説明

消化管への刺激性を減少した経口固形組成物

【課題】簡易な製造方法で製造できる消化管刺激性を有する薬物による消化管への刺激を防止した固形組成物の提供。
【解決手段】消化管刺激性薬物および水膨潤性高分子を含有し、水又は含水アルコールで湿式造粒して得られる経口固形組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管への刺激性を有する薬物の刺激性を減少した経口固形組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド抗炎症薬、抗生物質、塩化カリウムなどの医療用医薬品に限らず、精神神経用薬、消化器官用薬、循環器・血液用薬、呼吸器官用薬、泌尿生殖器管および肛門用薬、滋養強壮保健薬、女性用薬、アレルギー用薬、禁煙補助剤、漢方・生薬製剤などの一般用医薬品でも、多少なりとも消化管への刺激性を有する。その刺激性により、医薬品を服用すると、胃部不快感、悪心・嘔吐、食欲不振などの消化器官症状の副作用が出現することが多くある。さらに、非ステロイド抗炎症薬などの消化管への刺激性が特に強い薬物では、胃粘膜の出血や潰瘍が形成されるなどの重篤な消化器官症状の副作用に陥ることもある。そのために、医薬品を継続して服用することが困難になり、疾患の治療が行なえなくなってしまうこともあった。
【0003】
医薬品の消化管への刺激性を減じるために、食事の後に服用するなどの対策が取られているがそれだけでは不十分な場合も多く、同一製剤中に炭酸マグネシウム(特許文献1)、水酸化マグネシウム(特許文献2)、アミノ酢酸(特許文献3)などの制酸剤を共に配合したり、H2ブロッカー(特許文献4)やプロトンポンプ阻害剤(特許文献5)を共に配合したり、臭化チキジウムや臭化ブチルスコポラミンなどの消化管運動亢進作用の抑制剤(特許文献6)を配合したり、あるいは、柴胡桂枝湯エキス(特許文献7)を配合することが提案されている。また、消化管への刺激性を減じる製剤的な工夫としては、腸溶性被膜(特許文献8、9)を施すことで胃への刺激性を防止することが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-198620号公報
【特許文献2】特開2002−255802号公報
【特許文献3】特開2004−123712号公報
【特許文献4】特開平5-246853号公報
【特許文献5】特開2005-145894号公報
【特許文献6】特開2004−2454号公報
【特許文献7】特開平8−208465号公報
【特許文献8】特開平6−293635号公報
【特許文献9】特開平8-109126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、制酸剤など他の医薬成分を共に配合する方法は、配合変化を生じる、効果が不十分な場合がある、コストが高くなってしまう、製剤自体が大きくなり服用し難くなってしまうなどの欠点があり、様々な薬物に適応できる汎用性のあるものではない。また、腸溶性製剤は胃への刺激性を減じることができても、腸溶性の被膜材料自体が高価であるばかりでなく、皮膜をコーティングする製造工程自体のコストが高いなどの欠点があり、さらに、医薬品が溶解して吸収され効果を発揮するまでのラグタイムが大きくなり、服用後直ちに効果を表すような即放性の製剤とすることができない。これらのことから、胃への刺激性を減じるために腸溶性被膜を施し、腸溶性製剤とすることを大部分の一般的な通常の即放性医薬品に適用するのは困難である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、様々な薬物の即放性製剤に適用することができ、簡易な製造方法で安価に製造できる消化管への刺激性を減少した経口固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、消化管への刺激性を有する薬物の消化管刺激を防ぐ方法を種々検討した結果、消化管への刺激性を有する薬物と水膨潤性高分子とを水又は含水アルコールで湿式造粒して得られる経口固形組成物を経口投与すると、予想外にも口腔および咽頭や食道、胃などの上部消化管への刺激性が抑えられることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、消化管刺激性薬物および水膨潤性高分子を含有し、水又は含水アルコールで湿式造粒して得られる経口固形組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経口固形組成物は、消化管刺激性を有する薬物による消化管への刺激を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明品と比較品の溶出率を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において用いられる消化管刺激性薬物とは、経口で服用後に胃痛、胃部不快感、胃部膨満感、腹痛、腹部膨満感、悪心・嘔吐、食欲不振などの消化器官症状の副作用が出現するような薬物である。消化管刺激性薬物としては、例えば一般用医薬品では、かぜ薬(内用)、解熱鎮痛薬、催眠鎮静薬、眠気防止薬、および、ダイオウを含有する小児鎮静薬などの精神神経用薬に分類される薬物; 駆虫薬などの消化器官用薬に分類される薬物; 強心薬、動脈硬化用薬、および、貧血用薬などの循環器・血液用薬に分類される薬物; 鎮咳去痰薬などの呼吸器官用薬に分類される薬物; 内用痔疾用薬などの泌尿生殖器管および肛門用薬に分類される薬物; ビタミンA主薬製剤、ビタミンD主薬製剤、ビタミンE主薬製剤、ビタミンB1主薬製剤、ビタミンB2主薬製剤、ビタミンB6主薬製剤、ビタミンC主薬製剤、ビタミンAD主薬製剤、ビタミンB26主薬製剤、ビタミンEC主薬製剤、ビタミンB1612主薬製剤、ビタミン含有保健薬、タンパク・アミノ酸主薬製剤、および、生薬主薬製剤などの滋養強壮保健薬に分類される薬物; 婦人薬などの女性用薬に分類される薬物; 抗ヒスタミン薬主薬製剤などのアレルギー用薬に分類される薬物、鼻炎用内服薬などの耳鼻科用薬に分類される薬物、禁煙補助剤などの禁煙補助剤に分類される薬物; 茵陳蒿湯、温清飲、温胆湯、応鐘散、乙字湯、葛根紅花湯、葛根湯、葛根湯加川弓辛夷、加味温胆湯、加味逍遙散、桔梗湯、弓帰膠艾湯、弓帰調血飲、弓帰調血飲第一加減、響声破笛丸、駆風解毒散、荊芥連翹湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加意苡仁、荊防敗毒散、甲字湯、五虎湯、牛車腎気丸、五物解毒散、五淋散、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡清肝湯、三黄瀉心湯、三棗仁湯、三物黄か湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、七物降下湯、四物湯、炙甘草湯、鷓鴣菜湯、十全大補湯、潤腸湯、小承気湯、小青竜湯、小青竜湯加石膏、小青竜湯合麻杏甘石湯、消風散、辛夷清風湯、秦几防風湯、神秘湯、清上防風湯、折衝飲、川弓茶調散、千金鶏鳴散、疎経活血散、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、大柴胡湯、治頭瘡一方、調胃承気湯、釣藤散、猪苓湯合四物湯、通導散、桃核承気湯、当帰飲子、当帰散、当帰芍薬散、独活葛根湯、独活湯、女神散、人参養栄湯、排膿散、排膿湯、麦門冬湯、八味地黄丸、白虎加桂枝湯、白虎加人参湯、白虎湯、防已黄耆湯、防風通聖散、麻杏甘石湯、麻杏意甘湯、麻子仁丸、意苡仁湯、竜胆瀉肝湯、六味丸などの漢方・生薬製剤に分類される薬物が挙げられる。これらは、服用後、消化器官症状の副作用が出現することが知られているため、消化管刺激性薬物であり、本発明を適用するのに好ましい薬物である。
【0012】
医療用医薬品では、内用薬で、中枢神経系用薬、末梢神経用薬、感覚器官用薬など神経系及び感覚器官用薬に分類される薬物、循環器官用薬、呼吸器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、泌尿生殖器および肛門用薬などの個々の器官系用医薬品に分類される薬物、ビタミン剤、滋養強壮薬などの代謝性医薬品に分類される薬物、細胞賦活用薬、腫瘍用薬、アレルギー用薬などの組織細胞機能用医薬品に分類される薬物、生薬、漢方製剤など生薬および漢方処方に基づく医薬品に分類される薬物、抗生物質製剤、化学療法剤、寄生動物用薬など病原生物に対する医薬品に分類される薬物に消化器官症状の副作用が出現することが知られているため、これらに分類される薬物は消化管刺激性薬物であり、本発明を適用するのに好ましい薬物である。
【0013】
これらの中でも、非ステロイド抗炎症薬は、プロスタグラジン合成阻害作用という抗炎症作用の作用機序による消化管障害に加えて、直接的な消化管粘膜刺激作用が強いため、消化管刺激性が特に非常に強く、本発明の効果を多くの患者が得られる薬物という点で、本発明に好ましい薬物である。このような非ステロイド抗炎症薬の具体的な薬物名としては、アセトアミノフェン、フェナセチン、フルフェナム酸アルミニウム、メフェナム酸、アスピリン、エテンザミド、サリチルアミド、サリチル酸ナトリウム、イソプロピルアンチピリン、スルピリン、ミグレニン、アセメタシン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、マレイン酸プログルメタシン、アンフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、アクタリット、アルミノプロフェン、アンピロキシカム、イブプロフェン、エトドラク、塩酸ペンタゾシン、オキサプロジン、ケトプロフェン、ザルトプロフェン、スリンダク、チアプロフェン、テノキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、ピロキシカム、ブコローム、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、メシル酸ジメトキアジン、メロキシカム、モフェゾラク、ロキソプロフェンナトリウム、ロンザリット二ナトリウム、ロルノキカム等が挙げられる。
【0014】
また、強心剤、気管支拡張剤、眠気防止剤であるカフェイン系薬物、および、キサンチン系薬物は、直接的な消化管粘膜刺激作用が強く、これらは、強心剤、気管支拡張剤、眠気防止剤をはじめとして、解熱鎮痛剤、鼻炎用剤、総合感冒剤、鎮咳去痰剤、鎮暈剤、強心剤、総合ビタミン剤、滋養強壮剤など様々な治療分野の薬剤に配合され、服用される頻度が非常に高く、本発明の効果を多くの患者が得られる薬物という点で、本発明に好ましい薬物である。このようなカフェイン系薬物、および、キサンチン系薬物としては、カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン、アミノフィリン、コリンテオフィリン、テオフィリン、プロキシフィリンなどを挙げることができる。
【0015】
さらに、抗ヒスタミン薬は、鎮咳去痰剤、総合感冒剤、鎮暈剤、催眠鎮静薬、アレルギー用薬、鼻炎用剤などに広く応用されて服用される頻度が高いが、局所麻酔作用や粘膜刺激作用が強く、直接的な消化管刺激性が非常に強いものがあり、かつ抗ヒスタミン薬は配合される頻度が非常に高く、本発明の効果を多くの患者が得られやすい薬物という点で、本発明に好ましい薬物である。このような抗ヒスタミン薬の中でも特に消化管刺激性が非常に強いものとしては、塩酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、コハク酸ドキシラミン、フマル酸クレマスチン、酒石酸アリメマジン、塩酸プロメタジン、ヒベンズ酸プロメタジン、メキタジン、メチレンジサリチル酸プロメタジンなどを挙げることができる。
本発明に用いる消化管刺激性薬物としては、イブプロフェン、アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、サリチルアミド、塩酸ジフェンヒドラミン、安息香酸ナトリウムカフェイン、無水カフェイン、カフェインが特に好ましい。
【0016】
本発明の固形組成物において、消化管刺激性薬物は、80質量%以下含有させることが好ましく、さらに70質量%以下、特に0.01〜60質量%含有させることが好ましい。
【0017】
本発明において水膨潤性高分子とは、水又は含水アルコールを添加したときに膨潤し多量の水又は含水アルコールを保持して膨潤することができ、かつ、水に溶解しないで不溶性の性質を有する物質を言う。また、本発明における水膨潤性高分子は、粘膜等に付着性を有しないものが好ましい。本発明に用いる水膨潤性高分子としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を混合して用いてよい。本発明において好ましい水膨潤性高分子としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロースから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。より好ましい水膨潤性高分子としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを挙げることができ、これを水膨潤性高分子全体の40質量%以上使用することが望ましく、特に60質量%以上使用することが好ましい。
【0018】
水膨潤性高分子として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合は、消化管刺激性薬物の刺激抑制効果及び経口固形組成物に加工しやすいという製造性の面からヒドロキシプロポキシ基が5.0〜16.0質量%であるものが好ましく、さらに6.0〜14.0質量%であるものが好ましく、特に7.0〜13.0質量%であるものが好ましい。このような低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしては、信越化学(株)製、LH−31(ヒドロキシプロポキシ基10.0〜12.9質量%)、LH−32(ヒドロキシプロポキシ基7.0〜9.9質量%)が挙げられる。さらに、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの平均粒径はおよそ60μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましく、4〜25μmがさらに好ましい。
【0019】
本発明の経口固形組成物において、消化管刺激性薬物の刺激抑制効果及び薬物の溶出性の点から水膨潤性高分子は、20質量%以上含有させることが好ましく、30質量%以上含有させることがさらに好ましく、40〜99.99質量%含有させることが特に好ましい。
【0020】
本発明の経口固形組成物では、消化管刺激性薬物の刺激抑制効果の点から、水膨潤性高分子は消化管刺激性薬物1質量部に対し、0.2質量部以上配合することが好ましく、0.4質量部以上とすることがさらに好ましく、特に0.8〜10000質量部とすることが好ましい。
【0021】
本発明の経口固形組成物には、消化管刺激性薬物と水膨潤性高分子の他に他の薬理活性成分や通常に医薬品や食品に使用される成分を適宜その目的に応じて配合しても良い。例えば、他の薬理活性成分としては、健胃薬、制酸薬、消化薬、抗潰瘍薬、整腸薬などに用いる薬理活性成分が挙げられる。また、医薬品や食品に使用される成分としては、賦形剤(希釈剤)、結合剤、崩壊剤、甘味剤、着色剤、香料等が挙げられる。例えば、賦形剤としては、乳糖、精製白糖、ブドウ糖、トレハロース等の糖類、D−マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストリン、アルファー化デンプン等が挙げられる。崩壊剤としては、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン等のデンプン類等が挙げられる。甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、カンゾウ抽出物、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物が挙げられる。着色剤としては二酸化チタン、天然の食用色素、食品、薬品の用途に適する染料等が挙げられる。
【0022】
本発明の経口固形組成物は、消化管刺激性薬物と水膨潤性高分子を混合した混合末を、練合液で湿式造粒することによって、消化管刺激性薬物の刺激を抑制する効果が発揮される。従って、消化管刺激性薬物と水膨潤性高分子を単に混合した組成物や消化管刺激性薬物と水膨潤性高分子を乾式造粒した場合には薬物の消化管への刺激性を抑制する十分な効果は得られない。本発明で使用する練合液としては、水または含水アルコールであるが、本発明の組成物を製造するときは、水または50質量%以下の含水アルコールを用いることが好ましく、水または25質量%以下の含水アルコールを用いることがさらに好ましく、水または15質量%以下の含水アルコールを用いることがさらにより好ましい。また、本発明で用いる含水アルコール中のアルコールとしては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール等の医薬品又はその製造に用いることができるアルコールが挙げられ、経口投与製剤とする場合はエチルアルコールを用いることが好ましい。練合液の添加量は、水膨潤性高分子に対し、1〜10質量倍とすることが好ましく、2〜5質量倍とすることが特に好ましい。
【0023】
本発明の経口固形組成物を製する際の湿式造粒としては、攪拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒等の通常に医薬品や食品などの分野で使用される湿式造粒法であれば特に限定されないが、好ましくは、攪拌造粒法及び押し出し造粒法である。
【0024】
本発明の経口固形組成物は、例えば次の如くして製造することができる。まず、消化管刺激性薬物と水膨潤性高分子そして必要に応じて他の添加物を加え、攪拌型混合機、例えばバーチカルグラニュレーター(パウレック(株)製)等の混合機で混合後、精製水又は50重量%以下の含水アルコールを水膨潤性高分子の1倍から5倍程度を徐々に加え練合し水膨潤性高分子を膨潤状態とする。この練合物を押し出し造粒機、例えばファインリューザー(不二パウダル(株)製)押し出し造粒機にて造粒し湿潤顆粒状組成物を製し、箱形乾燥機又は流動層造粒乾燥機にて乾燥する。また、篩を用いて目的の粒度の顆粒とすることもでき、更に、押し出し造粒後、マルメライザー(不二パウダル(株)製)にて球形処理を施したのち、箱形乾燥機又は流動層乾燥機にて乾燥し、最後に篩を用いて目的の粒度の球形顆粒を製造することもできる。
【0025】
また、上記練合物を、直ちに箱形乾燥機又は流動層造粒乾燥機にて乾燥し、最後に篩を用いて目的の粒度の顆粒とすることもできる。顆粒の粒度調節は、水又は含水アルコールの量を調節するか、押し出し造粒時のスクリーン径を0.3〜1.2mmの範囲で変えることにより散剤や細粒剤そして顆粒剤を得ることができる。得られた顆粒剤に、更に服用感や薬物の安定性等を考慮して糖類や高分子等でコーティングを行なっても良い。
【0026】
本発明において、湿式造粒して得られた顆粒の平均粒径は、粒子径を篩分け法で測定した場合、25μm以上であることが好ましく、さらに50〜1500μmが好ましく、100〜1000μmがよりさらに好ましい。
【0027】
このようにして製造された経口固形組成物は、顆粒状の形状を有し、消化管刺激性薬物の直接的な消化管への刺激性が抑制され、さらに流動性が良好なため、経口固形組成物の顆粒をそのままで散剤、細粒剤、顆粒剤等として使用できるが、硬カプセルやソフトカプセルに充填してカプセル剤として使用してもよく、固形組成物の顆粒を打錠して錠剤として使用しても良い。さらに、これらのカプセル剤や錠剤を糖類や高分子等でコーティングを行なっても良い。これらの製剤を調製するにあたっては、通常医薬品や食品に使用される製剤添加物を、安定剤、安定化剤、界面活性剤、可塑剤、滑沢化剤、滑沢剤、還元剤、甘味剤、稀釈剤、吸着剤、矯味剤、結合剤、抗酸化剤、光沢化剤、コーティング剤、香料、剤皮、充填剤、消泡剤、清涼化剤、咀嚼剤、着色剤、着香剤、糖衣剤、発泡剤、賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、崩壊延長剤、芳香剤、防湿剤、防腐剤、保存剤、流動化剤、帯電防止剤、増量剤、調味料、酸味料、甘味料、着色料・発色剤、着香料、強化剤、膨張剤、防腐剤、保存料・防かび剤、酸化防止剤・漂白剤、増粘安定剤、苦味料、酵素、光沢剤、製造用剤等として適時配合しても良い。また、このようにして製造された本発明の経口固形組成物およびそれを含有する製剤は、消化管刺激性が防止され、安全性が向上した製剤を提供することが可能になる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例及び試験例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
実施例1
消化管刺激性薬物としてイブプロフェン(BASF ジャパン(株)製)900g、および、水膨潤性高分子として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC:LH−31(ヒドロキシプロポキシ基10.0〜12.9質量%):信越化学(株)製)1500gをバーチカルグラニュレーターVG−25(パウレック(株))で混合後、精製水4537gを添加し練合した後、ツインドームグランTDG−80(不二パウダル(株)製)0.6mmスクリーンで押し出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形化処理を施した後、流動層乾燥装置FLO−5A/2(フロイント産業(株)製)にて乾燥し、平均粒径約500mの顆粒剤として実施例1の製剤を得た。
【0030】
比較例1
イブプロフェン(BASFジャパン(株)製)45g、および、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC:LH−31:信越化学(株)製)75gを均一に混合し、比較例1の製剤を得た。
【0031】
試験例1
実施例1の本発明の製剤と比較例1の比較製剤の溶出を日本薬局方第15改正・溶出試験法に準じて行なった。試験液は第二液(pH6.8緩衝液)を用い、パドル法50r.p.mにて溶出試験を行ない、溶出液中のイブプロフェン濃度を高速液体クロマトグラフで測定し、溶出速度を算出し、その結果を図1に示した。
本発明の製剤は、原末を分散した比較例1の製剤とイブプロフェンの溶出はほぼ変わらず、イブプロフェンが速やかに溶出され、即放性製剤の溶出特性を示すことがわかる。
【0032】
試験例2
ラットによる胃粘膜刺激性試験:
試験方法:SD系雄性ラット(日本チャールス・リバー(株)より購入)を1週間の予備飼育を施した。一群10匹の試験薬剤投与前に24時間絶食した動物(210〜230g)に、イブプロフェンとして10mg/kgを経口投与した。4時間後、頭部殴打および頚動脈放血により動物を致死させ胃を摘出した。1%ホルマリン液10mLを胃内に注入し、同液中で軽度に固定した。胃を大弯に沿って切開し、実体顕微鏡下(10倍)で潰瘍の有無を観察し潰瘍発現率を求め、発生した潰瘍の長さ(mm)を測定加算し、1匹当たりの潰瘍係数とした。
結果:表1に示したように、本発明の実施例1の製剤は潰瘍の発現がなかったのに対し、比較例1の製剤では、40%の各薬剤の潰瘍発現率があり、潰瘍係数も0.9±0.4mm(平均±標準偏差)であった。このことから、本発明の製剤は、イブプロフェンによる消化管への刺激性を低減し、潰瘍の発生を抑制したことが示唆された。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2
消化管刺激性薬物として塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株)製)80g、および、水膨潤性高分子として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC:LH−31:信越化学(株)製)720gをバーチカルグラニュレーターVG−10(パウレック(株))で混合後、15%エタノール/精製水2026gを添加し練合した後、ツインドームグランTDG−80(不二パウダル(株)製)0.6mmスクリーンで押し出し造粒し、流動層乾燥装置FLO−5A/2(フロイント産業(株)製)にて乾燥し、平均粒径約500μmの顆粒剤を得た。
【0035】
実施例3
消化管刺激性薬物としてカフェイン(静岡カフェイン工業(株)製)400gと硝酸チアミン(BASFジャパン(株)製)20g、および、水膨潤性高分子として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC:LH−31:信越化学(株)製)380gをバーチカルグラニュレーターVG−10(パウレック(株))で混合後、精製水1053gを添加し練合した後、ツインドームグランTDG−80(不二パウダル(株)製)1.0mmスクリーンで押し出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形化処理を施した後、流動層乾燥装置FLO−5A/2(フロイント産業(株)製)にて乾燥し、平均粒径約800μmの球形顆粒を調製し、この顆粒を1カプセルあたり200mgとなるように硬カプセルに充填してカプセル剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
消化管刺激性薬物を含有する本発明の経口固形組成物は、消化管刺激性を有する薬物による消化管への刺激を防止することができ、さらに様々な消化管刺激性薬物に適応させることができる。さらに、本発明の経口固形組成物は、腸溶性製剤のように溶出が遅れることがない為、様々な薬物の即放性製剤に適用することができる。また、この経口固形組成物は、顆粒状の形状を有し、流動性が良好なため、経口固形組成物の顆粒をそのままで散剤、細粒剤、顆粒剤等とすることができるだけでなく、カプセル剤や錠剤としても加工しやすく、医薬品、食品などに広く適用できるものである。そのうえ、本発明の経口固形組成物は、簡易な製造方法で安価に製造できるだけでなく、消化管への刺激性が減少するため、ひいては、多くの患者の胃部不快感、悪心・嘔吐、食欲不振などの消化器官症状の副作用を減らすことができ、薬物療法による治療効果の恩恵を多くの患者が受けることのできる製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管刺激性薬物および水膨潤性高分子を含有し、水又は含水アルコールで湿式造粒して得られる、該薬物の消化管への刺激性を減少した経口固形組成物。
【請求項2】
消化管刺激性薬物1質量部に対し、水膨潤性高分子を0.8〜10000質量部含有する請求項1記載の経口固形組成物。
【請求項3】
水膨潤性高分子が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース及び結晶セルロースから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の経口固形組成物。
【請求項4】
消化管刺激性薬物が、イブプロフェン、アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、サリチルアミド、塩酸ジフェンヒドラミン、安息香酸ナトリウムカフェイン、無水カフェイン及びカフェインから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の経口固形組成物。
【請求項5】
湿式造粒して得られる顆粒の平均粒径が100〜1000μmである請求項1〜4のいずれか1項記載の経口固形組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207038(P2012−207038A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161459(P2012−161459)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2006−321343(P2006−321343)の分割
【原出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【Fターム(参考)】