説明

液処理装置、液処理方法および記憶媒体

【課題】無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する場合においても、凸形状部が倒壊することを防止すること。
【解決手段】液処理装置は、本体部Wと、本体部Wに設けられた複数の凸形状部Wとを有し、無機膜と金属膜とが積層された被処理体Wを処理する。液処理装置は、被処理体Wの本体部Wを支持する支持部50と、支持部50によって支持された被処理体Wに、疎水化液を供給する疎水化液供給機構30と、疎水化液供給機構30によって疎水化液が供給された後の被処理体Wに、リンス液を供給するリンス液供給部22と、を備えている。疎水化液供給機構30は、無機膜を疎水化するための第一疎水化液を被処理体Wに供給する第一疎水化液供給部32と、異質膜を疎水化するための第二疎水化液を被処理体Wに供給する第二疎水化液供給部37とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体部と、本体部に設けられた複数の凸形状部とを有する被処理体を処理する液処理装置、液処理方法および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板本体部(本体部)の表面側に微細な複数の凸条列(凸形状部)が微細パターンとして形成された半導体基板(被処理体)に、純水などのリンス液を施す工程と、当該半導体基板に対してリンス液を施した後で乾燥処理を施す工程とを有する液処理方法が知られている。しかしながら、このような液処理方法を用いた場合には、半導体基板に供給されたリンス液を乾燥する際に、基板本体部上に形成された凸条列間でリンス液の表面張力が作用し、隣接する凸条列同士が引っ張られて倒壊してしまうことがある。
【0003】
この点、このような凸条列の倒壊を防止するために、半導体基板に対してリンス液を施す前に、微細パターンとしての凸条列に対して疎水化液を供給する疎水性化処理を施すことが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−273083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような疎水化液を供給する場合であっても、半導体からなる凸状列(凸形状部)間に働く表面張力を抑えることができるだけであり、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する場合には、金属膜間および無機膜と金属膜との間の間に働く表面張力を抑えることができない。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する場合においても、凸形状部が倒壊することを防止することができる液処理装置、液処理方法および記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による液処理装置は、
本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と当該無機膜と性質の異なる異質膜とが積層された被処理体を処理する液処理装置であって、
前記被処理体の前記本体部を支持する支持部と、
前記支持部によって支持された前記被処理体に、疎水化液を供給する疎水化液供給機構と、
前記疎水化液供給機構によって疎水化液が供給された後の前記被処理体に、リンス液を供給するリンス液供給部と、を備え、
前記疎水化液供給機構が、前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給する第一疎水化液供給部と、前記異質膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給する第二疎水化液供給部とを有している。
【0008】
本発明による液処理方法は、
本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と当該無機膜と性質の異なる異質膜とが積層された被処理体を処理する液処理方法であって、
支持部によって、前記被処理体の前記本体部を支持することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記異質膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給することと、
第一疎水化液と第二疎水化液が供給された後の前記被処理体にリンス液を供給することと、
を備えている。
【0009】
本発明による記憶媒体は、
液処理装置に液処理方法を実行させるためのコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記液処理方法が、本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と当該無機膜と性質の異なる異質膜とが積層された被処理体を処理する方法であって、
支持部によって、前記被処理体の前記本体部を支持することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記異質膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給することと、
第一疎水化液と第二疎水化液が供給された後の前記被処理体にリンス液を供給することと、
を有する方法からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第一疎水化液によって無機膜が疎水化され、第二疎水化液によって金属膜が疎水化されるので、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する場合においても、凸形状部が倒壊することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態による液処理装置の構成を示す側方断面図。
【図2】本発明の実施の形態による液処理装置の構成を示す上方平面図。
【図3】本発明の実施の形態における液処理方法による作用効果を説明するための側方断面図。
【図4】本発明の実施の形態による液処理方法の順番の一部を示すフロー図。
【図5】本発明の実施の形態の変形例による液処理方法の順番の一部を示すフロー図。
【図6】表1で示した実験結果を説明するための側方断面図。
【図7】本発明の実施の形態で用いられる被処理基板の別の態様を示した側方断面図。
【図8】本発明の実施の形態で用いられる被処理基板のさらに別の態様を示した側方断面図。
【図9】従来の液処理方法を用いて被処理基板を処理した態様を示す側方断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態
以下、本発明に係る液処理装置および液処理方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、図1乃至図8は本発明の実施の形態を示す図である。
【0013】
本実施の形態の液処理装置は、無機膜からなる基板本体部(本体部)Wと、当該基板本体部Wに設けられた複数の凸形状部Wとを有する被処理基板(被処理体)Wを処理するために用いられる(図3参照)。このうち、凸形状部Wは、無機膜と性質の異なる異質膜(本実施の形態では金属膜)からなっており、無機膜である基板本体部Wと金属膜である凸形状部Wとが積層された構成からなっている。なお、この凸形状部Wは、所定のパターンで基板本体部Wに形成されている。
【0014】
ところで、基板本体部Wを構成する無機膜の材料としては、例えばSi,SiO、SiNなどを挙げることができ、凸形状部Wを構成する金属膜の材料としては、例えばTiN(チタンナイトライド)、W(タングステン)、Hf(ハフニウム)などを挙げることができるが、これらに限られることはない。また、このような被処理基板Wとしては、半導体ウエハなどの半導体基板を例として挙げることができる。
【0015】
図1に示すように、液処理装置は、被処理基板Wの基板本体部Wを保持するとともに支持する支持部50を有するとともに中空構造となった支持プレート51と、支持プレート51の下面に連結されて上下方向に延在するとともに中空構造となった回転軸52と、支持プレート51の中空内に配置されるとともに被処理基板Wの裏面(下面)に当接可能なリフトピン55aを有するリフトピンプレート55と、リフトピンプレート55の下面に連結されて回転軸52の中空内を上下方向に延在するリフト軸56と、リフト軸56を上下方向に移動させるリフト駆動部45と、を備えている。なお、支持プレート51の周縁外方には、支持部50によって支持された被処理基板Wの周縁とその斜め上方を覆うためのカップ59が設けられている。また、図1ではリフトピン55aが1つしか図示されていないが、本実施の形態において実際には、リフトピンプレート55に3つのリフトピン55aが設けられている。
【0016】
また、図1に示すように、液処理装置は、回転軸52の周縁外方に配置されたプーリ43と、このプーリ43に駆動ベルト42を介して駆動力を付与するモータ41とを有する回転駆動機構40をさらに備えている。そして、この回転駆動機構40は、モータ41が回転軸52を回転させることで支持部50を回転軸52を中心に回転させ、この結果、支持部50によって保持されて支持された被処理基板Wを回転させるように構成されている。なお、回転軸52の周縁外方にはベアリング44が配置されている。
【0017】
また、図2に示すように、液処理装置は、支持部50によって支持された被処理基板Wに薬液を供給する薬液供給機構10と、被処理基板Wに疎水化液を供給する疎水化液供給機構30と、被処理基板Wにリンス液を供給するリンス液供給部22と、被処理基板Wに置換液を供給する置換液供給部27も備えている。
【0018】
このうち、薬液供給機構10は、薬液を供給する薬液供給部12と、薬液供給部12から供給された薬液を案内する薬液供給管13と、当該薬液供給管13の一部が通過する液供給アーム5と、当該液供給アーム5の端部に設けられた液供給ノズル14と、を有している。なお、本実施の形態で用いられる薬液としては、例えば、硫酸過水、アンモニア過水、希フッ酸などを挙げることができるが、これに限られることはない。
【0019】
また、図2に示すように、リンス液供給部22には、当該リンス液供給部22から供給されたリンス液を案内するリンス液供給管23が連結され、当該リンス液供給管23の端部には液供給ノズル14が連結されている。また、置換液供給部27には、当該置換液供給部27から供給された置換液を案内する置換液供給管28が連結され、当該置換液供給管28の端部には置換液供給ノズル24が連結されている。なお、リンス液供給管23の一部と置換液供給管28の一部は、液供給アーム5内を通過している。ところで、本実施の形態で用いられるリンス液としては、例えば純水(DIW)を用いることができ、置換液としては、例えばIPA(イソプロピルアルコール)などの両親媒性液を用いることができるが、これに限られることはない。
【0020】
また、図2に示すように、疎水化液供給機構30は、無機膜である基板本体部Wを疎水化するための第一疎水化液を被処理基板Wに供給する第一疎水化液供給機構31を有している。そして、この第一疎水化液供給機構31は、第一疎水化液を供給する第一疎水化液供給部32と、第一疎水化液供給部32から供給された第一疎水化液を案内する第一疎水化液供給管33と、当該第一疎水化液供給管33の一部が通過する液供給アーム5と、第一疎水化液供給管33に連結されるとともに液供給アーム5の端部に設けられた第一疎水化液供給ノズル34と、を有している。なお、本実施の形態で用いられる第一疎水化液としては、例えば、ジメチルアミノトリメチルシラン(TMSDMA)、ジメチル(ジメチルアミノ)シラン(DMSDMA)、1,1,3,3−テトラメチルジシラン(TMDS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)などのシリル化剤や、フッ素ポリマー薬液などを用いることができるが、これに限られることはない。
【0021】
また、図2に示すように、疎水化液供給機構30は、金属膜(異質膜)である凸形状部Wを疎水化するための第二疎水化液を被処理基板Wに供給する第二疎水化液供給機構36も有している。そして、この第二疎水化液供給機構36は、第二疎水化液を供給する第二疎水化液供給部37と、第二疎水化液供給部37から供給された第二疎水化液を案内する第二疎水化液供給管38と、当該第二疎水化液供給管38の一部が通過する液供給アーム5と、第二疎水化液供給管38に連結されるとともに液供給アーム5の端部に設けられた第二疎水化液供給ノズル39と、を有している。なお、本実施の形態で用いられる第二疎水化液としては、例えば、界面活性剤などを用いることができるが、これに限られることはない。
【0022】
また、図2に示すように、液処理装置は、液供給アーム5を揺動軸5aを中心として水平方向(回転軸52に直交する方向)に揺動させる液供給アーム移動部65を有している。また、図1に示すように、液処理装置は、当該液処理装置自身を制御する制御部62も備えている。
【0023】
ところで、本実施の形態においては、後述する液処理方法を液処理装置に実行させるためのコンピュータプログラムが記憶媒体61に格納されている(図1参照)。そして、液処理装置は、当該記憶媒体61を受け付けるコンピュータ60も備えている。そして、制御部62は、コンピュータ60からの信号を受けて、液処理装置自身(より具体的には、薬液供給機構10、リンス液供給部22、置換液供給部27、疎水化液供給機構30、回転駆動機構40およびリフト駆動部45)を制御するように構成されている。なお、本願において記憶媒体61とは、例えば、CD、DVD、MD、ハードディスク、RAMなどを意味している。
【0024】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
【0025】
まず、リフト駆動部45によって、リフトピンプレート55が上方位置(搬送ロボット(図示せず)が被処理基板Wを受け渡す位置)に位置づけられる(上方位置づけ工程)。
このとき、液供給アーム5は、支持プレート51の上方から外れた位置に位置づけられている。
【0026】
次に、リフトピンプレート55の3つのリフトピン55aによって、搬送ロボットから被処理基板Wが受け取られ、当該リフトピン55aによって被処理基板Wの裏面(下面)が支持される(受取工程)。
【0027】
次に、リフト駆動部45によって、リフトピンプレート55が下方位置(被処理基板Wが薬液などによって処理される位置)に位置づけられる(下方位置づけ工程)(図1参照)。
【0028】
このようにリフトピンプレート55が下方位置に位置づけられる間に、支持プレート51の支持部50によって、被処理基板Wの基板本体部Wが保持されるとともに支持される(支持工程)(図1参照)。このとき、被処理基板Wは、凸形状部Wが上方に位置し、基板本体部Wが下方に位置するように位置づけられている(図3(a)(b)参照)。またこのとき、液供給アーム移動部65によって、液供給アーム5が揺動軸5aを中心として水平方向に移動されて、被処理基板Wの上方に液供給アーム5が移動させられることとなる。
【0029】
次に、モータ41によって回転軸52が回転駆動されることによって、支持プレート51の支持部50で保持されて支持された被処理基板Wが回転される(回転工程)(図2の矢印A参照)。そして、このように被処理基板Wが回転している間に、以下の工程が行われる。
【0030】
まず、薬液供給機構10によって、被処理基板Wに薬液が供給される(薬液供給工程91)(図2および図4参照)。
【0031】
次に、リンス液供給部22から、薬液供給機構10によって薬液が供給された後の被処理基板Wの表面に被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程92)(図2および図4参照)。このようにリンス液を被処理基板Wに供給することで、被処理基板Wにおける薬液の反応を停止させることができる。
【0032】
次に、置換液供給部27から、リンス液供給部22によってリンス液が供給された後の被処理基板Wの表面に被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態で、リンス液を第一疎水化液に置換するための置換液が供給される(置換液供給工程93a)(図2および図4参照)。
【0033】
次に、疎水化液供給機構30の第一疎水化液供給機構31から、置換液供給部27によって置換液が供給された後の被処理基板Wの表面に被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態で第一疎水化液が供給される(第一疎水化液供給工程95)(図2および図4参照)。このとき、無機膜である基板本体部Wが疎水化されることとなる。なお、本実施の形態では、被処理基板Wに第一疎水化液を供給する前に、第一疎水化液が溶けやすい置換液を供給しているので、より効率よく基板本体部Wを疎水化することができる。
【0034】
次に、置換液供給部27から、被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態で第一疎水化液をリンス液に置換するための置換液が供給される(置換液供給工程93b)(図2および図4参照)。
【0035】
次に、リンス液供給部22から、被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程96a)(図2および図4参照)。このように置換液を供給した後でリンス液を供給することによって、基板本体部Wの表面に付着することなく残った第一疎水化液を、置換液に溶解させつつリンス液によって洗い流すことができる。このため、残った第一疎水化液を確実に除去することができる。
【0036】
次に、疎水化液供給機構30の第二疎水化液供給機構36から、リンス液供給部22によってリンス液が供給された後の被処理基板Wの表面に被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態で第二疎水化液が供給される(第二疎水化液供給工程97)(図2および図4参照)。このとき、金属膜(異質膜)である凸形状部Wが疎水化されることとなる。
【0037】
次に、リンス液供給部22から、被処理基板Wの凸形状部Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程96b)(図2および図4参照)。このように、第二疎水化液を供給した後でリンス液を供給することによって、凸形状部Wの表面に付着することなく残った第二疎水化液を洗い流すことができる。
【0038】
次に、リンス液供給部22からのリンス液の供給が停止され、その後、モータ41の回転速度が上げられて被処理基板Wが乾燥される(乾燥工程99)。この結果、被処理基板Wがリンス液の液面から露出されることとなるが、凸形状部Wと基板本体部Wの各々がリンス液に対して疎水化されているので、後述するように、凸形状部W間や凸形状部Wと基板本体部Wとの間に働く表面張力を小さくすることができ、ひいては、凸形状部Wが倒壊することを防止することができる。なお、上述のように被処理基板Wが回転されて乾燥されている間に、液供給アーム移動部65によって、液供給アーム5が揺動軸5aを中心として水平方向に移動されて、被処理基板Wの上方から外れた位置に液供給アーム5が移動させられる。
【0039】
次に、モータ41の回転が停止されて、被処理基板Wの回転が停止される(図1参照)。次に、リフト駆動部45によって、リフトピンプレート55が上方位置に位置づけられ、リフトピン55aによって被処理基板Wが持ち上げられる(上方位置づけ工程)。その後、搬送ロボットによって被処理基板Wが受け取られて搬出される(搬出工程)。
【0040】
以上のように、本実施の形態では、凸形状部Wが液面から露出されることなく、薬液供給工程91、リンス液供給工程92,96a,96b、置換液供給工程93a,93b、第一疎水化液供給工程95および第二疎水化液供給工程97の各々が行われるので、乾燥工程99が行われる前にリンス液の供給が停止されるまで、凸形状部Wの間で表面張力が働くことを防止することができる。
【0041】
また、無機膜である基板本体部Wが第一疎水化液によって疎水化され、かつ、金属膜(異質膜)である凸形状部Wが第二疎水化液によって疎水化されているので、リンス液の供給が停止された後であっても、凸形状部Wを倒壊させようとする力Fを非常に小さくすることができる。
【0042】
より具体的に説明すると、凸形状部W間にリンス液Rが存在する場合に凸形状部Wを倒壊させようとする力Fは、以下の式によって導かれる(図3(a)参照)。
【数1】

ここで、γはリンス液Rと凸形状部Wとの間の界面張力を意味し、θ(θ)はリンス液Rの凸形状部Wの側面に対する傾斜角度を意味し、Hは凸形状部Wの間のリンス液Rの液面高さを意味し、Dは凸形状部Wの奥行きの長さを意味し(図示せず)、Sは凸形状部W間の間隔を意味している(図3(a)参照)。なお、凸形状部W間からリンス液Rがなくなる直前においては(図3(b)参照)、凸形状部Wと基板本体部Wとの間に力Fが働くこととなる。この場合においては、凸形状部Wの側面に対する傾斜角度θと基板本体部Wの表面に対する傾斜角度θに依存する力Fが、凸形状部Wと基板本体部Wとの間に働くこととなる。
【0043】
図9(a)−(c)に示す被処理基板Wのように凸形状部Wの側面が疎水化されていない場合には、リンス液Rが凸形状部Wに引っ張られることで、図9(a)に示すように傾斜角度θが小さくなってしまう(cosθが大きくなってしまう)。この結果、凸形状部Wを倒壊させようとする力Fが大きくなってしまい、凸形状部Wが倒壊してしまう(図9(c)参照)。
【0044】
これに対して、本実施の形態では、金属膜(異質膜)である凸形状部Wが第二疎水化液によって疎水化されているので、被処理基板Wが乾燥されていく過程でリンス液Rの凸形状部Wの側面に対する傾斜角度θを90°近傍に保つことができ(図3(a)参照)、力Fを小さくすることができる。このため、凸形状部Wが倒壊されることを防止することができる。
【0045】
また、本実施の形態では、無機膜である基板本体部Wが第一疎水化液によって疎水化されているので、被処理基板Wが完全に乾燥される直前において、凸形状部Wと基板本体部Wとの間に働く表面張力を小さくすることができる。つまり、図9(a)−(c)に示す被処理基板Wのように基板本体部Wが疎水化されていない場合には、リンス液Rの凸形状部Wの側面に対する傾斜角度θだけでなく、リンス液Rの基板本体部Wの表面に対する傾斜角度θも小さくなってしまい(図9(b)参照)、凸形状部Wと基板本体部Wとの間に働く表面張力が大きくなってしまう。このため、結果的に凸形状部Wを倒壊させようとする力Fが大きくなってしまい、凸形状部Wが倒壊してしまう(図9(c)参照)。これに対して、本実施の形態では、凸形状部Wだけでなく基板本体部Wも疎水化されているので、リンス液Rの凸形状部Wの側面に対する傾斜角度θを90°近傍に保つことができるだけでなく、リンス液Rの基板本体部Wの表面に対する傾斜角度θも90°近傍に保つことができる(図3(b)参照)。このため、凸形状部Wと基板本体部Wとの間においてリンス液Rを介して働く力Fを小さくすることができ、凸形状部Wが倒壊されることを防止することができる。
【0046】
上記では、第一疎水化液供給工程95の後で、第二疎水化液供給工程97が行われる態様を用いて説明したが、これに限られることはなく、第二疎水化液供給工程97の後で、第一疎水化液供給工程95が行われてもよい。より具体的には、薬液供給工程91と乾燥工程99の間において、図5に示すように、リンス液供給工程96a、第二疎水化液供給工程97、リンス液供給工程96b、置換液供給工程93a、第一疎水化液供給工程95、置換液供給工程93bおよびリンス液供給工程98を順次行ってもよい。
【0047】
この場合にも、無機膜である基板本体部Wを第一疎水化液によって疎水化し、かつ、金属膜(異質膜)である凸形状部Wを第二疎水化液によって疎水化することができるので、リンス液の供給が停止された後であっても、凸形状部Wを倒壊させようとする力Fを非常に小さくすることができる。
【0048】
なお、表1は、被検査体Tに対して、何も施さない場合(未処理の場合)と、第二疎水化液供給工程97のみを行った場合と、第一疎水化液供給工程95のみを行った場合と、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行った場合(図4参照)と、第二疎水化液供給工程97の後で第一疎水化液供給工程95を行った場合(図5参照)において、当該被検査体T上にリンス液Rである純水(DIW)を載置した際において、当該被検査体Tの表面に対する傾斜角度θを測定した結果を示している(図6参照)。
ここで、被検査体Tとしては、金属膜として用いられうるTiN(チタンナイトライド)およびW(タングステン)と、無機膜として用いられうるSiOを用いている。
【表1】

【0049】
上述した表1の結果からも理解されるように、第二疎水化液供給工程97のみを行った場合には無機膜(SiO)に対する傾斜角が小さくなってしまう。他方、第一疎水化液供給工程95のみを行った場合には金属膜(TiNおよびW)に対する傾斜角が小さくなってしまう。
【0050】
これに対して、第二疎水化液供給工程97の後で第一疎水化液供給工程95を行った場合には、無機膜(SiO)に対する傾斜角度θが90°に非常に近くなっているだけでなく、金属膜(TiNおよびW)に対しても傾斜角度θがある程度大きくなっており、優れた効果を発揮している。さらに、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行った場合には、無機膜(SiO)に対する傾斜角度θが90°に非常に近くなっているだけでなく、金属膜(TiNおよびW)に対しても傾斜角度θが90°に非常に近くなっており、より優れた効果を発揮している。
【0051】
なお、表1の結果から分かるように、第二疎水化液供給工程97の後で第一疎水化液供給工程95を行った場合よりも、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行った場合の方が優れている。この理由としては、第二疎水化の方が第一疎水化液よりも反応性が弱いことが考えられる。すなわち、第二疎水化液を先に供給すると、第二疎水化液の金属膜に対する反応性が弱いので、金属膜に付着した第二疎水化液が次に供給される第一疎水化液によって洗い流されやすいのに対して、第一疎水化液を先に供給した場合には、第一疎水化液の無機膜に対する反応性が強いので、無機膜に付着した第一疎水化液が次に供給される第二疎水化液によって洗い流されにくいことが理由として考えられる。
【0052】
ところで、上記では、被処理基板Wが、基板本体部Wが無機膜からなり、凸形状部Wが金属膜からなっており、無機膜である基板本体部Wと金属膜である凸形状部Wとが積層された構成からなっている態様を用いて説明したが(図3(a)(b)参照)、これに限られることはない。例えば、凸形状部Wpi,Wpmが無機膜Wpiと金属膜Wpmとが積層された構成からなってもよい(図7参照)。なおこの場合には、第一疎水化液によって無機膜同士(基板本体部Wbiと凸形状部Wpi同士、および、隣接する凸形状部Wpi同士)の間に働く表面張力を小さくすることができ、第二疎水化液によって金属膜同士(隣接する凸形状部Wpm同士)の間に働く表面張力を小さくすることができ、第一疎水化液と第二疎水化液の両方によって無機膜(基板本体部Wbi)と金属膜(凸形状部Wpm)との間に働く表面張力を小さくすることができる。このため、凸形状部Wpi,Wpmを倒壊させようとする力Fを非常に小さくすることができ、凸形状部Wpi,Wpmが倒壊することを防止することができる。
【0053】
また、上記では、異質膜が金属膜からなる態様を用いて説明した。しかしながら、これに限られることはなく、例えば異質膜が有機膜からなっていたり、異質膜が有機膜と金属膜の両方からなっていたりしてもよい。
【0054】
このように異質膜が有機膜と金属膜の両方からなっている例としては、基板本体部W上に設けられた金属膜Wと、当該金属膜W上に設けられた有機膜からなるレジスト膜Wとを有する被処理基板W’を挙げることができる(図8参照)。以下、基板本体部Wと、基板本体部W上に設けられた異質膜とを有し、当該異質膜が有機膜であるレジスト膜Wと金属膜Wの両方からなっている被処理基板W’を処理する態様について、簡単に説明する。
【0055】
まず、基板本体部Wが準備される。次に、基板本体部W上に金属膜Wが設けられる。次に、金属膜W上に有機膜からなるレジスト膜Wが設けられる。次に、被処理基板W’のレジスト膜Wが、所定のパターンで露光された後で現像される。次に、エッチング液によってレジスト膜Wで保護されていない金属膜Wがエッチング液によって除去された後で、リンス液(例えばDIW)によって被処理基板W’が洗浄されることとなるが、このとき、後述するように、第一疎水化液供給工程95と第二疎水化液供給工程97が施されることとなる。
【0056】
より具体的には、被処理基板W’に薬液であるエッチング液が供給されてレジスト膜Wによって保護されていない金属膜がエッチングされて(薬液供給工程91)(図4参照)、凸形状部W,Wが形成される。次に、被処理基板W’の表面に被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程92)(図4参照)。
【0057】
次に、リンス液が供給された後の被処理基板W’の表面に被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態で置換液が供給される(置換液供給工程93a)(図4参照)。次に、置換液が供給された後の被処理基板W’の表面に被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態で第一疎水化液が供給される(第一疎水化液供給工程95)(図4参照)。このとき、無機膜である基板本体部Wが疎水化されることとなる。次に、被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態で置換液が供給される(置換液供給工程93b)(図4参照)。なお、有機膜からなるレジスト膜Wは両親媒性液の例として挙げたIPAによって溶解される性質を有しているので、異質膜が有機膜からなる態様では、置換液としてIPAを用いることは好ましくない。この点、異質膜が有機膜からなる態様では、置換液としてHMDS(ヘキサメチルジシラザン)などを用いるのがよい。
【0058】
次に、被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程96a)(図4参照)。次に、リンス液が供給された後の被処理基板W’の表面に被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態で第二疎水化液が供給される(第二疎水化液供給工程97)(図4参照)。このとき、異質膜である有機膜と金属膜からなる凸形状部W,Wが疎水化されることとなる。次に、リンス液供給部22から、被処理基板W’の凸形状部W,Wを液面から露出させない状態でリンス液が供給される(リンス液供給工程96b)(図4参照)。
【0059】
次に、被処理基板W’が乾燥されて(乾燥工程99)、その後は、金属膜上のレジスト膜Wが除去されることで、基板本体部W上に所定のパターンからなる金属膜が施された被処理基板W’を得ることができる。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、異質膜が有機膜であるレジスト膜Wと金属膜Wの両方からなっている被処理基板W’を処理する場合であっても、凸形状部W,Wが液面から露出されることなく、薬液供給工程91、リンス液供給工程92,96a,96b、置換液供給工程93a,93b、第一疎水化液供給工程95および第二疎水化液供給工程97の各々が行われるので、乾燥工程99が行われる前に凸形状部W,Wの間で表面張力が働くことを防止することができる。
【0061】
また、無機膜である基板本体部Wが第一疎水化液によって疎水化され、かつ、金属膜(異質膜)または有機膜(異質膜)である凸形状部W,Wが第二疎水化液によって疎水化されているので、被処理基板W’が乾燥される際において、凸形状部W,Wを倒壊させようとする力Fを非常に小さくすることができる。
【0062】
ところで、レジスト膜Wは有機膜からなるので本来ならば疎水性を示すはずである。
しかしながら、上述のようにエッチング液で処理することによって外面(レジスト膜Wの側面)に位置する有機分子が途中で切断されることとなる。このため、当該有機分子は、周縁に位置する−OH(水酸基)などと反応して結合し、親水性を示すこととなる。従って、エッチング液で処理した後のレジスト膜Wをリンス液で洗浄する場合にはレジスト膜Wを含む凸形状部W,Wが倒壊する可能性があるが、本実施の形態のように、第一疎水化液供給工程95と第二疎水化液供給工程97を施すことによって、このようなレジスト膜Wの倒壊を防止することができる。
【0063】
なお、上記では、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行う態様を用いて説明したが、これに限られることはなく、第二疎水化液供給工程97の後で第一疎水化液供給工程95を行う態様を用いてもよい。ただし、異質膜が有機膜からなるレジスト膜Wを有する場合であっても、やはり、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行った場合の方が、より確実に金属膜と有機膜を疎水化することができ、優れた効果を発揮することができる。
【0064】
ところで、界面活性剤などからなり選択性の高い第二疎水化液を先に被処理基板Wに供給すると、当該第二疎水化液が無機膜に付着してしまい、第一疎水化液が無機膜に付着することを妨げてしまうことがある。このような理由からも、やはり、第一疎水化液供給工程95の後で第二疎水化液供給工程97を行った場合の方が、より確実に無機膜を疎水化することができ、優れた効果を発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する液処理装置において、
前記被処理体の前記本体部を支持する支持部と、
前記支持部によって支持された前記被処理体に、疎水化液を供給する疎水化液供給機構と、
前記疎水化液供給機構によって疎水化液が供給された後の前記被処理体に、リンス液を供給するリンス液供給部と、を備え、
前記疎水化液供給機構は、前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給する第一疎水化液供給部と、前記金属膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給する第二疎水化液供給部とを有する液処理装置。
【請求項2】
少なくとも前記疎水化液供給機構を制御する制御部、をさらに備え、
前記制御部は、前記第一疎水化液供給部から第一疎水化液を前記被処理体に供給させた後で、前記第二疎水化液供給部から第二疎水化液を前記被処理体に供給させることを特徴とする請求項1に記載の液処理装置。
【請求項3】
前記第二疎水化液供給部から供給される第二疎水化液は界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の液処理装置。
【請求項4】
前記第一疎水化液供給部から供給される第一疎水化液は、シリル化剤またはフッ素ポリマー薬液を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液処理装置。
【請求項5】
少なくとも前記疎水化液供給機構を制御する制御部、をさらに備え、
前記制御部は、前記第二疎水化液供給部から第二疎水化液を前記被処理体に供給させる前または供給させた後に、前記リンス液供給部からリンス液を前記被処理体に供給させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液処理装置。
【請求項6】
少なくとも前記疎水化液供給機構を制御する制御部と、
置換液を供給する置換液供給部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記第一疎水化液供給部から第一疎水化液を前記被処理体に供給させる前または供給させた後に、前記置換液供給部から置換液を前記被処理体に供給させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液処理装置。
【請求項7】
本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する液処理方法において、
支持部によって、前記被処理体の前記本体部を支持することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記金属膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給することと、
第一疎水化液と第二疎水化液が供給された後の前記被処理体にリンス液を供給することと、
を備えたことを特徴とする液処理方法。
【請求項8】
前記被処理体に第一疎水化液を供給した後で、該被処理体に第二疎水化液を供給することを特徴とする請求項7に記載の液処理方法。
【請求項9】
液処理装置に液処理方法を実行させるためのコンピュータプログラムを格納した記憶媒体において、
前記液処理方法は、本体部と、該本体部に設けられた複数の凸形状部とを有し、無機膜と金属膜とが積層された被処理体を処理する方法であって、
支持部によって、前記被処理体の前記本体部を支持することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記無機膜を疎水化するための第一疎水化液を前記被処理体に供給することと、
前記支持部によって支持された前記被処理体に前記金属膜を疎水化するための第二疎水化液を前記被処理体に供給することと、
第一疎水化液と第二疎水化液が供給された後の前記被処理体にリンス液を供給することと、
を有する方法からなっていることを特徴とする記憶媒体。
【請求項10】
前記液処理方法は、前記被処理体に第一疎水化液を供給した後で、該被処理体に第二疎水化液を供給する方法からなっていることを特徴とする請求項9に記載の記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−77846(P2013−77846A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−13575(P2013−13575)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2009−152444(P2009−152444)の分割
【原出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】