説明

液滴塗布装置及び液滴塗布方法

【課題】塗布不良の発生を抑止して塗布品質を向上させる。
【解決手段】揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物Kの塗布面に向けて吐出し、その塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布装置1は、塗布対象物Kが載置されるステージ2と、溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッド5と、ステージ2と塗布ヘッド5とをステージ2上の塗布対象物Kの塗布面に沿って相対移動させる移動装置3と、塗布ヘッド5の駆動素子に液滴の吐出に必要な駆動電圧を与える制御部6とを備え、制御部6は、ステージ2と塗布ヘッド5とを相対移動させてステージ2上の塗布対象物Kの塗布面に液滴を吐出するとき、塗布ヘッド5による液滴の吐出開始から所定吐出回数分の駆動電圧を所定吐出回数より後の駆動電圧よりも増加させて塗布ヘッド5の駆動素子に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布対象物に複数の液滴を吐出して塗布する液滴塗布装置及び液滴塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴塗布装置は、液晶表示装置や有機EL(Electro Luminescence)表示装置等の各種表示装置あるいは半導体装置等を製造する場合、例えば、カラーフィルタを形成する際、または、ガラス基板や半導体ウェハ等の基板に配向膜やレジスト等の機能性薄膜を形成する際に用いられている。
【0003】
この液滴塗布装置は、塗布対象物に向けて複数のノズル、すなわち吐出孔から液滴を吐出する塗布ヘッドを備えており、その塗布ヘッドと塗布対象物とを相対移動させながら塗布液を各吐出孔から液滴として吐出させ、塗布対象物上の塗布領域に所定の塗布膜を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前述の液滴塗布装置では、塗布液として溶液が用いられている。このため、その溶液の溶媒が揮発等により減少すると、塗布液の粘度は増加することになる。この粘度増加は液滴の吐出量が減少する要因になっており、逆に、粘度減少は液滴の吐出量が増加する要因になっている。このように液滴の吐出量は塗布液の粘度に応じて変化する。特に、塗布ヘッドの吐出孔の開口付近では、塗布液の溶媒が揮発しやすく、その粘度は増加しやすい。そこで、その粘度が増加した塗布液を取り除くため、塗布対象物とは別に設けられたトレイ等の受け部に向けて全吐出孔から液滴を連続して吐出させるダミー吐出が行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−131465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のダミー吐出完了後に塗布が開始される際、塗布ヘッドは受け部上の位置であるダミー吐出位置から塗布対象物に対する塗布開始位置まで移動する必要があり、この移動時間は数秒程度であるが、その間にも吐出孔の開口付近の溶媒揮発は進行し、その開口付近の塗布液の粘度は増加してしまう。特に、塗布ヘッドの移動時間は基板の大型化に伴って長くなる傾向にある。このようにダミー吐出後にも塗布液の粘度が増加するため、吐出開始時の液滴の吐出量が減少し、塗布ムラ等の塗布不良が発生して塗布品質が低下してしまう。
【0007】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、その目的は、塗布不良の発生を抑止して塗布品質を向上させることができる液滴塗布装置及び液滴塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る第1の特徴は、液滴塗布装置において、揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に向けて吐出し、塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布装置であって、塗布対象物が載置されるステージと、溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドと、ステージと塗布ヘッドとをステージ上の塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させる移動装置と、駆動素子に液滴の吐出に必要な駆動電圧を与える制御部とを備え、制御部は、ステージと塗布ヘッドとを相対移動させてステージ上の塗布対象物の塗布面に対して液滴を吐出するとき、塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定吐出回数分の駆動電圧を所定吐出回数より後の駆動電圧よりも増加させて駆動素子に与えることである。
【0009】
本発明の実施形態に係る第2の特徴は、液滴塗布装置において、揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に形成された複数の塗布区画内のそれぞれに向けて順次吐出し、塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布装置であって、塗布対象物が載置されるステージと、溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドと、ステージと塗布ヘッドとをステージ上の塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させる移動装置と、駆動素子に、塗布区画毎に所定の液滴吐出回数ずつ液滴の吐出に必要な駆動電圧を与える制御部とを備え、制御部は、ステージと塗布ヘッドとを相対移動させてステージ上の塗布対象物の複数の塗布区画に対して液滴を吐出するとき、塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定数の塗布区画に対する液滴吐出回数を所定数より後の塗布区画に対する液滴吐出回数よりも増加させ、駆動電圧を駆動素子に与えることである。
【0010】
本発明の実施形態に係る第3の特徴は、液滴塗布方法において、揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に向けて吐出し、塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布方法であって、塗布対象物が載置されるステージと、溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドとをステージ上の塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させ、駆動素子に液滴の吐出に必要な駆動電圧を与えるステップを有し、与えるステップでは、ステージと塗布ヘッドとを相対移動させてステージ上の塗布対象物の塗布面に対して液滴を吐出するとき、塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定吐出回数分の駆動電圧を所定吐出回数より後の駆動電圧よりも増加させて駆動素子に与えることである。
【0011】
本発明の実施形態に係る第4の特徴は、液滴塗布方法において、揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に形成された複数の塗布区画内のそれぞれに向けて順次吐出し、塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布方法であって、塗布対象物が載置されるステージと、溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドとをステージ上の塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させ、駆動素子に、塗布区画毎に所定の液滴吐出回数ずつ液滴の吐出に必要な駆動電圧を与えるステップを有し、与えるステップでは、ステージと塗布ヘッドとを相対移動させてステージ上の塗布対象物の複数の塗布区画に対して液滴を吐出するとき、塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定数の塗布区画に対する液滴吐出回数を所定数より後の塗布区画に対する液滴吐出回数よりも増加させ、駆動電圧を駆動素子に与えることである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗布不良の発生を抑止して塗布品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液滴塗布装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す液滴塗布装置が備える塗布ヘッドの概略構成を示す断面図である。
【図3】図1に示す液滴塗布装置が行う塗布処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3に示す塗布処理における画素の色度測定での測定対象画素を説明するための説明図である。
【図5】画素の色度と吐出開始からの画素数との関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る液滴塗布装置1は、塗布対象物としての基板Kが水平状態(図1中、X軸方向及びY軸方向に沿う状態)で載置されるステージ2と、そのステージ2をX軸方向に搬送するステージ搬送部3と、そのステージ搬送部3用のドライバ4と、ステージ2上の基板Kの塗布対象面(以下、単に塗布面という)に向けて液滴を吐出する塗布ヘッド5と、各部を制御する制御部6とを備えている。
【0016】
ステージ2は、ステージ搬送部3上に設けられ、X軸方向に移動可能に設けられている。このステージ2の載置面は平坦に形成されており、その載置面上には基板Kが自重により載置される。なお、載置面上に基板Kを保持するため、静電チャックや吸着チャック等の機構が設けられても良い。
【0017】
ステージ搬送部3は、ステージ2を支持し、その支持したステージ2をX軸方向に案内して移動させる。このステージ搬送部3はドライバ4に電気的に接続されており、ドライバ4からの電力供給により駆動する。ステージ搬送部3としては、例えば、サーボモータを駆動源とする送りねじ式の移動機構やリニアモータを駆動源とするリニアモータ式の移動機構等が用いられる。このステージ搬送部3がステージ2と塗布ヘッド5とをステージ2上の基板Kの塗布面に沿って相対移動させる移動装置として機能する。
【0018】
ドライバ4は、制御部6に電気的に接続されており、その制御部6からの制御信号を受けてステージ搬送部3が備えるモータ等の駆動源に電流を流して電力を供給する。電流がステージ搬送部3の駆動源に流れると、その駆動源が動作し、ステージ2がX軸方向に沿ってステージ搬送部3により移動することになる。
【0019】
塗布ヘッド5は、その内部に収容する塗布液である溶液を外部に複数の液滴として吐出する吐出部として機能する。この塗布ヘッド5は、ステージ2及びステージ搬送部3を跨ぐ門型のコラムにヘッド搬送部(いずれも図示せず)を介して設けられている。コラムの梁部はY軸方向に平行にされている。ヘッド搬送部は、塗布ヘッド5を支持し、その支持した塗布ヘッド5をY軸方向に案内して搬送する。このヘッド搬送部としては、例えば、サーボモータを駆動源とする送りねじ式の移動機構やリニアモータを駆動源とするリニアモータ式の移動機構等が用いられる。
【0020】
ここで、溶液は、基板K上に残留物として残留する溶質と、その溶質を溶解(分散)させる溶媒とにより構成されている。例えば、溶液の一種であるインクは、顔料、溶剤(インク溶剤)、分散剤及び添加剤等の各種の成分により構成されている。このインクが基板Kの表面上に着弾すると、そのインクから溶媒が揮発し、顔料等の溶質が残留することになる。
【0021】
前述の塗布ヘッド5は、図2に示すように、液滴を吐出するための複数の吐出孔11aを有するノズルプレート11と、各吐出孔11aにそれぞれ連通する複数の液室12aを有するヘッド本体12と、各液室12aの容積を変化させる可撓板13と、可撓板13を変形させる複数の圧電素子14と、それらの圧電素子14を駆動させる圧電素子駆動部15とを備えている。
【0022】
ノズルプレート11には、複数個の吐出孔11aが長手方向に所定ピッチ(所定間隔)で直線状に並べられて形成されている。これらの吐出孔11aの並び方向が例えばY軸方向(図1参照)に対して所定角度だけ傾くようにされ、塗布ヘッド5がヘッド搬送部を介してコラムに設けられている。なお、塗布ヘッド5はその所定角度が変更可能に構成されている。例えば、塗布ヘッド5が回転機構(図示せず)によりθ方向(図1中、XY平面に沿う回転方向)に回転可能に支持されており、その回転機構によりY軸方向に対して所定角度だけ傾けられる。この所定角度を変更することにより、基板K上でY軸方向に並ぶ各液滴の間隔、すなわちY軸方向の塗布ピッチを調整することができる。
【0023】
ヘッド本体12には、溶液を収容する各液室12aに加え、それらの液室12aに枝管路(図示せず)を介して連通する主管路12bと、その主管路12bの一端に連通する給液管路12cと、主管路12bの他端に連通する排液管路12dとが形成されている。なお、給液管路12cは溶液タンクから主管路12bに溶液を供給するための流路であり、チューブやパイプ等の供給管を介して溶液タンクに接続されている。また、排液管路12dは主管路12bを通過した溶液を溶液タンクに戻すための流路であり、チューブやパイプ等の排出管を介して前述の溶液タンクに接続されている。
【0024】
可撓板13は、その変形により各液室12aの容積を増減させるための板部材である。この可撓板13は撓み変形可能にヘッド本体12に取付けられており、各液室12aの壁部として機能する。なお、ヘッド本体12は矩形枠状に形成されており、その下面側開口部分が可撓板13によって閉塞されている。この可撓板13がノズルプレート11により覆われ、ノズルプレート11と可撓板13との間に各液室12aが形成されている。
【0025】
各圧電素子14は、各液室12aにそれぞれ対向させて可撓板13に固着されている。これらの圧電素子14は圧電素子駆動部15に電気的に接続されており、その圧電素子駆動部15からの電力供給により駆動する。圧電素子14が駆動して伸縮すると、その駆動した圧電素子14に対応する可撓板13の一部が変形するため、その変形に応じて液室12aの容積が増減し、その液室12aに連通する吐出孔11aから液滴が吐出される。この圧電素子14が駆動素子として機能する。
【0026】
圧電素子駆動部15は、制御部6に電気的に接続されており、その制御部6からの制御信号を受けて各圧電素子14に個別に電圧を印加することが可能なデバイスである。この圧電素子駆動部15は、制御部6からの制御信号に応じて各圧電素子14を個別に駆動させ、塗布ヘッド5の各吐出孔11aから個別に液滴を吐出させる。
【0027】
このような構成の塗布ヘッド5は、圧電素子駆動部15による各圧電素子14に対する駆動電圧の印加に応じて、可撓板13の変形により各液室12a内の溶液を対応する吐出孔11aから押し出して液滴として吐出する。このとき、各液室12aは溶液により満たされている状態である。
【0028】
図1に戻り、制御部6は、全体制御用のメインコントローラ6aと、塗布ヘッド5制御用のヘッドコントローラ6bとを備えている。メインコントローラ6aには、色度を測定する色度計6cと、各種情報や画像を表示する液晶ディスプレイ等の表示部6dとが接続されている。
【0029】
メインコントローラ6aは、各部を集中的に制御するマイクロコンピュータと、塗布に関する塗布情報や各種プログラム等を記憶する記憶部と(いずれも図示せず)を備えている。塗布情報は、ドットパターン等の所定の塗布パターン、塗布ヘッド5の駆動電圧の所定値V0、吐出周波数(吐出タイミング)及び基板Kの移動速度(塗布速度)に関する情報等を含んでいる。なお、駆動電圧を変更することにより液滴の吐出量を調整することが可能であり、吐出周波数や基板Kの移動速度を変更することにより基板K上でX軸方向(基板Kの移動方向)に並ぶ各液滴の間隔、すなわちX軸方向の塗布ピッチを調整することができる。
【0030】
ヘッドコントローラ6bは、メインコントローラ6aからの制御信号を受けて塗布ヘッド5が備える圧電素子駆動部15による各圧電素子14の駆動を制御する。例えば、ヘッドコントローラ6bは、メインコントローラ6aからの制御信号として駆動電圧の所定値V0や吐出周波数等を受け、吐出周波数に基づく吐出タイミングで所定の駆動電圧を各圧電素子14に印加する。
【0031】
色度計6cは、ステージ2上の基板Kに塗布された塗布膜の色度を測定する。例えば、基板Kに対してカラーフィルタ用の塗布(詳しくは後述する)が行われる場合には、色度計6cが画素毎の色度を測定するために用いられる。したがって、色度計6cは基板Kの塗布面上の画素毎に塗布された塗布膜の色度を測定可能に構成されている。例えば、色度計6cは塗布ヘッド5と同様にヘッド搬送部を介してコラムに設けられており、そのヘッド搬送部により塗布ヘッド5と個別にY軸方向に移動可能に構成されている。なお、色度測定時、塗布ヘッド5は色度計6cの移動を妨げない位置に待避している。
【0032】
この色度計6cが、基板Kの塗布面上に液滴の溶質により生成される塗布膜の特性を検出する検出部として機能する。また、色度計6cによって測定した色度に基づいて塗布膜の厚さを求めることができ、塗布膜の厚さから塗布面上に塗布された液滴の塗布量を求めることできることから、色度計6cは液滴の吐出量に関する情報を取得する検出部としての機能を有する。
【0033】
次に、前述の液滴塗布装置1が行う塗布動作(塗布方法)について説明する。なお、液滴塗布装置1の制御部6が各種のプログラムに基づいて塗布処理を実行する。ここでは、着色層である画素をX軸及びY軸の縦横の行列状、すなわちマトリクス状に有するカラーフィルタを製造する場合について説明する。
【0034】
図3に示すように、まず、カラーフィルタ製造用の基板に対して塗布液を塗布する動作である製造塗布に先立って、測定用として用いられる基板(ここでは、製造塗布に用いるカラーフィルタ製造用の基板を測定用基板として用いる例とする。)に対して塗布液を塗布する動作である測定用塗布が行われる(ステップS1)。
【0035】
ただし、塗布ヘッド5が、ステージ2に対する基板Kの搬入/搬出に伴う載置待機等、所定時間以上吐出動作を停止していた場合には、全吐出孔11aから液滴を連続して吐出させるダミー吐出が行われる。その後、ダミー吐出が完了すると、塗布ヘッド5はダミー吐出位置から基板Kに対して塗布を開始する塗布開始位置まで移動する。ダミー吐出位置とは、例えば、ステージ2のX軸方向の端部に設けられた受け部(図示せず)に塗布ヘッド5が対向する位置である。受け部はステージ2と共にステージ搬送部3によりX軸方向に移動し、塗布ヘッド5に対向する吐出位置で塗布ヘッド5の各吐出孔11aから吐出された液滴を受け取る。
【0036】
測定用塗布において制御部6は、塗布情報に基づき、ドライバ4を介してステージ搬送部3を制御し、ステージ2をX軸方向に移動させながら、ヘッドコントローラ6bにより塗布ヘッド5を制御し、X軸方向に移動するステージ2上の基板Kの塗布面に向けて各吐出孔11aから液滴を間欠吐出し、ドット列をX軸方向に順次塗布して、その測定用の基板Kの塗布面上の塗布区画毎に塗布膜を形成する走査塗布動作を行う。
【0037】
ここで、塗布ヘッド5のY軸方向長さ(吐出孔11aの配列長さ)は基板Kの塗布面上における塗布対象領域(塗布区画が行列状に形成された領域)のY軸方向長さよりも短いため、1回の走査塗布で塗布対象領域全域の塗布区画に塗布膜を形成することができない。そこで、塗布対象領域をY軸方向に塗布ヘッド5が一度にカバー可能な寸法の複数の領域に分割し、塗布ヘッド5をY軸方向に分割した領域に合せてピッチ移動させ、分割した領域毎に走査塗布を実行するものとする。この塗布対象領域の分割数や塗布ヘッド5のピッチ移動量の情報は、塗布情報としてメインコントローラ6aの記憶部に記憶されている。
【0038】
よって、塗布ヘッド5で一度にカバー可能な領域内の塗布区画に対する液滴の塗布が完了したら、塗布情報に基づき塗布ヘッド5をY軸方向に設定距離ピッチ移動させ、次の領域に対応する塗布区画に塗布膜を形成する走査塗布動作を行う。その後、制御部6は同様の走査塗布動作を複数回繰り返し、基板Kの塗布面上の塗布区画全体に塗布膜を形成する。なお、測定用塗布では、基板Kの塗布面上の塗布区画全体に塗布を行う必要は無く、少なくとも後述する色度測定の測定対象となる画素分の領域に塗布を行えば良い。
【0039】
ここで、各塗布区画は、カラーフィルタの各画素にそれぞれ対応する塗布領域である。すなわち、カラーフィルタ製造用の基板の塗布面には、格子状の凸部としてのブラックマトリクスが形成されている。このブラックマトリクスは、カラーフィルタの赤色、緑色及び青色の各画素を囲む格子状の黒色部分である。したがって、各塗布区画は、ブラックマトリクスで囲まれた複数の凹部の各々の底面と同じ面積を有し、同じ場所に位置する領域であり、カラーフィルタ製造用の基板においては各凹部の底面が塗布区画となる。なお、ブラックマトリクスは撥インク性を有しており、カラーフィルタ製造用の基板上においてブラックマトリクス以外の領域は親インク性を有している。
【0040】
一つの塗布区画内には、所定数の液滴、例えば八滴の液滴が塗布される。これらの液滴は一つの塗布区画内にそれぞれ着弾し、その後、流動して濡れ広がり、互いにくっついて一つの塗布膜となる。塗布膜は、乾燥して着色層となる。他の塗布区画でも同様に着色層が形成される。数滴の液滴の合計量は、塗布液である溶液の乾燥後に溶質が凹部の容量と略同じになるような所定量(例えば50pl)に設定されている。なお、塗布区画毎に共通の液滴吐出回数は予め設定されており、メインコントローラ6aの記憶部に設定値として記憶されている。
【0041】
前述のステップS1において測定用塗布が完了すると、色度計6cによる色度測定が行われる(ステップS2)。制御部6は、前述の塗布情報に基づいてドライバ4を介してステージ搬送部3を制御し、ステージ2をX軸方向に移動させながら、色度計6cによりステージ2上の基板Kの塗布面に存在する所定数の着色層の色度を測定する。このときの測定対象となる着色層は、後述する駆動電圧の増加量を算出するのに必要とするデータ量に応じて予め設定されており、メインコントローラ6aの記憶部に設定値として記憶されている。
【0042】
例えば、図4に示すように、基板Kの一番端(図4中の左端)に位置してX軸方向に並ぶ着色層、すなわち画素が吐出開始画素から十個測定される。なお、図4では、色度の測定対象となる画素は太線で示されている。これらの画素に対する色度測定により、図5に示すように、画素の色度と吐出開始からの画素数との関係(第1の折れ線A)が求められる。
【0043】
ここで、第1の折れ線Aは、塗布ヘッド5の全吐出孔11a中において図4中の塗布ヘッド5の左端に位置する第1の吐出孔11aにより生成された画素の色度変化を示す折れ線である。また、第2の折れ線Bは、第1の吐出孔11aの隣に位置する第2の吐出孔11aにより生成された画素の色度変化を示す折れ線である。この第2の折れ線Bは、第1の吐出孔11a以外の他の吐出孔11aでも色度変化がほぼ同様となることを示すものである。
【0044】
図5に示すように、第1の折れ線A及び第2の折れ線Bのどちらでも、画素の色度がほぼ一定に安定するまで数画素を要しており、吐出開始後の数画素の色度は色度安定以降の他の画素より低くなっている。すなわち、図5では、色度は第3の画素以降からほぼ一定値に安定しており、第1の画素及び第2の画素の二画素分の色度は第3の画素以降より低くなっている。第1の折れ線Aにおいて第3の画素以降の色度の平均値をaとすると、第1の画素の色度はaの98.59%程度であり、第2の画素の色度はaの99.84%程度である。また、第2の折れ線Bにおいても、第3の画素以降の色度の平均値をbとすると、第1の画素の色度はbの98.75%程度であり、第2の画素の色度はbの99.84%程度である。なお、色度がほぼ一定に安定したか否かは、前後の画素間での色度の差の値が予め設定した許容値以内であるか否かによって判定することができる。
【0045】
この吐出開始から数画素分の色度の違いは色ムラを生じさせ、その色ムラの塗布不良は塗布品質の低下要因となるため、これを抑止する必要がある。前述の測定用塗布では、各圧電素子14に印加する駆動電圧は塗布情報として記憶された所定値V0となっており、各吐出孔11aから設定された吐出周波数で吐出されるそれぞれの液滴の吐出量は同一となるはずであるが、吐出孔11aの開口付近の溶媒が揮発し、その開口付近の溶液粘度が増加するため、実際には、吐出開始から数画素分の吐出量が他の画素より少なくなり、図5に示すように、吐出開始後の数画素の色度が他の画素より低くなり、色度が安定するまでに数画素を要することになる。
【0046】
前述のステップS2において色度測定が完了すると、その色度測定の結果から駆動電圧の増加対象画素及び駆動電圧の増加量が求められ、メインコントローラ6aが備える記憶部に記憶される(ステップS3)。
【0047】
まず、画素毎の色度がほぼ一定値に安定した場合の最初の画素が求められ、その画素より前の画素が増加対象画素として認識される。例えば、図5では、画素毎の色度がほぼ一定値に安定した場合の最初の画素が第3の画素であると認識され、その前の第1の画素及び第2の画素が増加対象画素として認識される。
【0048】
その後、第1の画素の色度と第3の画素以降の色度の平均値との色度差が算出され、それらの色度差がゼロとなるよう、駆動電圧の所定値V0を増加させる増加量ΔV1が求められる。同様に、第2の画素の色度と第3の画素以降の色度の平均値との色度差が算出され、それらの色度差がゼロとなるよう、駆動電圧の所定値V0を増加させる増加量ΔV2が求められる。例えば、第1の画素では、その色度を1〜2%程度増加させて色度差をゼロとするため、また、第2の画素では、その色度を0.1〜0.2%程度増加させて色度差をゼロとするため、所定値V0に対する駆動電圧の増加量ΔV1が求められる。すなわち、吐出孔11aの開口付近の溶液粘度が増加したことによる溶液の吐出量の減少分を補うための駆動電圧の増加量が求められる。
【0049】
なお、第1の吐出孔11a(第1の折れ線A)及び第2の吐出孔11a(第2の折れ線B)における画素の色度変化がほぼ同じであるため、全吐出孔11aにおいて画素の色度変化はほぼ同様であると考えられる。したがって、塗布ヘッド5の全吐出孔11aの数をnとすると、第1の画素のY軸方向に(n−1)個並ぶ画素も増加対象画素として認識され、それらの増加対象画素に対応する駆動電圧増加量も第1の画素に対応する駆動電圧増加量ΔV1と同等として求められる。同様に、第2の画素のY軸方向に(n−1)個並ぶ画素も増加対象画素として認識され、それらの増加対象画素に対応する駆動電圧増加量も第2の画素に対応する駆動電圧増加量ΔV2と同等として求められる。このようにして増加対象画素及び駆動電圧増加量が求められ、メインコントローラ6aが備える記憶部に増加情報として記憶される。
【0050】
なお、駆動電圧の所定値V0に付加する駆動電圧増加量ΔV1、ΔV2を記憶部に記憶させる代わりに、駆動電圧の所定値V0に駆動電圧増加量ΔV1、ΔV2を加えた増加駆動電圧V01、V02を第1、第2の画素に対する駆動電圧として記憶部に記憶されるようにしても良い。
【0051】
このように第1の画素及び第2の画素も含め、それらの両方のY軸方向に(n−1)個だけ並ぶ画素も増加対象画素として認識され、それに対応する駆動電圧の増加量が求められる。所定値V0より増加した駆動電圧が印加された圧電素子14では、その伸縮度合いが増すため、液室12a内から吐出孔11aを介して溶液を液滴として吐出させる吐出力が増加する。このとき、吐出孔11aから吐出される液滴の吐出量は、通常であれば圧電素子14に駆動電圧の所定値V0を印加した場合の吐出量に比べ増えるはずであるが、吐出孔11aの開口付近の溶液粘度が増加しているため、前述の吐出量と同等となる。
【0052】
前述のステップS3において駆動電圧の増加量の算出が完了すると、次に、製造塗布が行われる(ステップS4)。前述の色度測定に係る測定時間や算出時間等が数分かかるため、製造塗布前には、前述の測定用塗布前と同様、全吐出孔11aから液滴を連続して吐出させるダミー吐出が行われる。このダミー吐出が完了すると、塗布ヘッド5はダミー吐出位置から基板Kに対して塗布を開始する塗布開始位置まで移動する。
【0053】
製造塗布でも測定用塗布と同様に、制御部6は、塗布情報に基づき、ドライバ4を介してステージ搬送部3を制御し、ステージ2をX軸方向に移動させながら、ヘッドコントローラ6bにより塗布ヘッド5を制御し、X軸方向に移動するステージ2上の基板Kの塗布面に向けて各吐出孔11aから液滴を間欠吐出し、ドット列をX軸方向に順次塗布して、塗布ヘッド5で一度にカバー可能な領域内に位置するその基板Kの塗布面上の塗布区画毎に対して塗布膜を形成する走査塗布動作を行う。前記領域内の塗布区画に対する液滴の塗布が完了したら、塗布情報に基づき塗布ヘッド5をY軸方向に設定距離移動させ、次の領域に対応する塗布区画に塗布膜を形成する走査塗布動作を行う。その後、制御部6は同様の走査塗布動作を複数回繰り返し、基板Kの塗布面上の塗布区画全体に塗布膜を形成する。なお、基板Kに赤インクを塗布する場合には、全ての塗布区画のうち赤インクを塗布すべき塗布区画に対して液滴をそれぞれ塗布し、その後、同様にして緑インク及び青インクも塗布する。
【0054】
ただし、制御部6は、メインコントローラ6aの記憶部に記憶された増加対象画素及び駆動電圧の増加量を含む増加情報に基づいて、塗布ヘッド5に対して吐出開始から所定回数(例えば、一画素を八滴で生成する場合には、二画素分の十六回)だけ駆動電圧を所定値V0より増加させて与える制御を行う。これにより、増加対象画素に対応する吐出孔11aにおいては、駆動電圧が所定値V0である場合に比べ、液滴の吐出量が増加する。したがって、吐出開始から所定回数分の各吐出量はその後の吐出量と同等となり、その結果、吐出開始から所定回数分の各溶質量はその後の溶質量と同等となる。このように、全吐出孔11aの吐出量が同等となり、全画素の溶質量が同じになるので、全画素の色度を均一にすることができる。
【0055】
その後、一連の塗布動作が完了すると、ステージ2上から基板Kが搬出され、次の基板Kがステージ2上に搬入される。この搬出/搬入には数分を要するため、塗布ヘッド5は次の塗布開始前に再びダミー吐出を行い、ダミー吐出後、ダミー吐出位置から塗布開始位置に移動する。その後、次の基板Kに対して製造塗布を行うが、このときにも、塗布不良の発生を確実に抑止するためにステップS1からステップS4までを実行することが望ましいが、これに限るものではなく、例えば、二回目の製造塗布時にはステップS1からステップS4までの処理を実行せず、ステップS5で前回の増加情報を用いて製造塗布を行うようにしても良い。したがって、ステップS1からステップS4までを基板K毎に必ず実行する必要は無く、溶液の種類や所望の塗布品質等に応じて実行するか否かを変更するようにしても良い。
【0056】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態によれば、塗布ヘッド5の各圧電素子14に与える駆動電圧が、基板K上の液滴毎の溶質量が均一になるように吐出開始から所定回数(例えば、一画素を八滴で生成する場合には、二画素分の十六回)だけ増加される。これにより、液滴の吐出量が吐出開始から所定回数適切に増加し、各吐出孔11aの開口付近の溶液粘度が増加している場合でも、吐出開始から所定回数分の各吐出量はその後の吐出量と同等となる。したがって、全吐出孔11aの吐出量が同じになり、その結果、全画素の溶質量は同等となるので、全画素の色度を均一にすることが可能である。このようにして、色ムラの塗布不良の発生を抑止して塗布品質を向上させることができるので、基板K上に形成される塗布膜の品質を向上させることができる。
【0057】
特に、全画素で色度が均一になり、色ムラが防止されるので、カラーフィルタを有する表示パネルの品質を向上させることができる。さらに、吐出開始から所定回数分、駆動電圧を増加させるという簡単な制御により、必要量の溶質を塗布することが可能になるので、制御データの増大や処理時間の長大等を抑えることができる。
【0058】
また、駆動電圧の増加量は色度計6cにより検出された色度に応じて調整される。これにより、吐出開始から所定回数分の各画素の色度が所定回数後の各画素の色度と同等になることが確実となるので、色ムラの塗布不良の発生を確実に抑えることができる。
【0059】
なお、前述の製造塗布において、塗布ヘッド5で一度にカバー可能な領域に対して塗布を行なう一回目の走査塗布動作が完了すると、塗布ヘッド5はその完了位置からY軸方向に設定距離移動した二回目の走査塗布動作の開始位置に移動する。このときの移動時間は数秒であるが、塗布ヘッド5はこの間吐出孔11aからの液滴の吐出を中断している。そして、この時間は基板の大型化に伴って長くなる傾向にある。このため、塗布ヘッド5の吐出中断時間に応じて、メインコントローラ6aの記憶部に記憶されている増加情報、例えば駆動電圧の増加量が調整されて用いられても良い。
【0060】
ただし、この吐出中断時間は塗布ヘッド5が一連の塗布動作中に吐出を中断した時間であり、溶液によっては一連の塗布動作中の吐出中断時間は無視しても良い場合がある。一連の塗布動作とは、一枚の基板Kの塗布面に設けられた塗布対象領域に対する塗布が開始してからその塗布対象領域全体に対する塗布が完了するまでの動作のことである。なお、一枚の基板Kから複数個の表示パネルを作成する多面取りを行う場合には、基板Kの塗布面に塗布対象領域が複数設けられることがある。この場合には、これら複数の塗布対象領域全体に対する塗布が完了するまでの動作が一連の塗布動作となる。
【0061】
ここで、例えば、一連の塗布動作中の吐出中断時間が無視可能、すなわち、当該吐出中断時間中における溶媒の乾燥に起因する吐出孔11a開口付近での溶液粘度の増加が吐出量に減少が生じない程度である場合には、ダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間に対応する前述の増加情報を用いることなく塗布を行う。一方、それらの吐出中断時間が無視不可能、すなわち、当該吐出中断時間中における溶媒の乾燥に起因する吐出孔11a開口付近での溶液粘度の増加が吐出量の減少をもたらす程度である場合には、塗布ヘッド5のダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間と、塗布ヘッド5の走査塗布動作の完了から次の走査塗布動作の開始までの吐出中断時間(走査塗布動作間の吐出中断時間)との時間差に応じて、メインコントローラ6aの記憶部に記憶されている増加情報、例えば駆動電圧の増加量が調整されて用いられる。各吐出中断時間はあらかじめ塗布パターン等の塗布情報からわかっている。
【0062】
走査塗布動作間の吐出中断時間がダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間より長い場合には、その時間差に基づいて駆動電圧の増加量は増やされて用いられる。一方、走査塗布動作間の吐出中断時間がダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間より短い場合には、その時間差に基づいて駆動電圧の増加量は減らされて用いられる。なお、走査塗布動作間の吐出中断時間と、塗布ヘッドのダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間とがほぼ同じである場合には、前述の増加情報がそのまま用いられる。
【0063】
このように駆動電圧の増加量は、塗布ヘッド5による基板Kに対する一連の塗布動作中において、塗布ヘッド5の吐出中断時間に応じて調整される。これにより、一連の塗布動作中の吐出中断時間がダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間と異なる場合等でも、全吐出孔11aの吐出量が同じになり、全画素の溶質量は同等となるので、色ムラの塗布不良の発生を確実に抑えることができる。
【0064】
なお、多面取りの基板Kにおいて塗布対象領域が走査方向に複数配置されている場合には、走査方向に並ぶ1つの塗布対象領域と次の塗布対象領域との間で吐出中断時間が発生する。この吐出中断時間においても、塗布ヘッドのダミー吐出から塗布開始までの吐出中断時間との比較に基づいてメインコントローラ6aの記憶部に記憶されている増加情報を調整して用いることが可能である。
【0065】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について図3を参照して説明する。
【0066】
本発明の第2の実施形態は基本的に第1の実施形態と同様である。第2の実施形態では、第1の実施形態との相違点について説明し、第1の実施形態で説明した部分と同一部分は同一符号で示し、その説明も省略する。
【0067】
本発明の第2の実施形態に係る液滴塗布装置1では、図3に示すステップS3において、駆動電圧の増加量にかえて、液滴吐出回数の増加量が求められる。ここで、測定用塗布では、一つの塗布区画に対して例えば八滴の所定数の液滴が塗布される。この液滴吐出回数は設定値としてメインコントローラ6aの記憶部に記憶されている。この液滴の設定値を増加させる増加量、すなわち増加回数が求められることになる。言い換えれば、一つの塗布区画(画素)に塗布する液滴数の増加数を求めることになる。具体的には、一つの塗布区画に塗布する液滴数を八滴に対して1滴増やすとか2滴増やすとかの如くである。
【0068】
ステップS4における製造塗布では、制御部6は、第1の実施形態と同様、液滴吐出回数の所定値(例えば八滴)に基づいて、塗布ヘッド5に対して駆動電圧の所定値V0を与える制御を行う。ただし、制御部6は、メインコントローラ6aの記憶部に記憶された増加対象画素及び液滴吐出回数の増加量を含む増加情報に基づいて、全ラインにおいて塗布ヘッド5の吐出開始から所定の塗布区画数(例えば二画素分)だけ液滴吐出回数を増加させる。なお、塗布区画に対して塗布する液滴数を増加させるためには、その塗布区画内における液滴の塗布間隔を狭めれば良いが、その手段としては、その塗布区画に対する液滴の吐出周波数を高くするものでも、塗布速度(基板Kの移動速度)を増加させるものでも、それらを合せたものでも良い。
【0069】
これにより、吐出開始から所定の塗布区画(例えば、第1の画素及び第2の画素を含みそれらにそれぞれY軸方向に並ぶ全画素)においては、着弾する液滴の数が他の塗布区画に比べ増加する。したがって、吐出開始から所定の塗布区画分の各吐出量はその後の吐出量と異なるが、吐出開始から所定の塗布区画内に塗布された塗布液中に含まれる溶質量はその後の溶質量と同等となる。これにより、全塗布区画、すなわち全画素の溶質量は同等となるので、全画素の色度を均一にすることが可能である。このようにして、色ムラの塗布不良の発生を抑止して塗布品質を向上させることができる。
【0070】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態によれば、増加対象画素の駆動電圧を増加させることにかえて、増加対象画素の液滴吐出回数を増加させることでも、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、吐出開始から所定の塗布区画分、液滴吐出回数を増加させるという簡単な制御により、必要量の溶質を塗布することが可能になるので、制御データの増大や処理時間の長大等を抑えることができる。
【0071】
(他の実施形態)
なお、本発明に係る前述の実施形態は例示であり、発明の範囲はそれらに限定されない。前述の実施形態は種々変更可能であり、例えば、前述の実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素が削除されても良く、さらに、異なる実施形態に係る構成要素が適宜組み合わされても良い。
【0072】
前述の実施形態においては、基板K上に塗布膜として着色層を形成してカラーフィルタを製造しているが、これに限るものではなく、基板K上に塗布膜として配向膜を形成するようにしても良く、あるいは、塗布膜としてレジスト膜を形成するようにしても良い。これらの場合には、画素である着色層の色度を測定する色度計6cを用いるのではなく、例えば、配向膜の厚さやレジスト膜の厚さを測定する膜厚計あるいは滴下された各液滴の着弾径や着断面積等から滴下量を検出する滴下量検出器等を用いると良い。なお、膜厚計は、基板K上に液滴の溶質により生成される塗布膜の厚さを検出する検出部として機能する。また、膜厚計によって検出した塗布膜の厚さから塗布面上に塗布された液滴の塗布量を求めることできることから、膜厚計は液滴の吐出量に関する情報を取得する検出部としての機能を有する。
【0073】
なお、基板K上に一つまたは複数個設定された矩形状の塗布対象領域に配向膜を形成するために配向膜材料を塗布する場合には、まず、表面に撥液処理が施された測定用の基板に対して記憶部に記憶された生産用基板に対する塗布情報に基づいて液滴の塗布を行う測定用塗布を行う。撥液処理が施された基板K上に塗布された液滴は、基板Kの撥液性のために濡れ広がることなく個々に独立して半球状の形状となる。
【0074】
測定用塗布の後、上述の液滴量検出器を用いて、基板上に塗布された各液滴の量を検出する。すなわち、液滴を真上から撮像するカメラを制御部6による制御の元において基板Kに対してその面方向に相対的に移動させ、予め設定された撮像対象位置に順次位置づけ、各位置に滴下された液滴を真上から撮像する。撮像画像を不図示の画像処理装置を用いて画像処理し、撮像画像中の液滴画像の面積または直径から当該液滴の量を液滴の吐出量として算出する。例えば、撮像対象位置は、第1の実施形態と同様に、塗布ヘッド5において左端に位置する第1の吐出孔11aによって塗布された液滴のうち吐出開始位置から20個〜40個分程度であり、この数は吐出量がほぼ一定に安定するに充分な数で、経験値や実験によって定めることができる。
【0075】
算出した各液滴の吐出量から滴下位置と吐出量との関係を表す折れ線グラフを作成する。このグラフは、図5と同様に、吐出開始からn滴目以降で吐出量がほぼ一定値に安定する。ここでは、15滴目以降で吐出量がほぼ安定する傾向を示したものとする。
【0076】
この結果に基づいて、吐出量が安定するまでの14滴分の吐出に関する駆動電圧の増加量を求める。すなわち、14滴の液滴それぞれについて、安定後の吐出量との差を求め、その差を相殺する分の駆動電圧の増加量を求める。吐出量の差に応じた駆動電圧の増加量は、予め駆動電圧と吐出量との関係を実験によって求めておき、その関係を参照することによって定めることができる。14滴分の駆動電圧増加量は、駆動電圧の増加情報として記憶部に記憶される。
【0077】
また、滴下位置と吐出量との関係は塗布ヘッド5における第1の吐出孔11a以外の他の吐出孔11aも同様の傾向を示すと考えられるので、上述で求めた各滴下位置での駆動電圧の増加量は他の吐出孔11aに対しても同様に適用する。
【0078】
生産用の基板に対して製造塗布を行うときには、上述のようにして設定された塗布情報に基づいて塗布ヘッド5の吐出孔11aからの液滴の吐出が制御される。
【0079】
また、基板K上に液滴の溶質により生成される塗布膜の特性を検出する検出部としては、塗布膜の電気的抵抗を測定するものであっても、塗布膜の透過光量や吸光度を検出するものであっても良い。
【0080】
また、上述の実施の形態において、基板Kの塗布面に対する一連の塗布動作中に吐出中断時間が生じる場合には、その吐出中断時間の長さに応じてメインコントローラ6aの記憶部に記憶されている増加情報を調整して用いることとして説明したが、測定用塗布において、上述の吐出中断によって吐出量の減少が生じた結果として必要となる駆動電圧の増加量を予め求めておくようにしても良い。
【0081】
また、溶液の粘度の増加に伴う吐出量の減少量は、各吐出孔11aで同様の傾向を示すことから、1つ或いは2つの吐出孔11aにおいて求めた吐出量の情報に基づいて求めた駆動電圧の増加量を、全ての吐出孔11aに対して適用するものとして説明したが、個々の吐出孔11aそれぞれについて個別に吐出量の情報を検出し、駆動電圧の増加量を設定するようにしても良い。
【0082】
また、前述の実施形態においては、塗布ヘッド5に対して基板KをX軸方向に移動させているが、これに限るものではなく、基板Kに対して塗布ヘッド5をX軸方向に移動させるようにしても良く、要は塗布ヘッド5と基板Kとを相対移動させるようにすれば良い。
【符号の説明】
【0083】
1 液滴塗布装置
2 ステージ
3 ステージ搬送部(移動装置)
5 塗布ヘッド
6 制御部
6c 色度計(検出部)
14 圧電素子(駆動素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に向けて吐出し、前記塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布装置であって、
前記塗布対象物が載置されるステージと、
前記溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドと、
前記ステージと前記塗布ヘッドとを前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させる移動装置と、
前記駆動素子に前記液滴の吐出に必要な駆動電圧を与える制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ステージと前記塗布ヘッドとを相対移動させて前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に対して前記液滴を吐出するとき、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定吐出回数分の前記駆動電圧を前記所定吐出回数より後の前記駆動電圧よりも増加させて前記駆動素子に与えることを特徴とする液滴塗布装置。
【請求項2】
揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に形成された複数の塗布区画内のそれぞれに向けて順次吐出し、前記塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布装置であって、
前記塗布対象物が載置されるステージと、
前記溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドと、
前記ステージと前記塗布ヘッドとを前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させる移動装置と、
前記駆動素子に、前記塗布区画毎に所定の液滴吐出回数ずつ前記液滴の吐出に必要な駆動電圧を与える制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ステージと前記塗布ヘッドとを相対移動させて前記ステージ上の前記塗布対象物の前記複数の塗布区画に対して前記液滴を吐出するとき、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定数の塗布区画に対する前記液滴吐出回数を前記所定数より後の前記塗布区画に対する前記液滴吐出回数よりも増加させ、前記駆動電圧を前記駆動素子に与えることを特徴とする液滴塗布装置。
【請求項3】
前記塗布対象物に対して吐出された液滴の吐出量に関する情報を取得する検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部により取得された前記液滴の吐出量に関する情報に基づいて、前記増加量を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴塗布装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記塗布ヘッドによる前記塗布対象物に対する一連の塗布動作中において、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出を中断した後再び吐出開始するときには、当該吐出開始前における前記塗布ヘッドの吐出中断時間に応じて、当該塗布対象物に対する1回目の吐出開始における前記増加量を調整して用いることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴塗布装置。
【請求項5】
揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に向けて吐出し、前記塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布方法であって、
前記塗布対象物が載置されるステージと、前記溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドとを前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させ、前記駆動素子に前記液滴の吐出に必要な駆動電圧を与えるステップを有し、
前記与えるステップでは、前記ステージと前記塗布ヘッドとを相対移動させて前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に対して前記液滴を吐出するとき、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定吐出回数分の前記駆動電圧を前記所定吐出回数より後の前記駆動電圧よりも増加させて前記駆動素子に与えることを特徴とする液滴塗布方法。
【請求項6】
揮発性を有する溶媒を含む溶液の液滴を塗布対象物の塗布面に形成された複数の塗布区画内のそれぞれに向けて順次吐出し、前記塗布面に所定パターンの塗布膜を形成する液滴塗布方法であって、
前記塗布対象物が載置されるステージと、前記溶液の液滴を駆動素子の駆動により吐出孔から吐出する塗布ヘッドとを前記ステージ上の前記塗布対象物の塗布面に沿って相対移動させ、前記駆動素子に、前記塗布区画毎に所定の液滴吐出回数ずつ前記液滴の吐出に必要な駆動電圧を与えるステップを有し、
前記与えるステップでは、前記ステージと前記塗布ヘッドとを相対移動させて前記ステージ上の前記塗布対象物の前記複数の塗布区画に対して前記液滴を吐出するとき、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出開始から所定数の塗布区画に対する前記液滴吐出回数を前記所定数より後の前記塗布区画に対する前記液滴吐出回数よりも増加させ、前記駆動電圧を前記駆動素子に与えることを特徴とする液滴塗布方法。
【請求項7】
前記塗布対象物に対して吐出された液滴の吐出量に関する情報を取得するステップをさらに有し、
前記与えるステップでは、前記取得するステップにより取得された前記液滴の吐出量に関する情報に基づいて、前記増加量を調整することを特徴とする請求項5又は6記載の液滴塗布方法。
【請求項8】
前記与えるステップでは、前記塗布ヘッドによる前記塗布対象物に対する一連の塗布動作中において、前記塗布ヘッドによる液滴の吐出を中断した後再び吐出開始するときには、当該吐出開始前における前記塗布ヘッドの吐出中断時間に応じて、当該塗布対象物に対する1回目の吐出開始における前記増加量を調整して用いることを特徴とする請求項5、6又は7記載の液滴塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−98337(P2012−98337A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243548(P2010−243548)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】