液滴吐出ヘッドおよび液体吐出装置
【課題】記録に使用される液滴(使用液滴)の飛翔に影響を与えず、記録に使用されない液滴(不使用液滴)を回収するコンティニュアス式液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】吐出ノズル101および回収ノズル102を吐出ノズル101から吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように回収ノズル102の開口から液面を突出させ、不使用液滴を回収ノズル102から突出させた液面と衝突させて合体させ、当該液面を後退させることで不使用液滴を回収する。また、回収ノズル102内部に、開口の中心領域と内周壁面領域との間の液体の流れを制限する構造体を配置する。
【解決手段】吐出ノズル101および回収ノズル102を吐出ノズル101から吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように回収ノズル102の開口から液面を突出させ、不使用液滴を回収ノズル102から突出させた液面と衝突させて合体させ、当該液面を後退させることで不使用液滴を回収する。また、回収ノズル102内部に、開口の中心領域と内周壁面領域との間の液体の流れを制限する構造体を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるコンティニュアス方式の液滴吐出装置は、ポンプで液体に常時圧力をかけてノズルから押し出し、さらに加振手段により振動を加えることで、ノズルから吐出された液体が規則正しく液滴化する状態を形成する。この方式では、液滴がノズルから吐出され続けるので、印刷データにあわせて印刷に使用する液滴と使用しない液滴を選別する必要がある。いわゆる荷電偏向方式では、液滴を選択的に帯電させ、電場によって偏向させ、非帯電液滴と異なる軌道を飛翔するようにして選別を行う。選別された非印刷液滴は、ガターによって捕獲、回収する。これらの機能を実現するため、ノズルから液滴飛翔軌道に沿って、帯電電極、偏向電極、ガターが設けられる。
【0003】
特許文献1は、液滴を帯電させることなく液滴を選別する方法を開示している。具体的には、ノズルで大液滴と小液滴を打ち分け、液滴の飛翔路に形成したミスト状液滴からなる液体カーテンを通過させることで、小液滴を捕獲し、大液滴のみを記録媒体に着弾させる構成を開示している。また、特許文献2は、コンティニュアス方式の液体吐出装置ではないが、飛翔する液滴に別の液滴を衝突させる技術を開示している。具体的には、第1の吐出口からの液滴(主滴)に第2の吐出口からの液滴を衝突させ、飛翔方向をそらすことで、第1の吐出口からのサテライト滴(極小滴)のみを記録媒体に着弾させることで、記録ドットの微小化を図る構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−334957号公報
【特許文献2】特開2008−143188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、記録液滴が帯電していると、前後の帯電液滴や壁面に付着した帯電したミストとの静電相互作用を受け、飛翔軌道がずれてしまい、着弾精度が悪くなってしまう可能性がある。記録液滴を帯電させない場合においても、先行する帯電液滴の影響で、静電誘導により記録液滴が帯電してしまう可能性がある。
【0006】
また、特許文献1に示す方法では、記録液滴も液体カーテンを通過するため、液体カーテンの影響を受けて、着弾位置がずれる可能性がある。特許文献2に示されている方法では、非記録液滴の捕獲のために、別の液滴を飛翔させ、ガターに着弾させるが、着弾時に跳ね返りミストが発生し、飛翔路を汚してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、使用液滴(記録液滴)の着弾精度を高めつつ、液滴飛翔路中のミストの発生を抑制可能な液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する液体吐出ヘッドであって、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用液滴(記録液滴)に影響を与えず不使用液滴(非記録液滴)の選別回収が可能であるため、使用液滴(記録液滴)の着弾精度を高めることが可能となる。また、本発明によれば、第2のノズルの開口付近に構造体を設け、液体の流れを制限することで、第2のノズルから突出する液面の変位量を大きくすることができ、高周波駆動時においても確実に使用液滴と不使用液滴とを選別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液体吐出装置のシステム概要図である。
【図2】本発明の液体吐出装置の第1の実施形態の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の分解説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の回収ノズルの図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の動作を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の動作のシミュレーション結果を表す図である。
【図7】ストレートノズル使用時のシミュレーション結果である。
【図8】本発明の第1の実施形態の回収ノズル使用時のシミュレーション結果である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る回収ノズルの変形例を表わす図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出装置の断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出装置の分解説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態の回収ノズルの図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る回収ノズルの他の形態を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を説明する。本発明の液体吐出ヘッドは、色材を用いた印刷用インクにとどまらず、液体全般に適用可能である。また、本発明の液滴吐出ヘッドは記録媒体に液滴を着弾させ、記録に用いる場合を例に述べているが、その用途は印刷にとどまらず、導電性材料やポリマーからなる液体を用いた製造装置やたんぱく質を含む液体などを用いた分析装置などにも広く適用可能である。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置のシステム概要図である。本実施形態に係る液体吐出装置は、インクタンク001、加圧ポンプ002、加振機構003、ヘッド004、コントローラ005、回収ポンプ006、インク調整部007を有する。なお、太線はインクの輸送経路を示し、細線は電気信号の伝送経路を示している。
【0013】
図2はZ方向から見たヘッド004の断面図である。図3(a)は、Z方向から見た積層するプレートの分解説明図である。図3(b)は、X方向から見た回収ノズル部の分解説明図である。本実施形態では、Y方向にノズル列を形成し、X方向にノズル列を並べて配置した、2次元マルチノズルヘッドの構成を示す。
【0014】
ヘッド004は、吐出ノズル101(第1のノズル)、回収ノズル102(第2のノズル)、液面駆動機構103(駆動機構)を有する。液面駆動機構103は、図2に示すように、回収ノズル102に連通する回収流路116に隣接して設けられ、回収ノズル102内の液体の液面を回収ノズル102の先端開口から突出させることが可能である。回収ノズル102から突出した液面は、吐出ノズル101から連続的に吐出される液滴の飛翔軌道117上に位置するように配置される。
【0015】
図2および図3に示すように、ヘッド004は板状の部材を積層することにより構成されている。吐出インクの供給流路115を形成する供給流路プレート121、個別ノズルに対応したテーパー流路を形成する個別流路プレート122、および、吐出ノズル101を形成する吐出ノズルプレート123は、液滴飛翔軌道と同じZ方向に積層する。回収流路部210は液滴飛翔軌道に直行するX方向へ積層して形成し、吐出ノズルプレート123に貼り合わせる。
【0016】
図3(b)に示すように、回収ノズルプレート201と回収流路プレート203の間に流速制限構造体プレート202を積層することで、回収ノズル102内の流路に流速制限構造体301を設ける。回収流路には、振動板114および圧電素子112で構成される圧力室があり、回収ノズルの液面を駆動する。ここでは図4に示す二重円筒型の流速制限構造体301を配した回収ノズル102の構成を示している。なお、流速制限構造体301を、流速制限構造体プレート202で形成し、回収ノズルプレート201や回収流路プレート203と別部材で構成しているが、同一部材であってもよい。
【0017】
これら積層部材にはシリコンやステンレス、樹脂材料などを使用することができる。これら板状の部材を露光によるパターニングやエッチング、プレスによって作製することで、ノズル数が増加した場合にも一括加工可能で部品点数を増加させず、低コストでヘッドを作製することができる。本実施形態では、液面駆動機構103として、薄膜状の圧電素子を使用している。具体的には上部電極111、圧電素子112、下部電極113が振動板114の上に成膜された構成となっている。成膜にはスパッタなどを、また、パターニングにはドライエッチングを用いることができる。
【0018】
図3においてY方向のノズル間隔は、たとえば、500μm、X方向のノズル間隔は3mmである。液体には粘度1〜40cP、表面張力30mN/mのものを使用することができる。例えば40cPのインクの場合、吐出ノズル101の直径を7.4μm、インクタンク002の圧力を0.8MPa、加振機構003の振動周波数を50kHzとすると、液滴サイズは4pL(直径約20μm)、吐出速度は10m/s程度である。
【0019】
図4は本実施形態の回収ノズル102内の流路構造を示す図であって(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は回収ノズル102側から見た側面図である。図4において、液面は、マイナスX方向に突出する。図4に示すように、回収ノズル102の開口面から回収ノズル102の半径以上の距離を離した位置に、流速制限構造体301が設けられている。
【0020】
流速制限構造体301は、たとえば、約φ80μmの回収ノズル102の開口から、約50μmだけ流路側に引っ込んだ位置に設けられ、約50μmの長さの円筒部301aと、この円筒部301aを支持するための外側に向けて突出する支持部301bを備えている。円筒部(筒状部)301aは、回収ノズル102に同心状に設けられている。なお、円筒部301aの配置位置は、第2のノズル102の開口から少なくとも当該開口の内接円の半径である40μmよりも大きい距離はなすことが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態に係る液体吐出装置の動作を図5に示すヘッド断面図を参照して説明する。
【0022】
回収ノズル102の直径は、たとえば、約80μmで、吐出ノズル101から液滴の飛翔方向に約1mm離れた地点に設けられている。
【0023】
インクタンク001に貯えられたインクIKは、加圧ポンプ002によって加圧され、ヘッド004に供給される。ヘッド004に供給されたインクIKは、加振機構003によって振動を与えられ、吐出ノズル101から液柱となって吐出される。ノズル101から吐出されたインクは、500〜800μm程度はなれた位置に達すると、液柱から液滴に分裂し、一点鎖線で示す液滴飛翔軌道117に沿って飛翔する。吐出された液滴は、空気抵抗により、回収ノズル102の近傍を通過する際には8m/s程度にまで減速している。また、液滴の飛翔軌道117は、回収ノズル102から30μm離れている。一方、回収ノズル102では、回収ポンプ006よる負圧(大気圧を基準として−1.4kPa程度)とメニスカス力がバランスすることで、図5(a)に示すように、液面が回収ノズル102の開口付近に保持される。
【0024】
記録に使用しない液滴(不使用液滴)118が回収ノズル102近傍を通過する際には、コントローラ005からの信号により、図5(b)に示すように、液面駆動機構103は回収ノズル102の開口から液面を液滴飛翔軌道117上に位置するように突出させる。そして、回収ノズル102の開口から突出させた突出液面PRに、飛翔する不使用液滴118を衝突させることにより、当該不使用液滴118を捕獲する。
【0025】
その後、不使用液滴118は、突出液面PRと合体し、突出液面PRは表面張力により元の静定時の位置に復帰する。回収ポンプ006によって圧力が一定に保たれることにより、回収ノズル102の液面は捕獲後も一定の位置に保たれる。特に、突出液面PRが滴化しないように、液面駆動機構103の変位量を制御する。捕獲された液滴は、インク調整部007に徐々に送られ、ごみの除去や粘度調整がされた後、再び加圧ポンプ002によって加圧され、再利用のためにヘッド004へと循環される。一方、記録に使用する液滴(使用液滴)が回収ノズル102の近傍を通過する際には、回収ノズル102の液面を突出(前進)させず、回収ノズル102の液面が液滴飛翔軌道117とは交差しないようにする。これにより、使用液滴はそのまま記録媒体008へと着弾する。
【0026】
以上述べたように、記録データに応じて液面駆動機構103を制御することにより、記録に用いない液滴は突出させた液面により回収し、記録に用いる液滴のみを記録媒体0 08へと着弾させることができる。なお、記録媒体を搬送手段(不図示)に保持することにより、液滴の吐出タイミングに合わせて記録媒体を搬送することで所望の画像を記録でできる。
【0027】
高速記録を行う場合、回収ノズル102の液面が静定時の位置にまで完全に復帰しないうちに後続の液滴が通過する場合がある。このような場合でも、回収ノズル102の液面の前進時と後退時の位置の差が十分で、不使用液滴の捕獲および使用液滴の通過が可能であれば、本実施形態の液体吐出装置は正常に機能する。本実施形態においては、回収ノズル102内部に、ノズル中心領域とノズル内周面との間の領域における流れを制限する構造体301を配置しており、これにより回収ノズル102の液面の前進時と後退時の位置の差を十分に確保することができる。
【0028】
本実施形態では、回収ポンプ006によって負圧を保ち、回収ノズル102で液面を後退させておき、不使用液滴の通過時に液面駆動機構103によって液面を前進させる場合について述べた。逆に、回収ポンプ006によって正圧を保ち、回収ノズル102で液面を前進させておき、使用液滴の通過時に液面駆動機構103によって液面を後退させてもよい。この場合、回収ノズル102の外面を撥水処理しておき、正圧をかけた状態で液面が外面を濡らして広がることがないようにすることが好ましい。この方式は、待機時など、記録を行なわずに吐出させたインク全て回収しているような状態での消費電力の低減や発熱の低減に有効である。
【0029】
図2において、液面駆動機構103は、薄膜上の圧電素子を用いているが、他の方式の駆動手段を用いてもよい。例えば、圧電素子の場合、バルク状の圧電素子を積層して用いてもよいし、側壁に圧電素子を用いてd15方向の変形を利用してもよい(shearモード)。あるいは、駆動手段をヒータとし、膜沸騰による発泡によって、液面を駆動してもよい。ヒータを用いる場合には、圧電材料を用いた場合に比べて大きな変位が得やすく小型化できるので、ノズルの高密度化が可能である。一方、圧電素子を用いた場合には、駆動波形を最適化することにより、液面の制御を精度良く行うことができる。
【0030】
次に、本実施形態の回収ノズル102から突出する液面の動作を汎用流体解析ソフトウェアによって解析した結果について説明する。
【0031】
インク粘度は40cP、表面張力は30mN/mとし、液面駆動機構103に相当する動きとして±20nm、50kHzのSin波形の変位を接点に与えた。
【0032】
図6にシミュレーション結果を示す。回収ノズル102の液面の動きを示しており、図6の(a1),(a2)が流速制限構造体301の存在しないストレートなノズルの解析結果で、図6の(b1),(b2)が流速制限構造体301を配したノズルの解析結果である。ストレートノズルでは液面の前進時と後退時の差が4.9μmであるのに対し、二重円筒型の流速制限構造体301を配したノズルでは18.7μmと差が大きくなっており、効果があることが分かる。
【0033】
これらの液面の挙動について以下に詳細に述べる。
図7に、ストレートノズルのシミュレーション結果の流速ベクトル図および圧力コンター図を示す。図中で右方向が液面の前進方向であり、また、圧力コンター図は色が薄いほど高い圧力であることを示す。
【0034】
まず、最大前進時(図7の(V1))には内周壁面付近の液面が大きく陥没しており(図7中の破線楕円A参照)、流路内の流速は液面を後退させる方向になっている(図7中の破線楕円B)。液面の後退時(図7の(V2))には、中心部の液面付近の流速は非常に小さい(図7中の破線楕円C参照)。また流路内の流速は既に前進方向に反転しており、内周壁面付近の流速が中心部よりも大きくなっていることが分かる(図7中の破線楕円D参照)。
【0035】
突出液面の中心部の最小後退時(図7の(V3))には、陥没していた内周壁面付近の液面は回収ノズル102の開口付近まで戻ってきている(図7中の破線楕円E参照)。突出液面の中心部が前進を始める時(図7の(V4))には、流路内の流速は後退する方向になっており、中心部よりも内周壁面付近の流速が速くなっている(図7中の破線楕円F参照)。この時も突出した中心部の液面付近の流速は非常に小さい(図7中の破線楕円G参照)。
【0036】
以上のことから、回収ノズル102の内周壁面付近の液面の動きは、流路内の流速の変化に追従している一方で、中心部の液面は遅れて動いており、双方の動きの位相がずれていることが分かる。また、中心部の液面の変位量が小さいのに対して、内周壁面付近の液面の変位量が大きく、液面駆動機構103のエネルギーのほとんどが回収ノズル102の内周壁面付近で消費されていることになる。
【0037】
回収ノズル102の内周壁面付近の液面の変位量が大きい原因を圧力勾配から考察する。液面後退時の圧力コンター図(図7の(C2))を見ると、内周壁面付近の圧力勾配が大きく(図7中の破線楕円H参照)、中心部付近の圧力勾配は小さくなっている(図7中の破線楕円I参照)。このことより、液面駆動機構103のエネルギーは、中心部の液面を動かす前に、内周壁面付近の液面を動かすエネルギーとして消費されることが分かる。液面隆起時の圧力コンター(図7の(C4))も同様で、内周壁面付近の圧力勾配が大きく(図7中の破線楕円J参照)、中央部付近の圧力勾配は小さい(図7中の破線楕円K参照)ことが分かる。
【0038】
図8に、本実施形態の流速制限構造体301を配した二重円筒型の回収ノズルのシミュレーション結果の流速ベクトル図および圧力コンター図を示す。
【0039】
まず、最大前進時(図8の(V1))には、流速制限構造体301の効果により流路中心部の流速が速く、内周壁面付近の流速が抑えられている(図8中の破線楕円A参照)。液面の後退時(図8の(V2))には、突出液面の中心部において、後退する方向の流速が高くなる(図8中の破線楕円B参照)。
【0040】
突出液面の中心部の最小後退時(図8の(V3))には、流路中心部の流速が速くなっている(図8中の破線楕円C参照)。突出液面の中心部が前進を始める時(図8の(V4))には、液面中心部において前進方向の流速が高くなる(図8中の破線楕円D)。
【0041】
以上のことから、回収ノズル102の流路内流速の動きに対して、内周壁面付近の液面の動きと中心部の液面の動きの双方が追従して動き、上記したストレートノズルと比較すると、両者の間の位相差が小さくなっていることが分かる。また、回収ノズル102の内周壁面付近の液面の変位量が抑えられ、それに伴い中心部の液面の変位量が大きくなっている。これは、流速制限構造体301の作用、効果により、回収ノズル102の流路内の流速分布が中心部において大きなピークを持つようになったためである。
【0042】
また、液面の後退時(図8の(C2))の圧力コンターを見ると、中心部の圧力分布が前進方向に盛り上がった形状をしており(図8中の破線楕円E参照)、液面中心部付近の圧力勾配がストレートノズルの場合と比べて大きくなっている。液面の前進時(図8の(C4))の圧力コンターも同様に、中心部の圧力分布が前進方向に盛り上がった形状をしている(図8中の破線楕円F参照)。
【0043】
以上説明したように、回収ノズル102に配置された流速制限構造体301は、当該構造体301が存在しない場合と比べて、内周壁面付近の流速および圧力勾配を相対的に小さくし、中心部の流速および圧力勾配を相対的に大きくするように作用する。また、流速制限構造体301は、液面駆動機構103との動作位相差を小さく抑えるので、エネルギーロスが小さくなって、突出液面の前進時と後退時の位置差(変位量)を大きくすることができる。すなわち、回収ノズル102の開口付近における中心領域から内周壁面領域に向かう方向の液体の流速および圧力分布が、突出液面の変位量に関係することに着目し、液体の流速および圧力分布を構造体301で制御することで、突出液面の変位量を大きくすることができる。
【0044】
このように、回収ノズル102内の流路に、中心領域と内周壁面領域との間における流れを制限するように流速制限構造体301を配することにより、50kHzの液面の変位動作ができ、液滴の選択がなされて所望の印刷ができた。
【0045】
また、ここまで回収ノズル102内の流路を、中心領域と内周壁面領域とに分割する二重円筒の構成について述べてきたが、図9(a)および(b)に示すように内周壁面領域に抵抗体となる構造体302、303を配することでも同様の効果を得ることができる。構造体302は、回収ノズル102の内周壁面に嵌合する環状部材である。構造体303は、回収ノズル102の内周壁面の周方向に沿って配列された複数の突起部材である。
【0046】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態を説明する。本実施例での液体吐出ヘッド構成の断面図を図10に、分解説明図を図11に示す。本実施例の回収ノズル102内の流路の流速制限構造体304は、図12のような構造になっている。四角いノズルと平板の構造体にすることで、積層方向がすべて同一のZ方向となるため、製作が容易になる。
【0047】
図10で分かるように、全てのプレートを液滴飛翔軌道117と同一のZ方向に積層する。図11の分解説明図に示すように、回収流路プレート(404、406、408)と流速制限構造体プレート(405、407)を交互に積層することで、流速制限構造体304を形成することができる。
【0048】
なお、流速制限構造体304を、流速制限構造体プレート(405、407)で形成し、回収流路プレートと別部材の構成となっているが、同一部材で構成してもよい。
【0049】
図12では回収ノズル102の四角形の一片の長さは80μmであり、回収ノズル102の開口面から50μm流路側に引き込んだ位置に、流速制限構造体304を配置している。
【0050】
本実施形態においても、液面変位動作が実現でき、液滴の選択がなされて所望の印刷ができた。
【0051】
このように四角ノズルの二辺のみではあるが、内周壁面の流れを制限する構造体304を入れることで、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、図13に示すような二重角筒型305にしても、同様の作製方法で同様の効果を得ることができる。
【0053】
上記実施形態では、構造体として、種々の構造例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、突出液面の変位量を大きくできるように、液体の流速および圧力分布を制御可能な構造体であれば、採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の液体吐出ヘッドは、液滴の選別、および、回収に際し、使用される液滴の飛翔に影響をほとんど与えないため、高い着弾精度が得られ、高精細な液体吐出ヘッドの作製に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
001 インクタンク
002 加圧ポンプ
003 加振機構
004 ヘッド
005 コントローラ
006 回収ポンプ
007 インク調整部
008 記録媒体
101 吐出ノズル
102 回収ノズル
103 液面駆動機構
301、302、303、304、305 流速制限構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるコンティニュアス方式の液滴吐出装置は、ポンプで液体に常時圧力をかけてノズルから押し出し、さらに加振手段により振動を加えることで、ノズルから吐出された液体が規則正しく液滴化する状態を形成する。この方式では、液滴がノズルから吐出され続けるので、印刷データにあわせて印刷に使用する液滴と使用しない液滴を選別する必要がある。いわゆる荷電偏向方式では、液滴を選択的に帯電させ、電場によって偏向させ、非帯電液滴と異なる軌道を飛翔するようにして選別を行う。選別された非印刷液滴は、ガターによって捕獲、回収する。これらの機能を実現するため、ノズルから液滴飛翔軌道に沿って、帯電電極、偏向電極、ガターが設けられる。
【0003】
特許文献1は、液滴を帯電させることなく液滴を選別する方法を開示している。具体的には、ノズルで大液滴と小液滴を打ち分け、液滴の飛翔路に形成したミスト状液滴からなる液体カーテンを通過させることで、小液滴を捕獲し、大液滴のみを記録媒体に着弾させる構成を開示している。また、特許文献2は、コンティニュアス方式の液体吐出装置ではないが、飛翔する液滴に別の液滴を衝突させる技術を開示している。具体的には、第1の吐出口からの液滴(主滴)に第2の吐出口からの液滴を衝突させ、飛翔方向をそらすことで、第1の吐出口からのサテライト滴(極小滴)のみを記録媒体に着弾させることで、記録ドットの微小化を図る構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−334957号公報
【特許文献2】特開2008−143188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、記録液滴が帯電していると、前後の帯電液滴や壁面に付着した帯電したミストとの静電相互作用を受け、飛翔軌道がずれてしまい、着弾精度が悪くなってしまう可能性がある。記録液滴を帯電させない場合においても、先行する帯電液滴の影響で、静電誘導により記録液滴が帯電してしまう可能性がある。
【0006】
また、特許文献1に示す方法では、記録液滴も液体カーテンを通過するため、液体カーテンの影響を受けて、着弾位置がずれる可能性がある。特許文献2に示されている方法では、非記録液滴の捕獲のために、別の液滴を飛翔させ、ガターに着弾させるが、着弾時に跳ね返りミストが発生し、飛翔路を汚してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、使用液滴(記録液滴)の着弾精度を高めつつ、液滴飛翔路中のミストの発生を抑制可能な液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する液体吐出ヘッドであって、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用液滴(記録液滴)に影響を与えず不使用液滴(非記録液滴)の選別回収が可能であるため、使用液滴(記録液滴)の着弾精度を高めることが可能となる。また、本発明によれば、第2のノズルの開口付近に構造体を設け、液体の流れを制限することで、第2のノズルから突出する液面の変位量を大きくすることができ、高周波駆動時においても確実に使用液滴と不使用液滴とを選別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液体吐出装置のシステム概要図である。
【図2】本発明の液体吐出装置の第1の実施形態の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の分解説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の回収ノズルの図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の動作を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の動作のシミュレーション結果を表す図である。
【図7】ストレートノズル使用時のシミュレーション結果である。
【図8】本発明の第1の実施形態の回収ノズル使用時のシミュレーション結果である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る回収ノズルの変形例を表わす図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出装置の断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出装置の分解説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態の回収ノズルの図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る回収ノズルの他の形態を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を説明する。本発明の液体吐出ヘッドは、色材を用いた印刷用インクにとどまらず、液体全般に適用可能である。また、本発明の液滴吐出ヘッドは記録媒体に液滴を着弾させ、記録に用いる場合を例に述べているが、その用途は印刷にとどまらず、導電性材料やポリマーからなる液体を用いた製造装置やたんぱく質を含む液体などを用いた分析装置などにも広く適用可能である。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置のシステム概要図である。本実施形態に係る液体吐出装置は、インクタンク001、加圧ポンプ002、加振機構003、ヘッド004、コントローラ005、回収ポンプ006、インク調整部007を有する。なお、太線はインクの輸送経路を示し、細線は電気信号の伝送経路を示している。
【0013】
図2はZ方向から見たヘッド004の断面図である。図3(a)は、Z方向から見た積層するプレートの分解説明図である。図3(b)は、X方向から見た回収ノズル部の分解説明図である。本実施形態では、Y方向にノズル列を形成し、X方向にノズル列を並べて配置した、2次元マルチノズルヘッドの構成を示す。
【0014】
ヘッド004は、吐出ノズル101(第1のノズル)、回収ノズル102(第2のノズル)、液面駆動機構103(駆動機構)を有する。液面駆動機構103は、図2に示すように、回収ノズル102に連通する回収流路116に隣接して設けられ、回収ノズル102内の液体の液面を回収ノズル102の先端開口から突出させることが可能である。回収ノズル102から突出した液面は、吐出ノズル101から連続的に吐出される液滴の飛翔軌道117上に位置するように配置される。
【0015】
図2および図3に示すように、ヘッド004は板状の部材を積層することにより構成されている。吐出インクの供給流路115を形成する供給流路プレート121、個別ノズルに対応したテーパー流路を形成する個別流路プレート122、および、吐出ノズル101を形成する吐出ノズルプレート123は、液滴飛翔軌道と同じZ方向に積層する。回収流路部210は液滴飛翔軌道に直行するX方向へ積層して形成し、吐出ノズルプレート123に貼り合わせる。
【0016】
図3(b)に示すように、回収ノズルプレート201と回収流路プレート203の間に流速制限構造体プレート202を積層することで、回収ノズル102内の流路に流速制限構造体301を設ける。回収流路には、振動板114および圧電素子112で構成される圧力室があり、回収ノズルの液面を駆動する。ここでは図4に示す二重円筒型の流速制限構造体301を配した回収ノズル102の構成を示している。なお、流速制限構造体301を、流速制限構造体プレート202で形成し、回収ノズルプレート201や回収流路プレート203と別部材で構成しているが、同一部材であってもよい。
【0017】
これら積層部材にはシリコンやステンレス、樹脂材料などを使用することができる。これら板状の部材を露光によるパターニングやエッチング、プレスによって作製することで、ノズル数が増加した場合にも一括加工可能で部品点数を増加させず、低コストでヘッドを作製することができる。本実施形態では、液面駆動機構103として、薄膜状の圧電素子を使用している。具体的には上部電極111、圧電素子112、下部電極113が振動板114の上に成膜された構成となっている。成膜にはスパッタなどを、また、パターニングにはドライエッチングを用いることができる。
【0018】
図3においてY方向のノズル間隔は、たとえば、500μm、X方向のノズル間隔は3mmである。液体には粘度1〜40cP、表面張力30mN/mのものを使用することができる。例えば40cPのインクの場合、吐出ノズル101の直径を7.4μm、インクタンク002の圧力を0.8MPa、加振機構003の振動周波数を50kHzとすると、液滴サイズは4pL(直径約20μm)、吐出速度は10m/s程度である。
【0019】
図4は本実施形態の回収ノズル102内の流路構造を示す図であって(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は回収ノズル102側から見た側面図である。図4において、液面は、マイナスX方向に突出する。図4に示すように、回収ノズル102の開口面から回収ノズル102の半径以上の距離を離した位置に、流速制限構造体301が設けられている。
【0020】
流速制限構造体301は、たとえば、約φ80μmの回収ノズル102の開口から、約50μmだけ流路側に引っ込んだ位置に設けられ、約50μmの長さの円筒部301aと、この円筒部301aを支持するための外側に向けて突出する支持部301bを備えている。円筒部(筒状部)301aは、回収ノズル102に同心状に設けられている。なお、円筒部301aの配置位置は、第2のノズル102の開口から少なくとも当該開口の内接円の半径である40μmよりも大きい距離はなすことが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態に係る液体吐出装置の動作を図5に示すヘッド断面図を参照して説明する。
【0022】
回収ノズル102の直径は、たとえば、約80μmで、吐出ノズル101から液滴の飛翔方向に約1mm離れた地点に設けられている。
【0023】
インクタンク001に貯えられたインクIKは、加圧ポンプ002によって加圧され、ヘッド004に供給される。ヘッド004に供給されたインクIKは、加振機構003によって振動を与えられ、吐出ノズル101から液柱となって吐出される。ノズル101から吐出されたインクは、500〜800μm程度はなれた位置に達すると、液柱から液滴に分裂し、一点鎖線で示す液滴飛翔軌道117に沿って飛翔する。吐出された液滴は、空気抵抗により、回収ノズル102の近傍を通過する際には8m/s程度にまで減速している。また、液滴の飛翔軌道117は、回収ノズル102から30μm離れている。一方、回収ノズル102では、回収ポンプ006よる負圧(大気圧を基準として−1.4kPa程度)とメニスカス力がバランスすることで、図5(a)に示すように、液面が回収ノズル102の開口付近に保持される。
【0024】
記録に使用しない液滴(不使用液滴)118が回収ノズル102近傍を通過する際には、コントローラ005からの信号により、図5(b)に示すように、液面駆動機構103は回収ノズル102の開口から液面を液滴飛翔軌道117上に位置するように突出させる。そして、回収ノズル102の開口から突出させた突出液面PRに、飛翔する不使用液滴118を衝突させることにより、当該不使用液滴118を捕獲する。
【0025】
その後、不使用液滴118は、突出液面PRと合体し、突出液面PRは表面張力により元の静定時の位置に復帰する。回収ポンプ006によって圧力が一定に保たれることにより、回収ノズル102の液面は捕獲後も一定の位置に保たれる。特に、突出液面PRが滴化しないように、液面駆動機構103の変位量を制御する。捕獲された液滴は、インク調整部007に徐々に送られ、ごみの除去や粘度調整がされた後、再び加圧ポンプ002によって加圧され、再利用のためにヘッド004へと循環される。一方、記録に使用する液滴(使用液滴)が回収ノズル102の近傍を通過する際には、回収ノズル102の液面を突出(前進)させず、回収ノズル102の液面が液滴飛翔軌道117とは交差しないようにする。これにより、使用液滴はそのまま記録媒体008へと着弾する。
【0026】
以上述べたように、記録データに応じて液面駆動機構103を制御することにより、記録に用いない液滴は突出させた液面により回収し、記録に用いる液滴のみを記録媒体0 08へと着弾させることができる。なお、記録媒体を搬送手段(不図示)に保持することにより、液滴の吐出タイミングに合わせて記録媒体を搬送することで所望の画像を記録でできる。
【0027】
高速記録を行う場合、回収ノズル102の液面が静定時の位置にまで完全に復帰しないうちに後続の液滴が通過する場合がある。このような場合でも、回収ノズル102の液面の前進時と後退時の位置の差が十分で、不使用液滴の捕獲および使用液滴の通過が可能であれば、本実施形態の液体吐出装置は正常に機能する。本実施形態においては、回収ノズル102内部に、ノズル中心領域とノズル内周面との間の領域における流れを制限する構造体301を配置しており、これにより回収ノズル102の液面の前進時と後退時の位置の差を十分に確保することができる。
【0028】
本実施形態では、回収ポンプ006によって負圧を保ち、回収ノズル102で液面を後退させておき、不使用液滴の通過時に液面駆動機構103によって液面を前進させる場合について述べた。逆に、回収ポンプ006によって正圧を保ち、回収ノズル102で液面を前進させておき、使用液滴の通過時に液面駆動機構103によって液面を後退させてもよい。この場合、回収ノズル102の外面を撥水処理しておき、正圧をかけた状態で液面が外面を濡らして広がることがないようにすることが好ましい。この方式は、待機時など、記録を行なわずに吐出させたインク全て回収しているような状態での消費電力の低減や発熱の低減に有効である。
【0029】
図2において、液面駆動機構103は、薄膜上の圧電素子を用いているが、他の方式の駆動手段を用いてもよい。例えば、圧電素子の場合、バルク状の圧電素子を積層して用いてもよいし、側壁に圧電素子を用いてd15方向の変形を利用してもよい(shearモード)。あるいは、駆動手段をヒータとし、膜沸騰による発泡によって、液面を駆動してもよい。ヒータを用いる場合には、圧電材料を用いた場合に比べて大きな変位が得やすく小型化できるので、ノズルの高密度化が可能である。一方、圧電素子を用いた場合には、駆動波形を最適化することにより、液面の制御を精度良く行うことができる。
【0030】
次に、本実施形態の回収ノズル102から突出する液面の動作を汎用流体解析ソフトウェアによって解析した結果について説明する。
【0031】
インク粘度は40cP、表面張力は30mN/mとし、液面駆動機構103に相当する動きとして±20nm、50kHzのSin波形の変位を接点に与えた。
【0032】
図6にシミュレーション結果を示す。回収ノズル102の液面の動きを示しており、図6の(a1),(a2)が流速制限構造体301の存在しないストレートなノズルの解析結果で、図6の(b1),(b2)が流速制限構造体301を配したノズルの解析結果である。ストレートノズルでは液面の前進時と後退時の差が4.9μmであるのに対し、二重円筒型の流速制限構造体301を配したノズルでは18.7μmと差が大きくなっており、効果があることが分かる。
【0033】
これらの液面の挙動について以下に詳細に述べる。
図7に、ストレートノズルのシミュレーション結果の流速ベクトル図および圧力コンター図を示す。図中で右方向が液面の前進方向であり、また、圧力コンター図は色が薄いほど高い圧力であることを示す。
【0034】
まず、最大前進時(図7の(V1))には内周壁面付近の液面が大きく陥没しており(図7中の破線楕円A参照)、流路内の流速は液面を後退させる方向になっている(図7中の破線楕円B)。液面の後退時(図7の(V2))には、中心部の液面付近の流速は非常に小さい(図7中の破線楕円C参照)。また流路内の流速は既に前進方向に反転しており、内周壁面付近の流速が中心部よりも大きくなっていることが分かる(図7中の破線楕円D参照)。
【0035】
突出液面の中心部の最小後退時(図7の(V3))には、陥没していた内周壁面付近の液面は回収ノズル102の開口付近まで戻ってきている(図7中の破線楕円E参照)。突出液面の中心部が前進を始める時(図7の(V4))には、流路内の流速は後退する方向になっており、中心部よりも内周壁面付近の流速が速くなっている(図7中の破線楕円F参照)。この時も突出した中心部の液面付近の流速は非常に小さい(図7中の破線楕円G参照)。
【0036】
以上のことから、回収ノズル102の内周壁面付近の液面の動きは、流路内の流速の変化に追従している一方で、中心部の液面は遅れて動いており、双方の動きの位相がずれていることが分かる。また、中心部の液面の変位量が小さいのに対して、内周壁面付近の液面の変位量が大きく、液面駆動機構103のエネルギーのほとんどが回収ノズル102の内周壁面付近で消費されていることになる。
【0037】
回収ノズル102の内周壁面付近の液面の変位量が大きい原因を圧力勾配から考察する。液面後退時の圧力コンター図(図7の(C2))を見ると、内周壁面付近の圧力勾配が大きく(図7中の破線楕円H参照)、中心部付近の圧力勾配は小さくなっている(図7中の破線楕円I参照)。このことより、液面駆動機構103のエネルギーは、中心部の液面を動かす前に、内周壁面付近の液面を動かすエネルギーとして消費されることが分かる。液面隆起時の圧力コンター(図7の(C4))も同様で、内周壁面付近の圧力勾配が大きく(図7中の破線楕円J参照)、中央部付近の圧力勾配は小さい(図7中の破線楕円K参照)ことが分かる。
【0038】
図8に、本実施形態の流速制限構造体301を配した二重円筒型の回収ノズルのシミュレーション結果の流速ベクトル図および圧力コンター図を示す。
【0039】
まず、最大前進時(図8の(V1))には、流速制限構造体301の効果により流路中心部の流速が速く、内周壁面付近の流速が抑えられている(図8中の破線楕円A参照)。液面の後退時(図8の(V2))には、突出液面の中心部において、後退する方向の流速が高くなる(図8中の破線楕円B参照)。
【0040】
突出液面の中心部の最小後退時(図8の(V3))には、流路中心部の流速が速くなっている(図8中の破線楕円C参照)。突出液面の中心部が前進を始める時(図8の(V4))には、液面中心部において前進方向の流速が高くなる(図8中の破線楕円D)。
【0041】
以上のことから、回収ノズル102の流路内流速の動きに対して、内周壁面付近の液面の動きと中心部の液面の動きの双方が追従して動き、上記したストレートノズルと比較すると、両者の間の位相差が小さくなっていることが分かる。また、回収ノズル102の内周壁面付近の液面の変位量が抑えられ、それに伴い中心部の液面の変位量が大きくなっている。これは、流速制限構造体301の作用、効果により、回収ノズル102の流路内の流速分布が中心部において大きなピークを持つようになったためである。
【0042】
また、液面の後退時(図8の(C2))の圧力コンターを見ると、中心部の圧力分布が前進方向に盛り上がった形状をしており(図8中の破線楕円E参照)、液面中心部付近の圧力勾配がストレートノズルの場合と比べて大きくなっている。液面の前進時(図8の(C4))の圧力コンターも同様に、中心部の圧力分布が前進方向に盛り上がった形状をしている(図8中の破線楕円F参照)。
【0043】
以上説明したように、回収ノズル102に配置された流速制限構造体301は、当該構造体301が存在しない場合と比べて、内周壁面付近の流速および圧力勾配を相対的に小さくし、中心部の流速および圧力勾配を相対的に大きくするように作用する。また、流速制限構造体301は、液面駆動機構103との動作位相差を小さく抑えるので、エネルギーロスが小さくなって、突出液面の前進時と後退時の位置差(変位量)を大きくすることができる。すなわち、回収ノズル102の開口付近における中心領域から内周壁面領域に向かう方向の液体の流速および圧力分布が、突出液面の変位量に関係することに着目し、液体の流速および圧力分布を構造体301で制御することで、突出液面の変位量を大きくすることができる。
【0044】
このように、回収ノズル102内の流路に、中心領域と内周壁面領域との間における流れを制限するように流速制限構造体301を配することにより、50kHzの液面の変位動作ができ、液滴の選択がなされて所望の印刷ができた。
【0045】
また、ここまで回収ノズル102内の流路を、中心領域と内周壁面領域とに分割する二重円筒の構成について述べてきたが、図9(a)および(b)に示すように内周壁面領域に抵抗体となる構造体302、303を配することでも同様の効果を得ることができる。構造体302は、回収ノズル102の内周壁面に嵌合する環状部材である。構造体303は、回収ノズル102の内周壁面の周方向に沿って配列された複数の突起部材である。
【0046】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態を説明する。本実施例での液体吐出ヘッド構成の断面図を図10に、分解説明図を図11に示す。本実施例の回収ノズル102内の流路の流速制限構造体304は、図12のような構造になっている。四角いノズルと平板の構造体にすることで、積層方向がすべて同一のZ方向となるため、製作が容易になる。
【0047】
図10で分かるように、全てのプレートを液滴飛翔軌道117と同一のZ方向に積層する。図11の分解説明図に示すように、回収流路プレート(404、406、408)と流速制限構造体プレート(405、407)を交互に積層することで、流速制限構造体304を形成することができる。
【0048】
なお、流速制限構造体304を、流速制限構造体プレート(405、407)で形成し、回収流路プレートと別部材の構成となっているが、同一部材で構成してもよい。
【0049】
図12では回収ノズル102の四角形の一片の長さは80μmであり、回収ノズル102の開口面から50μm流路側に引き込んだ位置に、流速制限構造体304を配置している。
【0050】
本実施形態においても、液面変位動作が実現でき、液滴の選択がなされて所望の印刷ができた。
【0051】
このように四角ノズルの二辺のみではあるが、内周壁面の流れを制限する構造体304を入れることで、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、図13に示すような二重角筒型305にしても、同様の作製方法で同様の効果を得ることができる。
【0053】
上記実施形態では、構造体として、種々の構造例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、突出液面の変位量を大きくできるように、液体の流速および圧力分布を制御可能な構造体であれば、採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の液体吐出ヘッドは、液滴の選別、および、回収に際し、使用される液滴の飛翔に影響をほとんど与えないため、高い着弾精度が得られ、高精細な液体吐出ヘッドの作製に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
001 インクタンク
002 加圧ポンプ
003 加振機構
004 ヘッド
005 コントローラ
006 回収ポンプ
007 インク調整部
008 記録媒体
101 吐出ノズル
102 回収ノズル
103 液面駆動機構
301、302、303、304、305 流速制限構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する液体吐出ヘッドであって、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記構造体は、当該構造体が存在しない場合と比べて、前記内周壁面付近の流速を小さくし、前記中心線の領域の流速を大きくするように作用する、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記構造体は、前記第2のノズルと同心状に配置された筒状部と、当該筒状部を支持する支持部とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記構造体は、前記第2のノズルの内周壁面に嵌合する環状部材であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記構造体は、前記第2のノズルの内周壁面の周方向に沿って配列された複数の突起部材である、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記構造体は、前記第2のノズルの開口から離れて配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載された液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記構造体は、前記第2のノズルの開口から少なくとも当該開口の内接円の半径よりも大きい距離はなれて配置されている、ことを特徴とする請求項6に記載された液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液面を変位させる駆動機構をさらに備える、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記第2のノズルに連通する流路に隣接して設けられている、ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルとを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する回収手段を備える液体吐出ヘッドと、
前記第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち、使用される使用液滴によって記録を行うために、前記液体吐出ヘッドに対して、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備え、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられている、ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項1】
液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する液体吐出ヘッドであって、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記構造体は、当該構造体が存在しない場合と比べて、前記内周壁面付近の流速を小さくし、前記中心線の領域の流速を大きくするように作用する、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記構造体は、前記第2のノズルと同心状に配置された筒状部と、当該筒状部を支持する支持部とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記構造体は、前記第2のノズルの内周壁面に嵌合する環状部材であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記構造体は、前記第2のノズルの内周壁面の周方向に沿って配列された複数の突起部材である、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記構造体は、前記第2のノズルの開口から離れて配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載された液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記構造体は、前記第2のノズルの開口から少なくとも当該開口の内接円の半径よりも大きい距離はなれて配置されている、ことを特徴とする請求項6に記載された液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液面を変位させる駆動機構をさらに備える、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記第2のノズルに連通する流路に隣接して設けられている、ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
液滴を連続的に吐出する第1のノズルと、当該第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち使用されない不使用液滴を回収するために、前記第1のノズルから吐出された液滴が飛翔する軌道に位置するように液面を突出させることが可能な第2のノズルとを有し、当該第2のノズルから液面を突出させ、当該突出液面に前記第1のノズルから吐出された不使用液滴を衝突させて合体させ、当該突出液面を後退させることにより、前記不使用液滴を回収する回収手段を備える液体吐出ヘッドと、
前記第1のノズルから連続的に吐出された液滴のうち、使用される使用液滴によって記録を行うために、前記液体吐出ヘッドに対して、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備え、
前記第2のノズルは、その流路内に、当該第2のノズルから液面が突出する方向に関する当該第2のノズルの中心線の領域と、当該第2のノズルの内周壁面と、の間の領域における液体の流れを制限するための構造体が設けられている、ことを特徴とする液体吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−96445(P2012−96445A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245541(P2010−245541)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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