発生させる機能を備えた圧電素子ユニットとを接合することで形成されることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記流路部材は、前記ステンレス板に対してポリイミドを塗布コートした構成を有していることを特徴とする請求項9に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−56646(P2009−56646A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224550(P2007−224550)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】