説明

液滴吐出ヘッド、画像形成装置、及び液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】FPCの膨張収縮による不具合を回避し、電極接続部の信頼性が高く、圧電素子の連結によるヘッドの長尺化を可能とすると共に、構造が簡単で、安価な液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッド10をヘッド部100、圧電素子200、立体配線基板300で構成するに際して、圧電素子200の外部個別電極230及び外部共通電極240を互いに直交する2つの面に配置し、立体配線基板300の個別接点部341及び共通接点部351を圧電素子200の直交面に対峙する2つの面に配置し、圧電素子200と立体配線基板300とを組み合わせ、外部個別電極230と個別接点部341、外部共通電極240と共通接点部351とを当接させ、はんだ370、380で接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、画像形成装置、及び液滴吐出ヘッドの製造方法に係り、特にノズルが連通する加圧液室に対応させて配置した圧電素子を駆動して加圧液室内の液体を加圧することでノズルから液滴を噴射させる液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置及び前記液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像形成装置として用いるインクジェット装置は、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する液室(インク流路、吐出室、圧力室、加圧液室、流路等とも称される)と、この液室内のインクを加圧するための駆動手段(圧力発生手段)と、を備えた液滴吐出ヘッドを搭載している。このような液滴吐出ヘッドの駆動手段として圧電体、特に圧電層と内部電極を交互に積層した圧電素子を備え、この圧電素子の変位で液室の壁面を形成する弾性変形可能な振動板を変形させ、液室内容積/圧力を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のものが知られている。
圧電素子は、ノズルに対応する部位を駆動するため、スリット加工等により櫛歯状に分割され柱状部材を複数備えた構造を備える。このような圧電素子において、内部電極は圧電素子の外表面に形成された外部電極に引き出されており、柱状部に対応して個別電極が設けられ、更に、個別電極配列の両端に共通電極が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、圧電素子の外表面にマスク部材を介して蒸着し、圧電素子をスリット加工することにより個別電極とその両端の共通電極を形成し、駆動ICを搭載したFPC(フレキシブル回路基板、TABともいう)の端子電極とをはんだ、異方性導電膜等の接合部材を介して接続しているものが記載されている。即ち、特許文献1のものは、圧電素子形成部材の固定基板と接合された部分である固定部の固定基板とは反対側に、複数のスリットで分割されて隣接する圧電素子と電気的に独立する個別電極となる個別外部電極を並設し、且つ、その並設方向両側には隣接する圧電素子と電気的に共通する共通電極となる共通外部電極を存在させることにより、圧電素子ユニットを小型化できるものである。
また、特許文献2には、インクジェット記録ヘッドを駆動回路が実装されたセラミック基板の端面に形成された端面電極と、セラミック基板が載置される積層圧電素子のセラミック基板の端面との対向部分に形成された共通信号用外部電極及び個別信号用外部電極とが、はんだフィレットによって接続された構成が記載されている。
更に、特許文献3には、圧電素子をベースに接合し、ベースには圧電素子との接合面に対して直交する方向の面にPCB基板を接着剤で接合し、更に圧電素子の個別外部電極とPCB基板とをワイヤーで直接ワイヤーボンディングによって接続したものが記載されている。
また、特許文献4には、インク液滴を吐出するノズル孔と、ノズル孔の各々に連通する加圧液室と加圧液室の少なくとも一方の壁を構成する振動板と、振動板を駆動させる駆動部と、を有し、駆動部が圧電素子による薄板積層構造体である液滴吐出ヘッドにおいて、圧電素子が導電部材上に接続され、共通電極が引き出されているとともに、導電部材が回路基板に実装され、回路基板の電極と圧電素子の信号電極とが結線されているものが記載されている。
【特許文献1】特開2003−17770公報
【特許文献2】特開2001−88302公報
【特許文献3】特開2003−118106公報
【特許文献4】特開2007−55021公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年において、インクジェット記録装置には、高画質、高速化が要求されており、液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドのノズルを高密度化して配置したり、インクジェットヘッドを長尺化してノズル数を増加させたりする工夫がなされている。例えば、従来、20mm程度の長さであったインクジェットヘッドは、300dpiで400ノズル程度を考えた場合、30〜40mm程度の長さとされている。
圧電素子の実装構造としては、前述した圧電素子の電極とFPCの電極を接続する構造が最も一般的であるが、FPCの吸湿及び熱圧着時の膨張収縮により、圧電素子電極とFPC電極とのピッチずれが生じ、接続信頼性を大幅に低下させ、更に、圧電素子の柱倒れが生じるという課題がある。この課題は、ノズルの高密度化やヘッドの長さが長くなると顕著になる。
また、インクジェットヘッドを長尺化してノズル数を増加させる方法として、圧電素子を長尺方向に連結することが行われるが、圧電素子の個別電極の両端に共通電極を配置した端子の構造では、共通電極部にノズルを設けることができず、別のヘッド又は圧電素子を千鳥状に配置する必要があり、複雑な構造となっていた。
FPCを使わない実装構造として、特許文献2に記載のものは、セラミック基板をベース板に用いて、このベース板上及び側面に、電極をパターニングし、スリット加工で分割した積層型の圧電素子の電極とをはんだフィレットで接続している。しかし、圧電素子の電極をパターニングで形成しているため、特許文献1に記載のものと比べて高コストとなる。また、特許文献2のものは、ベース基板の側面電極と圧電素子の非スリット部に設けた端子電極とをはんだフィレットで接続しているので、ノズルの高密度化に対応した電極の微細ピッチ化が困難である。また、圧電素子の個別電極の両端に共通電極を配置しているので、圧電素子の連結による長尺化が困難である。更に、圧電素子の振動がベース基板を共振させるため、噴射特性が低下しやすくなる課題もある。
【0005】
更に、特許文献3に記載のものは、圧電素子をベースに接合するとともに、ベースに圧電素子との接合面に対して垂直な面に接着したPCBの電極と圧電素子の外部電極とをワイヤーボンディングにより接続しており、ベースとPCBを分けて設けることにより、噴射特性は良好であるものの、ワイヤーボンディングでは接続する電極数が増えると接続に時間がかかるため、ノズル数の多い長尺高密度ヘッドへの適用は不適である。
これらを考慮して、特許文献4では、成形体表面に導体配線を形成した立体配線基板を用い、個別電極と共通電極を立体配線基板の異なる面に引き出す構造とすることにより、圧電素子を連結することを可能としている。しかし、圧電素子の個別電極と立体配線基板の電極とを導電性ペースト配線により結線しているため、配線抵抗が高く、また、圧電素子と立体配線基板の連接部に表面連結部材を形成する必要があり、高コストとなっていた。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、FPCの膨張収縮による不具合を回避し、電極接続部の信頼性が高く、圧電素子の連結によるヘッドの長尺化を可能とすると共に、構造が簡単で、安価な液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため請求項1の本発明は、対応するノズルに連通する複数の加圧液室にそれぞれ対応して配置され、複数の圧電素材層からなる柱状部材を備え、該各柱状部材に配置された圧電素材層には前記柱状部材毎に個別の駆動信号を印加するため第1及び第2の内部電極が配置されると共に、前記第1の内部電極に個別に接続される外部個別電極及び前記第2の内部電極の全てに接続される外部共通電極をその表面に備えた圧電素子と、 前記圧電素子に組み合わされて配置され、その外側面に前記圧電素子の外部個別電極に接続される個別接点部、及び、前記外部共通電極に接続される共通接点部をその表面に備えた立体配線基板と、を備え、前記圧電素子は、略直交する第1の電極形成面部及び第2の電極形成面部を備え、前記外部個別電極部を前記第1の電極形成面部に、前記外部共通電極部を前記2の電極形成面部に配置し、前記立体配線基板は、略直交すると共に前記圧電素子の第1及び第2の電極形成面部に対峙する第1の接点設置面部と第2の接点設置面部とを備え、前記個別接点部を前記第1の接点設置面部に設置し、前記共通接点部を前記第2の接点接地面部に配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッドである。
請求項2の本発明は、複数の圧電素子を並べて配置したことを特徴とする。
請求項3の本発明は、前記立体配線基板は、前記圧電素子の駆動を制御する回路素子を搭載していることを特徴とする。
請求項4の本発明は、前記圧電素子の第1及び第2の電極形成面部がなす角部は面取りがされており、前記個別電極と前記共通電極、及び複数の圧電素材に接続された個別電極同士を分離していることを特徴とする。
【0007】
請求項5の本発明は、前記配線基板は、線膨張係数が10E−6/℃以下の素材で形成されていることを特徴とする。
請求項6の本発明は、前記配線基板には、線膨張係数が10E−6/℃以下の挿入部材がインサート成形されていることを特徴とする。
請求項7の本発明は、前記圧電素子の電極配置面部には外部共通電極が引き出されて形成され、前記外部共通電極は導電部材を介して前記立体配線基板の共通接点部とが接続されており、前記導電部材は、線膨張係数が10E−6/℃以下の材質で構成されていることを特徴とする。
請求項8の本発明は、前記圧電素子の外部個別電極及び前記外部共通電極のうち少なくとも1つの電極と、前記配線基板に配置された個別接点部及び共通接点部のうち少なくとも1つ接点部とは、はんだで接続され、前記はんだはフィレット部を備えることを特徴とする。
請求項9の本発明は、前記立体配線基板に配置され、前記個別電極及び前記共通電極はその厚さ方向の一部が前記立体配線基板を構成する成形体に埋没形成されていることを特徴とする。
請求項10の本発明は、前記液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置である。
請求項11の本発明は、前記立体配線基板の配線を転写により形成することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、FPCを使わずに圧電素子と駆動手段である駆動ICと結線できるので、FPCの膨張収縮による不具合を回避でき、電極接続部の信頼性を高くできる。
また、共通電極を個別電極の両端に形成しないので、圧電素子の電極構造を簡単にすることができるとともに、圧電素子の端部まで振動部に使用できる。
更に、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法によれば、立体配線基板の配線を転写により形成しているので立体配線基板の成形体として低線膨張係数のエポキシ樹脂も用いることができ、成形材料の選択肢が広い他、全ての配線を同時に転写できるので、配線数が多く、配線ピッチが小さくても高コストとならず、液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1は実施の形態例に係る液滴吐出ヘッドを示すものであり、(a)は圧電素子部の短手方向断面図、(b)は圧電素子部の長手方向断面図、図2は圧電素子の拡大断面図、図3は液滴吐出ヘッドの圧電素子を示す斜視図である。
本例に係る液滴吐出ヘッド10は、ヘッド部100と、圧電素子200と、立体配線基板300と、を備えている。ヘッド部100は、単結晶シリコン基板で形成した流路基板(液室基板)110と、この流路基板110の下面に接合した振動板120と、流路基板110の上面に接合されインク滴を吐出するノズル131を形成したノズル板130と、を備えている。また、ヘッド部100は、流路基板110、振動板120、ノズル板130によって、ノズル板130にインク連通路を介して連通する流路(インク液室)である加圧液室141、加圧液室141に流体抵抗部となるインク供給路142を介してインクを供給する共通液室143を形成している。
流路基板110は、結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、各加圧液室となる貫通穴、インク供給路となる溝部、共通液室となる貫通穴をそれぞれ形成している。
【0010】
振動板120は、例えばニッケルの金属プレートから形成したものである。尚、振動板120は樹脂部材あるいは樹脂部材と金属部材の積層部材などで形成することができる。振動板120は流路基板110に接着剤接合されている。また、振動板120は、外部のインクタンク(図示していない)に連結されるインク供給路(図示していない)を備えるフレーム150に接着剤接合されている。
ノズル板130は、各加圧液室141に対応して直径10〜30μmのノズル131が形成されており、流路基板110に接着剤接合されている。このノズル板130は、ステンレス、ニッケルなどの金属、金属とポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂との組み合わせ、シリコン、及びそれらの組み合わせからなるものを用いることができる。また、ノズル面(吐出方向の表面:吐出面)には、インクとの撥水性を確保するため、めっき、撥水剤コーティングなどの周知の方法で撥水膜を形成している。
【0011】
圧電素子200は、図2に示すように、上面261、下面262、垂下面263、264を備えた略立方体状の部材として構成されており、下面262と垂下面264とは略直角をなすよう形成され、下面262と垂下面264が接する辺に相当する部分が面取りされた形状をなしている。また本例では、2つの圧電素子200が振動板120の下方に並べて配置されており、これら2つの圧電素子200は、1つの立体配線基板300に実装される。
圧電素子200は、振動板120の各加圧液室141に対応する部位を個別に駆動する。このため、圧電素子200には、スリット加工により、図1(b)及び図3に示すように、隙間部270を挟んで櫛歯状になるよう分割形成された複数の柱状部材260が形成されている。振動板120は、柱状部材260の上面261において、圧電素子200に接合されている。尚、図3においては、個別電極221及び共通電極222は図示していない。
圧電素子200の各柱状部材260は、圧電材料層210と内部電極220とを交互に積層して形成されている。内部電極220は、柱状部材260に固別の駆動信号を印加するための第1の内部電極である個別電極221と第2の内部電極である共通電極222とからなる。
【0012】
圧電素子200のスリット加工は、内部電極220が配置された圧電素子200をダイシングやワイヤーソーにより加工することができ、ダイヤモンドホイールを用いたダイシング加工の方が高密度の加工が可能となる。また、圧電素子200のスリット加工は圧電素子200を立体配線基板300に実装する前、又は実装した後のどちらに行ってもよい。尚、図では簡単のため柱状部材260を8本設けた例を示しているが、実際には数100本備えている。
圧電素子200の各柱状部材260は、圧電材料層210と内部電極220と、を交互に積層して構成されている。内部電極220は、上述のように柱状部材260に固別の駆動信号を印加するための第1の内部電極である個別電極221と第2の内部電極である共通電極222とからなる。
個別電極221は、柱状部材260のそれぞれの垂下面264に配置された外部個別電極230を経て駆動IC400に個別に接続される。外部個別電極230は垂下面264の表面に配置された導電性の薄膜で構成される。
【0013】
また、共通電極222は、柱状部材260の垂下面263から下面262にかけて配置された外部共通電極240を経て駆動IC400に接続される。外部共通電極240は、柱状部材260の垂下面263に配置された垂下部240aと、下面262に配置された水平部240bとから構成される。外部共通電極240の垂下部240aは共通電極222と同様に柱状部材260毎に形成されており、複数の垂下部240a間には隙間があり絶縁状態となっている。また、外部共通電極240の水平部260bは複数の垂下部240aが接続された状態であり、共通電極222は外部共通電極240の垂下部240aから水平部240bで統合されて駆動IC400に接続される。そして、水平部240bは圧電素子200の下面262の長手方向両端部にまで形成され、後述する立体配線基板300の共通接点部351に接続される。
本例では、圧電素子200の圧電方向としてd33方向の変位を用いて加圧液室141内のインクを加圧する場合を一例としているが、圧電方向としてd31方向の変位を用いて加圧液室141内のインクを加圧する構成とすることもできる。また、本例では圧電素子200の外部個別電極230、外部共通電極240は、圧電素子200長手方向の3面に金属材料をスパッタ又は蒸着し、下面262と垂下面264との角部(コーナー)にC面取部250を形成している。これにより、個別電極221と共通電極222を分離し、また、複数の個別電極221同士を分離している。金属材料としては、クロム、ニッケル、銅、金やこれらの合金等を用いることができ、これらを積層して用いることもできる。電極間を分離して形成する方法としては、電極形成時にマスキングする方法や電極形成後に部分エッチングする方法も用いることができるが、面全体に形成し面取りする本実施例に比べて高コストとなる。
また、本例では、ノズルの高密度化のために、図1に示すように、圧電素子200を短手方向に対称に2個配置しているが、必要に応じて圧電素子を1個とすることができる。
【0014】
次に、立体配線基板300について説明する。図4は立体配線基板の一部を拡大して示す斜視図である。まず、立体配線基板300は、図1及び図4に示すように、略直方体の基体310と、基体310上面に配置された柱状部材260と同数の立設部320とから形成されている。立設部320は、図4に示すように、圧電素子200の柱状部材260と同ピッチで櫛歯状にスリット加工され、複数のスリット部330を挟んで配置されている。また、基体310の側面部311には、圧電素子200駆動用の回路素子である駆動IC400が配置されている(図1参照)。
立設部320の側面部321には、圧電素子200の外部個別電極230に接触する所定数の個別接点部341を備えている。これらの個別接点部341は所定数の個別用電極用配線340を介して駆動IC400に接続されている。個別用電極用配線340は立設部320の側面部321、基体310の上面部312、側面部311を経て駆動IC400に至っている。
基体310の上面部312であって、個別用電極用配線340が配置されていない長手方向両端部には、それぞれ共通接点部351が形成されている。共通接点部351は共通電極用配線350を介して駆動IC400に接続されている。この共通電極用配線350は上面部312、側面部311の個別用電極用配線340が配置されていない個所を経て駆動IC400に至っている。
【0015】
また、基体310の上面部312であって個別用電極用配線340が形成された部分には、図4に示すように、個別用電極用配線340を覆うように合成樹脂膜からなる絶縁用のソルダーレジスト360が配置されている。
本例では、立体配線基板300の成形材料として、熱硬化性半導体用エポキシ樹脂を用いている。具体的には、住友ベークライト株式会社製EME−760を用いた。この材料はシリカフィラーが含有されており、線膨張係数は9E−6/℃である。これにより、吸湿や電極間接続時の膨張収縮が小さく、圧電素子と立体配線基板の電極接続部の剥離や、圧電素子の柱倒れを防止できる。尚、線膨張係数は10E−6/℃以下で、吸湿や電極間接続時の膨張収縮が小さい材料であればよい。
【0016】
また、立体配線基板300の個別用電極用配線340及び共通電極用配線350は、銅配線を用いて形成している。これにより、ワイヤーボンディングや導電性ペースト配線に比べ、配線抵抗を低くできる。また、個別接点部341及び共通接点部351には銅配線上にニッケル、金を被覆形成している。これにより、電極間の接続信頼性を向上させることができる。尚、電極部以外に、ニッケル、金を形成してもよく、ソルダーレジストを形成することもできる。尚、本例では、個別用電極用配線340はその厚み方向の一部を基体310に埋没するように配置している(図9(b)参照)。これにより個別用電極用配線340と基体310との密着力を高くでき、個別用電極用配線340が基体310から剥離することを防止できる。
更に、本例では、立体配線基板300の側面部311には圧電素子200の駆動を制御する駆動IC400を搭載している。これにより、立体配線基板300の外部基板(図示していない)との接続電極数を減らすことができ、また、立体配線基板300と外部基板の接続をFFC(フレキシブルフラットケーブル:図示していない)で行うことができるようになる。立体配線基板300の個別用電極用配線340及び共通電極用配線350と駆動IC400との接続は、金やはんだ等からなるバンプ410や異方性導電膜等により接続することができる。また、バンプ410に替えワイヤーボンディングによる接続を行うことができる。
また、本例では、圧電素子200の外部個別電極230と立体配線基板300の個別接点部341とは、はんだ370で接続され、また、同じく外部共通電極240と共通接点部351とは、はんだ380で接続されている。これらの接続部材としては、はんだの他、導電性接着剤、異方性導電膜を用いることができる。尚、はんだは接続抵抗が小さく高信頼性のため接続部材として好適である。接続部材は、圧電素子の電極又は立体配線基板の電極に、スクリーン印刷、ノズル印刷、転写法等により印刷し、圧電素子を立体配線基板に電極を位置合わせしながら実装し、接続部を加熱することで、圧電素子の電極と立体配線基板の電極を接続することができる。
【0017】
以上説明したように、本発明に係る液滴吐出ヘッド10は、圧電素子200の内部電極220に接続する外部個別電極230及び外部共通電極240を圧電素子200の直交する垂下面264と下面262とに形成し、立体配線基板300の個別用電極用配線340と共通電極用配線350を互いに直交する立設部320の側面部321と基体310の上面部312面に形成して、外部個別電極230と個別用電極用配線340、外部共通電極240と共通電極用配線350とを直接接続するようにしているので、FPCを使用することなく圧電素子200及び立体配線基板300の接続ができ、FPCの膨張収縮により発生するさまざまな不具合を回避し、電極接続部の信頼性を高いものとすることができる。
また、立体配線基板300に圧電素子200の駆動を制御する駆動IC400を搭載するようにしているので、立体配線基板300と外部基板の接続をFFCで行うことができ、外部基板との接続にFPCを用いる必要がなく、FPCの膨張収縮による不具合を回避できる。
また、圧電素子200の外部個別電極230と外部共通電極240を、下面262、垂下面263、264の3面に導電膜を形成し、垂下面264と下面262とがなす角部を面取り加工することにより、外部個別電極230と外部共通電極240とを分離し、更に、圧電素子200をスリット加工することにより、各柱状部材260における外部個別電極230を分離するようにしているので、電極の構造を簡単にすることができ、マスキングやエッチングにより電極形成する方法に比して、電極制作に関する製造コストを低減することができる。
【0018】
また、立体配線基板300は、その線膨張係数を10E−6/℃以下としているので、圧電素子200と立体配線基板300の線膨張係数の差を小さくでき、圧電素子200と立体配線基板300間の電極接続部の剥離や、圧電素子の柱倒れを防止できる。
また、立体配線基板の配線の厚み方向の一部を成形体に埋没して形成することができる。このようにすることにより、成形体と配線の密着力を高くでき、配線が成形体から剥離することを防止できる。
尚、上記例では、外部個別電極230を垂下面264に、外部共通電極240を垂下面263及び下面262に形成したが、外部個別電極230を垂下面263及び下面262に、外部共通電極240を垂下面264に設けるようにして、立体配線基板300に設ける個別接点部341及び共通接点部351を各共通電極に対応する面に設けるようにしてもよい。
【0019】
次に本発明に係る液滴吐出ヘッドの第2の実施形態例について説明する。図5は第2の実施例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の長手方向断面図である。本例に係る液滴吐出ヘッド510は、第1の例に係る液滴吐出ヘッド10の圧電素子200と同じ長さ寸法の3個の圧電素子520、530、540を長手方向に3個接続して配置したものである。本例では、流路基板、振動板、ノズル板を備えるヘッド部550、立体配線基板560はそれぞれ、第1の例に係るものの3倍の長さ寸法のものを一体で形成している。尚、圧電素子の連接個数は、3個に限らず2個、あるいは4個以上であってもよい。
本例に係る液滴吐出ヘッド510によれば、外部個別電極と、外部共通電極とを積層型ヘッド部に覆い隠されない圧電素子520、530、540の直交する面に形成しているので、圧電素子520、530、540を長手方向に連接する際、外部個別電極230及び外部共通電極240を露出させた状態として個別接点部及び共通接点部に接続することができる他、全ての圧電素子の端部までを振動板の駆動に用いることができる。このため、隣り合う圧電素子のそれぞれの接合部に至るまで、ノズル間隔を等ピッチに配置でき、圧電素子を千鳥状に配置する必要がなくなり液滴吐出ヘッドを小型化することできる。
尚、この場合、圧電素子のスリット加工は圧電素子を立体配線基板に実装した後に行うことが望ましい。これにより、圧電素子に位置ずれが生じても、柱状部材の位置ずれは生じず、正しいピッチの液滴吐出ヘッドを製造することができる。
以上のように、本実施形態例に係る液滴吐出ヘッドによれば、圧電素子を長手方向に隣接配置し、その他の部材を一体型として形成しているので、FPCを使用せずに、液滴吐出ヘッドの長尺化が可能である。これにより、長尺ヘッドでも、圧電素子電極部のFPCの膨張収縮による不具合を回避し、電極接続部の信頼性が高い液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0020】
次に第3の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドについて説明する。図6は第3の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の短手方向断面図である。本例の液滴吐出ヘッド600は、立体配線基板610に、線膨張係数が10E−6/℃以下のインサート部材620をインサート成形している。他の構成は、第1の実施例に係る液滴吐出ヘッド10と同一であるので、同一の部材には同一の符号を附してその詳細な説明は省略する。インサート部材620としては、線膨張係数が約7E−6/℃である42Ni−Fe材を、立体配線基板610の形状を略縮小した形状としている。このインサート部材620の材料として、PZT、アルミナ、シリカガラス等の線膨張係数が10E−6/℃以下の部材を用いることができる。
本実施形態例によれば、立体配線基板610の素材である成形樹脂として、線膨張係数が10E−6/℃以上である部材を用いても、圧電素子と立体配線基板の熱膨張差を小さくでき、圧電素子と立体配線基板の電極接続部の剥離や、圧電素子の柱倒れを防止できる。立体配線基板610の素材としては、例えば、線膨張係数が約32E−6/℃である液晶ポリマー(住友ベークライト株式会社製ベクトラC820)を使用できた。尚、線膨張係数が10E−6/℃以下の部材をインサート成形しなかった場合は、圧電素子と立体配線基板の接続時に圧電素子の柱倒れが生じた。
本例では立体配線基板に線膨張係数が10E−6/℃以下の部材をインサート成形しているので、立体配線基板の成形樹脂として線膨張係数が10E−6/℃以上の樹脂を用いることができ、その場合でも電極接続部の信頼性が高い液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0021】
次に第4の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドについて説明する。図7は第4の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の短手方向断面図である。本例に係る液滴吐出ヘッド700は、圧電素子800と立体配線基板900とを備える。圧電素子800は、第1実施例に係る圧電素子200と略同一の櫛歯構造を備え、圧電素子800には、上面811、下面812、垂下面813、814が形成されている。本例では、これらの面のうち下面812に外部共通電極820が形成され、垂下面814に外部個別電極830が形成されている。
立体配線基板900は、基部910とこの基部910の両側部に配置される立設部920とを備え、略凹字形状をなしており、立体配線基板900の外側面930には、駆動IC400が配置される他、外側面930から立設部920の内側にかけて個別用電極用配線940が配置されている。また、基部910の上側面911には、共通電極用配線950が配置されている。尚、個別電極用配線940の外側には、ソルダーレジスト層960が配置されている。
本例では、外部共通電極820は、立体配線基板900の基部910の上側面911上に設けられた導電部材970を介して共通電極用配線950にはんだ981、982で接続されている。ここで、共通電極用配線950は、線膨張係数が10E−6/℃以下の部材である。
また、外部個別電極830は、立設部920の内部において、はんだ983を介して個別電極用配線940に接続されている。尚、この実施形態例では、圧電素子は短手方向に2個配置され、外部個別電極830をフレーム150側に形成している。
ここで、導電部材970としては金属が好ましく、導電部材970を金属とすることにより、接続抵抗を小さくでき、また、圧電素子800の自己発熱による蓄熱を防止することができる。圧電素子はチャンネル数が増えると、自己発熱により100℃近くまで温度が上昇し、接合信頼性が低下する。また、自己発熱によりヘッド内部の温度上昇が発生し、インク温度が上昇するが、インクの温度が上昇すると、インク粘度が低下し、噴射特性に大きな影響を与える。したがって、導電部材を金属とすることにより、接続抵抗の低下だけでなく、接合信頼性の低下や噴射特性の劣化を防止することができる。
【0022】
上述のように本例では、導電部材として、線膨張係数が10E−6/℃以下の部材を用いている。導電部材の線膨張係数が大きいと、圧電素子と導電部材の接続に接着剤を用いた場合、高温又は低温で圧電素子と導電部材の剥離が発生することがある。即ち、従来は、圧電素子の全長が長くなかったため、環境変動による温度差で圧電素子と導電部材が剥離するという問題はほとんどなかったが、300dpiで400ノズル程度を有する30〜40mm程度の長さの圧電素子を用いることでこの問題が顕在化した。したがって、導電部材としては線膨張係数が10E−6/℃以下の材質を用いることが好ましく、この線膨張係数の範囲にすることにより、環境変動による温度差で、圧電素子との接続界面が剥離することを防止できる。特に、圧電素子に接続される部品の線膨張係数を全て10E−6/℃以下にすると、接続界面の剥離に対し、非常に効果的であることを確認した。
導電部材の具体的な材料としては、42Ni−Fe等の合金を用いることができ、導電部材の表面に金を形成することができる。
導電部材と圧電素子の電極又は立体配線基板の電極との接続部材としては、はんだ、導電性接着剤、異方性導電膜を用いることができ、はんだが接続抵抗が小さく高信頼性のため望ましい。
【0023】
また、導電部材は表面が露出した状態で成形体にインサート成形され、表面で配線と接続することもできる。
また、本例では、圧電素子は短手方向に2個配置され、個別電極をフレーム側に形成することにより、共通電極を圧電素子の振動板との反対面に引き出しているので、導電部材との接続面積を大きくでき、接続信頼性を向上できる。また、圧電素子の放熱特性も向上するため、接合信頼性の低下や噴射特性の劣化を防止することができる。
本例によれば、共通電極を圧電素子の振動板との反対面に引き出し、線膨張係数が10E−6/℃以下の導電部材を介して立体配線基板に接続しているので、部材間の熱膨張差が小さく、共通電極の接続部の信頼性を高くできる。
【0024】
次に第5の実施形態例について説明する。図8は第5の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子と立体配線基板の電極接続部を示す断面図である。本例では、圧電素子1200には、上面1211、下面1212、垂下面1213、1214が形成され、垂下面1214から下面1212にかけては外部共通電極1220が、垂下面1213には外部個別電極1220が配置されている。また、立体配線基板1300は、基部1310と立設部1320とを備えて構成され、基部1310の上面には共通電極1330が、立設部1320には個別電極1340が配置されている。ここで個別電極1340は、水平部1341と垂下部1342を備えた鈎形状(¬形状)に配置され基部1310の肩部に設置されている。
本例では、外部共通電極1220は共通電極1330に、外部個別電極1230は個別電極1340にそれぞれはんだ1350、1360で接続されるが、外部個別電極1230と個別電極1340との間のはんだ1360は、フィレット部1370を形成するようにされる。尚、ここではフィレット部は個別電極1340への接続用のはんだ1360に形成しているが、電極形状を鈎型にすることにより共通電極1330側でも同様にフィレット部を形成することができる。
以上のように、本例によれば、圧電素子1200の電極と立体配線基板1300の電極をはんだでフィレット部を形成しつつ接続するので、圧電素子と立体配線基板の接続部の信頼性を高いものとすることができる。
【0025】
次に第6の実施形態例について説明する。本例は液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。本例では、液滴吐出ヘッドの立体配線基板は、配線厚の一部が成形体に埋没するように、配線を転写により形成する。従来の立体配線基板の製造方法で最も微細な配線を形成できる製造方法として以下の手順によるものがある。この工法の概略を以下に示す。
1.成形体表面を活性処理したポリフタルアミドや液晶ポリマー等の樹脂又はセラミック表面に銅を蒸着又はスパッタする。
2.配線の輪郭に沿ってレーザで走査し、銅をエッチングする。
3.配線部分に電解銅めっきを行い、配線を厚膜化する。
4.銅をソフトエッチング(配線以外の薄膜部分を除去)する。
5.配線に電解ニッケル及び金めっきを行う。
この方法では、60μmピッチ(約400dpi)まで配線を形成することが可能とされている。
しかし、配線と成形体の密着力を高めるための活性処理を行う必要があり、実施例1で採用される低膨張の熱硬化性半導体用エポキシ樹脂には適用できない。例えば、線膨張係数がポリフタルアミドは10〜25E−6/℃、液晶ポリマーは15〜150E−6/℃である。また、配線の輪郭をレーザで走査するため、配線数が多く、配線ピッチが小さいと、工数が増え、高コストとなる。
このため、液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法としては、最適のものではない。そこで本例では、立体配線基板の成形体を成形する型に配線を形成しておき、型から成形体を離型するときに配線を成形体に転写するものとしている。このとき、配線厚の一部が成形体に埋没するように立体配線基板が形成される。
【0026】
以下液滴吐出ヘッドの製造方法の実施形態例について説明する。図8は第8の実施形態例である液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法を説明するものであり、(a)は成形時の金型と樹脂の接触部(配線部)断面図、(b)は離型後の配線断面図である。まず、立体配線基板の成形体を成形する金型の樹脂との接触面に絶縁膜を形成する。金型としては、ステンレス(SUS304等)の各種鋼材を用いることができ、表面にニッケル等が形成されていてもよい。また、離型性を向上させるためにステンレスフィルム等を用いることもできる。
絶縁膜としては、ポリイミド膜や絶縁性ダイヤモンドライクカーボン膜等の各種絶縁膜を用いることができ、以下の工程に耐えられる材料であればよい。膜厚としては、膜の絶縁性や膜厚ばらつきに応じて0.5〜10μm程度が好ましいが、以下の工程に耐えられれば、厚くてもかまわない。ここでは、ポリイミド膜を2μm形成した。形成方法としては印刷、浸漬、蒸着、接着等の各種工法を用いることができる。
次に、絶縁膜の配線相当部をエッチングする。この処理では、絶縁膜上にレジストを形成し、フォトリソグラフィでパターニングし、RIE法により絶縁膜の配線相当部をエッチングし、絶縁膜に開口パターンを形成した。この開口パターンの最も狭いところは、60μmピッチとした。
次に、開口部に配線を形成する。この処理では、開口部に電解銅めっきを行い、銅配線を10μm厚で形成した。この電解銅めっきは絶縁膜の膜厚より厚いため、配線断面形状はきのこ形状となる。
次に、配線に表面改質処理を行う。この処理では、配線部分を薬剤:カッパーボンド(荏原ユージライト製)に浸漬することにより、表面改質処理を行った。この表面処理により、配線と樹脂の密着力を確保できた。尚、この表面改質により、若干導体配線膜厚は薄くなり8μm程度となった。
【0027】
次に、配線を形成した金型により樹脂成形を行う。この処理では、配線を形成した金型及びその他の金型を成形機にセットし、図9(a)に示すように、熱硬化性半導体封止用エポキシ樹脂(住友ベークライト株式会社製EME−760)を注入し、トランスファー成形した。離型後、型上に形成した配線は、図9(b)に示すように、成形体表面に転写された。成形樹脂に埋め込まれた配線厚は約8μmであり、配線厚約2μmが露出していた。尚、配線に表面処理を行わなかった場合は、配線の一部が成形体から浮いた状態となり、配線と樹脂の密着力が弱かった。
次に、配線にニッケル、金めっきを行う。これは、圧電素子の電極との接続信頼性向上のために行うのが好ましく、めっきを行わない場合は、銅の酸化防止処理を行うのが好ましい。具体的には、電気ニッケルめっき、無電解金めっきを行い、配線膜厚は約10μmとなった。
次に、必要に応じて、ソルダーレジストを形成する。具体的には、スクリーン印刷、ノズル印刷、転写法等により印刷し、熱硬化することにより形成できる。
本例に係る液滴吐出ヘッドの製造方法では、配線を転写により形成しているので、立体配線基板の成形体として低線膨張係数のエポキシ樹脂を用いることができる。また、全ての配線を同時に転写できるので、配線数が多く、配線ピッチが小さくても高コストとならず、液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法として、好適である。
【0028】
また、配線厚の一部が成形体に埋没するように形成しているので、成形体と配線の密着力を高くでき、配線が成形体から剥離することを防止できる。また、配線を厚くしても成形体と配線の密着力は低くならず、逆に高くなるので、配線を厚くすることができ、配線が微細になっても、配線抵抗を低減できる。
以上説明したように、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、外部電極の個別電極と共通電極を互いに垂直な面に形成し、且つ、立体配線基板の互いに垂直な面に形成された電極に接続しているので、FPCを使わずに駆動ICと結線できる。これにより、FPCの膨張収縮による不具合を回避でき、電極接続部の信頼性を高くできる。また、共通電極を個別電極の両端に形成しないので、圧電素子の電極構造を簡単にすることができるとともに、圧電素子の端部まで振動部に使用できる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、圧電素子を長手方向に列的に連接配置しているので、従来の個別電極の両端に共通電極を形成した圧電素子と異なり、個別電極と共通電極を圧電素子の互いに垂直な面に形成した圧電素子を直列的に連接して配置しているので、圧電素子の端部までを振動板の駆動に用いることができ、圧電素子の連接部でもノズルを等ピッチに配置できる。即ち、単一の圧電素子を長尺で形成する必要がなく、従来の短い圧電素子を用いることができる。また、圧電素子を並べて長尺化する場合でも、従来のように圧電素子を千鳥に配置する必要がなく、直列に隣接して配置することができ、ヘッドを小型化できる。また、本発明によれば、圧電素子を長手方向に隣接配置し、振動板、立体配線基板等は一体で形成しているので、FPCを使用せずに、液滴吐出ヘッドの長尺化が可能である。これにより、長尺ヘッドでも、圧電素子電極部のFPCの膨張収縮による不具合を回避し、電極接続部の信頼性が高くできる。
【0029】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、立体配線基板に圧電素子の駆動を制御するICを搭載しているので、立体配線基板の外部基板との接続電極数を減らすことができ、また、立体配線基板と外部基板の接続をFFCで行うことができるため、外部基板との接続にFPCを用いる必要がなく、FPCの膨張収縮による不具合を回避できる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、圧電素子の振動板との反対面の一辺を面取りし、個別電極と共通電極及び個別電極同士を分離しているので、電極形成時にマスキングする方法や電極形成後に部分エッチングする方法を用いる必要がなく、簡単に電極同士を分離することができ、安価にできる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、立体配線基板の線膨張係数を10E−6/℃以下としているので、圧電素子と立体配線基板の線膨張係数の差を小さくでき、圧電素子と立体配線基板の電極接続部の剥離や、圧電素子の柱倒れを防止できる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、線膨張係数が10E−6/℃以下の部材を立体配線基板にインサート成形するので、立体配線基板の成形樹脂として線膨張係数が10E−6/℃以上の樹脂を用いることができ、その場合でも電極接続部の信頼性を高くできる。
【0030】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、圧電素子の振動板との反対面に共通電極を引き出して形成し、共通電極と線膨張係数が10E−6/℃以下の導電部材及び導電部材と立体配線基板の電極とを接続しているので、圧電素子と導電部材の熱膨張差が小さく、共通電極の接続部の信頼性を高くできる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、圧電素子の外部電極と立体配線基板の電極をはんだフィレットで接続しているので、圧電素子と立体配線基板の接続部の信頼性を高くできる。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、立体配線基板の配線の配線厚の一部を成形体に埋没しているので、立体配線基板の成形体と配線の密着力を高くでき、配線が成形体から剥離することを防止できる。また、配線を厚くしても成形体と配線の密着力は低くならず、逆に高くなるので、配線を厚くすることができ、配線が微細になっても、配線抵抗を低減できる。
そして、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法によれば、立体配線基板の配線を転写により形成しているので立体配線基板の成形体として低線膨張係数のエポキシ樹脂も用いることができ、成形材料の選択肢が広い。また、全ての配線を同時に転写できるので、配線数が多く、配線ピッチが小さくても高コストとならず、液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態例に係る液滴吐出ヘッドを示すものであり、(a)は圧電素子部の短手方向断面図、(b)は圧電素子部の長手方向断面図である。
【図2】図1に示した液滴吐出ヘッドの拡大断面図である。
【図3】液滴吐出ヘッドの圧電素子を示す斜視図である
【図4】液滴吐出ヘッドの立体配線基板の配線パターンを示す斜視図である。
【図5】第2の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の長手方向断面図である。
【図6】第3の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の短手方向断面図である。
【図7】第4の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子部の短手方向断面図である。
【図8】第5の実施形態例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子と立体配線基板の電極接続部を示す断面図である。
【図9】第8の実施形態例である液滴吐出ヘッドの立体配線基板の製造方法を説明するものであり、(a)は成形時の金型と樹脂の接触部(配線部)断面図、(b)は離型後の配線断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 液滴吐出ヘッド、100 ヘッド部、110 流路基板(液室基板)、120 振動板、130 ノズル板、131 ノズル、141 加圧液室、142 インク供給路、150 フレーム、200 圧電素子、210 圧電材料層、220 内部電極、221 個別電極、222 共通電極、230 外部個別電極、240 外部共通電極、240a 垂下部、240b 水平部、250 C面取部、260 柱状部材、260b 水平部、261 上面、262 下面、263、264 垂下面、264 垂下面、263、264 垂下面、270 隙間部、300 立体配線基板、310 基体、311 側面部、312 上面部、320 立設部、321 側面部、330 スリット部、340 個別用電極用配線、341 個別接点部、350 共通電極用配線、351 共通接点部、360 ソルダーレジスト、370、380 はんだ、400 駆動IC、410 バンプ、510 液滴吐出ヘッド、520、530、540 圧電素子、550 ヘッド部、560 立体配線基板、600 液滴吐出ヘッド、610 立体配線基板、620 インサート部材、700 液滴吐出ヘッド、800 圧電素子、811 上面、812 下面、813、814 垂下面、820 外部共通電極、830 外部個別電極、900 立体配線基板、910 基部、911 上側面、920 立設部、930 外側面、940 個別用電極用配線、950 共通電極用配線、960 ソルダーレジスト層、970 導電部材、981、982、983 はんだ、1200 圧電素子、1211 上面、1212 下面、1213、1214 垂下面、1220 外部共通電極、1230 外部個別電極、1300 立体配線基板、1310 基部、1320 立設部、1330、1340 共通電極、1341 水平部、1342 垂下部、1350、1360 はんだ、1370 フィレット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応するノズルに連通する複数の加圧液室にそれぞれ対応して配置され、複数の圧電素材層からなる柱状部材を備え、該各柱状部材に配置された圧電素材層には前記柱状部材毎に個別の駆動信号を印加するため第1及び第2の内部電極が配置されると共に、前記第1の内部電極に個別に接続される外部個別電極及び前記第2の内部電極の全てに接続される外部共通電極をその表面に備えた圧電素子と、
前記圧電素子に組み合わされて配置され、その外側面に前記圧電素子の外部個別電極に接続される個別接点部、及び、前記外部共通電極に接続される共通接点部をその表面に備えた立体配線基板と、を備え、
前記圧電素子は、略直交する第1の電極形成面部及び第2の電極形成面部を備え、前記外部個別電極部を前記第1の電極形成面部に、前記外部共通電極部を前記2の電極形成面部に配置し、
前記立体配線基板は、略直交すると共に前記圧電素子の第1及び第2の電極形成面部に対峙する第1の接点設置面部と第2の接点設置面部とを備え、前記個別接点部を前記第1の接点設置面部に設置し、前記共通接点部を前記第2の接点接地面部に配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の圧電素子を並べて配置したことを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記立体配線基板は、前記圧電素子の駆動を制御する回路素子を搭載していることを特徴とする請求項1又は2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電素子の第1及び第2の電極形成面部がなす角部は面取りがされており、前記個別電極と前記共通電極、及び複数の圧電素材に接続された個別電極同士を分離していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記配線基板は、線膨張係数が10E−6/℃以下の素材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記配線基板には、線膨張係数が10E−6/℃以下の挿入部材がインサート成形されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記圧電素子の電極配置面部には外部共通電極が引き出されて形成され、前記外部共通電極は導電部材を介して前記立体配線基板の共通接点部とが接続されており、
前記導電部材は、線膨張係数が10E−6/℃以下の材質で構成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧電素子の外部個別電極及び前記外部共通電極のうち少なくとも1つの電極と、前記配線基板に配置された個別接点部及び共通接点部のうち少なくとも1つの接点部とは、はんだ部で接続され、前記はんだはフィレット部を備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記立体配線基板に配置され、前記個別電極及び前記共通電極はその厚さ方向の一部が前記立体配線基板を構成する成形体に埋没形成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れか一項記載の液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記立体配線基板の配線を転写により形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−12724(P2010−12724A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176099(P2008−176099)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】