説明

液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法、及びその欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】圧力緩衝用のダイアフラム部を設けたシリコン基材のダイアフラム部の欠陥検査を、効率よく、高精度かつ容易に行うことができる液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法等を提供する。
【解決手段】表面に下地となる金属薄膜25が形成されその上に樹脂薄膜26が形成されてダイアフラム部210となる部分210aを有するシリコン基材200を欠陥検出用のエッチング液に浸漬する工程と、前記浸漬後に、金属薄膜25のエッチング浸食の有無を検出して樹脂薄膜26の欠陥部Aの有無を検出する工程とを備えた。このとき、金属薄膜25のエッチング浸食の有無を顕微鏡によって、透過光及び反射光を用いて行うことができる。上記の樹脂薄膜26をパリレン薄膜とし、金属薄膜25を白金薄膜またはクロム薄膜とする。欠陥検出用のエッチング液は、60℃〜80℃に加熱した塩酸と硝酸との混合液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法、及びその欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。
このようなインクジェットヘッドでは、印刷速度の高速化およびカラー化を目的として、ノズル列を複数有する構造のインクジェットヘッドが求められている。さらに、近年ノズルは高密度化するとともに、1列当たりのノズル数が増加して長尺化しており、インクジェットヘッド内のアクチュエータ数はますます増加している。
【0003】
このようなインクジェットヘッドでは、吐出室のそれぞれに共通して連通するリザーバが設けられており、ノズルの高密度化に伴い、吐出室の圧力がリザーバにも伝わり、その圧力の影響が他の吐出室とそれに連通するノズル孔にも及ぶ。
例えば、アクチュエータを駆動してリザーバに正圧がかかると、本来インク滴を吐出すべき駆動ノズル以外の非駆動ノズルからもインク滴が漏れ出たり、逆にリザーバに負圧がかかると、駆動ノズルから吐出するべきインク滴の吐出量が減少したりして、印字品質が劣化する。
【0004】
このため、従来のインクジェットヘッドでは、リザーバを形成する基板の壁の一部に、圧力変動を緩衝させるための圧力変動緩衝部分すなわちダイアフラム部を樹脂で形成しており、ノズル間の圧力干渉を防止している。
このようなダイヤフラム部を形成するには、基材をエッチングし、樹脂薄膜の層を蒸着して圧力干渉部材を設ける(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−1190号公報(第10頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のインクジェットヘッドの製造方法では、リザーバの完成後、ノズル基材に他の基材を貼り合わせ、チップを加工してインクジェットヘッドを完成する。その後、インクジェットヘッドの流路内にインクを充填するが、インクを充填するまではダイアフラム部に存在する微小欠陥の有無を検出することができず、欠陥を発見した場合は他の部分は良品であるにもかかわらずインクジェットヘッドそのものを廃棄せざるを得ず、非効率であり、歩留まり低下が生じ、製品コストの損失が増加する。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされもので、圧力緩衝用のダイアフラム部を設けたシリコン基材のダイアフラム部の欠陥検査を、早期に効率よく、高精度かつ容易に行うことができる液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法、及びその欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、表面に下地となる金属薄膜が形成されその上に樹脂薄膜が形成されてダイアフラム部となる部分を有するシリコン基材を欠陥検出用のエッチング液に浸漬する工程と、浸漬後に、金属薄膜のエッチング浸食の有無を検出して樹脂薄膜の欠陥部の有無を検出する工程とを備えたものである。
【0009】
液滴吐出ヘッドにダイアフラム部を設けたので、リザーバのコンプライアンスを低減してリザーバ内での圧力変動を抑制し、液滴吐出時に発生するノズル間の圧力干渉を防止して良好な液滴吐出特性を得ることができる。この場合、樹脂薄膜の下地に金属薄膜を形成したので、樹脂薄膜とリザーバ基板表面との密着性が高くなる。
このようなダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドにおいて、ダイアフラム部の欠陥を検出する際、リザーバ基材を浸漬エッチングするという実施容易なプロセスを用いることができ、このとき、樹脂薄膜はエッチングされず、下地の金属薄膜のみエッチングされるので、下地の金属薄膜の欠陥拡大化によってダイアフラム部の樹脂薄膜の欠陥を早期に効率よく、容易にかつ高精度に検出することができ、これによって、歩留りが向上し圧力干渉部に欠陥のない優れたリザーバ基板を有する液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、金属薄膜のエッチング浸食の有無を顕微鏡によって検出するものである。
樹脂薄膜の欠陥部の下地金属薄膜は欠陥部下方がエッチングによって浸漬され、欠陥が拡大化して視認性が向上するので、樹脂薄膜の欠陥部を顕微鏡によって容易に認識することができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、金属薄膜のエッチング浸食の有無を透過光及び反射光の何れかもしくは両方によって検出するものである。
樹脂薄膜の欠陥部の下地金属薄膜は欠陥部下方がエッチングによって浸漬され欠陥が拡大化するので、樹脂薄膜の欠陥部を透過光や反射光によって検出することができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、樹脂薄膜をパリレン薄膜とするものである。
樹脂薄膜がパリレン薄膜なので、被覆性に優れ、耐熱性、耐薬品性及び耐透湿性が高い。また、シリコン薄膜に比べて柔軟性が高いため、高い圧力吸収効果を発揮する。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、下地となる金属薄膜が白金薄膜またはクロム薄膜である。
樹脂薄膜の下地に金属薄膜が形成され、その金属薄膜を白金薄膜またはクロム薄膜としたので、樹脂薄膜とリザーバ基材表面との密着性を高めることができる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法は、欠陥検出用のエッチング液が60℃〜80℃に加熱した塩酸と硝酸との混合液からなるものである。
欠陥検出用のエッチング液を60℃〜80℃に加熱した塩酸と硝酸との混合液としたので、エッチングによる金属薄膜の欠陥拡大化を、高効率で、容易にかつ高精度に行うことができる。
【0015】
本発明に係るダイアフラム部の欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法は、複数のノズル孔を有するノズル基板と、吐出室を有するキャビティ基板と、吐出室に連通するリザーバを有するリザーバ基板とを少なくとも備え、リザーバの内壁面に樹脂薄膜とその下地膜である金属薄膜とを備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面からリザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、シリコン基材の一方の面とこの一方の面と反対側の面のうち、前記リザーバ凹部の開口部以外の面をマスク部材で覆い、リザーバ凹部の内壁全体に下地膜として金属薄膜を形成し、金属薄膜の上にさらに樹脂薄膜を形成する工程と、マスク部材を除去する工程と、上記の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法によって樹脂薄膜の欠陥部の有無を検出する工程と、反対の面から樹脂薄膜が露出するまでシリコン基材をドライエッチングで除去してダイアフラム部を形成する工程とを備えたものである。
【0016】
液滴吐出ヘッドの製造工程において、浸漬エッチングといった容易なプロセスを用いて、ダイアフラム部の樹脂薄膜の欠陥検出を高効率かつ高精度に行うことができる。こうして、圧力干渉部に欠陥のない吐出特性に優れた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用した液滴吐出ヘッドの一実施の形態について説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型のインクジェットヘッドについて説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、例えば基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも適用することができる。また、アクチュエータは静電駆動方式で示してあるが、その他の駆動方式であってもよい。
【0018】
図1は本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)の概略構成を示す分解斜視図、図2は図1に示したインクジェットヘッドの組立状態を示す縦断面図である。
図1、図2において、インクジェットヘッド10は、ノズル基板1、リザーバ基板2、キャビティ基板3及び電極基板4を、この順に貼り合わせた4層構造となっている。
ノズル基板1は例えば厚さ約50μmのシリコン基材から作製されており、多数のノズル孔11が所定のピッチで設けられている。ただし、図1は簡明化したものであり、1列に5つのノズル孔11を示す。
ノズル孔11は、径の小さい噴射口部分11aと径の大きい導入口部分11bとから構成され、基板面に対し垂直かつ同軸上に形成されている。
【0019】
リザーバ基板2は例えば厚さが約180μmで、面方位が(100)のシリコン基材から作製されている。このリザーバ基板2には、基板を垂直に貫通し、ノズル孔11の導入口部分11bと同径で同軸上に連通するノズル連通孔21が設けられている。
各ノズル連通孔21に対して、各供給口22及び吐出室31(後述)を介して連通するリザーバ(共通インク室)23となるリザーバ凹部23aが形成され、ノズル基板1との接着面(N面ともいう)側に拡径する断面ほぼ逆台形状をなしている。そして、リザーバ凹部23aの底壁23bには、キャビティ基板3との接着面(C面ともいう)まで貫通する空間部211が設けられている。
リザーバ凹部23aの底壁23bには、空間部211を回避した位置に、供給口22(リザーバ凹部23aの下流側)、及びインク供給孔27(リザーバ凹部23aの上流側)が貫通している。また、リザーバ基板2のC面には、吐出室31(後述)の一部を構成する細溝状の第2の凹部28が形成され、キャビティ基板3を薄くすることによって生じる吐出室31での流路抵抗の増加を防いでいるが、省略することもできる。
【0020】
リザーバ基板2のリザーバ凹部23aの内壁(空間部211の上部を含む)と、供給口22及びインク供給口27の内壁には、樹脂薄膜26が形成されている。樹脂薄膜26のうち空間部211の上部を覆う部分はリザーバ凹部23aの底壁23bの一部となっており、圧力変動緩衝部であるダイアフラム部210を構成する。この樹脂薄膜26は、空間部211とリザーバ凹部23aとの間に浮いた状態となっており、空間部211によって樹脂薄膜26のたわみが許容される。なお、この樹脂薄膜26は、リザーバ基板2の製造過程において成膜により形成されるもので(後述)、パリレンからなる。なお、パリレンに代えてサイトップ等を用いてもよい。
また、樹脂薄膜26には、その下地に例えば白金(Pt)からなる金属薄膜が形成されており(図示せず)、この金属薄膜によって、樹脂薄膜26とシリコン基材との密着性を高めている。なお、金属薄膜は、白金に限定されるものではなく、クロム(Cr)であっても良い。
【0021】
キャビティ基板3は、例えば厚さ約30μmのシリコン基材から作製されている。そして、ノズル連通孔21のそれぞれに連通する吐出室31の一部を構成する第1の凹部33が設けられており、この第1の凹部33とリザーバ基板2に設けた第2の凹部28とによって、各吐出室31が区画形成される。なお、第1の凹部33(吐出室31)の底壁は振動板32を構成する。
キャビティ基板3の少なくとも下面にはSiO2 からなる絶縁膜が、例えば0.1μmの厚さで形成されており(図示せず)、インクジェットヘッド10の駆動時における絶縁破壊や短絡を防止する。キャビティ基板3の上面には、リザーバ基板2と同様のインク保護膜が形成されている(図示せず)。
また、キャビティ基板3には、リザーバ基板2のインク供給孔27に連通するインク供給孔35が設けられている。
【0022】
電極基板4は、例えば厚さ約1mmのガラス基材から作製されている。このガラス基材には、キャビティ基板3のシリコン基材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスが用いられており、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合する際、両者の熱膨張係数が近いために電極基板4とキャビティ基板3との間に生じる応力を低減することができ、強固に接合することが可能となる。
【0023】
電極基板4には、キャビティ基板3の各振動板32に対向する面に、それぞれ約0.3μmの深さで凹部42が設けられている。そして、各凹部42の底面には、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極41が、例えば0.1μmの厚さで形成されている。したがって、振動板32と個別電極41との間に形成されるエアギャップGは、この凹部42の深さ、個別電極41および振動板32を覆う絶縁膜の厚さにより決まり、インクジェットヘッド10の吐出特性に大きく影響する。エアギャップGの開放端部は、エポキシ接着剤等からなる封止材43により気密に封止されている。
【0024】
個別電極41の端子部41aは、リザーバ基板2およびキャビティ基板3の端部が開口された電極取り出し部44に露出しており、例えばドライバIC等の駆動制御回路5が搭載されたフレキシブル配線基板(図示せず)が、電極取り出し部44の各個別電極41の端子部41aと、キャビティ基板3の端部に設けられた共通電極36とに接続されている。
【0025】
電極基板4には、インクカートリッジ(図示せず)に接続されるインク供給孔45が設けられており、キャビティ基板3に設けられたインク供給孔35、およびリザーバ基板2に設けられたインク供給孔27を通じて、リザーバ23に連通している。
【0026】
上記のように構成されたインクジェットヘッド10の動作について説明する。
インクジェットヘッド10には、インクカートリッジ内のインクがインク供給孔45、35及び27を通じてリザーバ23内に供給され、個々の供給口22からそれぞれの吐出室31、ノズル連通孔21を経て、ノズル孔11の先端まで満たされている。
駆動制御回路5によって個別電極41と共通電極36との間にパルス電圧を印加すると、個別電極41はプラスに帯電され、振動板32はマイナスに帯電される。そして、個別電極41と振動板32間に静電気力が発生し、振動板32は個別電極41側に引き寄せられて撓み、吐出室31の容積が増大する。パルス電圧をオフにすると、静電気力がなくなり、振動板32はその弾性力により元に戻る。その際、吐出室31の容積が急激に減少するため、吐出室31内のインクの一部がノズル連通孔21を通過し、ノズル孔11から吐出される。パルス電圧が再び印加され、振動板32が個別電極41側に撓むと、インクがリザーバ23から供給口22を通って吐出室31内に供給される。
【0027】
このとき、吐出室31の圧力はリザーバ23に伝達されるが、リザーバ23の底壁23bには樹脂薄膜26からなるダイアフラム部210が設けられているので、リザーバ23が正圧になると樹脂薄膜26は空間部211側に撓み、リザーバ23が負圧になると樹脂薄膜26は空間部211と逆側に撓む。こうして、リザーバ23内の圧力変動を緩衝し、ノズル孔11間の圧力干渉を防止する。そのため、駆動ノズル以外のノズルからインクが漏れ出たり、駆動ノズルから吐出に必要な吐出量が減少することがない。
【0028】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図3〜図12を用いて説明する。なお、以下において示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値は一例を示すものであり、本発明はこれらの値に限定されるものではない。
まず、リザーバ基板2の製造方法について図3〜図7を用いて説明する。
【0029】
(a) 図3(a)に示すように、面方位(100)であり、厚さが約180μmのシリコン製のリザーバ基材200を用意し、リザーバ基材200の外面に熱酸化膜201を約1.5μm形成する。
【0030】
(b) 図3(b)に示すように、フォトリソグラフィー法により、キャビティ基板3と接着する側の面(C面)に、それぞれノズル連通孔21、第2の凹部28、供給口22、ダイアフラム部210及びインク供給孔27になる部分(インク供給孔27になる部分の外縁)21a、28a、22a、210a及び27aをパターニングする。このとき、C面における各部分21a、28a、22a、210a及び27aの熱酸化膜201の残し膜厚が、次の関係になるようにエッチングする。
ノズル連通孔21になる部分21a=0<供給口22になる部分22a=インク供給孔27になる部分27a<第2の凹部28になる部分28a=ダイアフラム210になる部分210a
【0031】
(c) 図3(c)に示すように、C面のノズル連通孔21になる部分21aを、ICPで約150μm程、ドライエッチングする。
【0032】
(d) 図4(d)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、供給口22になる部分22a、及びインク供給孔27になる部分27aを開口する。
次に、ICPで約15μm程、ドライエッチングする。
【0033】
(e) 図4(e)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、第2の凹部28になる部分28a、及びダイアフラム部210になる部分210aを開口させる。
次に、ICPで約25μm程、ドライエッチングする。この際、ノズル連通孔21になる部分21aもN面に至るまでドライエッチングする。
【0034】
(f) 図4(f)に示すように、熱酸化膜201を除去した後、再度、熱酸化膜201を約1.0μm形成し、ノズル基板1と接着する側の面(N面)に、リザーバ凹部23aになる部分230をフォトリソグラフィー法によって開口する。
【0035】
(g) 図5(g)に示すように、水酸化カリウム(KOH)で約150μm、ウエットエッチングして、リザーバ凹部23aを形成する。
このとき、インク供給孔27になる部分27aのシリコン材は、その外縁でリザーバ基材200から分離される。
【0036】
(h) 図5(h)に示すように、熱酸化膜201を除去した後に、再度、熱酸化膜201aを約0.2μm形成する。
【0037】
(i) 図5(i)に示すように、C面に、ダイアフラム部210になる部分210aのみが開口した金属製もしくはシリコン製のマスク部材(保護フィルム)202を被せてドライエッチングを行い、ダイアフラム部210になる部分210aの熱酸化膜201aを除去する。
【0038】
(j) 図5(i)に示したマスク部材202を除去し、図6(j)に示すように、リザーバ基材200のC面全体を、再度、マスク部材(保護フィルム)203で保護する。さらに、リザーバ凹部23aの開口部よりも小さい開口204aを有するマスク部材(保護フィルム)204によって、リザーバ基材200のN面を保護する。なお、マスク部材204の開口204aをリザーバ凹部23aの開口部よりも小さくしたのは、マスク部材204のリザーバ基材200に対するアライメントにズレが生じても、リザーバ基材200のノズル基板1との接着面であるN面を確実にマスク部材204で保護して、N面に樹脂薄膜26が形成されるのを防止するためである(図6(k)参照)。すなわち、リザーバ基材200のノズル基板1との接着面に樹脂薄膜26が形成されると、ノズル基板1との十分な接着強度が得られないからである。
次に、リザーバ凹部23aの内壁全体に白金からなる金属薄膜25を0.1μmを形成する。
【0039】
(k) 図6(j)に示したC面のマスク部材203を、図6(k)に示すように、新たなマスク部材(保護フィルム)206に交換し、供給口22及びインク供給孔27の部分に付着した白金からなる金属薄膜25を除去する。
次に、シリコン基材200を真空チャンバー内にセットし(図示せず)、マスク部材204、206を含む表面全体にパリレンからなる樹脂薄膜26を1.0μm形成する。
このパリレンの成膜は、ジパラキシリレン(ダイマー)を昇華させ、熱分解して行う。パリレンは、シリコン薄膜に比べて柔らかいため、シリコン薄膜によって形成した場合に比べて、100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮する。
こうして、樹脂薄膜26は、リザーバ基板2の製造過程に成膜によって形成される。
【0040】
(l) 図6(l)に示すように、シリコン基材200のN面及びC面のマスク部材204、206を剥離する。パリレンの樹脂薄膜26は、下地膜として形成された白金の金属薄膜25によってリザーバ凹部23aの内壁に密着しているため、マスク部材204を剥離する際に、樹脂薄膜26が同時に剥がれることはない。
次に、C面側より酸素プラズマによって供給口22及びインク供給孔27の樹脂薄膜26を除去し、N面側から酸素プラズマによって樹脂薄膜26が除去されない程度に表面を親水化処理する。
【0041】
(m) 図6(l)のようにして形成されたシリコン基材200(白金の金属薄膜25を下地として形成されたパリレンの樹脂薄膜26を有するシリコン基材)を、欠陥検出用のエッチング液、すなわち60℃〜80℃に加熱した塩酸と硝酸の混合溶液中に浸漬する。浸漬する時間は、樹脂薄膜26の欠陥部分、すなわち樹脂薄膜26のない部分の下地の金属薄膜25を十分にエッチング除去できる時間とする。一定時間浸漬した後、シリコン基材200を取り出し、顕微鏡によって下地の白金からなる金属薄膜25のエッチング侵食の有無を観察する。浸食有無の観察には、透過光及び反射光のいずれか、もしくは両方を用いる。
【0042】
図7(m)に示すように、パリレンの樹脂薄膜26にピンホール等の欠陥部Aがあると、その部分より下地の白金よりなる金属薄膜25にエッチングが進行する。エッチング液中では樹脂薄膜26はエッチングされず、下地の金属薄膜25のみがエッチングされる。したがって、エッチング時間を十分長くとることによって、樹脂薄膜26の欠陥部Aの下地である金属薄膜25はエッチングによって除去される面積が増加し、視認性が向上する。
こうして、パリレンの樹脂薄膜26に欠陥部Aがある場合は、シリコン基材200は不良品であるとして廃棄する。
パリレンの樹脂薄膜26に欠陥部Aがない場合は、次の工程(図8(n))に進む。
【0043】
(n) 上記の工程(m)の欠陥検出操作によって欠陥が検出されなかった場合は、図8(n)に示すシリコン基材200のダイアフラム部210を、次の図7(o)の工程に示すように、さらにエッチングする。
【0044】
(0) 図8(o)に示すように、シリコン基材200のC面から、SF6 プラズマによって、ダイアフラム部210のシリコン材200を樹脂薄膜26(金属薄膜25)が露出するまでエッチングする。その結果、樹脂薄膜26(金属薄膜25)が露出し、空間部211が形成されて、ダイアフラム部210が完成する。
以上のようにして、ダイアフラム部210を有するリザーバ基板2が作製される。
【0045】
次に、電極基板4とキャビティ基板3の製造工程について、図9〜図11を用いて説明し、さらに、インクジェットヘッド10の完成までの製造工程について図12を用いて説明する。
【0046】
(a) 図9(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなる厚さ約1mmのガラス基材400に、エッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングし、凹部42を形成する。この凹部42は個別電極41より大きい溝状をなし、個別電極41ごとに複数形成される。
次に、凹部42の内部に、スパッタとパターニングにより、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極41を形成する。
次に、ブラスト等によってインク供給孔45を形成して、電極基板4を作成する。
【0047】
(b) 図9(b)に示すように、厚さ約220μmのシリコン製のキャビティ基材300を用意する。キャビティ基材300は、電極基板4と接合する側の面(E面ともいう)に所要の厚さのボロンドープ層(図示せず)が形成してあり、そのうえに、TEOSを原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )によって、厚さ約0.1μmの酸化膜からなる絶縁膜34を形成する。
【0048】
(c) 図9(b)に示すキャビティ基材300と、図9(a)に示す電極基板4とを、図9(c)に示すように、絶縁膜34と個別電極41とを対向させて陽極接合する。陽極接合は、キャビティ基材300と電極基板4を約360℃に加熱した後、電極基板4に負極、キャビティ基材300に正極を接続して、約800Vの電圧を印加して行う。
【0049】
(d) 図9(d)に示すように、陽極接合されたキャビティ基材300の表面(E面と反対側のF面)を、バックグラインダーやポリッシャーによって研削加工し、さらに水酸化カリウム水溶液で表面を10μm〜20μmエッチングして加工変質層を除去し、厚さが約30μmになるまで薄くする。
【0050】
(e) 図10(e)に示すように、薄板化されたキャビティ基材300の表面(FA面ともいう)に、エッチングマスクとなるTEOS酸化膜301を、プラズマCVDによって厚さ約1.0μm形成する。
【0051】
(f) TEOS酸化膜301の表面にレジスト(図示せず)をコーティングして、フォトリソグラフィーによってパターニングし、TEOS酸化膜301をエッチングして、図10(f)に示すように、吐出室31の第1の凹部33、インク供給孔35、及び電極取り出し部44になる部分33a、35a及び44aを開口する。開口後にレジストを剥離する。
【0052】
(g) 図10(g)に示すように、陽極接合済みの接合基材を水酸化カリウム水溶液でエッチングし、薄板化されたキャビティ基材300に、吐出室31の第1の凹部33になる部分33aと、インク供給孔35になる部分35aを形成する。このとき、電極取り出し部44になる部分44aはボロンドープ層が形成されているため、振動板32になる部分32aと同じ厚さで残留する。また、インク供給孔35になる部分35aにもボロンドープ層が形成されているが、インク供給孔45から侵入する水酸化カリウム水溶液にも暴露されているため、エッチング中に除去される。
上記のエッチング工程では、最初は、濃度35wt%の水酸化カリウム水溶液を用いて、キャビティ基材300の残りの厚さが約5μmになるまでエッチングを行い、ついで、濃度3wt%の水酸化カリウム水溶液に切り替えてエッチングを行う。これにより、エッチングストップが十分に働くため、振動板32になる部分32aの面荒れを防ぎ、かつその厚さを0.80±0.05μmと、高精度に形成する。
【0053】
(h) 図10(h)に示すように、キャビティ基材300をエッチングした後、フッ酸水溶液でエッチングして、キャビティ基材300の上面に形成されているTEOS酸化膜301を除去する。
【0054】
(i) 図11(i)に示すように、キャビティ基材300の第1の凹部33になる部分33aの表面に、プラズマCVDによりTEOS膜からなるインク保護膜37を厚さ約0.1μm形成する。
【0055】
(j) 図11(j)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部44になる部分44aを開口する。また、振動板32と個別電極41の間のエアギャップGの開放端部を、エポキシ樹脂等の封止材43で気密に封止する。さらに、白金等の金属電極からなる共通電極36が、スパッタにより、キャビティ基材300の表面の端部に形成される。
こうして、電極基板4に接合したキャビティ基材300からキャビティ基板3が作製される。
【0056】
(k) 図12(k)に示すように、キャビティ基板3に、ノズル連通孔21、供給口22、リザーバ凹部23a、ダイアフラム部210等が形成されたリザーバ基板2を接着剤によって接着する。
【0057】
(l) 図12(l)に示すように、予めノズル孔11が形成されたノズル基板1を、リザーバ基板2上に接着剤により接着する。
【0058】
(m) 図12(m)に示すように、ダイシングによって個々のヘッドに分離する。
こうして、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が完成する。
【0059】
上記の説明では、インクジェットヘッド10のダイアフラム部210はキャビティ基板3との接着面側(C面側)に設けたが、ノズル基板1との接着面側(N面側)に設けてもよい。
【0060】
本発明の一実施の形態によれば、インクジェットヘッド10(液滴吐出ヘッド)のリザーバ23の接着面側(C面側またはN面側)に樹脂薄膜26を備えたダイアフラム部210を設けたので、リザーバ23内の圧力変動を抑制して良好な吐出特性を得ることができる。
そして、上記の液滴吐出ヘッド10の製造時に、欠陥検出方法を用いて、前記ダイアフラム部210の欠陥を検出するようにしたので、圧力干渉部に欠陥のない、優れた液滴突出ヘッド10を提供することができる。この欠陥検出方法は、浸漬エッチングというプロセスを用いてダイアフラム部210の欠陥部Aを拡大して検出するので、欠陥の検出を高能率で、容易にかつ高精度に行うことができる。
【0061】
上記の説明では、静電駆動方式のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)について述べたが、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変更することができる。
例えば、静電駆動方式以外の駆動方式によるインクジェットヘッドについても、本発明を適用することができる。圧電方式の場合は、電極基板に代えて、圧電素子を各吐出室の底部に接着すればよく、バブル方式の場合は各吐出室の内部に発熱素子を設ければよい。
また、上記の一実施の形態に係るインクジェットヘッド10は、図13に示すインクジェットプリンタの他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、プリント配線基板製造装置にて製造する配線基板の配線部分の形成、生体液体の吐出(プロテインチップやDNAチップの製造)など、様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。また、上記のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を備えた液滴吐出装置は、液滴吐出時に発生するノズル11間の圧力干渉を防止して吐出特性が良好な液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの組立状態を示す断面図。
【図3】一実施の形態に係るインクジェットヘッドのリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図4】図3に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図5】図4に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図8】図7に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図9】電極基板とキャビティ基板の製造工程の断面図。
【図10】図9に続く製造工程の断面図。
【図11】図10に続く製造工程の断面図。
【図12】インクジェットヘッドの完成までの製造工程の断面図。
【図13】本発明に係るインクジェットプリンタを示す斜視図。
【符号の説明】
【0063】
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、4 電極基板、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、21 ノズル連通孔、22 供給口、23 リザーバ、23a リザーバ凹部、23b リザーバの底壁、25 金属薄膜、26 樹脂薄膜、27,35,45 インク供給孔、31 吐出室、32 振動板、41 個別電極、200 リザーバ基板となるシリコン基材(リザーバ基材)、202,203,204、206 マスク部材、210 ダイアフラム部、210a ダイアフラム部となる部分、211 空間部、A 樹脂薄膜の欠陥部、C キャビティ基板との接着面(一方の面と反対側の面)、N ノズル基板との接着面(一方の面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に下地となる金属薄膜が形成されその上に樹脂薄膜が形成されてダイアフラム部となる部分を有するシリコン基材を欠陥検出用のエッチング液に浸漬する工程と、
前記浸漬後に、前記金属薄膜のエッチング浸食の有無を検出して前記樹脂薄膜の欠陥部の有無を検出する工程とを、
備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項2】
前記金属薄膜のエッチング浸食の有無を顕微鏡によって検出することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項3】
前記金属薄膜のエッチング浸食の有無を透過光及び反射光の何れかもしくは両方によって検出することを特徴とする請求項2記載の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項4】
前記樹脂薄膜がパリレン薄膜であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項5】
前記金属薄膜が白金薄膜またはクロム薄膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項6】
前記欠陥検出用のエッチング液が60℃〜80℃に加熱した塩酸と硝酸との混合液からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドのダイアフラム部の欠陥検出方法。
【請求項7】
複数のノズル孔を有するノズル基板と、吐出室を有するキャビティ基板と、前記吐出室に連通するリザーバを有するリザーバ基板とを少なくとも備え、前記リザーバの内壁面に樹脂薄膜とその下地膜である金属薄膜とを備えたダイアフラム部を設けたダイアフラム部の欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面から前記リザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、
前記シリコン基材の一方の面と該一方の面と反対側の面のうち、前記リザーバ凹部の開口部以外の面をマスク部材で覆い、前記リザーバ凹部の内壁全体に下地膜として金属薄膜を形成し、前記金属薄膜の上にさらに前記樹脂薄膜を形成する工程と、
前記マスク部材を除去する工程と、
前記の請求項1から6のいずれかに記載のダイアフラム部の欠陥検出方法によって前記樹脂薄膜の欠陥部の有無を検出する工程と、
前記反対の面から前記樹脂薄膜が露出するまでシリコン基材をドライエッチングで除去して前記ダイアフラム部を形成する工程とを、
備えたことを特徴とするダイアフラム部の欠陥検出方法を用いた液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−196139(P2009−196139A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38372(P2008−38372)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】