説明

深さ方向元素濃度分析方法

【課題】深さ方向元素濃度分析方法に関し、測定されたイオン注入元素の深さ方向プロファイルを減衰深さとスパッタ収率との関係を利用し、スパッタ収率の変化を分析しようとする。
【解決手段】二次イオン質量分析法で測定されたイオン注入元素の深さ方向プロファイルを分析する方法であって、イオン注入時に形成されたダメージの度合いにより変化するスパッタ収率の変化を減衰深さから求め、そのスパッタ収率の変化に依って測定プロファイルの深さ軸を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析法で得られたイオン注入元素の深さ方向元素濃度分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造する工程では、イオン注入法が多用されているが、In或いはSbなど高質量のイオンをSi基板に注入した場合、Si基板はダメージを受けてアモルファス化してしまう。
【0003】
このようにダメージを受けた基板中の注入元素の分布評価は、通常、二次イオン質量分析(secondary ion mass spectorometry:SIMS)法を用いて行なわれるが、ダメージ、即ち、アモルファス度は、一試料中で必ずしも一様ではなく、その違いによってスパッタ収率は変化する。
【0004】
スパッタ収率の変化は、スパッタ速度の変化に結び付くことになる。通常,SIMSを用いて得られるプロファイルの深さ構成は,分析が始まってから終わるまでスパッタ速度を一定と仮定する為、ダメージの度合いが内部で変化する試料では、精確な測定結果が得られない。
【0005】
図3は、Si基板にInを5keV、1×1015cm-2の条件でイオン注入して得た試料において、従来技術に依って深さ方向のイオン分布を求めた結果を表す線図であり、縦軸に濃度を、また、横軸に深さをそれぞれ採ってある。
【0006】
測定は、一次イオンとしてO2 + を用い、加速電圧180eV、垂直入射を条件とし、二次イオンはIn+ を検出した。濃度はドーズ量から換算し,深さは上記した通常の構成法、即ち、分析を開始してから終わるまでスパッタ速度を一定と仮定する構成法で構成したのであるが、本来のガウス分布に近い形と大きく異なることが看取される。
【0007】
上記問題を解消するには、ダメージの度合いに伴うスパッタ収率の変化を補正する必要がある。しかし,ダメージの度合いを正確に数値化することは難しく,スパッタ収率と対応づけることは容易でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、測定されたイオン注入元素の深さ方向プロファイルを減衰深さとスパッタ収率との関係を利用し、スパッタ収率の変化を補正しようとする。尚、本明細書に於いて、「減衰深さ」とは、イオン注入元素の深さ方向プロファイルのテール部分で、イオン注入元素の濃度が1桁低下するのに必要な深さ、と定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に依る深さ方向元素濃度分析方法に依れば、二次イオン質量分析法で測定されたイオン注入元素の深さ方向プロファイルを分析する方法であって、イオン注入時に形成されたダメージの度合いにより変化するスパッタ収率の変化を減衰深さから求め、そのスパッタ収率の変化に依って測定プロファイルの深さ軸を補正することが基本になっている。
【発明の効果】
【0010】
前記手段を採ることに依り、深さ方向元素濃度プロファイルは滑らかなガウス分布形状に表すことができ、真の分布に近い形状に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、例えばSiにイオン注入を行い、SIMSで測定したイオン注入元素の深さ方向プロファイルに於ける減衰深さとスパッタ収率との関係を利用し、深さ方向元素濃度プロファイルの分析を行う。
【0012】
次に、その測定プロセスについて説明する。
(1)
分析対象となる不純物の深さ方向分布を一次イオンの加速エネルギーと入射角度をかえて複数回の測定を行う。
【0013】
(2) (1)で測定した深さ方向分布の低濃度部分(ダメージがない部分)で減衰深さを求める。
【0014】
(3)
一次イオン電流量から試料に照射された一次イオンの数を計算し、スパッタクレータの体積からスパッタ収率を求める。
【0015】
(4)
(2)及び(3)からスパッタ収率に対して減衰深さをプロットして線図を作製する。
この際、減衰深さを一次イオンのエネルギーで規格化した値を用いるとより簡便である。
【0016】
(5)
実際の測定で得られた深さ方向分布において,スパッタ収率が変わる部分の減衰深さを求め,その減衰深さに対応するスパッタ収率の値を(4)で得られた線図から求める。
【0017】
(6)
(5)で得られた異なるスパッタ収率が同じ値になるような係数を求める、即ち、一つのスパッタ収率に合わせる。その係数を用いて深さ方向分布の深さ軸を補正する。
【0018】
図1は前記説明した測定プロセスで求めたイオン注入元素の深さ方向プロファイルに於ける減衰深さとスパッタ収率との関係を表す線図であり、縦軸にはエネルギーで規格化した減衰深さ(λ/E)を、横軸にはスパッタ収率(原子個/O2 + )をそれぞれ採ってある。尚、イオン注入の入射角度は0〜70度である。
【0019】
また、前記説明した測定プロセスに於いて、(5)で説明した測定分布からスパッタ収率が異なる部分の減衰深さを求め、それに対応するスパッタ収率を図1から取得する。
【0020】
図1から得られたスパッタ収率を前記説明した測定プロセスに於いて、(6)で説明した手順で補正し、深さ方向分布を再構築する。
【0021】
図2は深さ方向のイオン分布を補正した結果を表す線図であり、縦軸に濃度を、また、横軸に深さをそれぞれ採ってある。
【0022】
図2から明らかであるが、イオンの深さ方向分布は滑らかなガウス分布形状を示していて、真の分布に近い特性線が現れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に依る測定プロセスで求めたイオン注入元素の深さ方向プロファイルに於ける減衰深さとスパッタ収率との関係を表す線図である。
【図2】深さ方向のイオン分布を補正した結果を表す線図である。
【図3】従来技術に依って深さ方向のイオン分布を求めた結果を表す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次イオン質量分析法で測定されたイオン注入元素の深さ方向プロファイルを分析する方法であって、
イオン注入時に形成されたダメージの度合いにより変化するスパッタ収率の変化を減衰深さから求め、
そのスパッタ収率の変化に依って測定プロファイルの深さ軸を補正すること
を特徴とする深さ方向元素濃度分析方法。
【請求項2】
減衰深さおよびスパッタ収率を算出する際、一次イオンの照射エネルギーと入射角度の組み合わせを変えて複数の値を取得すること
を特徴とする請求項1記載の深さ方向元素濃度分析方法。
【請求項3】
減衰深さを算出する際、イオン注入によるダメージが少ない1×1019cm-3以下の濃度領域に於いてイオン注入元素濃度を取得すること
を特徴とする請求項1記載の深さ方向元素濃度分析方法。
【請求項4】
前記イオン注入された元素がIn又はSbであること
を特徴とする請求項1記載の深さ方向元素濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−215989(P2008−215989A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52619(P2007−52619)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】