説明

液体吐出装置

【課題】複数の液体種に対応した供給流路間における気泡の成長バランスに配慮された液
体吐出装置および液体吐出ヘッドを提供すること。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、ブラック、マゼンタ、シアン、イエローの各色インクに
対応した供給流路(フィルタ室)を形成する針部材31a〜31dを備えており、針部材
31a〜31dは、対応するインク種に応じてガス透過性が異なるように素材を違えて形
成されている。フィルタ室44a〜44dに滞留する気泡51a〜51dは、インクの自
己分解に伴うガス発生、および外郭45a〜45dを介したガス透過によって、好適なバ
ランスを保って一様に成長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置、ディスプレイ製造装置、電極形成装置、あるい
は、バイオチップ製造装置など、液体を吐出して描画等を行う液体吐出装置および液体吐
出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置として、紙への印刷に適したインクジェットプリンタ等があり、一
般的には、印刷用紙に対して往復動するキャリッジに、液体(インク)を微小なノズルか
ら吐出する液体吐出ヘッドを搭載した構成のものが知られている。このような液体吐出装
置は、液体を扱うことによる特有の課題を有しており、その一つは、インクの供給流路に
おける気泡の問題である。すなわち、インクの収容容器からノズルに至るまでの供給流路
内に滞留していた気泡が、吐出動作時に何らかのきっかけでノズルに流出したときに、吐
出不良を引き起こすことがある。
【0003】
そこで、上述の問題に鑑みて、滞留している気泡をインクと共に供給流路から強制的に
排出する、いわゆる回復動作(クリーニング動作)を行う液体吐出装置が提案されている
(例えば、特許文献1)。ここで、供給流路内の気泡は経時的に成長することが知られて
おり、気泡を排出するための回復動作は、その成長に合わせて適切なタイミングで行われ
ることが望ましい。気泡が回復動作によって排出されるためには、ある程度の大きさに成
長していることが必要であり、微小な気泡に対して回復動作を行っても、当該気泡に対し
て十分な排出力が作用せず、インクばかりが消費されて不経済だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−239679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明の発明者らは、供給流路に滞留する気泡の成長速度がインクの組成
によって異なることを新たに発見した。この場合、適切な回復動作のタイミングがインク
種毎に異なるため、回復動作を行ったときに、一のインク種に対応する供給流路からは気
泡を排出できても、他のインク種に対応する供給流路には気泡が残留したままであること
が起こり得る。このため、吐出不良のリスクが増大したり、回復動作を要するタイミング
の間隔が短くなってインクの消費量が増えてしまったりすることが起こり得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、複数の液体種に対応した供給
流路間における気泡の成長バランスに配慮された、液体吐出装置および液体吐出ヘッドを
提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液体を貯留する液体容器から当該液体をノズルに供給するための、少なくと
も2種以上の前記液体にそれぞれ対応した供給流路を備え、前記ノズルから前記液体を吐
出する液体吐出装置であって、前記供給流路を形成する一の部材を介したガス透過性が、
一の前記液体に対応する供給流路の場合と他の前記液体に対応する供給流路の場合とで異
なることを特徴とする。
【0008】
本願発明の発明者の知見によれば、供給流路における気泡の成長には、液体の含有成分
の自己分解によってガスを発生する自己分解モードと、供給流路の外郭を介したガス透過
による透過モードとが存在し、これら両モードにより気泡が成長する。この発明の液体吐
出装置によれば、供給流路を形成する一の部材を介したガス透過性が、一の液体に対応す
る供給流路の場合と他の液体に対応する供給流路の場合とで違えられているため、一およ
び他の液体間の自己分解モードの差を透過モードの差によって補償して、気泡の成長バラ
ンスの調整を図ることができる。
【0009】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記供給流路を形成する一の部材の材質
が、前記一の液体に対応する供給流路の場合と前記他の液体に対応する供給流路の場合と
で異なることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、一の部材を介したガス透過性について、比較的簡単
に、対応する液体種間の差を設けることができる。
【0010】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記供給流路を形成する一の部材におけ
る前記供給流路の外郭の肉厚が、前記一の液体に対応する供給流路の場合と前記他の液体
に対応する供給流路の場合とで異なることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、一の部材を介したガス透過性について、比較的簡単
に、対応する液体種間の差を設けることができる。
【0011】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、少なくとも前記一の液体に対応する前記
供給流路を形成する一の部材が、当該供給流路の外郭に関して少なくとも部分的に二層構
造を有していることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、供給流路を形成する一の部材のうちの一の層部分を
液体種によらず共通化することができるため、製造負荷が軽減される。
【0012】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記供給流路を形成する一の部材は、前
記供給流路において拡幅された流路を形成する部材であることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、気泡成長の著しい箇所である拡幅された流路におい
て、直接的に気泡の成長バランスの調整が図られるので、効率的に上述の効果を得ること
ができる。
【0013】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記供給流路を形成する一の部材は、フ
ィルタ部材を備えるフィルタ室を形成する部材であることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、気泡成長の著しい箇所である拡幅された流路におい
て、直接的に気泡の成長バランスの調整が図られるので、効率的に上述の効果を得ること
ができる。
【0014】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記2種以上の液体は、染料を含むイン
クであることを特徴とする。
さらに好ましくは、前記一ないし他の液体の少なくとも一方は、アゾ染料を含むインク
であることを特徴とする。
【0015】
これらの発明の液体吐出装置によれば、比較的自己分解のしやすい染料、特に自己分解
によって窒素ガスを発生しやすいアゾ染料を含有するインクを用いつつも、供給流路内の
気泡の成長バランスの調整を図ることができる。
【0016】
また好ましくは、前記液体吐出装置において、前記ノズルから前記液体を強制的に排出
させる強制排出手段を備えることを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、供給流路内の気泡成長のバランスが対応するインク
種間でほぼ均一化されているので、当該気泡を排出するためのいわゆる回復動作の適正タ
イミングも液体種によらずほぼ均一化されている。かくして、強制排出手段を用いた回復
動作により、効率的に各液体種に対応した供給流路内の気泡を排出することができる。
【0017】
本発明は、液体を貯留する液体容器から当該液体をノズルに供給するための、少なくと
も2種以上の前記液体にそれぞれ対応した供給流路を備え、前記ノズルから前記液体を吐
出する液体吐出ヘッドであって、前記供給流路を形成する一の部材を介したガス透過性が
、一の前記液体に対応する供給流路の場合と他の前記液体に対応する供給流路の場合とで
異なることを特徴とする。
この発明の液体吐出ヘッドによれば、供給流路を形成する一の部材を介したガス透過性
が、一の液体に対応する供給流路の場合と他の液体に対応する供給流路の場合とで違えら
れているため、一および他の液体間の自己分解モードの差を透過モードの差によって補償
して、気泡の成長バランスの調整を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る液体吐出装置を示す概略斜視図。
【図2】液体吐出ヘッドおよびその周辺の構造を模式的に示した一部破断の側面図。
【図3】(a)〜(d)は、フィルタ室内における気泡の状態を示す断面図。
【図4】(a),(b)は、本実施形態の効果を説明するための参照図。
【図5】第2実施形態に係る液体吐出装置を示す概略平面図。
【図6】圧力調整ユニットの要部構成を示す断面図。
【図7】第3実施形態に係る針部材の周辺構造を示す断面図。
【図8】(a),(b)は、ガス透過性調整部材の構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好まし
い種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定
する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置を示す概略斜視図である。図2は、液体吐出
ヘッドおよびその周辺の構造を模式的に示した一部破断の側面図である。
【0021】
図1において、液体吐出装置としてのプリンタ1は、用紙2に対して液体としてのイン
クを吐出して画像等の描画を行う装置である。プリンタ1は、インクを吐出する液体吐出
ヘッド3と、液体吐出ヘッド3を搭載するキャリッジ4と、キャリッジ4を往復動(主走
査)させる主走査機構5と、用紙2を移送(副走査)するプラテンローラ6と、液体吐出
ヘッド3のメンテナンスを行うメンテナンスユニット12と、を備えている。
【0022】
主走査機構5は、キャリッジ4と結合されるタイミングベルト8と、タイミングベルト
8を駆動するモータ9と、キャリッジ4のガイド軸をなすガイドロッド10と、を備えて
いる。キャリッジ4はタイミングベルト8を介してモータ9によって駆動され、ガイドロ
ッド10に沿って往復動(主走査)する。
【0023】
液体吐出ヘッド3から吐出するインクには、本実施形態の場合、ブラック、マゼンタ、
シアン、イエローの4色のものが使用され、キャリッジ4上に搭載された液体容器として
のインクカートリッジ7a〜7dにこれら各色のインクが収容されている。このインクカ
ートリッジ7a〜7dの底部には、図2に示すように、インクを導出する導出部17a〜
17dが設けられており、液体吐出ヘッド3のケース部材30に取り付けられた中空針状
の針部材31a〜31dと結合して、液体吐出ヘッド3にインクを供給するようになって
いる。
【0024】
図2において、針部材31a〜31dは導入孔41、導入路42を有する中空針状の部
材であり、連通路32aが形成されたケース部材30に溶着されて、インクを供給するた
めの供給流路を形成している。また、針部材31a〜31dとケース部材30との間には
、フィルタ部材43が配設されており、これにより、インクは、導入路42からフィルタ
部材43を通過して連通路32aに供給されることになる。
【0025】
フィルタ部材43は、通過するインク中に含まれる異物等をトラップするために設けら
れており、例えば、金属を細かく編みこむなどして形成されている。フィルタ部材43を
通過するインクには大きな抵抗(損失水頭)が作用することになるので、この抵抗を低減
するため、フィルタ部材43の近傍における供給流路は拡幅されたフィルタ室44aとな
っている。すなわち、針部材31a〜31dは、本発明におけるフィルタ室(供給流路)
を形成する部材である。
【0026】
マゼンタ、シアン、イエローのインクにそれぞれ対応する針部材31b,31c、31
dについても、基本的な構造はブラックインクに対応する針部材31aと同じである。た
だし、これらの材質は全く同じというわけではなく、意図的に複数の素材が使い分けられ
ている。この点についての詳細は後述する。
【0027】
針部材31a〜31dから導入されたインクは、それぞれ連通路32a〜32dを通っ
て図示しない液溜め室(リザーバ)に一一旦、収容され、リザーバと連通して図面垂直方
向に複数配された圧力室(キャビティ)33、ノズル34に充填される。そして、圧力室
33には圧電素子等の圧力発生手段(図示せず)が設けられており、この圧力発生手段の
駆動によりノズル34の開口からインク滴が吐出される。圧力発生手段の駆動による吐出
制御は、ノズル34毎に行うことが可能であり、かくして、主走査および副走査と同期さ
せて液体吐出ヘッド3のノズル34毎の吐出制御を行うことにより、用紙2(図1参照)
への画像形成(印刷動作)がなされる。
【0028】
再び図1に戻って、メンテナンスユニット12は、液体吐出ヘッド3の吐出面13の一
定領域を囲んで封止可能なキャップ部材15を備えている。キャップ部材15は、吐出面
13を覆うことで、ノズル34(図2参照)を粉塵や乾燥などから保護する役割を果たす
ほか、後述する吸引動作にも用いられる。
【0029】
メンテナンスユニット12はまた、ゴム等で形成された板状部材であるワイパブレード
14を有している。ワイパブレード14は、後述する回復動作において、吐出面13に付
着したインク等を払拭して除去するのに用いられる。
【0030】
図2において、キャップ部材15は、液体吐出ヘッド3の吐出面13と対向する側に開
口を有する箱型の弾性部材である。キャップ部材15は、上縁部分のシール部15bを液
体吐出ヘッド3の吐出面13に密着させることで、ノズル34の開口を封止(キャッピン
グ)することができる。
【0031】
キャップ部材15内には、スポンジや不職布などで形成された吸液材18が設けられて
いる。吸液材18は、キャッピングの状態においてノズル34の開口に面する空間15a
を保湿する役割を果たしており、ノズル34およびその近傍におけるインクの乾燥を抑え
る効果を発揮する。
【0032】
キャップ部材15の底部には連通管19が形成されており、連通管19は連通チューブ
21の一端と接続されている。連通チューブ21は、キャップ部材15がスライダー機構
などによって移動可能に構成されることに鑑みて、適度な可撓性を有していることが好ま
しい。また、空間15aと連通される空間を形成することに鑑みて、外郭を介したインク
の蒸発を抑えるためにガス遮断性に優れたものであることが好ましい。
【0033】
連通チューブ21の他端は、吸引ポンプ22と接続されている。吸引ポンプ22には、
小型で効率の良いチューブポンプなどが好適に用いられる。吸引ポンプ22は、連通チュ
ーブ21、連通管19を介して空間15aに負圧(大気圧に対して負である圧力)を発生
させることができる。
【0034】
かくして、キャッピングされた状態で吸引ポンプ22を駆動すると、空間15aに発生
する負圧によってノズル34からインクが強制的に排出され、いわゆる吸引動作を行うこ
とができる。すなわち、キャップ部材15、吸引ポンプ22は、強制排出手段を構成して
いる。この吸引動作は、ノズル34内方の供給流路における異物や気泡、乾燥して特性の
劣化(粘度の増加等)したインクなどを強制的に排出して、吐出性能の回復を図るのに用
いられる。吸引動作は、その目的に応じて吸引量や吸引速度を違えた複数のモードが用意
されているが、特に気泡の排出を目的とする吸引動作は、比較的多くの吸引量を必要とし
、インクの消費量が多いため、適切なタイミングで効率的に行うことが好ましい。
【0035】
ノズル34から吸引されたインクは、キャップ部材15、連通チューブ21、吸引ポン
プ22を通って廃液タンク23に排出される。排出されたインクは、不職布や吸液性ポリ
マーなどで構成された吸液材24に吸収されて保持される。
【0036】
次に、図3、図4を参照して、フィルタ室における気泡成長について説明する。図3(
a)〜(d)は、フィルタ室内における気泡の状態を示す断面図である。
【0037】
図3(a)は、インクカートリッジ7a〜7d(図2参照)を装着して液体吐出ヘッド
3の供給流路にインク50a〜50dをそれぞれ充填した直後の状態を示している。イン
ク50a〜50dの充填は上述した吸引動作によって行われるが、理想的にはフィルタ室
44a〜44dに気泡が存在しない状態が望ましい。しかし、気泡はフィルタ部材43を
通過する際に大きな抵抗を受けるので、気泡が微小な場合には吸引動作によって十分な移
動力を受けることができず、フィルタ室44a〜44dの上流側(インクカートリッジ7
a〜7dが装着される側)に微小な気泡51a〜51dが滞留することがある。
【0038】
このようにしてフィルタ室44a〜44dに滞留した気泡51a〜51dは、図3(b
)に示すように次第に大きく成長してゆく。このような気泡の成長の原因は、1つには、
インクカートリッジ7a〜7dの導出部17a〜17d(図2参照)などに引っかかって
いた気泡が流れ込んでくることによるものである。また、本願発明者の知見によれば、こ
のような気泡成長のモードの他に、インク50a〜50dの自己分解によってガスが発生
することによるモード(以下、自己分解モードとする)と、供給流路(フィルタ室44a
〜44d)の外郭45a〜45dを介してガスを取り込むことによるモード(以下、透過
モードとする)とがある。
【0039】
自己分解モードは、特に、比較的分解しやすい染料を含むインクにおいて、とりわけア
ゾ染料を含むインクにおいて顕著である。アゾ染料に含まれるアゾ基は分解によって窒素
ガスに変化するため、インクに含まれるアゾ染料が分解しやすい組成である場合には、時
間の経過と共にガスが放出されることになるためである。このように、自己分解モードに
よる気泡成長の速度は、インク50a〜50dに含まれる染料種や調整されるpHなどに
依存している。本実施形態においては、自己分解モードによるガスの発生は、ブラックイ
ンク50aで最も顕著であり、イエローインク50dがこれに次ぎ、マゼンタインク50
b、シアンインク50cではガスがあまり発生しない。
【0040】
透過モードは、外郭45a〜45dを透過するガスによって気泡51a〜51dを成長
させるものであり、このモードによる気泡成長の速度は、外郭45a〜45dのガス透過
性に依存することになる。本実施形態において針部材31a〜31dに用いられる素材が
使い分けられているのは、このような針部材31a〜31dを介したガス透過性を意図的
に制御して、透過モードの差によって自己分解モードの差を補償するためである。
【0041】
表1に、針部材31a〜31dに用いる素材の一例を示す。表中、PETはポリエチレ
ンテレフタレート(Poly Ethylene Terephthalate)、m−PPEは変性ポリフェニレン
エーテル(Modified Polyphenylene Ether)、PPSはポリフェニレンサルファイド(Po
ly Phenylene Sulfide)である。また、参考データとして示すガス透過率比は、PETを
基準とした場合における単位時間あたりの酸素ガス透過量の比を示している。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示す素材で針部材31a〜31dを形成した場合、フィルタ室44a〜44d間
における自己分解モードの差が補償されることになる。すなわち、自己分解モードの強い
ブラックインク50aに対応する針部材31aには、ガス透過しにくいPETを用い、自
己分解モードの弱いマゼンタインク50b、シアンインク50cに対応する針部材31b
,31cは、ガス透過しやすいm−PPEを用いることで、トータルとしての気泡成長の
速度差が小さくなるように調整しているものである。
【0044】
尚、表1に示す素材はあくまでも選択の一例であり、針部材31a〜31dの材質は上
述の組み合わせに限定されるものではないし、また、インク50a〜50dの組成の組み
合わせ(インクセット)が変われば、それに応じて適宜適切な素材を選択することが好ま
しい。例えば、変形例として、上述の実施形態とは異なるインクセットについて表2に示
す素材で針部材31a〜31dを形成することもできる。尚、表中、PENはポリエチレ
ンナフタレート(Poly Ethylene Naphtarete)、PBTはポリブチレンテレフタレート(
Poly Buthylene Terephthalete)である。
【0045】
【表2】

【0046】
また、針部材31a〜31dを介したガス透過性を制御するための変形例として、上述
の実施形態のように針部材31a〜31dの材質による方法ではなく、または材質による
方法と組み合わせて、外郭45a〜45dの肉厚による方法も考えられる。例えば、自己
分解モードが強いブラックインク50aに対応する外郭45aを、自己分解モードが弱い
マゼンタインク50b、シアンインク50cに対応する外郭45b,45cよりも厚く形
成することで、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
図3(b)において印刷動作が行われる場合、吐出によるインクの消費によってフィル
タ室44a〜44d内のインク50a〜50dは下流側(連通路32a〜32d側)に流
動する。これにより気泡51a〜51dもまた下流側に押されることになるが、気泡51
a〜51dが図示する程度の大きさであるときには、フィルタ部材43を通過することは
ない。
【0048】
ところが、気泡51a〜51dが成長を続けて図3(c)に示すほどに大きくなると、
フィルタ部材43の広範な領域が閉塞されることになって、インク50a〜50dの供給
が不足したり、気泡51a〜51dがフィルタ部材43を容易に通過して、吐出不良を引
き起こす危険性が高くなる。
【0049】
このため、本実施形態のプリンタ1(図1参照)は、先に説明した吸引動作を定期的に
、あるいはユーザの命令によって適宜実行し、大きく成長した気泡51a〜51dを強制
的にノズル34(図2参照)から排出するようになっている。この場合、フィルタ室44
a〜44d間における気泡成長の速度バランスが好適に調整されているので、気泡51a
〜51dの大きさも概ね均一であり、図3(d)に示すように、吸引動作によって気泡5
1a〜51dを一度に排出させることが可能である。気泡の大きさが均一ならば、吸引動
作による当該気泡の排出性もほぼ均一となるからである。
【0050】
図4(a),(b)は、本実施形態の効果を説明するための参照図であって、従来技術
におけるフィルタ室内の気泡の状態を示している。
【0051】
従来技術の場合、針部材101a〜101dは、上述の実施形態のように材質を違えて
形成されていない。このため、インク種による自己分解モードの差はそのまま気泡成長の
速度差として反映され、図4(a)に示すように、ブラックインク50aに対応するフィ
ルタ室102aの気泡103aは大きく、マゼンタインク50bに対応するフィルタ室1
02bの気泡103bは小さいといった状況が起こり得る。
【0052】
このような状況において吸引動作を施した場合、図4(b)に示すように、大きな気泡
103aは排出できても、比較的小さな気泡103b〜103dは排出できないことがあ
る。小さな気泡103b〜103dに対しては、吸引動作を行ってもインク50b〜50
dが当該気泡の周囲を迂回するように流動し、フィルタ部材43を通過させるだけの移動
力を十分に与えられないためである。
【0053】
かくして、吐出不良の危険性の高いタイミングがインク種毎に分散することとなり、吐
出不良を回避するためには、気泡を除去するための吸引動作を頻繁に行わなければならな
いという問題が発生する。すなわち、本発明の実施形態によれば、インク種間の気泡の成
長バランスの調整が図られているため、このような吐出不良の危険性が低減され、吸引動
作を要する頻度が低減されるわけである。
【0054】
(第2実施形態)
次に、図5、図6を参照して本発明の第2実施形態について説明する。尚、以下では、
先の説明と重複する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、相違点を中心に説明
する。図5は、第2実施形態に係る液体吐出装置を示す概略平面図である。図6は、圧力
調整ユニットの要部構成を示す断面図である。
【0055】
図5において、プリンタ60は、いわゆるオフキャリッジタイプとよばれる構成の液体
吐出装置である。すなわち、プリンタ60は、キャリッジ4の外部に固定されたインクカ
ートリッジ65a〜65dから供給システム68によって液体吐出ヘッド3にインクを供
給し、印刷動作を行う。
【0056】
供給システム68は、各色インクを収容したインクカートリッジ65a〜65dを挿着
するためのカートリッジホルダ61と、圧縮空気を生成する加圧ポンプ67と、当該圧縮
空気をインクカートリッジ65a〜65dに移送する送気管66a〜66dと、を備えて
いる。また、供給システム68は、インクカートリッジ65a〜65dからインクを移送
するための供給管63a〜63dと、液体吐出ヘッド3の針部材31a〜31d(図2参
照)とそれぞれ接続する圧力調整ユニット62a〜62dと、を備えている。この構成に
より、圧縮空気によって加圧されたインクは、供給管63a〜63d、圧力調整ユニット
62a〜62dを経て、液体吐出ヘッド3に供給される。すなわち、供給管63a〜63
d、圧力調整ユニット62a〜62dは、供給流路を形成している。
【0057】
圧力調整ユニット62a〜62dは、加圧供給されてくるインクを適度に減圧するため
の機能を果たしており、図6に示すような要部構造となっている。すなわち、圧力調整ユ
ニット62aは、合成樹脂からなる基材252と、基材252の両面に溶着されたフィル
ム248、フィルム249と、フィルム249に張り合わされた受圧板254とを備えて
いる。そして、インクを導入する導入路251、導入室250、圧力室246、導入室2
50と圧力室246とを連通する貫通孔245、圧力室246から針部材31a(図3参
照)へインクを導出する導出路253が形成されている。
【0058】
圧力調整ユニット62aは、圧力室246から導入室250へのインクの供給調整を行
う圧力調整弁232を備えている。圧力調整弁232は、貫通孔245に挿通された軸部
255aと、軸部255aの一端側に形成された円板部255bとからなる弁体255を
備えている。弁体255の円板部255bの一面は、バネ257の一端に当接しており、
バネ257の他端はバネ座258に当接している。弁体255の軸部255aの他端側は
、フィルム249を介して受圧板254に対向している。かくして、閉弁状態においては
、図示するように、弁体255がバネ257によって図の右方に付勢され、導入室250
と圧力室246の間の連通が遮断されている。
【0059】
圧力室246のインクが消費されて内圧が一定値以下に低下すると、フィルム249は
当該内圧と大気圧との差によって撓み、受圧板254はフィルム249の撓みに連動して
矢印Bの方向に移動する。そして、圧力室246の内圧低下と共に受圧板254がバネ2
60を圧縮し、さらに弁体255を図面左方に付勢して開弁状態にする。このとき、イン
クが導入室250から圧力室246内に流入して圧力室246の内圧が補償され、再び閉
弁状態に戻る。このように、閉弁状態、圧力室246の内圧低下、開弁状態、圧力室24
6の内圧補償、閉弁状態、を繰り返すことにより、圧力室246の内圧(液体吐出ヘッド
3への供給圧)は常に所定の値に保たれることとなる。
【0060】
図5、図6において、このようなオフキャリッジタイプのプリンタ60の場合には、各
インク種に対応する供給流路間での気泡成長の速度を調整するために、供給流路を形成す
る供給管63a〜63dや圧力調整ユニット62a〜62dの外郭部材について、材質、
肉厚などをインク種に応じて違えることも有効である。
【0061】
特に、圧力室246は、供給流路において拡幅された流路となっていて、フィルタ室4
4a〜44d(図3参照)と同様に供給流路の中でも気泡成長の著しい箇所であるので、
フィルム249、基材252について、透過モードの差を設けることは有効である。但し
、フィルム249をインク種によって違える場合、フィルム249の撓みやすさは圧力調
整弁232の作動圧にも影響するため、十分注意を払う必要がある。
【0062】
(第3実施形態)
次に、図7、図8を参照して、本発明の第3実施形態について、第1実施形態との相違
点を中心に説明する。
図7は、第3実施形態に係る針部材の周辺構造を示す断面図である。図8は、筒状体の
構造を示す斜視図である。
【0063】
図7および図8(a)に示すように、本実施形態における針部材31aは、樹脂製の基
体46と、基体46の内側に配設される金属製の筒状体70とを備えている。筒状体70
の周面71と基体46の内壁面47とは密着しており、これにより、フィルタ室44aの
(上流側における)外郭は金属層と樹脂層の二層構造となっている。
【0064】
フィルタ室44aの外郭は、ガスバリア性に優れた金属層を有しているため、自己分解
モードの強いブラックインクがフィルタ室44aに充填された状態にあっても、その気泡
成長を好適に抑制することができる。また、図8(b)に示すように、筒状体70の周面
71に貫通孔72を設けるなどして周面71の有効面積を調整し、フィルタ室44aの外
郭におけるガス透過性をコントロールすることも可能である。また、上述の場合において
、対応するインク種に応じて周面71の有効面積を違えることで、気泡成長速度の均一化
を図るようにしてもよい。
【0065】
このように、針部材を部分的に二層構造とした場合には、基体46の部分をインク種に
よらず共通化することができるため、製造負荷が軽減される。
【0066】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、オフキャリッジタイプの液体吐出装置には、特開2003−211688号公
報に示すような圧力ダンパによって形成される供給流路を備えるものもあるが、この場合
においては、圧力ダンパの外郭部材について、対応するインク種に応じてガス透過性を違
えてもよい。
また、供給流路を形成する部材についてガス透過性をコントロールする方法としては、
部材の材質、肉厚による方法の他に、当該部材の外面に被膜(金属塗装など)を形成する
ことによる方法も考えられる。
また、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他
の構成と組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…液体吐出装置としてのプリンタ、3…液体吐出ヘッド、4…キャリッジ、7a〜7
d…液体容器としてのインクカートリッジ、13…吐出面、15…強制排出手段を構成す
るキャップ部材、22…強制排出手段を構成する吸引ポンプ、23…廃液タンク、30…
ケース部材、31a〜31d…フィルタ室(供給流路)を形成する部材としての針部材、
32a〜32d…連通路、34…ノズル、41…導入孔、42…導入路、43…フィルタ
部材、44a〜44d…フィルタ室、45a〜45d…外郭、46…基体、47…内壁面
、50a…ブラックインク、50b…マゼンタインク、50c…シアンインク、50d…
イエローインク、51a〜51d…気泡、60…液体吐出装置としてのプリンタ、62a
…圧力調整ユニット、62a〜62d…圧力調整ユニット、63a〜63d…供給流路を
形成する部材としての供給管、65a〜65d…液体容器としてのインクカートリッジ、
68…供給システム、70…筒状体、71…周面、249…拡幅された供給流路を形成す
る部材としてのフィルム、252…拡幅された供給流路を形成する部材としての基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体容器から当該液体をノズルに供給するための、少なくとも2種以上
の前記液体にそれぞれ対応した供給流路を備え、前記ノズルから前記液体を吐出する液体
吐出装置であって、
前記供給流路と外部との間の少なくとも一部の部材は、第1の液体に対応する第1の供
給流路の場合と前記第1の液体と異なる第2の液体に対応する第2の供給流路の場合とで
、互いに異なるガス透過性を持った材質からなることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1の供給流路と外部との間の少なくとも一部の部材が、前記第2の供給流路と共
通する材質の層と、前記第2の供給流路には無い材質の層との二層構造を有していること
を特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記供給流路において他の部分に比べて拡幅された部分と外部との間の少なくとも一部
の部材の材質が、前記第1の供給流路と前記第2の供給流路とで異なることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記供給流路中のフィルタよりも上流側の供給路と、外部との間の少なくとも一部の部
材の材質が、前記第1の供給流路と前記第2の供給流路とで異なることを特徴とする請求
項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1の液体は、自己分解によってガスを発生させる液体であることを特徴とする請
求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記第1の液体は前記第2の液体よりもガスを発生させやすい液体であり、前記第1の
供給流路と外部との間の少なくとも一部の部材は前記第2の供給流路と外部との間の少な
くとも一部の部材よりもガス透過性が低い材質であることを特徴とする請求項1乃至請求
項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記ノズルから前記液体を強制的に排出させる強制排出手段を備えることを特徴とする
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−101704(P2009−101704A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28180(P2009−28180)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【分割の表示】特願2006−55872(P2006−55872)の分割
【原出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】