説明

液晶性樹脂、その製造方法、液晶性樹脂組成物および成形品

【課題】 金属腐食、ガラスのくもり、成形品のふくれなどの原因となる酢酸ガス、フェノールガス、炭酸ガスの全てについて、低減した液晶性樹脂またはその組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を含む液晶性樹脂であって、ヘリウムガス雰囲気下で融点+10℃(ただし融点が325℃未満の場合は335℃)で30分間保持した際に上記液晶性樹脂から発生する酢酸ガスが100ppm以下、フェノールガスが20ppm未満かつ炭酸ガスが100ppm未満である液晶性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、ガスの発生量が極めて少なく、成形品とした際に表面にふくれを生じにくく、ガラスやプラスチック製の透明部品と組み合わせて用いる際に、これらの透明部品にくもりを生じず、金属部品と接触させて用いる場合に、これらの金属部品を腐蝕しない電気・電子用途に最適な液晶性樹脂、その製造方法、液晶性樹脂組成物および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶性樹脂は、その優れた耐熱性、流動性、電気特性などを活かして、電気・電子用途の小型精密成形品を中心に需要が拡大している。また、近年、その熱安定性や高熱寸法精度に着目して、発熱部品の支持基材としてOA機器や携帯電話の液晶ディスプレイ支持基材やランプの構造部品などに用いる検討がなされている。
【0003】
これらの用途では、発熱する端子などの金属部品と接触して用いる場合が多いために、これらの金属部品を侵さないことが必要であるが、多くの液晶性樹脂は脱酢酸重縮合や脱フェノール重縮合によって製造されるために、酢酸やフェノールなどの腐蝕性ガスが発生し、これらの用途において使用が制限されることがあった。
【0004】
また、液晶ディスプレイ支持基材等においては、これらのガスによるディスプレイのレンズのくもり等の不具合が起こる。特に揮発性の悪いフェノールガスが、ガラス面が2重になったようなくもりを引き起こす。またこれらのガスの発生が多い場合には、ガスと共に、同様の分解経路でオリゴマーが放出され、ガラス面をくもらせるため、問題であった。
【0005】
また、これらの用途では、他の部品との表面勘合を必要とする場合や金属部品との摺動耐性が要求される場合があるが、液晶性樹脂は成形において、分解温度に近い高温で加工するために、成形品の表面にガスによるふくれを生じて歩留まりを低下させることがあった。
【0006】
このような、ガスの問題について、液晶性樹脂の末端基を改良してガス量を低減する検討がされている。(例えば、特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開平2−16150号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特許3309459号公報(第1〜2頁)
【特許文献3】特開平11−263829号公報(第1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載の方法は液晶性樹脂のカルボン酸末端基量を増加させるものであるが、この方法では炭酸ガス量が増加し、液晶性樹脂の機械的特性も低下することが判明した。また、特許文献2には、液晶性樹脂のカルボン酸末端に対するアセチル化水酸基末端の比率を少なくすることで酢酸ガス発生量を少なくする方法が記載されている。しかしながら、同文献記載の方法によれば200℃程度でのガス発生については確かに改良されるが、330℃を超えるような高温でのガス発生量の改善が要求される場合には、十分ではなかった。
【0008】
また、特許文献3には、液晶性樹脂と水をコンパウンドしてアセチル化水酸基末端を加水分解することで水酸基末端を増加させて、ガス焼けを改善し得ることが記載されているが、この方法では末端の加水分解だけでなく、高分子鎖中のエステル結合の分解も起こるために、末端基量の全体量が増加し、炭酸ガスやフェノールガスの量が十分低減されないものであり、またオリゴマー量も増加するために、ガラスのくもりが改善されなかった。
【0009】
本発明は、これらの金属腐食、ガラスのくもり、成形品のふくれなどの原因となる酢酸ガス、フェノールガス、炭酸ガスの全てについて、低減した液晶性樹脂、その製造方法、液晶性樹脂組成物およびそれらの成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特異的な低ガス性を発揮する液晶性ポリエステルを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を含む液晶性樹脂であって、ヘリウムガス雰囲気下で融点+10℃(ただし融点が325℃未満の場合は335℃)で30分間保持した際に上記液晶性樹脂から発生する酢酸ガスが100ppm以下、フェノールガスが20ppm未満かつ炭酸ガスが100ppm未満である液晶性樹脂、
(2)式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である上記(1)記載の液晶性樹脂、
ΔS(J/g・K)(=ΔHm(J/g)/[Tm (℃)+273] −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指し、ΔHmは該吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2)である。)
(3)少なくとも2種類の芳香族ジオールがハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルを含むものである上記(1)または(2)記載の液晶性樹脂、
(4)液晶性樹脂が、下記(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の構造単位からなるものである上記(1)〜(3)いずれかに記載の液晶性樹脂、
【0012】
【化1】

【0013】
(5)構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であり、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して60〜92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルである上記(4)記載の液晶性樹脂、
(6)構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく72〜92モル%である上記(5)記載の液晶性樹脂、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の液晶性樹脂100重量部に対して、充填材30〜200重量部を配合してなる液晶性樹脂組成物、
(8)少なくとも2種の芳香族ジオールを含む液晶性樹脂原料を用い、液晶性樹脂原料中のフェノール性水酸基と、このフェノール性水酸基の合計に対して1.03〜1.09モル当量の無水酢酸を140℃以上150℃以下の温度で2.1〜2.9時間アセチル化反応させた後、重縮合して液晶性樹脂を製造する方法であって、アセチル化反応を、用いた芳香族ジオールのうちモノアセチル化物からジアセチル化物への反応速度の最も遅い芳香族ジオール(イ)の下式で算出したモノアセチル化物の残存量が仕込んだ芳香族ジオール(イ)の0.8〜5モル%となるまでアセチル化反応を行うことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の液晶性樹脂の製造方法、
モノアセチル化物の残存量(%)={[モノアセチル化物]/([モノアセチル化物]+[ジアセチル化物])}×100
[モノアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のモノアセチル化物のモル量
[ジアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のジアセチル化物のモル量
(9)上記(1)〜(6)のいずれか記載の液晶性樹脂または上記(7)記載の液晶性樹脂組成物からなる成形品、
(10)上記(1)〜(6)のいずれか記載の液晶性樹脂または上記(7)記載の液晶性樹脂組成物からなるフィルム
に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶性樹脂は、ガスの発生量が極めて少なく、それを用いて成形品とした際に表面にふくれを生じにくく、ガラスやプラスチック製の透明部品と組み合わせて用いる際に、これらの透明部品にくもりを生じず、金属部品と接触させて用いる場合に、これらの金属部品を腐蝕しない電気・電子用途に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の液晶性樹脂は、少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を必須構造単位とし、ヘリウムガス雰囲気下で融点+10℃(ただし融点が325℃未満の場合は335℃)で30分間保持した際に樹脂もしくは樹脂組成物から発生する酢酸ガスが100ppm以下、フェノールガスが20ppm未満かつ炭酸ガスが100ppm未満である液晶性樹脂である。発生する酢酸ガス量については80ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。またフェノールガス量については、10ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましく、炭酸ガス量については、80ppm以下であることが好ましく、60ppm以下であることがより好ましい。
【0016】
ここで、融点は示差熱量測定において、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。
【0017】
酢酸ガス、フェノールガスの発生が少ないことで、金属部品に対する腐蝕が少なく、ガラスのくもりなどが発生せず好ましい。また、炭酸ガスの発生が少ないことで、成形品のふくれ、表面荒れなどが発生せず好ましい。
【0018】
酢酸ガス、フェノールガス、炭酸ガスの発生量は、例えば熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析装置(TG/GC−MS)によりヘリウム気流下で求めることができる。
【0019】
本発明の液晶性樹脂は、少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を含むものであるが、芳香族ジオールとしては、例えば4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、および4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどが挙げられ、好ましくは、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレンが挙げられ、さらに好ましくは4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンである。
【0020】
2種類の芳香族ジオールの組み合わせとしては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの組み合わせ、4,4’−ジヒドロキシビフェニルと2,6−ジヒドロキシナフタレンの組み合わせ、ハイドロキノンと2,6−ジヒドロキシナフタレンの組み合わせが好ましく、特に好ましくは4,4´−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの組み合わせである。
【0021】
2種類の芳香族ジオールに、さらにもう1種類以上の芳香族ジオールを用いることも可能である。
【0022】
芳香族ジオール成分は、通常、アセチル化反応により、芳香族ジオール成分のフェノール性水酸基の1つがアセチル化され、モノアセチル化物となり、さらにアセチル化が進行し、ジアセチル化物となるが、複数種のジアセチル化物を用いると、その反応速度に差が出る場合が多い。
【0023】
ここで、本発明におけるアセチル化とは、モノアセチル化、ジアセチル化などを全て含んだ水酸基をアセチル基に変換する反応の概念を示す。
【0024】
本発明において用いる少なくとも2種類のジオール成分は、モノアセチル化反応において概ね反応性が似通っているが、モノアセチル化物からジアセチル化物への反応性には差がある組み合わせであることが好ましい。例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンでは、モノアセチル化反応速度はほぼ等しいが、同一条件で反応を行った場合、ハイドロキノンは4,4’−ジヒドロキシビフェニルに比べ、モノアセチル化物からジアセチル化物への反応速度(モノアセチル化物のジアセチル化反応速度)が小さく、モノアセチル化物の残存量の低減に長い反応時間を要する。
【0025】
本発明は、2種類以上の芳香族ジオールを用いてアセチル化反応を行う場合、このモノアセチル化物の残存量に差が生じることを見出した。そしてジアセチル化反応速度の小さい芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量を、ジアセチル化反応速度の小さい芳香族ジオールの仕込みモル量100モル%に対し0.8〜5モル%となるように制御すると、アセチル化されずに残ったフェノール性水酸基は重縮合反応性に劣るので、生成した液晶性樹脂の末端には芳香族ジオールのフェノール性水酸基が優先的に生成する。本発明においてはこのように液晶性樹脂の末端に芳香族ジオールのフェノール性水酸基末端を生成させることにより、酢酸ガスの発生原因となるアセチル化水酸基末端や、炭酸ガス、フェノールガスの発生原因となるp−ヒドロキシ安息香酸由来のカルボン酸末端を低減可能であると考えられる。
【0026】
すなわち、液晶性樹脂を製造する際、用いる液晶性樹脂原料であるモノマー中のフェノール性水酸基と無水酢酸などのアセチル化剤とを用いてアセチル化反応を行い、重縮合に供する。本発明で規定する液晶性樹脂を得るためには、アセチル化反応は140℃以上150℃以下の温度で還流しながら、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまで反応を行うこと(以下「アセチル化工程」と称することもある)が好ましい。アセチル化反応の装置としては例えば還留管や精留塔を備えた反応容器を用いることができる。アセチル化の反応時間としては大まかには1〜5時間程度であるが、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまでの時間は、用いる液晶性樹脂原料や、反応温度によっても異なる。
【0027】
好ましくは、2.1〜2.9時間であり、反応温度が高い程短時間でよく、無水酢酸のフェノール性水酸基末端に対するモル比が大きい程短時間でよい。
【0028】
本発明においてこのアセチル化工程は、用いる芳香族ジオールのうち、モノアセチル化物のジアセチル化反応速度が最も遅い芳香族ジオール(イ)のモノアセチル化物の残存量が、その芳香族ジオール(イ)の仕込みモル量を100モル%とした際に0.8〜5モル%となるまで行うことが好ましく、より好ましくは1〜3モル%未満であり、1.2〜2.4モル%となるまで行うことがさらに好ましい。
【0029】
モノアセチル化物の残存量は、下式により導くことができる。
モノアセチル化物の残存量(%)={[モノアセチル化物]/([モノアセチル化物]+[ジアセチル化物])}×100
[モノアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のモノアセチル化物のモル量
[ジアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のジアセチル化物のモル量
【0030】
ここで、アセチル化反応の末期では、芳香族ジオールの2つの水酸基のいずれもアセチル化されていない未反応物は、モノアセチル化が、比較的容易に進行し、通常上記計算式に影響する程の量は残存しないため、([モノアセチル化物]+[ジアセチル化物])は、仕込んだ芳香族ジオールの全モル数に相当する濃度とみなすことができる。
【0031】
また、用いる芳香族ジオールのうち、モノアセチル化物のジアセチル化反応速度が最も早い芳香族ジオールモノマーのモノアセチル化物の残存量がそれぞれの芳香族ジオールのモル量を100モル%とした際に0.5モル%未満となっていることが好ましい。
【0032】
モノアセチル化物の残存量が多い芳香族ジオールの、その他の芳香族ジオールに対する組成比は、10〜40モル%が好ましく、より好ましくは20〜30モル%である。
【0033】
モノアセチル化物の残存量は、上述の算出式より求めることができる。具体的には、例えばアセチル化工程を終えた反応混合物の一部をサンプリングし、H−核磁気共鳴スペクトル測定によって、下記ピーク強度から算出できる。ここで、ピーク強度とはピークの面積に相当する。
【0034】
用いる2種類以上のジオールはピーク分離によりそれぞれの芳香族ジオールに由来するピークに帰属できるため、それぞれの芳香族ジオール成分について、ものアセチル化物の残存量を求めることができる。
Ia:芳香族ジオールのモノアセチル化物のアセチル化されていない水酸
基の結合した芳香核炭素のα位の炭素に結合した水素原子に帰属されるピーク強度
Ib:芳香族ジオールのモノアセチル化物およびジアセチル化物のアセチル基の結合した芳香族炭素のα位の炭素に結合した水素原子に帰属されるピーク強度
モノアセチル化物の残存量(%)=[Ia/(Ia+Ib)]×100
【0035】
また、モデル反応として、モノアセチル化物の残存量を求めたい芳香族ジオール1種類だけを反応容器に仕込み、実際に反応に用いようとするモル比の無水酢酸を加えて、実際に採用しようとする反応条件でモデル反応を行い、モノアセチル化物の残存量を解析しても混合物で行った場合と同様の解析結果が得られる。
【0036】
通常、アセチル化は十分な無水酢酸モル比、反応温度、反応時間で行い、モノアセチル化物の残存量が0に近くすることが一般的であるが、このような場合には、通常得られる液晶性樹脂の末端はアセチル化水酸基末端とカルボキシル基末端とがほぼ等量であり、酢酸ガス、炭酸ガス、フェノールガスが発生しやすくなる。
【0037】
逆に、アセチル化が極端に不完全な場合、芳香族ジオールのモノアセチル化物が多く生成しすぎ、重合度が上がらず液晶性樹脂が得られない場合があり、例え得られたとしても、残存する水酸基にほぼ等量のカルボキシル末端基が存在するために、フェノールガスや炭酸ガスの発生量が多い。
【0038】
上記したような制御によって、末端には芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基と芳香族ジオールの水酸基が優先的に生成し、p−ヒドロキシ安息香酸のカルボキシル末端基がほとんどないために、フェノールガス、酢酸ガス、炭酸ガスの発生量が改良された液晶性樹脂が得られるものと考えられる。
【0039】
本発明の液晶性樹脂は、少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を必須構造単位とするが、それ以外の構造単位は本発明の規定するガス量を満たす液晶性樹脂が得られるものであれば、特に限定されるものではない。
【0040】
液晶性樹脂とは、異方性溶融相を形成する樹脂であり,例えば、液晶性ポリエステルや液晶性ポリエステルアミドなどエステル結合を有する液晶性樹脂が挙げられる。
【0041】
液晶性ポリエステルとは、異方性溶融相を形成するポリエステルであり、例えば上記少なくとも2種の芳香族ジオール由来の構造単位、すなわち芳香族ジオキシ単位を含み、かつ芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジカルボニル単位、およびエチレンジオキシ単位などから液晶性ポリエステルを形成するよう選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルが挙げられる。
【0042】
上記芳香族オキシカルボニル単位の具体例としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位が、芳香族ジカルボニル単位の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、および4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸などから生成した構造単位が、それぞれ挙げられる。
【0043】
液晶性ポリエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、2,6−ジヒドロキシナフタレンから生成した構造単位、4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0044】
異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルの好ましい例としては、下記(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の構造単位からなる液晶性ポリエステルが挙げられる。
【0045】
【化2】

【0046】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0047】
以下、この液晶性ポリエステルを例に挙げて説明する。
【0048】
上記構造単位(I) 、(II)、(III) 、(IV)および(V)の共重合量は任意である。しかし、本発明で規定する範囲とし、その特性を発揮させるためには次の共重合量であることが好ましい。
【0049】
すなわち、構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85モル%であることが好ましく、より好ましくは65〜80モル%であり、さらに好ましくは68〜75モル%である。また、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90モル%であることが好ましく、より好ましくは60〜75モル%であり、さらに好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく40〜95モル%であり、より好ましくは60〜92モル%であり、更に好ましくは72〜92モル%である。
【0050】
このような組成範囲においては、その融解エントロピー(ΔS)が後述するような好ましい範囲にある液晶性ポリエステルが得られるので、好ましい。
【0051】
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルである。ここでいう「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとしては等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0052】
このような組成範囲においては、本発明の効果である低ガス性やふくれの改良効果が特に発揮され好ましい。
【0053】
上記構造単位(I)〜(V)からなる液晶性樹脂において、構造単位(III)を与えるハイドロキノンの代わりに2,6−ジヒドロキシナフタレンを用いた液晶性樹脂も好ましく、その場合、構造単位の好ましい割合は上記(III)を2,6−ジヒドロキシナフタレンから生成した構造単位に置き換えた割合に同じである。
【0054】
また、上記構造単位(I)〜(V)からなる液晶性樹脂において、構造単位(V)を与えるイソフタル酸の代わりに2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いた液晶性樹脂も好ましく。構造単位の好ましい割合は上記(V)を2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位に置き換えた割合に同じである。
【0055】
上記好ましく用いられる液晶ポリエステルは、上記構造単位(I)〜(V)を構成する成分、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、3,3´−ジフェニルジカルボン酸、2,2´−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、3,4´−ジヒドロキシビフェニル、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4´−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−アミノフェノールなどを、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0056】
本発明の液晶性樹脂は、式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下であることが好ましく、このような液晶性樹脂は、無配向に近い状態であっても、とりわけ高い機械的強度を発現する。
ΔS(J/g・K)=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273] −[1]
【0057】
ここで、Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指し、ΔHmは該吸熱ピーク面積から算出した融解熱量(ΔHm2)である。
【0058】
ΔSは0.9×10−3J/g・K以下であることが好ましいが、より好ましくは、0.7×10−3J/g・K以下であり、更に好ましくは0.5×10−3J/g・K以下である。
【0059】
ただし、ΔSは0であることはなく、マイナスの値にもならないため、0より大きい実数範囲をとる。
【0060】
ΔHmおよびTmの測定において、ピークが得られない場合には、ΔSを算出することができず、このようなピークの観測されない液晶性樹脂は、上記好ましい範囲を満たさないものと解釈する。
【0061】
ΔSがこのような範囲にある場合には、液晶性樹脂の分子鎖が溶融状態および固体状態において、非常に秩序だった状態で存在しており、成形時に高配向を受けなくても、分子鎖の乱れが小さくきれいに配列するために、機械的強度および耐熱性に特に優れた成形品が得られるものと考えられる。
【0062】
なお、分子鎖がきれいに配列するとは、結晶性が高いこととは異なるものである。結晶性が高いとは、非晶部位の拘束が小さいために結果として結晶部位の割合が増えた状態である。このような状態では高密度の結晶部位と低密度で拘束が弱い非晶部位の間に分子鎖の存在状態の大きな隔たりがあり、配向を与えないで固化した成形品では全体として固い部分と柔らかい部分が大きな乱れを持って乱在しており、機械強度、耐熱性ともに小さくなってしまう。
【0063】
逆に液晶性樹脂のΔSが上記好ましい範囲にある場合では、結晶部位と非晶部位が乱在したりせず、分子がきれいに配列して、全体的に全ての分子鎖の状態が同じに近く、非常に秩序だっているために、配向を与えずとも、高い機械強度、耐熱性を発揮するものである。
【0064】
結晶部位では、分子鎖がパッキング(分子鎖が高密度に配列すること)され、分子鎖間距離が小さくなり、非晶部位では、分子鎖間距離に乱れが生じて小さい部分と大きい部分で差が大きくなる。液晶性樹脂のΔSが上記好ましい範囲にある場合、分子鎖間距離はこの中間にある。、このような液晶性樹脂は適度なルーズさを内包しており好ましい。
【0065】
結晶性の評価は融解熱量(ΔH)の評価により行なうことができる。また、分子鎖間距離の評価は、例えばα−アルミナを内部標準としたX線回折で、ピークの回折角度(2θ)から評価することができる。
【0066】
本発明における液晶性樹脂の溶融粘度は10〜500Pa・sが好ましく、特に12〜200Pa・sがより好ましい。なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、剪断速度1000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0067】
本発明における液晶性樹脂の融点は特に限定されるものではないが、高耐熱用途に用いるために280℃以上となるよう共重合成分を組み合わせることが好ましく、300℃以上となるよう組み合わせることがより好ましく、310℃以上となるよう組み合わせることがさらに好ましく、325℃以上となるよう組み合わせることが最も好ましい。上限としては液晶性樹脂の分解温度―10℃以下であることが好ましく、前述したような液晶性ポリエステルの分解温度は370℃近辺であることから360℃以下となるよう組み合わせることが好ましい。
【0068】
本発明の液晶性樹脂の基本的な製造方法は、本発明で規定する液晶性樹脂が得られる限り特に制限がないが、本発明の効果を発現させるためには、少なくとも2種の芳香族ジオールを含む液晶性樹脂原料を用い、好ましくはさらに芳香族ヒドロキシカルボン酸を用い、液晶性樹脂原料中のフェノール性水酸基、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのフェノール性水酸基と無水酢酸をアセチル化反応させる工程と、その後残りの液晶性樹脂原料(芳香族ジカルボン酸やその他のモノマー)と重縮合(好ましくは液晶性樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合)を行う工程を含む製造方法が好ましい。
【0069】
無水酢酸の使用量は、用いる液晶性樹脂原料中のフェノール性水酸基の合計の1.00〜1.10モル当量であることが好ましく、1.03〜1.09モル当量がより好ましく、1.05〜1.08モル当量がさらに好ましい。
【0070】
無水酢酸の量が上記範囲の場合に、特にアセチル化工程での芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量を制御しやすく好ましい。
【0071】
例えば、上記液晶性ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。なお下記は、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸からなる液晶性ポリエステルの合成を例にとり説明したものであるが、共重合組成としてはこれらに限定されるものではなく、それぞれをその他のヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールあるいは芳香族ジカルボン酸に置き換え、下記の方法に準じて製造することができる。
【0072】
例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸(液晶性樹脂原料中の水酸基に対して1.03〜1.09モル当量)を攪拌翼、精留塔、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し、還留しながら140〜150℃で2.1〜2.9時間反応して水酸基をアセチル化させた後、留出管へと切り替えてアセチル化工程を終了し、酢酸を留出させながら液晶性ポリエステルの融点+5〜40℃まで2.5〜6.5時間で昇温し、0.2〜1.5時間程度加熱撹拌した後、次いで665Pa以下まで0.5〜2時間で減圧し、0.1〜3時間程度重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。
【0073】
なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0074】
重縮合の条件としては、減圧度が133Pa以下がより好ましく、最終重合温度は、融点+20℃程度が好ましく、360℃以下であることが好ましい。撹拌速度は50rpm以下が好ましい。
【0075】
減圧度が665Pa以下になった後、所定トルクが検出されて重合を終了するまでの重合時間は0.5〜1時間がより好ましい。
【0076】
重合終了後、得られたポリマーを反応容器から取り出すには、ポリマーが溶融する温度で反応容器内を、例えばおよそ0.02〜0.5MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出し、ストランドを冷却水中で冷却して、ペレット状に切断し、樹脂ペレットを得ることができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ好ましい。
【0077】
本発明の液晶性樹脂を製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性樹脂の融点−5℃〜融点−50℃の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0078】
液晶性樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0079】
本発明の液晶性樹脂は、数平均分子量は3,000〜25,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000、より好ましくは8,000〜18,000の範囲である。
【0080】
なお、この数平均分子量は液晶性樹脂が可溶な溶媒を使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定することが可能である。
【0081】
脱酢酸重縮合で製造した液晶性樹脂は、水を添加するなどの方法により加水分解して末端のアセチル基を水酸基に変えることが可能であるが、その場合、液晶性樹脂の末端水酸基の多くがオキシカルボン酸由来の水酸基となり、また分子量も低下しオリゴマーが発生するため好ましくない。末端が芳香族オキシカルボン酸由来の水酸基である場合、耐熱安定性や耐酸化性が低く、芳香族オキシカルボン酸の脱離、熱分解により炭酸ガス、フェノールガスが発生するために好ましくない。
【0082】
本発明においては、液晶性樹脂の機械強度その他の特性を付与するために、さらに充填材を配合することが可能である。充填材は特に限定されるものでないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0083】
これら充填材のなかで特にガラス繊維が入手性、機械的強度のバランスの点から好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、これらのうち2種以上を併用して使用することもできる。本発明で使用されるガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点で優れており、好ましく使用できる。また、ガラス繊維はエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、エポキシ系が特に好ましい。またシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤が特に好ましい。
【0084】
なお、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0085】
充填材の配合量は、液晶性ポリエステル100重量部に対し、通常30〜200重量部であり、好ましくは40〜150重量部である。
【0086】
さらに、本発明の液晶性樹脂には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0087】
これらの添加剤を配合する方法は、溶融混練によることが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜350℃、より好ましくは250〜320℃の温度で溶融混練して液晶性樹脂組成物とすることができる。その際には、1)液晶性樹脂、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにその他の添加剤を高濃度に含む液晶性樹脂組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるようにその他の熱可塑性樹脂、充填材およびその他の添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性樹脂とその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りの充填材およびその他の添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
【0088】
本発明の液晶性樹脂およびそれを含む液晶性樹脂組成物は、低ガス性に優れており、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する三次元成形品、シート、容器、パイプ、フィルムなどに加工することが可能である。なかでも流動性、低ガス性に優れることから射出成形により得られる電気・電子部品用途に適している。
【0089】
特に、ふくれが非常に起こりにくいことから、精密成形品の生産性を顕著に向上することができる。
【0090】
また、本発明の液晶性樹脂は、固化速度が遅く、均質性が高いために、フィルムとしての加工性に優れており、厚みムラの少ないフィルムが得られる。
【0091】
フィルムへの加工法としては、厚みムラの少ない特性を活かすために、Tダイ法が好ましく、例えば、Tダイの中で複数のマニホールドから徐々に流路がフィルムの吐出方向に対して斜めに傾きつつ流路が長くなる程狭くなるように加工されており、その流路の先端はその他のマニホールドから抜けた別の配向角度を持つ液晶性樹脂の流れと上下に重なり合い一つの流れとなってリップより吐出されることにより、得られたフィルムは内部に複層の異なる配向状態を有しているフィルムを得ることができる。こうして得られたフィルムは、全方向に対して機械的物性、寸法安定性に優れている。
【0092】
液晶性樹脂のTダイでの製膜においては、特に限定されるものではないが、厚物フィルムではリップ開度は0.5〜4mm程度が好ましく、薄物フィルムではリップ開度は0.3mm以下が好ましく、更に好ましくは0.2mm以下であり、厚みムラの観点から0.1mm以下が好ましい。
【0093】
フィルムの異方性制御の方法として、溶融製膜したフィルムを延伸することが可能であり、延伸の方法としては、テンターを用いた一軸延伸もしくは逐次2軸延伸、同時2軸延伸、ローラー間での圧延など様々な方法を用いることができる。
【0094】
テンターを用いた一軸延伸もしくは逐次2軸延伸、同時2軸延伸においては、液晶性樹脂フィルム単体で液晶性樹脂の流動開始温度以下の温度ですることも可能であるが、液晶性樹脂以外の耐熱樹脂を積層して液晶性樹脂の流動開始温度以上で行うことが好ましい。
【0095】
耐熱樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系樹脂などを使用することができ、これらは熱処理によって更に高耐熱化していてもよい。用いる耐熱樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではないが、共延伸性の点から、少なくとも得ようとする液晶性樹脂フィルムの厚みの1〜5倍程度であることが好ましい。
【0096】
積層の方法としては、共押出や、押出直後の液晶性樹脂に耐熱樹脂フィルムをラミネートする方法、一旦液晶性樹脂フィルムを作成した後、液晶性樹脂の融点以上の温度で熱ラミネートする方法などが用いられる。
【0097】
積層は液晶性樹脂の両面に行うことが延伸ムラの抑制、表面性の点から好ましい。
【0098】
延伸法としては、異方性制御の点から二軸延伸法が好ましく、同時二軸延伸、逐時二軸延伸などを適宜選択できる。延伸倍率は1.001〜5倍、好ましくは1.002〜3倍である。延伸速度は0.01〜300%/minで行うことができ、好ましくは0.03〜100%/minである。
【0099】
ローラー間で圧延する方法においては、配向制御のためにTダイと全く同じ温度にコントロールされたロールによってリップ開度の85%以下の厚みまで圧延加工することが好ましい。
【0100】
液晶性樹脂フィルム単体で液晶性樹脂の流動開始温度以下の温度ですることも可能であるが、液晶性樹脂以外の耐熱樹脂や金属フィルムを積層して液晶性樹脂の流動開始温度以上で行うことが好ましい。
【0101】
耐熱樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系樹脂などを使用することができ、これらは熱処理によって更に高耐熱化していてもよい。
【0102】
金属フィルムとしては、例えば金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルなど、およびこれらの部分酸化物などのフィルムを用いることができ、厚みは特に限定されるものではないが、共圧延性の点から、少なくとも得ようとする液晶性樹脂フィルムの厚みの0.01〜5倍程度であることが好ましい。
【0103】
積層の方法としては、耐熱樹脂を用いる場合には、共押出や、押出直後の液晶性樹脂に耐熱樹脂フィルムをラミネートする方法、一旦液晶性樹脂フィルムを作成した後、液晶性樹脂の融点以上の温度で熱ラミネートする方法などが用いられ、る。
【0104】
金属フィルムを用いる場合には、押出直後の液晶性樹脂に耐熱樹脂フィルムをラミネートする方法、一旦液晶性樹脂フィルムを作成した後、液晶性樹脂の融点以上の温度で熱ラミネートする方法が用いられ、銅を使用した場合には、銅張積層基材の製造と異方性制御を一段階で行うことができ好ましい。
【0105】
積層は液晶性樹脂の片面、両面のいずれでもよいが、両面に行うことが延伸ムラの抑制、表面性の点から好ましい。
【0106】
このようにして得られた液晶性樹脂およびそれを含む液晶性樹脂組成物は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレイ部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、セパレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルム、シート用途としては自動車内部天井、ドアトリム、インストロメントパネルのパッド材、バンパーやサイドフレームの緩衝材、ボンネット裏等の吸音パット、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブおよびそれらの周辺部品に有用である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
実施例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル293重量部、ハイドロキノン74重量部、テレフタル酸344重量部、イソフタル酸30重量部および無水酢酸1240重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2.5時間反応させアセチル化を終了した後、360℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1時間加熱撹拌した。その後、1.0時間で133Paに減圧し、更に50分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0109】
この液晶性樹脂(A−1)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0110】
この液晶性樹脂の融点は348℃で、ΔSは0.6×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度360℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0111】
なお、融点(Tm)は示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。以下の参考例についても同様である。
【0112】
以下(1)〜(5)の評価を行った。
【0113】
(1)芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量
アセチル化が終了した時点で微量サンプリングし、GPCにより分取した後、重アセトン溶媒により400MHzのH−NMRで測定し、芳香族ジオールの仕込量に対するモノアセチル化物の残存量を求めた。
【0114】
2種の芳香族ジオールそれぞれについてピーク分離を行った。
【0115】
2種の芳香族ジオールのそれぞれについて、下式から芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量を算出した。
芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量(%)=[Ia/(Ia+Ib)]×100
Ia:芳香族ジオールのモノアセチル化物のアセチル化されていない水酸基の結合した芳香核炭素のα位の炭素に結合した水素原子に帰属されるピーク強度
Ib:芳香族ジオールのモノアセチル化物およびジアセチル化物のアセチル基の結合した芳香族炭素のα位の炭素に結合した水素原子に帰属されるピーク強度
【0116】
(2)ガス発生量
島津製作所製TG40Mと島津製作所製GC/MS QP5050Aを組み合わせた同時測定装置を用い、TG−MS測定と同時に発生気体を吸着剤にてトラップし、吸着剤を熱脱離装置(280℃、吸着剤C300)で再加熱しGC−MS測定(カラムPTEM−5)を行い質量数からガス種を特定し、加熱総減量とピーク強度から酢酸ガス、フェノールガス、炭酸ガスの発生量を算出した(試料重量150mg、予備乾燥150℃5時間、ヘリウム雰囲気下、融点+10℃の温度で30分間保持)(ただし、融点が325℃未満の液晶性樹脂については335℃で保持し、測定した)。
【0117】
(3)ふくれ
サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性樹脂100重量部をホッパーから投入し、ガラス繊維(日本電気硝子製03T−790G)40重量部をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後下記評価を行った。
【0118】
液晶性樹脂組成物ペレットを、ファナック30α−C射出成形機に供給し、シリンダー温度融点+10℃で押出を行い、長さ150mm×幅12.7mm×厚み1mmの棒状成形品を成形した。120RH%、95℃で8時間湿熱処理後、275℃で10分間リフロー槽において熱処理を行い、1000本の成形品について、ふくれの発生個数を評価した。
【0119】
(4)金属腐食試験
上記成形品と2cm四方厚み2mmの鉄板をガラスシャーレ中に入れ、蓋をして150℃のオーブン中で200時間処理した。鉄板の変色や腐蝕を目視で判定した。
○:変色,腐蝕なし、△:変色あり、腐蝕なし、×;変色、腐蝕あり。
【0120】
(5)ガラスのくもり試験
(4)と同様にガラスシャーレ中に成形品を入れ、蓋をして270℃の熱板上に静置した。ガラスシャーレの上蓋のくもりが生じるまでの時間を判定した(最大50時間とした)。
【0121】
以下の実施例についても同様の評価を行った。
【0122】
実施例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸374重量部、2,6−ナフタレンジカルボン酸97重量部および無水酢酸1191重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2.5時間反応させアセチル化を終了した後、350℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を350℃に保持し、1時間加熱撹拌した。その後、1.0時間で133Paに減圧し、更に42分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0123】
この液晶性樹脂(A−2)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))54モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))16.1モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6.9モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))19.2モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(構造単位(V)’)3.8モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)’の合計に対して好ましく83モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0124】
この液晶性樹脂の融点は335℃でΔSは0.5×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度345℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が22Pa・sであった。
【0125】
実施例3
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル298重量部、2,6−ジヒドロキシナフタレン32重量部、テレフタル酸194重量部、イソフタル酸105重量部および無水酢酸1158重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2.5時間反応させアセチル化を終了した後、370℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を370℃に保持し、1時間加熱撹拌した。その後、1.0時間で133Paに減圧し、更に22分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0126】
この液晶性樹脂(A−3)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))66.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14.8モル%、2,6−ジヒドロキシナフタレンに由来する構造単位(構造単位(III)’)1.8モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))10.8モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))5.8モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルと2,6−ジヒドロキシナフタレンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を89:11(構造単位(II):構造単位(III)’)の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して80モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましくは65モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。 この液晶性樹脂の融点は355℃でΔSは0.4×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度365℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が24Pa・sであった。
【0127】
実施例4
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン104重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸156重量部および無水酢酸1254重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら148℃で2.5時間反応させアセチル化を終了した後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、1時間加熱撹拌した。その後、1.0時間で133Paに減圧し、更に60分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0128】
この液晶性樹脂(A−4)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))15モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))8.1モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))15モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))8.1モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を65:35(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく65モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0129】
この液晶性樹脂の融点は310℃でΔSは0.3×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度320℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0130】
実施例5
実施例1の液晶性樹脂(A−1)100重量部にガラス繊維(旭電気硝子製ECS03T−747H)を50重量部配合し、350℃で二軸押出器により混練し、ペレタイズした(ガス量についての評価は、樹脂組成物を試料として測定したので、液晶性樹脂分からだけのガス発生量を評価するため、測定したガス発生量を3/2倍して算出した)。
【0131】
比較例1
実施例1と同じ組成で無水酢酸のみ1377g(フェノール性水酸基合計の1.199当量)仕込み、アセチル化条件を170℃で45分で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0132】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで2分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0133】
この液晶性樹脂(A−5)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0134】
この液晶性樹脂の融点は350℃でΔSは1.4×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度360℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が21Pa・sであった。
【0135】
比較例2
実施例1と同じ組成で無水酢酸のみ1286g(フェノール性水酸基合計の1.12当量)仕込み、アセチル化条件を155℃で2時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0136】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで2分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0137】
この液晶性樹脂(A−6)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0138】
この液晶性樹脂の融点は349℃でΔSは1.4×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度359℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が21Pa・sであった。
【0139】
比較例3
実施例1と同じ組成で無水酢酸のみ1205g(フェノール性水酸基合計の1.05当量)仕込み、アセチル化条件を155℃で3時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0140】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで2分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0141】
この液晶性樹脂(A−7)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0142】
この液晶性樹脂の融点は349℃でΔSは1.4×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度359℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が21Pa・sであった。
【0143】
比較例4
実施例1と同じ組成で無水酢酸のみ1263g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)仕込み、アセチル化条件を140℃で3時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0144】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで3分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0145】
この液晶性樹脂(A−8)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0146】
この液晶性樹脂の融点は348℃でΔSは1.5×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度349℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が22Pa・sであった。
【0147】
比較例5
実施例1と同じ組成で無水酢酸のみ1183g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)仕込み、アセチル化条件を145℃で2時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0148】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで121分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0149】
この液晶性樹脂(A−9)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))14モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))18.4モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))1.6モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0150】
この液晶性樹脂の融点は345℃でΔSは1.4×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度355℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が23Pa・sであった。
【0151】
比較例6
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル419重量部、テレフタル酸344重量部、イソフタル酸30重量部および無水酢酸1240重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2.5時間反応させアセチル化を終了した後、360℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1時間加熱撹拌した。その後、1.0時間で133Paに減圧し、更に12分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
この液晶性樹脂(A−10)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))20モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))15モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))5モル%からなり、融点は342℃でΔSは2.1×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度352℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が25Pa・sであった。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく75モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0152】
比較例7
比較例6と同じ組成で無水酢酸のみ1183g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)仕込み、アセチル化条件を145℃で2時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0153】
最終重合温度360℃、減圧度133Paで145分間反応を続けたが、トルクが20kgcmに到達しなかったので重縮合を終了させた。 比較例8
実施例2と同じ組成で仕込み、アセチル化条件を155℃で2時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0154】
最終重合温度350℃、減圧度133Paで8分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0155】
この液晶性樹脂(A−12)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))54モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))16.1モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))6.9モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))19.2モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(構造単位(V)’)3.8モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を70:30(構造単位(V)’)の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)’の合計に対して好ましく83モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0156】
この液晶性樹脂の融点は335℃でΔSは1.2×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度345℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が22Pa・sであった。
【0157】
比較例9
実施例4と同じ組成で仕込み、アセチル化条件を170℃で1.5時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0158】
最終重合温度330℃、減圧度133Paで4分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0159】
この液晶性樹脂(A−13)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))15モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))8.1モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))15モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))8.1モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を65:35(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく65モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0160】
この液晶性樹脂の融点は310℃でΔSは0.8×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度320℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0161】
比較例10
実施例4と同じ組成で仕込み、アセチル化条件を145℃で2時間で行った以外は同じ条件で重合を行った。
【0162】
最終重合温度330℃、減圧度133Paで141分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0163】
この液晶性樹脂(A−14)はp−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(構造単位(I))53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(構造単位(II))15モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(構造単位(III))8.1モル%、テレフタル酸に由来する構造単位(構造単位(IV))15モル%、イソフタル酸に由来する構造単位(構造単位(V))8.1モル%からなり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの2種類の芳香族ジオールに由来する構造単位を65:35(構造単位(II):構造単位(III))の比率で有していた。なお、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく65モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は等モルであった。
【0164】
この液晶性樹脂の融点は308℃でΔSは0.9×10―3J/g・Kであり、高化式フローテスターを用い、温度318℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が19Pa・sであった。
【0165】
比較例11
比較例1の液晶性樹脂(A−5)100重量部にガラス繊維(旭電気硝子製ECS03T−747H)を50重量部配合し、350℃で二軸押出機により混練し、ペレタイズした(ガス量についての評価は実施例5と同様の方法で行った)。
【0166】
【表1】

【0167】
表1からも明らかなように実施例の液晶性樹脂は、比較例に示した末端制御がされていない液晶性樹脂に対して、低ガス性に優れており、成形品のふくれが少ないだけでなく、摺動部品として用いた場合にも、金属軸の腐蝕がなく、また液晶レンズ枠などの高温になるガラス支持部品として用いる際にもガラス面にくもりを生じないことがわかる。
【0168】
実施例6
実施例1で得られた液晶性樹脂(A−1)を、ベント機構を有する二軸押出機にダイプレートを介して連結されたギアポンプとダイの右上、および左下2つの流路に分割されたマニホールドからリップ直前部2mmの位置まで徐々に縦幅を狭めつつ横幅を広げていく構造をしており、右上のマニホールドからは常に右端の縦幅が左端の縦幅より狭い状態であり、リップ直前の2mm位置で厚み0.1mmまで狭められた2つのマニホールドから導かれた2つの樹脂流れが上下に重なり合い、0.2mm幅の開度のリップまで導かれ、吐出されるようになっているTダイを有する製膜装置を用い、液晶性樹脂の融点+20℃で製膜を行った。
【0169】
得られたフィルムは、異方性が少なく、発泡、フィッシュアイなどの異常は見られなかった。
【0170】
得られたフィルムに0.1mm厚の銅箔を液晶性樹脂の融点−5℃において熱圧着し、250℃のオーブン中で200時間熱処理した。銅箔の変色や腐蝕を目視で判定したが、変色も腐蝕も見られなかった。
【0171】
比較例12
比較例8で得られた液晶性樹脂(A−12)を実施例6と同様の装置において同様に製膜を行った。
【0172】
得られたフィルムは、異方性が残っており、吐出方向に平行に縦割れしやすかった。またフィルムの幅方向の端部に微細な発泡が見られた。
【0173】
実施例6と同様に腐蝕試験を行ったところ、銅箔が赤色に変色し、端部においては腐蝕が見られた。
【0174】
実施例7
実施例1で得られた液晶性樹脂(A−1)を実施例6と同様の装置により、製膜し、Tダイより吐出されたフィルムの両面にラミネーターを用いて、フッ素樹脂フィルムを積層し、液晶性樹脂の流動温度以上の温度である315℃において、同時二軸延伸機を用いて吐出流動方向平行な方向に1.02倍、直角方向に2.41倍の延伸を行った。
【0175】
フッ素樹脂フィルムを剥離し、得られたフィルムは、異方性がなく、発泡、フィッシュアイなどの異常は見られなかった。更に、実施例6で得られたフィルムよりも表面光沢に優れていた。
【0176】
得られたフィルムに0.1mm厚の銅箔を液晶性樹脂の融点−5℃において熱圧着し、250℃のオーブン中で200時間熱処理した。銅箔の変色や腐蝕を目視で判定したが、変色も腐蝕も見られなかった。
【0177】
ASTM D150に従い、銅張フィルムの任意10点における誘電率を測定し、その変動率を算出した所、実施例6の銅張フィルムの誘電率変動率は平均値に対して最大2%であるのに対し、実施例7の銅張フィルムの誘電率変動率は0.09%であり、良好な回路基板特性を有していた。
【0178】
実施例8
実施例1で得られた液晶性樹脂(A−1)を実施例6と同様の装置により、製膜し、Tダイより吐出されたフィルムの両面にラミネーターを用いて、架橋熱処理したポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムを積層し、液晶性樹脂の流動温度以上の温度である315℃において、同時二軸延伸機を用いて吐出流動方向平行な方向に1.02倍、直角方向に2.41倍の延伸を行った。
【0179】
ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムを剥離し、得られたフィルムは、異方性がなく、発泡、フィッシュアイなどの異常は見られなかった。更に、実施例6で得られたフィルムよりも表面光沢に優れていた。
【0180】
得られたフィルムに0.1mm厚の銅箔を液晶性樹脂の融点−5℃において熱圧着し、250℃のオーブン中で200時間熱処理した。銅箔の変色や腐蝕を目視で判定したが、変色も腐蝕も見られなかった。
【0181】
ASTM D150に従い、計測算出した誘電率変動率は0.10%であり、良好な回路基板特性を有していた。
【0182】
実施例9
実施例1で得られた液晶性樹脂(A−1)を実施例6と同様の装置により、製膜し、Tダイより吐出されたフィルムを一度冷却した後、液晶性樹脂の融点−5℃で高温ラミネーターを用いて、フィルム両面に0.1mm厚の銅箔をラミネートしつつ、吐出流動方向平行な方向に1.02倍、直角方向に2.41倍に相当する圧延を行った。250℃のオーブン中で200時間熱処理した。銅箔の変色や腐蝕を目視で判定したが、変色も腐蝕も見られなかった。
【0183】
ASTM D150に従い、計測算出した誘電率変動率は0.05%であり、良好な回路基板特性を有していた。
【0184】
このように、本発明の液晶性樹脂はフィルムとする場合に、異方性が小さいフィルムが得られ、発泡などの異常がないために品質の良いフィルムは高収率で得られる。
【0185】
また、銅腐蝕性が非常に低いために、銅張積回路基板材料などに好適なフィルムが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の芳香族ジオール由来の構造単位を含む液晶性樹脂であって、ヘリウムガス雰囲気下で融点+10℃(ただし融点が325℃未満の場合は335℃)で30分間保持した際に上記液晶性樹脂から発生する酢酸ガスが100ppm以下、フェノールガスが20ppm未満かつ炭酸ガスが100ppm未満である液晶性樹脂。
【請求項2】
式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である請求項1記載の液晶性樹脂。
ΔS(J/g・K)(=ΔHm(J/g)/[Tm (℃)+273] −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指し、ΔHmは該吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2)である。)
【請求項3】
少なくとも2種類の芳香族ジオールがハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルを含むものである請求項1または2記載の液晶性樹脂。
【請求項4】
液晶性樹脂が、下記(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の構造単位からなるものである請求項1〜3いずれかに記載の液晶性樹脂。
【化1】

【請求項5】
構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であり、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜75モル%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して60〜92モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルである請求項4記載の液晶性樹脂。
【請求項6】
構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して好ましく72〜92モル%である請求項5記載の液晶性樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の液晶性樹脂100重量部に対して、充填材30〜200重量部を配合してなる液晶性樹脂組成物。
【請求項8】
少なくとも2種の芳香族ジオールを含む液晶性樹脂原料を用い、液晶性樹脂原料中のフェノール性水酸基と、このフェノール性水酸基の合計に対して1.03〜1.09モル当量の無水酢酸を140℃以上150℃以下の温度で2.1〜2.9時間アセチル化反応させた後、重縮合して液晶性樹脂を製造する方法であって、アセチル化反応を、用いた芳香族ジオールのうちモノアセチル化物からジアセチル化物への反応速度の最も遅い芳香族ジオール(イ)の下式で算出したモノアセチル化物の残存量が仕込んだ芳香族ジオール(イ)の0.8〜5モル%となるまでアセチル化反応を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の液晶性樹脂の製造方法。
モノアセチル化物の残存量(%)={[モノアセチル化物]/([モノアセチル化物]+[ジアセチル化物])}×100
[モノアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のモノアセチル化物のモル量
[ジアセチル化物]:芳香族ジオール(イ)のジアセチル化物のモル量
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか記載の液晶性樹脂または請求項7記載の液晶性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか記載の液晶性樹脂または請求項7記載の液晶性樹脂組成物からなるフィルム。

【公開番号】特開2006−89714(P2006−89714A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172169(P2005−172169)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】