説明

液滴吐出装置、液滴吐出方法及び成形印刷物製造装置並びに成形印刷物製造方法

【課題】印刷品質の向上に寄与できる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】後工程で所定の立体形状に成形加工される記録媒体Pに液滴を吐出する。所定の立体形状に成形加工されたときの記録媒体における伸長量分布の情報と、伸長量分布に対応する、記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報との相関関係を保持する保持部102と、保持部に保持された相関関係に基づいて、記録媒体に吐出する液滴の量を補正する吐出量補正部8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置、液滴吐出方法及び成形印刷物製造装置並びに成形印刷物製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な記録媒体に対して印刷可能な記録装置として、液滴吐出装置であるインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、液滴吐出ヘッドと記録媒体とを相対移動させながら、液滴吐出ヘッドの記録媒体に対向する面に設けられた吐出口(以下、ノズル)から色材であるインク(液滴)を直接記録媒体に対して吐出して、記録媒体上に着弾させることで記録媒体上に画像を形成する記録装置であり、工程の単純さ、印刷時における静粛性及び印字、印画品質の点で非常に優れた特徴がある。
【0003】
また、近年では、液滴吐出装置を用いて、樹脂や金属等のインク吸収性を有さない種々の材料を記録媒体として画像記録を行う場合があり、このような記録媒体に対してインクを定着させるために、光硬化型インクが用いられていることがある。この種の光硬化型インクは、紫外線などの放射線の照射によりインク成分の大部分が硬化するため、溶剤系インクと比べて乾燥性にすぐれ、また、画像がにじみにくいことから、種々の基材に印字できる点で優れた方式である。
【0004】
一方、上記の液滴吐出装置を用いて印刷した樹脂シートに対して、真空成形等によって絞り加工を施し、所望の形状に成形した後に、射出成形機によってプラスチック樹脂と樹脂シートとが一体化された成形品を作製する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−87248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。
印刷した樹脂シートを絞り加工した場合、例えば、突形状となる部分は数倍にも伸長されることから着色剤の密度が小さくなり色濃度が変化する。そのため、樹脂シートには、伸長量に応じて色の分布が生じることになり、印刷品質が低下してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、印刷品質の向上に寄与できる液滴吐出装置、液滴吐出方法及び成形印刷物製造装置並びに成形印刷物製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用している。
本発明の液滴吐出装置は、後工程で所定の立体形状に成形加工される記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出装置であって、前記所定の立体形状に成形加工されたときの前記記録媒体における伸長量分布の情報と、前記伸長量分布に対応する、前記記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報との相関関係を保持する保持部と、前記保持部に保持された前記相関関係に基づいて、前記記録媒体に吐出する液滴の量を補正する吐出量補正部と、を備えるを特徴とするものである。
【0009】
従って、本発明の液滴吐出装置では、所定の立体形状に成形加工した際の記録媒体における伸長量の大きい箇所については吐出する液滴の補正量を多くし、伸長量の小さい箇所については吐出する液滴の補正量を少なくすることにより、後工程で所定の立体形状に成形加工されて記録媒体が分布をもって伸長した場合でも、着色剤の密度が一様になり色濃度を一定とすることができ、印刷品質の向上に寄与できる。
【0010】
また、本発明では、前記所定の立体形状に対応する3次元データに基づいて、前記相関関係を作成する作成部を有する構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、3次元データを用いることで記録媒体における伸長量分布を推定し、推定した伸長量分布から容易に記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報を設定することが可能になる。
この際の3次元データとしては、CADデータとすることにより、所定の立体形状を設計した際のデータを用いることが可能になり、生産性の向上に寄与できる。
【0011】
また、上記の相関関係としては、前記液滴の色に応じて複数設定される構成や、基端部と、該基端部から高さ方向に離間する頂部との間を結ぶ傾斜部の傾斜角度に応じて複数設定される構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、液滴の色や傾斜部の傾斜角度によって最適な液滴の補正量を設定することが可能になる。
【0012】
上記構成において、傾斜部の傾斜角度に応じて相関関係を複数設定する場合には、前記傾斜部を前記頂部からの距離に応じて複数に分割した分割領域が設定され、前記分割領域毎に前記液滴の補正量の情報が設定される構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、設定する補正量の種類を少なくすることが可能になり、補正量設定に要する作業を削減することができる。
【0013】
そして、本発明の成形印刷物製造装置は、記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出装置と、前記液滴が吐出された前記記録媒体を所定の立体形状に成形加工する成形装置とを備える成形印刷物製造装置であって、前記液滴吐出装置として、先に記載の液滴吐出装置が用いられることを特徴とするものである。
従って、本発明の成形印刷物製造装置では、印刷品質が向上した記録媒体を用いることにより、高品質の成形印刷物を製造することが可能になる。
【0014】
一方、本発明の液滴吐出方法は、後工程で所定の立体形状に成形加工される記録媒体に液滴を吐出する吐出工程を有する液滴吐出方法であって、前記所定の立体形状に成形加工されたときの前記記録媒体における伸長量分布の情報と、前記伸長量分布に対応する、前記記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報との相関関係を作成して保持する保持工程と、保持している前記相関関係に基づいて、前記記録媒体に吐出する液滴の量を補正する補正工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0015】
従って、本発明の液滴吐出方法では、所定の立体形状に成形加工した際の記録媒体における伸長量の大きい箇所については吐出する液滴の補正量を多くし、伸長量の小さい箇所については吐出する液滴の補正量を少なくすることにより、後工程で所定の立体形状に成形加工されて記録媒体が分布をもって伸長した場合でも、着色剤の密度が一様になり色濃度を一定とすることができ、印刷品質の向上に寄与できる。
【0016】
前記保持工程では、前記所定の立体形状に対応する3次元データに基づいて、前記相関関係を作成する構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、3次元データを用いることで記録媒体における伸長量分布を推定し、推定した伸長量分布から容易に記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報を設定することが可能になる。
この際の3次元データとしては、CADデータとすることにより、所定の立体形状を設計した際のデータを用いることが可能になり、生産性の向上に寄与できる。
【0017】
また、上記の相関関係としては、前記液滴の色に応じて複数設定される構成や、基端部と、該基端部から高さ方向に離間する頂部との間を結ぶ傾斜部の傾斜角度に応じて複数設定される構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、液滴の色や傾斜部の傾斜角度によって最適な液滴の補正量を設定することが可能になる。
【0018】
上記構成において、傾斜部の傾斜角度に応じて相関関係を複数設定する場合には、前記傾斜部を前記頂部からの距離に応じて複数に分割した分割領域が設定され、前記分割領域毎に前記液滴の補正量の情報が設定される構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、設定する補正量の種類を少なくすることが可能になり、補正量設定に要する作業を削減することができる。
【0019】
そして、本発明の成形印刷物製造方法は、記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出工程と、前記液滴が吐出された前記記録媒体を所定の立体形状に成形加工する成形工程とを備える成形印刷物製造方法であって、前記液滴吐出工程では、先に記載の液滴吐出方法を用いることを特徴とするものである。
従って、本発明の成形印刷物製造方法では、印刷品質が向上した記録媒体を用いることにより、高品質の成形印刷物を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る成形印刷物製造装置MMの概略構成図である。
【図2】液滴吐出装置1の概略構成を示す模式図である。
【図3】液滴吐出ヘッドのノズル形成面におけるノズルの配列状態を示す図である。
【図4】液滴吐出ヘッドの内部構成を示す部分断面図である。
【図5】記録媒体の成形加工を説明するための図である。
【図6】液滴吐出時のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の液滴吐出装置、液滴吐出方法及び成形印刷物製造装置並びに成形印刷物製造方法の実施の形態を、図1ないし図6を参照して説明する。
なお、以下の実施の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0022】
図1は、本発明に係る成形印刷物製造装置MMの概略構成図である。
成形印刷物製造装置MMは、プラスチック樹脂シート等の記録媒体に対して着色剤を含む液滴を吐出して加飾シートを作製する液滴吐出装置1、作製された加飾シートを加熱して柔軟化させ、真空成形や圧空成形等により絞り加工して所定の立体形状に成形加工する成形装置70、所定の立体形状に成形された記録媒体(加飾シート)が挿入される金型を用いて、溶融した合成樹脂を金型内に注入して合成樹脂と記録媒体とが一体化された成形品を作製する射出成形機80、これら液滴吐出装置1、成形装置70、射出成形機80の間で記録媒体を搬送する搬送装置90、これら液滴吐出装置1、成形装置70、射出成形機80、搬送装置90の動作を統括的に制御する制御部8を備えている。
【0023】
図2は、液滴吐出装置1の概略構成を示す模式図である。液滴吐出装置1は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)等からなる記録媒体P上に紫外線硬化型インクを吐出し、記録媒体Pに着弾した紫外線硬化型インクに対して紫外線照射を行って該紫外線硬化型インクを硬化させ、記録媒体P上に画像や各種の模様等のパターンを描画するものである。なお、以下「紫外線硬化型インク」について説明するときは、便宜上、単に「インク」ということがある。
なお、これら記録媒体Pや紫外線硬化型インクについては、例えば特開2008−87248号公報に詳細に記載されているため、ここではその説明を省略する。
【0024】
この液滴吐出装置1は、記録媒体Pを載置する基台2と、基台2上の記録媒体Pを図2中のX方向に搬送する搬送装置3と、紫外線硬化型インクを吐出する液滴吐出ヘッド9と、液滴吐出ヘッド9を複数備えてなるキャリッジ4と、このキャリッジ4をY方向に移動させる送り装置5と、紫外線照射部12と、各種構成部品の制御を行う制御部8と、を具備して構成されている。搬送装置3及び送り装置5により、記録媒体Pとキャリッジ4とを、X方向とY方向とにそれぞれ相対移動させる移動手段が構成されている。
【0025】
以下の説明においては、図2中に示されたXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がステージ6に対して平行な方向に設定され、Z軸がステージ6に対して直交する方向に設定されている。図2中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。なお、液滴吐出ヘッド9の走査移動方向をY方向、ステージ6の移動方向をX方向とする。
【0026】
搬送装置3は、基台2上に設けられたステージ6及びステージ移動装置7を備えて構成されたものである。ステージ6は、ステージ移動装置7によって基台2上をX方向に移動可能に設けられたもので、上流側の搬送装置(図示せず)から搬送される記録媒体Pを、例えば真空吸着機構によってXY平面上に保持するものである。
【0027】
ステージ移動装置7は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備えたもので、制御部8から入力される、ステージ6のX座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ステージ6をX方向に移動させるよう構成されたものである。
【0028】
キャリッジ4は、送り装置5に移動可能に取り付けられた矩形板状のもので、その底面側に複数の液滴吐出ヘッド9を、Y方向に沿って配列させた状態で保持したものである。これら複数の液滴吐出ヘッド9(9Y,9C,9M,9K)は、後述するように複数のノズル17を備えたもので、制御部8から入力される描画データや駆動制御信号に基づいて、紫外線硬化型インクの液滴を吐出するものである。また、これら複数の液滴吐出ヘッド9(9Y,9C,9M,9K)は、Y(イエロー)、C(シアン)、M(マゼンタ)、K(黒)に対応した紫外線硬化型インクをそれぞれ吐出するもので、それぞれの液滴吐出ヘッド9には、図2に示すようにキャリッジ4を介してチューブ(配管)10が連結されている。
【0029】
そして、Y(イエロー)に対応する液滴吐出ヘッド9Yには、チューブ10を介してY(イエロー)用の紫外線硬化型インクを充填・貯蔵した第1タンク(インク貯留室)11Yが接続されており、これによって液滴吐出ヘッド9Yには、この第1タンク11YからY(イエロー)用の紫外線硬化型インクが供給されるようになっている。同様に、C(シアン)に対応する液滴吐出ヘッド9CにはC(シアン)用の紫外線硬化型インクを充填した第2タンク11Cが接続され、M(マゼンタ)に対応する液滴吐出ヘッド9MにはM(マゼンタ)用の紫外線硬化型インクを充填した第3タンク11Mが接続され、K(黒)に対応する液滴吐出ヘッド9KにはK(黒)用の紫外線硬化型インクを充填した第4タンク11Kが接続されている。このような構成によって液滴吐出ヘッド9Cには、第2タンク11CからC(シアン)用の紫外線硬化型インクが供給されるようになっており、液滴吐出ヘッド9Mには、第3タンク11MからM(マゼンタ)用の紫外線硬化型インクが供給されるようになっており、液滴吐出ヘッド9Kには、第4タンク11KからK(黒)用の紫外線硬化型インクが供給されるようになっている。
【0030】
ここで、紫外線硬化型インクは、例えば紫外線硬化型のインクなど、所定波長の光を受けて硬化するタイプのもので、モノマーと光重合開始剤と各色に対応する顔料とを含有し、さらに必要に応じて、界面活性剤や熱ラジカル重合禁止剤などの各種添加剤が配合されたものである。なお、このような紫外線硬化型インクは、通常はその成分(配合)等によって吸収する光(紫外線)の波長域等が異なることから、硬化する波長の最適値、すなわち最適硬化波長も、インク毎に異なっている。
【0031】
例えば、紫外線硬化型インクは、ビヒクル、光重合開始剤および顔料の混合物に、消泡剤、重合禁止剤等の補助剤を添加して調合される。ビヒクルは、光重合硬化性を有するオリゴマー、モノマー等を、反応性希釈剤により粘度調整して調合される。したがって、インクを硬化させる目的で溶媒を揮発させることはない。
【0032】
次に、図3及び図4を参照して液滴吐出ヘッド9の構成について説明する。図3は、液滴吐出ヘッド9のノズル形成面21Aにおけるノズル17の配列状態を示す図である。
図4は、液滴吐出ヘッド9の内部構成を示す部分断面図である。
【0033】
図3に示すように、ノズル17はノズル形成面21Aにおいて記録媒体Pの搬送方向(X方向)に沿って複数設けられ、ノズル列16を形成している。このノズル列16は、液滴吐出ヘッド9の走査方向(Y方向)に沿って計5列設けられている。なお、液滴吐出ヘッド9に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能である。また、液滴吐出ヘッド9どうしをノズル17間のピッチの半分だけ左右方向にずらして配置してもよい。これにより、記録媒体Pに対して印字する解像度を向上させることができる。
【0034】
図4に示すように、液滴吐出ヘッド9は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備える。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えるとともに、共通インク室29と、インク供給口30と、圧力室31とを形成する。さらに、流路形成ユニット22は、ダイヤフラム部として機能する島部32と、共通インク室29内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33とを備える。ヘッド本体18には、固定部材26とともに駆動ユニット24を収容する収容空間23と、インクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成される。
【0035】
上記構成の液滴吐出ヘッド9によれば、ケーブル27を介して駆動ユニット24に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19が圧力室31に接近する方向(−Z方向)及び圧力室31から離れる方向(+Z方向)に変形(移動)する。このため、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル17からインクが噴射される。
【0036】
図2に戻り、キャリッジ4を移動させる送り装置5は、例えば基台2を跨ぐ橋梁構造をしたもので、Y方向及びXY平面に直交するZ方向に対して、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備えたものである。このような構成のもとに送り装置5は、制御部8から入力される、キャリッジ4のY座標及びZ座標を示すキャリッジ位置制御信号に基づいて、キャリッジ4をY方向に移動させるとともに、Z方向にも移動させるようになっている。
【0037】
また、図2に示すキャリッジ4には、液滴吐出ヘッド9の全てに対して、該液滴吐出ヘッド9の近傍にそれぞれ紫外線照射部12が配置されている。具体的には、紫外線照射部12は、キャリッジ4の移動方向の前後に設けられており、液滴吐出ヘッド9の走査移動とともに移動するようになっている。紫外線照射部12は、記録媒体Pに吐出された紫外線硬化型インクを硬化させるためのもので、本実施形態では多数のLED(発光ダイオード)からなっている。ただし、本発明では、LEDに限定されることなく、これ以外にも例えばレーザーダイオード(LD)や、さらには水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等を紫外線照射部12として用いることができる。
【0038】
本実施形態のLEDからなる紫外線照射部12は、それぞれ照射する光が、対応する液滴吐出ヘッド9Y,9C,9M,9Kが吐出する紫外線硬化型インクの、最適硬化波長に対応した波長を有している。つまり、前述したように各紫外線硬化型インクは、その成分(配合)等によって最適硬化波長が異なっており、これに対して紫外線照射部12は、対応する紫外線硬化型インクの最適硬化波長を有した光を照射するようになっている。
【0039】
制御部8は、上述したように、液滴吐出装置1、成形装置70、射出成形機80、搬送装置90の動作を統括的に制御するものであり、液滴吐出装置1においてはステージ移動装置7にステージ位置制御信号を出力し、送り装置5にキャリッジ位置制御信号を出力し、さらには液滴吐出ヘッド9の駆動回路基板(図示せず)に描画データ及び駆動制御信号を出力するものである。これによって制御部8は、記録媒体Pとキャリッジ4とを相対移動させるべく、ステージ6の移動による記録媒体Pの位置決め動作、及びキャリッジ4の移動による液滴吐出ヘッド9の位置決め動作の同期制御を行い、さらに液滴吐出ヘッド9に液滴吐出動作を行わせることにより、記録媒体P上の所定の位置に紫外線硬化型インクの液滴を配置するようになっている。また、この制御部8は、液滴吐出ヘッド9に液滴吐出動作を行わせるのとは別に、紫外線照射部12に光照射動作を行わせるようになっている。
【0040】
また、図1及び図2に示すように、制御部8には、成形装置70により記録媒体Pを所定の立体形状に成形した際に記録媒体Pに生じる伸長量分布の情報と、記録媒体Pに吐出する液滴の補正量との相関関係を作成する作成部101、作成された相関関係を保持・記憶する保持部102が接続されている。
【0041】
作成部101は、例えば制御部8や保持部102に保持されている、成形装置70において記録媒体Pを成形する所定の立体形状(以下、単に立体形状と称する)に対応する3次元データを用いて、成形時に記録媒体Pに生じる伸長量分布を予測するとともに、当該伸長量分布に起因して記録媒体Pに生じる色の濃度変化を補正するために、予め保持部102に保持されている補正量に関するデータベースを用いて、記録媒体Pに吐出する液滴の補正量との相関関係を作成するものである。上記の3次元データとしては、本実施形態では、成形装置70において記録媒体Pを立体形状に成形する際に用いられる金型のCADデータが用いられる。
【0042】
制御部8は、記録媒体Pに液滴を吐出させる際には、保持部102に保持されたデータベースから、液滴を着弾させる位置に対応する液滴補正量を呼び出し、吐出量補正部として、この補正量で補正した量の液滴を吐出させる。
【0043】
続いて、上記の成形印刷物製造装置MMの作用について説明する。
まず、作成部101による上記データベースの作成について説明する。
例えば、図5に示すように、基端部40の平坦面41から、頂面43、及び頂面(頂部)43と平坦面41とを結ぶ傾斜面44を有する突部42が突出する立体形状を有する金型MDを用いて記録媒体Pを成形する際には、記録媒体Pを金型MDの表面に吸着した際に、金型MDにおける突形状の角部(エッジ部)MD1で記録媒体Pが係止されるため、記録媒体Pは角部Pを基点として伸長する。
【0044】
このとき、記録媒体Pは、傾斜面44に吸着される箇所においては、平坦面41に対する傾斜角θに応じて、角部MD1に近い位置ほど大きな伸長量で伸長する。なお、ここで記載する伸長量Lとは、金型MDへの吸着前の距離L1であった箇所が吸着後に(L1+L)となり、元の距離よりも長くなった量を示している。
例えば、突形状の角部MD1と接しない平坦面41では伸長量をゼロとし、角部MD1における伸長量(記録媒体Pの材質等や角度θに依存する最大伸長量)をLX、傾斜面44の長さをLKとすると、角部MD1からの距離dの位置における伸長量Lは、下式で示される。
L=−(LX/LK)×d+LX …(1)
角部MD1における伸長量LXは、角度θ、角部MD1のZ位置(平坦面41との距離)等によって設定される値であり、事前に実験やシミュレーション等により求められる。
【0045】
記録媒体Pが上記伸長量Lで伸長した場合には、厚さが小さくなり、着色剤の密度が低下するため、色が薄くなってしまう。そのため、本実施形態では、記録媒体Pを成形加工したときの伸長量Lの大きさに対応して、当該箇所に吐出する紫外線硬化型インクの量を多くするように補正する。そのため、本実施形態では、金型MDにおける立体形状の3次元データに基づいて、成形加工されたときの記録媒体Pにおける伸長量の分布情報と、この伸長量の分布情報に対応する、記録媒体Pに吐出するインクの液滴の補正量の情報との相関関係を作成し、液滴の補正量に関するデータベースとして保持部102に保持させておく。
【0046】
ここで、記録媒体Pに対して吐出する各液滴吐出位置について、上記の式(1)で定義される伸長量Lで吐出量を補正することが、色濃度を高精度に補正する観点からは好ましいが、吐出量の調整には、吐出する各液滴の量を多くする、吐出回数を多くする等の設定工程を伴うため、全ての液滴吐出位置でこの設定工程を行うと設定工程の時間が長くなってしまう。そこで、本実施形態では、図5に示すように、記録媒体Pにおける傾斜面44に密着する範囲を複数の分割領域A1〜A5に5分割し、各分割領域A1〜A5内の液滴吐出位置については同じ液滴補正量で補正するものとする。この分割数は、色濃度の許容値を考慮して、なるべく少ない数を選択することが好ましい。
【0047】
また、記録媒体Pが傾斜面44に密着する場合の他、角部MD1に繋がる平面、例えば頂面43に密着する場合も、記録媒体Pは成形加工により傾斜面44に吸着される場合よりも小さい値ながら伸長するため、このような平面についても、傾斜面44に吸着される場合と同様に、伸長量の分布情報に対応する、記録媒体Pに吐出するインクの液滴の補正量の情報との相関関係を作成し、液滴の補正量に関するデータベースとして保持部102に保持させておく。
【0048】
また、例えば、傾斜角度θについても、角度の大小によって伸長量が異なるため、例えば5度毎や10度毎等、液滴補正量との相関関係を複数作成し、液滴の補正量に関するデータベースとして保持部102に保持させておく。また、これ以外にも、紫外線硬化型のインクの色によっても、濃度に関する許容値が異なるため、紫外線硬化型のインクの色毎に、伸長量の分布情報に対応する、記録媒体Pに吐出するインクの液滴の補正量の情報との相関関係を作成し、液滴の補正量に関するデータベースとして保持部102に保持させておく。
【0049】
このように、後工程の成形加工で生じる伸長に起因する不具合を補正するためのデータベースが用意されている状態で、液滴吐出装置1により記録媒体Pで加飾シートを作製する際には、まず、図6のフローチャートに示されるように、成形装置70で用いられる金型MDによる3次元データを抽出する(ステップS1)。この場合、液滴吐出装置1における作成部101が3次元データを抽出するが、本実施形態では、予め保持部102に保持されている、金型MDを設計した際のCADデータを3次元データとして抽出している。
【0050】
次に、作成部101は、上記の3次元データから角部(頂点)MD1のデータ(X、Y、Z座標値)を抽出し(ステップS2)、抽出したデータから傾斜角度θを抽出する(ステップS3)。そして、作成部101は、保持部102に保持されたデータベースを参照して(ステップS4)、得られた傾斜角度θ、角部MD1の相対位置等に対応する液滴の補正量を呼び出して、各液滴吐出位置での吐出量に関する印刷データを補正する(ステップS5)。この後、制御部8が、補正された印刷データ用いて、吐出量補正部として、この補正量で補正した量の紫外線硬化型のインクの液滴を液滴吐出ヘッド9から吐出・印刷させる(ステップS6)。
記録媒体Pに紫外線硬化型のインクを塗布したら、制御部8は紫外線照射部12から紫外線を照射させて、紫外線硬化型のインクを硬化させて加飾シートとする。
【0051】
加飾シートとして作製された記録媒体Pは、成形機装置70において、金型MDを用いて所定の立体形状に成形加工される。このとき、記録媒体Pは、成形加工により分布をもって伸長するが、予め伸長量の分布に応じて液滴の吐出量を補正しているため、成形加工により伸長して厚さが小さくなり色濃度が低下しても、当該箇所については予め液滴量を多くしているため、他の箇所と同等の色濃度となり、印刷品質の低下は生じさせない。
【0052】
そして、立体形状に成形された記録媒体Pは、射出成形機80における金型に挿入され、金型内に溶融した合成樹脂を注入することで、記録媒体Pと合成樹脂が一体化された成形品が製造される。
【0053】
このように、本実施形態では、記録媒体Pを後工程で成形加工したときの伸長量分布の情報に対応して、記録媒体Pに吐出する液滴の補正量をデータベースとして保持しておき、実際に液滴を吐出する際には上記のデータベースを用いて吐出量を補正するため、印刷後の記録媒体Pを立体形状に成形加工しても、色濃度の低下を生じさせずに印刷品質を向上させることが可能になる。特に、本実施形態では、立体形状の3次元データとして、金型MDを設計する際のCADデータを用いているため、3次元データを別途作成する必要がなくなり、生産性の向上に寄与できる。
また、本実施形態では、傾斜面44を複数の分割領域に分割し、各分割領域では、同じ液滴補正量で補正するため、吐出量の設定に要する時間を短縮することができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、金型MDにおける突部42を例示したが、これに限定されるものではなく、凹部についても同様であり、予め伸長量分布を実験やシミュレーションで求めておき、この伸長量分布による記録媒体Pの厚さ変動に伴う着色剤の密度変化を補うように、当該箇所における液滴吐出量を補正すればよい。また、記録媒体Pに負方向の伸長(すなわち収縮)が生じる場合には、正の伸長とは逆に、吐出する液滴の量を減ずるように補正すればよい。
【0056】
また、上記実施形態では、紫外線硬化型インクを用いる例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、後工程で成形加工を施すものであれば、熱硬化型インクを用いる場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…液滴吐出装置、 8…制御部(吐出量補正部)、 40…基端部、 43…頂面(頂部)、 44…傾斜面、 101…作成部、 102…保持部、 A1〜A5…分割領域、 P…記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後工程で所定の立体形状に成形加工される記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出装置であって、
前記所定の立体形状に成形加工されたときの前記記録媒体における伸長量分布の情報と、前記伸長量分布に対応する、前記記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報との相関関係を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記相関関係に基づいて、前記記録媒体に吐出する液滴の量を補正する吐出量補正部と、
を備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出装置において、
前記所定の立体形状に対応する3次元データに基づいて、前記相関関係を作成する作成部を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項3】
請求項2記載の液滴吐出装置において、
前記3次元データは、CADデータであることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置において、
前記相関関係は、前記液滴の色に応じて複数設定されることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置において、
前記相関関係は、基端部と、該基端部から高さ方向に離間する頂部との間を結ぶ傾斜部の傾斜角度に応じて複数設定されることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項5記載の液滴吐出装置において、
前記傾斜部を前記頂部からの距離に応じて複数に分割した分割領域が設定され、
前記分割領域毎に前記液滴の補正量の情報が設定されることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項7】
記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出装置と、前記液滴が吐出された前記記録媒体を所定の立体形状に成形加工する成形装置とを備える成形印刷物製造装置であって、
前記液滴吐出装置として、請求項1から6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置が用いられることを特徴とする成形印刷物製造装置。
【請求項8】
後工程で所定の立体形状に成形加工される記録媒体に液滴を吐出する吐出工程を有する液滴吐出方法であって、
前記所定の立体形状に成形加工されたときの前記記録媒体における伸長量分布の情報と、前記伸長量分布に対応する、前記記録媒体に吐出する液滴の補正量の情報との相関関係を作成して保持する保持工程と、
保持している前記相関関係に基づいて、前記記録媒体に吐出する液滴の量を補正する補正工程と、
を含むことを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項9】
請求項8記載の液滴吐出方法において、
前記保持工程では、前記所定の立体形状に対応する3次元データに基づいて、前記相関関係を作成することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項10】
請求項9記載の液滴吐出方法において、
前記3次元データは、CADデータであることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の液滴吐出方法において、
前記相関関係は、前記液滴の色に応じて複数設定されることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか一項に記載の液滴吐出方法において、
前記相関関係は、基端部と、該基端部から高さ方向に離間する頂部との間を結ぶ傾斜部の傾斜角度に応じて複数設定されることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項13】
請求項12記載の液滴吐出方法において、
前記傾斜部を前記頂部からの距離に応じて複数に分割した分割領域を設定し、
前記分割領域毎に前記液滴の補正量の情報を設定することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項14】
記録媒体に液滴を吐出する液滴吐出工程と、前記液滴が吐出された前記記録媒体を所定の立体形状に成形加工する成形工程とを備える成形印刷物製造方法であって、
前記液滴吐出工程では、請求項8から13のいずれか一項に記載の液滴吐出方法を用いることを特徴とする成形印刷物製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101145(P2012−101145A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249455(P2010−249455)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】