説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置、アクチュエータ装置及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】酸化ジルコニウム層の亀裂や剥離等の破壊を低減することができる液体噴射ヘッド、液体噴射装置、アクチュエータ装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】基板10上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層50と、該第1の層50上に設けられたジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層56と、該第2の層56上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層57と、該第3の層57の上方に形成された圧力発生素子300と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射装置、アクチュエータ装置及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、例えば、下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子のたわみ変形を用いたものが実用化されている。
【0003】
振動板としては、圧力発生室の一部を画成する酸化シリコン層と、酸化シリコン層上に設けられた酸化ジルコニウムからなる酸化ジルコニウム層とを具備するものがある。
【0004】
酸化ジルコニウム層の製造方法として、酸化シリコン層上にジルコニウムをスパッタリング法により形成後、ジルコニウムを熱酸化させることにより形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、酸化ジルコニウムからなるスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により直接酸化ジルコニウム層を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−166719号公報
【特許文献2】特開平09−254386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように酸化ジルコニウム層を熱酸化で形成した場合、酸化シリコンとの密着性はよいものの、酸化シリコン層上に異物が存在すると、その異物を起点とした亀裂が発生してしまうという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2のように酸化ジルコニウム層をスパッタリング法により直接形成すると、異物を起点とした亀裂の発生は抑制できるものの、酸化物、特に酸化シリコン層との密着性が低く、剥離などの破壊が生じる虞があるという問題がある。
【0008】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドだけではなく、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置においても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、酸化ジルコニウム層の亀裂や剥離等の破壊を低減することができる液体噴射ヘッド、液体噴射装置、アクチュエータ装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層と、該第1の層上に設けられたジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層と、該第2の層上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層と、該第3の層の上方に形成された圧力発生素子と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、熱酸化により形成された第2の層によって第1の層との密着力を確保して酸化ジルコニウム層が剥離するのを低減することができる。また、第2の層に亀裂が生じたとしても、スパッタリング法により形成された第3の層によって第2の層の亀裂を覆い、当該亀裂が進行するのを低減することができる。なお、ここで言う上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。
【0011】
ここで、前記第3の層が、前記第2の層と同じ厚さ以上の厚さを有することが好ましい。これによれば、第3の層によって第2の層に生じた亀裂を確実に覆うことができる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、耐久性及び信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0013】
さらに、本発明の他の態様は、基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層と、該第1の層上に設けられたジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層と、該第2の層上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層と、該第3の層の上方に形成された圧力発生素子と、を具備することを特徴とするアクチュエータ装置にある。
かかる態様では、熱酸化により形成された第2の層によって第1の層との密着力を確保して酸化ジルコニウム層が剥離するのを低減することができる。また、第2の層に亀裂が生じたとしても、スパッタリング法により形成された第3の層によって第2の層の亀裂を覆い、当該亀裂が進行するのを低減することができる。
【0014】
また、本発明の他の態様は、基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成する工程と、該ジルコニウム層を熱酸化することにより酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層を形成する工程と、該第2の層上に酸化ジルコニウムをスパッタリングすることにより酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層を形成する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、第2の層を熱酸化により形成することによって第1の層との密着力を確保して酸化ジルコニウム層が剥離するのを低減することができる。また、第2の層に亀裂が生じたとしても、第3の層をスパッタリング法により形成することで、第3の層で第2の層の亀裂を覆い、当該亀裂が進行するのを低減することができる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成する工程と、該ジルコニウム層上に酸化ジルコニウムをスパッタリングすることにより酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層を形成する工程と、前記第3の層を形成した後、前記ジルコニウム層を熱酸化して、酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層を形成する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、第2の層を熱酸化により形成することによって第1の層との密着力を確保して酸化ジルコニウム層が剥離するのを低減することができる。また、ジルコニウム層上に第3の層を形成してからジルコニウム層を熱酸化して第2の層を形成することによって、第2の層の形成時に異物を起点とした亀裂が生じるのを抑制できる。もちろん、第2の層に亀裂が生じたとしても、第3の層が第2の層の亀裂を覆い、当該亀裂が進行するのを低減することができる。
【0016】
ここで、前記第2の層及び前記第3の層を形成した後、前記第3の層の上方に第1電極、圧電体層及び第2電極を積層して圧電素子を形成する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、圧電素子を形成する際に第2の層に応力が印加されても、第3の層によって亀裂が生じるのを低減できると共に、亀裂の進行を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0018】
本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化シリコンを主成分とする第1の層として弾性膜50が形成されている。
【0019】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0020】
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0021】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0022】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300(本実施形態の圧力発生素子)を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
絶縁体膜55は、ジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層56と、第2の層56上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層57とを具備する。
【0024】
具体的には、第2の層56は、弾性膜50上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成後、このジルコニウム層を加熱することにより熱酸化させて形成されたものである。このように、第2の層56を弾性膜50上で熱酸化により形成することで、弾性膜50と密着性の高い絶縁体膜55を形成することができる。すなわち、第2の層56は、絶縁体膜55の密着層として機能する。
【0025】
第3の層57は、第2の層56上に酸化ジルコニウムを直接スパッタリングすることにより形成されたものである。このように、第3の層57を第2の層56上に直接スパッタリング法により形成することで、第2の層56に亀裂が生じるのを低減することができると共に、第2の層56の形成時に亀裂が発生したとしても、第3の層56でこの亀裂を覆い、亀裂が進行するのを抑制することができる。
【0026】
ちなみに、絶縁体膜55を第3の層57のみで構成すると、酸化物(酸化シリコン)である弾性膜50上に直接、酸化物(酸化ジルコニウム)である絶縁体膜55をスパッタリング法により形成することになるが、酸化物を直接スパッタリング法によって酸化物上に形成した場合、酸化物を熱酸化により形成した場合に比べて密着性が低くなってしまう。本実施形態では、酸化物(酸化シリコン)である弾性膜50上に、第2の層56を熱酸化により形成することで、弾性膜50と絶縁体膜55との密着性を向上することができ、圧電素子300の駆動時に層間剥離が生じるのを低減することができ、耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0027】
また、絶縁体膜55を第2の層56のみで構成することも考えられるが、弾性膜50上に異物が存在すると、熱酸化した際にこの異物を起点として第2の層56に亀裂が生じてしまう。また、第2の層56の形成時に亀裂が生じなかったとしても、圧電素子300を形成するときの応力や圧電素子300を駆動した際の変位によって第2の層56に亀裂が生じることがある。本実施形態では、第2の層56に亀裂が生じたとしても、第2の層56上にスパッタリング法により第3の層57を形成することで、第2の層56の亀裂を第3の層57で覆って、第2の層56の亀裂が進行するのを抑制することができる。また、第2の層56の形成時に亀裂が生じていない場合であっても、第3の層57によって覆うことで、第2の層56を保護することができるため、その後の圧電素子300の形成時の応力や圧電素子300の駆動によっても第2の層56に亀裂が生じるのを低減できる。
【0028】
なお、本実施形態では、厚さが0.2μmの第2の層56と、厚さが0.2μmの第3の層57とを形成した。すなわち、絶縁体膜55は、約0.4μmの厚さを有する。ここで、第3の層57は、第2の層56と同じ厚さ以上の厚さで形成するのが好ましい。言い換えると、第2の層56は、第2の層56と第3の層57との合計の厚さ(本実施形態では、絶縁体膜55の厚さ)の半分以下であるのが好ましい。このように第3の層57を第2の層56の厚さ以上の厚さで形成することにより、第3の層57によって、第2の層56に発生した亀裂を確実に覆うことができると共に、第2の層56に亀裂が生じ難くすることができる。
【0029】
ちなみに、本実地形態で言う酸化ジルコニウムとは、ジルコニウムと酸素とが結合したZrOなどの既知の化合物や、酸化ジルコニウム、ジルコニウム及び酸素の混合状態を言い、第2の層56及び第3の層57は、酸化ジルコニウムを主成分としていれば、その他の元素を含有するものであってもよい。
【0030】
また、第2の層56と第3の層57とは、材料が同じであったとしても、その製造方法が異なるため、第2の層56と第3の層57とは、その組成比及び結晶構造が異なる。このような組成比の違いや結晶構造の違いは、分析することで容易に検出することができる。
【0031】
圧電体層70は、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABOで示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。本実施形態は、特定の圧電材料のみに限定しないと作用効果を発揮しないというものではないことを付言する。
【0032】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜5μm前後の厚さで形成した。
【0033】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0034】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0035】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0036】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0037】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0038】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0039】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0040】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0041】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図6を参照して説明する。なお、図3〜図6は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0042】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110を熱酸化することにより、二酸化シリコンからなる酸化膜51を形成した。
【0043】
次に、弾性膜50(酸化膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる第2の層56を形成する。具体的には、図3(b)に示すように、弾性膜50上に例えば、スパッタ法等によりジルコニウムを主成分とするジルコニウム層156を形成後、図3(c)に示すように、このジルコニウム層156を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層56を形成する。
【0044】
次に、図3(d)に示すように、第2の層56上に酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層57を形成する。具体的には、第3の層57は、第2の層56の上に酸化ジルコニウムを直接スパッタリングすることで形成する。これにより、第2の層56及び第3の層57からなる絶縁体膜55が形成される。
【0045】
次に、図3(e)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0046】
次に、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる第2電極80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成する。なお、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0047】
次に、図4(b)に示すように、第2電極80及び圧電体層70を同時にエッチングすることにより各圧力発生室12に対応する領域に圧電素子300を形成する。ここで、第2電極80及び圧電体層70のエッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0048】
次に、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0049】
次に、図5(a)に示すように、保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハ130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハ130には、リザーバ部31及び圧電素子保持部32が予め形成されている。保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0050】
次いで、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
【0051】
次いで、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上にマスク52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図6に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0052】
その後は、流路形成基板用ウェハ110表面のマスク52を除去し、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、弾性膜50上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層156を形成後、このジルコニウム層156を加熱することにより熱酸化させて形成することで、弾性膜50と絶縁体膜55との密着性を向上することができ、圧電素子300の駆動時に層間剥離が生じるのを低減することができ、耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0054】
また、第3の層57を第2の層56上に直接スパッタリング法により形成することで、第2の層56に亀裂が生じるのを低減することができると共に、第2の層56の形成時に亀裂が発生したとしても、第3の層56でこの亀裂を覆い、亀裂が進行するのを抑制することができる。
【0055】
(実施形態2)
図7は、本発明の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には、同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0056】
上述した実施形態1の図3(a)に示す工程と同様に、流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を形成する。
【0057】
次に、図7(a)に示すように、弾性膜50上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層156を形成する。ジルコニウム層156は、例えば、スパッタリング法、CVD法等により形成することができる。
【0058】
次に、図7(b)に示すように、ジルコニウム層156上に、酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層57を形成する。この第3の層57は、上述した実施形態1と同様に、ジルコニウム層156上に酸化ジルコニウムを直接スパッタリングすることにより形成する。
【0059】
次に、図7(c)に示すように、ジルコニウム層156を熱酸化することにより、酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層56を形成する。ジルコニウム層156は、第3の層57によってその表面が覆われているものの、加熱することにより第3の層57を酸素が透過して、熱酸化することができる。
【0060】
その後の工程、すなわち、圧電素子300を形成する工程、保護基板用ウェハ130を接合する工程、圧力発生室12等を形成する工程等については上述した実施形態1と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0061】
このような実施形態2の製造方法では、ジルコニウム層156を熱酸化して第2の層56を形成する前に、ジルコニウム層156上に第3の層57を形成するため、第3の層57がジルコニウム層156の補強膜として働き、ジルコニウム層156が熱酸化する際に弾性膜50上の異物を起点として第2の層56に亀裂が生じるのを低減することができる。もちろん、第2の層56に亀裂が生じたとしても、第3の層57が第2の層56の亀裂を覆っているため、当該亀裂が進行するのを低減することができる。
【0062】
なお、本実施形態の製造方法は、上述した実施形態1とは異なるが、完成されたインクジェット式記録ヘッド1は同じ構成となるため、上述した実施形態1と同様の効果、すなわち、第2の層56によって弾性膜50との密着力を向上すると共に、第3の層57によって亀裂の進行を抑制できるという効果を奏するものである。
【0063】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生素子として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエータ装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエータ装置などを使用することができる。また、圧力発生素子として、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態1及び2では、第3の層57上に圧力発生素子として圧電素子300を設けるようにしたが、圧力発生素子は、第3の層57の上方に形成されていればよいため、圧力発生素子は、第3の層57の直上であっても、他の部材が間に介在した状態で積層されていてもよい。
【0065】
また、例えば、上述した実施形態1及び2では、流路形成基板10としてシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面、(110)面等のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0066】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0067】
図8に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0068】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0069】
また、上述した実施形態1及び2では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0070】
さらに、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置に限られず、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板(基板)、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板(結晶基板)、 31 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜(第1の層)、 55 絶縁体膜、 56 第2の層、 57 第3の層、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバ、 120 駆動回路、 300 圧電素子(圧力発生素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層と、
該第1の層上に設けられたジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層と、
該第2の層上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層と、
該第3の層の上方に形成された圧力発生素子と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第3の層が、前記第2の層と同じ厚さ以上の厚さを有することを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層と、
該第1の層上に設けられたジルコニウムを熱酸化することにより形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層と、
該第2の層上にスパッタリング法により形成された酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層と、
該第3の層の上方に形成された圧力発生素子と、を具備することを特徴とするアクチュエータ装置。
【請求項5】
基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成する工程と、
該ジルコニウム層を熱酸化することにより酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層を形成する工程と、
該第2の層上に酸化ジルコニウムをスパッタリングすることにより酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層を形成する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
基板上方に形成された酸化シリコンを主成分とする第1の層上にジルコニウムを主成分とするジルコニウム層を形成する工程と、
該ジルコニウム層上に酸化ジルコニウムをスパッタリングすることにより酸化ジルコニウムを主成分とする第3の層を形成する工程と、
前記第3の層を形成した後、前記ジルコニウム層を熱酸化して、酸化ジルコニウムを主成分とする第2の層を形成する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記第2の層及び前記第3の層を形成した後、前記第3の層の上方に第1電極、圧電体層及び第2電極を積層して圧電素子を形成する工程をさらに具備することを特徴とする請求項5又は6記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−120270(P2010−120270A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296082(P2008−296082)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】