説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子

【課題】圧電特性を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室12と、該圧力発生室12に圧力変化を生じさせると共に、第1電極60と、該第1電極60上に形成された圧電体層70と、該圧電体層70の前記第1電極60とは反対側に形成された第2電極80とを具備する圧電素子300と、を具備し、圧電体層70が同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜71と、この2つの前記誘電体膜71の間に設けられて、格子間距離が前記誘電体膜71と異なる介在層72と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1電極、圧電体層及び第2電極を具備する圧電素子と、圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。この圧電性セラミックスとしては、ペロブスカイト型結晶構造を有し、化学式ABOで示すことができる複合酸化物が知られている。
【0003】
また、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子は、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−152233号公報
【特許文献2】特開2004−42287号公報
【特許文献3】特開2006−286925号公報
【特許文献4】特開2007−288123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電体層は、柱状結晶であっても、柱状結晶が斜めに成長するなどして結晶性が悪くなり、圧電特性が低下してしまう虞があり、より完全な柱状結晶を有する圧電体層を形成することで、圧電特性を向上することが望まれている。
【0006】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドだけではなく、他の装置に搭載される圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電特性を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせると共に、第1電極と、該第1電極上に形成された圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極とを具備する圧電素子と、を具備し、圧電体層が同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜と、この2つの前記誘電体膜の間に設けられて、格子間距離が前記誘電体膜と異なる介在層と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、介在層によって一方の電極側の誘電体膜上に他方の電極側の誘電体膜をより完全な柱状結晶で形成することができ、優先配向をより完全に行わせることができる。
【0009】
また、前記圧電体層が、鉛、チタン及びジルコニウムを有するものであることが好ましい。これによれば、所望の圧電特性を得ることができる。
【0010】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。これによれば、液体噴射特性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、第1電極と、該第1電極上に形成された圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備し、前記圧電体層が同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜と、この2つの前記誘電体膜の間に設けられて、格子間距離が前記誘電体膜と異なる介在層と、を具備することを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、介在層によって一方の電極側の誘電体膜上に他方の電極側の誘電体膜をより完全な柱状結晶で形成することができ、優先配向をより完全に行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図であり、図3は、圧電素子の断面図であり、図4は図3の要部拡大断面図及び平面図である。
【0013】
図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0014】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0015】
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0016】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0017】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0018】
圧電体層70は、第1電極60上に形成される分極構造を有する一般式ABOで示される酸化物の圧電材料からなるペロブスカイト型構造を有する結晶膜である。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。すなわち、圧電体層70は、鉛、チタン、ジルコニウムを有するものであり、具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。
【0019】
圧電体層70は、図3に示すように、第1電極60側及び第2電極80側にそれぞれ同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜71と、2つの誘電体膜71の間に設けられて格子間距離が誘電体膜71とは異なる介在層72とを有する。
【0020】
2つの誘電体膜71の格子間距離が同じとは、同じ材料、同じ製造条件で作った、理論上同じという意味である。2つの誘電体膜71は、図4に示すように、第1電極60の表面(圧電体層70側の面)に対して垂直に延びるように形成された複数の柱状結晶73で構成されている。2つの誘電体膜71をそれぞれ構成する柱状結晶73は、面内(第1電極60の表面)での位置が同一位置となるように配置されている。すなわち、一方の電極側の誘電体膜71は、他方の電極側の誘電体膜71に介在層72を介してエピタキシャル成長により形成されたものであり、2つの誘電体膜71は、結晶面の結晶粒の位置が、同一位置となっている。
【0021】
介在層72は、一方の電極側の誘電体膜71上に設けられて、他方の電極側の誘電体膜71をエピタキシャル成長させるためのものである。このような介在層72は、誘電体膜71と同じ組成、同じ結晶構造を有するが、結晶の格子間距離、すなわち、結晶軸の長さ(格子定数のa、b、cで表されるもの)が誘電体膜71とは異なるものである。このような介在層72は、図4(a)に示すように、2つの誘電体膜71の積層方向における2つの柱状結晶73の間、すなわち、第1電極60から第2電極80側に向かう厚さ方向における柱状結晶73の間に存在するように設けられている。ここで、図4(b)に示すように、面内(第1電極60の圧電体層70側の表面)で隣り合う柱状結晶73の間74には、異物(非結晶)や空隙などが存在し、介在層72は存在していない。すなわち、介在層72は、2つの誘電体膜71の間に点在しているものである。
【0022】
このような、圧電体層70の組成比としては、Pb/(Zr+Ti)=1.05〜1.5、Zr/Ti=53/47〜75/25であるのが好適である。
【0023】
さらに、圧電体層70は、結晶が(100)面に優先配向している。本実施形態では、介在層72を設けることによって、一方の誘電体膜71の上に他方の誘電体膜71の柱状結晶73を垂直に立てることができる。このため、圧電体層70のほとんど(例えば、99%以上)を(100)面に、すなわち、より完全に優先配向させることができる。また、これにより、XRD強度をより高めることができる。
【0024】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜5μm前後の厚さで形成した。
【0025】
さらに、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。
【0027】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0028】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0030】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0031】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0032】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0033】
本実施形態では、圧電体層70をより完全に(100)面に優先配向させることができるため、圧電体層70の圧電特性を向上することができる。すなわち、圧電特性が向上した圧電体層70をインクジェット式記録ヘッドIに用いることにより、インク吐出特性を向上することができる。
【0034】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5〜図9を参照して説明する。なお、図5〜図9は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図であり、特に図6は、要部を拡大した断面図である。
【0035】
まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110を熱酸化することにより、二酸化シリコンからなる酸化膜51を形成した。
【0036】
次に、図5(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0037】
次に、図5(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。また、特に図示していないが、第1電極60上に柱状結晶の圧電体層70を良好に形成するためには、第1電極60の圧電体層70側にチタン等の結晶種となる材料を配置するようにしてもよい。
【0038】
次に、流路形成基板用ウェハ110の第1電極60側に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70を形成する。
【0039】
圧電体層70の製造方法としては、例えば、結晶化する前の圧電体前駆体層をスパッタリング法又は化学蒸着法(CVD法)により形成後、圧電体前駆体層を加熱焼成することで形成することができる。
【0040】
具体的には、まず、図6(a)に示すように、圧電体層70となる圧電体前駆体層170を形成する。本実施形態の圧電体前駆体層170は、誘電体膜71となる2つの誘電体前駆体膜171と、2つの誘電体前駆体膜171の間に設けられて介在層72となる介在前駆体層172とを有する。このような圧電体前駆体層170は、流路形成基板用ウェハ110の第1電極60側にスパッタリング法又はCVD法により、誘電体前駆体膜171を連続して成膜している最中に一度成膜を停止することで形成することができる。すなわち、最初の連続する成膜によって第1電極60側の誘電体前駆体膜171を形成し、成膜を一時停止することで、介在前駆体層172を形成することができる。そして、2度目の連続する成膜を再開することで、介在前駆体層172上に第1電極60とは反対側(第2電極80側:図示なし)の誘電体前駆体膜171を形成することができる。要するに、連続する成膜によって2つの誘電体前駆体膜171を形成し、成膜を一時停止することで介在前駆体層172を形成することができる。
【0041】
なお、圧電体前駆体層170を形成するスパッタリング法又はCVD法などの成膜では、堆積温度が500℃以下とするのが好ましい。
【0042】
次に、図6(b)に示すように、この圧電体前駆体層170を加熱焼成して結晶化することで、圧電体層70を形成する。圧電体前駆体層170の焼成温度は、700℃〜900℃が好適である。このように圧電体前駆体層170を加熱すると、実質的に第1電極60が加熱されるため、圧電体層70は、第1電極60側からエピタキシャル成長しながら結晶化される。このとき、介在前駆体層172によって介在前駆体層172よりも上(第1電極60とは反対側)の誘電体前駆体膜171は、介在層72の結晶構造を踏襲させたエピタキシャル成長させることができ、介在層72よりも上の誘電体膜71の柱状結晶73(図4参照)を垂直に形成することができる。
【0043】
これにより、圧電体層70のほとんど(例えば、99%以上)を(100)面に、すなわち、より完全に優先配向させることができる。
【0044】
なお、圧電体層70の形成方法は、特にこれに限定されず、例えば、ゾル−ゲル法、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
【0045】
次に、図7(a)に示すように、圧電体層70上に、例えば、イリジウムからなる第2電極80を形成する。
【0046】
次に、図7(b)に示すように、第2電極80及び圧電体層70を同時にエッチングすることにより各圧力発生室12に対応する領域に圧電素子300を形成する。ここで、第2電極80及び圧電体層70のエッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0047】
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0048】
次に、図8(a)に示すように、保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハ130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハ130には、リザーバー部31及び圧電素子保持部32等が予め形成されている。保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0049】
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
【0050】
次いで、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上にマスク52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0051】
その後は、流路形成基板用ウェハ110表面のマスク52を除去し、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0052】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。上述した実施形態1では、圧電体層70が、2つの誘電体膜71と、2つの誘電体膜71の間に設けられた介在層72とで構成されるものを例示したが、誘電体膜71の数及び介在層72の数は、特にこれに限定されるものではない。介在層72が2層以上の複数層設けられていてもよいが、基本的に介在層72を挟むように2つの誘電体膜71が配置されていれば、上述した実施形態1と同様の効果を奏することができる。ちなみに、複数層の介在層72は、上述した実施形態1と同様に、スパッタリング法又はCVD法による誘電体前駆体膜171の成膜を一時停止する回数を増やすことで形成することができる。すなわち、誘電体前駆体膜171の成膜を一時停止する度に介在層72を形成することができる。
【0053】
また、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0054】
さらに、上述した実施形態1では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0055】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0056】
図10に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0057】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0058】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0059】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電素子の断面図である。
【図4】実施形態1に係る圧電素子の要部拡大断面図及び平面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す要部拡大断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 70 圧電体層、 71 誘電体膜、 72 介在層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 121 接続配線、 170 圧電体前駆体層、 171 誘電体前駆体膜、 172 介在前駆体層、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、
該圧力発生室に圧力変化を生じさせると共に、第1電極と、該第1電極上に形成された圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極とを具備する圧電素子と、を具備し、
圧電体層が同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜と、この2つの前記誘電体膜の間に設けられて、格子間距離が前記誘電体膜と異なる介在層と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記圧電体層が、鉛、チタン及びジルコニウムを有するものであることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
第1電極と、該第1電極上に形成された圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備し、
前記圧電体層が同じ格子間距離を有する2つの誘電体膜と、この2つの前記誘電体膜の間に設けられて、格子間距離が前記誘電体膜と異なる介在層と、を具備することを特徴とする圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−131920(P2010−131920A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311630(P2008−311630)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】