説明

液体ジェット式筆記具

液体噴射ヘッド(41)と、噴射ヘッドを作動させる役目をもつ処理装置(6)を備えた筆記具。該筆記具は更に、噴射ヘッドと媒体(8)との間の距離を測定するための測定手段(12)と、動き検出手段とを有しており、少なくとも噴射ヘッドと媒体との間の距離が所定の最大値未満であると測定手段が判断した場合に、処理装置が液体噴射ヘッドを作動させるように構成される。該処理装置はまた、動き検出手段によって検出される運動に応じて噴射ヘッドの作動を管理するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクのような液体のジェットを噴射する筆記具に関する。
【0002】
より詳細には、そのような筆記具の中でも、本発明は、第1の端部と第2の端部に亘って直線的に延びる、ほぼ管状の部材であって、使用者が手で把持するように設計された管状部材を備えたものに関する。該管状部材は、
液体を入れる容器と、
液体噴射システムであって、液体の容器に接続された液体噴射ヘッドを備え、該噴射ヘッドが、離間された媒体上に液体を噴射するように設計されている液体噴射システムと、
処理装置であって、噴射ヘッドが、離間された媒体上に液体を噴射できるように、液体噴射システムを作動させる働きをもつ処理装置と、を含む。
【背景技術】
【0003】
この種の既知の筆記具において、管状部材には一般に触覚器(feeler)が設けられており、筆記中に媒体に接触するように働く第1の端部と、媒体との接触中に触覚器の動きを検出するための検出機構に接続された第2の端部を有する。その検出機構は、液体噴射システムが作動できるように処理装置に接続される。したがって、使用者がその手に筆記具を把持し、そして当該使用者が筆記具を媒体の方へと動かす時に、触覚器は媒体の表面に接触する。それによって、検出機構は、液体噴射を作動させるように処理装置に信号を送ることができる。
【0004】
したがって、筆記ヘッド、すなわち液体噴射ヘッドについては、もはや媒体と接触している必要はないが、液体噴射を開始させるためには、筆記具の触覚器が媒体と接触していることが必須である。しかしながら、媒体上への液体の噴射は、触覚器が媒体と接触しているか否かにのみ関連し、そして液体の噴射は、触覚器が媒体に接触している限り、一定であって、かつ予め決められた流量に設定される。よって、筆記具が媒体上を速く移動する場合に、液体の噴射は、連続した線を適切に書くために不十分となってしまうことがある。同様に、使用者が筆記具をゆっくりと動かす場合に、多量の液体が噴射されてしまい、適正な線を書くことが妨げられる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、信頼性があってかつ簡単であり、そして使用者に良好な書き心地を与える筆記具を提案することによって、上述の技術的な問題を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明は、前記した管状部材がさらに次の手段を含むことを特徴とする筆記具を提供するものである。
噴射ヘッドと媒体との間の距離を監視するための監視手段であって、処理装置に接続されている監視手段と、
噴射ヘッドの運動を検出するための動き検出手段であって、処理装置に接続されている動き検出手段。
ここで、噴射ヘッドと媒体の間の距離が適正であると、少なくとも監視手段が判断した場合に、液体噴射システムを作動させるように処理装置が構成されており、そして、
処理装置は、動き検出手段によって検出された運動の関数として、液体噴射システムを作動させるための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を変化させるように構成される。
【0007】
このような構成によって、上記筆記具の使用者は、器具を媒体から適正な距離に移動させるだけでインク噴射を作動させ、その際には、液体噴射システムを作動させるための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を変えるために、筆記具によって検出される運動が器具に伝えられる。このような液体噴射の作動については、使用者がその手及び筆記具を静止状態に保つことによって停止させ、あるいは筆記具を動かすこと、すなわち、より正確には媒体から液体噴射ヘッドが離れるように移動させることによっても停止させることができる。したがって、この筆記具では、現在、ボールペンやフェルトペンのような従来の筆記具で今も経験している筆記条件に近い良好な条件でもって、上記器具の運動速度に応じて制御される方法で液体を噴射させることができる。
【0008】
本発明の好ましい実施形態において、さらに以下に示す事項の1つ以上が用いられる。
・監視手段は、噴射ヘッドと媒体との間の距離を測定する測定手段によって形成され、そして、処理装置は、第1に、噴射ヘッドと媒体の間の距離が予め決められた最大値未満であると測定手段が判断し、そして第2に、動き検出手段が運動を検出した場合に、液体噴射システムを作動するように構成される。
・測定手段は、噴射ヘッドと媒体との間の距離を、筆記具と媒体とが物理的に接触することなく測定するように構成される。
・処理装置は、第1に、噴射ヘッドと媒体との間の距離が予め決められた最小値及び前記予め決められた最大値によって定義された範囲内にあることを測定手段が判断し、そして第2に、動き検出手段が運動を検出した場合に、液体噴射システムを作動させるように構成される。
・測定手段は、噴射ヘッドと媒体との間の距離を測定するように働く光学システムを備える。
・動き検出手段は、加速度計によって形成される。
・動き検出手段は、光学システムと、該光学システムによって得られる測定値の関数として、媒体に対する噴射ヘッドの運動を決定する処理装置とによって形成される。
・測定手段は、噴射ヘッドと媒体との間の距離を測定するように働く超音波音響プローブを備える。
・監視手段は、噴射ヘッドと、液体が噴射される媒体上の位置との間の距離を測定するように構成された光学システムによって形成される。
・動き検出手段は、光学システム及び処理装置によって形成され、該処理装置は、光学システムが媒体上の液体の存在を検出する場合に(このことは、媒体に対する筆記システムの運動速度の減少を表わす。)、噴射システムを作動するための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を減少させるように構成される。
・管状部材はさらに、電源及び該電源に接続されたスイッチ手段を含み、該スイッチ手段は、液体噴射システム、処理装置、監視手段、及び加速度計を作動させるために使用者によって操作可能とされる。
・管状部材はさらに、媒体上に噴射される液体の弾着点を示すために、媒体上に可視光スポットを発するための発光手段を含む。
・液体噴射ヘッドは、液体の液滴を噴射するための1つ以上のノズルを含み、そして噴射システムはさらに、噴射ヘッドの1つ以上のノズルを作動させるための電気信号を発生させる電気信号発生器を備える。
・処理装置は、第1に、噴射ヘッドと媒体との間の距離が予め決められた最大値未満であると測定手段が判断し、そして第2に、動き検出手段が予め決められた期間内に管状部材のいかなる運動も検出しない場合に、使用者に警告信号を発する働きをもつ通信手段を作動させるように構成される。
・液体噴射システムが第1の期間内に作動されなかった場合に、処理装置は、第2の期間内に、警告信号を発信する働きをもつ通信手段を作動させるように構成され、そして、その後に、噴射ヘッドと媒体との間の距離が、予め決められた最大値未満であると測定手段が再び判断し、そして動き検出手段が管状部材の運動を再び検出した場合に、液体噴射システムを作動させるように構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の他の特徴及び利点は、限定的でない例及び添付の図によって与えられる以下の本発明の実施例の説明から明らかになる。
【0010】
尚、種々の図で、同様の参照符号は、同一又は類似の構成要素を示している。
【0011】
図1は、第1の端部2aと第2の端部2bとに亘って延びる、ほぼ管状の部材2を含む筆記具を示している。この管状部材2は、中空の内部空間を画定する内壁21と、使用者が手で把持するように設計された外壁22を有する。
【0012】
管状部材2の内壁21によって画定される中空の内部空間は、液体の容器3と、液体を噴射するための噴射システム4とを含んでおり、該噴射システムが容器3と直接的に関連している。液体の容器3は、管状部材2内の中空の内部空間において取り外し可能な状態で取り付けられており、これは液体を使い切った後で別の容器に置き換えられるようにするためである。器具の使用方法によっては、当該容器に入れられる液体がインクからなることもあり、また器具が修正器具として使用される場合には、インク消去用液体又はインクマスキング液体であり、あるいは器具が接着剤の塗布器又は噴射器として使用される場合には、接着剤からなることもある。噴射システム4は、通路31を通して液体の容器3と直接的に接続された液体噴射ヘッド41と、該噴射ヘッド41の作動及び作動解除を制御するように設計された電気信号発生器42によって形成される。
【0013】
本例では、噴射ヘッド41が、管状部材2の端部2aに位置された噴射ノズル43を含む、圧電性噴射ヘッドである。管状部材2の端部2aは、管状部材2の中央部の内壁21上で当該中央部に直接嵌合されたエンドピース(末端部)により構成することができる。構成することができる。該エンドピ−ス2aは、噴射ヘッド41のノズル43がその内部に配置された端部開口を提供する。噴射ノズル43については、これをエンドピ−ス2aに固定する方法、あるいは、前記ノズルをエンドピース内に収納できるように適正な機構を用いて格納式で取り付けることができ、それによって、筆記具が使用されない間に前記ノズルが損傷する危険を回避できる。よく知られているように、噴射ヘッド41は、発生器42からの電気信号にしたがって変形するように構成された圧電性素子を含み、それによって、媒体8上に噴射される微小液滴7が噴射ノズル43で形成される。
【0014】
液体噴射システム4はまた、例えば、ガラス製の基板を用いて形成することができ、その上には1つ以上の抵抗性発熱素子が取り付けられ、容器3からの少量のインクを含む1以上の、小型通路に置かれる。したがって、電気信号が抵抗性素子上で発生器42によって発生される時、該抵抗性素子上の温度が瞬時に上昇し、それによってインク中に蒸気の泡を形成して、その泡が媒体8上へと液体の微細な液滴7を発射させる。
【0015】
また、筆記具は、発生器42を作動させるように設計された処理装置6を含んでおり、該発生器は、噴射システムの噴射ノズル43が、離間された媒体8上に液滴7を噴射できるように電気信号(又は、電気パルス)を発生させるものである。筆記具の端部2bにおいて、管状部材2の中空の内部空間には、例えば、1つのバッテリーか又はさらに2つのバッテリーによって形成される電源、充電可能とされる電源又はその他の電源を含んでおり、スイッチ11を用いて、筆記具を構成する種々の電気的要素に電源を投入することができる。該スイッチ11については、器具の使用者がこれを操作するために好適な如何なるスイッチ手段で置き換えることができる。特に、使用者が管状部材2を把持したことを常に検出するための検出手段で上記スイッチを置き換えることができ、例えば、管状部材2の外壁22に配置され、かつ使用者が器具を把持したときの圧力を常に検出するように設計された静電容量式センサーが挙げられる。
【0016】
管状部材2の端部2bは、例えば、2つの消耗したバッテリー10を新しいバッテリーで置き換えることができるように、管状部材2の中央部に取り外し可能な状態で取り付けられたキャップの形態であっても構わない。
【0017】
その端部2aにおいて、管状部材2はまた、噴射ヘッド41と媒体8との間の距離を監視するための監視手段12を含む。該監視手段12は、処理装置6にそれ自体接続された検出器に接続された触覚器によって形成できる。本例では、噴射ヘッド41と媒体8との間の距離を測定するために、筆記具と媒体8との間のいかなる物理的接触もなしに働く測定手段12によって、監視手段が形成される。より正確には、測定手段12が、噴射ノズル43と媒体8との間の距離を測定するように構成されている。
【0018】
本実施例において、測定手段12は、光学システム13を用いて構成され、該光学システムは、例えば、媒体8上の光スポット及び反射光ビームFRを形成するように、媒体8に向けて入射光ビームFIを送出する赤外線発光ダイオード(LED)13aを用いて構成される。そして光ビームは、媒体8に対する入射ビームFIの傾斜角を計算するためにフォトダイオード13bによって解析される。
【0019】
フォトダイオード13bと赤外線LED13aとの間の距離は既知であり、そして入射光ビームFIの傾斜角が計算されると、簡単な三角法の関係が成立し、これは赤外線LEDと媒体8の間の距離を計算するために十分とされる。尚、該フォトダイオードについては、商標「HAMAMATSU」で販売されているフォトダイオードS6560で構成することができる。
【0020】
他の各種実施例において、光学システム13はまた、円錐形の光ビームを発生するための発光手段を含み、該ビームの対称軸が、管状部材2の長手方向の軸と一致する。そして、光学システムは、媒体8上に円錐形ビームによって形成された光スポットの半径を計算するように構成されたセンサーを含む。この光スポットの半径は、媒体8と円錐形ビームを発する発光手段との距離に比例するので、それから線形的な方法で、発光手段と媒体との間の距離を決定することが可能である。同様に、円錐形ビームの対称軸が、媒体に対して傾斜している場合には、媒体上に形成される光スポットが、もはや円形でなく楕円形であり、よって、センサーはまた、媒体と、円錐形ビームを発するための発光手段との間の距離を決定するために、楕円スポットの短軸の長さを測定するように構成される。その場合に筆記具の傾斜には関係なく、楕円スポットの短軸の長さが発光手段と媒体との間の距離のみに比例し、楕円スポットの長軸の長さのみが円錐形ビームの傾斜に比例する。
【0021】
別の実施例において、測定手段12はまた、超音波音響プローブによって形成することができる。その場合に、ノズル43と媒体8との間で測定される距離は、媒体8に対する筆記具の傾斜と独立に、該ノズル43と媒体8との間の最短距離に対応する。
【0022】
図1及び図2を参照すれば分かるように、測定手段12を形成する光学システム13は処理装置6に対して直接的に接続されており、該装置は、光学システム13によって得られる測定値をメモリー内に保存する。また該処理装置は、光学システム13が決められた時間間隔をもって繰り返し測定動作を行うように構成される。例えば、その時間間隔は1ミリ秒(ms)乃至0.1秒(s)の範囲内とされる。
【0023】
また、管状部材2は、図1及び図2に示した本発明の第1の実施例において、加速度計によって形成される動き検出手段を含む。該加速度計14は処理装置に対して直接的に接続されており、それは前記管状部材内の如何なる場所にも配置することができる。一例として、加速度計は、使用者が筆記具を使用している間、最大の振幅をもつ運動状態となるように、管状部材の端部2bに配置される。
【0024】
筆記具の動作を、これから図1及び図2を参照して説明する。
【0025】
使用者が媒体2への筆記のために筆記具1を使用したい時に、使用者は最初にスイッチ11を操作して前記筆記具における種々の電気的要素に電源を投入する。
【0026】
次に、使用者は媒体8に向けて筆記具の端部を動かし、それにより、光学システム13によって構成された測定手段が、自動的に、かつ媒体8と物理的な接触なしに作動して、噴射ノズル43と媒体8との間の距離を計算する。同様に、媒体8に向けて移動している筆記具が加速度計14によって検出されて、該加速度計が処理装置6に検出信号を直接送る。
【0027】
前記処理装置6は、液体噴射システム4を作動させて、それによって液滴7を媒体8の上に噴射させるように構成されているが、これは、加速度計14が筆記具の動きを検出した場合であって、かつ、光学システム13で形成された測定手段12により、噴射ノズル43と媒体8との間の距離が予め決められた最大値未満であると判断された場合にのみ行われる。
【0028】
例えば、前記予め決められた最大値は、約1センチメートル(cm)とされる。
【0029】
したがって、ノズル43と媒体8との間の距離が予め決められた最大値より大きいと測定手段12が判断し、そして加速度計が筆記具の動きを検出した場合には、処理装置6が噴射システムを作動せず、よって液滴は媒体8上に噴射されない。
【0030】
同様に、筆記具が動いていない場合には、たとえノズル43が媒体から適正な位置にあったとしても、すなわち、予め決められた最大値未満である距離にあったとしても、処理装置6によって液滴が噴射されることはない。
【0031】
このようにして加速度計は、使用者が筆記具に与える運動に応じて、加速及び減速を含めた全ての測定値をリアルタイムで処理装置6に送出する。加速度計によって得られた測定値に応じて、処理装置6は、液体噴射ヘッド41に直接送られる電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を変化させるように、電気信号発生器42を制御することができ、これによって液滴7の大きさ又は媒体8上への液滴7の噴射頻度、あるいはその両方が変化する。
【0032】
一例として、筆記具を使用している間に、使用者が筆記具を素早く動かした場合、加速度計が処理装置に対して加速度の測定値を送り、それによって該処理装置6は液滴7の噴射頻度が増加するように電気信号の周波数を増加させる。こうして、各種間隔を持った、一連の液滴からなるパターンや不連続線が形成されないように回避することにより、できるだけ連続的な1本の線が媒体8の上に形成される。
【0033】
これとは逆に、加速度計が減速度を測定した場合、処理装置6は、液滴7の噴射頻度を減少させるように、電気信号の周波数を比例的に減少させることができる。液滴7の噴射頻度をそのように減少させることによって、筆記具を低速度で移動させる時に、パターンを形成するための液体が多量に出てしまうことがないように回避できる。
【0034】
図3に示す本発明の第2の実施例では、動き検出手段が、光学システム13と、そして光学システム13によって得られる測定値の関数として、媒体8に対する噴射ヘッド41の運動の速度又は速度範囲を決定する処理装置6とによって形成される。
【0035】
より詳細には、第2の実施例において、光学システム13はまた、赤外線LED13aを含むことができ、赤外線LED13aが、例えば、他の光源との干渉の可能性を低減させるためにモジュレータ(変調器)50によって変調される。このように、赤外線LED13aは、媒体8に向けて入射光ビームFIを発するが、これは、媒体上の光スポット、及びその後にフォトダイオード13bによって解析される反射光ビームFRを形成するためである。この目的のために、反射光ビームFR、すなわち反射信号は、フォトダイオードを使用することによって検出されて測定され、これにより、測定値の信頼性を高めるために、干渉の影響を排除することが可能になる。
【0036】
したがって、この第2の実施例では、噴射ヘッド41と媒体8の間の距離の推定値と、そしてまた媒体8に対する噴射ヘッド41の運動速度の推定値との両方を伝えるために、制御ユニット(処理装置)6と協働して光学システム13を使用することが提案される。この場合、光学システム13、より正確には、赤外線LED13a及びこれに対応するフォトダイオード13bが噴射ヘッド41に配置される。すなわち、光学システムを用いて、液体の液滴が付着するゾーンに比較的近い媒体8の小さなゾーンを見る、つまり該ゾーンを観測することができるように、LED13a及びフォトダイオード13bが噴射ヘッド41に配置され、このゾーンは、液体の液滴7が付着する前記ゾーン上に正確に重なることがないように配置される。本システムは、光学システム13によって観測される媒体上のゾーンが比較的小さいことを要求するものであり、そのためにはレンズシステムを利用することが有利となるが、これは、筆記具が媒体8に対して移動する際の速度に関係する反射信号成分を保つように、出来るだけ小さいゾーンに様々な反射光ビームの焦点を合わせるためである。
【0037】
例えば、赤外線LED13aについては、使用するパワーを節減し、そしてできるだけ効果的に背景ノイズをフィルターで除去するために変調される。典型的な変調周波数は、例えば、25キロヘルツ(kHz)から30kHzの範囲とされるか、又はさらに高くすることができるが、例えば、テレビジョン受像機のための赤外線遠隔制御システムによく使用される周波数帯である、38kHzと40kHzの間の帯域を避けるようにする。
【0038】
図3から分かるように、フォトダイオード13bは、媒体8の表面から直接反射される信号を検出し、そして該信号は、交流(AC)モードで接続された前置増幅器23で増幅される。この前置増幅器23は、不要な信号を除去できるように、赤外線変調周波数の周りに集中した通過帯域の周波数応答を持つ。実施においては、AC結合とされた複数段の増幅が必要である。但し、種々のAC結合ステージは、デモジュレータ(復調器)24の後段に配置され、該デモジュレータが前置増幅器23の直後に配置される。
【0039】
前置増幅器23によって得られるAC信号は、その後、デモジュレータ24によって復調される。尚、検出信号の周波数応答の関数として、充電及び放電の時定数を変えるために、追加的な抵抗性要素を付加することもできる。
【0040】
その後、復調AC信号は、ローパスフィルター25に送られるが、これは光学システム13と媒体8との間の距離を示す復調信号の振幅を決定するためである。ローパスフィルターは、信号を幾分滑らかにすることによって、不要なノイズを減少させる。例えば、50ヘルツ(Hz)から100Hzの範囲にある上限遮断周波数が、ローパスフィルターにとって適当である。
【0041】
また、媒体8に対する筆記具の運動速度に関係するデータを抽出するために、復調信号は再びACモードで増幅される。筆記具が媒体8に対して静止している場合には、復調信号の振幅が一定に留まり、追加的な如何なるAC成分も復調信号に重量されない。しかしながら、筆記具が媒体8に対して運動する場合には、筆記具と媒体8の間の距離の変化に依存して、そしてまた紙の反射率の局所的変化に依存して、復調信号はその振幅が変化する。選択された光学システムに応じて、復調信号の前記振幅変化は、媒体8と、媒体8の表面の質感と、可視的なマークと、さらにまた、媒体上に液体の液滴を噴射させることで既に形成されている線に関連する。従来の方法では、筆記具が媒体8に対して運動する場合に、追加的なAC成分が復調信号の振幅に付加され、この成分は、媒体8に対する筆記具の運動速度の関数として、数キロヘルツ程度の大きさとされる。
【0042】
このように、復調信号に含まれる周波数成分は、媒体8に対する筆記具の運動速度を表わしている。復調信号に含まれるノイズのようなものとされ、そして筆記具の速度を表わす前記の追加的な周波数成分は、種々の方法で解析することができる。例えば、3つのフィルター26、27、及び28を用いることができ、その各々は、3つの異なる範囲の速度、すなわち媒体8に対する筆記具の低速での第1速度範囲V1、平均速度での第2速度範囲V2、及び高速での第3速度範囲V3における速度を抽出するために、予め決められた通過帯を持っている。
【0043】
また、フォトダイオード13bによって検出される信号のデジタル処理には、例えば、ゼロクロス検出を用いることができる。
【0044】
したがって、筆記具が媒体8に対して静止している場合に、筆記具の運動及び速度に関連する如何なるノイズも復調信号には現れない。反対に、筆記具が媒体8に対して接触せずに運動する場合、ノイズは媒体8の表面のタイプ(種類)の関数として、復調信号の中に自動的に発生され、そして該ノイズは、筆記具が媒体8に対して次第に速く移動するにつれて周波数が増加する傾向がある。
【0045】
別の実施例ではまた、光学システム13が2つのフォトダイオード13bを含むことができ、それらは、媒体8上で、赤外線LED13aによって得られる光スポット内における、2つの隣接した場所を観察するように配置される。その際に使用される電子回路は、2つのフォトダイオード13bから受信した信号を比較するが、これは、得られた2つの復調信号の間に顕著な差がある場合に出力信号を生成するためである。このようにして生成された種々の出力信号は解析され、そして、与えられた表面に対して、該信号の周波数は、媒体8に対する筆記システムの運動速度を反映している。
【0046】
そして、別の実施例においては、光学システム13がレンズを持たず、その代わりにコリメータ、例えば、光学的なブラック・チューブを用いることも可能であり、その端部に配置された非常に小さい開口が設けられたそれぞれのディスクを有している。
【0047】
また、赤外線LED13aを、赤外線レーザーダイオードで置き換えることもできる。
【0048】
別の実施例において、噴射ノズル43が媒体8に近すぎるために液体の液滴7を媒体上に適正に噴射できない時に、処理装置6は液体噴射システムの作動を停止させるように構成される。その場合に、処理装置6は、動き検出手段14又は13が媒体に対する筆記具の動きを検出し、そして、噴射ノズル43と媒体8の間の距離が予め決められた最小値と予め決められた最大値によって定義された値の範囲内にあることを光学システム13が判断した場合にのみ、液体噴射システムを作動させる。
【0049】
同様に、使用者の書き心地を改善するために、第1に、インク噴射ヘッド41と媒体8の間の距離が予め決められた最大値未満であることを光学システム13が判断し、そして第2に、加速度計14又は光学システム13が処理装置6とともに、ある予め決められた期間内に、媒体8に対する噴射ヘッド41の如何なる運動も検出しない場合に、警告信号を発するように設計された通信手段16を処理装置6が作動させるように構成することができる。例えば、前記通信手段16については、可視光信号を発する発光手段とするか又は可聴音信号を発する発音手段の形態とすることが可能であり、それによって、液体噴射ヘッド41、より正確には、噴射ノズル43が、電気信号発生器42を作動させるのに適当とされる媒体からの距離にあることと、及び、筆記具の運動が、たとえそれが偶発的な運動であったとしても、噴射システムを作動させ、そしてそれによって媒体8上に液体の液滴を噴射できることを、使用者に知らせることができる。
【0050】
同様に、使用者の書き心地を改善するために、液体噴射システム4が、与えられた期間(例えば、30秒又は1分)に作動されず、そして測定手段12が、噴射ヘッド41と媒体8の間の距離が再び適正であることを検出して、そして動き検出手段14又は13、6が筆記具の運動を再び検出した場合に、処理装置6が、警告信号を発するために通信手段を作動させるように構成することができる。その場合に、処理装置は、液体の噴射が間もなく始まることを使用者に警告するために、例えば、最大で2秒の間、通信手段を作動させ、そして、この最大2秒の期間後に、処理装置6が液体噴射システム4を作動させる。
【0051】
測定手段12が超音波音響プローブで形成される場合に、管状部材2はまた、その端部2aにおいて、媒体8上に可視光スポットを発する発光手段を備えることができ、当該光スポットは媒体上の液滴7の弾着点(the point of impact)を示す役目を果たす。
【0052】
図4は、動き検出手段の第3の実施例を示しており、本例では、光学システム13及び処理装置6を用いて形成される。該処理装置6は、光学システム13が媒体8の上に液体7の存在を検出した場合(それは、そのとき媒体8に対する筆記システム全体の運動速度が減少していることを表わしている)に、噴射ヘッド41を作動させるための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を減少させるように構成されている。より正確には、図4から明らかなように、光学システムは、赤外線LED13a及びこれに対応するフォトダイオード13bによって形成され、それらは、噴射ヘッド41と媒体8の間の距離を測定し、そしてまた液滴7が付着する媒体8のゾーンを調べることができるように、レンズ又はコリメータシステムを備える。光学システム、より正確には、LED13a及びフォトダイオード13bは、噴射ヘッド41に対して配置されることを要するが、これは、液滴7が付着するゾーン上に、入射光ビームFI及び反射光ビームFRが正確に焦点を結ぶようにするためである。そして、フォトダイオード13bから得られる信号は、処理装置6に情報を送るために、前置増幅器及び位相検出器29によって処理され、それから処理装置6は第1に、制御回路又は電気信号発生器42を制御して噴射ヘッド41に電力を供給し、そして第2に、赤外線LED13aの制御回路を制御する。
【0053】
処理装置6は、噴射ヘッド41と媒体8の間の距離が適正な範囲にあり、そして光学システム13が媒体8上に液体の存在を検出しない場合に、最大の頻度で噴射ヘッド41から液滴7が噴射できるように構成される。その場合に、処理装置6は、図4に示すように、媒体8の上に液滴7を噴射させる。
【0054】
筆記具が媒体8に対して静止のままでとどまるなら、そのとき、光学システム13は、媒体8上の液体の存在を自動的に検出し、それにより処理装置6は、媒体上への液滴7の噴射を大幅に減少させるか、又は停止させる。筆記具が動きだすと直ちに、光学システム13は、それ自身が媒体8の上のブランクゾーン(空白域)に面していることを知り、処理装置6によって最大頻度で液滴が噴射することになる。反対に、筆記具の速度が媒体8に対して減少すると直ちに、光学システム13は、噴射ヘッド41に位置が合っている液滴の存在を検出するのに好適とされ、処理装置6は、信号発生器42によって噴射ヘッド41に送られる電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を自動的に減少させる。
【0055】
図4に示す前記第3の実施例では、使用される液体、つまり使用されるインクが、反射特性を持つことができ、該特性は、媒体8上に付着する液体の液滴7の各々が自動的に前記光学システム13によって検出されるように、光学システム13に対して好適な特性とされる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の筆記具の第1実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の筆記具の第1実施例を構成する種々の要素を示すブロック図である。
【図3】第2の実施例にかかる筆記具の動きを検出するための検出手段を概略的に示すブロック図である。
【図4】第3の実施例にかかる筆記具の動きを検出するための検出手段を概略的に示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部(2a)と第2の端部(2b)との間に亘って延びる、ほぼ管状の部材であって、使用者が把持するように設計された管状部材(2)を備えた筆記具において、
前記管状部材(2)が、
液体の容器(3)と、
前記液体の容器(3)に接続された液体噴射ヘッド(41)を含み、該噴射ヘッド(41)が、離間された媒体(8)上に液体を噴射するように設計されている液体噴射システム(4)と、
前記噴射ヘッド(41)が、離間された媒体(8)上に液体を噴射できるようにするために、前記液体噴射システム(4)を作動させる働きをもつ処理装置(6)と、を含んでおり、
前記管状部材が更に、
前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離を監視するための監視手段(12)であって、かつ前記処理装置(6)に接続されている監視手段(12)と、
前記噴射ヘッド(41)の動きを検出するための動き検出手段(14;13,6)であって、前記処理装置(6)に接続されている動き検出手段(14;13,6)と、を含み、
少なくとも前記監視手段が、前記噴射ヘッドと前記媒体の間の距離が適正であると判断した場合に、前記液体噴射システムを前記処理装置が作動させるように構成され、
そして前記処理装置(6)は、前記液体噴射システム(4)を作動させるための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を、前記動き検出手段(14;13,6)によって検出された運動に応じて変化させるように構成されていることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記監視手段(12)が、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離を測定するための測定手段(12)によって形成され、
そして、第1に、前記測定手段(12)が、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離が予め決められた最大値未満であることを判断し、第2に、前記動き検出手段(14;13,6)が前記動きを検出した場合に、前記液体噴射システム(4)を作動させるように前記処理装置(6)が構成されている請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記測定手段(12)が、筆記具(1)と前記媒体(8)との間で物理的に接触することなく、前記噴射ヘッド(41)と媒体(8)との間の距離を測定するように構成された請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
第1に、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離が、予め決められた最小値及び予め決められた前記最大値によって定義される範囲内にあることを前記測定手段(12)が判断し、第2に、前記動き検出手段が、前記管状部材の動きを検出した場合に、前記処理装置(6)が前記液体噴射システム(4)を作動させるように構成された請求項2又は請求項3に記載の筆記具。
【請求項5】
前記測定手段(12)が、前記噴射ヘッドと前記媒体との間の距離を測定する働きをもつ光学システム(13)を備えた、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項6】
前記動き検出手段が加速度計によって形成された、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項7】
前記動き検出手段が、前記光学システムと、該光学システム(13)によって得られる測定値の関数として、前記媒体(8)に対する前記噴射ヘッド(41)の運動速度を決定する処理装置(6)と、によって形成された、請求項5に記載の筆記具。
【請求項8】
前記測定手段(12)が、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離を測定する働きをもつ超音波音響プローブを備えた、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項9】
前記監視手段(12)が、前記噴射ヘッド(41)と、液体が噴射される前記媒体(8)上での場所との間の距離を測定するように構成された光学システム(13)によって形成され、
前記動き検出手段が、光学システム(13)と前記処理装置(6)によって形成されるとともに、
前記光学システム(13)が前記媒体(8)上に液体が存在することを検出した場合、即ち、媒体(8)に対する筆記システムの運動速度の減少を示す場合に、噴射システム(4)を作動させるための電気信号の周波数又は振幅あるいは周波数及び振幅を減少させるように前記処理装置(6)が構成された、請求項1に記載の筆記具。
【請求項10】
前記管状部材(2)が更に、電源(10)及び該電源(10)に接続されたスイッチ手段(11)を含み、
前記スイッチ手段(11)は、前記液体噴射システム(4)、前記処理装置(6)、前記監視手段(12)及び加速度計(14)を作動させるために、使用者によって操作可能とされる、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項11】
前記管状部材(2)が更に、前記媒体(8)上に噴射される液体の弾着点を示すために、前記媒体上に可視光スポットを発するための発光手段を含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項12】
前記液体噴射ヘッド(41)が、液体の液滴(7)を噴射するための、1つ以上のノズル(43)を備え、前記噴射システム(4)が更に、前記噴射ヘッド(41)の1つ以上のノズル(43)を作動させるための電気信号を発生する電気信号発生器(42)を備えた、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項13】
第1に、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離が予め決められた最大値未満であることを前記測定手段(12)が判断し、第2に、前記動き検出手段が予め決められた期間内に前記管状部材(2)の如何なる動きをも検出しない場合において、使用者に警告信号を発する働きをもつ通信手段(16)を前記処理装置(6)が作動させるように構成された、請求項2乃至12のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項14】
前記液体噴射システム(4)が第1の期間内に作動されなかった場合において、前記噴射ヘッド(41)と前記媒体(8)との間の距離が再び予め決められた最大値未満であることを前記測定手段(12)が判断し、そして前記動き検出手段が再び前記管状部材(2)の動きを検出すると、第2の期間内に警告信号を発する働きをもつ通信手段(16)を前記処理装置(6)が作動させ、それから前記液体噴射システム(4)を作動させるように構成された、請求項2乃至13のいずれか一項に記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−515316(P2007−515316A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544497(P2006−544497)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/FR2004/003260
【国際公開番号】WO2005/061245
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(502306604)ソシエテ ビック (4)
【Fターム(参考)】