説明

液体噴射ヘッドの製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法

【課題】個々に駆動信号の電圧値を設定することなく所望の特性を得ることができる液体噴射ヘッドの製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータ装置の製造方法は、基板10上に設けられる下電極60、圧電体層70及び上電極80をこの順で積層してなる薄膜型の圧電素子300を有し、下電極及び上電極間に電圧を印加することにより、圧電素子を撓み変形させるアクチュエータ装置の製造方法であって、圧電素子に、電圧を印加して圧電体層を分極させる分極工程と、圧電素子を40〜100℃で加熱する加熱工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータ装置に用いられる圧電素子としては、電気機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、下電極と上電極との2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子を有するアクチュエータ装置は、一般的に、撓み振動モードのアクチュエータ装置と呼ばれ、例えば、液体噴射ヘッド等に搭載されて使用されている。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド等がある。このようなインクジェット式記録ヘッドのアクチュエータ装置(圧電素子)は、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように形成される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−127366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、液体噴射ヘッドに用いられるアクチュエータ装置においては、圧電素子を駆動すると所望の特性が得られないことがあるという問題がある。これは、以下のような理由による。即ち、圧電素子の変位は、通常、抗電界に対応する電圧である分極反転電圧よりも高い電圧領域では徐々に増加し、その後ある一定の電圧まで直線的に増加する。圧電素子を駆動する駆動信号は、この特性を利用して、圧電素子の分極方向が同一で、かつ、変位を大きくとることができるように、分極反転電圧よりも高い最低電圧から最高電圧の範囲で設定されている。しかし、圧電素子を構成する圧電体層の結晶配向や、振動板からの応力等のわずかな違いによって、分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性が変化してしまう。この特性が変化した圧電素子に駆動信号が印加されると、例えば圧電素子の所望の変位方向に対して逆方向の変位が生じるので、所望の電圧対変位特性を得ることができない。他方で、アクチュエータ装置毎に、分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性を調べて異なる駆動信号の電圧値を設定するとなると、アクチュエータ装置の製作工程が煩雑となってしまう。
【0004】
このような問題は液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置だけなく、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置においても同様に存在する。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、個々に駆動信号の電圧値を設定することなく所望の特性を得ることができる液体噴射ヘッドの製造方法及びアクチュエータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
液体噴射ヘッドの製造方法は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、厚さが5μm以下である圧電体層及び上電極をこの順で積層してなる圧電素子とを具備し、前記下電極及び前記上電極間に電圧を印加することにより、前記圧電素子を撓み変形させて圧力発生室に圧力を発生させて液体を吐出する液体噴射ヘッドの製造方法において、電圧を印加して前記圧電体層を分極させる分極工程と、圧電素子を40〜100℃で加熱する加熱工程とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法によれば、加熱工程を有することで、分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性を変化させるので、抗電界に対応する電圧である分極反転電圧よりも高い電圧領域において逆変位が発生するのを防止することができる。これにより、液体噴射ヘッドの吐出特性の劣化を防止することができる。なお、ここで圧電素子の厚さは、5μm以下であり、圧電素子がこの厚さの範囲であれば、40〜100℃という低温加熱で、圧電素子の特性を変化させることが可能である。
【0008】
この場合、かかる逆方向への変位を効果的に防止するためには、前記分極工程後に加熱工程を行うか、又は、前記加熱工程中に、分極工程を行うことが好ましい。
【0009】
本発明のアクチュエータ装置の製造方法は、基板上に設けられる下電極、厚さが5μm以下である圧電体層及び上電極をこの順で積層してなる圧電素子を有し、前記下電極及び前記上電極間に電圧を印加することにより、前記圧電素子を撓み変形させるアクチュエータ装置の製造方法であって、前記圧電素子に、電圧を印加して前記圧電体層を分極させる分極工程と、圧電素子を40〜100℃で加熱する加熱工程とを有することを特徴とする。
本発明のアクチュエータ装置の製造方法では、加熱工程において圧電素子を加熱することで、圧電素子の特性、即ち、抗電界に対応する電圧である分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性を変化させることができ、その結果、分極反転電圧よりも高い電圧領域において所望の変位方向に対して逆方向への変位が発生するのを防止することができる。なお、ここで圧電素子の厚さは、5μm以下であり、圧電素子がこの厚さの範囲であれば、40〜100℃という低温加熱で、圧電素子の特性を変化させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。流路形成基板10は、表面の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。
【0011】
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0012】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0013】
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、圧力発生室12の短手方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の短手方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とからなる液体流路が複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0014】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0015】
一方、このような流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側の面には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいい、圧電体層70は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる。なお、この圧電体層70は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に限定されるものではなく、ペロブスカイト型構造のものであればよい。また、この場合では圧電体層70の厚さは、約1.0μmであるが、5μm以下であれば、後述する本発明の加熱工程による電圧対変位特性変化を生じさせることが可能である。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。また、各圧電素子300の上電極膜80には、流路形成基板10のインク供給路14とは反対側の端部近傍まで延設された金(Au)等のリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加され、圧電素子300が変位するように構成されている。この圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせたものがアクチュエータ装置である。なお、流路形成基板10に振動板となる弾性膜50や絶縁体膜55を形成せずに、直接下電極60を形成してもよく、「基板上」という表現は、弾性膜50や絶縁体膜55を形成するものと、当該膜を形成せずに下電極60を直接形成するものの両者の概念を意味するものである。
【0016】
流路形成基板10の圧電素子300側の面には、保護基板30が接着剤等の接着層を介して接合されている。保護基板30には、連通部13に対向する領域に連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成するリザーバ部31が設けられている。
【0017】
また、保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0018】
なお、本実施形態では、流路形成基板10の連通部13と保護基板30のリザーバ部31とがリザーバ100を構成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。また、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路を設けるようにしてもよい。
【0019】
また、保護基板30上には、圧電素子300を駆動するための駆動回路120が実装されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とはボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0020】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0021】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの駆動信号S1に従い、圧電素子300を駆動させ、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0022】
ここで、駆動回路120から送出される駆動信号S1について説明する。図3に示すように、駆動信号S1は、いわゆる台形波であり、予め平均的な圧電素子300の電圧対変位特性から、分極反転電圧よりも高い温度範囲で、最高電圧VH、最低電圧VL、及び中間電圧VMが設定されている。即ち、駆動信号S1は、中間電圧VMを維持した状態から、時刻t=t1〜t2で最低電圧VLまで降下された後に、時刻t=t2〜t3で最低電圧VLを維持し、その後、時刻t=t3〜t4で最低電圧VLから最高電圧VHまで上昇され、次いで、時刻t=t4〜t5で最高電圧を維持し、最後に、時刻t=t5〜t6で最高電圧VHから中間電圧VMまで降下される。この駆動信号S1が圧電素子300、具体的には、下電極膜60と上電極膜80との間に印加されると、時刻t=t1〜t2において、駆動信号S1が中間電圧VMから最低電圧VLまで降下することにより、圧力発生室12が膨張され、次いで、時刻t=t3〜t4において、駆動信号S1が最低電圧VLから最高電圧VHまで上昇することにより、圧力発生室12が収縮され、その結果、インク滴が吐出される。この時刻t1〜t6における電圧や時間の長さは圧電体層の厚みなどの様々な条件に応じて変更されるものであり、この駆動信号S1が変更されたとしても、後述する40〜100℃で加熱する加熱工程を行うことで、本発明の目的は達成される。
【0023】
以下、図4及び図5を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。図4及び図5は、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための要部断面図である。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化し、流路形成基板10の表面に弾性膜50を形成し、この弾性膜50の圧電素子形成面側に、絶縁体膜55を形成する。次に、図4(b)に示すように、例えば、白金等からなる下電極膜60を絶縁体膜55の全面に形成後、所定形状にパターニングする。次に、図4(c)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属、あるいは導電性酸化物等からなる上電極膜80とを順次積層し、これらを同時にパターニングして圧電素子300を形成する。次いで、図4(d)に示すように、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。以上が膜形成プロセスである。
【0024】
次に、図5(a)に示すように予めリザーバ部31、圧電素子保持部32等が形成された保護基板30を、上記膜形成プロセス終了後の流路形成基板10上に接着剤によって接着する。次いで、図5(b)に示すように、流路形成基板10を所望の厚さにし、その後、シリコン単結晶基板である流路形成基板10の異方性エッチングを行い、図5(c)に示すように、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15を形成する。
【0025】
圧力発生室12を形成後、所定の電圧である分極信号を圧電素子300に所定時間印加して圧電素子300を構成する圧電体層70を分極させる分極工程を行う。分極工程は、具体的には、電界強度が100〜500kV/cmである直流電圧の分極信号を5〜100分印加することで圧電体層70を分極させる。例えば、55Vの直流電圧である分極信号を80分、圧電素子300に印加して圧電体層70を分極させる。
【0026】
ところで、この分極工程を経た圧電素子300の印加電圧に対する変位特性を調べてみると、図6(圧電素子の電圧対変位特性を示すグラフ)に点線で示すように、予め設定されている駆動信号S1(図3参照)の最低電圧VLを圧電素子300に印加すると、マイナスに変位するものがある。図6の縦軸における圧電素子の変位量においてプラスが所望の変位方向を意味しているので、変位量がマイナスとは、所望の変位方向に対して逆方向への変位(以下、逆変位という)していることを示す。従って、この場合、時刻t=t3〜t4での最高電圧VHから最低電圧VLへの電圧変化時における圧電素子300は逆変位した後に所望の変位方向に変位することになり、このことがインクジェット式記録ヘッド1のインク吐出特性の劣化を引き起こしてしまうことがある。従って、このような特性変化を防止する必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態においては、分極工程実施後、加熱炉で加熱して、圧電素子300の特性、即ち分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性を変化させる加熱工程を行う。加熱することで、圧電素子300の変位量は、図6に実線で示すように抗電界に対応する電圧Vc以上の電圧領域において徐々に増加し、その後、電圧上昇に伴いある一定の電圧まで直線的に増加するようになり、逆変位が生じていない。この結果、駆動信号S1を印加した場合に、時刻t=t3〜t4での最高電圧VHから最低電圧VLへの電圧変化時における圧電素子300は、所望の変位方向のみで変位するので、インクジェット式記録ヘッド1のインク吐出特性劣化を引き起こしてしまうことがない。
【0028】
この圧電素子300の加熱温度は、圧電体層70の厚さが5μm以下であれば、40〜100℃であり、好ましくは50〜60℃である。この範囲であれば、分極反転電圧及びこれに起因した電圧対変位特性を変化させて逆変位を防止することができる。このような低温での加熱により所定の効果を得ることができるので、特別な装置を用いることなく、かつ、大きなエネルギーを必要とすることもない。通常のバルクの場合には分極反転電圧がこのような低温では変化しないが、本実施の形態でこのように低温で分極反転電圧を変化させることができるのは、圧電体層70の厚さが5μm以下だからである。また、圧電体層70の厚さが5μm以下であるので、この範囲の温度であっても加熱による応力が発生して、この応力がさらに特性変化に寄与することができる。
【0029】
さらにまた、加熱時間は0.5〜24時間である。0.5時間より短いと、加熱の効果を得ることができず、24時間を超えて加熱すると製造時間がかかりすぎてしまう。好ましい加熱時間は、0.5〜5時間、特に4時間程度である。
【0030】
即ち、分極工程だけでは圧電素子300が逆変位し、所望の電圧対変位特性とならないものもあるなど特性のばらつきが生じるが、本実施形態ではこのような特性のばらつきを、加熱工程により簡易に抑えることができる。これにより、インクジェット式記録ヘッド毎にそれぞれ駆動信号S1の最低電圧VL及び最高電圧VHを設定しなくても、所望の特性を得ることができ、インクジェット式記録ヘッドが特性劣化しにくくなる。
【0031】
また、加熱工程を行うことで、実使用時及び搬送時における温度による特性変化がインクジェット式記録ヘッドの製造時に行うこともできるので、劣化を低減することも可能である。
【0032】
この分極工程及び加熱工程を実行した後は、流路形成基板10の保護基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30上にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板10、保護基板30等の各基板をチップサイズに分割することにより、図1に示すような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0033】
(他の実施形態)
上記実施形態においては、分極工程及び加熱工程を別工程として行ったが、分極工程及び加熱工程を同時に行ってもよい。即ち、加熱工程を行いながら分極工程を実施することも可能である。
【0034】
なお、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの製造方法の一例として、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】駆動信号を説明するための模式図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す模式的要部断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す模式的要部断面図である。
【図6】圧電素子の電圧対変位特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板(結晶基板)、 31 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 120 駆動回路、 300 圧電素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、厚さが5μm以下である圧電体層及び上電極をこの順で積層してなる圧電素子とを具備し、前記下電極及び前記上電極間に電圧を印加することにより、前記圧電素子を撓み変形させて圧力発生室に圧力を発生させて液体を吐出する液体噴射ヘッドの製造方法において、
電圧を印加して前記圧電体層を分極させる分極工程と、圧電素子を40〜100℃で加熱する加熱工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記分極工程後に加熱工程を行うことを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程中に分極工程を行うことを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
基板上に設けられる下電極、厚さが5μm以下である圧電体層及び上電極をこの順で積層してなる圧電素子を有し、前記下電極及び前記上電極間に電圧を印加することにより、前記圧電素子を撓み変形させるアクチュエータ装置の製造方法であって、
前記圧電素子に、電圧を印加して前記圧電体層を分極させる分極工程と、圧電素子を40〜100℃で加熱する加熱工程とを有することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−190350(P2009−190350A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35651(P2008−35651)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】