説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】ノズル開口の目詰まりが低減し、噴射不良の少ない液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので毛細管現象の発生を抑えることができ、噴射面212からノズル開口211へ引き込まれる被膜を形成する材料500が減少する。したがって、ノズル開口211内の材料500残りを減少でき、インク400の吐出不良の少ないインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンターやプロッター等のインクジェット式記録装置に代表される液体噴射装置は、液体カートリッジや液体タンク等の液体貯留手段に貯留された液体を、液滴として吐出可能な液体噴射ヘッドを有する。
ここで、液体噴射ヘッドとしては、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧力発生室に圧力変化を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる圧力発生手段とを具備する。そして、液体噴射ヘッドに搭載される圧力発生手段としては、圧電素子、発熱素子および静電気力を用いたものなどが挙げられる。
ノズル開口の形成された噴射面に、熱融解型の材料を塗布装置によって塗布してノズル開口を覆う被膜を形成して、ノズル開口内に存在する液体の乾燥を防止し、液体の噴射前に被膜を加熱して除去する除去装置を有する液体吐出装置が知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−76238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱融解型の材料を加熱して塗布、除去する際に、当該材料の流動性が上昇する。この材料の流動性の上昇に伴い、毛細管現象の発生、流動性の上昇した材料の噴射面に対する接触角とノズル開口内に対する接触角との違い等により、ノズル開口内にこの材料が引き込まれ、この材料の除去後にもノズル開口内に材料が残る。ノズル開口内に残った流動性の低下した、つまり硬化した材料は、ノズル開口からの液体の噴射を妨げ、液体の噴射不良が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
液体を噴射するノズル開口が形成された噴射面を有する液体噴射ヘッドであって、前記ノズル開口は、第1の開口と第2の開口とを備え、前記第2の開口は、前記第1の開口より前記噴射面側に配置され、前記第1の開口の開口面積と比較して前記第2の開口の開口面積が広いことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので毛細管現象の発生が抑えられ、噴射面からノズル開口へ引き込まれる物質が減少する。したがって、ノズル開口内の物質残りが減少し、液体の噴射不良の少ない液体噴射ヘッドが得られる。
また、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので、第2の開口に物質が引き込まれて第2の開口に物質が付着して残った場合でも、第1の開口からの液体の噴射の経路を物質が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射ヘッドが得られる。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記液体は親液性を有し、前記第2の開口には、撥液処理が施されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、第2の開口が撥液処理されているので、親液性の液体が第1の開口から第2の開口へ進入しにくく、第1の開口で液体がメニスカスを形成し易い。したがって、第1の開口から液体が噴射され、第2の開口に物質が付着して残っても、第1の開口からの液体の噴射の経路を物質が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射ヘッドが得られる。
また、第2の開口が撥液処理されているため、噴射面に付着した疎液性の物質が噴射面からノズル開口内へ引き込まれ易いが、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので、第2の開口に物質が引き込まれて第2の開口に物質が付着して残っても、第1の開口からの液体の噴射の経路を物質が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射ヘッドが得られる。
【0009】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドと、前記噴射面に被膜を形成して前記ノズル開口を覆う塗布装置と、前記被膜を除去する除去装置とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0010】
この適用例によれば、前述の液体噴射ヘッドを備えているので、塗布装置により材料を塗布する際に、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので毛細管現象の発生が抑えられ、噴射面からノズル開口へ引き込まれる材料が減少する。したがって、ノズル開口内の材料残りが減少し、液体の噴射不良の少ない液体噴射装置が得られる。
また、除去装置により材料を除去した際に、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので、第2の開口に材料が引き込まれて第2の開口に材料が付着して残った場合でも、第1の開口からの液体の噴射の経路を材料が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射装置が得られる。
【0011】
また、前述の液体噴射ヘッドを備えているので、液体が親液性の場合、第2の開口が撥液処理されているので、親液性の液体が第1の開口から第2の開口へ進入しにくく、第1の開口で液体がメニスカスを形成し易い。したがって、除去装置により材料を除去した後に、第2の開口に材料が付着して残っても、第1の開口からの液体の噴射の経路を材料が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射装置が得られる。
さらに、第2の開口が撥液処理されているため、塗布装置により材料を塗布する際に、噴射面に塗布した疎液性の材料は、噴射面からノズル開口内へ引き込まれ易いが、噴射面側の第2の開口の開口面積が、第1の開口の開口面積より広いので、第2の開口に材料が引き込まれて第2の開口に材料が付着して残っても、第1の開口からの液体の噴射の経路を材料が妨げにくいので、液体の噴射不良の少ない液体噴射装置が得られる。
【0012】
[適用例4]
上記液体噴射装置において、前記材料が熱融解性で、前記塗布装置は前記材料を加熱し融解して塗布することを特徴とする液体噴射装置。
この適用例では、材料が熱融解性を有しているので、材料を加熱して流動性を上昇させて塗布した後に材料は固まり、噴射面から垂れることなくノズル開口を塞げる。したがって、ノズル開口での液体の乾燥がより抑えられ、粘度の高まった液体によるノズル開口の目詰まりがより減少し、液体の噴射不良のより少ない液体噴射装置が得られる。
また、材料が固まった状態で被膜を除去すると、第2の開口に引き込まれている材料も一緒に除去される。したがって、第1の開口からの液体の噴射がより妨げられにくいので、液体の噴射不良のより少ない液体噴射装置が得られる。
【0013】
[適用例5]
上記液体噴射装置において、前記除去装置は、前記被膜を加熱して除去することを特徴とする液体噴射装置。
この適用例では、被膜を加熱して流動性を上昇させたうえで、液体を噴射して材料の除去が可能で、液体噴射ヘッドを除去装置として利用でき、新たな除去装置を設ける必要がないので、構造の簡単な液体噴射装置が得られる。
また、被膜を加熱して流動性を上昇させることにより、材料の回収も容易になり、材料の再利用が可能で、材料の補充が少なくて済む液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンターの概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの概略断面図。
【図4】ノズル開口付近の概略拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態における液体噴射装置としてのインクジェットプリンター1000を示した概略斜視図である。
図1において、インクジェットプリンター1000は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラー70と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構300とを備えている。
【0016】
キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22およびキャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されて液体噴射ヘッドの一種である、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド200などが設けられている。
インクカートリッジ26内のインクをインク供給針やフレキシブルなインクチューブやなどの供給部材を経由してインクジェット式記録ヘッド200に導いて、インクジェット式記録ヘッド200から吐出媒体となる印刷媒体2に正確な分量だけインクを吐出することによって、画像が印刷されるようになっている。
【0017】
図2に、インクジェット式記録ヘッド200の分解斜視図を示した。
図2において、インクジェット式記録ヘッド200は、圧力発生素子として圧電素子100を有する。以下の例では、圧力発生素子として撓み振動型の圧電素子100を有するインクジェット式記録ヘッド200について説明する。圧力発生素子としては、縦振動型の圧電素子、発熱素子および静電気力を用いたものであってもよく、後述する流路222に圧力を発生させてノズル開口211からインクを吐出させることができるように構成されているのであれば、上記素子に限定されない。
【0018】
インクジェット式記録ヘッド200は、ノズル開口211が形成されたノズルプレート210と流路基板220と圧電素子100とを備えている。
ノズル開口211はノズルプレート210の噴射面212に形成されている。流路基板220には、流路222が形成されている。
また、インクジェット式記録ヘッド200は、筐体230を備えている。
【0019】
ノズル開口211からは、インクが吐出される。ノズルプレート210には、例えば、多数のノズル開口211が一列に設けられている。ノズルプレート210の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを列挙することができるがこれらの材質に限定されない。
【0020】
流路基板220は、ノズルプレート210上(図2の例では下)に設けられている。流路基板220の材質としては、ここでは、シリコンなどを例示することができる。
流路基板220がノズルプレート210と基板10との間の空間を区画することにより、マニホールド224と、マニホールド224と連通する複数の流路222(例えば圧力発生室ともいえる)とが設けられている。すなわち、マニホールド224は、複数の流路222にとって共通の流路となる。また、マニホールド224および流路222は、ノズルプレート210と流路基板220と基板10とによって区画されている。例えば、図2に示すように、マニホールド224と流路222とは、流路222毎に設けられた供給口226を介して、連通している。
【0021】
マニホールド224は、図1に示したインクカートリッジ26から、基板10に設けられた貫通孔228を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。マニホールド224内のインクは、流路222に供給される。圧電素子100が変位することで、基板10が変形し、その結果流路222の容積が変化する。流路222は流路222毎に設けられたノズル開口211と連通しており、流路222の容積変化によって、ノズル開口211からインクが吐出される。それぞれの流路222は、それぞれの圧電素子100に対応して設けられている。
【0022】
圧電素子100は、流路基板220上(図2の例では下)に設けられている。圧電素子100は、図示しない圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて振動、変形する。基板10は、圧電素子100の動作によって変形し、流路222の内部圧力を瞬間的に高める。
【0023】
筐体230は、図2に示すように、ノズルプレート210、流路基板220および圧電素子100を収納することができる。筐体230の材質としては、例えば、樹脂、金属などを列挙することができる。
【0024】
図3は、インクジェット式記録ヘッド200の概略断面図である。断面は、ノズル開口211を通る断面で、ノズル開口211の断面も示している。
図3において、インクジェット式記録ヘッド200は圧電素子100を備えている。圧電素子100は、基板10上に、下電極40と、圧電体50と、上電極60とを含むことで構成される。
【0025】
基板10の材質としては、例えば、導電体、半導体、絶縁体などを例示することができる。より具体的には、基板10としては、例えば、単結晶シリコン上に酸化シリコン(SiO2)と酸化ジルコニウム(ZrO2)とを積層したものを用いることができる。
【0026】
下電極40は、基板10上に直接または間接的に形成されている。直接とは、基板10と下電極40との間に別の層や膜を形成しない場合を意味する。また、間接的とは、基板10と下電極40との間に別の層や膜の存在を許容することを意味する。下電極40の材質としては、例えば、白金、イリジウム、それらの導電性酸化物、ランタンニッケル酸化物(LaNiO3:LNO)などを例示することができる。下電極40は、前述の例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。下電極40の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。下電極40は、圧電体50に電圧を印加するための一方の電極である。
【0027】
圧電体50は、下電極40上に形成されている。圧電体50としては、ペロブスカイト型酸化物の圧電材料を用いることができる。より具体的には、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3:PZTN)などを用いることができる。圧電体50の厚さは、例えば、300nm〜3000nmである。
【0028】
上電極60は、圧電体50上に形成されている。図3の例では、上電極60は、圧電体50の上面に形成されているが、さらに、圧電体50の側面および基板10の上面にわたって形成されていてもよい。上電極60の材質としては、例えば、下電極40として例示した材質を用いることができる。上電極60の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。上電極60は、圧電体50に電圧を印加するための他方の電極である。
【0029】
図3において、ノズル開口211は、噴射面212にアウトレットが開口するように形成されている。ここで、ノズル開口211は、第1の開口213と第2の開口214とを備えている。第2の開口214は、第1の開口213よりも噴射面212側に配置され、第1の開口213よりも開口面積が大きく形成されている。
噴射面212と第2の開口214には、流路222内の液体に対して撥液性を発揮する撥液膜215が形成され、撥液処理が施されている。一方、第1の開口213の内壁には、この撥液膜215が形成されていない。そのため、流路222は、親液性のインク400で満たされ、第1の開口213でメニスカス216を形成できる。
【0030】
図1において、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリー34と、駆動プーリー34を駆動するためのステップモーター36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリー34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモーター36で駆動プーリー34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
【0031】
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラー70は、図示しない駆動モーターやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。インクジェットプリンター1000は、こうした機構によって副走査方向へ印刷媒体2を紙送りしながら、インクジェット式記録ヘッド200を主走査方向に駆動して各色のインク400をノズル開口211から吐出することによって、印刷媒体2上に画像を印刷していく。
【0032】
この様に、インクジェットプリンター1000では、インクジェット式記録ヘッド200に設けられた複数のノズル開口211から各色のインク400を吐出することによって、画像を印刷していく。ノズル開口211からインク400を適切に吐出するためには、ノズル開口211内のインク400の状態が適切な状態に保たれていることが重要である。インク400の溶媒が蒸発し乾燥するなどしてインク400の状態が変化(例えば、粘度の上昇やその結果として固化)してしまうと、ノズル開口211からインクを正常に吐出することができなくなってしまう。こうした理由から、インクジェットプリンター1000は、画像を印刷するための各種の機構に加えて、インク400を正常に吐出可能な状態を維持するためのメンテナンス機構300を備えている。
【0033】
図1において、メンテナンス機構300は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており、塗布装置としてのディップ槽120、インクジェット式記録ヘッド200の図2および図3に示した噴射面212を払拭するワイパーブレード130、インクジェット式記録ヘッド200の底面側に設けられ、噴射面212に押しつけられて、噴射面212との間に空間を形成するキャップ部材の一種であるキャッピングユニット140、キャッピングユニット140と噴射面212で形成する空間に接続された吸引ポンプ150などから構成されている。ディップ槽120には、熱融解性の膜を形成する材料500が充填されている。ディップ槽120は、必要に応じて加熱が可能で熱融解性の材料500を溶かすことができる。
【0034】
キャッピングユニット140で、インクジェット式記録ヘッド200の噴射面212にキャッピングユニット140を押し付けてインク400の乾きを防いだとしても、少しずつインク400内の溶媒が蒸発して、インク400の状態が変化してしまう。
そこで、実施形態では、ノズル開口211内でのインク400の溶媒の蒸発をより防ぐために、材料500の噴射面212への塗布および除去を行なう。
【0035】
図4に、ノズル開口211付近の拡大断面図を示した。(a)は、材料500を塗布した状態の拡大断面図、(b)は、材料500を除去した状態の拡大断面図である。
材料500の噴射面212への塗布は、塗布装置であるディップ槽120に蓄えられた材料500に噴射面212を接触させることで行なう。また、塗布装置としてワイパーブレード130を利用し、ワイパーブレード130の先に材料500を乗せた状態で噴射面212に材料500を接触させながらワイパーブレード130を移動させて塗布してもよい。
【0036】
材料500としては、シリコンオイル、熱融解性を有するパラフィン等を用いることができる。熱融解性の材料500の場合、加熱して流動性を上昇させた上で塗布を行なう。
パラフィンとしては、炭素数が18以上のアルカンを用いれば、常温で固体であり、40℃〜70℃で容易に融解し扱い易い。
塗布の頻度は、インクの性質、例えば、使用する溶媒の揮発性によるインク400の固まり易さ等によって決めることができる。例えば、電源オフ時に塗布したり、インク400の固まり易さに応じて決められた時間ごとに塗布したりすることができる。
【0037】
図4(a)において、図1に示したディップ槽120によって塗布された材料500は、第2の開口214に多少なりとも入り込む。このとき、第2の開口214中の気体は圧縮されて、メニスカス216を流路222に向かって押すため、メニスカス216と材料500とは接触しにくくなる。また、メニスカス216は、第2の開口214の内面が撥液処理されているため、第2の開口214に浸入しにくい。
【0038】
材料500の噴射面212からの除去は、除去装置としてインクジェット式記録ヘッド200を用いて行うことができる。
この場合、熱融解性の材料500を使用する場合は、材料500を加熱して融解させ、インクジェット式記録ヘッド200を作動させて、ノズル開口211からインク400を噴射させる。材料500の加熱は、ノズルプレート210に加熱手段を設けて加熱してもよいし、キャッピングユニット140に加熱手段を設けて加熱してもよいし、ディップ槽120に浸漬して溶かしてもよい。
また、材料500にシリコンオイルのような熱融解性を有しないもので粘度の低いものを用いる場合は、加熱をしなくてもよい。粘度の高いものについては、必要に応じて加熱を行って、粘度を下げる。
その他、除去装置としてワイパーブレード130を用い、噴射面212をワイピングすることによって除去したり、除去装置としてキャッピングユニット140を用い、キャッピングユニット140で吸引ポンプ150によって材料500を吸引することで除去したりすることができる。
【0039】
キャッピングユニット140は、吸引ポンプ150を作動させることによって、ノズル開口211から状態が変化してしまったインク400を吸い出す動作(クリーニング動作)を行うこともできる。クリーニング動作を行うと、状態が変化してしまったインク400をノズル開口211から強制的に排出できるので、ノズル開口211を正常な状態に回復させることが可能となる。
この様に、インクジェットプリンター1000は、メンテナンス機構300によって、インク400の溶媒の蒸発を防いだり、あるいは、状態が変化したインク400を強制的に排出したりすることが可能となっており、これにより、インクジェット式記録ヘッド200を正常な状態に維持することが可能となっている。
【0040】
図4(b)において、除去装置によって、材料500を除去した後の除去残りは、第2の開口214に残る場合がある。
【0041】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので第1の開口213に比べて第2の開口214で発生する毛細管力を抑えることができ、噴射面212からノズル開口211へ引き込まれる材料500が減少する。したがって、ノズル開口211内の材料500残りを減少でき、インク400の吐出不良の少ないインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
また、噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので、第2の開口214に材料500が引き込まれて第2の開口214に材料500が付着して残った場合でも、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
【0042】
(2)第2の開口214が撥液膜215で撥液処理されているので、親液性のインク400が第1の開口213から第2の開口214へ進入しにくく、第1の開口213でインク400がメニスカス216を形成し易い。したがって、第1の開口213からインク400が吐出され、第2の開口214に材料500が付着して残っても、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
また、第2の開口214が撥液膜215で撥液処理されているため、噴射面212に付着した疎液性の材料500が噴射面212からノズル開口211内へ引き込まれ易いが、噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので、第2の開口214に材料500が引き込まれて第2の開口214に材料500が付着して残っても、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
【0043】
(3)ディップ槽120により材料500を塗布する際に、噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので毛細管現象の発生を抑えることができ、噴射面212からノズル開口211へ引き込まれる材料500を減少できる。したがって、ノズル開口211内の材料500残りを減少でき、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
また、インクジェット式記録ヘッド200により材料500を除去した際に、噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので、第2の開口214に材料500が引き込まれて第2の開口214に材料500が付着して残っても、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0044】
また、インク400が親液性の場合、第2の開口214が撥液膜215で撥液処理されているので、親液性のインク400が第1の開口213から第2の開口214へ進入しにくく、第1の開口213でインク400がメニスカス216を形成し易い。したがって、インクジェット式記録ヘッド200により材料500を除去した後に、第2の開口214に材料500が付着して残っても、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
さらに、第2の開口214が撥液膜215で撥液処理されているため、ディップ槽120により材料500を塗布する際に、噴射面212に塗布した疎液性の材料500は、噴射面212からノズル開口211内へ引き込まれ易いが、噴射面212側の第2の開口214の開口面積が、第1の開口213の開口面積より広いので、第2の開口214に材料500が引き込まれて第2の開口214に材料500が付着して残っても、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0045】
(4)材料500が熱融解性を有しているので、材料500を加熱して流動性を上昇させて塗布した後に材料500は固まり、噴射面212に垂れることなくノズル開口211を塞ぐことができる。したがって、ノズル開口211でのインク400の乾燥がより抑えられ、粘度の高まったインク400によるノズル開口211の目詰まりをより減少でき、インク400の吐出不良のより少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
また、材料500が固まった状態で被膜を除去すると、第2の開口214に引き込まれている材料500も一緒に除去される。したがって、第1の開口213からのインク400の吐出の経路を材料500が妨げにくいので、インク400の吐出不良のより少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0046】
(5)材料500からなる被膜を加熱して流動性を上昇させたうえで、インク400を噴射して材料500の除去が可能で、インクジェット式記録ヘッド200を除去装置として利用でき、新たな除去装置を設ける必要がないので、構造の簡単なインクジェットプリンター1000を得ることができる。
また、材料500からなる被膜を加熱して流動性を上昇させることにより、材料500の回収も容易になり、材料500の再利用が可能で、材料500の補充が少なくて済むインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0047】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドがインクジェット式記録ヘッド200である場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0048】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンター1000を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【符号の説明】
【0049】
2…印刷媒体、10…基板、20…キャリッジ、22…キャリッジケース、26…インクカートリッジ、30…駆動機構、32…タイミングベルト、34…駆動プーリー、38…ガイドレール、40…下電極、50…圧電体、60…上電極、100…圧電素子、120…ディップ槽、130…ワイパーブレード、140…キャッピングユニット、150…吸引ポンプ、200…インクジェット式記録ヘッド、210…ノズルプレート、211…ノズル開口、212…噴射面、213…第1の開口、214…第2の開口、215…撥液膜、216…メニスカス、220…流路基板、222…流路、224…マニホールド、226…供給口、228…貫通孔、230…筐体、300…メンテナンス機構、400…インク、500…材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口が形成された噴射面を有する液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル開口は、第1の開口と第2の開口とを備え、
前記第2の開口は、前記第1の開口より前記噴射面側に配置され、
前記第1の開口の開口面積と比較して前記第2の開口の開口面積が広い
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記液体は親液性を有し、
前記第2の開口には、撥液処理が施されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドと、
前記噴射面に被膜を形成して前記ノズル開口を覆う塗布装置と、
前記被膜を除去する除去装置とを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射装置において、
前記被膜を形成する材料が熱融解性で、
前記塗布装置は前記材料を加熱し融解して塗布する
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記除去装置は、前記被膜を加熱して除去する
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196936(P2012−196936A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64022(P2011−64022)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】