説明

液体吐出ヘッド用基板の製造方法及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 保護層をエネルギー発生素子毎に独立して設けると、保護層とエネルギー発生素子との間のリーク電流検査を1度で行うことができず液体吐出ヘッド用基板の製造時の検査に時間がかかる懸念がある。
【解決手段】 複数の保護層と電気的に接続し、供給口となる位置に対応する基体の上側に設けられた接続部に接続する検査用端子と、複数のエネルギー発生素子が接続される端子と、の間のリーク電流検査を行った後に、前記接続部を除去して液体吐出ヘッド用基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板の製造方法及び液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置に使用される代表的な液体吐出ヘッドとしては、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を有する液体吐出ヘッド用基板と、液体の吐出口を備えた吐出口部材と、を有するものを挙げることができる。エネルギー発生素子には、通電することで発熱する発熱抵抗層が用いられる。発熱抵抗層から生じた熱により液体に気泡を生じさせ、この発泡の圧力で液体を吐出口から吐出する。
【0003】
エネルギー発生素子は絶縁性材料からなる絶縁層で被覆され、その絶縁層の上に気泡の消滅に伴うキャビテーション衝撃や液体による化学的作用からエネルギー発生素子を保護するために、タンタルやイリジウムやルテニウム等の金属材料で保護層が設けられている。液体吐出ヘッドの絶縁層に穴(ピンホール)があると、エネルギー発生素子と保護層とが導通してしまい、所望の発熱特性が得られなかったり、保護層と液体との間で電気化学反応を起こし、保護層が変質して耐久性が低下したり、溶出したりすることが懸念される。そのため、液体吐出ヘッド用基板の製造段階で、エネルギー発生素子と保護層との間の絶縁性を検査する必要がある。
【0004】
特許文献1には、複数のエネルギー発生素子を共通して保護するように保護層が帯状に設けられ、この保護層に接続される検査用端子と、複数のエネルギー発生素子に共通に接続されている検査用端子と、を使用して絶縁性の検査をする方法が開示されている。この方法によれば、複数のエネルギー発生素子について、一括して絶縁層による絶縁性を検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−50646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に開示される構成では、記録動作の際のキャビテーションの影響などで、1つのエネルギー発生素子に対応する絶縁層に穴が生じて保護層とエネルギー発生素子とが導通すると、他のエネルギー発生素子を被覆している保護層にも電流が流れる。そのため保護層全体が液体と電気化学反応を行い、複数のエネルギー発生素子上の保護層に共通して変質が引き起こされることになる。
【0007】
この問題を克服するためには、エネルギー発生素子毎に保護層を電気的に分離、独立して設けることが考えられる。しかしその場合には、保護層とエネルギー発生素子との絶縁性を確認する検査をエネルギー発生素子毎に行わねばならず、膨大な数の検査用端子を必要とし、また検査にも膨大な時間を必要とするため効率がよくない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、1つのエネルギー発生素子と保護層とが導通した場合でも、それにより引き起こされる保護層の電気化学的変化が他のエネルギー発生素子に伝搬しない液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを目的とする。また、保護層とエネルギー発生素子との絶縁性の確認を効率的に行うことができる液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は通電することで発熱する材料からなり、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数と、絶縁性材料からなり、複数の前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられた絶縁層と、金属材料からなり、複数の前記エネルギー発生素子それぞれに対応して前記絶縁層を被覆するように設けられた、複数の前記エネルギー発生素子を保護するための複数の保護層と、を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、複数の前記エネルギー発生素子と、前記絶縁層と、複数の前記保護層と、がこの順に積層され、複数の前記エネルギー発生素子と複数の前記保護層との間の絶縁性を検査するための検査用端子と、該検査用端子と複数の前記保護層とを電気的に接続する接続部と、が設けられた基体を用意する用意工程と、前記絶縁性を検査するために前記検査用端子と複数の前記エネルギー発生素子との間の導通を検査する検査工程と、前記接続部の少なくとも一部を除去して、複数の前記保護層を互いに電気的に切断する切断工程と、をこの順に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つのエネルギー発生素子と保護層とが導通した場合でも、保護層の電気化学的反応が複数のエネルギー発生素子に伝播することがない液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することができる。さらに、保護層とエネルギー発生素子との絶縁性の確認を効率的に行うことができる液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドを用いることができる液体吐出装置および液体吐出ヘッドユニットの一例である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの斜視図及び断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの上面図を模式的に示したものである。
【図4】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図5】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図6】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図7】本発明の液体吐出ヘッドの上面図を模式的に示したものである。
【図8】第4の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図9】本発明の液体吐出ヘッドの上面図を模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0013】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0014】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0016】
(液体吐出装置)
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置を示す概略図である。
図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピン(不図示)を有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向に往復移動される。このキャリッジHCには、ヘッドユニット40が搭載されている。
【0017】
(ヘッドユニット)
図1(b)は、図1(a)のような液体吐出装置に搭載可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)はフレキシブルフィルム配線基板43により、液体吐出装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、インクタンク42と接合されることで一体化されヘッドユニット40を構成している。ここで例として示しているヘッドユニット40は、インクタンク42とヘッド41とが一体化したものであるが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0018】
(液体吐出ヘッド)
図2(a)に本発明に係る液体吐出ヘッド41の斜視図を示す。また、図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図である。また、図2(c)は基体1の表面のエネルギー発生素子12とその周辺を基体1の上方から見た場合の基体1の表面の状態を示す模式図である。液体吐出ヘッド41は、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子12を備えた液体吐出ヘッド用基板5と、液体吐出ヘッド用基板5の上に設けられた流路壁部材14と、を有している。エネルギー発生素子の配列密度は約1200dpiである。流路壁部材14は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口13と、吐出口13に連通する流路46の壁14aとを有している。この壁14aを内側にして、流路壁部材14が液体吐出ヘッド用基板5に接することで流路46が設けられている。流路壁部材14に設けられた吐出口13は、供給口45に沿って所定のピッチで列をなすように設けられている。供給口45から供給された液体は流路46に運ばれ、さらにエネルギー発生素子12の発生する熱エネルギーによって液体が膜沸騰することで気泡が生じる。このときに生じる圧力により液体が、吐出口13から吐出されることで、記録動作が行われる。さらに、液体吐出ヘッド41は、流路46に液体を送るために液体吐出ヘッド用基板5を貫通して設けられる供給口45と、外部、例えば液体吐出装置、との電気的接続を行う端子17と、を有している。
【0019】
図2(b)に示されるように、トランジスタ等の駆動素子が設けられたシリコンからなる基体1の上に、基体1の一部を熱酸化して設けた熱酸化層2と、シリコン化合物からなる蓄熱層4とが設けられている。蓄熱層4の上に、通電することで発熱する材料(例えばTaSiNやWSiNなど)からなる発熱抵抗層6が設けられ、発熱抵抗層6に接するように、発熱抵抗層より抵抗の低いアルミニウムなどを主成分とする材料からなる一対の電極7が設けられている。一対の電極7の間に電圧を供給し、発熱抵抗層6の一対の電極7の間に位置する部分を発熱させることで、発熱抵抗層7の部分をエネルギー発生素子12として用いる。これらの発熱抵抗層6と一対の電極7は、インクなどの吐出に用いられる液体との絶縁を図るために、SiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆されている。さらに吐出のための液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などからエネルギー発生素子12を保護するために、エネルギー発生素子12の部分に対応する絶縁層8の上に耐キャビテーション層として用いられる保護層10が設けられている。具体的には、保護層10としてタンタルやイリジウムやルテニウムなどの金属材料を用いることができる。さらに絶縁層8の上に流路壁部材14が設けられている。なお、絶縁層8と流路壁部材14との密着性を向上させるために、絶縁層8と流路壁部材14との間にポリエーテルアミド樹脂などからなる密着層を設けることもできる。また、基体1のエネルギー発生素子12が設けられている面とは反対側の面には、供給口45を形成する際のエッチング工程時にマスクとして用いられた熱酸化層22が残されている。
図2(c)に示されるように、保護層10は、エネルギー発生素子12毎に独立して設けられている。このように設けることにより、記録動作中に何らかの要因で絶縁層に穴が生じてエネルギー発生素子12と保護層10とが同電位になったとしても、1つのエネルギー発生素子12を被覆する保護層10だけが酸化若しくは溶解という電気化学反応を起こす。具体的には、保護層10としてタンタルを用いた時には酸化し、イリジウムやルテニウムを用いた場合には溶解する。隣接するエネルギー発生素子12を被覆する保護層10とは電気的に分離されているため、電気化学反応は隣接するエネルギー発生素子12には連鎖しない。
【0020】
一方、製造時においては、複数のエネルギー発生素子12の上側に設けられた複数の保護層10と電気的に接続している接続部を設ける。接続部は検査用端子と接続されており、検査用端子を用いて、複数のエネルギー発生素子12との間の導通チェックすることで、複数のエネルギー発生素子と保護層10との間に位置する絶縁層の絶縁の確認を簡易に行うことができる。すなわち接続部は、複数の保護層10のそれぞれと検査用端子16との電気的接続をするために用いられている。このような検査工程終了後に、接続部を切断して保護層10をエネルギー発生素子12毎に分離する。
【0021】
これにより保護層10とエネルギー発生素子12との絶縁の確認を効率的に行える。かつ、1つのエネルギー発生素子12と保護層10とが導通した場合でも、保護層の電気化学的反応が複数のエネルギー発生素子に伝播することを防止できる液体吐出ヘッド用基板を提供することができる。
【0022】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法の製造工程について具体的に説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
本実施形態は、供給口45の開口幅を規定するために用いられる犠牲層を接続部として用いる。図3は、製造工程中の液体吐出ヘッド41のエネルギー発生素子12とその付近の部分を模式的に示した上面図である。図4は、図2(a)のA−A’に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の各工程での切断面の状態を模式的に示す断面図である。 図4(a)に示されるように、トランジスタ等の駆動素子の分離層として用いられる熱酸化層2が設けられた表面と、供給口45を設ける際のマスクとなる熱酸化層22が設けられた裏面とを有するシリコンからなる基体1を用意する。表面の供給口45を開口する予定の部分に、供給口45を開口させる際に用いるエッチング液で速やかにエッチングされ、かつ導電性を有する材料を用いて膜厚約200nm〜500nmの犠牲層3が設けられている。犠牲層3は、例えばアルミニウムを主成分とする材料(例えばAl−Si合金)やポリシリコンを用いて、スパッタリング法とドライエッチング法により供給口45の位置に対応する部分に形成することができる。犠牲層3の上には、CVD法等を用いて膜厚約500nm〜1umで形成された酸化シリコン(SiO2)からなる蓄熱層4が設けられている。
【0024】
次に、蓄熱層4の上に膜厚約10nm〜50nmのTaSiNまたはWSiNからなる発熱抵抗層6となる材料と、一対の電極7となる膜厚約100nm〜1umのアルミニウムを主成分とする導電層をスパッタリング法により形成する。そして、ドライエッチング法を用いて発熱抵抗層6と導電層とを加工し、さらに導電層の一部をウェットエッチング法で除去して一対の電極7を設ける。導電層を除去した部分に対応する発熱抵抗層6が、エネルギー発生素子12として用いられる。次に発熱抵抗層6や一対の電極7を覆うように、基板全面にCVD法等を用いて窒化シリコン(SiN)等からなる絶縁性を有する膜厚約100nm〜1μmの絶縁層8を設ける。以上により図4(b)に示される状態となる。
【0025】
次に、犠牲層3が露出するように、絶縁層8と蓄熱層4の一部にスルーホール9をドライエッチング法を用いて設ける。このスルーホール9は、エネルギー発生素子12毎に対応させた数を設ける(図4(c))。
【0026】
次に、絶縁層8及びスルーホール9の上に、導電性を有し、液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などから保護可能な耐久性を有する材料を用いて、膜厚50nm〜500nmの導電層をスパッタリング法を用いて形成する。具体的には、タンタルやイリジウムやルテニウムやクロムなどの金属材料を用いることができる。ついでこの導電層にパターニングを行って保護層10を形成し、図4(d)に示される状態の液体吐出ヘッド用基板5を得る。図3(a)は、このときの基板の表面側を上方から見た場合の状態を示すものである。エネルギー発生素子12毎に対応して個別に分離して設けられた複数の保護層10は、スルーホール9を介して犠牲層3と電気的に接続している。一方基板端部に設けられた絶縁層8の絶縁性をチェックするための検査用端子16と電気接続されている。
【0027】
このように、基体1上で、犠牲層3が、複数の保護層10のそれぞれと検査用端子16とを電気接続する接続部としての役割を果たす。なお、検査用端子は、保護層10となる導電層の一部をパターニングしたり、犠牲層3の上側に位置する絶縁層8と蓄熱層4をドライエッチング法を用いて除去し、犠牲層3を露出させて設けることができる。図3(b)に示されるように、犠牲層3上に端子16を設けてもよい。
【0028】
次に、検査用端子16と、複数のエネルギー発生素子12と電気的に接続された端子17(ここでは不図示)との間に電圧を印加して、発熱抵抗層6と保護層10との間の導通をチェックし、絶縁層による絶縁の確認を行う(検査工程)。発熱抵抗層6と保護層10とが導通していないことが確認できれば、絶縁層8の絶縁性が確保されていることがわかる。
【0029】
このように複数の保護層10を1つの検査用端子16と接続するように設けて検査を行うことで、1度の導通チェックで複数の保護層に関して導通の有無を確認することができ、効率的に複数のエネルギー発生素子12を被覆する絶縁層8の検査を行うことができる。さらに、複数の検査用の端子を基体1上に設ける必要もないため、チップ面積の増大を抑えることができ、液体吐出ヘッド用基板5の製造コストを削減することができる。
【0030】
検査工程が終了した液体吐出ヘッド用基板5の面に溶解可能な樹脂をスピンコート法を用いて形成し、フォトリソグラフィー技術を用いてパターニングして流路46となる部分に型材26を形成する。さらに、型材26の上に、カチオン重合型エポキシ樹脂をスピンコート法を用いて形成し、その後ホットプレートを用いてベークを行い硬化させることで、流路壁部材14を形成する。その後、フォトリソグラフィー技術を用いて吐出口13となる部分の流路壁部材14を除去する。次に、環化ゴム層15で流路壁部材14を保護する(図4(e))。
【0031】
次に、基体1のエネルギー発生素子12が設けられた面の裏面の熱酸化層22を、供給口45を形成するためのマスクとなるように開口させる。さらに、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(TMAH溶液)や水酸化カリウム水溶液(KOH溶液)等を用いて、基体1の裏面からウェットエッチング法を行い、供給口45として設けられた貫通口を形成する(供給口形成工程)。基体1として表面の結晶方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いることにより、アルカリ性の溶液(例えばTMAH溶液やKOH溶液)を用いた結晶異方性エッチングで供給口45を設けることができる。このような基体では、(111)面のエッチングレートが他の結晶面のエッチングレートに比べ非常に遅いためシリコン基板平面に対して約54.7度という角度をなす供給口45を設けることができる。
【0032】
犠牲層3が除去された時点でエッチングを終了させれば、液体吐出ヘッド用基板のエネルギー発生素子12が設けられた面の、シリコンのエッチングばらつきに伴う供給口45幅ばらつきを低減させることができる。これにより液体吐出ヘッド用基板5の、エネルギー発生素子12が設けられ、流路壁部材14に接する側の面の、供給口45の開口幅を容易に規定することができる。犠牲層3は、供給口45を開口させる際のエッチング液で速やかにエッチングされるため、犠牲層3が露出するまでエッチングが進むと速やかに犠牲層3は除去される。これにより、供給口の開口幅を規定することができ、精度の良い供給口45を形成することができる(図4(f))。
【0033】
複数の保護層10を電気接続していた接続部である犠牲層3が除去されることで、複数のエネルギー発生素子12に対応する複数の保護層10が、それぞれ電気的に分離している状態となる(図2(c))(分離工程)。これにより、記録動作中に何らかの要因で絶縁層8に穴が生じても1つのエネルギー発生素子12と保護層10とが導通するのみで、保護層10の酸化や溶出といった電気化学反応が他のエネルギー発生素子を保護する保護層に連鎖することを防止することができる。以上の構成によって液体吐出ヘッドの信頼性を高めることができる。
【0034】
本実施形態ではこの際、接続部30を供給口45を開口される予定の位置に設けておくことで、供給口45の形成と接続部30の除去をまとめて行うことができ、製造工程が簡単なものとなる。
【0035】
さらに供給口45の上側の部分に位置する蓄熱層4や絶縁層8をドライエッチング法を用いて除去する。このとき、保護層10のスルーホール内に埋まっていた端部10a、検査用端子16は、オーバーエッチング量が少ない場合は除去されずに残るが、オーバーエッチング量を増加させることで除去することもできる。また、保護層10のみが選択的にエッチングされるようなガスを用いてエッチングすることにより、供給口45が開口される位置(端部)より保護層が内側に来るようにすることができる。これにより供給口45から供給される液体の流れがある部分に保護層10が張り出さないようにでき、液体の流れにより保護層10が剥離することを防止できる。
【0036】
その後、環化ゴム層15と型材26を除去し、液体吐出ヘッド41が完成する(図4(g))。
【0037】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では供給口45をウェットエッチング法を用いて形成したが、本実施形態に示すように基体1をドライエッチング法を用いてエッチングすることで供給口45を形成することもできる。それ以外の構成は第1の実施形態と同様である。
【0038】
まず図4(a)〜図4(e)までは第1の実施形態と同様にして層形成を行った基体1を用意する。次に、ボッシュ法等のドライエッチング法を用いて、シリコンの基体1を犠牲層3が露出するまでエッチングを行う(図5(a))。この時に用いられるエッチングガスに、シリコンのエッチングレートが早いが、犠牲層3に用いられる材料のエッチングレートは遅いものを用いることにより、犠牲層3をエッチングストップ層として用いることができる。ドライエッチング法を用いて供給口45を設けることで、基体1の面と供給口45との角度を実質的に直角とすることができ、供給口45を設けるために必要な基板の面積を実施形態1に比べて削減することができる。
【0039】
次に水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(TMAH)や水酸化カリウム水溶液(KOH)等を用いて犠牲層3を除去する(図5(b))。これにより、供給口の開口幅を規定することができ精度良く供給口45を形成することができる。
その後、環化ゴム層15と型材26を除去し、液体吐出ヘッド41が完成する(図5(c))。
なお、レーザー加工、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、を組み合わせて供給口45を設けることもできる。
【0040】
(第3の実施形態)
図6、7を参照して第3の実施形態を説明する。図6は図4と同様の断面図であり、図7は、製造工程中の液体吐出ヘッド41のエネルギー発生素子12とその付近の部分を模式的に示した上面図である。
【0041】

第1の実施形態及び第2の実施形態は、犠牲層3を接続部30として用い、接続部30と保護層10とが別の材料からなる別体形態を示したが、本実施形態は絶縁層8の上に保護層10と同じ材料を用いて接続部30を設ける形態を示す。
【0042】
図4(a)〜図4(b)までは第1の実施形態と同様に基体1上に各積層膜を設ける。
【0043】
次に絶縁層8の上に導電性を有し、液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などから保護可能な耐久性を有する材料を用いて膜厚50nm〜500nmの金属材料層をスパッタリング法を用いて形成する。具体的には、タンタル、イリジウム、ルテニウム、クロム、プラチナ等の金属材料を用いることができる。この金属材料層をエッチング技術を用いて、複数のエネルギー発生素子12の上側に其々位置するように配置された保護部分と、供給口45が開口される領域45a内部に収まるような、複数の保護部分に接続する接続部としての接続部分30とに加工する。この保護部分と接続部分30とを以下金属層300と呼ぶ(図6(a))。
【0044】
図7(a)、(b)に示すように、金属材料層から形成された保護部分は、各エネルギー発生素子12に対応して複数部に個別に配置される。また、導通チェックを行うための検査用端子16に接続されている接続部分30とそれぞれ連続的に設けられ、接続部分30と共通に電気接続している。図7(c)に示すように供給口が開口される領域45aの上側に検査用端子16を設けることもできる。
【0045】
次にこの検査用端子16と、複数のエネルギー発生素子12と電気的に接続される端子17との間に電圧を印加して、エネルギー発生素子12と保護部分10との間の絶縁層8の絶縁の確認を行う(検査工程)。導通していないことが確認できれば、絶縁層8の絶縁性が確保されていることが確認できる。
【0046】
本実施形態も、複数の保護層に対応する保護部分10が1つの検査用端子16と接続されているように設け、この検査用端子16を用いて検査を行うことで1度の導通チェックで複数のエネルギー発生素子12に対応する絶縁層の検査をまとめて行うことができる。これにより効率的に複数のエネルギー発生素子12を被覆する複数の絶縁層8の検査を行うことができる。
【0047】
本実施形態は、接続部分30と保護部分10とを形成する層を共通化させることで、接続部30を構成する専用層と保護層10との電気的接続を簡単な構成とすることができる。
【0048】
次に、金属層300の接続部分30をエッチングして除去し、エネルギー発生素子12の上側に其々位置し、それぞれが電気的に分離された、複数の保護層10に加工する(図6(b))。図7(c)に示した検査端子と接続部30との配置を行った場合には、図7(d)に示されるように、検査端子、接続部が除去されて複数の保護層に対応する保護部分10が電気的に分離される。これにより、記録動作中に何らかの要因で絶縁層に穴が生じても1つのエネルギー発生素子12とその保護層とのペア1つのみが導通し、保護層の酸化や溶出といった電気化学反応の他の保護層への連鎖を防止できる信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる。
【0049】
なお、絶縁層8の上の接続部分30は十分に除去されるようにドライエッチングすることが良く、絶縁層8の表面部分が除去される程度までオーバーエッチングすることが好ましい。絶縁層8の表面部にはこのようにオーバーエッチングを行うことで数nmの段差が生じるが、エネルギー発生素子12の部分上ではないため、吐出動作には影響しない。また、供給口45が開口される位置(端部)に張り出さないように接続部分30を除去することにより、保護層10が液体の流抵抗により剥離することを防止できる。
【0050】
以降、実施形態1と同様にして流路壁部材14、吐出口13、供給口45を形成する(図6(c))。
【0051】
なお、第2の実施形態に示すように供給口45をドライエッチング法を用いて形成しても良い。
【0052】
(第4の実施形態)
図1と同様の断面の位置でみた図8を参照して第4の実施形態を説明する。第3の実施形態は、流路壁部材14を設ける前に接続部分30を除去したが、本実施形態では第3の実施形態と異なり、流路壁部材14を設けた後に保護層10を除去する方法を示す。
【0053】
第3の実施形態と同様して保護部分10と接続部分30とを備えた金属層300が設けられた基体を用意する(図8(a))。
【0054】
次に、第3の実施形態と同様に、検査用端子16と、複数のエネルギー発生素子12と電気的に接続される端子17と、の間に電圧を印加して、エネルギー発生素子12と保護部分との間の絶縁層の絶縁の確認を行う(検査工程)。
【0055】
次に第3の実施形態と同様にして、流路壁部材14と吐出口13を設けて環化ゴム層15で流路壁部材14を保護する(図8(b))。
【0056】
次に、供給口45を形成し、さらに供給口45の上側の部分に位置する蓄熱層4や絶縁層8をドライエッチング法を用いて除去する。これも、第3の実施形態と同様に行うことができる。
【0057】
次いで、金属層300の材料を選択的にエッチングできるようなガスを用いて、金属層300の接続部分30をエッチングして除去し、エネルギー発生素子12の上側に其々位置し、それぞれが電気的に分離された、複数の保護層10が形成されるように加工する。このエッチングでは、専用のエッチングマスクを設けずに、供給口45の内壁、蓄熱層4、絶縁層8の開口部のいずれか一つ若しくは複数をエッチングマスクとして利用する。その後、環化ゴム層15と型材26を除去し、液体吐出ヘッド41が完成する(図8(c))。
【0058】
本実施形態のように、液体吐出ヘッド41の基体1の裏面から供給口45を通じて金属層300の接続部分30をエッチングすることにより、接続部分30を除去するための専用のエッチングマスクを形成する必要がなく、製造工程を削減することが出来る。
【0059】
なお、第3の実施形態及び第4の実施形態においてもドライエッチング法、レーザー加工およびそれらを組み合わせて供給口45を設けることもできる。
【0060】
またいずれの実施形態においても、図9(a)、(b)に示すように、エネルギー発生素子12の上以外の部分に、保護層10と同じ金属材料を用いて他の保護層20を設けてもよい。絶縁層8に穴等があると液体吐出ヘッド41の不良となるような部分に他の保護層20を設け、他の保護層20と下層との導通チェックすることにより、液体吐出ヘッド41の信頼性を確保することができる。他の保護層20を設ける部分としてはエネルギー発生素子12を駆動するかのON/OFFを出力するスイッチング素子や、これらに駆動信号を出力するAND回路やAND回路と端子17とを接続する配線等の駆動回路が挙げられる。
【0061】
他の保護層20を保護層10が接続されている検査用端子16と接続して設け、導通チェックを行うことで、エネルギー発生素子12の上の絶縁層8のみならず、スイッチング素子や駆動回路の上の絶縁層8の信頼性を、1度の導通チェックで確認できる。なお、他の保護層20と保護層10とを同じ金属材料層から設けることで、別途製造工程を増やす必要がなく、簡易に設けることができる。
【0062】
さらに供給口45が複数設けられている液体吐出ヘッドの場合には、其々の接続部分30を1つの検査用端子16と接続させることで、1度の導通チェックで検査することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 基体
5 液体吐出ヘッド用基板
6 発熱抵抗層
7 一対の電極
8 絶縁層
12 エネルギー発生素子
17 端子
30 接続部
41 液体吐出ヘッド
45 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電することで発熱する材料からなり、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数と、
絶縁性材料からなり、複数の前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられた絶縁層と、
金属材料からなり、複数の前記エネルギー発生素子それぞれに対応して前記絶縁層を被覆するように設けられた、複数の前記エネルギー発生素子を保護するための複数の保護層と、
を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
複数の前記エネルギー発生素子と、前記絶縁層と、複数の前記保護層と、がこの順に積層され、複数の前記エネルギー発生素子と複数の前記保護層との間の絶縁性を検査するための検査用端子と、該検査用端子と複数の前記保護層とを電気的に接続する接続部と、が設けられた基体を用意する用意工程と、
前記絶縁性を検査するために前記検査用端子と複数の前記エネルギー発生素子との間の導通を検査する検査工程と、
前記接続部の少なくとも一部を除去して、複数の前記保護層を互いに電気的に切断する切断工程と、
をこの順に行うことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記保護層は、タンタル、イリジウム及びルテニウムのいずれか1つからなることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記接続部は、液体を供給するための供給口となる前記基体を貫通する貫通口が設けられる位置の前記基体の上側に、設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記切断工程において、前記貫通口を前記基体に形成するとともに、複数の前記保護層を互いに電気的に切断することを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
複数の前記保護層と前記接続部とは、互いに別の層から形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記切断工程において、前記接続部の少なくとも一部はアルカリ性の溶液を用いたウェットエッチング法を用いて除去されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ性の溶液が前記接続部をエッチングするエッチングレートは、前記アルカリ性の溶液が前記基体をエッチングするエッチングレートより早いことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項8】
前記接続部は、アルミニウムを含む材料、又はポリシリコンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項9】
複数の前記保護層と前記接続部とは、前記金属材料からなる同一の層から形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項10】
液体吐出ヘッドの製造方法であって、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法を用いて液体吐出ヘッド用基板を用意する工程と、
液体を吐出するための吐出口と連通する流路の壁を有し、前記液体吐出ヘッド用基板と接することで前記流路を構成する流路壁部材を、前記液体吐出ヘッド用基板の上に設ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−45809(P2012−45809A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189512(P2010−189512)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】