説明

浴室床の支持構造および施工方法

【課題】 浴室を床基盤上にボルト脚を用いて固定する工法において、浴室から床基盤を通して階下へと伝搬する衝撃音を低減すると共に、浴室を床基盤に設置した後の横ずれを防止し、これによる騒音や気密性の劣化を防止する。
【解決手段】 床基盤7に固定されており、固定穴4bが設けられている複数の固定板4、浴室床に取り付けられており、固定穴4bに挿通されているボルト脚架台1、ボルト脚架台1の頭部1cと固定板4との間に設けられているワッシャー5、ボルト脚架台1に挿通されているナット2、およびナット2と固定板4との間に介在する緩衝材3を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートスラブ等の床基盤から、所定の高さに調整されて設けられる、二階以上の階に設ける浴室に関し、階下への防音機能を付与した建築物及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浴室は、ユニットバスと呼ばれるものが、一般的に使用されている。ユニットバスは、一般的にFRP(強化プラスチック)製であり、カプセルのような小部屋をつくり、中に浴槽,シャワー,蛇口などが組み込まれたものである。浴室が他の部屋から隔離された状態になるため、湿気が他の部屋に伝わりにくいという長所があり、浴室の掃除が楽になるという利点を有している。
【0003】
ユニットバスの浴室を施工する際には、必ずしも平滑でないコンクリートスラブ等の床基盤から、浴室床を所定の高さに調整するためのアジャスターが必要である。このため、図1(a)に示すように、ボルト脚架台1の頭部(ネジ部)1cが浴室の防水床パン或いは浴槽床の下面に組み込まれたナットに装着できるような構造を有しており、コンクリートスラブ等の床基盤7とボルト状頭部1cとをエポキシ系等の接着剤6を用いて固定している。
また、アジャスターの材質としては、浴室本体の重量及び浴槽に張った水の重量に耐えるため、一般的に金属製のものが使用されている。
【0004】
従来よりコンクリート建造物の集合住宅において、階下への防音の必要性が高まり、床材に関しては、軽量床衝撃音を改善した商品が、一般的に採用されるようになった。住環境においては、このように上階から発生する騒音が劇的に改善されるに伴って、浴室についても防音機能を付与したものが必要となってきた。
【0005】
しかしながら、浴室の場合には、コンクリートスラブ等の床基盤7とアジャスターとしてのボルト脚架台1とをエポキシ系等の接着剤6で固定している為、非常に軽いもの、例えば洗面器,シャンプー等の容器等が浴室内に落下したり、浴室にある椅子の引きずる行為により、固体伝搬音としてボルト脚架台を通して、コンクリートスラブ等の床基盤7に直接伝わり、階下への騒音となっていた。
また、昨今のバリアフリーに対応するため、給配水管等が浴室とコンクリートスラブ等の床基盤7の間に設置されることにより、この部分におけるコンクリートスラブ等の床基盤7の厚みが薄くなることにより、床衝撃音を更に悪化させていた。
【0006】
一般的に居室等に使用される場合は、基材としてパーチクルボードに支持脚(ボルト脚)が装着され、支持脚下部にゴム弾性体を差しこんだ状態となっており、コンクリートスラブ等の床基盤に設置すなわち、置き敷きとなっている。更に、パーチクルボードの上面は、捨て張り合板若しくは仕上げ床材が施工されており、床面全体が一体化した状態となる。
【0007】
これに伴い、浴室防音技術としては、特許文献1には、浴室床の下に支持脚を複数設け、各支持脚の先端に防振ゴム台を取り付けることが記載されている。これによって、支持脚および床基盤を通って階下に放出される衝撃音を改善することを試みている。これは、上述した、居室用の防音二重床と同様の思想を浴室に適用したものである。
【特許文献1】特開平8−120956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
居室は浴室と比較して面積がはるかに広く、また重量物も多く、居室の自重が著しく大きい。このため、支持脚の末端に防振ゴムを固定する工法でも、いったん居室を設置すると居室の横ずれが生じず、横ずれによる問題点は考えにくい。
【0009】
これに対して、浴室、特にユニットバスは、強化プラスチックのような比較的に軽量の材料からなっており、面積も小さいために、自重が居室に比べて著しく小さい。このため床基盤に対して地震等の影響で横すべりしやすい状態であった。浴室床は、浴室の防水床パンや浴槽床であってよい。
例えば図1(b)に示す模式図を参照して説明すると、床基盤7上に浴室床21を支持脚1によって設置する。支持脚1の末端には防振ゴム22が取り付けられている。浴室床21の末端は壁面23近くまで設けられている。
【0010】
ここで、浴室の重量は居室に比べて小さい上に、水の比重はFRPの比重よりも大きいので、浴槽に水を入れない状態の浴室の重量と、浴槽に水を入れた後の浴室の重量とは著しく異なる。また浴槽は浴室内の特定の壁面23の近くに設置されているのが普通である。
【0011】
この結果、浴槽に水を入れない状態と、浴槽に水を入れた状態とでは、浴室全体の重心が著しく異なっている。このため、支持脚の末端に防振ゴムを固定して床基盤上に設置する工法であると、浴室を設置した後に、浴室の重心のずれや地震等の振動の影響によって、浴室が床基盤7に対して矢印Bのように横ずれしやすいことが分かった。浴室が床基盤に対して横ずれすると、浴室と壁面との間に隙間が生じて浴室の気密性が悪化する。また、浴室と壁面とのこすれ音等の室内騒音が発生し、致命的な欠陥が生じる。
【0012】
したがって、支持脚1の末端に防振ゴム22を固定して床基盤7上に設置する工法の場合には、コンクリートスラブ等の床基盤7とそれに接する防振ゴム22とを接着剤等で接着することによって、床基盤7に対して防振ゴム22および支持脚1を固定し、これによって浴室が床基盤7に対して横ずれしないようにしなければならない。しかし、防振ゴム22を構成する弾性体に接着剤が付着すると、防振ゴム22が硬度の高い接着剤で強く拘束される結果、防振ゴムの所定の粘弾性が損なわれ、防音機能が低下し、不安定になることが分かった。
【0013】
本発明の課題は、浴室を床基盤上にボルト脚を用いて固定する工法において、浴室から床基盤を通して階下へと伝搬する衝撃音を低減すると共に、浴室を床基盤に設置した後の横ずれを防止し、これによる騒音や気密性の劣化を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、床基盤上に浴室床を支持するための支持構造であって、床基盤に固定されており、固定穴が設けられている固定板、浴室床に取り付けられており、固定穴に挿通されている複数のボルト脚架台、ボルト脚架台の頭部と固定板との間に設けられているワッシャー、ボルト脚架台に挿通されているナット、およびナットと固定板との間に介在する緩衝材を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、床基盤に固定板を設け、固定板の固定穴内にボルト脚を挿通して固定している。固定板は床基盤に対して接着剤等の任意の方法で強固に固定可能であり、またボルト脚も床基盤にワッシャー、緩衝材およびナットによって固定されるので、ボルト脚、更にはその上に浴室床が床基盤に対して設置後に横ずれすることはない。
【0016】
これと共に、浴室床が緩衝材を介して固定板に支持されていることから、浴室床から固定板への衝撃の伝搬は抑制される。また、固定板とボルト脚頭部との間がワッシャーによって緩衝されている。これによって、後述するように、安定し、優れた防音性能を提供することができる。
【0017】
更には、施工時においてボルト脚を具備した既存の浴室に装着することが可能であり、施工が容易である点で利用価値が非常に高いものである。また、将来的に発生するリフォームに際しても、各々の部品が分離可能であるため、リユース若しくはリサイクル可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。
図2(a)は、本発明にかかる一例の構造の断面図である。図2(a)に示すように、本発明の一例の構造では、ボルト脚架台1が、図示しない浴室の防水床パン或いは浴槽床の下面に取り付けられている。この架台1は、ナット2が装着され、従来の施工方法と同様に、コンクリートスラブ等の床基盤7の不陸を調整することが可能であり、また浴室床を所定の高さに施工することができるものである。
【0019】
更に具体的に述べると、本発明例の浴室防音構造は、ボルト脚架台1のネジ頭部1cより、ワッシャー5,固定板4,緩衝材3,ナット2を順次差し込んだ構造となっている。即ち、固定板4は床基盤7上に接着剤6等の固定手段によって所定箇所に固定されている。固定板4には固定穴4bが形成されている。
【0020】
固定穴4bにボルト脚架台1の頭部1cが差し込まれており、頭部1cは固定板4の内側に収容され、床基盤7から浮いている。ボルト脚架台1の軸が固定穴4aを貫通しており、頭部1cと固定板4との間にワッシャー5が挟まれている。
【0021】
また、固定板4の上側には緩衝材3が設置されている。緩衝材3は、例えば図3(a)に示すように、内側凸部3b、外側凸部3a、凸部3aと3bとの間にあるリング状の凹部3dを備えている。また、凸部3a、3bの反対側にはリング状突起3cが形成されている。図3(a)には取り付け前の緩衝材3を示す。この緩衝材のリング状突起3cを、ボルト脚架台1の軸と固定穴4bとの隙間に挿入することによって、固定板4とボルト脚架台1とが直接接触しないようにする。そして凸部3b上にナット2を載せ、浴室の自重を掛ける。
【0022】
この状態でナットを締めないで固定を終了することもできるが、後述するように更にナットを締めつけて、ナットを下方向へと動かし、固定板4の締めつけを強くすることもできる。この時点では、例えば図3(b)に示すように、ナット2の先端面2aによって内側凸部3bを下方へと矢印Cのように押圧し、ナット2の上側2bが外側凸部3aの上面3eと略同一高さAに位置するようにする。
【0023】
上述の実施例によれば、床基盤7に固定板4を設け、固定板4の固定穴4b内にボルト脚架台1を挿通して固定している。固定部4は床基盤7に対して強固に固定されており、ボルト脚架台1も床基盤7にワッシャー5、緩衝材3およびナット2によって固定されるので、ボルト脚架台1、更にはその上の浴室床が床基盤7に対して設置後に横ずれすることはない。
【0024】
これと共に、浴室床が緩衝材3を介して固定板4に支持されていることから、浴室床から固定板4への衝撃の伝搬は抑制される。また、固定板4とボルト脚架台頭部1cとの間がワッシャー5によって緩衝されている。これによって、安定し、優れた防音性能を提供することができる。更には、既存のボルト脚架台1に容易に取り付けることが可能であり、また、分離することが出来るようにしているため、利用価値が非常に高いものである。
【0025】
ナット2は、ボルト脚架台1と緩衝材3,固定板4,ワッシャー5を機械的に固定するものとして使われる。また、緩衝材3への加圧の度合いを調整するために使用される。ナット2の材質については、鉄やステンレス等の金属製であることが好適である。ナイロン,ABS,ポリエステル等の樹脂製であっても良いが、ユニットバス本体の重量及び浴槽に張った水の重量を支えることの可能な強度が必要である。
【0026】
更には、本固定の作業性を良好とさせるには、ボルト脚架台1とナット2の抵抗を少なくしておくことが好ましい。しかし、ねじ山とネジ溝との間に隙間を生じ、荷重がかかるとその部位から音が発生するため、このような場合については、固定後にボルト脚架台のナット接合面上部に低粘度の接着剤、一般的には湿気硬化型ウレタン等を塗布しておけば解消できる。
【0027】
次に、緩衝材3の形状について説明する。
緩衝材3は、凹凸形状とすることが好ましい。この理由は、ナット2による締め付け具合を安定させるとともに、防音機能を安定にすることが出来るためである。緩衝材3に凹凸が設けられていない場合には、緩衝材3自体に弾性があるため、ナット2による締め付けの調整が困難であり、緩衝材3を極度に圧縮した状態で固定することが必要になる。この場合には、緩衝材3の弾性が損なわれ、防音機能が低下し、あるいは防音機能の安定性が低下することがある。緩衝材3に凹凸を設けることによって、緩衝材3を適度な圧縮状態で固定することができる。
【0028】
好適な実施形態においては、緩衝材3が、ナットと接触する内側凸部3bと、凸部3bの周りに設けられている凹部3dと、凹部3dの外側に設けられている外側凸部3aを備えている。即ち、係る緩衝材3が、図2〜図4に示すが如く、少なくとも内側凸部3bと外側凸部3aの形状を有している。
【0029】
図3(a)に示すように、内側凹部3bを外側凹部3aよりも低くすることができる。この場合には、図3(b)に示すように、ナット2による締め付け固定の際にナット2による締めつけ量の調整を容易にできる。即ち、緩衝材3を圧縮し過ぎた場合には、内側凸部3b上に固定されたナット2上面2bが、外側凸部3aの上面3eよりも低くなる。この場合には緩衝材3の過圧縮によって、緩衝材3の硬度が高くなり、防音性能が不安定になる。一方、ナット上面2bが外側凸部3aの上面3eよりも高い場合には、ナット2による締めつけが不十分であることが一目で分かる。このため、ナット2上面2bがAで示すように外側凸部3aの上面3eと略同じ高さにくるように,ナット2による締めつけ量を調整する。
【0030】
一方、図4(a)に示すように、内側凹部3bを外側凹部3aよりも高くすることができる。この場合には、図4(b)に示すようにナット2による締めつけを行う際に、緩衝材3を圧縮し過ぎた場合には、内側凸部3b上に固定されたナット2下面2aが、外側凸部3aの上面3eよりも低くなる。この場合には緩衝材3の過圧縮によって、緩衝材3の硬度が高くなり、防音性能が不安定になる。一方、ナット下面2aが外側凸部3aの上面3eよりも高い場合には、ナット2による締めつけが不十分であることが一目で分かる。このため、ナット2下面2aがAで示すように外側凸部3aの上面3eと略同じ高さにくるよにう,ナット2による締めつけ量を調整する。
【0031】
更には、ナット2の締め付けが緩い場合には、固定板4の固定が甘くなり、コンクリートスラブ等の床基盤7に大きな不陸がある場合には、ボルト脚架台1の下部にあるボルト頭部1cと固定板4とが接触する可能性があり、結果としてこすれ音を生じる。従って、ナット2により、緩衝材3を若干圧縮した状態で固定することが好適である。
【0032】
この圧縮割合は限定されない。しかし、緩衝材3を自重で圧縮した状態を起点として50%以下圧縮することが好ましく、20%以下圧縮することが更に好ましい。
【0033】
次に、緩衝材3の材質について説明する。
緩衝材3は、加硫ゴム弾性体により形成する。これは、熱可塑性エラストマーより形成される弾性体にはない、圧縮永久歪が良好である点と、熱的に安定した素材である点で有効である。
【0034】
ここで言う加硫ゴム弾性体とは、天然ゴム,スチレンブタジエンゴム(SBR),クロロプレンゴム(CR),エチレンプロピレンゴム(EPDM),ブタジエンゴム(BR)等のポリマーを一種又は二種以上併用したものに加硫用配合剤及び添加剤を加え、加温反応して得られるものである。
【0035】
この加硫用配合剤としては、おもに硫黄を用いるが、より効果的に加硫を完結させるため、加硫促進剤を一種又は二種以上併用し、酸化亜鉛,ステアリン酸を添加することが不可欠である。更には、加工操作性を確保する必要がある場合は、早期の加硫を防止するスコーチリターダーも使用される。一方、硫黄の他に各種パーオキサイドを用いる場合も挙げられる。
また、添加剤としては、可塑剤,充填剤,瀝青物,粘着付与樹脂,老化防止剤,防カビ剤,難燃剤,触媒,界面活性剤,カップリング剤等が挙げられる。
可塑剤は、粘度調整,作業性調整,加硫ゴム弾性体の物質調整,難燃性の付与を目的として配合される。
【0036】
可塑剤の具体例として、ナフテン系オイル,パラフィン系オイル,アロマティック系オイル,ひまし油,綿実油,パインオイル,トール油,フタル酸誘導体,イソフタル酸誘導体,アジピン酸誘導体,マレイン酸誘導体、液状ゴムの官能基を含まないもの等があり、単独又は併用して用いる事ができる。難燃性を要する場合は、ハロゲン化合物,リン化合物系可塑剤を単独又は併用して使用できる。
瀝青物としては、ストレートアスファルト,ブロンアスファルト,タール等があり、所望の加硫ゴム弾性体を得るために予め粘着付与樹脂や可塑剤等で改質して使用することも出来る。
【0037】
粘着付与樹脂としては、天然樹脂,ロジン,変性ロジン,ロジン及び変性ロジンの誘導体,ポリテルペン系樹脂,テルペン変性体,脂肪族系炭化水素樹脂,シクロペンタジエン系樹脂,芳香族系石油樹脂,フェノール樹脂,クマロン−インデン樹脂等を単独又は併用して用いることが出来る。
充填剤は、補強,振動減衰性,遮音性,難燃性の改善に効果があり,配合コストダウンを図る目的で使用するものであり、ゴム及び塗料関連で一般に使用されるものが使用出来る。
その具体例としては、マイカ,グラファイト,ヒル石,タルク,クレー等の鱗片状無機粉体,フェライト,金属粉,硫酸バリウム,リトポン等の高比重充填剤,カーボン,微粉シリカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,水酸化アルミニウム等の汎用充填剤を単独又は併用して使用出来る。
その他の添加剤としては、老化防止剤,触媒,顔料,界面活性剤,カップリング剤,防カビ剤等が挙げられるが、これらは必要に応じ添加することが出来る
【0038】
また、好適な実施形態においては、ボルト脚架台1と固定板4との間にワッシャーと緩衝材との少なくとも一方が介在する。例えば、図2(a)に示す例では、固定穴4a内に緩衝材3のリング状突起3cが挿入されており、リング状突起3cによって、固定板4とボルト脚架台1の軸とが直接接触しないようになっている。固定板4とボルト脚架台1が直接接触するような場合は、非常に高いこすれ音が発生する。
【0039】
あるいは、ワッシャ−5に凸部を設けるようにしても良い。例えば、図2(b)に示す例では、固定穴4a内に、ワッシャー5Aのリング状突起5aが挿入されており、リング状突起5aによって、固定板4とボルト脚架台1の軸とが直接接触しないようになっている。
【0040】
次に、固定板4について説明する。
固定板4は、コンクリートスラブ等の床基盤7に接着剤6を用いて固定するものである。
固定板4の材質としては、ナット2と同様に鉄やステンレス等の金属製であることが好適である。ナイロン,ABS,ポリエステル等の樹脂製であっても良いが、浴室本体の重量及び浴槽に張った水の重量を支えることの可能な強度が必要である。
【0041】
固定板4の形状としては、例えば図5及び図6のようなものであれば良い。好適な実施形態においては、固定板4のコンクリートスラブ等の床基盤7と接する部分においては、接着剤6による確実な固定とするために複数の貫通孔4aを形成してある。これによって、この貫通孔4aの上に接着剤6を塗布し、床基盤7と一体化させるものである。
【0042】
貫通孔4aがない場合は、固定板4の床基盤7と接する面に接着剤6を塗布するか、若しくは位置決めされた床基盤7上に接着剤6を塗布する必要がある。この場合には、浴室を所定の位置に置く際、浴室の上げ下ろし或いは浴室位置の微調整のために、浴室を引き摺る行為が行われる。この際に接着剤6がかきとられ、浴室が所定の位置となったときには、固定板4の床基盤7と接する部分に接着剤がほとんどなくなることがある。また、床基盤7の不陸により、まったく固定できない部分が発生する。
【0043】
したがって、防水床パン或いは浴槽の上に荷重がかかった際に、防水床パンに部分的なひずみや傾斜が発生するばかりか、固定板4と床基盤が接触し、固体伝搬音として階下へ伝わり、防音機能を低下させるといった問題が生じる。貫通孔4a内にも接着剤を塗布して固定板4を床基盤7上に固定することにより、このような問題を解決できる。
【0044】
更に、接着剤6は、それ自体に空気を含んでいたり、反応時に炭酸ガスが発生することにより、貫通孔4aがない場合には、発泡した状態のままで硬化するために接着性不良の原因となる。貫通孔4aがある場合は、空気や炭酸ガス等がその穴を通してスムーズに外部へ流出し、空気や炭酸ガス等の溜まりの発生を防ぐことができ、接着性はより良好なものとなる。
【0045】
接着剤6としては、所定の粘度に調整された2液性反応型エポキシ、或いは湿気硬化型ウレタンが挙げられる。
【0046】
また、固定板4は、防音機能を低下させないため、防水床パン或いは浴槽に荷重が加わった場合においても、ボルト脚架台1の頭部が、床基盤7に接しないような構造としなければならず、接着剤6の流入の可能性も否定できない為、十分な空間の確保が必要である。したがって、緩衝材3以上の厚みの空間があれば、好適である。固定板4の厚みを最大限に薄くするためには、所定の防音機能を有しつつ、緩衝材3の厚みを薄くするか、緩衝材3の圧縮特性を十分に確認することにより改善できる。
【0047】
次に、ワッシャ−5について説明する。
ワッシャー5は、ボルト脚架台1と固定板4が直接接触しないように用いられるものである。ナット2の締め付けが緩い場合、固定板4の固定が甘くなり、コンクリートスラブ等の床基盤に非常に小さな不陸であっても、ボルト脚架台1の下部にあるボルトと固定板4が接触するために、結果としてこすれ音を生じる。
【0048】
ワッシャー5の材質については、汎用のポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック製若しくはゴム製のものを用いる。ワッシャーの形状は、ボルト脚架台1に差し込み可能な汎用の形状であれば良い。緩衝材3の下面凸部3cを有していない場合には、図2(b)に示すよう、ワッシャー5上面に凸部を設けることが好ましく、これによってボルト脚架台1と固定板4が直接接することとならないような構造とする。
【実施例】
【0049】
表1に示す各実験例の性能比較実験を行った。
最初に実験方法について説明する。
図7は、実験に用いた装置を示す図である。加振室8と受音室17とは床スラブ12により仕切り、この床スラブ12上に実験に用いる浴室の試験体11を敷設する。試験体11の上部には試験体11を加振するためのタッピングマシン9とバングマシン10とを取り付ける。受音室内には、受音用のマイク13を配設し、このマイク13に精密騒音計14、周波数分析器15,及びレベルレコーダー16を接続する。
【0050】
軽量床衝撃音の測定に際しては、タッピングマシン9を用い、重量床衝撃音の測定に際しては、バングマシン10を用いる。しかし、図8に示すように加振点18に関しては、浴槽を除いた防水床パンの中央部1点のみとし、受音室17内の任意5点を測定し、JIS A-1419に示す方法で遮音等級を求めた。尚、防水床パンが非常に小さい面積であるため、加振点18は、1点のみとした。
【0051】
実験に供した各試料は、次に示す方法により作製した。
実験例1、2、3、5の各試料は、図2に示す構造を有している。ここで、実験例1においては、緩衝材3をナット2にて固定する際、試験体11の自重のみによって圧縮した(圧縮率を0%とした)。試験例2では圧縮率を10%とした。実験例3では、実験例1に加えて、吸音材であるロックウールを、防水床パンと床基盤との隙間に敷設したものである。
【0052】
実験例4は現行品であり、図1(a)に示す構造としたものである。また、実験例5では圧縮率を20%とした。
【0053】
【表1】

【0054】
次に、この実験例の浴室防音構造の実験結果について説明する。
本発明に係る実験例1、2、3においては、現行品である実験例4に比べて4ランク(20dB)〜5ランク(25dB)も向上し、軽量床衝撃音等級は、いずれもL-55をクリアーしている。また、重量床衝撃音の場合は、何れもRC150mmスラブの特性であるL-55を保持し、軽量床衝撃音を改善した為の重量床衝撃音の阻害はみられていない。
【0055】
実験例5は本発明に対応するものであるが、ナット2による緩衝材3の固定に際し、緩衝材3を極度に圧縮、すなわち20%に圧縮させたもので、実際の施工ではありえないものであるが、凹凸形状を具備していないものは、固定の度合いが分かりにくいためにこの様な状況になるものと想定し、防音性能を確認したものである。
【0056】
本試験に於いて、緩衝材3の形状及びゴム弾性体の硬度を一定としたため、圧縮率が20%以上となると、実験例1、2に比べて防音性能の低下が認められたが、形状の変更及び硬度の増減により最適な圧縮率の確認が必要である。
【0057】
以上詳述したように、本発明によれば、安定し、優れた防音性能を有するとともに、施工時においてボルト脚架台を具備した既存の浴室に装着することが可能であり、施工が容易である点で利用価値が非常に高いものである。また、将来的に発生するリフォームに際しても、各々の部品が分離可能であるため、リユース若しくはリサイクル可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)は、従来品のボルト脚架台の断面構造図であり、(b)は、図1(a)の架台を使用した場合の問題点を説明するための模式図である。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ、本発明の実施例に係る各支持構造を示す断面図である。
【図3】(a)は、取り付け前の緩衝材3を示す断面図であり、(b)は、(a)の緩衝材3をナットによって締めつけた状態を示す断面図である。
【図4】(a)は、取り付け前の緩衝材3Bを示す断面図であり、(b)は、(a)の緩衝材3Bをナットによって締めつけた状態を示す断面図である。
【図5】固定板4の平面形態の一例を示す図である。
【図6】固定板4の平面形態の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例に用いた床衝撃音測定の概略を示す線図である。
【図8】本発明の実施例及び比較例に用いた試験体の概略図及び加振位置を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1:ボルト脚架台 2:ナット 3、3A、3B:緩衝材 3a:緩衝材上面の外側凸部 3b:緩衝材上面の内側凸部 3c:緩衝材下面の凸部 3d 凹部 4:固定版 4a:固定板の貫通孔 4b:固定板の固定穴 5、5A:ワッシャー 6:接着剤 7:床基盤 8:加振室 9:タッピングマシン 10:バングマシン 11:試験体 12:床スラブ 13:マイク 14:精密騒音計 15:周波数分析器 16:レベルレコーダー 17:受音室 18:加振点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床基盤上に浴室床を支持するための支持構造であって、
前記床基盤に固定されており、固定穴が設けられている固定板、前記浴室床に取り付けられており、前記固定穴に挿通されているボルト脚架台、前記ボルト脚架台の頭部と前記固定板との間に設けられているワッシャー、前記ボルト脚に挿通されているナット、および前記ナットと前記固定板との間に介在する緩衝材を備えていることを特徴とする、浴室床の支持構造。
【請求項2】
前記緩衝材が、前記ナットと接触する内側凸部と、前記内側凸部の周りに設けられている凹部と、前記凹部の外側に設けられている外側凸部とを備えていることを特徴とする、請求項1記載の支持構造。
【請求項3】
前記ボルト脚架台の頭部が前記床基盤に接触しない状態で保持されていることを特徴とする、請求項1または2記載の支持構造。
【請求項4】
前記固定穴内で前記ボルト脚架台と前記固定板との間に前記ワッシャーと前記緩衝材との少なくとも一方が介在することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の支持構造。
【請求項5】
前記固定板のうち前記床基盤に接触する部分に貫通孔が形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の支持構造。
【請求項6】
床基盤上に浴室床を支持するための施工方法であって、
固定穴が設けられている固定板を前記床基盤に固定し、前記浴室床への取り付け用のボルト脚架台を前記固定穴に挿通し、この際前記ボルト脚架台の頭部と前記固定板との間にワッシャーを設け、前記固定板上に緩衝材を設置し、この緩衝材上にナットを挿通することを特徴とする、浴室床の施工方法。
【請求項7】
前記緩衝材が、前記ナットと接触する内側凸部と、前記内側凸部の周りに設けられている凹部と、前記凹部の外側に設けられている外側凸部とを備えていることを特徴とする、請求項6記載の施工方法。
【請求項8】
前記固定穴内で前記ボルト脚架台と前記固定板との間に前記ワッシャーと前記緩衝材との少なくとも一方を介在させることを特徴とする、請求項6または7記載の施工方法。
【請求項9】
前記固定板のうち前記床基盤に接触する部分に貫通孔が形成されていることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一つの請求項に記載の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−2483(P2006−2483A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181544(P2004−181544)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】