説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】各圧電素子の変位量のばらつきを極めて短時間で調整することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】複数の各圧電素子300の変位量を検査する検査工程と、検査工程の検査結果に基づいて複数の圧電素子300に変位量のばらつきがある場合に実施され、複数の前記圧電素子300に共通する共通電極側から駆動信号を入力して相対的に変位量の高い所定の圧電素子300を選択的に変位させることで圧電素子300の変位量を減少させる変位調整工程とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、インク滴を噴射するノズルと連通する圧力発生室に供給されたインクを圧電素子によって加圧することにより、ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表的な例としては、ノズルからインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、インク滴を噴射するノズルと連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものがある。また、インクジェット式記録ヘッドに採用される圧電素子としては、例えば、一対の電極とこれらの電極間に挟持される圧電体層とからなるものが知られている。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドを製造する際、各圧電素子の変位特性が均一化されるように、フォトリソグラフィ法等を用いて各圧電素子を高精度に形成している。しかしながら、各圧電素子の変位量にばらつきが生じてしまうことがある。
【0004】
圧電素子の変位量にばらつきが生じていると、各ノズルから噴射された液滴で描かれる線の幅(線幅)にばらつきが生じて印刷品質が低下してしまう。このため、製造過程において、各圧電素子の変位量のばらつきを適宜調整しておく必要がある。
【0005】
ここで、圧電素子の変位量を調整するために、例えば、実使用時よりも高電圧及び高周波数の駆動信号を、実使用時と同様に圧電素子に所定パルス数印加して圧電素子を駆動するエージング工程を実施する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−202849号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなエージング工程は、一般的には全ての圧電素子に対して実施されるが、例えば、所定の圧電素子に対して選択的にエージング工程を実施することで、あるいは、個々の圧電素子に対するエージング工程の実施条件を変更することで、上述したような各圧電素子の変位量のばらつきを調整することはできると考えられる。
【0008】
しかしながら、このようなエージング工程によって各圧電素子の変位量のばらつきを調整するには、極めて長い時間を必要とするため、製造効率が著しく低下してしまうという問題がある。
【0009】
なお、このような問題は、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液滴を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、各圧電素子の変位量のばらつきを極めて短時間で調整することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、液滴を噴射するノズルに連通する複数の圧力発生室が並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に各圧力発生室に対応して設けられた一対の電極と該電極間に挟持される圧電体層とからなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、複数の各圧電素子の変位量を検査する検査工程と、該検査工程の検査結果に基づいて複数の前記圧電素子に変位量のばらつきがある場合に実施され、複数の前記圧電素子に共通する共通電極側から駆動信号を入力して相対的に変位量の高い所定の圧電素子を選択的に変位させることで当該圧電素子の変位量を減少させる変位調整工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる本発明では、変位調整工程によって極めて短時間で圧電素子の変位量を減少させることができ、圧電素子の変位量のばらつきを比較的容易に調整することができる。したがって、製造効率を大幅に向上することができる。
【0012】
ここで、前記調整工程で前記圧電素子に入力する駆動信号の波形は三角波であることが好ましい。このように比較的単純な波形の駆動信号を圧電素子に入力することで、さらに短時間に圧電素子の変位量を減少させることができる。
【0013】
また前記検査工程の前に、各圧電素子で独立する個別電極側から前記圧電素子に駆動信号を入力して当該圧電素子を駆動するエージング工程を具備することが好ましい。これにより、圧電素子の変位が安定した状態で変位調整工程を実施することができ、圧電素子の変位量のばらつきをより確実に調整することができる。
【0014】
また前記検査工程では、各ノズルから噴射された液滴によって描かれる吐出結果を測定することを特徴とすることが好ましい。これにより、圧電素子の変位量のばらつきをより確実に調整することができる。
【0015】
また前記検査工程では、液滴によって描かれる吐出結果を測定する代わりに、各ノズルから噴射された液滴の量を測定するようにしてもよい。これにより、比較的容易に圧電素子の変位量を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る製造方法によって製造される液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2(a)は、インクジェット式記録ヘッドの要部平面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A′断面図である。
【0017】
図示するように、流路形成基板10は、結晶面方位が(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路13と連通路14とが隔壁11によって区画されている。また、連通路14の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部15が形成されている。
【0018】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0019】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように酸化膜からなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が積層形成されている。また絶縁体膜55上には、下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。一般的に、圧電素子300を構成する一対の電極のうちの一方の電極は、複数の圧電素子300に共通する共通電極として機能し、他方の電極が各圧電素子300で独立する個別電極として機能する。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を各圧電素子300の個別電極としている。勿論、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお本実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。また圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路13側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0020】
ここで、圧電素子300を構成する下電極膜60は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等の金属材料からなる。また、圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が好適に用いられるが、実使用時に変位が十分得られるものであれば特に限定されず、その他の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成としては、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また上電極膜80は、下電極膜60と同様に、白金(Pt)、又はイリジウム(Ir)、もしくはこれらの積層又は合金等の金属材料からなる。
【0021】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31を有する保護基板30が、接着剤35によって接合されている。なお、圧電素子保持部31は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0022】
また、保護基板30には、連通部15に対向する領域にリザーバ部32が設けられており、このリザーバ部32は、上述したように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に下電極膜60の一部及びリード電極90の先端部が露出されている。
【0023】
このような保護基板30の材料としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、例えば、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板が好適に用いられる。
【0024】
また、保護基板30上には、圧電素子300を駆動するための図示しない駆動回路が固定されており、駆動回路とリード電極90とはボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線を介して電気的に接続されている。
【0025】
保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0026】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応する圧電素子300に上電極膜80側から駆動信号を入力し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が噴射する。
【0027】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図3及び図4は、圧力発生室の長手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成し、この弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0028】
次に、図3(b)に示すように、絶縁体膜55上に圧電素子300を形成する。具体的には、まず、例えば、白金等からなる下電極膜60を絶縁体膜55の全面に形成後、所定形状にパターニングした後、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、白金等の金属からなる上電極膜80とを順次積層する。そして、これら上電極膜80及び圧電体層70をパターニングすることによって圧電素子300を形成する。
【0029】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、金(Au)等の金属層91からなるリード電極90を形成する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金属層91を形成すると共に、この金属層91を各圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。
【0030】
次いで、図4(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハである保護基板用ウェハ130を接着剤35によって接合する。なお、この保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32及び貫通孔33が予め形成されている。
【0031】
次に、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対面側を加工して、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みとする。次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の表面に、圧力発生室12等のインク流路を形成する際のマスクとなる所定パターンの保護膜52を形成し、この保護膜52をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。
【0032】
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割する。
【0033】
このように各チップサイズに分割した後は、各圧電素子300を駆動させて変位量を安定させるエージング工程を実施する。このとき、各圧電素子300には、個別電極である上電極膜80側から所定の駆動信号を入力する。このようなエージング工程を実施することにより、圧電素子300を構成する圧電体層70を分極させると共に、且つ振動板の内部応力、特に、振動板を構成する下電極膜60の内部応力が緩和させる。これにより、実使用時の圧電素子300の変位量の変動が著しく小さく抑えられる。
【0034】
ところで、このようなエージング工程の実施の有無に拘わらず、並設された各圧電素子300の変位量にばらつきが生じてしまうことがある。圧電素子300を形成した状態で各圧電素子300の変位量にばらつきがあれば、全ての圧電素子300に対してエージング工程を実施しても、依然として圧電素子300の変位量のばらつきは存在する。そして、このような圧電素子の変位量のばらつきがあると、印刷を実行した際に、各ノズル21から噴射されたインク滴で描かれる線の幅(線幅)にばらつきが生じ、印刷品質が低下してしまうという問題がある。
【0035】
図5は、列設されたノズルの位置(ノズル位置)と、各ノズルに対応するインク滴(液滴)の吐出結果、例えば、インク滴を噴射して描いた罫線の線幅との関係を示すグラフである。各圧電素子の変位量が均一である場合、図5中に点線で示すように、線幅はほぼ均一になる。しかしながら、各圧電素子300の変位量にばらつきがあると、図5中に実線で示すように、特定のノズル位置P0近傍の線幅が、他のノズル位置に対応する線幅よりも著しく細くなることがある。つまり、特定のノズル位置に対応する圧電素子300の変位量が他のノズル位置に対応する圧電素子300の変位量よりも著しく低くなっていることがある。
【0036】
そこで、本実施形態では、エージング工程実施後に、圧電素子300の変位量を検査する検査工程を実施する共に、複数の圧電素子300に共通する共通電極側から所定の圧電素子300に駆動信号を入力して選択的に変位させることで圧電素子300の変位量を抑制する変位調整工程を必要に応じて実施する。
【0037】
検査工程では、具体的には、例えば、実際に印刷を実施して各ノズルから噴射されたインク滴で描かれた線の幅(線幅)を測定する。つまり、線幅を測定することで、各圧電素子の変位量を推定すると共に、各圧電素子300の変位量のばらつきの有無を検査している。そして、各圧電素子300の変位量にばらつきが生じている場合には、変位調整工程を実施する。勿論、ばらつきが生じていなければ変位調整工程を実施する必要はない。
【0038】
なお、検査工程では、線幅の代わりに、例えば、噴射されたインク滴の速度や、噴射されたインク滴の重量等の各種噴射特性を測定するようにしてもよい。例えば、図6に示すように、線幅と、インク滴をノズルから噴射したときの速度(インク滴速度)等の各種噴射特性とは明らかな相関関係にある。したがって、インク滴速度を測定することによっても圧電素子300の変位量を推定することができる。
【0039】
変位調整工程では、この検査工程で測定した線幅に基づいて実施条件、例えば、対象となる圧電素子300の決定、駆動信号の入力時間(駆動回数)、電圧の大きさ等を決定する。そして、検査工程に基づいて決定された実施条件に基づいて、所定の圧電素子300にその共通電極側から駆動信号を入力して選択的に変位させる。本実施形態では、下電極膜60が共通電極を構成しているため、変位調整工程では、下電極膜60側から駆動信号を入力する。
【0040】
このような変位調整工程を実施することで、すなわち実使用時やエージング工程の時とは逆側の電極から圧電素子300に駆動信号を入力して圧電素子300を変位させることで、極めて短時間で圧電素子300の変位量を抑制することができ、並設された各圧電素子300の変位量のばらつきを調整することができる。
【0041】
ここで、変位調整工程において、例えば、下電極膜60に印加するバイアス電圧を−20V、駆動電圧(振幅)40V一定とした駆動信号を圧電素子300に入力し、印加時間を変化させたときの線幅の低下率を調べた。その結果を図7のグラフに示す。図7に示すグラフから分かるように、変位調整工程を実施する時間(駆動信号の入力時間)に応じて、線幅が減少する。また、数秒という極めて短時間で圧電素子300の変位量が80%程度まで減少していることが分かる。そしてこの結果から分かるように、共通電極側から圧電素子300に駆動信号を入力して圧電素子300を駆動させる変位調整工程を実施することで、極めて短時間で圧電素子300の変位量を減少させることができ、また駆動信号の入力時間を変化させることで変位量を所定量だけ減少させることができる。
【0042】
なお、駆動信号の入力時間を変化させると圧電素子300の変位量を特に効率的に抑制することができるが、例えば、他のパラーメータを変化させるようにしてもよい。例えば、駆動信号の入力時間及び駆動電圧(振幅)を一定として、バイアス電圧を変化させることによっても、圧電素子300の変位量を所定量だけ減少させることができる。また例えば、駆動信号の入力時間及びバイアス電圧を一定として、駆動電圧(振幅)を変化させることによっても、圧電素子300の変位量を所定量だけ減少させることができる。
【0043】
そして、本実施形態では、変位調整工程において、線幅の細いノズル位置P0(図5参照)に対応する圧電素子300に近接する複数の圧電素子300に駆動信号を入力し、その入力時間を調整することで、これら複数の圧電素子300の変位量を段階的に低下させるようにした。すなわち、ノズル位置P0近傍の複数の圧電素子300に対して駆動信号を入力し、ノズル位置P0に近い圧電素子300ほど駆動信号の入力時間を長くすることで、図5中に一点鎖線で示すようにノズル位置P0近傍の線幅の変化の傾斜角度が、変位調整工程実施前(図5中実線)に比べて緩やかになるようにした。
【0044】
このように所定の圧電素子300の変位量を調整することで、印刷品質を実質的に向上させることができる。本実施形態の場合、変位調整工程実施後も線幅のばらつき自体はあるが、隣接するノズル間での線幅の急激な変化がないため、実使用上において問題ない程度に印刷品質を向上させることができる。つまり、線幅のばらつきを肉眼では認識できない程度に印刷品質を向上させることができる。
【0045】
本実施形態では、ノズル位置P0近傍の圧電素子300の変位量のみを調整するようにしたが、勿論、線幅の狭いノズルを除く全てのノズルに対応する圧電素子300に対して変位調整工程を実施し、例えば、図5中に二点鎖線で示すように、全てのノズルに対応する線幅が、ノズル位置P0の線幅と実質的に一致するようにしてもよい。これにより、印刷品質をさらに向上させることができる。
【0046】
また変位調整工程で圧電素子300に入力する駆動信号の波形は、特に限定されないが、例えば、sin波、矩形波等の周波数が単一の波形であることが好ましく、特に、三角波であることが好ましい。このような単純波形であれば、比較的短時間で圧電素子300を所定回数駆動させることができ、変位調整工程の実施時間をさらに短縮できる。また圧電素子300の負担及び圧電素子300を駆動する駆動回路の負担も抑えられる。
【0047】
なおエージング工程は、変位調整工程後に実施するようにしてもよいが、本実施形態のように、変位調整工程前に実施することが好ましい。これにより、変位調整工程を無駄に実施することなく製造効率を向上することができる。上述したように、圧電素子300を駆動して変位量の変動を抑えるためにエージング工程を実施しているが、このエージング工程は、圧電素子の良否を判定・選別するスクリーニング工程の一部を兼ねている。すなわち、エージング工程を実施後、検査工程で圧電素子の変位量を検査することにより、圧電素子300の良否を判定・選別し、良品と判定され且つ圧電素子300の変位量にばらつきがあるものだけに対して変位調整工程を実施している。したがって、変位調整工程を無駄に実施する必要がなく、製造効率を向上させることができる。
【0048】
また本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12を形成し、流路形成基板10にノズルプレート20を接合した後に、エージング工程を実施しているが、エージング工程を実施するタイミングは、圧電素子300を形成した後であれば、特に限定されない。例えば、圧電素子300を形成した後で且つ圧力発生室12を形成する前に、エージング工程を行うようにしてもよい。つまり、圧電素子300の変位が規制された状態でエージング工程を行うようにしてもよい。これにより、圧電材料の分極を固定することができるので、実使用時よりも低い電圧で十分なエージングを行うことができる。
【0049】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0050】
なお、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの製造方法の一例として、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの一例を示す平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】ノズル位置と線幅の関係を示すグラフである。
【図6】インク滴速度と線幅との関係を示すグラフである。
【図7】駆動信号の入力時間と線幅の減少量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 100 リザーバ、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズルに連通する複数の圧力発生室が並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に各圧力発生室に対応して設けられた一対の電極と該電極間に挟持される圧電体層とからなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
複数の各圧電素子の変位量を検査する検査工程と、該検査工程の検査結果に基づいて複数の前記圧電素子に変位量のばらつきがある場合に実施され、複数の前記圧電素子に共通する共通電極側から駆動信号を入力して相対的に変位量の高い所定の圧電素子を選択的に変位させることで当該圧電素子の変位量を減少させる変位調整工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記調整工程で前記圧電素子に入力する駆動信号の波形が三角波であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記検査工程の前に、各圧電素子で独立する個別電極側から前記圧電素子に駆動信号を入力して当該圧電素子を駆動するエージング工程を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記検査工程では、各ノズルから噴射された液滴によって描かれる吐出結果を測定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記検査工程では、各ノズルから噴射された液滴の量を測定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−184247(P2009−184247A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27301(P2008−27301)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】