説明

深溝玉軸受

【課題】玉と保持器の間の油膜保持性能を向上させ、且つ、潤滑油の適度な流入・排出を促進させることにより、軸受の温度上昇を避けて、軸受の許容回転数を上げることのできる深溝玉軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内外輪間に転動自在に配置された複数の玉3と、玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器4と、外輪側の軸方向端部に取り付けられて内輪1に向けて延びる環状の油溜板5と、を備え、軸受内部に潤滑油を外部から供給する油潤滑の環境で使用される。油溜板5は、潤滑油の排出側で、内輪1の外周面との間に隙間を持って設置されており、且つ、保持器4が樹脂製の冠型保持器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のトランスミッション等の高速回転で使用される深溝玉軸受に係り、特に、ポンプ等で潤滑油を軸受外部から軸受内部へ供給する強制潤滑方式等、油潤滑の環境で使用される深溝玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の一種である深溝玉軸受において、高速回転を実現するための技術が種々考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の深溝玉軸受では、図5に示すように、合成樹脂製冠型保持器101において、玉102を収容するポケット103の中心Pを保持器径方向厚み中心Cより外径側にし、内径側の玉抱え込み量を確保することで、保持器101の外径側への捩れ変形を抑制することができ、これにより、保持器101と外輪間の摺動を防止することが記載されている。
【特許文献1】実開平5−34317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のような保持器101を備えた軸受を高速回転させた場合、玉102と保持器101との間に存在する潤滑油が、遠心力によって外側へ跳ね飛ばされ、ポケット103の内径側が油不足になるおそれがある。油不足の場合には、保持器101が摩耗してしまうため、上記保持器形状に構成していても、最終的には捩れ変形が抑えられなくなり、保持器101が外輪に摺接して振れ回りが発生する可能性があった。振れ回りが発生すると、保持器101に異常な力が加わるため、保持器101が破損してしまうおそれがある。
【0005】
高速回転には、油潤滑で使用されることが好ましいが、油潤滑で使用される場合であっても上記課題が存在し、更なる改善が必要であった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受内部を良好な油浴状態に保ちながら、保持器と玉間の潤滑状態を向上させて、保持器摩耗の抑制効果を有して振れ回りを防止することができる高速回転可能な深溝玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、
内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、
該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、
前記外輪側の軸方向端部に取り付けられて前記内輪に向けて延びる環状の油溜板と、
を備え、軸受内部に潤滑油を外部から供給する油潤滑の環境で使用される深溝玉軸受であって、
前記油溜板は、前記潤滑油の排出側で、前記内輪の外周面との間に隙間を持って設置されており、且つ、
前記保持器が樹脂製の冠型保持器であることを特徴とする深溝玉軸受。
(2) 前記油溜板の内径は、前記玉の公転直径より小さいことを特徴とする(1)に記載の深溝玉軸受。
(3) 前記内輪の外径部と前記油溜板の内径部との径方向最短距離が前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の深溝玉軸受。
(4) 前記内輪の外径部と前記油溜板の内径部との径方向最短距離が前記玉の直径の11%以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の深溝玉軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の深溝玉軸受によれば、油溜板が、潤滑油の排出側で、内輪の外周面との間に隙間を持って設置されており、且つ、保持器が樹脂製の冠型保持器であるので、軸受内部を良好な油浴状態に保ちながら、保持器と玉間の潤滑状態を向上させて、保持器摩耗の抑制効果を有して振れ回りを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の深溝玉軸受に係る各実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1及び図2に示すように、第1実施形態の深溝玉軸受は、軸受内部に潤滑油を外部から供給する油潤滑の環境下で使用されるもので、外周面に内輪軌道溝1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道溝2aを有する外輪2と、内輪軌道溝1aと外輪軌道溝2aとの間に転動自在に配置された複数の玉3と、これら複数の玉3を円周方向に所定の間隔で保持する合成樹脂製の冠型保持器4と、油潤滑の排出側である外輪2の軸方向一端部に取り付けられる油溜板(シールドとも呼ばれる)5と、を備える。
【0011】
冠型保持器4は、図2に示すように、軸方向一端部に形成される円環部4aと、該円環部4aから軸方向に延びる複数の柱部4bと、各柱部4bの先端部に設けられる一対の爪部4cと、を備える。冠型保持器4は、円環部4が油溜板5と玉3との間に挟まれるように油潤滑の排出側に配置され、隣接する柱部4bの爪部4c間で、玉3を保持するポケット部6を構成する。
【0012】
冠型保持器4の樹脂材料としては、ポリアミド46、ポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが挙げられる。また、上記した樹脂に、10〜50wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、保持器の剛性および寸法精度を向上させることができる。このような樹脂製保持器は、射出成形により安価に製造が可能であり、波型プレス保持器などに比べてコストを大幅に抑制することができる。
【0013】
油溜板5は、外輪2の肩部2bに形成された環状溝2cのうち、排油側の環状溝2cに外径部を係合させることで外輪2に取り付けられており、内輪1の肩部1bに向けて延びる。具体的に、油溜板5の内径部は、肩部1bに形成された溝1cの軸方向外側の端部側外径部1dと、潤滑油排出用の隙間を介して対向する。
【0014】
ここで、油溜板5の内径Dsは、玉3の公転直径PCD以下の寸法(即ち、Ds≦PCD)とされ、且つ、内輪1の端部側外径部1dと油溜板5の内径部との径方向最短距離y、つまり、y=〔(油溜板5の内径:Ds)−(内輪1の端部側外径部の外径:D1)〕/2が玉3の直径Dwの9%以上、好ましくは、11%以上に設計されている。
【0015】
このように、油溜板5を油排出側に設けることで、潤滑油が遠心力で飛ばされるのを防ぐことで、油潤滑の条件下において軸受内部を良好な油浴状態に保持し、保持器4と玉3間の潤滑状態を向上させることができる。そして、潤滑状態の改善は、保持器摩耗の抑制効果を有するため、高速回転においても振れ回りを防止することができる。
【0016】
また、油溜板5の内径Dsが、玉3の公転直径PCD以下の寸法であれば、保持器4と玉3間に潤滑油が確実に保持されるので、耐振れ回り性を向上させることができる。一方、内輪1の端部側外径部1dと油溜板5の内径部との径方向最短距離yが玉3の直径Dwの9%以上、好ましくは、11%以上に設定されることで、給排油性能を向上させることができ、振れ回り低減に対して大きな効果が得られる。
【0017】
<第2実施形態>
図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る深溝玉軸受の半断面図である。この深溝玉軸受の内輪1は、油排出側の肩部1bに軸方向端部に向けて小径となる切欠き部1eを有する。このため、内輪1の外径部と油溜板5の内径部との径方向最短距離yは、この切欠き部1eの外径部と油溜板5の内径部とで決定される。このようにして、径方向最短距離yを確保することで、軸受内部を良好な油浴状態に保持しつつ、給排油性能を向上させることができる。
なお、油排出側の肩部1bに形成される切欠き部の形状としては、図3(b)に示すような段部1fによって構成されてもよい。
【0018】
<第3実施形態>
図4(a)は、本発明の第3実施形態に係る深溝玉軸受の半断面図である。この深溝玉軸受では、油溜板がハウジング25の油排出側に取り付けられた側板25aによって構成されている。この場合であっても、潤滑油が遠心力で飛ばされるのを防ぐことができ、油潤滑の条件下において軸受内部を良好な油浴状態に保持し、保持器4と玉3間の潤滑状態を向上させることができる。また、側板25aの内径部の寸法を第1実施形態と同様に設定することで、軸受内部を良好な油浴状態に保持しつつ、給排油性能を向上させることができる。
なお、油溜板は、図4(b)に示すように、ハウジング25の側板25aと外輪2の側面との間に挟まれる環状の板部材26によって構成されてもよい。
【0019】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
本発明の給油方式については、油潤滑であればよく、油浴と強制潤滑のどちらを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の深溝玉軸受の半断面図である。
【図2】図1の冠型保持器の斜視図である。
【図3】(a)は、第2実施形態の深溝玉軸受の半断面図であり、(b)は、第2実施形態の変形例に係る深溝玉軸受の半断面図である。
【図4】(a)は、第3実施形態の深溝玉軸受の半断面図であり、(b)は、第3実施形態の変形例に係る深溝玉軸受の半断面図である。
【図5】従来の深溝玉軸受の保持器を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 内輪
1a 内輪軌道溝
2 外輪
2a 外輪軌道溝
3 玉
4 冠型保持器
5 油溜板
D1 内輪の外径
Ds 油溜板の内径
PCD 玉の公転直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、
内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、
該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、
前記外輪側の軸方向端部に取り付けられて前記内輪に向けて延びる環状の油溜板と、
を備え、軸受内部に潤滑油を外部から供給する油潤滑の環境で使用される深溝玉軸受であって、
前記油溜板は、前記潤滑油の排出側で、前記内輪の外周面との間に隙間を持って設置されており、且つ、
前記保持器が樹脂製の冠型保持器であることを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項2】
前記油溜板の内径は、前記玉の公転直径より小さいことを特徴とする請求項1に記載の深溝玉軸受。
【請求項3】
前記内輪の外径部と前記油溜板の内径部との径方向最短距離が前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の深溝玉軸受。
【請求項4】
前記内輪の外径部と前記油溜板の内径部との径方向最短距離が前記玉の直径の11%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の深溝玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−275759(P2009−275759A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126019(P2008−126019)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】