説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】液体を効率良く加熱することができる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル27が開設されたノズルプレート22、および、圧力室31を含むインク流路を有する流路ユニット21と、圧電素子35と、当該圧電素子の駆動に係る駆動IC52と、インク導入路42を有するユニットケース26と、を備えたヘッドユニット16であって、駆動ICは、ノズルプレートおよびユニットケースに接触または熱伝導性部材を介して接合された状態で配置された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関するものであり、特に、液体を加熱して当該液体の粘度を低下させる構成を採用する液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
ところで、近年、紫外線などの光のエネルギーの照射によって硬化する光硬化型インクが画像等の印刷の際に用いられることがある。この光硬化型インクは、インク吸収性の乏しい記録媒体に対しても、光を照射することで硬化して定着するので、例えば、樹脂フィルムに対する画像の記録やその他の様々な用途に用いられている。しかしながら、この光硬化型インクは、一般の水系のインクよりも粘度が高い傾向にある。例えば、水系のインクの常温(例えば、20℃)における粘度が8mPa・s未満であるのに対して、光硬化型インクの常温における粘度は8mPa・s以上である。このような所謂高粘度領域のインクを液体噴射ヘッドで噴射するには、インクの粘度を噴射に適した程度(例えば、5mPa・s)まで低下させる必要がある。このため、ヒーターなどの加熱手段によってインクを加熱することで、当該インクの粘度を低下させる構成を採用した液体噴射ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−233903号公報
【特許文献2】特開2011−050837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体噴射ヘッドの外部に加熱手段を設け、この加熱手段の熱によってインクを加熱しても、インク温度が上昇し難いという問題があった。この場合、常温のインクを噴射に適した温度(例えば、40℃)まで加熱するには、より高い温度での加熱が必要となり、消費電力が大きくなるばかりでなく、ヘッドの寿命を低下させてしまう虞があった。
【0006】
また、液体噴射ヘッドの内部に加熱手段を設ける場合、その分のスペースが必要となり、液体噴射ヘッドが大型化するという問題があった。大型化を避けるために加熱手段の配置スペースを小さくした場合には、ヘッド流路を流れるインクを十分に加熱することが困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体を効率良く加熱することができる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが開設されたノズルプレート、および、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生手段を駆動させる駆動ICと、
前記流路ユニットの液体流路に液体を導入する液体導入路を有し、前記流路ユニット、前記圧力発生手段、および、前記駆動ICが配設されるケース部材と、を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記駆動ICは、前記ノズルプレートおよび前記ケース部材に接触または熱伝導性部材を介して接合された状態で配置されたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、駆動ICの熱がノズルプレートおよびケース部材に伝達することで、圧力室に供給される前の液体導入路内の液体と、ノズル内および圧力室内の液体との両方が加熱されるので、液体を加熱するための加熱手段を別途設けることなく液体の粘度を効率良く短時間で低下させることができる。これにより、所謂高粘度領域の液体を扱う場合においても安定した噴射特性(液体重量、飛翔速度等)を得ることができる。
【0010】
また、上記構成において、前記ノズルプレートと前記ケース部材とが、金属から作製された構成を採用することができる。
【0011】
上記構成において、前記熱伝導性部材が、金属を含有する接着剤である構成を採用することができる。
或いは、上記構成において、前記熱伝導性部材が、金属である構成を採用することもできる。
【0012】
また、本発明の液体噴射装置は、液体を噴射するノズルが開設されたノズルプレート、および、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生手段の駆動に係る駆動ICと、
液体供給源からの液体を前記流路ユニットの液体流路側に導入する液体導入路を有し、前記流路ユニット、前記圧力発生手段、および、前記駆動ICが配設されるケース部材と、を備えた液体噴射ヘッドを搭載する液体噴射装置であって、
前記駆動ICは、前記ノズルプレートおよび前記ケース部材に接触または熱伝導性部材を介して接合された状態で配置されたことを特徴とする。
【0013】
上記構成において、前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段を備え、
前記液体噴射ヘッドのノズルから液体を噴射する噴射動作に先立って、前記圧力発生手段に対し、前記ノズルから液体が噴射されない程度に当該圧力発生手段を駆動する予備パルスを印加する構成を採用することが望ましい。
【0014】
上記構成において、前記予備パルスは、電位が第1の極性側に変化する第1の変化部と、電位が前記第1の極性とは反対の第2の極性側に変化する第2の変化部と、を含み、
前記第1の変化部の時間幅が、前記圧力室内の液体に生じる固有振動周期Tc以下に設定され、
前記第2の変化部の時間幅が、前記Tcの整数倍に設定された構成を採用することができる。
【0015】
また、前記駆動ICが収容された空部内の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記温度検出手段による検出温度に応じて、前記圧力発生手段に対する前記予備駆動パルスの印加数または当該予備パルスの電圧の少なくとも一方が変更される構成を採用することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドを斜め上方から観た分解斜視図である。
【図3】ヘッドユニットの分解斜視図である。
【図4】ヘッドユニットの断面図である。
【図5】プリンターの電気的な構成を説明するブロック図である。
【図6】予備パルスの構成の一例を示す波形図である。
【図7】プリンターの動作について説明するフローチャートである。
【図8】検出温度に対する予備パルスの駆動電圧および印加数を定めた対応表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(本発明の液体噴射装置の一種)を例に挙げて行う。
【0018】
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対して液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6(搬送機構11の一部)等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0019】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。この他、プリンター1には、図示しない給紙トレイから給紙された記録媒体2を、主走査方向に直交する副走査方向に搬送する搬送機構11(図5参照)や、キャリッジ3に搭載された記録ヘッド3の走査位置を検出するリニアエンコーダー12(図5参照)等を備えている。
【0020】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。本実施形態における記録ヘッド3は、ケース15と、複数のヘッドユニット16と、ユニット固定板17と、ヘッドカバー18とにより概略構成されている。
ケース15は、ヘッドユニット16や、当該ヘッドユニットへインクを供給する供給流路(図示せず)を収容する箱体状部材であり、上面側に針ホルダー19が形成されている。この針ホルダー19は、インク導入針20を取り付けるための板状部材であり、本実施形態においてはインクカートリッジ7のインク色に対応させて8本のインク導入針20がこの針ホルダー19に横並びに配設されている。このインク導入針20は、インクカートリッジ7内に挿入される中空針状の部材であり、先端部に開設された導入孔(図示せず)からインクカートリッジ7内に貯留されたインクをケース15内の供給流路を通じてヘッドユニット16側に導入する。
【0021】
また、ケース15の底面側には、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態で各ヘッドユニット16に対応した4つの開口部17′を有する金属製のユニット固定板17に接合されると共に、同じく各ヘッドユニット16に対応する4つの開口部18′が開設された金属製のヘッドカバー18によって固定される。
【0022】
図3は、ヘッドユニット16(本発明の液体噴射ヘッドの一種)の構成を示す分解斜視図であり、図4は、ヘッドユニット16の断面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。本実施形態におけるヘッドユニット16は、主にノズルプレート22、流路基板23、保護基板24、及び、コンプライアンス基板25から成る流路ユニット21と、圧電素子35(本発明における圧力発生手段の一種)と、を備え、これらの部材が積層された状態でユニットケース26(本発明におけるケース部材に相当)に取り付けられている。
【0023】
ノズルプレート22は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル27を列状に開設した金属製(例えば、ステンレス鋼製)の板材である。本実施形態では、300dpiに対応するピッチで300個のノズル27を列設することでノズル列(ノズル群の一種)が構成されている。本実施形態においては、当該ノズルプレート22に2つのノズル列が形成されている。
【0024】
流路基板23は、その上面に二酸化シリコンからなる弾性膜30が熱酸化によって形成されている。また、この流路基板23には、異方性エッチング処理によって複数の隔壁で区画された圧力室31が各ノズル27に対応して複数形成されている。この流路基板23における圧力室31の列の外側には、各圧力室31の共通のインクが導入される室としての共通液室32(リザーバーあるいはマニホールドとも呼ばれる)の一部を区画する連通空部33が形成されている。この連通空部33は、インク供給路34を介して各圧力室31と連通している。共通液室32からインク供給路34および圧力室31を介してノズル27に通じる一連の流路は、本発明における液体流路に相当する。
【0025】
流路基板23の中央部には、板厚方向を貫通した状態で、平面視でノズル列方向に沿って長尺な矩形状の開口を有する挿通部45が開設されている。この挿通部45は、後述する駆動IC52が挿通される貫通穴である。流路基板23の上面に形成された弾性膜30上には、金属製の下電極膜(共通素子電極)と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層と、金属からなる上電極膜(個別素子電極)と(何れも図示せず)を順次積層することで形成された圧電素子35が圧力室31毎に複数列設されている。本実施形態において、2列のノズル列に対応して2列の圧電素子列が、ノズル列方向で見て圧電素子35が互い違いとなる状態でノズル列に直交する方向に並設されている。この圧電素子35は、所謂撓みモードの圧電素子であり、圧力室31の上部を覆うように形成されている。
【0026】
圧電素子35からは、電極配線部48が弾性膜30上にそれぞれ延出されており、これらの電極配線部の電極端子48a,48b(電極パッド)に相当する部分に、フレキシブルケーブル49の一端部の端子が接続される。このフレキシブルケーブル49は、例えば、ポリイミド等のベースフィルムの表面に銅箔等で導体パターンを形成し、この導体パターンをレジストで被覆した構成とされる。本実施形態においては、2列の圧電素子列に対応して2枚のフレキシブルケーブル49a,49bが設けられている。これらのフレキシブルケーブル49a,49bの一端側には、圧電素子35を駆動する駆動IC52(52a,52b)がそれぞれ実装されている。各圧電素子35は、駆動IC52を通じて上電極膜および下電極膜間に駆動信号(後述)が印加されることにより変形するように構成されている。この駆動IC52に関し、他端側の略半分がフレキシブルケーブル49に固定されている一方、残りの一端側の部分はフレキシブルケーブル49に固定されていない。また、フレキシブルケーブル49における駆動IC52とは反対側の面には、ヘッドユニット16内部の温度を検出するサーミスター53(温度検出手段の一種)が実装されている。サーミスター53の検出温度は、後述するプリンターコントローラー61のCPU64に出力される。
【0027】
上記圧電素子35が形成された流路基板23上には、貫通空部36を有する保護基板24が配置される。この保護基板24における貫通空部36は、流路基板23の連通空部33と連通して共通液室32の一部を区画する。また、保護基板24には、圧電素子35に対向する領域に当該圧電素子35の駆動を阻害しない程度の大きさの圧電素子収容空部37が形成されている。さらに、保護基板24において、隣り合う圧電素子列の間には、基板厚さ方向を貫通した配線空部38が形成されている。この配線空部38内には、平面視において、圧電素子35の電極端子48a,48bと、各圧電素子列にそれぞれ対応したフレキシブルケーブル49a,49bの一部が配置されると共に、各フレキシブルケーブル49a,49bに実装された駆動IC52a,52bがそれぞれ配置される。
【0028】
保護基板24の上面側には、コンプライアンス基板25が配置される。このコンプライアンス基板25における保護基板24の貫通空部36に対向する領域には、インク導入針20側からのインクを共通液室32に供給するためのインク導入口40が厚さ方向に貫通して形成されている。また、このコンプライアンス基板25の貫通空部36に対向する領域のインク導入口40及び後述する貫通口25a以外の領域は、極めて薄く形成された可撓部41となっており、この可撓部41によって貫通空部36の上部開口が封止されることで共通液室32が区画形成される。そして、この可撓部41は、共通液室32内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能する。さらに、コンプライアンス基板25の中央部には、貫通口25aが形成されている。この貫通口25aは、ユニットケース26の空部44(44a,44b)と連通する。また、貫通口25aは、配線空部38および挿通部45と一連に連通する。コンプライアンス基板25とユニットケース26とが接合された状態において、貫通口25aにはユニットケース26の仕切壁46(後述)の底面が臨む。挿通部45に露出したノズルプレート22と仕切壁46との間の空間は、駆動IC52a,52bが収容されるIC収容空部として機能する。そして、IC収容空部の上下方向の内寸は、駆動IC52a,52bの幅(図4における上下方向の寸法)よりも僅かに大きく設定されている。
【0029】
ユニットケース26は、インク導入針20側から導入されたインクを、インク導入口40を通じて共通液室32側に供給するインク導入路42(本発明における液体導入路に相当)が形成されると共に、可撓部41に対向する領域にこの可撓部41の膨張を許容する凹部43が形成された部材である。本実施形態におけるユニットケース26は、ノズルプレート22と同様にステンレス鋼等の金属から作製されている。このユニットケース26の中心部には、平面視でノズル列方向に沿って長尺な矩形状の開口を有する空部44が、各ノズル列に対応して2箇所開設されている。これらの空部44a,44bは、中央部の仕切壁46によって仕切られている。この仕切壁46は、ノズル列方向に対応する方向の両端部がユニットケース26の本体部に繋がる梁状の壁である。そして、この仕切壁46の両側の空部44a,44bは、コンプライアンス基板25の貫通口25aと連通する。これにより形成される空間内には、フレキシブルケーブル49a,49bがそれぞれ収容される。
【0030】
ヘッドユニット16を製造する際には、まず、ノズルプレート22と流路基板23とが接着等により接合されて、流路基板23の上面に弾性膜30が形成された後、各圧力室31に対応させて圧電素子35が焼成により形成される。この上に、保護基板24およびコンプライアンス基板25が積層されて流路ユニット21が組み立てられる。流路ユニット21が組み立てられたならば、各圧電素子列の電極端子48a,48bに対して、それぞれフレキシブルケーブル49a,49bの配線が行われる。即ち、各圧電素子列の電極端子48a,48bに相当する部分に、フレキシブルケーブル49a,49bの一端部の端子がそれぞれ電気的に接続される。この際、フレキシブルケーブル49a,49bの駆動IC52a,52bは、挿通部45に挿通されて、当該挿通部45内に露出しているノズルプレート22に一端面(図4における下側の面)を、熱伝導性を有する接着剤B(本発明における熱伝導性部材の一種)を介して接合される。これにより、駆動IC52a,52bは、ノズルプレート22に対して起立した姿勢で配設される。熱伝導性を有する接着剤Bとしては、例えば、熱伝導性を高める充填剤として金属やカーボンを含有する接着剤(例えば、放熱用シリコーン接着剤)、或いは、それ自体の(充填剤を含まない状態で)熱伝導率が1以上の接着剤(例えば、熱伝導性エポキシ接着剤など)を用いることができる。
【0031】
最後に、流路ユニット21とユニットケース26が接着剤により接合される。この際、ユニットケース26の仕切壁46の底面と各駆動IC52a,52bの他端面とは、熱伝導性を有する接着剤Bにより接合される。これにより、各駆動IC52a,52bは、ノズルプレート22とユニットケース26とに接着剤Bを介して間接的に接触する状態でIC収容空部に配置される。接着剤Bは、熱伝導性を有し、また、駆動IC52とノズルプレート22およびユニットケース26との密着性を高めるので、駆動IC52の熱をノズルプレート22およびユニットケース26側に効率良く伝達させることができる。また、IC収容空部の上下方向の内寸は、駆動IC52の幅よりも僅かに大きく設定すると共に、駆動IC52と、ノズルプレート22およびユニットケース26との間に接着剤Bを介在させることで、駆動IC52とIC収容空部との間の寸法誤差が吸収される。
【0032】
図5は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置60は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの電子機器である。この外部装置60は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0033】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構11、キャリッジ移動機構5、リニアエンコーダー11、記録ヘッド3(ヘッドユニット16)、及び、プリンターコントローラー61を有する。プリンターコントローラー61は、プリンターの各部の制御を行うための制御ユニットである。プリンターコントローラー61は、インターフェース(I/F)部63と、CPU64と、記憶部65と、駆動信号生成部66(本発明における駆動パルス生成手段に相当)と、を有する。インターフェース部63は、外部装置からプリンター1へ印刷データや印刷命令を送ったり、外部装置がプリンター1の状態情報を受け取ったりする等プリンターの状態データの送受信を行う。CPU64は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部65は、CPU64のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU64は、記憶部65に格納されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0034】
CPU64は、リニアエンコーダー11から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。このタイミングパルスPTSは、駆動信号生成部66が発生する駆動信号の発生開始タイミングを定める信号である。つまり、駆動信号生成部66は、このタイミングパルスを受信する毎に駆動信号を出力する。そして、CPU64は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部66による駆動信号の生成等を制御する。また、CPU64は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成してヘッドユニット16に出力する。ヘッドユニット16の駆動IC52は、プリンターコントローラー61からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、ヘッドユニット16の圧電素子35に対する駆動信号の駆動パルスの印加制御を行う。
【0035】
駆動信号生成部66は、プリンターコントローラー61から送られた駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部66は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号を生成する。この駆動信号は、記録媒体2に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時、或いは、印刷処理を行う前の発熱処理時(後述)に圧電素子35に印加されるものであり、インクの噴射に用いられる噴射駆動パルスや、ノズル27からインクが噴射されない程度に圧力室31内のインクに圧力変動を生じさせる予備パルス等を含む。
【0036】
本発明に係るプリンター1では、圧電素子35を駆動する際に駆動IC52から発せられる熱を利用して、ヘッドユニット16内の流路のインクを加熱することに特徴を有している。上述したように、駆動IC52(52a,52b)は、ノズルプレート22とユニットケース26とに接着剤Bを介して接触する状態で配置されているので、当該駆動IC52から発生した熱は、ノズルプレート22とユニットケース26の両方にそれぞれ伝達される。これにより、これらの部材を介してヘッドユニット16内の流路のインクが加熱される。より具体的には、インク導入口40内のインクがヘッドユニット16を介して加熱されると共に、ノズル27内および圧力室31内のインクがノズルプレート22を介して加熱される。本実施形態においては、例えば、常温(20℃前後)における粘度が10mPa・s以上の光硬化型インク等の高粘度インクを、所定の温度(例えば、40℃)まで加熱することにより、粘度を5〜6mPa・sまで低下させる。そして、プリンター1では、ノズル27からインクが噴射されない程度に圧電素子35を駆動する予備パルス(図6)を全ての圧電素子35に対して所定回数だけ連続的に印加することで駆動IC52を発熱させる発熱処理を、印刷処理を開始する前に実行し、印刷処理を開始する時点でヘッドユニット16内のインクの粘度が上記の値となるようにしている。
【0037】
図6は、発熱処理で用いられる予備パルスVPの構成の一例を説明する波形図である。本実施形態における予備パルスVPは、基準電位VBから膨張電位VLまでマイナス側(第1の極性側)に電位が変化して圧力室31を膨張させる第1の変化部p1と、膨張電位VLを一定時間維持するホールド部p2(ホールド部)と、膨張電位VLから基準電位VBまでプラス側(第1の極性側とは逆の第2の極性側)に電位を緩やかに変化させて圧力室31を収縮させる第2の変化部p3と、から構成される。この予備パルスVPの第1の変化部p1の時間幅t1および第2の変化部p3の時間幅t3に関し、時間幅t1は、インクの攪拌効果を得るべくTc以下に設定される。急激な膨張に対して反動で吐出することを避けるため、Tcの0.5倍以上の値が望ましい。また、時間幅t3は、圧力室31内のインクに生じる振動のヘルムホルツ周期(固有振動周期)Tcの整数倍に設定されている。これにより、圧力室31を膨張又は収縮させたときに、固有振動モードの励振を抑制することができ、ノズル27からインクが噴射されることが防止される。本実施形態においては、t1=Tc、t3=2×Tcに設定されている。なお、Tcは、一般的には次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√〔(Mn+Ms)/(Mn×Ms×(Cc+Ci))〕…(1)
上記式(1)において、Mnはノズル27におけるイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量)、Msはインク供給路34におけるイナータンス、Ccは圧力室31のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)、Ciはインクのコンプライアンス(Ci=体積V/〔密度ρ×音速c〕)である。
【0038】
この予備パルスVPが圧電素子35に印加されると、まず、第1の変化部p1によって圧電素子35は圧力室31から離隔する方向に撓み、これにより圧力室31が基準電位VBに対応する収縮容積から膨張電位VLに対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、ノズル27におけるメニスカスが圧力室31側に引き込まれる。そして、この圧力室31の膨張状態は、ホールド部p2の供給期間中に亘って維持される。その後、第2の変化部p3が印加されることで圧電素子35が圧力室31側に撓む。この圧電素子35の変位により、圧力室31は膨張容積から収縮容積まで収縮される。この一連の圧力室31の膨張・収縮により、圧力室31内のインクにはノズル27からインクが噴射されない程度の圧力変動が生じる。これにより、ノズル27内や圧力室31内のインクが攪拌される。即ち、予備パルスVPは、所謂微振動パルスとしても機能する。
【0039】
図7は、本実施形態におけるプリンター1の動作を説明するフローチャートである。まず、ステップS1において、プリンター1の電源が投入される(電源ON)。或いは、プリンター1にインクカートリッジ7が新たに装着された場合、インクカートリッジ7のインクがヘッドユニット16内部に充填される(初期充填)。このように、プリンター1の電源が投入された後や初期充填の後であって発熱処理が行われる前においては、ヘッドユニット16のインク流路内に満たされているインクの温度は比較的低い温度(例えば、15℃)となっている。続いて、プリンターコントローラー61は、サーミスター53からヘッドユニット16内部の温度を取得する(ステップS2)。
【0040】
温度を取得したならば、プリンターコントローラー51は、発熱処理を実行する(ステップS3)。この発熱処理において、プリンターコントローラー51は、駆動信号生成部66から発生される予備パルスVPを圧電素子35に連続的に印加することで、駆動IC52を発熱させる。この発熱処理では、サーミスター53からの検出温度に応じて、予備パルスVPの駆動電圧Vdと圧電素子35への連続印加数が増減されるように構成されている。即ち、検出温度が比較的低いときは、駆動電圧Vdをより高く設定して、印加数もより多くする。逆に検出温度が比較的高いときは、駆動電圧Vdをより低く設定して、印加数もより少なくする。本実施形態においては、例えば、図8の対応表に示すように、検出温度が15℃の場合、駆動電圧Vdは35(V)に設定され、印加数は10000発に設定される。検出温度15℃のときのインクの粘度は15mPa・s程度である。また、検出温度が25℃の場合、駆動電圧Vdは25(V)に設定され、印加数は5000発に設定される。検出温度25℃のときのインクの粘度は10mPa・s程度である。そして、検出温度が40℃の場合、駆動電圧Vdは20(V)に設定され、印加数は3000発に設定される。検出温度40℃のときのインクの粘度は5mPa・s程度であり、この粘度がインクを噴射する際の目標とされる。なお、本実施形態においては、検出温度に応じて、予備パルスVPの駆動電圧Vdと圧電素子35への連続印加数の両方を変化させた構成を例示したが、これには限られず、予備パルスVPの駆動電圧Vdまたは圧電素子35への印加数の少なくとも一方を変化させるようにすれば良い。
【0041】
上記の発熱処理を実行することで駆動IC52が発熱し、当該熱によりノズルプレート22とユニットケース26を介してヘッドユニット16内の流路のインクが加熱され、当該インクの粘度が低下する。本実施形態においては、ユニットケース16とノズルプレート22が同じ材質(ステンレス鋼)であり、両者の熱伝導率が同じだとしても、ユニットケース16と比較してノズルプレート22は薄く重量も小さいため先に温まる。即ち、ノズル27に近いインクがより早く温まるため、より早い段階で噴射に適した状態とすることが可能となる。また、本実施形態においては、サーミスター57によって検出された温度に応じて予備パルスVPの駆動電圧Vdと圧電素子35への連続印加数とが変更されるので、発熱処理の実行時間をより最適化することができ、印刷処理を開始するまでの時間をできるだけ短縮することが可能となる。また、圧力室31に供給される前のインク導入路42内のインクと、インクが噴射されるノズル27内および圧力室31内のインクの両方が加熱されるので、インクの粘度をより効率良く低下させることができる。そして、検出温度が40℃を超えると発熱処理が終了され、記録用紙等の記録媒体2に対して画像等を記録する印刷処理に移行する(S4)。
【0042】
このように、本発明に係るプリンター1では、駆動IC52の発熱を利用してインクを加熱するので、インクを加熱するための加熱手段を別途設けることなくインクの粘度を効率良く短時間で低下させることができる。これにより、所謂高粘度領域のインクを扱う場合においても安定した噴射特性(インク重量、飛翔速度等)を得られることができる。また、圧電素子35を駆動して圧力室31内のインクを攪拌しつつ(つまり、微振動させながら)加熱するので、加熱ムラが低減される。その結果、インクの粘度をさらに効率良く低下させることが可能となる。さらに、駆動IC52の放熱も兼ねるため、より高負荷での駆動、即ち、より高い周波数での駆動にも対応することができ、また、放熱手段も不要となる。なお、本発明に係るプリンター1は、光硬化型インク以外の水系及び溶剤系インクにおける高粘度のインクにも対応することができる。
【0043】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態では、ノズルプレート22とユニットケース26が、何れもステンレス鋼等の金属から作製された構成を例示したが、これには限られず、その他の材料を用いる構成を採用することも可能である。但し、これらの材料はできるだけ熱伝導性が良好であることが望ましく、例えば、熱伝導率が10W/(m・K)以上であることが望ましい。
【0045】
また、上記実施形態では、駆動IC52が、ノズルプレート22とユニットケース26に対して接着剤Bを介して間接的に接触する状態で配置された構成を例示したが、これには限られず、駆動IC52が、ノズルプレート22とユニットケース26に対して接着剤Bを介さずに直接的に接触する構成を採用することも可能である。
【0046】
さらに、駆動IC52に金属製の板材などを取り付け、この金属板をノズルプレート22とユニットケース26に接触(接合)させるようにしても良い。この場合、金属板が、本発明における熱伝導性部材として機能し、駆動IC52の熱をノズルプレート22およびユニットケース26に伝達する。
【0047】
また、本発明における予備パルスVPの一例として、図6に示す予備パルスVPを挙げて説明したが、予備パルスVPの形状はこれには限られず、任意の波形のものを用いることができる。要は、ノズル27からインクが噴射されない程度に圧電素子35を駆動させることが可能な波形であれば良い。
【0048】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂撓み振動型の圧電素子35を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。さらに、発熱素子や静電アクチュエーターなど他の圧力発生手段を採用することも可能である。
【0049】
そして、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド3(ヘッドユニット16)を例に挙げて説明したが、本発明は、駆動ICを実装したフレキシブルケーブルを通じて圧力発生手段に駆動電圧を供給する構成の他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…プリンター,3…記録ヘッド,16…ヘッドユニット,22…ノズルプレート,23…流路基板,24…保護基板,26…ユニットケース,27…ノズル,31…圧力室,32…共通液室,35…圧電素子,42…インク導入路,46…仕切壁,49…フレキシブルケーブル,52a,52b…駆動IC,53…サーミスター,61…プリンターコントローラー,66…駆動信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが開設されたノズルプレート、および、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生手段を駆動させる駆動ICと、
前記流路ユニットの液体流路に液体を導入する液体導入路を有し、前記流路ユニット、前記圧力発生手段、および、前記駆動ICが配設されるケース部材と、を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記駆動ICは、前記ノズルプレートおよび前記ケース部材に接触または熱伝導性部材を介して接合された状態で配置されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルプレートと前記ケース部材とが、金属から作製されたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記熱伝導性部材が、金属を含有する接着剤であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記熱伝導性部材が、金属であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
液体を噴射するノズルが開設されたノズルプレート、および、前記ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生手段の駆動に係る駆動ICと、
液体供給源からの液体を前記流路ユニットの液体流路側に導入する液体導入路を有し、前記流路ユニット、前記圧力発生手段、および、前記駆動ICが配設されるケース部材と、を備えた液体噴射ヘッドを搭載する液体噴射装置であって、
前記駆動ICは、前記ノズルプレートおよび前記ケース部材に接触または熱伝導性部材を介して接合された状態で配置されたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段を備え、
前記液体噴射ヘッドのノズルから液体を噴射する噴射動作に先立って、前記圧力発生手段に対し、前記ノズルから液体が噴射されない程度に当該圧力発生手段を駆動する予備パルスを印加することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
前記予備パルスは、電位が第1の極性側に変化する第1の変化部と、電位が前記第1の極性とは反対の第2の極性側に変化する第2の変化部と、を含み、
前記第1の変化部の時間幅が、前記圧力室内の液体に生じる固有振動周期Tc以下に設定され、
前記第2の変化部の時間幅が、前記Tcの整数倍に設定されたことを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記駆動ICが収容された空部内の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記温度検出手段による検出温度に応じて、前記圧力発生手段に対する前記予備駆動パルスの印加数または当該予備パルスの電圧の少なくとも一方が変更されることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−218197(P2012−218197A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83390(P2011−83390)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】