説明

液滴吐出ヘッド及びその製造方法、並びに、液滴吐出装置

【課題】ノズル面に撥水膜が設けられた液滴吐出ヘッド及びその製造方法であって、製造工程によらず、常に良好なノズル加工が施された液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供すること。また、液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を提供することである。
【解決手段】 保護プレート34、ノズルプレート36、プールプレート38、連通孔プレート40,42と、圧力室プレート44と、及び振動板46とが位置合わせして積層され、熱融着や接着剤などによって接合させる。そして、ノズルプレート36上の保護プレート34表面には、撥水膜48が形成されている。例えば、このような構成のインクジェット記録ヘッド32(液滴吐出ヘッド)において、撥水膜48に、無機系紫外線吸収剤を含有させる。これにより、製造工程によらず、常に良好なノズル加工を施すことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット記録方式に代表されるような液滴を吐出して画像記録などを行う液滴吐出ヘッド及びその製造方法、並びに、その液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のノズルから液滴を吐出し、用紙等の記録媒体に印字を行う液滴吐出装置には、インクジェット記録装置があり、このインクジェット記録装置は、小型で安価、静寂性等の種々の利点があり、広く市販されている。特に、圧電素子を用いて圧力室内の圧力を変化させてインク滴を吐出するピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーの作用でインクを膨張させてインク滴を吐出する熱インクジェット方式の記録装置は、高速印字、高解像度が得られる等、多くの利点を有している。
【0003】
このようなインクジェット方式の記録装置においては、複数のノズルからインク滴を吐出した際に、インク滴がノズルの周辺に付着するのを防ぐため、ノズル表面に撥水膜が塗布されている。しかし、この撥水膜は、用紙がジャム等により浮き上がると、紙擦れにより擦傷ダメージを受けてしまい、インク吐出方向が傾いたり、インク滴径及び速度にばらつきが生じるなど、インクの吐出性能が悪化する。
【0004】
この対策として、例えば、ノズルプレートに形成されたノズルの周囲に円形状の段差を設けたインクジェット記録ヘッドが提案されている。このインクジェット記録ヘッドは、ノズルを形成したノズルプレートに、ノズルに対応した円形状の開孔を有する金属プレートを接着することで、ノズルの周囲に円形状の段差を形成し、ノズル周辺の撥水膜に用紙が接触しないようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような段差を設けた記録ヘッドでは、スピン法により撥水膜の塗布を行うと、上記段差を設けた記録ヘッドの場合、スピン法による塗布では段差底部への塗布が不十分であった。その一方で、撥水膜の塗布をスプレー法により行うこと、段差底部へ十分に塗布することができるが、このスプレー塗布は薄膜塗布には適さず、撥水膜が厚くなってしまいノズル加工に不具合が生じてしまうという問題がある。通常、ノズル加工には、紫外線領域のレーザ波長を持つレーザ(例えば、エキシマレーザ)が持ちいれるが、撥水膜には紫外領域の波長を吸収しないフッ素系樹脂が適用されることが多く、薄膜では問題ないが、厚膜ではそれ自体が加工されないため、ノズル加工に不具合が生じる。
【0006】
ところで、ノズル加工を良好に行う目的で、撥水膜に紫外線吸収剤を配合することが提案されている(例えば、特許文献2〜4)。しかしながら、これらの紫外線吸収剤は有機系の材料であり、ノズル加工前に熱処理が行われると紫外線吸収剤として機能しなくなることが多く、改善が望まれている。
【特許文献1】特許第3108771号公報
【特許文献2】特開平6−328698号公報
【特許文献3】特開平7−304177号公報
【特許文献4】特開平11−277749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ノズル面に撥水膜が設けられた液滴吐出ヘッド及びその製造方法であって、製造工程によらず、常に良好なノズル加工が施された液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。また、この液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置を適用することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
本発明の液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルが設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレート上に設けられた撥水膜と、を有し、
前記撥水膜は、無機系紫外線吸収剤を含有することを特徴としている。
【0009】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、撥水膜に有機系に比べ融点が高い無機系紫外線吸収剤を含有させているので、ヘッド製造時において撥水膜形成後、熱処理が加えられても、無機系紫外線吸収剤は分解されることなく紫外線吸収能を維持することができる。このため、例えば、ヘッド製造時に熱処理を施したり、撥水膜を厚膜で形成したりするなど、製造工程によらず、常に良好なノズル加工が施されている。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドにおいて、前記無機系紫外線吸収剤は、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及び酸化鉄から選択されることが好適である。これら無機系紫外線吸収剤は、紫外線能を十分有し、融点が高いため、好適に適用することができる。
【0011】
本発明の液滴吐出ヘッドにおいて、前記撥水膜は、スプレー塗布により形成されていることが好適である。このスプレー塗布は、塗布対象の表面状態(例えば凹凸が存在)しても良好な塗布が可能であるので、厚膜であっても撥水膜が均一に形成されている。
【0012】
一方、本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、
液滴を吐出するためのノズルを形成する前のノズルプレート上に、無機系紫外線吸収剤が含有した撥水膜を形成する工程と、
前記撥水膜の形成面側から紫外線領域の波長を持つレーザを照射して、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成する工程と、
を有する、
ことを特徴としている。
【0013】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法でも、撥水膜に有機系に比べ融点が高い無機系紫外線吸収剤を含有させているので、ヘッド製造時において撥水膜形成後、熱処理が加えられても、無機系紫外線吸収剤は分解されることなく紫外線吸収能を維持することができる。このため、例えば、ヘッド製造時に熱処理を施したり、撥水膜を厚膜で形成したりするなど、製造工程によらず、常に良好なノズル加工を施することができる。
【0014】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記撥水膜を形成後に、前記ノズルプレートの前記撥水膜が形成された面とは反対側の面に、前記ノズルと連通する液滴の流路の少なくとも一部が設けられた流路プレートを接合する工程をさらに有する、ことができる。ノズル形成工程前に、熱処理を伴う流路プレート接合工程を行っても、ノズル形成時には、無機系紫外線吸収剤が紫外線能を維持し、良好なノズル加工を施すことができる。
【0015】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記無機系紫外線吸収剤は、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及び酸化鉄から選択されることが好適である。これら無機系紫外線吸収剤は、紫外線能を十分有し、融点が高いため、好適に適用することができる。
【0016】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記撥水膜を形成する工程は、スプレー塗布により行うことが好適である。このスプレー塗布は、塗布対象の表面状態(例えば凹凸が存在)しても良好な塗布が可能であるので、厚膜であっても撥水膜を均一に形成することができる。
【0017】
また、本発明の液滴吐出装置は、上記本発明の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の液滴吐出装置では、上記本発明の液滴吐出ヘッドを備えるので、良好に液滴を吐出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ノズル面に撥水膜が設けられた液滴吐出ヘッド及びその製造方法であって、製造工程によらず、常に良好なノズル加工が施された液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供することができる。また、この液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置を適用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について図面を参照しつつ説明する。なお、実質的に同一の機能を有する部材には全図面通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
【0021】
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置を示す概略構成図である。図2は、実施形態に係るインクジェット記録ユニットの記録ヘッド配置を示す概略図である。図3は、実施形態のインクジェット記録ユニットによる印字領域を示す図である。
【0022】
本実施形態に係るインクジェット記録装置10(液滴吐出装置)は、図1に示すように、用紙を送り出す用紙供給部12と、用紙の姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴(液滴)を吐出して記録媒体Pに画像形成する記録ヘッド部16と、記録ヘッド部16のメンテナンスを行なうメンテナンス部18とを備える記録部20と、記録部20で画像形成された用紙を排出する排出部22とから基本的に構成される。
【0023】
用紙供給部12は、用紙が積層されてストックされているストッカ24と、ストッカ24から1枚ずつ枚葉してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。
【0024】
レジ調整部14は、ループ形成部28と用紙の姿勢を制御するガイド部材29が備えられており、この部分を通過することによって用紙のコシを利用してスキューが矯正されると共に搬送タイミングが制御されて記録部20に進入する。
【0025】
排出部22は、記録部20で画像が形成された用紙が排紙ベルト23を介してトレイ25に収納するものである。
【0026】
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録媒体Pが搬送される用紙搬送路が構成されている。スターホイール17と搬送ロール19とで記録媒体Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この用紙に対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され当該記録媒体Pに画像が形成される。
【0027】
メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30(記録ヘッド32)に対して対向配置されるメンテナンス装置21で構成されており、インクジェット記録ユニット30(記録ヘッド32)に対するキャッピングや、ワイピング、さらにダミージェットやバキューム等の処理を行うことができる。
【0028】
図2に示すように、インクジェット記録ユニット30のそれぞれは、用紙搬送方向と直交する方向に配置された、複数のインクジェット記録ヘッド32を備えている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル33が形成されている。用紙搬送路を連続的に搬送される記録媒体Pに対し、ノズル33からインク滴を吐出することで、記録媒体P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、たとえば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、YMCKの各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
【0029】
図3に示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル33による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録媒体Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく記録媒体Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている(いわゆるFull Width Array(FWA))。ここで、印字領域とは、用紙の両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、用紙が搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあること、また縁無し印字の要請が高いためである。
【0030】
以上のような構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。図4は、実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの構成を示す概略断面図である。図5は、実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造工程を示す工程図である。
【0031】
インクジェット記録ヘッド32は、図4に示すように、保護プレート34、ノズルプレート36、プールプレート38、連通孔プレート40,42と、圧力室プレート44と、及び振動板46とが位置合わせして積層され、熱融着や接着剤などによって接合されている。そして、ノズルプレート36上の保護プレート34表面には、撥水膜48が形成されている。
【0032】
ノズルプレート36には、インクを吐出するノズル33が形成されている。ノズルプレート36に接合された保護プレート34には、ノズル33の周囲に段差孔52が形成されている。この段差孔52によって、ノズル33の周辺のノズル面54が保護プレート34のプレート面56(撥水膜48が塗布された保護プレート34の表面)から凹状に後退している。これにより、印字時に浮き上がった記録媒体Pがノズル面56に接触せず、ノズル33の周辺の撥水膜48が傷つかない。この撥水膜48はノズル33の周辺にインクが付着するのを防止するものであり、この撥水膜48により、ノズル33から吐出するインク滴が常にプレート面56に対して垂直に吐出される。
【0033】
また、図4に示すように、プールプレート38には、ノズル33と通じる連通孔58が形成されている。また、連通孔プレート40,42には、連通孔60,62がぞれぞれ形成されている。これらのノズル33、連通孔58、及び連通孔60,62は、ノズルプレート36と連通孔プレート40,42が積層された状態で連通し、圧力室プレート44に形成された圧力室64に繋がっている。
【0034】
一方、プールプレート38には、インクプール66が形成され、図示しないインク供給孔から供給されたインクが貯留されている。また、連通孔プレート40,42には、それぞれインクプール66と連結するように供給孔68,70が形成されている。これらのインクプール66、供給孔68,70及び圧力室64は、プールプレート38と連通孔プレート40,42と圧力室プレート44が積層された状態で連通している。振動板46には(圧力室プレート44と接合される面とは反対の面に)、圧力室64の上方に圧力発生手段としての単板型の圧電素子50が取り付けられており、図示しないフレキシブル配線基板から駆動電圧が印加されるように構成されている。
【0035】
このようなインクジェット記録ヘッド32では、インクプール66から供給孔68,70、圧力室64、連通孔60,62、連通孔58及びノズル33へと連続するインクの流路が形成されており、インク供給孔(図示省略)から供給されインクプール66に貯留されたインクは、供給孔68,70を経て圧力室64内に充填される。そして、圧電素子50に駆動電圧が印加されると、圧電素子50とともに振動板46がたわみ変形して圧力室64を膨張又は圧縮させる。これによって、圧力室64に体積変化が生じ、圧力室64内に圧力波が発生する。この圧力波の作用によってインクが運動し、ノズル33から外部へインク滴が吐出される。
【0036】
次に、インクジェット記録ヘッド32の製造方法について説明する。
【0037】
まず、図5(A)に示すように、ノズル33を形成する前の板状のノズルプレート36と、段差孔52を形成する前の板状の保護プレート34とを熱融着により接合する。2枚のノズルプレート36と保護プレート34とを熱融着により接着剤を用いずに接合することで、接合時に両者の位置調整をする必要がなく、効率良く接合することができる。ノズルプレート36には、機械的強度、耐薬品性、薄膜化に優れた合成樹脂が用いられ、本実施形態ではポリイミドが用いられている。ポリイミドを用いることで、従来のSUSよりも加工しやすく、またインクに吐出エネルギーを与えた際にダンパ効果によりクロストークを抑制するという利点がある。保護プレート34には、金属プレート、樹脂フィルム、液晶フィルム、又は樹脂プレートなどが用いられる。本実施形態ではSUSが用いられている。
【0038】
次いで、図5(B)に示すように、板状の保護プレート34に、段差孔52を形成する。この段差孔52の形成には、まず、レジストを形成して、このレジストにマスクを通してパターニングした後に不用部分を除去することで、段差孔52の位置に対応した孔部を形成する。そして、ウエットエッチングにより保護プレート34に段差孔52のパターンを形成し、レジストを除去する。この段差孔52は、この段差孔52の深さは例えば5μm〜20μmに設定されている。
【0039】
次いで、図5(C)に示すように、保護プレート34の表面、すなわちインクジェット記録ヘッド32(図1参照)の吐出側表面に、スプレー塗布により撥水膜48を形成する。このスプレー塗布により、ノズルプレート36上の保護プレート34の表面のみならず、段差孔52内(底部も含む)にも均一な膜厚の撥水膜48を形成することができる。この撥水膜48の厚さは例えば1〜10μmに設定されている。本実施形態では、厚さ2μmに設定されている。
【0040】
ここで、撥水膜48の構成材料としては、例えば、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂等のフッ素系樹脂が挙げられ、特に、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)が好適である。本実施形態では、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)が用いられている。
【0041】
また、撥水膜48には、無機系紫外線吸収剤を含有させている。この無機系紫外線吸収剤としてしては、例えば、酸化チタン(融点1640℃)、酸化セリウム(融点1950℃)、酸化亜鉛(融点1975℃)、酸化スズ(融点1080℃)、酸化鉄(融点1360℃)、などが挙げられ、特に好ましくは酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛である。また、この無機系紫外線吸収剤の含有量としては、例えば、撥水膜48の構成樹脂に対し、5〜30重量%(好ましくは10〜20重量%)である。本実施形態では、酸化チタンを樹脂に対し10重量%含有させている。
【0042】
次いで、図5(D)に示すように、ノズルプレート36の裏面にプールプレート38を熱融着により接合する。熱融着することで、接合の際に接着剤を用いない。この熱融着には、通常、300〜360℃の熱処理が施される。本実施形態では330℃の熱処理を施し、熱融着を行った。なお、本実施形態では、熱融着により接合した形態を説明したが、接着剤で接合してもよい。この場合の接合には、例えば200℃の熱処理が施される。
【0043】
次いで、図5(E)に示すように、プールプレート38の後方から(撥水膜48形成面側から)、図示しないエキシマレーザでノズルプレート36にノズル33を穿設する。このノズル33は、段差孔52の孔径より小さい口径に形成する。本実施形態では、ノズルの口径は約25μm、段差孔52の直径は100μm〜400μmに設定されている。なお、このようなノズル33と段差孔52は所定のパターンで複数形成されている。
【0044】
ここで、本実施形態では、ノズル加工を行う際、エキシマレーザを用いたが、紫外線領域の波長を持つレーザであれば、特に制限はなく、例えば、YAG3倍波、YAG4倍波レーザなども用いることができる。なお、加工性を鑑みると、エキシマレーザが最も好適である。
【0045】
このようにして第1の積層プレートを作製し、そして、図5(F)に示すように、別工程で、予め、連通孔プレート40,42と、圧力室プレート44とを接合し、さらに圧力室プレート44の開口を覆うように振動板46が接合した第2の積層プレートを準備し、これと第1の積層プレートとを、互いの連通孔プレート40とプールプレート38とが対向するように接合した。
【0046】
このようにして、インクジェット記録ヘッド32を作製する。
【0047】
以上説明したように本実施形態では、インクジェット記録ヘッド32における撥水膜48に無機系紫外線吸収剤を配合している。この無機系紫外線吸収剤は、有機系に比べ融点が高いので、撥水膜48を形成後、ノズルプレート36とプールプレート38との接合の際に高い熱処理が加えられても、分解されることなく紫外線吸収能を維持することができる。このため、スプレー塗布により形成されて厚膜の撥水膜48が形成されたノズルプレート36でも、エキシマレーザによるノズル加工が良好に施される。このように、本実施形態に係る記録ヘッド32は、製造工程によらず、常に良好なノズル加工が施されている。
【0048】
そして、このような記録ヘッド32を備えるインクジェット記録装置10は、良好なインク吐出特性を持っている。
【0049】
なお、本実施形態では、紙幅対応のFWAの例について説明したが、本発明のインクジェット記録ヘッドは、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)の装置にも適用することができる。
【0050】
また、本実施形態では、記録媒体P上へ画像(文字を含む)を記録するものであったが、本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置は、これに限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりする等、工業用的に用いられる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置全般に適用することができる。
【0051】
(試験例)
以下、上記実施形態において、撥水膜38に無機系紫外線吸収剤を含有させてノズル加工を施す試験例1〜5、この試験例と比較するために、撥水膜38に有機系紫外線吸収剤を含有させて、ノズル加工を施す比較例1〜2を行い、評価を行った。
【0052】
−試験例1−
まず、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)に対し無機系紫外線吸収剤として酸化チタン(融点1640℃)を10重量%を配合して、撥水膜塗布液を調整し、これをポリイミドフィルム(ノズルプレート)表面に塗布して、厚さ2μmの撥水膜を形成した。
【0053】
この撥水膜が形成されたポリイミドフィルムに対し、320℃の熱処理を施した後、エキシマレーザ(条件:波長248nm)を撥水膜形成面側から照射し、直径25μmの細孔(ノズル)を形成した。
【0054】
−試験例2−
無機系紫外線吸収剤として、酸化セリウム(融点1950℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0055】
−試験例3−
無機系紫外線吸収剤として、酸化亜鉛(融点1975℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0056】
−試験例4−
無機系紫外線吸収剤として、酸化スズ(融点1080℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0057】
−試験例5−
無機系紫外線吸収剤として、酸化鉄(融点1360℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0058】
−比較例1−
無機系紫外線吸収剤の代わりに、有機系紫外線吸収剤として2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(融点約155℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0059】
−比較例2−
無機系紫外線吸収剤の代わりに、有機系紫外線吸収剤として2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチフェニル)ベンゾトリアゾール(融点約105℃)を用いた以外は試験例1と同様にして、試験例1と同様にして、ポリイミドフィルム(ノズルプレート)に対し、細孔(ノズル)形成した。
【0060】
−評価−
以下のようにして、評価を行った。ノズル加工後のノズル形状を観察し、ノズル端のバリ及びノズル形状不良の有無を調べた。評価としてはバリ及び形状不良のない良好なものを「○」、若干バリ又は形状不良のあるものを「△」、ほとんどのノズルにバリ又は形状不良のあるものを「×」とした。
【0061】
―評価結果―
上記評価を行ったところ、試験例1〜5は○、比較例1は△、比較例2は×という評価結果が得られた。
【0062】
この評価結果から、本実施形態では、撥水膜に無機系紫外線吸収剤を含有させることで、撥水膜を形成後、高い熱処理が加えられても、無機系紫外線吸収剤は分解されることなく紫外線吸収能を維持することができ、厚膜の撥水膜が形成されたSUSプレート(ノズルプレート)でも、エキシマレーザによるノズル加工が良好に施されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置を示す概略構成図である。
【図2】図2は、実施形態に係るインクジェット記録ユニットの記録ヘッド配置を示す概略図である。
【図3】図3は、実施形態のインクジェット記録ユニットによる印字領域を示す図である。
【図4】図4は、実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの構成を示す概略断面図である。
【図5】図5は、実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0064】
10 インクジェット記録装置
32 インクジェット記録ヘッド
33 ノズル
34 保護プレート
36 ノズルプレート
38 プールプレート
40,42 連通孔プレート
44 圧力室プレート
46 振動板
48 撥水膜
50 圧電素子
52 段差孔
54 ノズル面
56 プレート面
58 連通孔
60,62 連通孔
64 圧力室
66 インクプール
68,70 供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルが設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレート上に設けられた撥水膜と、を有する液滴吐出ヘッドであって、
前記撥水膜は、無機系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記無機系紫外線吸収剤は、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及び酸化鉄から選択されることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記撥水膜は、スプレー塗布により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
液滴を吐出するためのノズルを形成する前のノズルプレート上に、無機系紫外線吸収剤が含有した撥水膜を形成する工程と、
前記撥水膜の形成面側から紫外線領域の波長を持つレーザを照射して、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成する工程と、
を有する、
ことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記撥水膜を形成後に、前記ノズルプレートの前記撥水膜が形成された面とは反対側の面に、前記ノズルと連通する液滴の流路の少なくとも一部が設けられた流路プレートを接合する工程をさらに有する、ことを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記無機系紫外線吸収剤は、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及び酸化鉄から選択されることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記撥水膜を形成する工程は、スプレー塗布により行うことを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−256282(P2006−256282A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80564(P2005−80564)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】