説明

液体濾過器具及び乾式分析素子

【課題】 構造が簡易で安価な液体濾過器具及び乾式分析素子を提供する。
【解決手段】 本発明の液体濾過器具10は、減圧濾過によって濾過液を得るものであり、液体濾過フィルタ15が収容されたフィルタ部材12と、液体濾過フィルタ15を通過した濾過液を貯留するホルダ部材14とからなる。フィルタ部材12とホルダ部材14とは、減圧時に実質的に気密かつ水密となるように、嵌合可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を減圧濾過する液体濾過器具、特に、ヒト又はそれ以外の動物の血液から血漿又は血清試料を調製する際に好適に使用される液体濾過器具に関する。また、本発明は、血液、尿等の体液を減圧濾過して分析する乾式分析素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、化学実験において有機溶媒等の液体を濾過する際には、フィルタが予め装着された小型のフィルタユニットがよく用いられている。
化学実験に一般的に用いられるフィルタユニットとしては、ジーエルサイエンス株式会社から販売している「クロマトディスク13N」が知られている。このフィルタユニットは、フィルタとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質膜を用い、ポリプロピレン(PP)製の複数のハウジング部材を融着によって一体化させたものである。
【0003】
尿や血液等の体液を濾過する際には、小型のカートリッジ式濾過フィルタユニットが用いられている。このカートリッジ式濾過フィルタユニットは、フィルタを複数の樹脂製ハウジング部材で挟み込んで超音波などで融着してユニットとして一体化させることが一般的である。
また、血球分離をできるフィルタが充填された全血から血漿を取り出すためのフィルタユニットが開発されている(例えば、特許文献1参照。)。このフィルタユニットとしては、市販品も知られており、例えば、富士フイルムメディカル株式会社から販売している「富士ドライケムプラズマフィルターPF」がある。このフィルタユニットは、フィルタのひとつとしてポリスルホン(PSF)多孔質膜を用いており、透明ポリスチレン(PS)製のハウジング部材を超音波融着によって一体化させている。
【0004】
一方、血液、尿等の体液を検体として、ヒトやその他の動物の病気を診断する方法は、人体を損ねることなく簡便に診断できる方法として、長く行われてきている。血液や尿等を分析する一つの方法として、溶液を使用しない、すなわち、特定成分の検出に必要な試薬類が乾燥状態で含有されている、いわゆるドライケミストリー分析方法が開発されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−227788号公報(図1)
【特許文献2】特開平9−196911号公報
【非特許文献1】岩田有三、「11.その他の分析法(1)ドライケミストリー」、臨床化学実践マニュアル、医学書院、1993年、検査と技術増刊号、第21巻、第5号、p.328−333
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなフィルタユニットは、化学実験等において頻繁に使用されることから、さらなるコスト低下が望まれている。また、血液や尿等の体液を分析するためにフィルタユニットや乾式分析素子を使用する場合は、使用後に滅菌処理して使い捨てされることが多いため、フィルタユニットや乾式分析素子のコストを下げることはより重要となる。
本発明の目的は、安価な液体濾過器具及び乾式分析素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成により上記目的を達成したものである。
1. 液体濾過フィルタが収容されたフィルタ部材と、前記液体濾過フィルタを通過した濾過液を貯留するホルダ部材とからなり、減圧濾過によって液体を濾過する液体濾過器具であって、
前記フィルタ部材と前記ホルダ部材とが、減圧時に実質的に気密かつ水密となるように、嵌合可能に形成されていることを特徴とする液体濾過器具。
2. 前記フィルタ部材と前記ホルダ部材との嵌合部にシール部材を備えたことを特徴とする上記1に記載の液体濾過器具。
3. 前記シール部材が多孔質膜であって、前記フィルタ部材の液体出口側の開口部が前記多孔質膜により覆われていることを特徴とする上記2に記載の液体濾過器具。
4. 前記液体濾過フィルタが直径10μm以下の繊維からなることを特徴とする上記1から3のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
5. 前記液体濾過フィルタがガラス繊維からなることを特徴とする上記1から4のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
6. 前記ガラス繊維がポリマーによって表面が被覆されたものであることを特徴とする上記5に記載の液体濾過器具。
7. 前記ガラス繊維が酸処理された後、表面がポリマーで被覆されたものであることを特徴とする上記5に記載の液体濾過器具。
8. 前記ポリマーがアクリレート系ポリマーであることを特徴とする上記6または7に記載の液体濾過器具。
9. 前記ポリマーがポリ(アルコキシアクリレート)であることを特徴とする上記6または7に記載の液体濾過器具。
10. 使い捨て使用が可能であることを特徴とする上記1から9のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
11. 前記液体が体液であることを特徴とする上記1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
12. 前記体液が血液であることを特徴とする上記11に記載の液体濾過器具。
13. 前記液体が環境関連物質検査用の液体であることを特徴とする上記1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
14. 前記液体が食品検査用の液体であることを特徴とする上記1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
15. 前記液体が自然科学研究に使用される液体であることを特徴とする上記1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
16. 液体濾過フィルタを収容した上部材と、乾式分析要素を備えた下部材とからなり、減圧濾過によって体液を濾過して、得られた濾過液を前記乾式分析要素に接触させることで前記体液に含まれる成分を分析する乾式分析素子であって、
前記上部材と前記下部材とが、減圧時に実質的に気密かつ水密となるように、嵌合可能に形成されていることを特徴とする乾式分析素子。
17. 前記上部材と下部材との嵌合部にシール部材を備えたことを特徴とする請求項16に記載の乾式分析素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、減圧時に気密・水密となるように複数の部材を嵌合可能に形成することにより、超音波融着等により複数の部材同士を融着接合しなくても、減圧濾過することで濾過に必要な気密性・水密性を保つことができる。従って、構造が簡易で安価な液体濾過器具及び乾式分析素子を提供することができ、使い捨て使用にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る液体濾過器具の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る液体濾過器具の実施形態を示す斜視図である。図2及び図3は、それぞれ、図1に示す液体濾過器具10を構成するフィルタ部材12及びホルダ部材14の断面図を示している。図4は、フィルタ部材12及びホルダ部材14を嵌合させた液体濾過器具10の断面図を示している。
図1に示す液体濾過器具10は、円筒形状のフィルタ部材12とホルダ部材14とからなり、ホルダ部材14の下方から、シール部材である多孔質膜17を介してフィルタ部材12を嵌合できるようになっている。
【0009】
図1および図2に示すように、フィルタ部材12は、液体濾過フィルタ15が充填された円筒形状のフィルタ収容室16を備えている。フィルタ収容室16の底部には、液体をフィルタ収容室16に供給するためのノズル18が延設されている。ノズル18から導入された液体が液体濾過フィルタ15を通過することによって、液体に含まれる不純物が液体濾過フィルタ15に捕集される。なお、液体濾過フィルタ15は、例えば、ガラス繊維からなる濾紙を複数枚重ねたもの等を用いることができる。
フィルタ収容室16の上端(液体出口側)には、濾過液をホルダ部材14(図3)側へ排出する開口部19を有している。
【0010】
ホルダ部材14は、図1および図3に示すように、ホルダ部材14の内部が仕切壁23によって上下に分割され、フィルタ部材12を収容するフィルタ部材収容室22と、液体の濾過液を貯留する貯留室24とに区画されている。貯留室24の上端は開放され、吸引ポンプ等の吸引装置(図示せず)等に接続される吸引口26を形成している。
【0011】
仕切壁23の中央部分には、下方に突き出た円柱状の段差21aが形成され、段差21aの中央部分には、フィルタ部材収容室22と貯留室24とを連通する管状の通路25が上方に延出している。この通路25により、フィルタ部材12からの濾過液が貯留室24に浸入して、貯留される。
また、仕切壁23の周縁部分には、嵌合溝21bが形成されている。フィルタ部材12がホルダ部材14に収納されると、フィルタ収容室16に充填された液体濾過フィルタ15が下方に押し込められ、嵌合溝21bにフィルタ収容室16側壁の上端部分が嵌り込む(図4)。
【0012】
なお、図1及び図4に示すように、フィルタ収容室16側壁の上端部分と嵌合溝21b(図3)との嵌合部28には、シール部材である多孔質膜17を介在させることが望ましい。多孔質膜17を嵌合部28に介在させることにより、段差21aの外周面とフィルタ収容室16上端の内壁面との間に断面がコの字型となるように挟み込まれて、フィルタ部材収容室22とフィルタ収容室16との嵌合部28が締まり嵌めとなり、フィルタ部材12とホルダ部材14の接合力をより高めることができる。
【0013】
加えて、図4に示すように、フィルタ収容室16の上端(液体出口側)の開口部19を多孔質膜17によって覆うことにより、濾過液が通路25に浸入する前に、液体濾過フィルタ15によって捕集できない細径の不純物を捕集することができ、濾過性能を向上させることができる。
【0014】
この液体濾過器具10を用いて液体を濾過するには、まず、フィルタ部材12を多孔質膜17を介してフィルタ部材収容室22に嵌め込み、ホルダ部材14上端の吸引口26を吸引ポンプ(図示せず)等に接続する。ノズル18の先端を液体に浸け、吸引ポンプを作動させることで液体濾過器具10内を減圧し、液体をノズル18からフィルタ収納室16に供給する。そして、減圧濾過によって、液体濾過フィルタ15及び多孔質膜17で液体を濾過して、貯留室24に濾過液が貯留される。
【0015】
上記実施形態に係る液体濾過器具10によれば、フィルタ部材12をホルダ部材14に引き付ける方向に減圧するので、フィルタ部材12とホルダ部材14とを嵌合させるだけで、容易に内部の気密・水密を保持することができる。よって、本実施形態に係る液体濾過器具10は、従来で行われていたフィルタ部材とホルダ部材とを超音波融着する等の接合工程を省略することができ、構造を簡易化した安価なものであり、使い捨て使用等にも極めて有利である。
なお、多孔質膜17は、濾過に必要な気密・水密性を保持するためには必ずしも必要なものではないが、前述したように、嵌合部28における接合力及び器具の濾過性能を向上させることができるため、フィルタ部材12とホルダ部材14との嵌合部28に多孔質膜17を介在させることが好ましい。
【0016】
なお、図1に示す液体濾過器具10の大きさとしては、用途によって適宜設定可能であるが、例えば、血液、尿等の体液を濾過する場合は、フィルタ部材12の内径は5mmから20mmの範囲であり、ホルダ部材14の内径は6mmから23mmの範囲であるのがよい。また、多孔質膜17の大きさは、フィルタ部材12の内径より大きく形成されているのが好ましい。
【0017】
フィルタ部材10及びホルダ部材12の材質としては、特に限定されないが、濾過する液体に対して溶解したり、不純物が溶出されたりしない物質から形成されるのがよい。例えば、液体として血液を用いた場合は、透明ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)等の材料を用いることができ、透明ポリスチレン樹脂(PS)を用いることが好ましい。
フィルタ部材12及びホルダ部材14は、樹脂成形等の手段によって製造することができる。
【0018】
液体濾過フィルタ15としては、直径10μm以下の繊維から形成されていることが好ましい。繊維としては、ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリイミド繊維が挙げられる。中でも、ガラス繊維を用いることが好ましい。ガラス繊維の材料としては、ソーダガラス、低アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、石英などが挙げられる。
濾過する液体が血液である場合、ポリマーによって表面が被覆されたガラス繊維を用いることが好ましい。ポリマーで被覆されたガラス繊維を用いることにより、濾過液である血漿中に含まれるタンパク質等の成分がガラス繊維へ吸着するのを抑制することができ、血漿中の成分の濃度に変化を起こすことがなく、遠心分離によると同等の成分の血漿を短時間で濾過回収することができる。
【0019】
ガラス繊維の表面被覆のためのポリマーとしては、溶血を起こすことのない生体適合性のポリマーを用いるのがよい。このようなポリマーとしては、アクリレート系ポリマー、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、絹、ポリ(ε−カプロラクトン)を挙げることができるが、適度に親水性であることから、アクリレート系ポリマーを用いることが好ましい。
アクリレート系ポリマーとしては、ポリ(アルコキシアクリレート)が好ましい。ポリ(アルコキシアクリレート)は、ガラス繊維表面を処理する際にエタノール、メタノールなどのアルコール系の有機溶媒に溶解させることができ、取り扱いがしやすいという利点がある。
【0020】
ポリ(アルコキシアクリレート)としては、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート(PHEMA)、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)などのアクリレート系ポリマーを挙げることができ、中でもPMEAを使用することが好ましい。
【0021】
ガラス繊維の表面をポリマーで被覆する方法としては、浸漬、塗布、噴霧等、通常のポリマーによる被覆方法を採用することができる。具体的には、ガラス繊維濾紙をポリマー溶液に浸漬する方法や、ガラス繊維濾紙にポリマー溶液を噴霧する方法が挙げられるが、ガラス繊維濾紙の表面を均一に被覆するという点で、ガラス繊維濾紙をポリマー溶液に浸漬する方法が好ましい。
また、ガラス繊維は、酸処理によって洗浄した後に、ポリマーで表面被覆することがさらに好ましい。ガラス繊維が酸処理されていることにより、ガラス繊維からのナトリウム等の成分の溶出を抑制することができる。ガラス繊維を洗浄処理する酸としては、有機酸が好ましい。
【0022】
多孔質膜17としては、孔径が0.2μm〜30μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.3μm〜8μm、より好ましくは0.5μm〜4.5μm程度、特に好ましくは0.5μm〜3μmである。
また、空隙率は高いものが好ましく、具体的には、空隙率が約40%から約95%が好ましく、より好ましくは約50%から約95%、さらに好ましくは約70%から約95%の範囲である。
多孔質膜17の具体例としては、ニトロセルロース多孔質膜、セルロースアセテート多孔質膜、セルロースプロピオネート多孔質膜、再生セルロース多孔質膜などのセルロース系多孔質膜、ポリスルホン多孔質膜、ポリエーテルスルホン多孔質膜、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリ塩化ビニリデン多孔質膜、等が挙げられる。より好ましくは、ポリスルホン多孔質膜、ポリエーテルスルホン多孔質膜である。
【0023】
また、多孔質膜17の表面を加水分解、親水性高分子、活性剤などで親水化処理したものも使用できる。親水化処理に適用される加水分解法、親水性高分子、活性剤などは、親水化処理の際に通常用いる方法、化合物を使用することができる。
【0024】
本発明の液体濾過器具によって濾過可能な液体としては、特に限定されず、ヒトやその他の動物の血液、体液および尿、環境関連物質検査用の液体、農業、水産および食品検査用の液体、並びに自然科学研究に使用される液体が挙げられる。環境関連物質検査用の液体としては、淡水、海水または土壌抽出液などを挙げることができる。農業、水産および食品検査用の液体としては、農産物および農産物抽出液、水産物および水産物抽出液、農産物および/または水産物を加工した食品、農産物および/または水産物を加工した食品抽出液などをあげることができる。自然科学研究に使用される液体としては、化学、生物学、地学、物理学などの研究に使用される液体を上げることができる。
【0025】
次に、本発明に係る乾式分析素子の実施形態について説明する。図5は、本発明に係る乾式分析素子の実施形態を示す断面図である。図6及び図7は、それぞれ、図5に示す乾式分析素子50を構成する上部材30及び下部材40の上面図(図6(A),7(A))及び断面図(図6(B),7(B))を示している。
図5〜7に示すように、本実施形態に係る乾式分析素子50は、外形がほぼ直方体の上部材30と下部材40とからなり、シール部材である多孔質膜52(図5)を介して、上部材30を下部材40に嵌合できるようになっている。
【0026】
図5及び図6に示すように、上部材30には、体液を供給する供給口32が上面側に設けられている。供給口32は、上部材30を構成する大小2枚の壁板31a,31bによって水平方向に形成された流路34に連通されている。流路34には、供給された体液を濾過する液体濾過フィルタ36が充填されている。
上部材30の下面側には、短い円柱状の嵌合凸部35が形成されており、円柱軸の位置に流路34と連通している排出路39が配置されている。排出路39により、流路34により送られた濾過液を下方に導き、排出路39の出口38から下部材40(図7)に送液される。
【0027】
図5及び図7に示すように、下部材40は、嵌合凸部35が嵌合可能に形成された、底面が円形の嵌合凹部46が設けられている。
嵌合凹部46の底面部には、乾式分析要素54を配置するセル42が、例えば9箇所に格子状に設けられている。乾式分析要素54は、体液の濾過液が接触することによって、発色変化等の反応を示すものである。また、この嵌合凹部46の側壁には、吸引ポンプ(図示せず)等の吸引装置に接続する吸引ノズル44が水平方向に延設されている。
【0028】
これらの上部材30と下部材40とが嵌合した乾式分析素子50を形成するには、図5に示すように、まず下部材40のセル42に、例えば9個の乾式分析要素54を配置する。そして、嵌合凸部35及び嵌合凹部46の大きさより大きい多孔質膜52を嵌合凹部46の上に配置し、多孔質膜52を挟み込むようにして嵌合凸部35を嵌合凹部46に嵌め込み、嵌合部55に多孔質膜52が挟まれた乾式分析素子50が形成される。
【0029】
乾式分析素子50を用いて、体液を分析するには、上記のようにして上部材30と下部材40とを嵌め合わせ、吸引ノズル44に吸引ポンプ(図示せず)を接続する。そして、供給口32から検体とすべき体液を供給して、吸引ポンプを作動させて、体液を減圧濾過する。濾過液を、排出路39の出口38に対向している乾式分析要素54に接触させ、乾式分析要素54の発色変化等を観察することによって分析を行う。なお、乾式分析素子50における減圧濾過には、吸引ポンプのかわりにシリンジ等を用いてもよい。
【0030】
このような乾式分析素子50によれば、上記の液体濾過器具10(図1)と同様に、上部材30と下部材40とを嵌合させるだけでも、減圧することで上部材30と下部材40との接合力を高めることができ、十分な気密・水密が保たれる。従って、これらの部材を接合する等の工程を省略することができ、構造を簡易化した安価な乾式分析素子50が得られ、使い捨て使用にも極めて有利である。
なお、多孔質膜52についても、上記の液体濾過器具10(図1)と同様に、濾過に必要な気密・水密性を保持するためには必ずしも必要なものではないが、上部材30と下部材40との嵌合部55に配置されることによって、嵌合部55における接合力及び濾過性能を向上させることができるため、上部材30と下部材40との嵌合部55に多孔質膜52を介在させることが好ましい。
【0031】
乾式分析素子50の形および大きさは、手で持ちやすい範囲であることが好ましいが、いずれの形状、大きさでも良い。具体的には、例えば、底面の一辺が10〜50mm位の長方形で、厚みが2〜10mm位のものが好ましい形および大きさとして挙げられる。多孔質膜52の大きさは、嵌合凹部46より大きく形成されていることが好ましい。
また、本実施形態の乾式分析素子50によって分析可能な体液としては、特に限定されず、ヒトやその他の動物の血液、尿等の体液が挙げられる。
【0032】
液体濾過フィルタ36及び多孔質膜52は、検体となる体液によって適宜選択することができ、前述した液体濾過器具10に用いる液体濾過フィルタ15及び多孔質膜17(図1)で用いたものと同様の材質のものをそれぞれ用いることができる。
【0033】
また、下部材40に設置される乾式分析要素54としては、体液の分析によく使用される顕色反応試薬を用いることができる。顕色反応試薬は、検体の被測定成分と反応し、蛍光・発光など、光・電気・化学反応などの作用で光を発するものを指し、これにより検体の被測定成分の定性・定量的分析が可能となる。本発明で用いることができる顕色反応試薬の一例として、富士写真フイルム株式会社製の富士ドライケム マウントスライドGLU−P(測定波長;505nm,測定成分;グルコース)とTBIL−P(測定波長;540nm,測定成分;総ビリルビン)が挙げられる。
また、その他の顕色反応試薬としては、富士フイルム研究報告、第40号(富士写真フイルム株式会社、1995年発行)p.83や、臨床病理、臨時増刊、特集第106号、ドライケミストリー・簡易検査の新たなる展開(臨床病理刊行会、1997年発行)等に記載されているものも用いることができる。
【0034】
また、乾式分析要素54としては、顕色反応試薬の代わりに、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、1,1’−ジメチルフェロセン、およびグラファイト粉末とパラフィンの混合物からなるカーボンペーストを混合して固めることによって作成した酵素電極を作用極として用い、銀/塩化銀電極を参照極、白金線を対極として用い、検体中のグルコース濃度によって増加する電流値を計測することができる。より具体的には、例えば、奥田,水谷,矢吹らによる、北海道立工業試験場報告 No.290,173−177頁(1991年)等に記載されているものが挙げられる。
乾式分析要素54形態としては、フィルム状のものが好ましく、フィルム状である場合は単層でも多層でもよい。
【0035】
上部材30及び下部材40の材質は、体液によって腐食等が起こらず、検体の通過が効率よく進行するものであれば、いずれでもよい。具体的には、ゴム、プラスチックなどの樹脂、シリコン含有物質が挙げられる。
プラスチックあるいはゴムとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリサイクリックオレフィン(PCO)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、天然ゴム、合成ゴム及びこれらの誘導体が挙げられる。シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。中でも、PMMA、PCO、PS、PC、ガラス、シリコンウエファーが好ましい。
【0036】
流路34及び排出路39等の体液や濾過液の通路(図5)は、幅、深さ、長さのうち少なくともひとつが1mm以上であることが好ましい。流路34及び排出路39がこの範囲であることにより、検体が効率よく進行することができる。
流路34、排出路39等は、検体が通過可能であれば、いずれの形態をも採ることができる。また、1つのみでも、2つ以上に分岐しても、いずれでもよい。また、直線状、曲線状等、いずれの形態をとることも可能であるが、直線状であることが好ましい。
【0037】
供給口32、流路34、排出路39、セル42等の上部材30及び下部材40に形成される各部分は、固体基板上に微細加工技術により作成することができる。
各部分を作成するための微細加工技術は、例えばマイクロリアクター −新時代の合成技術−(2003年 シーエムシー刊 監修:吉田潤一 京都大学大学院 工学研究科教授)、微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−(2003年 エヌ・ティー・エス刊 高分子学会行事委員会編)等に記載されている方法を挙げることができる。
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。
【0038】
乾式分析素子50の各部分は、シリコンウエファー上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させる(モールディング法)ことによっても作成することができる。モールディング法には、PDMSまたはその誘導体に代表されるシリコン樹脂を使用することができる。
【0039】
流路34や排出路39等は、検体、特に全血や血漿の通過が速やかに通過できるように、必要に応じてその表面を処理、または修飾することが望ましい。表面処理、修飾の方法は該流路を構成している素材により異なるが、既存の方法を利用することができる。例えば、プラズマ処理、グロー処理、コロナ処理、また、シランカップリング剤のような表面処理剤を使用する方法、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート(PHEMA)、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)、アクリル系ポリマーを使用して表面処理をする方法などを挙げることができる。
【0040】
乾式分析素子50は、採血器具に装着して採血ユニットとして使用することができる。乾式分析素子50を採血器具に装着して略気密状態を保ちつつ摺動自在に組み合わされることにより、内部に減圧可能に密閉空間を画成することが可能である。
採血ユニットの好ましい態様の一例を図8、図9を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
乾式分析素子50は採血器具B1に方向C1から装着され、採血ユニットB100となる。装着後、穿刺針B2をヒトまたは動物などに刺し全血Dを採血する。前記したとおり、採血器具の一部を方向C2に摺動し、これにより内部が減圧され、採血された全血Dが乾式分析素子50の流路A1に入り、さらには、顕色反応試薬を担持している部分A2に導かれ、反応する。反応後、乾式分析素子50を採血器具B1から脱着し、検出に供することができる。乾式分析素子50は採血器具B1から方向C1、すなわち、装着する際と同じ方向のまま、採血器具B1の向こう側へ脱着する態様、または方向C1とは逆方向、すなわち装着する際と同じ側から脱着する態様のいずれでもよい。
また、指先、肘、かかとなどをランセットなどで穿刺して末梢血を取り出し、それを検査に用いる場合においては、採血ユニットの採血器具に穿刺針は不要である。中空構造をもち、血液を乾式分析素子50に導くことができる機能を有する構造であればよい。
【0041】
採血ユニットは、乾式分析素子50を、採血器具に装着することができ、略気密状態を保ちつつ摺動自在に組み合わされることができ、内部に減圧可能に密閉空間を画成することが可能であれば、どのような形、大きさであってもよい。手で持ちやすく操作しやすい範囲であることが好ましい。
採血ユニットは、内部に減圧可能に密閉空間を画成することにより、採血された全血が、乾式分析素子50の流路34に入り、乾式分析要素54まで迅速に導くことができる。
【0042】
本実施形態に係る乾式分析素子50を分析するための測定装置について説明する。図10は、乾式分析素子50(図5)を分析するための測定装置の一例を示す模式図である。
図10に示すように、測定装置100は、測定対象となる検体を設置する設置部71を備えている。設置部71には、乾式分析素子50が設置される。実際に測定に供するのは、乾式分析素子50の検体と反応した乾式分析要素54(図5)の部分である。
また、測定装置100は、検体に光を照射するハロゲンランプ等の発光素子を用いた光源72と、光源72から照射される光の強度を変化させる光可変部73と、光源72から照射される光の波長を変化させる波長可変部74と、光源72から照射される光を平行化及び集光するレンズ75a及び75bと、検体からの反射光を集光するレンズ75cと、レンズ75cで集光された反射光を受光する受光素子としてのエリアセンサ76と、各部を制御すると共に光可変部73の状態とエリアセンサ76で受光した光の光量とに応じた測定結果を求めてディスプレイ等に出力するコンピュータ77とを備える。なお、ここでは、コンピュータ77が各部を制御する構成としているが、各部を統括制御するコンピュータを別に用意しておいても良い。
【0043】
光可変部73は、穴の開いたステンレス等の金属メッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、光源72と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源72から検体に照射される光の強度を変化させるものである。初期設定では、この減光フィルタが、光源72と検体との間に挿入された状態となっている。なお、以下では、金属メッシュをステンレスメッシュとする。また、穴の開いたステンレスメッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、手動で出し入れできるようにしても良い。
【0044】
波長可変部74は、複数種類の干渉フィルタのいずれかを、光源72と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源72から検体に照射される光の波長を変化させるものである。なお、本実施形態では、波長可変部74を光可変部73と設置部71との間に設置しているが、光源72と光可変部73との間に設置しても良い。また、複数種類の干渉フィルタを手動で出し入れできるようにしても良い。
【0045】
エリアセンサ76は、CCD等の固体撮像素子であり、設置部71に設置された乾式分析素子50の乾式分析要素54(図5)と血液等の検体とが反応した際に光源72から照射される光によって反射する光を受光し、受光した光を電気信号に変換してコンピュータ77に出力するものである。エリアセンサ76は、乾式分析要素54から反射する光を面単位で受光可能である。このため、各試薬のエリアを同時に、すなわち複数項目について測定が可能である。
【0046】
コンピュータ77は、エリアセンサ76から出力された受光量に応じた電気信号を、予め内蔵するメモリ等に記憶している検量線のデータに基づいて光学濃度値に変換し、その光学濃度値から検体に含まれる各種成分の含有量等を求め、ディスプレイ等に出力するものである。複数項目を測定する場合、コンピュータ77は、エリアセンサ76から出力された受光量に応じた電気信号を、乾式分析要素の複数エリア毎に抽出し、検体に含まれる成分の含有量を複数エリア毎に求める。又、コンピュータ77は、エリアセンサ76で受光した検体からの反射光量や検体と反応させる試薬の種類に応じて、光可変部73と波長可変部74を制御し、光源72からの光の光量を変化させたり、その波長を変化させたりする。
【0047】
以上のような構成の測定装置100では、検体からの反射光量が、エリアセンサ76のダイナミックレンジ内に入らない程少ない場合に、光可変部73が、光源72と検体との間からステンレスメッシュの板材又はNDフィルタを取り外し、光源72から照射される光の強度を強くする。これにより、検体からの反射光量が多くなり、その反射光量がエリアセンサ76のダイナミックレンジ内に入るようになる。このため、エリアセンサ76のダイナミックレンジが狭くても、反射光を精度良く受光することができ、検体に含まれる成分の含有量の測定精度が向上する。
【0048】
本実施形態では、光源72から検体に光を照射し、その反射光から検体に含まれる成分の含有量を求めているが、検体を透過した透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めても良い。
また、本実施形態では、検体からの反射光をCCD等のエリアセンサを用いて受光しているが、エリアセンサに限らず、ラインセンサを用いても構わない。
【0049】
本実施形態で使用するCCDとしては、フォトダイオード等の受光部が半導体基板上に縦横に所定間隔で配置され、隣接する各受光部列に含まれる受光部が、互いに、受光部列内での受光部同士のピッチの約1/2列方向にずれて配置された、いわゆるハニカム型のCCDを用いることが望ましい。
【0050】
上記の説明では、測定装置100が、検体からの反射光量に応じてリアルタイムに光の強度を変化させているが、検体に含まれる測定成分に応じて予め設定されたシーケンスで、その測定成分の含有量の測定を行うようにしても良い。この場合の動作を以下に説明する。
【0051】
測定装置100は、設置部71に乾式分析素子が設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ7が、測定に利用する光の強度を複数種類の強度の中から選択し、選択した強度の光を検体に照射させる。エリアセンサ6が、検体から反射した反射光を受光すると、コンピュータ7は、エリアセンサ6で受光された反射光の光量と上記選択した光の強度とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0052】
光の強度を変えずにCCDの露光時間を変化させる場合、測定装置100は、設置部71に乾式分析素子が設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ77が、検体に光を照射させる。そして、エリアセンサ76が、複数種類の露光時間の中からコンピュータ77によって選択された露光時間で、検体から反射した反射光を受光する。最後に、コンピュータ7は、エリアセンサ6で受光された反射光の光量と該選択した露光時間とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0053】
測定装置100は、以上に述べてきた光源72から乾式分析要素に光を照射して、その反射光あるいは透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めることに限定することはなく、光源72から乾式分析要素に光を照射したときに乾式分析要素から発する蛍光などの光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよく、光可変部3で光源72の光を完全に遮断する、あるいは光源72を用いないことで乾式分析要素に全く光が当たらない状態にして乾式分析要素から発する化学発光などの発光による光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよい。
【0054】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、液体濾過器具10、フィルタ部材12、ホルダ部材14、液体濾過フィルタ15,36、多孔質膜17,52、乾式分析素子50、上部材30、下部材40、乾式分析要素54等の材質,形状,寸法,形態,数,配置個所等の適宜の変更が可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 液体濾過器具の実施例
1.液体濾過器具の作製
(作製例1)
図1に示す液体濾過器具10を作製した。フィルタ部材12及びホルダ部材14は透明ポリスチレン樹脂(PS)製とした。フィルタ部材12の内径を約8mm、外径を約11mmとし、ホルダ部材14の内径を約11mm、外径を約12mmとした。
厚さ約1mmに抄紙したガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を直径8mmに打ち抜き、打ち抜いた16枚のガラス繊維濾紙を液体濾過フィルタ15として、フィルタ部材12のフィルタ収容室16に充填した。
多孔質膜17としては、富士ドライケムプラズマフィルターPFで使用しているポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム製)を直径11mmに打ち抜いたものを使用した。
【0056】
(作製例2)
上記作製例1で使用した液体濾過フィルタを、酢酸処理を施したガラス繊維濾紙、PMEA(ポリ(メトキシエチルアクリレート)処理を施したガラス繊維濾紙、または酢酸処理とPMEA処理とを施したガラス繊維濾紙に変更したこと以外は同様にして、液体濾過器具10(図1)を作製した。なお、酢酸処理及びPMEA処理は以下の(A)〜(C)の手順で行った。
【0057】
(A)酢酸処理;
厚さ約1mmに抄紙したガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を縦約200mm,横約150mmにカットし、3枚重ねてステンレス製のバットに入れる。酢酸1mLをイオン交換水999gに溶解させた、濃度約16.5mMの酢酸水溶液200mLをこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてから4分30秒静置する。その後バットを30秒間傾斜させて液を除去する。この酢酸水溶液に浸漬する操作をもう一度行い、酢酸水溶液での処理を合計2回実施する。
【0058】
次に、イオン交換水200mLをこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてからバットを30秒間傾斜させて液を除去する。このイオン交換水に浸漬する操作を更に4回実施し、イオン交換水での処理を合計5回実施する。続いてメタノール200mLをバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてからバットを30秒間傾斜させて液を除去する。続いて、ピンセットでガラス繊維濾紙を挟んで静かに取り出し、予めドラフトの中に用意しておいた、株式会社クレシア製のキムタオルを敷いて更に株式会社クレシア製のキムワイプを敷いた部分に、ガラス繊維濾紙を静かにのせて、ドラフト内の空気を吸引しながら室温で1.5〜3時間乾燥させる。
【0059】
(B)PMEA(ポリ(メトキシエチルアクリレート))処理;
酢酸処理と同様に、厚さ約1mmに抄紙した、ガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を縦約200mm,横約150mmにカットし、3枚重ねてステンレス製のバットに入れる。PMEA約20%のトルエン溶液(サイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社製;PMEAの分子量約10万)1mLをメタノール199mLに希釈させて得た、濃度約0.1%のPMEA溶液をこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてから4分30秒静置する。その後バットを30秒間傾斜させて液を除去する。次に、ピンセットでガラス繊維濾紙を挟んで静かに取り出し、予めドラフトの中に用意しておいた、キムタオルを敷いて更にキムワイプを敷いた部分に、ガラス繊維濾紙を静かにのせて、ドラフト内の空気を吸引しながら室温で1.5〜3時間乾燥させる。
【0060】
(C)真空乾燥;
酢酸処理,PMEA処理を実施したガラス繊維濾紙は、キムタオルを敷いて更にキムワイプを敷いたものの上にのせてあるが、それごと真空乾燥機に入れて、室温で15〜21時間,0.01〜10mPa程度の圧力で減圧乾燥させる。乾燥終了後に実験室内の雰囲気(20〜30℃,30〜70%RH程度)に3時間以上放置してビニール袋に入れて保管する。
【0061】
2.液体濾過器具による濾過の結果
健常人の男性から抗凝固剤としてヘパリンリチウムを用いた採血管を用いて採血した。得られた全血のへマトクリット値はH46%であった。テルモ株式会社製の清浄試験管ラルボ(直径15.5mm,長さ100mm)を長さ30mm程度にカットしたガラス製試験管に全血を入れた。直径8mmから20mmのテーパーがかかった内径のテフロン(登録商標)混合シリコン素材の蓋を作成し、この蓋の上端に孔を開けて、圧力制御式ポンプ吸引機と気密を保てるようにチューブで接続した。
【0062】
(作製例1)及び(作製例2)で作製したフィルタ部材12とホルダ部材14とを多孔質膜を間に挟み込んで嵌合し、ホルダ部材14上端の開口部26に上記で作製した蓋を取り付けた。フィルタ部材12のノズル18を全血に浸漬して、圧力制御式ポンプ吸引機を作動させ、減圧濾過によって全血から血漿を回収した。なお、吸引のシーケンスは、吸引開始時に0mmHgであった圧力を30秒間後に−60mmHgの減圧になるように連続的に減圧度を上げ、次の10秒で−130mmHgの減圧になるように連続的に減圧度を上げ、あとはポンプを停止するまで−130mmHgの減圧度を保つようなシーケンスとした。
【0063】
その結果、赤血球等が漏れることなく、総吸引時間200秒で全血1mLから血漿140μLを得た。なお、この結果は、フィルタ部材とホルダ部材とを超音波融着によって接合した液体濾過器具である富士ドライケム プラズマフィルターPFを用いて全血3mlから血漿350μlを得ることが出来た結果と濾過性能としては同様の結果であった。従って、本発明の液体濾過器具により、液体を濾過できることが明らかとなった。
【0064】
3.液体濾過フィルタに用いる材料の比較
上記液体濾過器具によって得られた血漿成分を日立製作所製の臨床検査自動分析装置7170を用いて分析し、用いた液体濾過フィルタの違いを比較検討した。比較のために、3000rpmの回転数で10分遠心分離して得た血漿の成分を定量した。
液体濾過フィルタ15(図1)として、何も処理を施していないガラス繊維濾紙を用いた場合には、ナトリウム(Na),カリウム(K),塩化物イオン(Cl)などの成分がガラスから血漿に溶出し、総コレステロール(TCHO)などの血漿中の成分がガラス繊維濾紙に吸着していることがわかった。ただし、溶血は目視では確認されず、わずかな溶血があったとしても血漿の分析には支障が無い程度であった。
【0065】
酢酸処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、ナトリウム,カリウム,塩化物イオンなどの成分がガラスから溶出することを防ぐことができており,PMEA処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、血漿中の総コレステロール等の成分がガラス繊維濾紙に吸着するのを防止できていることがわかった。
酢酸処理をした後にPMEA処理をしたガラス繊維濾紙を用いた場合は、遠心分離血漿とほぼ同等の血漿を得ることができるとわかった。また、得られた血漿は赤い色を帯びることもなく、遠心分離で得た血漿と比較して、カリウム(K),乳酸脱水素酵素(LDH)の値も大きくないことから、溶血は起きていないとわかった。
以上より、ガラス繊維濾紙に酸処理、PMEA処理、または酸処理後にPMEA処理を施したものは、溶血がほとんど起こっておらず、分析に非常に適した血漿が得られることがわかった。以上の結果を表1から3にまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
〔実施例2〕 乾式分析素子の実施例
1.乾式分析素子の作製例
以下の手順に従って図5に示す上部材30と下部材40とを多孔質膜52を介して嵌合した乾式分析素子50を作製した。
透明ポリスチレンを用いて成形した、約24mm×28mmのサイズの上部材30及び下部材40を用意した。嵌合凸部35及び嵌合凹部46の直径を約9mmとした。液体濾過フィルタ36として、赤血球捕捉・血漿抽出用のガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を流路34に充填した。
【0070】
また、乾式分析要素54として、富士ドライケム マウントスライドGLU−P及びTBIL−P(富士写真フイルム社製)を各々幅2mm弱・長さ2mm弱にカットしたものを用意し、下部材40の9箇所のセル42に配置した。なお、9箇所のセル42のうち、中心及び四隅の位置にGLU−Pを合計5箇所装填し、TBIL−Pをそれ以外の箇所に合計4個装填した。
続いて、多孔質膜52として、ポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム社製)を一辺が約18mmの正方形にカットしたものを用意した。このポリスルホン多孔質膜を嵌合凹部46の上方に静かに乗せ、嵌合凸部35と嵌合凹部46との嵌合部に挟み込むようにして上部材30と下部材40とを嵌合させた。
【0071】
2.測定装置の設定
乾式分析素子50を測定するために、図10に示す測定装置100を用意した。各部材の設定は以下の通りとした。
測定装置100;倒立の実体顕微鏡。
CCD受光部での倍率は以下の2通りを用意。
0.33倍; CCD部分で33μm/ピクセル
1倍; CCD部分で10μm/ピクセル
光源72;林時計工業株式会社製のルミナーエース LA−150UX
波長可変部74(干渉フィルタ);625nm,540nm,505nmで各々単色化
光可変部73(減光フィルタ);HOYA株式会社製のガラスフィルタ ND−25
およびステンレス板に孔をあけた自家製フィルタ
エリアセンサ76(CCD);SONY株式会社製の8ビット白黒カメラモジュール XC−7500
コンピュータ77(データ処理(画像処理));株式会社ニレコ製の画像処理装置 LUZEX−SE。
反射光学濃度を校正するための手段;富士機器工業株式会社製の標準濃度板(セラミック仕様)を以下の6種類用意。
標準濃度板;A00(反射光学濃度〜0.05)、
A05(同0.5)、
A10(同1.0)、
A15(同1.5)、
A20(同2.0)、
A30(同3.0)。
【0072】
3.乾式分析素子による分析
上記で作製した乾式分析素子50の供給口32にプレーン採血した全血を200μL注入し、10〜20秒静置して全血をガラス繊維濾紙(液体濾過フィルタ36)に展開させた後に、吸引ノズル44にシリコン製のチューブを接続し、このチューブの先にディスポーザブルシリンジ(テルモ株式会社製)を装着して、静かにシリンジのピストンを引いて吸引した。
濾過により抽出された血漿がポリスルホン多孔質膜を通過して、ドライケム マウントスライドに滴下され、GLU−PおよびTBIL−Pスライドが徐々に発色を開始した。全血が注入されてから血漿を抽出してマウントスライドに滴下するまでに要した時間は30秒であった。
【0073】
GLU−PおよびTBIL−Pスライドの発色の様子を図10に示す測定装置100を用いて同時にCCDカメラで撮像し、LUZEX−SEを用いて得られた画像を処理し、セル42の中心に配置したGLU−Pおよび吸引ノズル44の隣に位置するTBIL−Pスライドの画像の中心付近の平均受光量を求めて光学濃度に換算し、検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。
CCDカメラで撮像した画像をLUZEX−SEで処理する際に、GLU−PおよびTBIL−Pの画像の中心部分について、各々縦1.4mm×横1.4mmの範囲の受光量を画像処理によって算出した。このとき、光学系の倍率0.33倍を使用したので、画素は縦42ピクセル×横42ピクセル、すなわち画素数1764で計測した。CCDカメラを用いて測定した結果が正しいかどうか比較するために、日立製作所製の自動臨床検査装置7170を用いて検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。以上の結果を表4に示す。このとき、GLU−PおよびTBIL−Pスライドでは測定波長が異なるため、表5に示すように干渉フィルターの波長を5秒ごとに逐次変えて測光した。
【0074】
以上より、乾式分析素子50は、赤血球が漏れることなく簡単な操作で迅速に測定を行うことが可能であることが分かった。これは、上部材30と下部材40とを超音波融着によって接合した場合と同様の結果であった。従って、本発明の乾式分析素子により、液体を濾過して分析できることが明らかとなった。
なお、ここでは、乾式分析要素54として、2項目分のドライケミストリー用試薬を使用したが、適宜項目数を増加することができる。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る液体濾過器具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係るフィルタ部材12を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係るホルダ部材14を示す断面図である。
【図4】本発明に係る液体濾過器具の一実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る乾式分析素子の一実施形態を示す断面図である。
【図6】(A)は本実施形態に係る上部材30を示す上面図、(B)は上部材30の断面図である。
【図7】(A)は本実施形態に係る下部材40を示す上面図、(B)は下部材40の断面図である。
【図8】本実施形態に係る採血ユニットを示す模式図である。
【図9】本実施形態に係る採血ユニットを示す模式図である。
【図10】本実施形態に係る測定装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0078】
10 液体濾過器具
12 フィルタ部材
14 ホルダ部材
15,36 液体濾過フィルタ
17,52 シール部材(多孔質膜)
19 フィルタ部材の液体出口側(上端)の開口部
28,55 嵌合部
30 上部材
40 下部材
50 乾式分析素子
54 乾式分析要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体濾過フィルタが収容されたフィルタ部材と、前記液体濾過フィルタを通過した濾過液を貯留するホルダ部材とからなり、減圧濾過によって液体を濾過する液体濾過器具であって、
前記フィルタ部材と前記ホルダ部材とが、減圧時に実質的に気密かつ水密となるように、嵌合可能に形成されていることを特徴とする液体濾過器具。
【請求項2】
前記フィルタ部材と前記ホルダ部材との嵌合部にシール部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体濾過器具。
【請求項3】
前記シール部材が多孔質膜であって、前記フィルタ部材の液体出口側の開口部が前記多孔質膜により覆われていることを特徴とする請求項2に記載の液体濾過器具。
【請求項4】
前記液体濾過フィルタが直径10μm以下の繊維からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項5】
前記液体濾過フィルタがガラス繊維からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項6】
前記ガラス繊維がポリマーによって表面が被覆されたものであることを特徴とする請求項5に記載の液体濾過器具。
【請求項7】
前記ガラス繊維が酸処理された後、表面がポリマーで被覆されたものであることを特徴とする請求項5に記載の液体濾過器具。
【請求項8】
前記ポリマーがアクリレート系ポリマーであることを特徴とする請求項6または7に記載の液体濾過器具。
【請求項9】
前記ポリマーがポリ(アルコキシアクリレート)であることを特徴とする請求項6または7に記載の液体濾過器具。
【請求項10】
使い捨て使用が可能であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項11】
前記液体が体液であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項12】
前記体液が血液であることを特徴とする請求項11に記載の液体濾過器具。
【請求項13】
前記液体が環境関連物質検査用の液体であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項14】
前記液体が食品検査用の液体であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項15】
前記液体が自然科学研究に使用される液体であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体濾過器具。
【請求項16】
液体濾過フィルタを収容した上部材と、乾式分析要素を備えた下部材とからなり、
減圧濾過によって体液を濾過して、得られた濾過液を前記乾式分析要素に接触させることで前記体液に含まれる成分を分析する乾式分析素子であって、
前記上部材と前記下部材とが、減圧時に実質的に気密かつ水密となるように、嵌合可能に形成されていることを特徴とする乾式分析素子。
【請求項17】
前記上部材と前記下部材との嵌合部にシール部材を備えたことを特徴とする請求項16に記載の乾式分析素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−38525(P2006−38525A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215930(P2004−215930)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】