説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】液体噴射時のクロストークを防止することが可能な液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル23に連通する主圧力室20を隔壁37によって複数区画し、当該圧力室の開口面を封止する作動面(弾性膜16)を圧電素子18によって変形させて当該圧力室内のインクに圧力変動を生じさせることで当該圧力室に連通するノズルからインクを噴射させる記録ヘッドにおいて、ノズル形成基板15には、主圧力室とノズルとを連通する副圧力室36が、複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、副圧力室のノズル列設方向の幅は、主圧力室の同方向の幅よりも狭い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッド、および、これを搭載する液体噴射装置に関し、特に、ノズルに連通する圧力室の一部を構成する作動面を変形させることで当該圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることによりノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴としてノズルから噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクをインク滴として噴射させて記録を行うインクジェット式記録装置(プリンター)等の画像記録装置を挙げることができる。また、この他、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタに用いられる色材、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイに用いられる有機材料、電極形成に用いられる電極材等、様々な種類の液体の噴射に液体噴射装置が用いられている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンターに搭載される記録ヘッドは、インクカートリッジ等のインク供給源からのインクを圧力室に導入し、圧電素子を作動させて圧力室の開口を封止する作動面を変形させて当該圧力室内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用して圧力室内のインクをノズルからインク滴として噴射するように構成されたものがある。このような記録ヘッドでは、記録画像の画質向上に対応するべく、複数のノズルを高密度に配設している。これにより、各ノズルに連通している圧力室も高い密度で形成されており、その結果、隣り合う圧力室やその他の流路同士を区画する隔壁は非常に薄くなる傾向にある。そのため、隣接するノズル間において所謂隣接クロストークが問題となる。
【0004】
この点に関し、圧力室(圧力発生室)を2段構造とし、圧電素子に近い側(以下、1段目)の圧力室を幅広とする一方、圧電素子から遠い側(以下、2段目)の圧力室を幅狭とすることで、隔壁の剛性を高めた構成も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−287360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の構成では、圧電素子側の圧力室に対して2段目の圧力室とノズルの位置が互いに反対側に位置し、圧力室からノズルに至るまでの流路が複雑となり、その分凹凸が生じるため、気泡が滞留する等の不具合が生じる可能性があった。
【0007】
なお、このような問題は、インクを噴射する記録ヘッドを搭載したインクジェット式記録装置だけではなく、複数の圧力室を、間に隔壁を隔てて有し、圧力室の開口面を封止する作動面を圧電素子によって変形させることで圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることによりノズルから液体を噴射させる他の液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、気泡の滞留を防止しつつ液体噴射時のクロストークを防止することが可能な液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、複数のノズルが形成されたノズル形成基板と、
各ノズルにそれぞれ連通する主圧力室を隔壁によってノズル列設方向に複数区画した流路形成基板と、
前記主圧力室の開口面を封止する作動面を変形させて当該主圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
を備え、前記圧力発生手段を駆動することで前記主圧力室に連通するノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル形成基板には、前記主圧力室と前記ノズルとを連通する副圧力室が、前記複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、
前記副圧力室のノズル列設方向の幅は、前記主圧力室の同方向の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ノズル形成基板には、主圧力室とノズルとを連通する副圧力室が、複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、副圧力室のノズル列設方向の幅は、主圧力室の同方向の幅よりも狭く設定されたので、目標とする流路抵抗およびイナータンスを確保しつつ隔壁全体の剛性を高めることができる。このため、圧力発生手段を作動させてノズルから液体を噴射させる際に主圧力室および副圧力室の内圧が上昇したときに隔壁が隣接する圧力室側に変形する(撓む)ことが抑制される。これにより、液体噴射時の圧力損失が低減され、隣接するノズル間におけるクロストークが防止される。その結果、クロストークに起因する液体噴射特性(ノズルから噴射される液体の量や飛翔速度)の変動を抑制することができる。また、ノズルと主圧力室との間に副圧力室が形成されていることで、ノズルよりも上流側の空間を従来構造のものよりも広く、特に、ノズル列に直交する方向に広く確保することができる。これにより、気泡の滞留を抑制することができ、気泡の滞留を起因とする噴射不良を防止することができる。
【0011】
また、上記構成において、前記副圧力室のノズル列設方向に直交する方向の長さが、前記主圧力室の同方向の長さに揃えられた構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成によれば、主圧力室と副圧力室との間に不要な段差が生じないので、両者間での液体の流れが円滑となり、気泡の滞留をより確実に防止することができる。
【0013】
さらに、上記構成において、前記副圧力室が、ノズル列設方向の幅が異なる複数の圧力室空部から成り、
各圧力室空部の幅が、前記主圧力室側から前記ノズル側に向かうほど狭くなる構成を採用することができる。
【0014】
この構成によれば、副圧力室同士を区画する隔壁の剛性をより高めることができる。その結果、より確実にクロストークを防止することが可能となる。
【0015】
また、本発明の液体噴射装置は、複数のノズルが形成されたノズル形成基板と、
各ノズルにそれぞれ連通する主圧力室を隔壁によってノズル列設方向に複数区画した流路形成基板と、
前記主圧力室の開口面を封止する作動面を変形させて当該主圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
を有し、前記圧力発生手段を駆動することで前記主圧力室に連通するノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
前記ノズル形成基板には、前記主圧力室と前記ノズルとを連通する副圧力室が、前記複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、
前記副圧力室のノズル列設方向の幅は、前記主圧力室のノズル列設方向の幅よりも狭いことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する図である。
【図3】ノズル形成基板の平面図である。
【図4】第2実施形態の構成を説明する記録ヘッドの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2を搭載したインクジェット式記録装置(以下、プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0018】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8と、を備えている。
【0019】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルスが図示しないプリンターコントローラーに送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。このため、プリンターコントローラーは、受信したエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置を認識できる。即ち、例えば、受信したエンコーダーパルスをカウントすることで、キャリッジ4の位置を認識することができる。これにより、プリンターコントローラーはこのリニアエンコーダー10からのエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作を制御することができる。
【0020】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズル形成基板15:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0021】
図2は、本実施形態の記録ヘッド2の構成を示す図であり、(a)は記録ヘッド2の平面図、(b)は(a)におけるA−A′線断面図、(c)は(a)におけるB−B′線断面図である。また、図3は、ノズル形成基板15の平面(上面)図である。なお、図2および図3ではノズル4つ分の構成を例示しているが、残りの他のノズルに対応する構成も同様である。本実施形態における記録ヘッド2は、流路形成基板14、ノズル形成基板15、弾性体膜16、絶縁体膜17、圧電素子18、及び、保護基板19等を積層して構成されている。
【0022】
流路形成基板14は、例えば、ステンレス鋼等の金属板材またはシリコン単結晶基板から成る板材である。この流路形成基板14には、複数の主圧力室20が、隔壁37を間に挟んでその幅方向(ノズル列方向)に並設されている。流路形成基板14の主圧力室20の長手方向外側の領域には連通部21が形成され、連通部21と各主圧力室20とが、主圧力室20毎に設けられたインク供給路22を介して連通されている。なお、連通部21は、後述する保護基板19のリザーバー部29と連通して各主圧力室20の共通のインク室となるリザーバー30の一部を構成する。インク供給路22は、主圧力室20よりも狭い幅で形成されており、連通部21から主圧力室20に流入するインクに対して一定の流路抵抗を付与する。流路形成基板14におけるこれらの主圧力室20やインク供給路22等の流路は、異方性エッチングにより形成されている。
【0023】
流路形成基板14の一方の面((図2(b)において下側の面))には、各主圧力室20に対応して複数の副圧力室36および複数のノズル23が開設されたノズル形成基板15が、接着剤等により接合されている。本実施形態におけるノズル形成基板15は、シリコン単結晶基板から成る板材である。副圧力室36は、ノズル形成基板15の流路形成基板14との接合面である上面側から板厚方向の途中までエッチングによって形成されている。同様にノズル23は、副圧力室36の底部からノズル形成基板15の下面(インクが噴射される側の面)に貫通する状態でエッチングによって形成されている。なお、副圧力室36の詳細については後述する。
【0024】
流路形成基板14の他方の面には、例えば二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜16が形成されている。この弾性膜16における主圧力室20の開口を封止する部分は、本発明における作動面に相当する。また、この弾性膜16上には酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜17が形成され、さらに、この絶縁体膜17上には下電極24と、圧電体25と、上電極26とが形成され、これらが積層状態で圧電素子18(圧力発生手段の一種)を構成している。一般的には、圧電素子18の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極(正極又は個別電極)及び圧電体25を主圧力室20毎にパターニングして構成する。そして、パターニングされた何れか一方の電極及び圧電体25から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。なお、本実施形態では、下電極24が圧電素子18の共通電極とされ、上電極26が圧電素子18の個別電極とされているが、圧電体25の分極方向や駆動回路や配線の都合等によってこれらを全体的に逆にする構成とすることもできる。何れの場合においても、主圧力室20毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、このような各圧電素子18の上電極26には、例えば、金(Au)等からなるリード電極27がそれぞれ接続されている。
【0025】
流路形成基板14上の圧電素子18側の面には、圧電素子18に対向する領域にその変位を阻害しない程度の大きさの空間となる圧電素子保持部28を有する保護基板19が接合されている。さらに、保護基板19には、流路形成基板14の連通部21に対応する領域にリザーバー部29が設けられている。このリザーバー部29は、主圧力室20の並設方向に沿って長尺な矩形の開口形状を有する貫通穴として保護基板19に形成されている。そして、リザーバー部29は、上述したように流路形成基板14の連通部21と連通して各主圧力室20の共通のインク室となるリザーバー30を構成している。
【0026】
また、保護基板19の圧電素子保持部28とリザーバー部29との間の領域には、保護基板19を厚さ方向に貫通する貫通孔31が設けられ、この貫通孔31内に下電極24の一部及びリード電極27の先端部が露出されている。保護基板19上には、封止膜32及び固定板33とからなるコンプライアンス基板34が接合されている。封止膜32は、可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイドフィルム)からなり、この封止膜32によってリザーバー部29の一方面が封止されている。また、固定板33は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼等)で形成される。この固定板33のリザーバー30に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部35となっているため、リザーバー30の一方面は可撓性を有する封止膜32のみで封止されている。
【0027】
そして、上記構成の記録ヘッド2では、インクカートリッジ等のインク供給手段からインクを取り込み、リザーバー30からノズル23に至るまで内部をインクで満たした後、プリンター本体側からの駆動信号の供給により、主圧力室20に対応するそれぞれの下電極24と上電極26との間に両電極の電位差に応じた電界を付与し、圧電素子18および作動面(弾性膜16)を撓み変形させることにより主圧力室20およびこれに連通する副圧力室36内の圧力を変動させる。この圧力変動を制御することで、ノズル23からインクを噴射させたり、或いは、インクが噴射されない程度にノズル23におけるメニスカスを微振動させたりする。
【0028】
ここで、本発明に係る記録ヘッド2においては、主圧力室20の上部開口の面積、つまり、当該主圧力室20を封止している作動面の面積に関し、圧電素子18を駆動したときの当該作動面の圧力室内側(ノズル23側)への最大変位量が設計上の目標値となるように定められている。換言すると、目標とする最大変位量が得られるようなコンプライアンス(柔らかさ)を作動面に対して付与するべく主圧力室20の開口面積が設定されている。これに応じて、図2(b)および図2(c)に示すように、主圧力室20のノズル列方向の寸法(幅)Waおよびノズル列に直交する方向の寸法(長さ)Lが定められている。したがって、隣り合う主圧力室20同士を区画する隔壁37の厚さは、主圧力室20の幅Waとノズル23の形成ピッチとに応じて一意的に定まる。この隔壁37の厚さは、この種の従来の記録ヘッドにおける圧力室間の隔壁の壁厚と同程度となっている。これに対し、主圧力室20の縦方向(ノズル形成基板15に垂直な方向の高さ)の寸法(深さ)Da、即ち、隔壁37の高さは、作動面が圧力室内側に最大限変位した際に当該作動面に主圧力室20と副圧力室26との間の段差が干渉しない範囲で、最小限の寸法に設定されている。この隔壁37の高さは、従来の記録ヘッドにおける圧力室間の隔壁の高さよりも十分に低くなっており、これにより、剛性が高められている。
【0029】
ところで、主圧力室20の縦方向の寸法Daを単に従来のものよりも低くした場合、その分、従来構造の圧力室と比較して容積が小さくなるため、主圧力室20におけるイナータンスや流路抵抗などが従来の圧力室のものと異なることになる。その結果、圧電素子18を駆動してノズル23からインクを噴射したときに目標とするインクの量や飛翔速度等の噴射特性が得られない虞があった。この点に鑑み、本発明に係る記録ヘッド2では、上述したように、ノズル形成基板15に副圧力室36が形成されており、この副圧力室36と主圧力室20とを併せた空間全体が圧力室となっている。そして、この副圧力室36と主圧力室20とを併せた圧力室全体の流路抵抗およびイナータンスが設計上の目標値となるように副圧力室36の寸法が定められている。具体的には、副圧力室36のノズル列に直交する方向の寸法(長さ)は、主圧力室20の同方向の寸法Lに揃えられている一方、副圧力室36のノズル列方向の寸法(幅)Wbは、主圧力室20の同方向の寸法Waよりも狭くなっている。したがって、副圧力室同士を区画する隔壁38の壁厚は、主圧力室同士を区画する隔壁37の壁厚よりも厚くなっている。このため、隔壁38の剛性は、隔壁37の剛性よりも高くなっている。また、副圧力室36の深さ(隔壁38の高さ)Dbは、主圧力室20の深さDaと同程度か又は少し低くなっている。
【0030】
このように構成することで、圧電素子18および作動面の変位を阻害することなく、また、目標とする流路抵抗およびイナータンスを確保しつつ隔壁全体の剛性を高めることができる。このため、圧電素子18を作動させてノズル23からインクを噴射させる際に主圧力室20および副圧力室36の内圧が上昇したときに隔壁37,38が隣接する圧力室側に変形する(撓む)ことが抑制される。これにより、インク噴射時の圧力損失が低減され、隣接するノズル間におけるクロストークが防止される。その結果、クロストークに起因するインク噴射特性(ノズル23から噴射されるインクの量や飛翔速度)の変動を抑制することができる。また、隔壁の耐久性が高まるため、記録ヘッド2の信頼性を向上させることが可能となる。さらに、ノズル23と主圧力室20との間に副圧力室36が形成されていることで、ノズル23よりも上流側の空間を従来構造のもの(圧力室とノズルを連通するノズル連通孔)よりも広く、特に、ノズル列に直交する方向に広く確保することができる。これにより、インクの流れが円滑になり、ノズル23の近傍における気泡の滞留を抑制することができる。その結果、気泡の滞留を起因とする噴射不良を防止することができる。そして、本実施形態では、副圧力室36のノズル列に直交する方向の寸法(長さ)は、主圧力室20の同方向の寸法Lに揃えられているので、主圧力室20と副圧力室36との間におけるノズル列に直交する方向の両端部に不要な段差が生じない。このため、両者間でのインクの流れが円滑となり、ノズル23の近傍における気泡の滞留をより確実に防止することができる。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態における記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。上記の第1実施形態では、ノズル形成基板15に副圧力室36が1つ形成された構成を例示したが、これには限られず、本実施形態のように、ノズル列設方向の幅が異なる複数の圧力室空部から副圧力室36を構成することも可能である。本実施形態における副圧力室36は、合計3つの圧力室空部36a〜36cから成り、各圧力室空部36a〜36cの幅は、主圧力室20側に位置するものほど広く、ノズル23側に位置するものほど狭くなっている。このような構成を採用することにより、隔壁38の剛性がより高められ、クロストークをより確実に防止することが可能となる。なお、その他の構成については上記第1実施形態と同様である。
【0032】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として所謂撓み振動型の圧電素子18を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。
【0033】
なお、本発明は、複数の圧力室を隔壁によって複数区画し、圧力室の開口面を封止する作動面を圧力発生手段によって変位させることでノズルからインク等の液体を噴射させる液体噴射ヘッドおよびこれを備える液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…プリンター,2…記録ヘッド,14…流路形成基板,15…ノズル形成基板,16…弾性膜,18…圧電素子,20…主圧力室,23…ノズル,36…副圧力室,37…隔壁,38…隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが形成されたノズル形成基板と、
各ノズルにそれぞれ連通する主圧力室を隔壁によってノズル列設方向に複数区画した流路形成基板と、
前記主圧力室の開口面を封止する作動面を変形させて当該主圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
を備え、前記圧力発生手段を駆動することで前記主圧力室に連通するノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル形成基板には、前記主圧力室と前記ノズルとを連通する副圧力室が、前記複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、
前記副圧力室のノズル列設方向の幅は、前記主圧力室の同方向の幅よりも狭いことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記副圧力室のノズル列設方向に直交する方向の長さは、前記主圧力室の同方向の長さに揃えられたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記副圧力室は、ノズル列設方向の幅が異なる複数の圧力室空部から成り、
各圧力室空部の幅は、前記主圧力室側から前記ノズル側に向かうほど狭くなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
複数のノズルが形成されたノズル形成基板と、
各ノズルにそれぞれ連通する主圧力室を隔壁によってノズル列設方向に複数区画した流路形成基板と、
前記主圧力室の開口面を封止する作動面を変形させて当該主圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
を有し、前記圧力発生手段を駆動することで前記主圧力室に連通するノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
前記ノズル形成基板には、前記主圧力室と前記ノズルとを連通する副圧力室が、前記複数の主圧力室にそれぞれ対応してノズル列設方向に複数形成され、
前記副圧力室のノズル列設方向の幅は、前記主圧力室のノズル列設方向の幅よりも狭いことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−148536(P2012−148536A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10581(P2011−10581)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】