説明

液体封入式防振装置

【課題】ブラケットを備える液体封入式防振装置において、別体のストッパゴムとブラケットとが、離間と当接を繰り返したり、擦れたりすることで発生する異音を抑える。
【解決手段】主バネ部5と、略筒状のケーシング部3aを有するエンジンブラケット3とを備えた液体封入式防振装置1である。ケーシング部3aに側方から取り付けられる一対のストッパゴム11を備えている。ストッパゴム11は、ケーシング部3aの外側の側面に保持されるストッパ本体部51と、上側及び下側ストッパ取付部61,71とを有していて、ケーシング部3aを上下に挟むように取り付けられている。ストッパ取付部61,71には、ケーシング部3aの上下両端面に形成された凹溝部3d,3eに嵌合する上側及び下側凸条部61a,71aが形成されている。ストッパ本体部51の内側面には、内側溝部51dを形成するように内側突条部51cが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用エンジンなどのマウントに用いられる、流体を封入した液体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の液体封入式防振装置としては、エンジン側の取付金具と車体側の支持金具との間にゴム弾性体を介設し、このゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように両部材間に液室を形成するとともに、この液室を受圧室及び平衡室に仕切り、これら受圧室及び平衡室を連通するオリフィス通路を設けたものが多い。そうして、かかる液体封入式防振装置では、オリフィス通路を介して受圧室及び平衡室の間を液体が流動することにより、エンジンからの振動が吸収、減衰されるようになっている。
【0003】
また、この種の液体封入式防振装置では、支持金具の外周面の一部を覆うように、ゴム弾性体と一体形成されたストッパゴムを設け、例えば自動車の急加速時のように大きな駆動反力が作用してエンジン等が揺れようとすると、かかるストッパゴムが車体側の部材に当接することにより、ゴム弾性体の前後の変形を制限するようにしたものが多い。
【0004】
さらに、このような液体封入式防振装置では、支持金具自体をブラケットとしたものが、換言すると、貫通孔を有する略筒状のケーシング部と取付部とが一体に形成されたブラケットの当該ケーシング部に、ゴム弾性体を同時モールドしたものが知られている。例えば、特許文献1には、複数の固定用孔が貫設された取付部が径方向外側に向かって突出するように形成された略円筒形状の第二の取付金具(ブラケットに相当)に、本体ゴム弾性体と、当該本体ゴム弾性体と一体形成された緩衝ゴム層(ストッパゴムに相当)と、を加硫接着した液体封入式防振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−90531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のもののように、ブラケットにゴム弾性体及びストッパゴムを同時モールドしたものでは、以下のような問題がある。すなわち、従来は、ブラケットが小さかったことから、1回のモールドで複数の一体加硫成形品(ブラケットにゴム弾性体及びストッパゴムが同時モールドされたもの)を成形することが可能であったが、今日では、エンジン性能の向上に伴って、大きなブラケットが要求されるため、1回のモールドで成形できる一体加硫成型品の個数が限られることから、液体封入式防振装置の製造コストが嵩むという問題がある。
【0007】
そこで、液体封入式防振装置の製造コストを抑えるべく、1回のモールドで複数成形可能な、例えば取付金具と金属製パイプ部材とをゴム弾性体で連結した一体加硫成形品(主バネ部)を、ブラケットを構成する略筒状の支持金具に圧入するとともに、ゴム弾性体とは別体のストッパゴムを支持金具の外側の側面に取り付けることが考えられる。
【0008】
しかしながら、かかる構造では、液体封入式防振装置に対して振動が入力すると、ストッパゴムの内側面と支持金具の外側の側面とが、離間と当接を繰り返したり、擦れたりすることで異音が発生するという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ブラケットを備える液体封入式防振装置において、別体のストッパゴムをブラケットの外側の側面に取り付ける場合でも、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面とが、離間と当接を繰り返したり、擦れたりすることによって発生する異音を抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、ストッパゴムをブラケットにしっかりと取り付けることにより、振動が入力した場合でも、両者の接触状態を維持するとともに、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面との接触面積を減らして、擦れによる異音の発生を抑えるようにしている。
【0011】
具体的には、第1の発明は、車体側に取り付けられる取付金具と筒体とをゴム弾性体で連結した主バネ部と、貫通孔を有する略筒状のケーシング部と当該ケーシング部をエンジン側に取り付けるための取付部とが一体に形成されたブラケットと、を備え、上記筒体を上記貫通孔に圧入することによって、上記ゴム弾性体と当該ケーシング部の内周面とを壁部の一部とする容積可変の液室が形成される液体封入式防振装置を対象としている。
【0012】
そして、上記ケーシング部に対し筒径方向外側から取り付けられるゴム製のストッパ部をさらに備え、上記ストッパ部は、上記ケーシング部の外側の側面に保持される略矩形状のストッパ本体部と、当該ストッパ本体部の筒軸方向両端部から筒径方向内側に延びる上下一対のストッパ取付部と、を有する断面略コ字状に形成されていて、当該上下一対のストッパ取付部によって当該ケーシング部を筒軸方向に挟むように当該ケーシング部に取り付けられており、上記ストッパ取付部には、上記ケーシング部の筒軸方向両端部に形成された凹部に嵌合する、筒軸方向内側に突出する凸部がそれぞれ形成されている一方、上記ストッパ本体部の内側面には、溝部を形成するように筒径方向内側に突出する突起部が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
第1の発明によれば、主バネ部及びストッパ部とブラケットとを別体としていることから、1回のモールドで複数の主バネ部及びストッパ部を成形することができる。
【0014】
また、ストッパ本体部は、ストッパ取付部に突設された凸部が、ケーシング部の筒軸方向両端面に形成された凹部に嵌合することによって、ケーシング部の外側の側面に保持される。そうして、このストッパ本体部の内側面には、筒径方向内側に突出する突起部が形成されていることから、ストッパ部をケーシング部に取り付けると、当該突起部がケーシング部の外側の側面を筒径方向内側に押す。これにより、ストッパ取付部に突設された凸部と筒径方向内側に突出する突起部とがあたかもケーシング部を筒径方向に挟むように作用することから、ストッパ部がケーシング部にしっかりと取り付けられる。したがって、別体のストッパゴムをブラケットの外側の側面に取り付ける場合でも、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面とが、離間と当接を繰り返すことで発生する異音を抑えることができる。
【0015】
さらに、突起部は、ストッパ本体部の内側面に溝部を形成するように形成されていることから、かかる溝部の存在により、ストッパ本体部の内側面とケーシング部の外側の側面との接触面積が減少することになる。これにより、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面とが擦れた場合にも、異音の発生を抑えることができる。
【0016】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ストッパ本体部の外側面には、溝部を形成するように筒径方向外側に突出する突起部が形成されており、上記スットパ部には、上記ストッパ本体部に対応する略矩形状の本体部と、当該本体部の筒軸方向両端部から筒径方向内側に延びる上下一対の延出部と、を有する断面略コ字状に形成された補強部材が埋設されており、上記補強部材の本体部には、開口部が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
第2の発明によれば、断面略コ字状のストッパ部には、その全体に亘って、断面略コ字状の補強部材が埋設されているので、当該ストッパ部の耐久性を向上させることができる。
【0018】
また、ストッパ本体部に埋設されている補強部材の本体部には開口部が形成されているので、ストッパ本体部における開口部に対応する部位では、当該ストッパ本体部が補強部材によって筒径方向内側と外側に分断されていないことから、適度のラバーボリュームが確保されている。そうして、ストッパ本体部の外側面及び内側面には、ともに溝部が形成されているので、これらの溝部が潰れることで変形し易くなっている。このように、ストッパ本体部は、適度なラバーボリュームを有しているとともに変形しやすい形状に形成されていることから、軟らかいばね特性を呈する。
【0019】
そうして、ストッパ本体部の変形が進み溝部が潰れると、ストッパ本体部における開口部に対応する部位が、筒軸方向及び筒周方向に逃げるように変形しようとするが、開口部を区画する枠状の補強部材本体部によってかかる変形が抑えられる。これにより、ストッパ本体部は、硬いばね特性を呈する。
【0020】
以上により、荷重が入力すると大きく変形して衝撃を吸収する領域と、荷重が入力しても大きく変形せず変位を抑える領域とを有する2段階の特性を備えた、耐久性の高いストッパゴムを実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る液体封入式防振装置によれば、主バネ部及びストッパ部とブラケットとを別体としていることから、1回のモールドで複数の主バネ部びストッパ部を成形することができる。
【0022】
また、ストッパ取付部に突設された凸部が、ケーシング部の筒軸方向両端面に形成された凹部に嵌合することによって、ケーシング部の外側の側面に保持されるストッパ本体部の内側面には、筒径方向内側に突出する突起部が形成されていることから、ストッパ部をケーシング部に取り付けると、ストッパ取付部に突設された凸部と筒径方向内側に突出する突起部とがあたかもケーシング部を筒径方向に挟むように作用することから、ストッパ部がケーシング部にしっかりと取り付けられる。したがって、別体のストッパゴムをブラケットの外側の側面に取り付ける場合でも、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面とが、離間と当接を繰り返すことで発生する異音を抑えることができる。
【0023】
さらに、突起部は、ストッパ本体部の内側面に溝部を形成するように形成されていることから、かかる溝部の存在により、ストッパ本体部の内側面とケーシング部の外側の側面との接触面積が減少し、これにより、ストッパゴムの内側面とブラケットの外側の側面とが擦れた場合にも、異音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】主バネ部をブラケットの貫通孔に圧入する状態を模式的に説明する断面図である。
【図4】液体封入式防振装置を取付ブラケットに固定した状態を示す斜視図である。
【図5】筒体の変形挙動を説明する断面図である。
【図6】貫通孔の孔壁を模式的に示す図である。
【図7】貫通孔に圧入することで変形した筒体を模式的に示す断面図である。
【図8】シール部を示す断面図であり、同図(a)は、圧入前の状態を示し、同図(b)は、圧入された状態を示す。
【図9】ストッパゴムを示す斜視図である。
【図10】ストッパゴムを示す図であり、同図(a)は、同図(c)のA−A線断面図であり、同図(b)は、外側面を示す正面図であり、同図(c)は、縦断面図であり、同図(d)は、内側面を示す背面図であり、同図(e)は、同図(c)のE−E線断面図である。
【図11】補強部材を示す斜視図である。
【図12】ストッパゴムの変形の様子を説明する図であり、同図(a)は、ブラケットにストッパゴムを同時モールドした従来のものを示し、同図(b)は、本実施形態のものを示す。
【図13】ストッパゴムの荷重−撓み曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
−全体構造−
図1及び図2は、本実施形態に係る液体封入式防振装置を示す図である。この液体封入式防振装置1は、図1及び図2に示すように、エンジン及び変速機が結合されてなる不図示のパワープラント(エンジン側)に取り付けられる、貫通孔13が形成されたエンジンブラケット3と、当該貫通孔13に下側(筒軸方向一方側)から圧入される主バネ部5と、当該貫通孔13に上側(筒軸方向他方側)から挿入されるオリフィス板7と、当該オリフィス板7に重なるように、当該貫通孔13に上側から圧入されるダイヤフラム9と、当該エンジンブラケット3に側方(筒径方向外側)から取り付けられる一対のストッパゴム(ストッパ部)11と、を備えている。
【0027】
主バネ部5は、車体側に連結されるアルミニウム合金製のインナープレート(取付金具)25と、アルミニウム合金製のアウターパイプ(筒体)15と、これらを連結するように加硫接着されたゴム弾性体35とを有していて、図3に示すように、アウターパイプ15を貫通孔13に圧入することで、エンジンブラケット3に取り付けられている。そうして、本実施形態の液体封入式防振装置1は、アウターパイプ15の筒軸方向が上下方向を向くように、また、一対のストッパゴム11が車両前後方向に対向するように、パワープラント及び車体に取り付けられるようになっている。
【0028】
この液体封入式防振装置1では、エンジンブラケット3の内周面と主バネ部5(具体的にはゴム弾性体35)とダイヤフラム9とによって区画される空洞内に、エチレングリコール等の緩衝液が封入されていて、かかる空洞が、ゴム弾性体35に入力するパワープラントの振動を吸収、緩和するための液室31を形成している。そうして、この液室31の内部はオリフィス板7によって上下に仕切られていて、その下側が、ゴム弾性体35の変形に伴い容積が拡大又は縮小する受圧室31aになっている一方、液室31の上側は、ダイヤフラム9の変形によって容積が拡大又は縮小されて、受圧室31aにおける容積の変動を吸収する平衡室31bとなっている。
【0029】
この液体封入式防振装置1は、図4に示すように、当該液体封入式防振装置1の上方を前後に跨ぐようにして車体サイドフレーム(図示せず)に取り付けられる略逆U字状の取付ブラケット21を介して、車体に取り付けられることでパワープラントを弾性支持するようになっている。この取付ブラケット21は、液体封入式防振装置1の上方で略水平に前後方向に延びる上側梁部21aと、当該上側梁部21aの前後両端部からそれぞれ下方に延びる前後一対の脚部21bと、これらの脚部21bを連結するように、液体封入式防振装置1の下方で前後方向に略水平に延びる下側梁部21cとを有しており、この前後一対の脚部21bの各下端部21dがそれぞれサイドフレーム上に締結されるようになっている。そうして、液体封入式防振装置1は、主バネ部5のインナープレート25が下側梁部21cに固定されることで、当該取付ブラケット21に取り付けられるようになっている。
【0030】
これにより、この液体封入式防振装置1では、例えば自動車が停止していてエンジンがアイドル運転状態にあるときには、トルク変動等に起因する低周波のアイドル振動がゴム弾性体35により吸収され、車体への振動伝達が抑制される。一方、例えば自動車の急加速時のように大きな駆動反力(トルク)が作用してパワープラントが前後に揺れようとすると、一対のストッパゴム11(より詳しくは後述する外側突条部51a)が取付ブラケット21の脚部21bに当接することにより、ゴム弾性体35の前後の変形が制限されるとともに、パワープラントが上下に揺れようとすると、一対のストッパゴム11(より詳しくは後述する突条部61b)が取付ブラケット21の上側梁部21aに当接することにより、ゴム弾性体35の上下の変形が制限されるようになっている。
【0031】
−エンジンブラケット等−
上記エンジンブラケット3はアルミニウム合金製であり、当該エンジンブラケット3には、上述の如く主バネ部5等を挿入するための上下方向に延びる貫通孔13が形成されている。換言すると、このエンジンブラケット3は、貫通孔13を有する略筒状のケーシング部3aに、当該ケーシング部3aをパワープラントに取り付けるための取付部3bが一体形成されたような形状となっている。このケーシング部3aには、その外周面から各々筒径方向に突出し且つフラットな外側面を有する、一対の取付台座部3cが形成されている。かかる一対の取付台座部3cは、一対のストッパゴム11を取り付けるためのものであり、前後方向に対向するように形成されている。また、各取付台座部3cの上面及び下面には、後述するストッパゴム11の凸条部61a,71aが嵌合する凹溝部3d,3eがそれぞれ形成されている。
【0032】
ケーシング部3aの貫通孔13は、オリフィス板7及びダイヤフラム9が挿入される上側貫通孔23と、当該上側貫通孔23と段差部33を介して連なる、主バネ部5が挿入される当該下側貫通孔43とから構成されている。そうして、上側貫通孔23の内径は、下側貫通孔43の内径よりも大きく形成されている。
【0033】
この段差部33には、円板状のオリフィス板7が上方から配設され、さらに、その上方から当該オリフィス板7全体を覆うように、概略ハット形状のゴム製ダイヤフラム9が配設されている。このダイヤフラム9の外周側には概略円筒状の補強板19が埋設されており、かかる補強された外周部が上側貫通孔23に上方から圧入されることにより、当該ダイヤフラム9はエンジンブラケット3に内嵌合状態で固定されている。また、このようにダイヤフラム9が嵌合固定された状態では、補強板19よりも下方に延びる上側シールゴム部9aにより、オリフィス板7の外周が囲まれるようになっている。
【0034】
オリフィス板7には、円環状のオリフィス通路(図示せず)が周方向に延びるように形成され、このオリフィス通路の一方の端が液室31下側の受圧室31aに臨んで開口する一方、オリフィス通路の他方の端が液室31上側の平衡室31bに臨んで開口している。そして、それら受圧室31a及び平衡室31bの緩衝液がオリフィス通路を介して相互に流通することによって、ゴム弾性体35から受圧室31aに作用する低周波の振動が減衰されるようになっている。
【0035】
−主バネ部−
上記主バネ部5のインナープレート25は、略矩形状の底板部55bと当該底板部55bの長手方向の一方側の側縁から下方に延びる側板部55aとを有する断面略L字状の取付プレート部55と、かかる取付プレート部55の底板部55bを上方に膨出させた略有頂筒状のインナーパイプ部45とを有している。インナーパイプ部45は、その上端部が主バネ部5のアウターパイプ15の下端開口部の略中心に位置するように、アウターパイプ15と略同軸に配置されていて、その外周面とこれに対応するアウターパイプ15の内周面との間にゴム弾性体35が介設されている。一方、取付プレート部55は、底板部55bの長手方向の他方側の側縁部を折り曲げることによって、側板部55aとともに取付ブラケット21の下側梁部21cを左右から挟み且つその下面をかしめるように、かかる下側梁部21cに上方から取り付けられている。
【0036】
上記ゴム弾性体35の下部内周側にはすり鉢状の凹部35aが形成されていて、この凹部35aの周面がインナーパイプ部45の外周面に接着されている。ゴム弾性体35はインナーパイプ部45の全周から外方に向かって放射状に拡がり、且つ、斜め上方向に延びる略円錐台状のものであり、その上側の部分の外周面がアウターパイプ15の内周面に接着されている。このようにアウターパイプ15の内周に接着固定されているゴム弾性体35の上側の部分は、上方に向かって開口する比較的厚肉の円筒状とされ、その上端部35bがアウターパイプ15の上端部15eを巻き込むように覆っている。そうして、アウターパイプ15を下側貫通孔43に嵌めることによって、液体封入式防振装置1には、ゴム弾性体35と下側貫通孔43の内周面とを壁部の一部とする容積可変の液室31が形成されるようになっている。
【0037】
ところで、金属製のエンジンブラケット3の貫通孔に金属製のアウターパイプ15を圧入する構造では、金属面同士が直接接触しているため、その間のシール性は非常に不安定であり、流体の漏洩のおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態の液体封入式防振装置1では、アウターパイプ15は、径が一定な筒状ではなく、エンジンブラケット3とのシール性を高めるべく、筒軸方向におけるインナープレート25側である下側の大径筒部15cと、当該大径筒部15cよりも外径が小さく、且つ、当該大径筒部15cに段差部15bを介して連なる上側の小径筒部15aと、を有する二段構造となっている。このような二段構造を採用したのは、以下の理由による。
【0039】
すなわち、大径筒部15cに段差部15bを介して小径筒部15aが連なる二段構造では、図5に示すように、大径筒部15cが筒径方向内側に締め付けられて変形した場合、筒径方向の剛性が高い段差部15bがあたかも支点となって小径筒部15aが上方且つ筒径方向外側に拡がるという性質を利用することによって、エンジンブラケット3の下側貫通孔43の内周面とアウターパイプ15の外周面との間に隙間を埋めるためである。なお、図中の符号15dは、大径筒部15cの下端部を筒径方向外側に折り曲げることで形成されたフランジ部である。
【0040】
そうして、二段構造のアウターパイプ15に対応するように、エンジンブラケット3の上記下側貫通孔43は、図6に示すように、大径筒部15cに対向する下側の大径部43cと、当該大径部43cに段差部43bを介して連なる、小径筒部15aに対向する上側の小径部43aと、を有するように形成されている。そして、この大径部43cは、その内径が小径筒部15aの外径より大きく且つ大径筒部15cの外径よりも小さく形成されている一方、この小径部43aは、その内径が小径筒部15aの外径よりも大きく形成されている。
【0041】
なお、大径部43cは、エンジンブラケット3の成形に当り、金型の抜き勾配を確保するために、下方に向かうほど筒径方向外側に傾斜するように、1.5°傾斜している。このように、大径部43cが傾斜していることにより、本実施形態の液体封入式防振装置1では、当該大径部43cに大径筒部15cが挿入し易くなるとともに、当該大径部43cが大径筒部15cの変形を促すガイドの役割を果たすという利点もある。
【0042】
なお、本実施形態では、大径部43cの孔壁を1.5°傾斜させているが、これに限らず、例えば後工程で切削を施すことにより、孔壁を傾斜させないようにしてもよいし、また、孔壁を1.5°を超えて傾斜させてもよい。好ましい傾斜角は、0〜10°の範囲である。
【0043】
このように形成された、エンジンブラケット3の下側貫通孔43に、下側からアウターパイプ15の小径筒部15aを挿入して、フランジ部15dがケーシング部3aの下端に当たるまで大径筒部15cを圧入すると、図7に示すように、大径筒部15cが大径部43cに圧入されて窄まることによって、小径筒部15aは、その上端部15eが小径部43aの内周面との隙間を塞ぐように、上方に向かうほど筒径方向外側に拡がる。これにより、本実施形態の液体封入式防振装置1では、アウターパイプ15の上端部15eを巻き込むように形成されている、ゴム弾性体35の上端部35b(図7では図示省略している)が、小径部43aの内周面に押し付けられることによって、エンジンブラケット3と主バネ部5との間のシール性が高められている。
【0044】
ここで、小径筒部15aが上方に向かうほど筒径方向外側に拡がるように変形することから、図7に示すように、小径筒部15aの外周面と小径部43aの内周面との間には、断面略三角形状の空間41が形成されることになる。そこで、本実施形態の液体封入式防振装置1では、シール性をさらに高めるために、図8(a)に示すように、小径筒部15aの外周面に、筒径方向外側に突出する上下三段のシールリップ35dが設けられた、下方に向かうほど厚肉となる下側シールゴム部35cがゴム弾性体35と一体に形成されている。
【0045】
このように、下方に向かうほど厚肉となる下側シールゴム部35cを形成することで、大径筒部15cが大径部43cに圧入されて、小径筒部15aが上方に向かうほど筒径方向外側に拡がると、図8(b)に示すように、かかる下側シールゴム部35cが、小径筒部15aの外周面と小径部43aの内周面との間の断面略三角形状の空間41を埋めるとともに、シールリップ35dが小径部43aの内周面に押し付けられるので、エンジンブラケット3と主バネ部5との間のシール性が一層高められることになる。
【0046】
以上のように、本実施形態の液体封入式防振装置1では、アウターパイプ15の小径筒部15aが上方に向かうほど筒径方向外側に拡がることによるシールと、下側シールゴム部35cが、小径筒部15aの外周面と小径部43aの内周面との間の断面略三角形状の空間41を埋めることによるシールという、二段階のシールを設けることで、エンジンブラケット3の貫通孔13にアウターパイプ15を圧入する構造でありながら、両者3,15の間のシール性を高めることが可能となっている。
【0047】
また、ゴム弾性体35の上端部15eをオリフィス板7の下面に押し当てることによりシールを行うのではなく、ゴム弾性体35の上端部15eを小径部43aの内周面に押し当てることによりシールを行うことから、アウターパイプ15を圧入することによって、液室31下側の受圧室31aに臨んで開口しているオリフィス通路7aの一方の端が塞がれるのを確実に回避することができる。
【0048】
−ストッパゴム−
ストッパゴム11は、図2、図9及び図10に示すように、ケーシング部3aの外側の側面(取付台座部3c)に保持される略矩形状のストッパ本体部51と、ストッパ本体部51の上端部及び下端部から筒径方向内側に延びる上下一対のストッパ取付部61,71と、を有していて断面略コ字状に形成されている。そうして、断面略コ字状のストッパゴム11は、上下一対のストッパ取付部61,71によってケーシング部3aを筒軸方向に挟むように当該ケーシング部3aに取り付けられている。
【0049】
ストッパ本体部51の外側面には、3つの外側溝部51bを形成するように、上下方向及び前後方向に直交する方向(以下、左右方向という)に延びる4つの外側突条部(突起部)51aが形成されている一方、ストッパ本体部51の内側面にも、3つの内側溝部51dを形成するように、左右方向に延びる4つの内側突条部(突起部)51cが形成されている。
【0050】
また、上側ストッパ取付部61には、その上面に3つの溝部61cを形成するように、左右方向に延びる4つの突条部61bが形成されている一方、その下面にケーシング部3aの凹溝部3dに嵌合する、左右方向に延び且つ下方に突出する、断面略逆台形状の上側凸条部61aが形成されている。一方、下側ストッパ取付部71の上面には、ケーシング部3aの凹溝部3eに嵌合する、左右方向に延び且つ上方に突出する、断面略台形状の下側凸条部71aが形成されている。
【0051】
さらに、スットパゴム11には、図2及び図11に示すように、ストッパ本体部51に対応する略矩形状の本体部12aと、当該本体部12aの上端部及び下端端部から筒径方向内側に延びる延出部12c,12dと、を有する断面略コ字状に形成された金属製の補強部材12が埋設されている。補強部材12の本体部12aには、矩形の開口部12bが形成されており、これにより、補強部材12の本体部12aは、略矩形枠状をなしている。
【0052】
そうして、スットパゴム11は、上側及び下側ストッパ取付部61,71に突設された上側及び下側凸条部61a,71aが、ケーシング部3aの凹溝部3d,3eに嵌合することによって、ケーシング部3aに取り付けられ、これにより、ストッパ本体部51がケーシング部3aの外側の側面(取付台座部3c)に保持される。
【0053】
ここで、このストッパ本体部51の内側面には、筒径方向内側に突出する内側突条部51cが形成されていることから、ストッパゴム11をケーシング部3aに取り付けると、当該内側突条部51cが取付台座部3cの外側面を筒径方向内側に押すように作用する。このため、取付台座部3cからの反力でストッパ本体部51が筒径方向外側に押されることから、凹溝部3d,3eに嵌合している上側及び下側凸条部61a,71aが、筒径方向外側に引っ張られることになる。これにより、上側及び下側ストッパ取付部61,71に突設された上側及び下側凸条部61a,71aと、筒径方向内側に突出する内側突条部51cとが、あたかもケーシング部3aを筒径方向に挟むように作用することから、ストッパゴム11がケーシング部3aにしっかりと取り付けられる。したがって、別体のストッパゴム11をエンジンブラケット3の外側の側面に取り付ける場合でも、ストッパゴム11の内側面とエンジンブラケット3の外側の側面とが、離間と当接を繰り返すことで発生する異音を抑えることができる。
【0054】
また、内側突条部51cは、ストッパ本体部51の内側面に内側溝部51dを形成するように形成されていることから、かかる内側溝部51dの存在により、ストッパ本体部51の内側面と取付台座部3cの外側面との接触面積が減少することになる。これにより、ストッパゴム11の内側面と取付台座部3cの外側面とが擦れた場合にも、異音の発生を抑えることができる。
【0055】
さらに、ストッパ本体部51に埋設されている補強部材12の本体部12aには開口部12bが形成されているので、ストッパ本体部51における開口部12bに対応する部位では、当該ストッパ本体部51が補強部材12によって筒径方向内側と外側に分断されておらず、適度のラバーボリュームが確保されることになる。加えて、ストッパ本体部51には、左右方向に延びる外側及び内側溝部51b,51dが形成されているので、当該ストッパ本体部51は、これらの溝部51b,51dが潰れる(埋まる)ことで変形し易くなっている。換言すると、荷重を受けて外側及び内側突条部51a,51cが上下に膨らむように変形しても、かかる膨らみが外側及び内側溝部51b,51dに吸収されることから、ストッパ本体部51は変形し易くなっている。このように、ストッパ本体部51は、適度なラバーボリュームを有しているとともに変形しやすい形状に形成されていることから、軟らかいばね特性を呈することになる。
【0056】
ここで、エンジンブラケット103にゴム弾性体135及びストッパゴム111を同時モールドした従来のものでは、ストッパゴム111の変形が進み溝が埋まると、図12(a)の白抜き矢印で示すように、ストッパゴム111が上下方向に逃げるように変形するため、弾性支持されたパワープラントが変位し過ぎるおそれがある。これに対し、本実施形態に係るストッパゴム11では、外側及び内側突条部51a,51cの変形が進み外側及び内側溝部51b,51dが埋まると、ストッパ本体部51における開口部12bに対応する部位が、筒軸方向に逃げるように変形しようとしても、図12(b)の白抜き矢印で示すように、枠状の補強部材12の本体部12aによってかかる変形が抑えられることから、ストッパ本体部51は、硬いばね特性を呈することになる。
【0057】
図13は、シミュレーションから得られたストッパゴムの荷重−撓み曲線を示すグラフ図である。図中の実線は、本実施形態のストッパゴム11に荷重を作用させた場合の荷重−撓み曲線を、また、図中の破線は、エンジンブラケットに同時モールドした従来のストッパゴムに荷重を作用させた場合の荷重−撓み曲線をそれぞれ示す。同図から、本実施形態のストッパゴム11は、入力荷重が小さい領域(領域A)では、従来のストッパゴムと同様に軟らかいばね特性を呈する一方、入力荷重が増大するにつれて(領域B)、従来のストッパゴムよりも硬いばね特性を呈することが確認された。
【0058】
以上により、荷重が入力すると大きく変形して衝撃を吸収する領域(領域A)と、荷重が入力しても大きく変形せず変位を抑える領域(領域B)とを有する2段階の特性を備えたストッパゴム11を実現することが可能となる。
【0059】
−効果−
本実施形態によれば、主バネ部5及びストッパゴム11とエンジンブラケット3とを別体としていることから、1回のモールドで複数の主バネ部5びストッパゴム11を成形することができる。
【0060】
また、断面略コ字状のストッパゴム11には、その全体に亘って、断面略コ字状の補強部材12が埋設されているので、当該ストッパゴム11の耐久性を向上させることができる。
【0061】
さらに、上側及び下側凸条部61a,71aと内側突条部51cとがあたかもケーシング部3aを筒径方向に挟むように作用することから、ストッパゴム11がケーシング部3aにしっかりと取り付けられる。また、ストッパ本体部51の内側面には内側溝部51dが形成されていることから、ストッパ本体部51の内側面と取付台座部3cとの接触面積が減少する。これらにより、ストッパゴム11の内側面とエンジンブラケット3の外側の側面とが、離間と当接を繰り返したり、擦れたりすることで発生する異音を抑えることができる。
【0062】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0063】
上記実施形態では、アウターパイプ15の筒軸方向が上下方向を向くようにしたが、これに限らず、アウターパイプ15の筒軸方向をその用途に応じて傾けてもよいし、また、上記実施形態とは逆に、ダイヤフラム9が下側に位置するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、ストッパ本体部51の内側及び外側面の突起部を左右方向に延びる突条部としたが、溝部を形成するように突出する突起部である限り、これに限らず、例えば、ディンプル状の突起部としてもよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、開口部を矩形としたが、これに限らず、例えば、円形としてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、アルミニウム合金製のアウターパイプ15を用いたが、これに限らず、例えば、鉄製のアウターパイプを用いてもよい。
【0067】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明は、自動車用エンジンなどのマウントに用いられる、ブラケットを備えた液体封入式防振装置等について有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 液体封入式防振装置
3 エンジンブラケット(ブラケット)
3a ケーシング部
3b 取付部
3d 凹溝部(凹部)
3e 凹溝部(凹部)
5 主バネ部
11 ストッパゴム(ストッパ部)
12 補強部材
12a 本体部
12b 開口部
12c 延出部
12d 延出部
13 貫通孔
15 アウターパイプ(筒体)
25 インナープレート(取付金具)
31 液室
35 ゴム弾性体
51 ストッパ本体部
51a 外側突条部(突起部)
51b 外側溝部(溝部)
51c 内側突条部(突起部)
51d 内側溝部(溝部)
61 上側ストッパ取付部
61a 上側凸条部(凸部)
71 下側ストッパ取付部
71a 下側凸条部(凸部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に取り付けられる取付金具と筒体とをゴム弾性体で連結した主バネ部と、貫通孔を有する略筒状のケーシング部と当該ケーシング部をエンジン側に取り付けるための取付部とが一体に形成されたブラケットと、を備え、上記筒体を上記貫通孔に圧入することによって、上記ゴム弾性体と当該ケーシング部の内周面とを壁部の一部とする容積可変の液室が形成される液体封入式防振装置であって、
上記ケーシング部に対し筒径方向外側から取り付けられるゴム製のストッパ部をさらに備え、
上記ストッパ部は、上記ケーシング部の外側の側面に保持される略矩形状のストッパ本体部と、当該ストッパ本体部の筒軸方向両端部から筒径方向内側に延びる上下一対のストッパ取付部と、を有する断面略コ字状に形成されていて、当該上下一対のストッパ取付部によって当該ケーシング部を筒軸方向に挟むように当該ケーシング部に取り付けられており、
上記ストッパ取付部には、上記ケーシング部の筒軸方向両端部に形成された凹部に嵌合する、筒軸方向内側に突出する凸部がそれぞれ形成されている一方、上記ストッパ本体部の内側面には、溝部を形成するように筒径方向内側に突出する突起部が形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体封入式防振装置において、
上記ストッパ本体部の外側面には、溝部を形成するように筒径方向外側に突出する突起部が形成されており、
上記スットパ部には、上記ストッパ本体部に対応する略矩形状の本体部と、当該本体部の筒軸方向両端部から筒径方向内側に延びる上下一対の延出部と、を有する断面略コ字状に形成された補強部材が埋設されており、
上記補強部材の本体部には、開口部が形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−87894(P2012−87894A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235765(P2010−235765)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】