説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】ドライバIC収容部を形成する際に、エッチングガスの回り込みによりリード部の絶縁膜がアタックされず、絶縁不良を引き起こすことがない液滴吐出ヘッド等を提供すること。
【解決手段】ノズル基板40、底壁に振動板18を形成したキャビティ基板10、電極基板20、リザーバ基板30、キャビティ基板10上に実装されたドライバIC2と、キャビティ基板10上に形成されたリード部14とを備え、個別電極22とドライバIC2とは配線部3により接続され、配線部3は、その一端が個別電極22に接続されてキャビティ基板10に設けた配線引き出し孔16から引き出され、その他端がドライバIC2に接続される。この場合、個別電極22とドライバIC2とが接続される配線部3によって、振動板18と電極凹部21との間に形成されたギャップGが封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電駆動方式の液滴吐出ヘッドは、サイズを小さくし、ノズル、吐出室等を高密度化、多列化することが可能で、また、吐出性能及び耐久性に優れたものが望まれている。これを実現するために、近年、リザーバ基板を追加してドライバICをヘッドチップ内に内蔵し、キャビティ基板やノズル基板を薄くした構造が提案されている。
【0003】
従来の液滴吐出ヘッドに、ヘッドチップ内にドライバICを内蔵し、高密度で小型化したものがある。例えば、ヘッドチップは4層構造で、シリコン製のノズル基板、シリコン製のリザーバ基板、シリコン製のキャビティ基板、及びガラス製の電極基板からなり、製造工程上、キャビティ基板のドライバIC実装部に貫通穴を開ける必要があった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−272574号公報(第9頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術では、キャビティ基板のドライバIC実装部に貫通穴を開ける際、シリコン薄膜を除去するためドライエッチングを行うが、ガスの回り込みにより、リード部の絶縁膜がアタックされて、絶縁不良を引き起こす恐れがある。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、キャビティ基板のドライバIC実装部に貫通穴を開ける必要がなく、このためエッチングガスの回り込みによりリード部の絶縁膜がアタックされず、絶縁不良を引き起こすことがない液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、底壁が振動板を形成し、液を溜めておく吐出室が形成されたキャビティ基板と、振動板に対向し、振動板を駆動する個別電極が電極凹部に形成された電極基板と、吐出室に液を供給するリザーバ、リザーバから吐出室に液を移送するための液供給連通孔、及び吐出室からノズル孔に液を移送するノズル連通孔を有するリザーバ基板と、キャビティ基板上に実装されて個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、キャビティ基板上に形成されてドライバICに接続され、ドライバICに入力信号を供給するためのリード部とを備え、
個別電極とドライバICとは配線部により接続され、配線部は、その一端が個別電極に接続されてキャビティ基板に設けた配線引き出し孔より引き出され、その他端がドライバIC2に続されるものである。
【0008】
キャビティ基板の上部にドライバICを実装し、個別電極からの配線をキャビティ基板の上部へ引き出してドライバICに接続しているので、従来のように、キャビティ基板と電極基板とを接合後に、ドライバICの収容部として機能する貫通穴をキャビティ基板に形成する必要がなく、貫通穴のエッチング時にドライエッチングガスが回り込んで絶縁膜をエッチングすることがない。
【0009】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、個別電極とドライバICとが接続される配線部によって、振動板と電極凹部との間に形成されたギャップが封止される。
個別電極とドライバICとを接続する配線部によってギャップが封止されるので、従来のように、個別電極封止部として機能する貫通孔をキャビティ基板に形成して、個別電極封止部で封止する必要がない。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、個別電極と配線部とが、それぞれに設けた金属接合部を介して導通されているものである。
個別電極と配線部の一端とにそれぞれ取り付けた金属接合部を接合することにより、個別電極と配線部を容易かつ確実に導通することができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、リザーバ基板にIC収容穴が設けられ、キャビティ基板に搭載されたドライバICはIC収容穴に収容されているものである。
ドライバICは密閉されたIC収容穴に収容されているので、液滴や外気からドライバICを保護することができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、リザーバ基板に設けられたIC収容穴が、ノズル基板、リザーバ基板及びキャビティ基板によって閉塞されているものである。
ノズル基板がIC収容穴の上面を、キャビティ基板がIC収容穴の下面を、リザーバ基板がIC収容穴の側面を形成することによって、IC収容穴が閉塞され、内部にドライバICを密閉しているので、ドライバICを液滴や外気から保護することができる。
【0013】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
吐出特性、耐久性に優れた液滴吐出装置を提供することができる。
【0014】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、底壁が振動板を形成し、液を溜めておく吐出室が形成されたキャビティ基板と、振動板に対向し、振動板を駆動する個別電極が電極凹部に形成された電極基板と、吐出室に液を供給するリザーバ、リザーバから吐出室に液を移送するための液供給連通孔、及び吐出室からノズル孔に液を移送するノズル連通孔を有するリザーバ基板と、キャビティ基板上に実装されて個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、キャビティ基板上に形成されてドライバICに接続され、ドライバICに入力信号を供給するためのリード部とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
ドライバICと個別電極とを接続する配線部の引き出し孔となる引き出し凹部を形成する工程、及び引き出し凹部内に配線部となる部材を充填する工程を有するキャビティ基板の形成工程と、
片面側に電極凹部を形成してその内部に個別電極を形成する工程を有する電極基板の形成工程と、
キャビティ基板と電極基板の、引き出し凹部側の面と個別電極側の面を対向させ、引き出し凹部内の配線部となる部材と個別電極とを接続して、キャビティ基板と電極基板とを接合する工程と、
接合されたキャビティ基板の引き出し凹部を形成した側の面と反対側の面を研削し引き出し凹部を開口して配線引き出し孔を形成し、配線部となる部材を露出させる工程と、
配線部となる部材の露出部より配線部となる部材をキャビティ基板の表面に沿って延在して配線部を形成する工程と、
キャビティ基板の前記研削した側の面よりエッチングしてキャビティ基板に少なくとも吐出室を形成する工程と、
キャビティ基板上にドライバICを実装して配線部の延在した部分と接続する工程と、
を有するものである。
【0015】
従来のように、キャビティ基板と電極基板を接合後に、ドライバICの収容部として機能する貫通穴をキャビティ基板に形成する必要がなく、また、個別電極封止部として機能する貫通穴をキャビティ基板に形成する必要がないので、貫通穴のエッチング時にドライエッチングガスが回り込んで絶縁膜をエッチングするということがない。
【0016】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、引き出し凹部内に配線部となる部材を充填する工程ののちに、充填材の先端に第1の金属接合部を形成する工程をさらに含むと共に、片面側に電極凹部を形成してその内部に個別電極を形成する工程ののちに、個別電極に第1の金属接合部と導通する第2の金属接合部を形成する工程をさらに含むものである。
第1の金属接合部と第2の金属接合部とにより、配線部と個別電極を容易かつ確実に導通することができる。
【0017】
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
吐出特性、耐久性に優れた液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図、図2は図1に示す液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面図である。なお、図1及び図2に示す液滴吐出ヘッドは、ノズル基板の表面側に設けられたノズル孔から液滴を吐出するフェイス吐出型であり、静電気力により駆動される静電駆動方式である。
図1に示すように、液滴吐出ヘッド1は、電極基板20、キャビティ基板10、リザーバ基板30、ノズル基板40の4つの基板から構成されており、液滴吐出ヘッド1内にドライバIC2が収容されている。
【0019】
キャビティ基板10は、例えば厚さ約50μmの(110)面方位のシリコン(Si)単結晶基板で構成され、異方性ウェットエッチングによって、対向する各一対の吐出室12、及び液供給穴13が形成されている。一対の吐出室12の対向側には吐出室12の短辺方向と平行にドライバIC2に入力信号を供給するためのリード部14が形成され、さらにその近傍には内壁が酸化膜(SiO2 膜)15で覆われた配線引き出し孔16が形成されて、キャビティ基板10を貫通している。
キャビティ基板10の端部には、スパッタリング法により白金(Pt)が部分的に成膜されて、振動板(後述)に電圧を印可するための共通電極17が形成されている。
【0020】
吐出室12の底壁には高濃度のボロンドープ層により形成された振動板18が設けられており、振動板18を所望の厚さにするため、ボロンドープ層を形成する際、その層の厚みを振動板18と同じ厚みとする。これはアルカリ性水溶液でシリコンの異方性ウェットエッチングを行った場合、ボロンをドーパントとしたときには、高濃度(約5×1019atoms・cm-3以上)の領域で極端にエッチングレートが小さくなることを利用した、いわゆるエッチングストップ技術を用いて行うもので、振動板18の厚み、吐出室12の容積を高精度に形成する。
【0021】
キャビティ基板10の下面(電極基板20と対向する側の面)には、絶縁膜となるTEOS(Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜が、例えば0.1μmの厚みでプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜されている(図示せず)。これは、液滴吐出ヘッド1を駆動させたときの絶縁破壊や短絡を防止するためである。
【0022】
キャビティ基板10の下面には電極基板20が接合されている。電極基板20の厚みは例えば約1mmで、硼珪酸系の耐熱硬質ガラスが用いられている。電極基板20には、キャビティ基板10に形成された各吐出室12に合わせて、エッチングにより深さ例えば約0.2μmの電極凹部21が形成されており、その内部に個別電極22が設けられている。なお、電極凹部21のパターン形状は個別電極22の形状よりも少し大きめに作製されている。
【0023】
個別電極22の材料として、酸化錫を不純物としてドープした透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を用い、電極凹部21内に例えば0.1μmの厚みになるようにスパッタリング法を用いて成膜してある。したがって、振動板18と個別電極22との間で形成されるギャップGは、この電極凹部21の深さ、個別電極22の厚みにより決まり、吐出特性に大きく影響する。なお、個別電極22の材料はITOに限定するものではなく、クロム(Cr)等の金属を用いてもよいが、本実施の形態1では、ギャップG内の観察がしやすいこと、透明であるので放電したかどうかの確認が行い易い等の理由でITOを用いている。また、電極基板20には、キャビティ基板10の液供給穴13と重なり、リザーバ基板30のリザーバ(後述)と連通する液供給穴23が設けられている。
【0024】
一対の個別電極22のそれぞれの対向側の端部には配線部3を構成する引き出し配線3aが接続され、電極基板20側からキャビティ基板10を貫通している。さらに、引き出し配線3aは、キャビティ基板10の表面に沿って個別電極22の対向側に延在して配線部3を構成する延在配線3bを形成し、その端部にドライバIC2が接続されている。引き出し配線3aは、多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜、Poly−Si膜)を成膜して形成されており、これにより配線引き出し孔16を埋めてある。また、引き出し配線3aよりその対向側に延在する延在配線3bもポリシリコン膜によって形成するが、この場合はポリシリコン膜に限定するものではなく、アルミニウム(Al)ゃ銅(Cu)のような金属を用いるものであってもよい。
【0025】
配線部3は、個別電極22側において、個別電極22と引き出し配線3aとは、例えば第1、第2の金属接合部4a、4bによって金属−金属接合されており、本実施の形態1では銅−銅接合により導通している。第1、第2の金属接合部4a、4bは、引き出し配線3aの端部、及び個別電極22の表面にそれぞれ形成された例えば0.1μmの膜からなり、これらを熱圧着して、引き出し配線3aと個別電極22とを導通させている。金属−金属接合は、銅−銅接合でなくてもよく、金−金(Au−Au)接合、アルミニウム−アルミニウム(Al−Al)接合であってもよい。こうしてドライバIC2は、個別電極22と接続する配線部3の他端に接続され、個別電極22に対する電荷の供給及び停止を制御する。
【0026】
振動板18と個別電極22との間にはギャップGが形成されており、このギャップGは個別電極22と引き出し配線3aとを接続すると同時に封止され、水分等が混入しないようにされて、振動板18が個別電極22に貼りつくことを防いでいる。
【0027】
リザーバ基板30は、電極基板20と反対の面(図1の上面)でキャビティ基板10に接着されている。リザーバ基板30は例えば約180μmmの厚みで、シリコンにより製造されている。リザーバ基板30には、エッチングにより、吐出室12、及びノズル孔(後述)と連通するノズル連通穴31、各ノズル孔(後述)に共通に吐出する液体を溜めておくためのリザーバ32、リザーバ32と吐出室12を連通する液供給連通孔33、ドライバIC2収容用のIC収容穴34、及びリザーバ32に液を供給する液供給穴35が形成されている。
【0028】
ノズル基板40は、リザーバ基板30のキャビティ基板10とは反対の面(図1の上面)で、リザーバ基板30に接着されている。ノズル基板40は例えば約50μmの厚みでシリコンにより製造されている。ノズル基板40には、ノズル連通穴31を通して吐出室12と連通するノズル孔41が形成されている。
なお、図ではノズル孔41を有するノズル基板40を上面とし、電極基板20を下面として説明しているが、実際に用いられる場合には、ノズル基板40の方が電極基板20よりも下面になることが多い。
【0029】
本実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1では、ドライバIC2はIC収容穴34に収容され、キャビティ基板10の上面に実装されている。IC収容穴34は、ノズル基板40、リザーバ基板30及びキャビティ基板10によって閉塞されている。すなわち、ノズル基板40がIC収容穴34の上面を、キャビティ基板10がIC収容穴34の下面を、リザーバ基板30がIC収容穴34の側面を形成することによって、IC収容穴34が閉塞されるようになっている。
【0030】
上記のように構成した本発明の作用を説明する。
図2において、リザーバ32には外部から液供給穴23、13、35を介して液が供給されている。また、吐出室12には、リザーバ32から液供給連通孔33を介して液が供給されている。
ドライバIC2には、キャビティ基板10に設けられたリード部14を介して入力信号が供給されている。また、ドライバIC2は配線部3(延在配線3b及び引き出し配線3a)により個別電極22と接続しており、個別電極22に対して電荷の供給及び停止を制御する。
【0031】
ドライバIC2は例えば24kHzで発振し、配線部3を通して個別電極22に0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。個別電極22に電荷を供給して正に帯電させると、振動板18は負に帯電し、静電気力により個別電極22に引き寄せられて撓み、吐出室12の容積は広がる。そして、個別電極22への電荷供給を止めると振動板18は元に戻るが、そのときの吐出室12の容積も急激に元の状態に戻るため、その圧力により差分の液滴がノズル孔41から吐出し、例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって記録が行われる。なお、このような方法は引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0032】
本実施の形態1によれば、リザーバ基板30にはIC収容穴34が設けられてドライバIC2が収容され、IC収容穴34は閉塞されるているので、ドライバIC2は液滴や外気から保護される。
また、液滴吐出ヘッドは4層構造で、ドライバIC2はIC収容穴34に収容され、キャビティ基板10の上面に実装されている。そして、個別電極22からの引き出し配線3aをキャビティ基板10の上面へ引き出し、延在配線3bを介してドライバIC2と接続する。このため、従来のように、キャビティ基板と電極基板を接合後に、ドライバICの収容部として機能する貫通穴をキャビティ基板に形成する必要がなく、このため、貫通穴のエッチング時にドライエッチングガスが回り込んで絶縁膜をエッチングすることがない。
また、電極基板20上の個別電極22と、キャビティ基板10を貫通する引き出し配線3a(配線部3)は、第1、第2の金属接合部4a、4bにより導通し、かつ、配線部3によって、振動板18と電極凹部21との間に形成されたギャップGが封止されている。このため、従来のように、キャビティ基板と電極基板を接合後に、個別電極封止部として機能する貫通穴をキャビティ基板に形成する必要がないので、貫通穴のエッチング時にドライエッチングガスが回り込んで絶縁膜をエッチングすることがない。
【0033】
次に、液滴吐出ヘッドの製造方法について、図3〜図8を用いて説明する。図3、図4は本発明の実施の形態1に係るキャビティ基板10の製造工程を示す断面図、図5は電極基板20の製造工程を示す断面図、図6、図7、図8は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す断面図である。
まず、キャビティ基板10の製造工程を説明する。なお、以下に示す数値は その一例を示すもので、これに限定するものではない。
【0034】
(a)、 図3(a)に示すように、(110)を面方位とする酸素濃度の低いシリコン製のキャビティ基板10の片面を鏡面研磨し、例えば220μmの厚みの基板を作製する。次に、引き出し配線3aを通すための配線引き出し孔16となる引き出し凹部16aを、Deep−RIE法により、例えば約70μmエッチングする。
次に、熱酸化を行い、全面に第1の酸化膜(第1のSiO2 膜)15aを例えば2μm成膜する。
【0035】
(b)、 図3(b)に示すように、下面(引き出し凹部16aの開口部側)に多結晶シリコン膜であるポリシリコン膜(Poly−Si膜)300を成膜して、引き出し凹部16aの内部を埋める。
【0036】
(c)、 図3(c)に示すように、ポリシリコン膜300の成膜面を研磨する。このとき引き出し凹部16aの内部に充填されたポリシリコン膜300は、引き出し配線3aとなる。
【0037】
(d)、 図3(d)に示すように、引き出し配線3aを形成した側に位置する第1の酸化膜15aをパターニングして、ボロン拡散部150を開口する。
【0038】
(e)、 図4(e)に示すように、ボロン拡散を行い、ボロン拡散部150に深さ例えば約1μmのボロン拡散層18a(その一部が振動板18となる)を形成する。
【0039】
(f)、 図4(f)に示すように、引き出し凹部16aの先端に引き出し配線3aに導通する銅膜(Cu膜)を0.1μm成膜し、パターニングして、第1の金属接合部4aを形成する。
【0040】
(g)、 図4(g)に示すように、下面の第1の酸化膜15aを剥離する。このとき、引き出し凹部16aの内部の第1の酸化膜15aは残る。
【0041】
次に、電極基板20の製造工程を説明する。
(a)、 図5(a)に示すように、電極基板20に電極凹部21を例えば0.3μmの深さにエッチングする。
【0042】
(b)、 図5(b)に示すように、電極部材であるITO膜を電極凹部21内に例えば0.1μm成膜し、パターニングして、個別電極22を形成する。
【0043】
(c)、 図5(c)に示すように、一対の個別電極22、22の対向側端部であって、引き出し配線3a(図4(g)参照)との接合部に、銅膜を例えば0.1μm成膜し、パターニングして、第2の金属接合部4bを形成する。
【0044】
(d)、 図5(d)に示すように、サンドブラスト法または切削加工により、液供給穴23を形成する。
【0045】
次に、液滴吐出ヘッド1の製造工程を説明する。
(a)、 図3、図4の製造方法で加工したキャビティ基板10と、図5の製造方法で加工した電極基板20とを重ね合わせて360℃に加熱した後、まず1tf加圧し、引き出し配線3a側の第1の金属接合部4aと、個別電極22側の第2の金属接合部4bとを熱圧着する。
次に、電極基板20に負極、キャビティ基板10に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する。これにより、図6(a)に示すように、キャビティ基板10と電極基板20が接合され、かつ、個別電極22と引き出し配線3aとを導通することができる。
【0046】
(b)、 図6(b)に示すように、電極基板20とキャビティ基板10とを陽極接合後、キャビティ基板10の厚みが例えば約50μmになるまで研削、研磨加工する。これにより、引き出し凹部16aが開口して配線引き出し孔16となり、引き出し配線3aが露出する。
【0047】
(c)、図6(c)に示すように、ドライバIC実装部に絶縁膜となるTEOS膜を例えば1μm成膜し、パターニングして、第2の酸化膜(第2のSiO2 膜)15bを形成する。こうして、第1、第2の酸化膜15a、15bにより、酸化膜15が形成される。
【0048】
(d)、 図7(d)に示すように、引き出し配線3aを第2の酸化膜15b上に延設してドライバIC実装端子部となるように、ポリシリコン膜を成膜し、パターニングして、延在配線3bを形成する。なお、延在配線3bはポリシリコン膜に限るものではなく、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属からなる膜であってもよい。こうして、引き出し配線3a及び延在配線3bによって配線部3が形成される。
【0049】
(e)、 図7(e)に示すように、シリコンエッチング用のハードマスクとして、TEOS膜を成膜し、パターニングした後(図示せず)、水酸化カリウム水溶液を用いてエッチングし、吐出室12、液供給穴13を形成する。エッチング工程では、ボロン拡散層18aにおけるエッチングレートの低下によりエッチングストップさせる。エッチング終了後、TEOS膜を剥離する(図示せず)。
【0050】
(f)、 図7(f)に示すように、ドライバIC2をキャビティ基板10の上部に実装する。
【0051】
(g)、 図8(g)に示すように、リザーバ基板30(製造方法は図示せず)をエポキシ系接着剤によりキャビティ基板10に接着する。
【0052】
(h)、 図9(h)に示すように、ノズル基板40(製造方法は図示せず)をエポキシ系接着剤によりリザーバ基板30に接着する。
最後にダイシングを行い、個々のヘッドに切断する(図示せず)。
【0053】
実施の形態2.
図9は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1を搭載した液滴吐出装置を示した斜視図である。なお、図9に示す液滴吐出装置は、一般的なインクジェットプリンタ100である。
本実施の形態2に係る液滴吐出装置は、ドライバIC2のIC収容穴34を形成する際に、リード部14の絶縁膜がアタックされず、絶縁不良を引き起こすことがないため、吐出特性、耐久性に優れる。
なお、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1は、図9に示すインクジェットプリンタ100の他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。
【0054】
本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1に示す液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面図。
【図3】キャビティ基板の製造工程を示す断面図。
【図4】図3に続くキャビティ基板の製造工程の断面図。
【図5】電極基板の製造工程を示す断面図。
【図6】液滴吐出ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】図6に続く液滴吐出ヘッドの製造工程の断面図。
【図8】図7に続く液滴吐出ヘッドの製造工程の断面図。
【図9】本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドを示す斜視図。
【符号の説明】
【0056】
1 液滴吐出ヘッド、2 ドライバIC、3 配線部、3a 引き出し配線、3b 延在配線、4a 第1の金属接合部、4b 第2の金属接合部、10 キャビティ基板、12 吐出室、14 リード部、15 酸化膜、16 配線引き出し孔、16a 引き出し凹部、18 振動板、20 電極基板、21 電極凹部、22 個別電極、30 リザーバ基板、31 ノズル連通孔、32 リザーバ、33 液供給連通孔、34 IC収容穴、40 ノズル基板、41 ノズル孔、100 インクジェットプリンタ、G ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、
底壁が振動板を形成し、液を溜めておく吐出室が形成されたキャビティ基板と、
前記振動板に対向し、前記振動板を駆動する個別電極が電極凹部に形成された電極基板と、
前記吐出室に液を供給するリザーバ、前記リザーバから前記吐出室に液を移送するための液供給連通孔、及び前記吐出室から前記ノズル孔に液を移送するノズル連通孔を有するリザーバ基板と、
前記キャビティ基板上に実装されて前記個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、
前記キャビティ基板上に形成されて前記ドライバICに接続され、前記ドライバICに入力信号を供給するためのリード部とを備え、
前記個別電極と前記ドライバICとは配線部により接続され、前記配線部は、その一端が前記個別電極に接続され、前記キャビティ基板に設けた配線引き出し孔から引き出され、その他端がドライバICに接続されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記個別電極と前記ドライバICとが接続される配線部によって、前記振動板と前記電極凹部との間に形成されたギャップが封止されることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記個別電極と前記配線部とが、それぞれに取り付けた金属接合部を介して導通されていることを特徴とする請求項1または2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記リザーバ基板にIC収容穴が設けられ、前記キャビティ基板に搭載されたドライバICは前記IC収容穴に収容されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記リザーバ基板に設けられたIC収容穴は、前記ノズル基板、前記リザーバ基板及び前記キャビティ基板によって閉塞されていることを特徴とする請求項4記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項7】
液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、底壁が振動板を形成し、液を溜めておく吐出室が形成されたキャビティ基板と、前記振動板に対向し、前記振動板を駆動する個別電極が電極凹部に形成された電極基板と、前記吐出室に液を供給するリザーバ、前記リザーバから前記吐出室に液を移送するための液供給連通孔、及び前記吐出室から前記ノズル孔に液を移送するノズル連通孔を有するリザーバ基板と、前記キャビティ基板上に実装されて前記個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、前記キャビティ基板上に形成されて前記ドライバICに接続され、前記ドライバICに入力信号を供給するためのリード部とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記ドライバICと前記個別電極とを接続する配線部の配線引き出し孔となる引き出し凹部を形成する工程、及び前記引き出し凹部内に前記配線部となる部材を充填する工程を有するキャビティ基板の形成工程と、
片面側に電極凹部を形成してその内部に前記個別電極を形成する工程を有する電極基板の形成工程と、
前記キャビティ基板と前記電極基板の、前記引き出し凹部側の面と前記個別電極側の面を対向させ、前記引き出し凹部内の配線部となる部材と前記個別電極とを接続して、前記キャビティ基板と前記電極基板とを接合する工程と、
前記接合されたキャビティ基板の前記引き出し凹部を形成した側の面と反対側の面を研削し前記引き出し凹部を開口して配線引き出し孔を形成し、前記配線部となる部材を露出させる工程と、
前記配線部となる部材の露出部より前記配線部となる部材を前記キャビティ基板の表面に沿って延在して前記配線部を形成する工程と、
前記キャビティ基板の前記研削した側の面よりエッチングして前記キャビティ基板に少なくとも吐出室を形成する工程と、
前記キャビティ基板上にドライバICを実装して前記配線部の延在した部分と接続する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記引き出し凹部内に前記配線部となる部材を充填する工程ののちに、前記充填材の先端に第1の金属接合部を形成する工程をさらに含むと共に、
片面側に前記電極凹部を形成してその内部に個別電極を形成する工程ののちに、前記個別電極に前記第1の接合部と導通する第2の金属接合部を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−125681(P2010−125681A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302025(P2008−302025)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】