説明

液体試料分析装置

【課題】抗体等の試薬を担持させた粒子を分析試薬に用いて、試料液中の特定物質を分析する装置において、当該分析試薬が、試料液中へ均一に溶解・分散し、試料液中の粒子濃度勾配を発生させない液体試料分析装置およびその測定方法を提供する。
【解決手段】(A)液体試料を充填するための空間;ならびに前記空間の内壁面に設けられた分析試薬保持部、および分析部を含む液体試料分析チップ、(B)前記液体試料分析チップの外部に設けられた磁界発生ユニット、および(C)前記液体試料分析チップの外部に設けられた分析ユニットを含む液体試料分析装置であって、前記分析試薬保持部が、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子を有し、前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部に液体試料が充填される際に、前記粒子を分析試薬保持部に固定できるように配置される液体試料分析装置、を用いて分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の特定物質の分析、特に免疫学的反応を用いた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療などの分野において、生体中の特定物質の存在及びその量を分析することは有益である。中でも、分析対象物質に特異的に反応する抗体を用いた免疫学的分析法は最もよく用いられる方法の一つである。免疫学的分析法には、反応の検出方法により様々な測定法が存在する。例えば、標識物質を抗体に連結させた試薬を用い抗原抗体反応が生じたかどうかを標識物質により検知する標識免疫測定法が知られている。本方法は、標識物質に酵素、蛍光物質、放射性同位体を用いた方法が知られている。これらはそれぞれ、酵素免疫測定法、蛍光物質標識免疫測定法、放射線免疫測定法と呼ばれている。また、抗体を担持させた粒子状試薬を用い、抗原抗体反応が生じたかどうかを粒子状試薬の凝集状態により検知する、凝集反応に基づく免疫測定法が知られている。この代表的なものとしてラテックス粒子を用いるラテックス凝集法等がある。
【0003】
標識免疫測定法は高精度の分析が可能であるが、用いる試薬が不安定であることや、測定時間が比較的長いという問題がある。一方、凝集反応にもとづく免疫測定法であるラテックス凝集法は、分析精度はあまり高くないものの、測定時間が比較的短いという利点を有している。
【0004】
ラテックス凝集法は次のように行われる。まず、分析対象物質に特異的に反応する抗体をラテックス粒子に担持(固定)する。当該ラテックス粒子と試料を反応させ、試料中に含まれる分析対象物質とラテックス粒子に担持された抗体を反応させる(抗原抗体反応)。当該反応の進行に従いラテックス粒子は凝集するので、その凝集塊を光学的に検出して分析対象物の濃度を測定する。
【0005】
この方法における測定精度・測定時間は、用いるラテックス粒子の粒子径により異なる。ラテックス粒子径が大きければ測定精度は高くなるが、測定時間が長くなる。粒子径が小さければ測定精度は低くなるが、測定時間が短くなる。通常、当該方法で用いられるラテックス粒子の粒子径は数百nmであり、測定可能な領域はnM程度である。
【0006】
ラテックス凝集法はいくつかの改良方法が報告されている。特許文献1には、ラテックス粒子の代わりに粒径200Å〜2μmの磁性粒子を用い、試料液中で粒子が凝集する際に外部磁場を適用して凝集を促進させる方法が開示されている。この方法によれば測定は10分程度で行うことができる。
【0007】
特許文献2には粒径0.5μm〜10μmのラテックス粒子を用い、試料液に交流電圧を印加して電場をかけることにより、粒子を一直線上に並べる方法が開示されている。この方法によれば1分で全粒子の90%を凝集させることが可能である。
【特許文献1】特開昭62−287159号公報
【特許文献2】特開平7−83928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、抗体担持粒子等を凝集させて行う免疫測定法において粒子の凝集率を向上する方法はこれまでいくつか報告がある。しかし当該免疫測定法は、凝集反応させる前の液体試料において液中の抗体担持粒の濃度にばらつきがあると、測定対象物質の濃度を正確に算出できないという問題があった。当該免疫測定法では通常、粒子には複数の抗体が担持されているので一つの粒子は複数の抗原と反応ができる。しかし、液体試料中に抗体担持粒子が不均一に分散していると、粒子濃度が低い領域においては、粒子濃度が高い領域よりも一粒子に反応できる抗原の量が多くなる。すなわち一粒子に結合する抗原の量に不均衡が生じる。このような状態において粒子の凝集促進を行うと、凝集率は局所で異なってしまうため分析精度が低下する。
【0009】
発明者らは、分析精度を向上させるためには、前記凝集反応を行う前に、抗体等の物質を担持させた粒子が試料液中に均一に分散・溶解していることが必要であることを見出した。
【0010】
ところで抗体等の物質を担持させた粒子を試薬として用いた分析チップでは、試薬の保存安定性を保持するために前記粒子を分析チップに乾燥状態で配置することがある。上記の分析精度低下の問題はこのような場合に特に影響が大きい。前記粒子を乾燥状態で配置した分析チップでは、液体試料をチップに導入した際に当該液に前記粒子が溶解・分散する。このとき、流入した液に前記粒子が流されてしまうため、流れの先端と末端では前記粒子の濃度に差が生じてしまうからである。前記粒子が試料液へ溶解し、かつその溶解速度が試料液の流速に比べて顕著に遅い場合はあまり問題となりにくいが、前記粒子は一般に試料液には溶けやすく組成されたものが多く、このようなケースは稀である。
【0011】
以上から、本発明は抗体等を担持させた粒子を含む分析試薬を用いて試料液中の特定物質を分析する装置において、当該粒子が、試料液中へ均一に溶解・分散し、試料液中に粒子濃度勾配を発生させない液体試料分析装置およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、前記粒子を磁性粒子として、当該粒子の動きを、外部から磁界を作用させて制御することに着眼し本発明を完成させた。すなわち前記課題は、以下の本発明の液体試料分析装置および分析方法により解決される。
【0013】
[1](A)液体試料を充填するための空間;ならびに前記空間の内壁面に設けられた分析試薬保持部、および分析部を含む液体試料分析チップ、(B)前記液体試料分析チップの外部に設けられた磁界発生ユニット、および(C)前記液体試料分析チップの外部に設けられた分析ユニットを含む液体試料分析装置であって、
前記分析試薬保持部が、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子を有し、
前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部に液体試料が充填される際に、前記粒子を分析試薬保持部に固定できるように配置される液体試料分析装置。
[2]前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部の全部に磁界を作用させるように配置されている[1]に記載の液体試料分析装置。
[3]前記磁界発生ユニットが、前記粒子に作用させる磁界の強さを調整できる、請求[1]または[2]に記載の液体試料分析装置。
[4]前記磁界発生ユニットが磁石を含む[1]〜[3]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[5]前記粒子が、乾燥した状態で分析試薬保持部に配置されている[1]〜[4]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[6]前記液体試料分析チップの分析試薬保持部と分析部が、前記の空間における同一の部位に設けられている[1]〜[5]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[7]前記液体試料分析チップの分析試薬保持部と分析部が、前記の空間における異なる部位に設けられており、かつ当該分析試薬保持部と当該分析部が流路により接続されている[1]〜[5]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[8]前記分析部が電極対を有する[1]〜[7]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[9]前記分析ユニットが光学的分析器を含む[1]〜[8]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[10]前記分析ユニットが磁気計測器を含む[1]〜[9]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[11]前記粒子に担持されている液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が、抗体である[1]〜[10]いずれかに記載の液体試料分析装置。
[12]前記[1]〜[11]いずれかに記載の液体試料分析チップを用いた分析方法であって、(a)前記磁界発生ユニットから発生する磁界を作用させて前記粒子を前記空間の内壁面に固定する工程、(b)液体試料を前記液体試料注入口から前記液体試料分析チップ内の空間に充填する工程、(c)前記磁界発生ユニットから発生する磁界の前記粒子への作用を弱めて、前記空間の内壁面に固定されている前記粒子を液体試料中に解放する工程、および(d)分析ユニットにより液体試料を分析する工程、を含む分析方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子を含む分析試薬を用いて試料液中の特定物質を分析する装置において、当該粒子が、試料液中へ均一に溶解・分散し、試料液中の粒子濃度勾配を発生させない液体試料分析装置およびそれを用いた測定方法を提供する。その結果、精度の高い分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.本発明の液体試料分析装置
本発明の液体試料分析装置は、
(A)液体試料を充填するための空間;ならびに前記空間の内壁面に設けられた分析試薬保持部、および分析部を含む液体試料分析チップ、
(B)前記液体試料分析チップの外部に設けられた磁界発生ユニット、および
(C)前記液体試料分析チップの外部に設けられた分析ユニット、を含み、
前記分析試薬保持部が、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子を有し、かつ
前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部に液体試料が充填される際に、前記粒子を前記空間の内壁面に固定できるように配置されることを特徴とする。
【0016】
本発明の分析装置の分析対象は液体試料であり、より詳しくは液体試料中に存在する特定物質である。液体試料は特に限定されないが、その例には生体から採取した血液等が含まれる。
【0017】
図1は本発明の液体試料分析チップの第一の態様を示す分解斜視図である。図中、1は液体試料分析チップであり、上カバー21、スペーサー22、および基板23を含む。上カバー21には液体試料注入口41、空気穴42が形成されている。スペーサー22は液体試料分析チップ1内部に液体試料を充填するための空間3を設けるために、中央部が空洞になっている。前記空間は、液体試料注入口41、空気穴42により外部と接続される。
【0018】
図2は図1に示される液体試料分析チップ1を用いた液体試料分析装置を示す斜視図である。図中、7は液体試料分析装置であり、液体試料分析チップ1、磁界発生ユニット5、および分析ユニット9を含む。磁界発生ユニット5には、当該ユニットと液体試料分析チップ1との距離を調整できるジャッキアップシステム51とこれを制御する制御装置52が備えられている。分析ユニット9は、解析装置91と分析結果出力装置92を有する。図2に示すとおり、本態様の液体試料分析チップは試料液を充填するための空間3を有する。空間3には分析試薬保持部31と分析部32が存在し、空間3の全部が分析試薬保持部31と分析部32となる。
以下に図面を参照し本発明について説明する。説明は必要に応じ図中の符番を付して行う。
【0019】
1−1 (A)液体試料分析チップについて
液体試料分析チップとは、液体の試料を分析するために用いる微小な部材をいう。
本発明の液体試料分析チップは液体試料を充填するための空間を有する。当該空間の内壁面には分析試薬保持部、および分析部が設けられる。液体試料分析チップは単に「チップ」とも呼ばれる。液体試料分析チップは直方体であることが好ましい。
(1)液体試料を充填するための空間
空間はチップの中央部に設けられることが好ましい。空間の形状は制限されないが例えば直方体であることが好ましい。液体試料は当該空間に毛細管現象によって充填されることが好ましい。毛細管現象は液体試料を導入する空間の形状に影響を受けることが知られている。このため本液体試料チップの前記空間は、断面が四角形である場合、断面の幅が0.5〜5mm、高さが5〜500μmであることが好ましい。当該空間の内壁を形成する材料は、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネート等のポリマーフィルムが好ましい。上記材料は、表面が界面活性剤で処理されていてもよい。界面活性剤には公知のものが用いられる。
【0020】
(2)分析試薬保持部
本発明の液体試料分析チップは前記空間の内壁面に設けられた分析試薬保持部を有する。分析試薬保持部とは、液体試料の分析に用いる分析試薬を保持するチップ上の部位をいう。分析試薬保持部には分析試薬が配置される。当該分析試薬保持部において、液体試料と分析試薬が混合され液体試料に分析試薬が溶解・分散される。
【0021】
分析試薬とは液体試料の分析に用いる試薬であり、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子(「担持粒子」あるいは単に「粒子」ともいう。)を含む。「液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質」とは、液体試料中の特定成分(分析対象物)の特定部位を認識して当該部位に結合できる物質をいう。このような物質の例には抗体、抗原、受容体、酵素、核酸、ペプチドなどの生体高分子が含まれる。
抗体とは液体試料中の特定の抗原と結合しうる物質である。抗体には公知のものを用いることができる。その例には抗アルブミン抗体、抗HCG抗体、抗IgA抗体、抗IgM抗体、抗IgE抗体、抗IgD抗体、抗AFP抗体、抗DNT抗体、抗プロスタグランジン抗体、抗ヒト凝固ファクター抗体、抗CRP抗体、抗HBs抗体、抗ヒト成長ホルモン抗体、抗ステロイドホルモン抗体が含まれる。
抗原の例にはアルブミン、HCG、IgA、IgM、IgE、IgD、AFP、DNT、プロスタグランジン、ヒト凝固ファクター、CRP、HBs、ヒト成長ホルモン、ステロイドホルモンが含まれる。
【0022】
磁気を有する粒子とは、磁石と相互作用できる物質からなる粒子である。その例には、磁性金属粉、Fe、γ−Fe,Co−γ−Fe、ナイロン、ポリアクリルアミド等のポリマーとフェライトとの複合微粒子が含まれる。磁気粒子の粒子径は数百nm〜10μmであることが好ましい。本発明において「〜」は、その両端の数値を含む。
【0023】
「磁気粒子に液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質を担持する」とは、磁気粒子表面に化学的あるいは物理的に前記物質を結合させることをいう。例えば、前記物質と磁性粒子を、シランカップリング剤等を用いて化学的に結合して得ることができる。またエポキシ基、トシル基、アミノ基、カルボン酸基を表面に有する市販の磁気ビーズを用いてもよい。
【0024】
本分析試薬は「液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質」の保存性を高めるために他の試薬を含んでいてもよい。このような試薬の例には糖類、BSA、市販のタンパク質安定化剤が含まれる。
【0025】
本発明においては、「液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質」は「抗体」であることが好ましい。従って特に断りがない限り、「抗体を担持した磁気粒子」を含む分析試薬を用いる液体試料分析装置を例にして、本発明を説明する。
【0026】
本発明において、液体試料中の分析対象物である抗原Aが、抗体に対する認識部位を複数持っている場合は、一つのAに対し複数の担持粒子が結合できる。そのため担持粒子は凝集し、その凝集度合いから試料液中の分析対象物が定量される。この場合は担持粒子には一以上の抗体が担持されていればよい。
【0027】
一方、液体試料中の分析対象物である抗原Bが抗体に対する認識部位を一つしか持っていない場合は、抗体を担持させた磁気粒子とともに、その抗体に結合しうる認識部位を複数有する抗原Cも分析試薬として、分析試薬保持部に配置しておくことが好ましい。試料液中に分析対象物質Bが全く存在しない場合は、担持粒子は一つの抗原Cに対して複数結合できるため凝集する。しかし、液体試料中に分析対象物Bが存在すると、Bと担持粒子の結合・解離と、Cと担持粒子との結合・解離が平衡的に起こる。このとき、一つのBに対して担持粒子は一つしか結合できないため、Bと結合した担持粒子は凝集できない。従って、担持粒子の凝集度はBが全く存在しなかった場合と比べて小さくなる。すなわち凝集度の低下により、分析対象物Bが定量できる。
【0028】
分析試薬は分析試薬保持部に配置される。分析試薬を分析試薬保持部に配置する方法は後述するが、配置された分析試薬は乾燥状態にあることが好ましい。分析試薬の保存安定性を高めることができるからである。
図1、図2に示す態様の液体試料分析チップは、分析試薬保持部31と分析部32をチップの空間3における同一の部位に有する。また、図5に示す態様の液体試料分析チップは、分析試薬保持部31と分析部32を前記空間3における異なる部位に有する。
【0029】
(3)分析部
本発明の液体試料分析チップは、液体試料を充填するための空間に設けられた分析部を含む。分析部とは液体試料の物理的・化学的変化等を検出するための部位である。本発明においては分析部において担持粒子の凝集が起こる。そして、当該分析部を液体試料分析チップ外に設けられた分析ユニットで分析することにより分析試薬の凝集度合いが測定される。分析ユニットによる分析・解析については後述するが、粒子の凝集を光学的手法で分析する場合には、分析部は透明な部材であることが好ましい。
【0030】
担持粒子の凝集はそのまま放置しておくだけで進行するが、抗体等を担持させた粒子に電場をかけると、粒子が直線上に並ぶこと(パールチェーン現象)が知られている(特許文献2)。従って本発明においても、担持粒子を凝集させる際に電界を適用して、当該粒子の凝集を促進することができる。液体試料に電界をかけるには前記分析部に電極対を設けることが好ましい。電極対とは電場をつくるため、または電流を流すために対にして設ける導体または半導体である。
【0031】
図3は、分析部に電極対が配置された液体試料分析チップを示す分解斜視図である。図3に示すとおり、基板24の上に分割された二本の導体が直線上に配置されている。
図中、1は液体試料分析チップであり、上カバー21とスペーサー22と電極対8が設けられた基板24を含む。基板24は、上カバー21およびスペーサー22よりも長く、重ね合わせた際にはみ出す、「はみ出し部分」を有する。その余の構成は実施の形態1における液体試料分析チップの形状と同様である。電極対8は二つの直線状に設けられた導体からなる。前記二本の導体は、それぞれ基板24の長辺に平行であり、基板24の長さ方向の一方の端からもう一方の端まで延びている。前記導体は、それぞれ液体試料分析チップの液体試料を充填するための空間に、その一部が露出(「露出部」ともいう。)する。二つの露出部は、それぞれ空間3の二本の長辺の近傍に設けられることが好ましい。導体の幅は0.1〜5mmとすることが好ましい。
基板24上の前記はみ出し部分に存在する導体は、電極接続端子81により、電圧印可装置82に接続される。このようにして電極対8に電圧が印可される。
【0032】
図3に示すチップは、分析部32と分析試薬保持部31がチップの液体を充填するための空間3における同一の部位に設けられている。そのため前記電極対は前記空間3に設けられている。
一方図5に示すチップのように、分析部と分析試薬保持部がチップの空間3における異なる部位に設けられてる場合は、電極対は分析部32に設けられる。図5において、基板24は上カバー21およびスペーサー22よりも長く、重ね合わせた際にはみ出す「はみ出し部分」を有する。電極対8は二つの直線状に設けられた導体からなる。前記二本の導体は基板24の長辺に平行である。前記二本の導体は、それぞれ基板24における分析部32の紙面左端に対応する部位を始点とし、基板24の紙面右端を終点とする。前記二本の導体はその一部が、分析部に露出する(「露出部」ともいう。)。二つの露出部は、それぞれ分析部32の基板の長辺に平行な辺の近傍に設けられることが好ましい。基板24上の前記はみ出し部分に存在する導体は、電極接続端子81により、電圧印可装置82に接続される。このようにして電極対8に電圧が印可される。
【0033】
図3および図5のチップは、分析部に電界を適用しそれにより担持粒子を凝集できる。この他に担持粒子磁界発生ユニット5を用いて分析部に磁界を適用しても粒子を凝集させることができるが、この方法については後述する。
【0034】
1−2 (B)磁界発生ユニット
磁界発生ユニットとは磁界を発生することができる装置をいう。磁界とは、磁石や電流のまわりに存在する力の場のことであり、磁場ともいう。本発明においては、分析試薬保持部に液体試料が充填される際に、担持粒子を空間の内壁の一部である分析試薬保持部に固定するために用いられる。これにより、分析試薬保持部に導入された液体試料によって、担持粒子が流されることが防げる。その結果、試料液中に担持粒子が偏在することを回避できる。
【0035】
磁界を適用し担持粒子を分析試薬保持部に固定した状態において、分析試薬保持部に液体試料を導入すると、ほとんどの粒子が分析試薬保持部に拘束されたまま液体試料と接触することになる。すなわち、液体試料の流れの先端部分と末尾部分において担持粒子の分布に偏りがない状態で液体試料と担持粒子が接触する。通常、担持粒子には複数の抗体が担持されている。従って一粒子に対して複数の抗原が結合できるが、上記のように担持粒子の分布に偏りがない状態で液体試料と接触させると、一粒子に結合できる抗原の数は全粒子においてほとんど同じになると考えられる。よって測定のための粒子を凝集させる際に、分析部全体の凝集の度合いを一定にできる。
【0036】
しかしながら、前述のとおり液体試料中で担持粒子の分布が不均一になると、担持粒子濃度の低いところでは一つの担持粒子に対して多数の抗原が結合しやすい。一方担持粒子濃度の高いところでは、一つの担持粒子に結合する抗原の数は少なくなる。抗原が多く結合した担持粒子同士と、抗原が少ししか結合していない担持粒子では、担持粒子同士の凝集のし易さに差が生じるため測定精度が低下する。本発明の分析装置はこのような問題を回避できる。
【0037】
磁界発生ユニットは磁石を含むことが好ましい。磁石とは、双極性の磁場を発生させる源となる物質をいう。磁石としては公知のものを用いてよい。磁石の例には、フェライト磁石、アルニコ磁石、ネオジム磁石、およびこれらを高分子材料(ポリマー)と複合化し部材等が含まれる。磁界発生ユニットは、図2、図4および図6に示すように分析試薬保持部の全部に磁界を作用させるように配置されることが好ましい。具体的には分析試薬保持部の全部をチップ外部から覆うことができる形状・大きさであることが好ましい。分析試薬保持部に存在する担持粒子のほとんどを分析試薬保持部に固定しうるからである。上記図に示すように、チップが平板である場合には、磁界発生ユニットも平板であることが好ましい。
【0038】
さらに磁界発生ユニットにはジャッキアップシステム51が備えられ、液体試料分析チップとの距離を調整できることが好ましい。これにより担持粒子へ作用する磁界の強さを制御できる。さらにジャッキアップシステム51は制御システム52により前記距離等を制御してもよい。
【0039】
磁界発生ユニットは電磁石を含んでいてもよい。電磁石とは電磁誘導現象を利用してコイル中を流れる電流により磁界を発生させる磁石である。電磁石の例には、軟鉄の芯にコイルを巻いたもの等が含まれる。電磁石は電流を流すと磁界を発生し、電流を止めると磁界が消失する。そのためチップとの距離を調整することなく担持粒子へ作用する磁界の強さを制御できる。
【0040】
既述のとおり、磁界発生ユニットを分析部に作用させて担持粒子の凝集を促進させてもよい。ただしこの場合、磁界発生ユニットが分析部の全部に磁界を作用できるように配置されていると粒子の凝集が阻害される。そこで磁界発生ユニットは、分析部における担持粒子を凝集させたい位置のみに磁界が作用するような形状・大きさであることが好ましい。例えば、磁界発生ユニットを小さな円形状とし、分析部における担持粒子を凝集させたい部分のみに設置すれば、局部的に担持粒子の凝集を促進させることができる。
【0041】
1−3 (C)分析ユニット
分析ユニットとは、チップ上の分析部において観察される液体試料の変化を分析・解析し、液体試料中の特定物質の定量を行う装置である。液体試料の変化を分析する手段の例には光学的手法が含まれる。液体試料を光学的に分析するとは、液体試料の変化の挙動を特定波長の光に対する試料液の吸光度・透過率で解析することをいう。あるいは分析部の一定領域に含まれる固形物を外観的性状により判断することをいう。液体試料を光学的に分析するための計測器の例には、吸光度計、画像処理装置等が含まれる。また肉眼で観測してもよい。
【0042】
液体試料の光学的な分析を可能にするためには、チップ全体が透明の材料で形成されていることが好ましい。このような材料の例には熱可塑性樹脂が含まれる。中でもポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートが好ましい。特にポリカーボネートは可視光に対して非常に高い透明性を有するものがあるので好ましい。
【0043】
分析ユニットは、磁気計測手段を備えていてもよい。磁気計測手段の例にはガウスメーター等が含まれる。分析ユニットに磁気計測手段を備えると、磁気を適用して担持粒子を凝集させた場合に、磁気の強さと凝集度合いの相関を把握することができる。担持粒子をある一定の凝集塊にするために要する磁気の強さ、磁気の適用時間を求めることができ、担持粒子の凝集を定量的に解析することが可能となる。
【0044】
2.本発明の液体試料分装置の製造方法
本発明の液体試料分装置は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造できる。以下に好ましい製造方法を説明する。
2−1 (A)液体試料分析チップの製造方法
液体試料分析チップは、図1、図3に示すように、上カバー21、スペーサー22および基板23を貼り合わせて製造することが好ましい。上カバー21、基板23には、例えばポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック材料、あるいはガラスなどを用いることができる。
スペーサー22には、上カバー21、基板23を接着できる両面接着シートや接着性樹脂などを用いることができる。また、スペーサー22は、上カバー21、基板23と同じ材料であって、上下の面に接着剤を塗布したものであってもよい。
図5のように、分析試薬保持部31と分析部32が分離した構造である場合も、同様に作製することができる。
【0045】
分析試薬を、液体試料チップの分析試薬保持部とする部位に配置する方法は、任意の方法を用いることができる。例えば、分析試薬を水等に分散させた液(分散液)を調製しておき、予め組み立ておいた図2に示すような液体試料分析チップの液体試料注入口41から注入してもよい。具体的には、前記分散液を液体試料注入口41へ点着し、液が分析試薬保持部31に満たされたことを確認する。次に磁界発生ユニット5をチップ1に近づけ、担持粒子が分析試薬保持部31に固定されるようにする。この状態でチップ1および磁界発生ユニット5を乾燥機に入れ、目視で液が確認できなくなるまで乾燥を行う。このようにして、乾燥した担持粒子が分析試薬保持部31に均一に配置された液体試料分析チップを得ることができる。
【0046】
前記分散液を図1に示す液体試料分析チップの基板23の空間を構成する部分に塗布してもよい。この時、基板23の前記液が塗布される部位に、磁界発生ユニット5を用いて磁界を適用させておくと、前記のとおり担持粒子が均一に分析試薬保持部に配置できるので好ましい。あるいは、前記分散液を塗布し凍結乾燥を行うことで、担時粒子を均一に配置することもできる。前記液を基板23の空間を構成する部分に塗布する方法は特に限定されない。
この他に、前記分散液をピペットを用いてチップの基板23の空間を構成する部分に滴下し、これを乾燥してもよい。
図5のように、分析試薬保持部31と分析部32が分離した構造である場合も、同様に基板24の分析試薬保持部31の底面となる部分に、前記液を塗布または滴下後乾燥して設けることが好ましい。
【0047】
図3、図5のように基板24に電極対8を設ける方法は特に限定されない。例えば、導体を含むペーストを基板24に印刷してもよいし、導体材料等を基板24にスパッタリング、蒸着するなどして形成してもよい。当該導体材料の例には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロム、カーボンなどが含まれる。導体の材料は、試料液中で電気化学的に反応してイオン化したり、酸化作用や還元作用を受けたりするものでないことが好ましい。
【0048】
2−2 (B)磁界発生ユニット
磁界発生ユニットは、公知のものを用いて製造できる。例えばフェライト磁石を所望の大きさの平板に加工することにより磁界発生ユニットを作製できる。またポリマー中にフェライト粒子が分散したポリマーシートを所望の大きさに加工して、磁界発生ユニットとしてもよい。さらに、所望の大きさの軟鉄に導線を巻き電磁石を作製し磁界発生ユニットとしてもよい。
磁界発生ユニットと共に用いるジャッキアップシステム51、制御装置52も公知のものを用いることができる。
【0049】
2−3 (C)分析ユニット
分析ユニット9も公知の吸光度計や、カメラを用いて得ることができる。分析ユニットは試験者の肉眼であってもよい。また、解析装置91およびその出力装置92には、画像処理ソフト内蔵のコンピューターを用いることができる。
【0050】
3.本発明の液体試料分析装置を用いた分析方法
本発明の液体試料分析装置を用いた分析方法は、
(a)前記磁界発生ユニットから発生する磁界を作用させて、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子(担持粒子)を前記空間の内壁面に固定する工程、
(b)液体試料を前記液体試料注入口から前記液体試料分析チップ内の空間に充填する工程、
(c)前記磁界発生ユニットから発生する磁界の担持粒子への作用を弱めて、前記空間の内壁面に固定されている前記担持粒子を液体試料中に解放する工程、および
(d)分析ユニットにより液体試料を分析する工程、を含むことが好ましい。
【0051】
まず、図2に示す液体試料分析チップを用いた分析方法について説明する。
(a)の工程は既に述べたとおり、磁界発生ユニットをチップに近づけることにより行える。あるいは磁界発生ユニットが電磁石である場合は、電流を流して電磁石に磁界を発生させてもよい。磁界の強さは分析試薬中の担持粒子を分析試薬保持部に固定できる強さであればよい。
【0052】
次に(b)の工程により、チップ内に液体試料が充填される。液体試料をチップ内に導入する方法は特に限定されない。チップに設けられた液体試料注入口に液体試料を点着し、毛細管現象を利用して充填することが好ましい。充填後、液体試料と担持粒子を十分に接触させるため一定時間静置させることが好ましい。
【0053】
続いて(c)の工程により磁界の担持粒子への作用を弱めて、前記空間の内壁面に固定されている前記担持粒子を液体試料中に解放する。磁界の担持粒子への作用を弱めるとは、担持粒子を分析試薬保持部に固定できない程度の強さにすること、あるいは磁界をゼロにすることを意味する。磁界発生ユニットが磁石等である場合、チップからの距離を離すことにより磁界を弱められる。この場合、完全に磁界がゼロでなくても担持粒子を分析試薬保持部に固定できない強さであればよい。また、磁界発生ユニットが電磁石である場合は電流をゼロにすれば磁界もゼロにできる。解放された担持粒子は粒子同士で凝集し始める。
【0054】
次いで(d)の工程により前述の分析ユニットを用い液体試料を分析する。例えば分析ユニット9により凝集塊の大きさ等を観測し解析装置91により凝集形成率を計算して、この値から試料中の分析対象物の濃度を算出する。そして分析結果を出力装置92から出力する。このようにして液体試料を高い精度で分析できる。
【0055】
次に、図4に示す液体試料分析チップを用いた分析方法について説明する。図4の液体試料分析チップを用いた場合、(a)〜(c)工程は図2に示す液体試料分析チップのときと同様に行われる。ただし、(d)工程において、電位印加装置82により電極接続端子81を通して電極対8に交流電位を印加する。このことにより担持粒子6がパールチェーンを形成するように凝集するので(特許文献2参照)担持粒子の凝集を促進することができる。
【0056】
また、図6液体試料分析チップを用いる場合は、分析試薬保持部31と分析部32が隔離して設けてあるため、(a)〜(c)工程は分析試薬保持部31で行う。その後、液体試料を分析部32へ移送して(d)工程を行う。具体的には以下に示す方法で分析を行うことが好ましい。
【0057】
1)第一の方法
流路33に開放口を設け、分析試薬保持部31と分析部32の間の流路の内壁を不連続とする。当該開放口を開放したまま磁界を作用させて担持粒子をチップの内壁面に固定する(a工程)。次にチップに設けられた液体試料注入口41に液体試料を点着し、チップの空間3に液体試料を充填する(b工程)。液体試料注入口41へ液体試料を点着する量は分析試薬保持部31、分析部32および流路33の合計の容量(「空間容量」ともいう。)以上とする。液体試料は毛細管現象により分析試薬保持部31まで侵入するが、それから先は流路に不連続部が存在するので侵入できない。この現象は一般に「キャピラリーバルブ現象」といわれる。このとき液体試料は液体試料注入口41から盛り上がってあふれている。この状態で、磁界の担持粒子への作用を弱めて、液体試料と担持粒子を十分に接触させる(c工程)。その後、前記開放口を閉じ、流路の不連続構造を解消して、液体試料を毛細管現象により分析試薬保持部31から流路33を介して分析部32へ移送する。そして分析を行う(d工程)。
【0058】
前記開放口には、開放口と嵌合する蓋を設けてもよい。この際、当該蓋の一部が前記壁面と蝶番(ヒンジ)を形成するようにすることが好ましい。当該蓋により開放口を閉じることができる。
【0059】
2)第二の方法
磁界を作用させて担持粒子をチップの内壁面に固定する(a工程)。液体試料注入口41に、分析試薬保持部31の容量と等しい容量の液体試料を点着する(b工程)。すると液体試料は分析試薬保持部31へ充填され、それより先には侵入できない。この状態で、磁界の担持粒子への作用を弱めて、液体試料と担持粒子を十分に接触させる(c工程)。
その後、さらに分析部32の容量と同量以上の液体試料を液体試料注入口41に点着し、液体試料を分析試薬保持部31から流路33を介して分析部32へ移送する。そして分析を行う(d工程)。
【0060】
3)第三の方法
磁界を作用させて担持粒子をチップの内壁面に固定する(a工程)。空気穴42を開口した状態で、前記空間容量よりも多い量の液体試料を液体試料注入口41に点着し、チップの空間3に液体試料を導入する(b工程)。分析試薬保持部31内に液が満たされた時点で空気穴42を閉鎖し、液体試料が流路33に侵入しないようにする。このとき液体試料は液体試料注入口41から盛り上がってあふれている。この状態で磁界の担持粒子への作用を弱めて、液体試料と担持粒子を十分に接触させる(c工程)。その後、前記空気穴42を開放し、液体試料を毛細管現象により分析試薬保持部31から流路33を介して分析部32へ移送する。そして分析を行う(d工程)。
本方法においては第一の方法で説明したとおり、空気穴42に嵌合する蓋を設けて空気穴42を開閉してもよい。
【0061】
4)第四の方法
磁界を作用させて担持粒子をチップの内壁面に固定する(a工程)。分析試薬保持部31と等しい容量の液体試料を液体試料注入口41に点着し、チップの空間3に液体試料を充填する(b工程)。すると分析試薬保持部31内に液が充填されるので、この状態で磁界の担持粒子への作用を弱めて、液体試料と担持粒子を十分に接触させる(c工程)。その後、遠心力により液体試料を分析部32に移送する。そして分析を行う(d工程)。
【0062】
5)第五の方法
磁界を作用させて担持粒子をチップの内壁面に固定する(a工程)。液体試料注入口41にポンプを接続し、当該ポンプにより液体試料を分析試薬保持部31に充填する(b工程)。この状態で磁界の担持粒子への作用を弱めて、液体試料と担持粒子を十分に接触させる(c工程)。その後、ポンプにより液体試料を分析部32に移送する。そして分析を行う(d工程)。
【実施例】
【0063】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明する。
(実施例1:図2に示す液体試料分析装置を用いた分析)
厚み0.1mm;長さ20mm;幅10mmのポリエチレンテレフタレート製の基板23を準備した。厚み0.05mm;長さ20mm;幅10mmの両面粘着テープを準備し、スペーサー22とした。表面に親水性処理が施された厚み0.1mm;長さ20mm;幅10mmのポリエチレンテレフタレート製の上カバー21を準備した。カバー21には液体試料注入口41と空気穴42を形成した。これらを貼り合わせ図2に示すような液体試料分析チップ1を得た。当該チップは液体試料を充填するための空間3を有し、分析試薬保持部31と分析部32は、前記空間3の全部とした。
【0064】
直径約2.8ミクロンの市販の抗マウスIgG抗体修飾磁気粒子(Dynal、Dynabeads M−280)に、マウス由来抗ヒトCRP(環状AMP受容タンパク質)モノクローナル抗体を担持した。操作は磁気粒子販売メーカーのプロトコルに従って行った。この磁気粒子を5%トレハロース、0.1%BSAを含む0.1Mグリシン緩衝液に分散させた。当該液を液体試料分析チップ1の試薬注入口2へ点着し、液が空間3に満たされることを確認した。次に、空間3の面積より大きい磁石を準備し、当該磁石の上に液体試料分析チップ1を設置した。この状態で液体試料分析チップ1および磁石を乾燥機に入れ、空間3に充填された液の液体成分が目視で確認できなくなるまで乾燥した。これにより抗マウスIgG抗体修飾磁気粒子(担持粒子)が乾燥状態で均一に分散した分析試薬保持部31を有する液体試料分析チップ1を調製した。
【0065】
この液体試料分析チップ1を磁石の上に設置した状態で、液体試料として純水を液体試料注入口41に点着し、液体試料が空間3に充填されたことを確認した。その後チップ1を磁石から遠ざけた。これにより担持粒子が液体試料中に分散された。空間3における液体試料中の担持粒子の分布を顕微鏡にて観察した。その結果、担持粒子が液体試料中に均一に分布していることが確認された。
【0066】
(実施例2)
液体試料として純水の代わりにCRPを含む溶液を用いた以外は実施例1と同様にして担持粒子の挙動を観察した。液体試料を空間3に充填した後、チップ1を磁石から遠ざけて担持粒子を液体試料中に分散し、その分散状態を顕微鏡で観察した。その結果、担持粒子が液体試料中で凝集していることを確認した。
【0067】
(比較例1)
液体試料分析チップ1を磁石の上に設置しない以外は実施例1と同様にして担持粒子の挙動を観察した。純水が空間3に流入する際に担持粒子6は配置されていた空間3の内壁から流されることが確認された。
【0068】
(実施例3:図4に示す液体試料分析装置を用いた分析)
厚み0.1mm;長さ20mm;幅10mmのポリエチレンテレフタレート基板24に、金スパッタリングを施し二本の平行な導線を設けた。導線は基板24の長さ方向の一方の端を始点とし、もう一方の端を終点とするように設けた。導線は基板24の長辺に平行に設けた。導線の幅は1mmとした。二本の導線の間隔は0.5mmとした。
厚み0.05mm;長さ20mm;幅10mmの両面粘着テープを準備し、スペーサー22とした。表面に親水性処理が施された、厚み0.1mm;長さ20mm;幅10mmのポリエチレンテレフタレート製の上カバー21を準備した。カバー21には液体試料注入口41と空気穴42を形成した。これらを貼り合わせることにより、図2に示すような液体試料分析チップ1を得た。
【0069】
実施例1と同様にしてマウスIgG抗体修飾磁気粒子(担持粒子)が乾燥状態で均一に分散した分析試薬保持部31を有する液体試料分析チップ1を調製した。
液体試料としてCRPを含む溶液を用い、実施例1と同様にして担持粒子に磁界を適用しながら液体試料をチップ内の空間3に充填した。続いて、実施例1と同様にして前記磁界の適用を解除し、当該溶液中に担持粒子を分散させた。続いて液体試料分析チップ1の電極対8に電極接続端子81を接続し、電位印加装置82を用いて20Vの交流電圧を印加した。その結果、担持粒子の凝集を促進させることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により抗体等を担持した分析試薬を試料液中へ均一に溶解・分散させて、試料液中において濃度勾配を発生させない状態で液体試料を分析することができる。よって本発明は、分析対象物質に特異的に反応する抗体を用いた免疫学的分析法等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の液体試料分析チップの第一の態様を示す分解斜視図
【図2】本発明の液体試料分析装置の第一の態様を示す斜視図
【図3】本発明の液体試料分析チップの第二の態様を示す分解斜視図
【図4】本発明の液体試料分析装置の第二の態様を示す斜視図
【図5】本発明の液体試料分析チップの第三の態様を示す分解斜視図
【図6】本発明の液体試料分析装置の第三の態様を示す斜視図
【符号の説明】
【0072】
1 液体試料分析チップ
21 カバー
22 スペーサー
23 基板
24 電極対を有する基板
3 空間
31 分析試薬保持部
32 分析部
33 流路
41 液体試料注入口
42 空気穴
5 磁界発生ユニット
51 ジャッキアップシステム
52 制御装置
6 担持粒子
7 液体試料分析装置
8 電極対
81 電極接続端子
82 電位印加装置
9 分析ユニット
91 解析装置
92 分析結果出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液体試料を充填するための空間;ならびに前記空間の内壁面に設けられた分析試薬保持部、および分析部を含む液体試料分析チップ、
(B)前記液体試料分析チップの外部に設けられた磁界発生ユニット、および
(C)前記液体試料分析チップの外部に設けられた分析ユニットを含む液体試料分析装置であって、
前記分析試薬保持部が、液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が担持された磁気粒子を有し、
前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部に液体試料が充填される際に、前記粒子を分析試薬保持部に固定できるように配置される液体試料分析装置。
【請求項2】
前記磁界発生ユニットが、前記分析試薬保持部の全部に磁界を作用させるように配置されている請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項3】
前記磁界発生ユニットが、前記粒子に作用させる磁界の強さを調整できる、請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項4】
前記磁界発生ユニットが磁石を含む請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項5】
前記粒子が、乾燥した状態で分析試薬保持部に配置されている請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項6】
前記液体試料分析チップの分析試薬保持部と分析部が、前記空間における同一の部位に設けられている請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項7】
前記液体試料分析チップの分析試薬保持部と分析部が、前記の空間における異なる部位に設けられており、かつ当該分析試薬保持部と当該分析部が流路により接続されている請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項8】
前記分析部が電極対を有する請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項9】
前記分析ユニットが光学的分析器を含む請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項10】
前記分析ユニットが磁気計測器を含む請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項11】
前記粒子に担持されている液体試料中の特定成分に特異的に結合する物質が、抗体である請求項1に記載の液体試料分析装置。
【請求項12】
請求項1に記載の液体試料分析チップを用いた分析方法であって、
(a)前記磁界発生ユニットから発生する磁界を作用させて前記粒子を前記空間の内壁面に固定する工程、
(b)液体試料を前記液体試料注入口から前記液体試料分析チップ内の空間に充填する工程、
(c)前記磁界発生ユニットから発生する磁界の前記粒子への作用を弱めて、前記空間の内壁面に固定されている前記粒子を液体試料中に解放する工程、および
(d)分析ユニットにより液体試料を分析する工程、を含む分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−275523(P2008−275523A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121323(P2007−121323)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】