説明

液体吐出ヘッド、およびその製造方法

【課題】使用中に親水化層が剥れにくく、液体の充填及び抱き込み泡の取り除きが容易な液体吐出ヘッド、並びにこのヘッドの製造方法でありノズル毎に吐出特性にばらつきが小さく、薄く均一な親水化層を形成できる液体吐出ヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】液体を吐出する液体吐出口、および該液体吐出口に連通する液体流路を有するノズル層を有する液体吐出ヘッドであって、該ノズル層は2層で構成され、該2層のうちの液体流路側の層である第1層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物であって、かつ、もう一方の層である第2層と比較して水の静的接触角が小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ等に搭載される液体吐出ヘッド、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッド作製過程での液体(例えば、インク)の注入や、吐出後の抱きこみ泡の排出などは、ヘッド生産の簡便化や吐出の安定のために重要な要素である。これらの要素を良好に行う方法として、特許文献1に、インクジェットノズルの流路部を親水化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−239992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、インクジェットプリンタの印刷処理スループット向上により時間あたりの吐出回数が増加しているため、インクジェット記録ヘッドは使用時に昇温する傾向がある。特許文献1のペルヒドロポリシラザンの焼成層よりなる親水化層を流路内壁面に有するインクジェット記録ヘッドは、親水化層が無機材、その他の流路壁部分が有機材で形成されている。無機材と有機材の線膨張係数は4倍以上異なることがあり、使用中にヘッドが昇温し、親水化層が剥がれる場合があった。そのため、親水化層を有機材である樹脂により形成すること、即ち樹脂による流路内壁面の親水化が求められた。
【0005】
樹脂による流路内壁面の親水化方法としては、例えば、吐出口及び液体流路を有するノズル層を2層構成にして、流路側の第1層を親水化層とする方法が考えられる。このような構成のインクジェット記録ヘッドの製造方法として、パターニングして作製した、将来流路となる部分を充填する型材に、第1層および第2層の材料を重ねて塗布し、各層を形成する製造方法が考えられる。この製造方法において、吐出口の壁面は、第2層と第1層の積層構造で形成される。
【0006】
この場合、液体流路壁内の親水化層は、薄くかつ、ノズルごとにばらつきがないことが要請される。親水化層が無機膜の場合、CVD法などで型材に対して(たとえ型材に段差が存在しても)均一に各層の材料を成膜することができる。しかし、樹脂材のような有機膜の場合、この方法が取れず、通常の回転による塗布が行われるため、親水化層(第1層)の液体流路壁内の厚みの制御と、型材の端部の被覆性の制御とが非常に困難なことがある。例えば、親水化層を薄くすると、型材の端部の被覆性が低下することがあり、流路の内壁面を親水化できないことがある。一方、親水化層の型材端部の被覆性を上げる為に膜厚を厚くしていくと、液体流路壁内の親水化層の膜厚が、ノズル列内で不均等になることがあるため、ノズルごとの吐出特性にばらつきがでてしまうことがある。
【0007】
よって、本発明の目的は、使用中に親水化層が剥れにくく、液体(例えばインク)の充填および抱き込み泡の取り除きが容易な液体吐出ヘッドを提供することである。また、この液体吐出ヘッドの製造方法であって、ノズルごとに吐出特性にばらつきが小さく、薄く均一な親水化層を形成できる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体を吐出する液体吐出口、および該液体吐出口に連通する液体流路を有するノズル層を有する液体吐出ヘッドであって、該ノズル層は2層で構成され、該2層のうちの液体流路側の層である第1層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物であって、かつ、もう一方の層である第2層と比較して水の静的接触角が小さいことを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0009】
また、本発明は、前記液体吐出ヘッドの製造方法であって、基板上に、光酸発生剤を含みかつ液体流路の型となる型材を形成する工程と、該型材のうちの、表面に前記第1層を形成する領域を露光して酸を発生させる工程と、酸を発生させた型材の表面に、該第1層を形成する工程と、該第1層を覆うように、前記第2層を形成する工程と、該第1層および該第2層を貫通する液体吐出口を形成する工程と、該型材を除去して該液体流路を形成する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0010】
さらに、本発明は、液体を吐出する液体吐出口、および該液体吐出口に連通する液体流路を有するノズル層を有する液体吐出ヘッドであって、該ノズル層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物であることを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0011】
本発明は、この液体吐出ヘッドの製造方法であって、基板上に、光酸発生剤を含みかつ液体流路の型となる型材を形成する工程と、該型材のうちの、表面に前記ノズル層を形成する領域を露光して酸を発生させる工程と、酸を発生させた型材を覆うように、該ノズル層となる樹脂層を形成する工程と、該樹脂層を貫通する液体吐出口を形成する工程と、
該型材を除去して該液体流路を形成する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用中に親水化層が剥れにくく、液体(例えばインク)の充填および抱き込み泡の取り除きが容易な液体吐出ヘッドが提供できる。さらに、この液体吐出ヘッドの製造方法であって、ノズルごとに吐出特性にばらつきが小さく、薄く均一な親水化層を形成できる液体吐出ヘッドの製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの一例の模式的斜視図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドを図1のA−A’線で切断した際の一例の模式的部分断面図である。
【図3】本発明の製造方法の各工程を説明するための模式的断面図である。
【図4】図3(C)で全面露光をした場合を説明するための模式的断面図である。
【図5】図3(D)における2面図(上面図及び断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明の液体吐出ヘッドは、インク、薬液、接着剤およびはんだペーストなどの吐出ヘッドとして使用することができる。以降、液体吐出ヘッドのうち、インクジェットプリンタ等のインクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドに着目して説明する。
【0015】
まず、図1にインクジェット記録ヘッドの一例の模式的斜視図を示す。このインクジェット記録ヘッドは、ノズル層3と、シリコン基板6と、基板6とノズル層3との間に設けられたノズル密着向上層(図2の符号4)とを有する。なお、図2は、図1のインクジェット記録ヘッドをA−A’線に沿って切断した際の模式的断面図である。
【0016】
図1に示すシリコン基板6は、液体(具体的にはインク)を吐出するためのエネルギーを発生する液体吐出エネルギー発生素子であるインク吐出圧エネルギー発生素子5と、後述する液体流路に連通する液体供給口である共通インク供給口11とを有している。基板6において、インク吐出圧エネルギー発生素子5は所定のピッチで2列(図1では1列のみ図示)並んで形成されており、供給口11はインク吐出圧エネルギー発生素子5の2つの列の間に開口している。
【0017】
シリコン基板6上に形成されたノズル層3は、インクを吐出するインク吐出口(液体吐出口)1と、共通インク供給口11と各インク吐出口1とに連通する個別インク流路(液体流路:図2の符号2)とを有する。図2に示すように、インク吐出口1は、各インク吐出圧エネルギー発生素子5の紙面上方に開口しており、密着向上層4は、基板6と、ノズル層3のうちの液体流路壁との間に形成されている。また、ノズル層3は2層で構成されており、より具体的には、2層のうちの液体流路側の層である第1層3aと、もう一方の層である第2層3bとで構成されている。図2に示すように、インク流路2の壁面は、第1層3aとノズル密着向上層4とで形成することができ、吐出口1の壁面は、第1層3aと第2層3bの積層構造で形成することができる。
【0018】
図2では、第1層3aは、インク流路2の壁面を被覆する被覆層として、インク流路2の壁面に沿って薄く均一に形成されており、第2層3bは、この第1層以外のノズル層部分(インク流路壁及び吐出口壁)に形成されている。また、互いに隣り合う2つのインク流路の間の壁(液体流路壁)内のノズル層3では、基板6に平行な方向(図2の紙面左右方向)において、薄く均一な2つの第1層の間に第2層が形成されている。
【0019】
なお、本発明では、第1層が第2層よりインク流路側に配置されていれば良く、例えば、図2のようにインク流路壁面の被覆層として第1層が形成されていても良いし、ノズル層中のインク流路壁部分が第1層のみで形成されていても良い。
また、本発明の他の実施形態として、ノズル層3が第1層のみで形成されていても良い。
【0020】
第1層は、基材として酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物(第1層形成用材料)の硬化物である。また、この第1層形成用材料は、親水性をより発現するために、ヒドロキシ基を有する樹脂を含むことが好ましい。また、第1層は酸により成膜する樹脂とヒドロキシ基を有する樹脂の混合物を硬化したものであることができる。
【0021】
酸により成膜する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を挙げることができ、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、酸により成膜するとは、酸により重合反応を起こして高分子化(硬化)することを意味する。
【0022】
また、ヒドロキシ基を有する樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシスチレン、ノボラック、およびポリビニルアルコールを挙げることができ、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0023】
なお、上記第1層形成用材料中の上記酸により成膜する樹脂の含有量は、膜の安定性(膜の剥がれにくさ)の観点から80質量%以上とすることが好ましい。
【0024】
また、上記第1層形成用材料中の上記ヒドロキシ基を有する樹脂の含有量は、膜の安定性の観点から20質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
さらに、上記第1層形成用材料はこの他に膜の安定性を上げるための硬化剤を含むことができる。この第1層形成用材料を溶剤に溶解させた溶液を用いて、第1層を形成することができる。
なお、1種の樹脂を、酸により成膜する樹脂と、ヒドロキシ基を有する樹脂とに兼用しても良く、兼用できる樹脂としては、例えばノボラックを挙げることができる。
【0026】
第1層形成用材料が、例えばヒドロキシ基を有する樹脂を含む場合、第1層として水の静的接触角が30度以下の親水化層を形成することができる。例えば第2層を感光性樹脂で形成すると、通常、水の静的接触角が60度程度であるため、第1層3aは、第2層3bと比較して水の静的接触角が小さくなる。本発明では、第2層より第1層に対する水の静的接触角が小さければ良く、用いるインクの性質(例えば、水溶性や油性)に応じて各層の水の静的接触角を適宜調整することができる。各層の水の静的接触角は、接触角計により測定することができる。なお、第2層は感光性樹脂の硬化物であることができ、この感光性樹脂としては、液体吐出ヘッドの分野で公知の感光性樹脂を用いることができ、光重合開始剤などの各種添加剤を配合することもできる。感光性樹脂としては、例えば光重合開始剤を配合したエポキシ樹脂を用いることができる。
【0027】
ノズル層3を上記構成、具体的には、親水性の第1層を形成することにより、個別インク流路2の内壁面を親水性とすることができる。このように、ノズル材層の親水化は、基材である酸により成膜する樹脂に対してヒドロキシ基を有する樹脂を添加することで容易に行うことができる。なお、親水性とは、水に対する静的接触角を30度以下にすることを意味する。
【0028】
このインクジェット記録ヘッドは、ノズル層3の吐出口1が形成された面が被記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして共通インク供給口11を介してインク流路2内に充填されたインク(液体)に、インク吐出圧エネルギー発生素子5によって発生する圧力を加えることによって、インク吐出口1からインク液滴を吐出させ、被記録媒体に付着させることによって記録を行うことができる。
【0029】
また、上記インクジェット記録ヘッドを、後述する本発明の製造方法により作製することで、型材の周囲、即ち、液体流路内壁面を選択的に親水化したノズル層を作製することができ、吐出口壁及び液体流路壁内の親水化層の膜厚を薄く均一に作製することができる。さらに、本発明の製造方法で作製されたインクジェット記録ヘッドは、ノズルごとに吐出特性にばらつき無く、親水性の高い流路により、インクの充填、抱き込み泡の取り除きが容易となる。
【0030】
次に、図3を用いて本発明の製造方法の一例を詳しく説明する。なお、図3は各工程におけるインクジェット記録ヘッドを図1のB−B’線に沿って切断した際の模式的断面図である。
【0031】
まず、図3Aに示すように、インク吐出圧エネルギー発生素子5が設けられたシリコン基板上に、ノズル密着向上層4を形成する(密着層形成工程)。このシリコン基板6の結晶方位は(100)面である。本明細書では結晶方位が(100)面の基板を用いた場合の図を記載するが、この図によって面方位を制限するものではない。
【0032】
なお、ノズル密着向上層4は、シリコン基板6表面に直接形成されても良いし、ノズル密着向上層4と基板6との間に他の層を有していても良い。図3Aでは、基板6上に、熱酸化膜13が存在し、その紙面上部には絶縁層であるシリコン酸化膜14があり、その紙面上部に発熱抵抗体等のインク吐出圧エネルギー発生素子5が複数個(図3では1つ)配置されている。その上に保護膜としてシリコン窒化膜15がある。なお、符号16は、基板を貫通する供給口を形成する時の犠牲層を意味する。また、基板6の裏面(基板のノズル層が形成される面(おもて面)に対向する面)には、熱酸化膜12が形成されている。
【0033】
ノズル密着向上層4は、ポリエーテルアミド樹脂やポリアミドを用いて形成することができる。また、ノズル密着向上層4を設けることによって、基板表面(上記他の層を有する場合は、他の層表面)に対するノズル層3(例えば、第2層3b)の密着性を向上させることができる。図3Aでは、前記シリコン窒化膜15に密着するノズル密着向上層4が図示されている。密着向上層4は、例えば、スピンコート法等により基板6に層4の材料(例えば、ポリエーテルアミド樹脂)を塗布して材料層を形成し、不要な部分、即ち、密着向上層4以外の材料層部分を適宜パターニングやエッチングして取り除くことにより形成することができる。
【0034】
次に、図3Bに示すように、インク吐出圧エネルギー発生素子5が形成された基板6上に、光酸発生剤を含みかつインク流路2の型となる型材7を形成する(型材形成工程)。型材は、基板表面に直接形成されても良いし、型材と基板との間に他の層(例えば、密着向上層4やシリコン窒化膜15)を有していても良い。本発明の製造方法では、型材7を除去することによってインク流路を形成するため、型材7の材料として、例えば、溶剤に溶解可能な樹脂に光酸発生剤を添加した材料を使用することができる。
【0035】
光酸発生剤としては、例えば、i線(波長:365nm)露光により酸を発生するものを用いることができる。型材7、即ちインク流路パターンは、例えばスピンコート法等により、型材の材料を基板上に塗布した後、例えば、Deep UV光(波長:240〜300nm)によりこの材料を露光および現像することによって形成することができる。より具体的には、例えば、光酸発生剤を添加したポジ型感光性材料を基板上に塗布し、型材7以外の部分を上記Deep UV光により露光して現像液に対する溶解性を増大させ、露光部を除去し、型材7を形成することができる。
【0036】
なお、型材7は、光酸発生剤から発生した酸によって成膜されない材料で形成されることが望ましい。さらに、型材7は、この光酸発生剤を媒介とした反応、即ち光酸発生剤から発生した酸による重合反応以外の方法(例えば、上記Deep UV光などによる露光及び現像)でパターニングが可能であることが望ましい。このような型材7を形成する材料としては、例えばODUR(商品名、東京応化工業製)に光酸発生剤を添加したものを用いることができる。
【0037】
一方、後述する親水化ノズル材層10は、光酸発生剤から発生した型材由来の酸で成膜されることができ、酸による重合反応を利用してパターニングを行い、第1層3aを形成することができる。
【0038】
次に、図3Cに示すように、型材7のうちの、表面に第1層を作製する領域(エリア)を露光して酸を発生させる(酸発生工程)。
【0039】
上記領域を露光して、その領域に酸を発生させた後、第1層の材料を塗布してベークすることにより、所望の位置、具体的には、酸が発生した部分の型材表面に、所望の厚みの第1層を形成することができる。図3Cでは、型材のうちの、表面に第1層を形成したい領域、具体的には、将来吐出口が出来る部分以外の領域に、マスク8aを用いて光8を照射(露光)している。このため、光8が照射されない部分(遮光部分)の型材表面には親水化層(第1層)が形成されない。
【0040】
なお、酸を発生させる際の露光波長、露光量、ベーク温度及びベーク時間は、用いる光酸発生剤や形成する第1層の厚み等に応じて適宜選択することができる。
【0041】
露光の後の状態を図3D及び図5に示す。なお、図5は、図3Dの上面図と断面図との関係を示したものである。これらの図に示すように、吐出口が形成されるエリアは、光の照射を受けていないので、酸が発生しておらず、型材7のままとなっている。一方、符号9で表す部分は酸が発生しており、その表面に第1層を形成することができる。また、型材以外の部分にも光は照射されていたが、これらの部分には、光酸発生剤を含んでいないため酸が存在(発生)していない。このように、図3Jに示すインクジェット記録ヘッドを作製する際には、型材以外の各層や膜には光酸発生剤を含有しないことが望ましい。
【0042】
続いて、図3E〜Gに示すように、光酸発生剤による酸を発生させた型材9上、より具体的には型材9表面に、第1層3aを形成する(第1層形成工程)。具体的には、まず図3Eに示すように第1層の元になる材料を例えばスピンコート法で基板6のおもて面側の表面に露出している部分(図3Eでは、型材7、9、密着向上層4およびシリコン窒化膜15の各表面)に塗布し、親水化ノズル材層10を形成する。
【0043】
なお、親水化ノズル材層10(第1層の元になる材料)は、酸により成膜する樹脂を含む。また、この親水化ノズル材層10は、ヒドロキシ基を有する樹脂を含むことが好ましい。酸により成膜する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の少なくとも一方を用いることができる。
【0044】
また、ヒドロキシ基を有する樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシスチレン、ノボラックおよびポリビニルアルコールのうちの少なくとも1つを用いることができる。
【0045】
なお、第1層3aは、親水化ノズル材層の硬化物であり、具体的には、親水化ノズル材層を、光酸発生剤による酸とベークによって硬化させた物であることができる。
【0046】
その後、層10を形成した基板をベークすることによって、図3Fに示すように、型材9表面から親水化ノズル材層10の内部に酸が拡散し、型材と接する位置に親水性の第1層3aが形成される。このように、親水化ノズル材層(第1層の元になる材料)は、ベークすることによって型材中の光酸発生剤より発生した酸と反応させ、硬化させることができる。
【0047】
その後、図3Gに示すように、現像液で現像して不要な親水化ノズル材層10、即ち第1層以外の親水化ノズル材層部分を除去する。これにより、第1層3aを型材9表面の所望のエリアにのみ選択的に形成することができる。
【0048】
なお、第1層3aの型材表面からの厚みは、インク流路近傍の吐出口の形状を安定させる観点から1μm以下とすることが好ましい。
【0049】
また、図3Cでは、型材のうちの、吐出口が形成される部分以外の領域を選択的に露光しているが、図4に示すように、基板おもて面側を全面露光して、型材7の表面全体に第1層を形成することもできる。この場合、流路内の型材9を除去する際に、吐出口に接する第1層部分(吐出口1となる第1層部分)を、同時に除去して、インク流路2及び吐出口1を形成することが好ましい。例えば、型材7に対する露光量を2000J、ベークを80℃、2分で行い、0.2μmの厚みの第1層を形成した場合は、流路内の型材9と、吐出口に接する第1層部分とを容易に同時に除去することができる。即ち、酸発生工程では、型材7のうちの、少なくとも表面に第1層を形成する領域を露光すれば良い。
【0050】
続いて、図3Hに示すように、第1層およびノズル密着向上層(実際には、型材7、第1層3a、ノズル密着向上層4およびシリコン窒化膜15)の各表面に、第2層3bの材料として例えば感光性樹脂を塗布し、感光性樹脂層を形成する。この感光性樹脂層は、第1層を被覆している。その後、マスク(不図示)を介して、この感光性樹脂層の露光現像を行って、吐出口1を有する第2層3bを形成する(第2層及び吐出口形成工程)。この吐出口は、第1層3aおよび第2層3bを紙面上下方向に貫通している。
【0051】
次に、図3Iに示すように、例えば異方性エッチングにより、犠牲層16を除去し、基板6にインク供給口11を形成する(インク供給口形成工程)。具体的には、基板6の裏面の熱酸化膜12をパターニングし、異方性エッチングの開始面となるシリコン面を露出させた後、シリコン異方性エッチングを行う。このインク供給口11は、基板6を化学的にエッチング、例えばTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)やKOH(水酸化カリウム)の強アルカリ溶液による異方性エッチングにより形成する。
【0052】
次に図3Jに示すように、型材を除去してインク流路2を形成する(型材除去工程)。具体的には、シリコン酸化膜14を例えばフッ酸液で、ウエットエッチングによって除去する。その後、ドライエッチング等によってシリコン窒化膜15を除去する。そして、型材7および9を、溶剤によりインク吐出口1およびインク供給口11から溶出させることにより、インク流路2(例えば、発泡室)が形成される。型材(図4のように、全面露光した場合は、型材および第1層)を除去する際、必要に応じて超音波浸漬を併用すれば容易に除去が可能である。なお、型材は、型材除去前に型材に応じた波長の光(例えば、Deep UV光)で露光することによって可溶化させることができ、上記溶剤によって除去することができる。
【0053】
また、続いて、以上の工程により得られるノズル部(吐出口、インク流路およびインク供給口)が形成された基板6を、ダイシングソー等により分離切断、チップ化することができる。そして更に、インク吐出圧エネルギー発生素子5を駆動させるための電気的接合を行った後、インク供給のためのチップタンク部材を接続したインクジェット記録ヘッドを形成することができる。
【0054】
尚、上述の工程では、ノズル層を2層構成としたが、ノズル層は上記の第1層のみで形成しても良い。即ち、図3Hの段階で、第1層3a及び第2層3bがいずれも第1層で形成されていても良く、この第1層に吐出口を形成しても良い。具体的には、図3Eにおいて、酸を発生させた型材を覆うように、ノズル層となる樹脂層を形成し、次いで、この樹脂層を貫通するインク吐出口を形成する。この樹脂層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成することができ、この樹脂組成物は、ヒドロキシ基を有する樹脂や、硬化剤及び光重合開始剤等の各種添加剤を含むことができる。
この場合、インクジェット記録ヘッドのノズル層3は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物で構成されることになる。その際、上記樹脂層のうちのインク流路2と接する部分を、型材から発生した酸によって成膜(硬化)させ、インク流路2の内壁面を親水化させることができる。なお、この樹脂層のその他の部分については、同様にこの酸によって成膜させても良いし、この酸によって成膜させずに他の方法(例えば、紫外線露光等)で成膜(硬化)させても良い。また、この他の部分を酸で成膜させるために、密着向上層等の型材以外の部分(各層や膜)に光酸発生剤を添加しても良い。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の液体吐出ヘッドのうちのインクジェット記録ヘッドの実施例を示す。
【0056】
(実施例1)
図3Aに示すように、結晶方位が(100)面であるシリコン基板6を用いた。また、このシリコン基板6はおもて面に、熱酸化膜13、シリコン酸化膜14、インク吐出圧エネルギー発生素子5、シリコン窒化膜15および犠牲層16を有しており、裏面に熱酸化膜12を有していた。
【0057】
そして、このシリコン基板6の表面上、即ちシリコン窒化膜の表面に、ポリエーテルアミド樹脂(日立化成(株)の商品名:HIMAL−1200)からなるノズル密着向上層4を形成した。具体的には、上記ポリエーテルアミド樹脂をスピンコート法により基板6の表面上に塗布し樹脂層を形成し、不要な部分、即ち密着向上層4以外の樹脂層部分をパターニング及びエッチングして取り除き、密着向上層4とした。なお、密着向上層4の膜厚は2μmとした。
【0058】
次に、図3Bに示すように、溶解可能な樹脂(東京応化工業製、商品名:ODURに、光酸発生剤を添加したもの)をこの基板6上にスピンコート法で塗布した後、Deep UV光により、この樹脂を露光、現像してインク流路パターン(型材7)を形成した。光酸発生剤としては、i線露光により酸を発生するものを使用した。
【0059】
次に、図3C及びDに示すように、型材のうちの、表面に第1層を形成したい領域、即ち吐出口を形成する部分以外の領域に365nmの波長の光8を、露光量3000Jで露光し、露光した型材部分に光酸発生剤により酸を発生させた。なお、型材以外の部分は光酸発生剤を含有していないので、これらの部分には酸は発生しなかった。
【0060】
その後、図3Eに示すように、酸により成膜する樹脂として、エポキシ樹脂(商品名:EHPE3150、ダイセル化学社製)900質量部に、ヒドロキシ基を有する樹脂として、ポリビニルアルコールを100質量部添加したものを、溶剤(ジグライム)で溶かした溶液を調製した。そして、この溶液を基板6のおもて面側にスピンコート塗布し、親水化ノズル材層10を形成した。
【0061】
そして、90℃で4分間、ベークを行い、酸が発生した型材9より酸が親水化ノズル材層10の内部に拡散し、図3Fに示すように、型材上に親水性の第1層3aを形成した。なお、形成された第1層3aの厚みは約1μmであり、この厚みであれば、密着向上層と第1層3aとの密着力を容易に確保することができる。
【0062】
その後、図3Gに示すように、現像液(MIBK(メチルイソブチルケトン))で現像して不要な親水化ノズル材層10を除去した。
【0063】
次に、図3Hに示すように、基板6のおもて面側に第2層の材料である感光性樹脂(商品名:EHPE3150(ダイセル化学)に光開始剤を添加したもの)を塗布し、感光性樹脂層を形成した。そして、この樹脂層の露光現像を行って吐出口1および第2層3bを形成した。
【0064】
なお、接触角計により測定した第1層3aの水の静的接触角は30度であり、第2層3bの水の静的接触角は60度であり、第2層より第1層の方が水の静的接触角が小さかった。
【0065】
その後図3Iに示すように、基板6の裏面の熱酸化膜12をパターニングし、異方性エッチングの開始面となるシリコン面を露出させた後、シリコン異方性エッチングを行い、インク供給口11を形成した。
【0066】
続いて、図3Jに示すように、シリコン酸化膜14をフッ酸液で、ウエットエッチングによって除去し、ドライエッチによってシリコン窒化膜15を除去した。そして、型材7および9を、溶剤を用いてインク吐出口1およびインク供給口11から溶出させることにより、インク流路2を形成した。なお、型材は、型材除去前にDeep UV光を照射し可溶化させておいた。
【0067】
以上の工程により得られた基板6を、ダイシングソーにより分離切断、チップ化した後、インク吐出圧エネルギー発生素子5を駆動させるための電気的接合を行い、インク供給のためのチップタンク部材を接続したインクジェット記録ヘッドを得た。
【0068】
(比較例1)
親水化層(第1層3a)を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを作製した。具体的には、溶解可能な樹脂に光酸発生剤を添加せず、図3C〜Gに示す酸発生工程及び第1層形成工程を行わずに、型材上に直接、第2層を形成した。
【0069】
実施例1で作製したインクジェット記録ヘッドを、比較例1の親水化層を有さないインクジェット記録ヘッドと比較評価したところ、比較例1に対してノズルごとの吐出特性にばらつきが無く、インクの充填、抱き込み泡の取り除きも容易となることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1.インク吐出口(液体吐出口)
2.インク流路(液体流路)
3.ノズル層
3a.第1層
3b.第2層
4.ノズル密着向上層
5.インク吐出圧エネルギー発生素子
6.シリコン基板
7.型材
8.光
9.光酸発生剤による酸を発生させた型材
10.親水化ノズル材層
11.供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出口、および該液体吐出口に連通する液体流路を有するノズル層を有する液体吐出ヘッドであって、
該ノズル層は2層で構成され、
該2層のうちの液体流路側の層である第1層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物であって、かつ、もう一方の層である第2層と比較して水の静的接触角が小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記酸により成膜する樹脂が、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂のうちの少なくとも一方の樹脂である請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、ヒドロキシ基を有する樹脂を含む請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ヒドロキシ基を有する樹脂が、ポリヒドロキシスチレン、ノボラック、およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂である請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体を吐出する液体吐出口、および該液体吐出口に連通する液体流路を有するノズル層を有する液体吐出ヘッドであって、
該ノズル層は、酸により成膜する樹脂を含む樹脂組成物の硬化物であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法であって、
基板上に、光酸発生剤を含みかつ液体流路の型となる型材を形成する工程と、
該型材のうちの、表面に前記第1層を形成する領域を露光して酸を発生させる工程と、
酸を発生させた型材の表面に、該第1層を形成する工程と、
該第1層を覆うように、前記第2層を形成する工程と、
該第1層および該第2層を貫通する液体吐出口を形成する工程と、
該型材を除去して該液体流路を形成する工程と
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記型材が、前記光酸発生剤を媒介とした反応以外の方法でパターニングが可能であることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法であって、
基板上に、光酸発生剤を含みかつ液体流路の型となる型材を形成する工程と、
該型材のうちの、表面に前記ノズル層を形成する領域を露光して酸を発生させる工程と、
酸を発生させた型材を覆うように、該ノズル層となる樹脂層を形成する工程と、
該樹脂層を貫通する液体吐出口を形成する工程と、
該型材を除去して該液体流路を形成する工程と
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−46994(P2013−46994A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139767(P2012−139767)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】