説明

液体吐出装置

【課題】圧電素子を利用した液体吐出装置において、高粘度の液体を高周波数で吐出させた際に発熱した圧電素子を冷却し、圧電の電気特性の低下やインク特性の劣化を防止する。
【解決手段】この液体吐出装置は、液滴が吐出される吐出口103を形成するオリフィスプレート102と、列状に並んだ複数の空間を形成するように間隔をおいて配置された複数の圧電素子101と、を備える。該複数の空間が該圧電素子の配列方向にて交互にインク室104および温調液体専用流路105として用いられている。インク室104は吐出用の液体が供給される流路を形成し、かつ吐出口103に連通している。温調液体専用流路105は圧電素子101の温度を調整する温調用の液体が流れるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
圧電素子により液体を吐出する液体吐出装置を冷却するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体吐出装置において、UVインクや、プリンテッドエレクトロニクスで使用されるはんだペーストなど、高粘度液体吐出への要求が高まってきている。
【0003】
図3に液体吐出装置の一例を示す。複数の溝が所定の間隔をもって略平行に配列されており、各々の溝の両側壁が圧電素子301によって構成されている。このような溝が形成された溝形成部材における各溝の長手方向一端および上部は開放されているが、それぞれがオリフィスプレート302およびカバープレート304によって封鎖される。各々の溝はその配列方向にて交互にインク室305およびエア室306として用いられる。オリフィスプレート302には各インク室305に連通するノズル303が形成されており、ノズル302からインクが吐出される。また、インク室305に相当する溝の長手方向の、ノズル303とは反対側の端部はインク供給口307として開放され、これにより、インクは共通液室(不図示)から各インク室305のインク供給口307より供給される。
【0004】
このような構成は吐出効率が良く、大きな吐出圧力を発生できるため、高粘度液体を高周波で吐出するのには適していると言える。その反面、圧電素子を使用した液体吐出装置は、一般に、圧電素子に印加する駆動電圧と周波数により誘電損失が発生し、温度上昇を引き起こす。圧電素子による発熱は、圧電の電気特性の低下やインク特性の劣化を招くといった問題があった。
【0005】
従来、液体吐出装置には、様々な温度調整手段を備えたものが提案されている。例えば、特許文献1では、インク室間にエア室が設けられた構成において、このエア室内に温度調整したエアを送り込むことで液体吐出装置の温度調整を行なう方法が提案されている。また、特許文献2では、液体吐出装置のインク供給系をインクが循環する構成にすることで、液体吐出装置の冷却を行なう方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−181819号公報
【特許文献2】特開2006−116949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した、誘電損失による発熱量は、印加電圧の二乗に比例して大きくなり、周波数に比例して大きくなる。高粘度液体を吐出する場合、低粘度液体に比べて大きな電圧を圧電素子に印加する必要があり、さらに高周波数での液滴吐出を行なうと、発熱量が増大し、圧電の電気特性の低下を招くという問題が発生する。
【0008】
上記特許文献1では、インクの温度に応じて温度調整したエアをエア流路に送り出しているが、高粘度インクを高周波数で吐出することによる発熱を吸熱するためには、高い熱伝達率が求められ、かなり高速な流速でエアを流さなければならない。
【0009】
また、上記特許文献2では、インク供給系を循環供給系にして、循環するインクを液体吐出装置の冷却に使用しているが、特許文献2中(図5)に示される液体吐出装置においては圧電素子の端しか冷やすことが出来ず、大きな冷却効果を望むことは出来ない。また、吐出用インクを冷却に用いているため、吸熱したインクの温度上昇がインクの吐出特性の悪化を招く可能性がある。
【0010】
そこで本発明は、液体吐出装置で高粘度の液体を高周波数で吐出させた際に発熱した圧電素子を冷却し、圧電の電気特性の低下を防止することのできる液体吐出装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための、本発明は、液滴が吐出される吐出口を形成する吐出口形成部材と、列状に並んだ複数の空間を形成するように間隔をおいて配置された複数の圧電素子と、を備える液体吐出装置において、
該複数の空間が該圧電素子の配列方向にて交互に第一液室および第二液室として用いられており、
該第一液室は吐出用の液体が供給される流路を形成し、かつ該吐出口に連通しており、
該第二液室は該圧電素子の温度を調整する温調用の液体が流れる温調液体専用流路を形成していることを特徴とする。この構成により、温調した液体による高い熱伝達率で圧電素子を直接冷却することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高粘度液体を高周波で吐出した液体吐出装置の圧電素子の発熱を温調液体によって吸熱することができ、圧電素子の温度上昇を抑えることが出来る。これにより、圧電素子の電気特性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による液体吐出装置に設けられる圧電素子の断面図。
【図2】本発明の実施形態による液体吐出装置の構成を説明するための図。
【図3】従来技術による液体吐出装置の構成を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示する。
【0015】
図1は本発明による液体吐出装置に適用される圧電素子の配列方向の断面図であり、分極方向と変形の様子を示す。
【0016】
図1(a)に示される圧電素子101は圧電シートを2層積層した構造であり、黒塗りの矢印で示すように圧電素子101の各層が、積層方向にて互いに逆向きに分極している。圧電素子101はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)などの、圧電特性を示す材料からなる。圧電素子101は所定の空間を隔てて列状に複数配列されている。そして、圧電素子101の片側に位置する空間は第一液室であるインク室104として用いられ、もう片側に位置する空間は第二液室である温調液体専用流路105として用いられる。圧電素子101の両側面に電極120が配置され、例えば蒸着により形成することが出来る。
【0017】
電極120に図1(b)に示すような電圧を印加すると、圧電素子101のせん断モードにより、インク室104の両側壁を成す圧電素子101が、それぞれインク室104を収縮する方向に変形する。これによりインクへ圧力が加わって、吐出用の液体であるインクが吐出口から吐出する。なお、図1に示すように圧電素子101の片側面に温調液体専用流路105が隣接しており、温調液体専用流路105を流れる温調用の液体により圧電素子101を効率良く温調することが出来る。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態による液体吐出装置の構成を示した構成図である。図2(a)は、圧電素子1の上端に固定されるカバープレートを図示しない図で、図2(b)は該カバープレートを含めた液体吐出装置の全体模式図である。
【0019】
図2(a)を参照すると、複数の溝が所定の間隔をもって略平行に配列されており、各々の溝の両側壁が圧電素子101によって構成されている。このような溝が形成された溝形成部材における各溝の長手方向一端および上部は開放されているが、それぞれがオリフィスプレート(吐出口形成部材)102およびカバープレート(不図示)によって封鎖される。各々の溝はその配列方向にて交互にインク室104および温調液体専用流路105として用いられる。オリフィスプレート102には各インク室104に連通するノズル(インク吐出口)103が形成されており、吐出用の液体であるインクがノズル103から吐出される。インク室104に相当する溝の長手方向の、ノズル103とは反対側の端部はインク供給口108として開放される。また、複数のインク室104へインクを同時供給するための共通液室109が設けられている。
【0020】
さらに詳述すると、圧電素子101は上述した2つの異なる分極方向を持つ2層からなっており、インク室104および温調液体専用流路105を構成する溝106および107が刻まれている。圧電素子101の積層シートをダイサーでカットすることにより溝106,107を形成する。インク室104を形成する溝106は一様の深さにカットしてなる。温調液体専用流路105を形成する溝107はノズル103側から離れるほど深さが徐々に浅くなるようにしてある。
【0021】
さらに図2(b)に示すように、インク室104および温調液体専用流路105の溝の上部はカバープレート121によって覆われており、カバープレート121は三枚のカバープレート110,111,112を積層した積層体である。カバープレート110〜112の積層体には温調液体を温調液体専用流路105に供給するための、供給流路(113,114,115,116)が設けられている。
【0022】
第一のカバープレート110はインク室104および温調液体専用流路105の溝の上部を覆う。そして当該カバープレート110には、温調液体専用流路105の長手方向の一端に温調液体を導入するための入口115、および温調液体専用流路105の長手方向の他端から温調液体を導出するための出口116が設けられている。第二のカバープレート111には、温調液体を入口115へ供給し、出口116からの排出を行なうための温調液体供給手段117への流路113,114が形成されている。流路113および流路114は温調液体が互いに行き来しないように仕切られている。流路113は一または複数の温調液体専用流路105に対応して設けられる一または複数の入口115に連通されるが、流路114は一または複数の温調液体専用流路105に対応して設けられる一または複数の出口116に連通されている。第三のカバープレート112は、流路113、流路114、入口115および出口116を覆うように構成されている。
【0023】
オリフィスプレート102、カバープレート110〜112、および共通液室109を形成した部材には、SUSやシリコンや金属プレート等を使用することができる。作製方法は、エッチングやプレス、レーザ加工、電鋳などを用いることが出来る。
【0024】
温調液体供給手段117は、ペルチェなどの温度調節手段118を用いて温調液体を所定の温度に調整し、ポンプ119により循環させる。温調液体は例えば水などのインクよりも熱伝導率の高い液体を使用する。また所定の温度とは、例えば40℃のようなインクの吐出特性が安定する所望の温度のことである。ここでいう温調液体とは、圧電素子101の発熱時には冷却を行ない、寒冷地などにおいて液体吐出装置の使用開始時には加熱を行ない、圧電素子101の温度を一定に保つための液体を意味する。
【0025】
図2中の点線矢印で示したインクの流れについて説明する。共通液室109に連通したインク供給口108を通して、インク室104へインクが供給される。共通液室109のインクは、所定の圧力に調整されており、必要に応じてインク粘度を一定に保つために、共通液室に設けられた不図示の温調素子で温度調節も行なわれる。図1で示したように圧電素子120に駆動電圧を印加することで圧電素子101が変形し、インク室104の容積に変化が与えられて、インクに圧力が加えられる。インクに加えられた圧力が伝搬し、インク吐出口103からインク滴が吐出される。このインク吐出のための駆動電圧は、高粘度液体を吐出する際には大きな圧力が必要となるため、高い電圧になる。また、高周波数で駆動電圧を印加した場合、高い電圧とあいまって、圧電素子の誘電損失による大きな発熱を引き起こすことがある。
【0026】
ここで、図2中の実線矢印で示した温調液体の流し方を説明する。温調液体供給手段117により循環された温調液体は、第二のカバープレート111の流路113の温調液体供給口113aから供給される。第二のカバープレート111には、例えば温調液体専用流路105の2列分の幅の流路113が構成され、これにより、供給流抵抗を下げる働きと、ヘッド全体の温度を一定にする効果がある。流路113の、ノズルプレート102近くの位置まで来た温調液体は、第一のカバープレート110の、各温調液体専用流路105への入口115を通って、温調液体専用流路105に達する。その後、温調液体は、温調液体専用流路105をインク滴の吐出方向とは逆の方向に流れ、第一のカバープレート110の出口116を通って、第二のカバープレート111に達する。ここで、例えば温調液体専用流路105の2列分の幅を持つ流路114に合流し、流路114の温調液体排出口114aを通って温調液体供給手段117へ戻る。
【0027】
このように、温調液体専用流路105の吐出口103側の部分から温調液体を供給して、温調液体の流れる方向をインクの流れる方向と逆にすることにより、吐出インクの滴化状態に大きく影響を与えるメニスカス近傍の温度を一定にすることもできる。
【0028】
なお、本発明を適用できる液滴吐出装置について述べてきたが、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する主旨のものではない。たとえば、圧電素子101は2層構造である必要はなく1層でも良い。またカバープレート121の構成についても、温調液体の供給流路を形成していれば良く、2枚以下もしくは4枚以上であっても良い。さらに、温調液体の流路113,114は、複数列の温調液体専用流路105との接続であれば2列に限定されるものではなく、温調液体供給口113aや温調液体排出口114aの設置位置も図に記載の位置でなくても良い。
【0029】
以上のような本実施形態の液滴吐出装置により、高粘度液体を高周波で吐出した場合でも、温度上昇による圧電素子の特性劣化を低減することが出来る。
【実施例1】
【0030】
本発明を好適に実施できる液体吐出装置の実施例を示す。
【0031】
インク室104および温調液体専用流路105になる各々の溝の幅は例えば60μmで、溝の深さは例えば250μm、溝の長さは例えば10mmとすることが出来る。
【0032】
インク吐出口としてのノズル103は例えばφ30μmの円筒形状であるが、ノズルプレート102のおもて面側がφ30μmの開口でインク室104側がφ50μmの開口を持つテーパ形状の貫通孔とすることも出来る。
【0033】
なお、インク室104および温調液体専用流路105になる溝のサイズ、およびノズル103の開口のサイズは上記した値に限定されるものではなく、また、インク吐出口形状も円筒形やテーパ孔に限定されない。
【0034】
圧電素子101はインクにも接しているため、温調液体のみならずインクにも熱が伝わる。例えば、4[pl]の液滴を100[kHz]で連続吐出した場合、上記インク室104におけるインク流速は0.03[m/s]になる。そのため温調液体の流速は、このインクの流速よりも速い速度に設定し、熱伝達率が常にインクよりも温調液体の方が高い状態にすることで、インクへの温度影響を低減することが出来る。
【0035】
以上の構成における、圧電素子の発熱量と、温調液体による吸熱量の関係を示す。
【0036】
式(1)は、圧電素子の誘電損失による発熱量を表す式である。
【0037】
【数1】

【0038】
ここで、fは駆動周波数100[kHz]、εは誘電率1.5e-8[F/m]、dは圧電素子の厚さ60[μm]、Eは電界667[kV/m]、tanδは誘電損失0.32[%]とすると、発熱量P は約400[W/m2]となる。
【0039】
次に式(2)に水による熱伝達率を示す。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、uは水の速度0.04[m/s]、ρは水の密度996[kg/m3]、Cpは水の比熱4177[J/Kg・K]、λは熱伝導率0.6104[W/m・K]、Lは代表長さ5.125[mm]、νは動粘性係数8.57e-7[m2/s]とすると、熱伝達率は2203[W/m2・K]となる。
【0042】
水は、液体の中でも比較的高い熱伝導率を示し、かつ大きな比熱を有するため、式(2)より高い熱伝達を得られる液体として使用することが出来る。
【0043】
発熱面積と吸熱面積が同じだとすると、温調液体専用流路105は両サイドの圧電素子101の発熱を吸熱するため800[W/m2]の発熱量を2203[W/m2・K]の熱伝達率で吸熱することになる。これにより、水の温度プラス0.37[K]まで圧電素子の温度上昇を抑えることが出来、十分に温調できると言える。
【0044】
しかもこの場合は、当然ながら水の温度以下になることは無く、温調のオーバーシュート等の問題は発生しない。
【0045】
このように、本発明の構成の液体吐出装置を用いることにより、圧電素子の発熱量を上回る吸熱量を得ることが出来、圧電素子の性能劣化を防止して常に安定した吐出性能を確保することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高粘度の液滴を高周波数で吐出する液体吐出装置、例えばUVインクや、インクに限らず、プリンテッドエレクトロニクスで使用されるはんだペーストなどを吐出してパターン印刷や塗布を行う印刷装置や塗布装置などに適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
101 圧電素子
102 オリフィスプレート
103 インク吐出口
104 インク室
105 温調液体専用流路
106、107 圧電素子の溝
108 インク供給口
109 共通液室
110〜112 カバープレート
113、114 温調液体循環用の流路
115 温調液体専用流路の入口
116 温調液体専用流路の出口
117 温調液体供給手段
118 温度調節手段
119 ポンプ
120 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が吐出される吐出口を形成する吐出口形成部材と、
列状に並んだ複数の空間を形成するように間隔をおいて配置された複数の圧電素子と、
を備える液体吐出装置において、
前記複数の空間が前記圧電素子の配列方向にて交互に第一液室および第二液室として用いられており、
前記第一液室は吐出用の液体が供給される流路を形成し、かつ前記吐出口に連通しており、
前記第二液室は前記圧電素子の温度を調整する温調用の液体が流れる温調液体専用流路を形成していることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記圧電素子に隣接している前記温調液体専用流路における前記温調用の液体の流れの方向が、前記第一液室において前記吐出用の液体が流れる方向とは逆の方向であることを特徴とする、請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記温調用の液体が前記吐出用の液体よりも高い熱伝達率を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記温調用の液体を供給する供給流路が、複数の前記温調液体専用流路に接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235481(P2011−235481A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107198(P2010−107198)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】