説明

液状組成物及び銅張積層板の製造方法

【課題】液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含み、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し難い銅張積層板を与える液状組成物を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルと、溶媒と、無機充填材が炭素数6以上のアルキル基を有するシラン化合物で表面処理されてなる表面処理無機充填材とを混合して、液状組成物とする。無機充填材としては、酸化物や窒化物が好ましく用いられ、シラン化合物としては、下記式(I)で表される化合物が好ましく用いられる。
(I)R1nSi(OR24-n
(R1は、炭素数6以上のアルキル基を表す。R2は、アルキル基を表す。nは、1又は2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含む液状組成物に関する。また、本発明は、この液状組成物を用いて、銅張積層板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル層を絶縁層とするフレキシブルプリント配線板用の銅張積層板を製造する方法として、銅箔上に液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を流延した後、溶媒を除去する方法が検討されている(特許文献1〜5参照)。また、液晶ポリエステル層に所定の性能を付与するために、前記液状組成物に無機充填材を含ませることにより、液晶ポリエステル層に無機充填材を含ませることも検討されており(特許文献1〜5参照)、例えば、特許文献2には、液晶ポリエステル層の線膨張率を下げるために、液晶ポリエステル層に無機充填材を含ませることが記載されている。また、特許文献3及び5には、無機充填材と液晶ポリエステルとの親和性や接着性を高めるために、無機充填材を表面処理することが記載されており、特許文献3には、無機充填材の表面処理剤として、エポキシ基を有するシラン化合物等を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−326312号公報
【特許文献2】特開2005−342980号公報
【特許文献3】特開2007−106107号公報
【特許文献4】特開2007−129208号公報
【特許文献5】特開2009−241594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含む液状組成物を用いて得られる銅張積層板は、液晶ポリエステル層と銅箔との密着性に優れるものの、両者を剥がそうとするような力が加わると、液晶ポリエステル層中の無機充填材と液晶ポリエステルとの親和性や接着性が十分でないためか、その界面剥離による液晶ポリエステル層の破壊が生じ易く、結果として、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し易いという問題がある。そこで、本発明の目的は、液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含み、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し難い銅張積層板を与える液状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、液晶ポリエステルと、溶媒と、無機充填材が炭素数6以上のアルキル基を有するシラン化合物で表面処理されてなる表面処理無機充填材とを含む液状組成物を提供する。また、本発明によれば、金属箔上に、前記液状組成物を流延した後、前記溶媒を除去する銅張積層板の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液状組成物を用いることにより、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し難い銅張積層板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0008】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのそれぞれの一部又は全部に代えて、その重縮合可能な誘導体を用いてもよい。
【0009】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるものが挙げられる。
【0010】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有するものであることが好ましい。
【0011】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0012】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0013】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0014】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0015】
ここで、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は通常6〜20である。アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0016】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Ar1としては、p−フェニレン基(p−ヒドロキシ安息香酸に由来)及び2,6−ナフチレン基(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来)が好ましい。
【0017】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Ar2としては、p−フェニレン基(テレフタル酸に由来)、m−フェニレン基(イソフタル酸に由来)、2,6−ナフチレン基(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来)及びジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位であり、Ar3としては、p−フェニレン基(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来)及び4,4’−ビフェニリレン基(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30〜80モル%であり、より好ましくは30〜60モル%であり、さらに好ましくは30〜40モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にあり、繰返し単位(1)の含有量が少ないほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にある。
【0020】
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%であり、より好ましくは20〜35モル%であり、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(2)の含有量が多いほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、繰返し単位(2)の含有量が少ないほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にある。
【0021】
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%であり、より好ましくは20〜35モル%であり、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(3)の含有量が多いほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、繰返し単位(3)の含有量が少ないほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にある。
【0022】
繰返し単位(2)と繰返し単位(3)との含有割合は、[繰返し単位(2)]/[繰返し単位(3)](モル/モル)で表して、0.9/1〜1/0.9であることが、液晶ポリエステルが高い液晶性を発現するので、好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、実質的に全ての繰返し単位(3)のX及び/又はYがイミノ基であることが、より好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルは、原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。前記溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が250℃以上であることが好ましく、250℃〜350℃であることがより好ましく、260℃〜330℃であることがさらに好ましい。液晶ポリエステルの流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステルの耐熱性や強度が向上する傾向にあるが、あまり高いと、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低下したり、液状組成物の粘度が増加したりして、取り扱い難くなる。
【0026】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0027】
本発明の液状組成物は、前述のような液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含むものであり、溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0028】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主体とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドが好ましい。
【0030】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である溶媒が好ましく、液状組成物の流延後に除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である溶媒が好ましい。
【0031】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、通常5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、また、所望の厚さの液晶ポリエステル層が得られるように、適宜調整される。
【0032】
本発明の液状組成物には、無機充填材として、その表面が炭素数6以上のアルキル基を有するシラン化合物で処理されてなる表面処理無機充填材を含ませる。これにより、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し難い銅張積層板を得ることができる。
【0033】
無機充填材は、低線膨張性、高熱伝導性、高剛性、高弾性等、所望の性能の液晶ポリエステル層が得られるように適宜選択される。無機充填材としては、例えば、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭化ケイ素等の炭化物;及びホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、チタン酸カリウム等のオキソ酸塩が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、酸化物や窒化物が好ましい。また、その形状は、粒状であってもよいし、繊維状であってもよいし、板状であってもよく、2種以上の形状が混在していてもよい。
【0034】
無機充填材の表面処理剤として用いられる炭素数6以上のアルキル基を有するシラン化合物は、前記アルキル基がケイ素原子に直接結合してなるものであることが好ましく、また、ケイ素原子に結合した前記アルキル基以外の基は、アルコキシル基等の脱離基であることが好ましい。
【0035】
前記シラン化合物は、下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
(I)R1nSi(OR24-n
【0037】
(R1は、炭素数6以上のアルキル基を表す。R2は、アルキル基を表す。nは、1又は2である。nが1である場合、3つのR2は、互いに同一であっても異なっていてよい。nが2である場合、2つのR1は、互いに同一であっても異なっていてよく、2つのR2は、互いに同一であっても異なっていてよい。)
【0038】
ここで、R1で表される炭素数6以上のアルキル基の例としては、n−ヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は通常12以下である。R2で表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜4である。
【0039】
前記シラン化合物の例としては、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、ジ−n−デシルジメトキシシラン及びジ−n−デシルジエトキシシランが挙げられる。
【0040】
無機充填材の表面処理は、前記シラン化合物又はその溶液に無機充填材を浸漬することにより行ってもよいし、前記シラン化合物又はその溶液を無機充填材に噴霧することにより行なってもよいし、前記シラン化合物又はその溶液をガス化して無機充填材に接触させることにより行ってもよい。なお、前記シラン化合物の溶液を用いる場合、溶媒の除去は、通常、溶媒を蒸発させることにより行い、加熱することにより行なってもよいし、熱風を吹き付けることにより行なってもよいし、電磁波を照射することにより行なってもよい。
【0041】
無機充填材の表面処理は、前記シラン化合物の0.01〜2質量%水溶液を無機充填材に噴霧した後、80〜120℃で10分間〜10時間加熱処理することにより行うことが好ましい。また、前記シラン化合物の水溶液は、酢酸等の酸の添加により、pHが3〜5に調整されていることが好ましい。
【0042】
液状組成物中の表面処理無機充填材の含有量は、液晶ポリエステル及び表面処理無機充填材の合計量に対して、通常5〜85体積%、好ましくは10〜80体積%であり、所望の性能の液晶ポリエステル層が得られるように、適宜調整される。
【0043】
なお、液状組成物には、必要に応じて、液晶ポリエステル以外の樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が、1種又は2種以上含まれていてもよいが、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常20質量部までである。
【0044】
また、液状組成物には、必要に応じて、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材や、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、染料、顔料等の添加剤が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0045】
液状組成物の調製は、液晶ポリエステル、溶媒、表面処理無機充填材及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより行うことができるが、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に表面処理無機充填材を分散させることにより行うことが好ましい。その際、必要に応じて用いられる他の成分は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させる際、又はその前若しくは後に、溶媒に溶解又は分散させてもよいし、液晶ポリエステル溶液に表面処理無機充填材を分散させる際、又はその前若しくは後に、液晶ポリエステル溶液に溶解又は分散させてもよい。
【0046】
こうして得られる液状組成物を、銅箔上に流延した後、液状組成物から溶媒を除去することにより、銅箔上に液晶ポリエステル層が形成されてなり、液晶ポリエステル層と銅箔とが剥離し難い銅張積層板を製造することができる。
【0047】
液状組成物の流延方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法及びスクリーン印刷法が挙げられる。また、溶媒の除去は、通常、加熱、減圧、通風等により溶媒を蒸発させることにより行うが、加熱することにより行うことが好ましく、通風しつつ加熱することにより行うことがより好ましい。加熱温度は、通常80〜200℃であり、加熱時間は、通常10〜120分である。
【0048】
銅箔の厚さは、通常1〜100μm、好ましくは5〜80μmであり、形成される液晶ポリエステル層の厚さは、通常0.5〜500μm、好ましくは1〜200μmである。銅箔や液晶ポリエステル層の厚さが小さいほど、銅張積層板の柔軟性が向上する傾向にあるが、あまり小さいと、強度が不十分になる。
【0049】
こうして得られる銅張積層板の銅箔を、エッチング等により配線パターン化することにより、配線が液晶ポリエステル層から剥離し難く、フレキシブルプリント配線板として好適なプリント配線板を得ることができる。また、このプリント配線板は、多層プリント配線板を製造する際の積層用のプリント配線板として用いることもできる。
【実施例】
【0050】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を測定した。
【0051】
〔液晶ポリエステル層の表面粗さの測定〕
非接触型表面粗さ計(Perthen社の「ペルトメータ」)を用いて、銅張積層板の液晶ポリエステル層の銅箔が付いていない面について、Rz、Rmax及びRaを測定した。
【0052】
〔液晶ポリエステル層と銅箔とのピール強度の測定〕
銅張積層板の銅箔をエッチングして、幅10mmの帯状とし、この帯状の銅箔を、液晶ポリエステル層に対して垂直になるように、50mm/分の速度で引き剥がす際のピール強度(N/cm)を測定した。
【0053】
実施例1
(1)液晶ポリエステルの製造
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液所ポリエステルの流動開始温度は、235℃であった。次いで、この液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下、223℃で3時間、加熱処理することにより、固相重合を行った。この固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0054】
(2)無機充填材の表面処理
酢酸0.5g及びn−ヘキシルトリメトキシシラン(東レダウコーニーング(株)の「Z−6582」)6gを、純水594gに加え、室温で30分間、200rpmで攪拌して、pH4のシラン化合物溶液を得た。このシラン化合物溶液を酸化アルミニウム(住友化学(株)の「スミコランダムAA−1.5」)に噴霧し、スーパーミキサー((株)カワタの「SMP−2」)で10分間高速攪拌した後、120℃で2時間、加熱乾燥して、表面処理酸化アルミニウムを得た。ここで、n−ヘキシルトリメトキシシランの使用量は、酸化アルミニウムに対して、1質量%とした。
【0055】
(3)液状組成物の製造
前記(1)で得られた液晶ポリエステル2200gを、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液に、前記(2)で得られた表面処理酸化アルミニウムを加え、遠心脱泡機で5分間攪拌して、液状組成物を得た。ここで、表面処理酸化アルミニウムの使用量は、液晶ポリエステル及び表面処理酸化アルミニウムの合計量に対して、40体積%とした。
【0056】
(4)銅張積層板の製造
前記(3)で得られた液状組成物を、厚さ70μmの銅箔上に、厚さ350μmとなるように塗布し、塗膜を100℃で20分間乾燥させた後、320℃で3時間熱処理して、銅張積層板を得た。得られた銅張積層板について、液晶ポリエステル層の表面粗さの測定及び液晶ポリエステル層と銅箔とのピール強度の測定を行った。結果を表1に示した。
【0057】
比較例1
実施例1(2)の工程を省略し、酸化アルミニウムを表面処理せずに用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0058】
比較例2
実施例1(2)において、n−ヘキシルトリメトキシシランに代えて、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング(株)の「Z−6040」)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
実施例1(2)において、n−ヘキシルトリメトキシシランに代えて、フェニルトリメトキシシラン(東レダウコーニング(株)の「Z−6124」)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと、溶媒と、無機充填材が炭素数6以上のアルキル基を有するシラン化合物で表面処理されてなる表面処理無機充填材とを含む液状組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1に記載の液状組成物。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記式(3)で示される繰返し単位を10〜35モル%有する液晶ポリエステルである請求項2に記載の液状組成物。
【請求項4】
X及び/又はYが、イミノ基である請求項2又は3に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、非プロトン性化合物を50質量%以上含む溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項6】
前記非プロトン性化合物が、ハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物である請求項5に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記非プロトン性化合物が、アミドである請求項5又は6に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記無機充填材が、酸化物及び/又は窒化物である請求項1〜7のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項9】
前記シラン化合物が、下記式(I)で表される化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の液状組成物。
(I)R1nSi(OR24-n
(R1は、炭素数6以上のアルキル基を表す。R2は、アルキル基を表す。nは、1又は2である。nが1である場合、3つのR2は、互いに同一であっても異なっていてよい。nが2である場合、2つのR1は、互いに同一であっても異なっていてよく、2つのR2は、互いに同一であっても異なっていてよい。)
【請求項10】
前記液晶ポリエステルの含有量が、前記液晶ポリエステル及び前記溶媒の合計量に対して、10〜50質量%である請求項1〜9のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項11】
前記表面処理無機充填材の含有量が、前記液晶ポリエステル及び前記表面処理無機充填材の合計量に対して、10〜80体積%である請求項1〜10のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項12】
銅箔上に、請求項1〜11のいずれかに記載の液状組成物を流延した後、前記溶媒を除去する銅張積層板の製造方法。

【公開番号】特開2012−25848(P2012−25848A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165641(P2010−165641)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】