説明

添加剤及びそれを含む潤滑油組成物

プロペンの様な分岐鎖アルケンのオリゴマー類混合物により触媒的にジフェニルアミンをアルキル化して製造されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミンであって、最大百分率で存在するオリゴマーの炭素数が15〜24の範囲内である。アルキル化ジフェニルアミン類はピストン堆積物及びエンジンスラッジを低減するために有用なクランクケース潤滑油添加剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば潤滑油添加剤として有用なパラ−アルキル化ジフェニルアミン類、及びその合成に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキル化ジフェニルアミン類は、火花着火型または圧縮着火型内燃エンジンのクランクケースを潤滑するための潤滑油組成物(又は潤滑油)の添加剤として用いるためなどで良く知られている抗酸化剤である。従来技術では、アルケン(又はアルキレン)型アルキル化剤によってジフェニルアミン類を触媒的にアルキル化することにより、製造してきた。従来技術で記載されているアルキル化剤の内、プロペン(又はプロピレンとも呼称される)のオリゴマーが挙げられる。
US-A-No.5,214,211では、ジフェニルアミン類をアルキル化するためにプロピレンオリゴマーの使用を記載している。
EP-A-No.0,416,914では、プロピレンオリゴマーから誘導して、炭素原子数12又は15の分岐アルキル基を有するp,p'-ジアルキルジフェニルアミンを記載している。
US-A-No.6,315,925Aではノニル化剤としてトリプロピレン、即ちC9オレフィンを用いてノニル化したジフェニルアミン類について記載している。ノニル化ジフェニルアミン類はクランクケース用潤滑油中に抗酸化剤として商業的に用いられており、例えば、Irganox L57やNaugalube640の様な製品がある。
US2004/0211113A1では、プロピレンオリゴマーの混合物でジフェニルアミンをアルキル化することによるアルキル化ジフェニルアミンの製造を開示しているが、用いることができるオリゴマーについては特定していない。
US2006/0276677A1は、炭素数4〜28のアルキレン又はオレフィン異性体の混合物の形であるアルキル化剤を用いたジフェニルアミンのアルキル化を開示している。アルキル化剤として、C12オレフィンであるプロピレンテトラマーの使用を特に例示している。
「現代の潤滑油用アルキル化ジフェニルアミン抗酸化剤の再設計」と題し、Lubrication Science 2007; 19: 25-40で発行された論文において、Gattoらは、C9アルキル化又はC12のプロピレンテトラマーでアルキル化されたジフェニルアミン類に関する試験結果を報告し、同一重量基準では、高分子量ジフェニルアミンは他の構造より性能が劣るデータが得られた、と結論している。
当業界における課題は、ピストン堆積物及びエンジンスラッジの点で、特に潤滑油添加剤として驚くべき特長と潤滑油用抗酸化剤として満足な有効性を有する、プロペンオリゴマーから誘導されたアルキル化ジフェニルアミンを提供することである。従来技術では、ピストン堆積物低減効果を有するアルキル化ジフェニルアミン類に関する記載は無い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、定義されたアルキル化ジフェニルアミンの使用により、ここに提示するデータに基づいて、従来技術の課題に驚くべき程に合致する。
即ち第1の観点においては、本発明は、分岐鎖アルケンオリゴマー混合物の形を取ったアルキル化剤でジフェニルアミンを触媒的にアルキル化することを含むパラ−アルキル置換ジフェニルアミンを合成する方法を含み、該オリゴマー混合物中に最大百分率で存在するオリゴマーは炭素数15〜24の範囲であり、炭素数9以下のオリゴマーは該混合物中で25%以下であり、炭素数24〜36のオリゴマーは該混合物中50%以下である。尚、該百分率は全てクロマトグラフィーによる[面積/面積]比として測定される。
第2の観点においては、本発明は潤滑粘度の油及び下記の成分を含む組成物、又は混合して得られる組成物を含む;
(A)添加剤成分として、下記に定義されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミン:
(i)アルキル基又はアルキル基群は分岐鎖アルケンオリゴマー類から誘導される分岐であり、該アルキル基には炭素数15〜45、好ましくは15が最大百分率で存在し、炭素数9以下のアルキル基は25%以下、炭素数45以上のアルキル基は25%以下であり;
(ii)置換されたジフェニルアミンの25%以下がトリアルキル置換であり;そして
(iii)置換されたジフェニルアミンの10%以下がオルソ−置換であり、前記百分率は、全てクロマトグラフィーによる[面積/面積]比として測定される。
【0004】
第3の観点においては、本発明は下記の成分を含む又は下記の成分を混合して得られる組成物を含む:
(A)潤滑粘度の油;及び
(B)添加剤成分として、分岐鎖アルケンオリゴマー混合物の形であるアルキル化剤でジフェニルアミンを触媒的にアルキル化して得られた又は取得が可能であるパラ−アルキル置換ジフェニルアミンであり、該混合物はプロペンオリゴマー中、質量基準でプロペン5量体を最も多く含む。
【0005】
第4の観点として、本発明は主要な量の潤滑粘度の油と下記の成分をそれぞれ少量で含むクランクケース用潤滑油組成物を含む。
(A)添加剤成分として、下記に定義されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミンであり、
(i)該アルキル基又はアルキル基群は分岐であり、分岐鎖アルケンオリゴマーから誘導されるものであり、最大百分率で存在するアルキル基の炭素数は12〜45であり、好ましくは炭素数12又は15であり、炭素数9以下のアルキル基が25%以下、炭素数45以上のアルキル基が25%以下であり;
(ii)置換されたジフェニルアミンの25%以下がトリアルキル置換であり;
(iii)置換されたジフェニルアミンの10%以下がオルソ−置換であり;そして
(B)無灰分散剤、金属洗浄剤、腐食防止剤、ジヒドロカルビルジチオホスファート金属塩、抗酸化剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、消泡剤及び粘度調整剤から選択される、(A)以外の1種又は2種以上の添加剤であり、該組成物は、Sequence III G Engine Oil Certification 試験法 (ASTM D7320)に依って測定される平均重量ピストン堆積評点が3.5超であり、及び/又はSequence VG Engine Oil Certification 試験法 (ASTM D5302)に依って測定される平均スラッジ評点が7.8超である。
第5の観点として、本発明は、第4の観点に依る潤滑油組成物を用いた内燃エンジンのクランクケースを潤滑する方法を含む。
【0006】
第6の観点として、本発明は、潤滑粘度の油を主要な量で含み、且つ下記の成分を夫々少量含む、0WX又は5WXクランクケース用潤滑油組成物を含む(Xが10、20、30、40又は50である)。
(A)添加剤成分として、下記で定義されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミン:
(i)該アルキル基又はアルキル基群は分岐であり、プロペンオリゴマーから誘導されるものであり、最大百分率で存在するアルキル基の炭素数は12〜45、好適には12又は15であり、炭素数9以下のアルキル基が25%以下、炭素数45以上のアルキル基が25%以下であり;
(ii)置換されたジフェニルアミンの25%以下がトリアルキル置換であり;
(iii)置換されたジフェニルアミンの10%以下がオルソ−置換であり;そして
(B)無灰分散剤、金属洗浄剤、腐食防止剤、ジヒドロカルビルジチオホスファート金属塩、抗酸化物質、流動点降下剤、摩擦調整剤、消泡剤及び粘度調整剤から選択される、(A)以外の1種又は2種以上の添加剤である。
【0007】
第7の観点として、本発明は、第4の観点で定義された添加剤成分(A)を少量含む潤滑油組成物で内燃エンジンのクランクケースを潤滑する場合に、添加剤成分(A)の代わりに、パラ−ノニル置換ジフェニルアミンを含む他の特定の潤滑油組成物と比較して、Sequence III G Engine Oil Certification 試験法 (ASTM D 7320)に基づく平均重量ピストン堆積量によって測定されるピストン清浄度を改良する方法を含む。
本発明の全ての観点において、分岐鎖アルケンオリゴマーは好ましくは分岐鎖プロペンオリゴマー類である。
本明細書に置いて、下記の語と表現を用いる場合は、下記に示す意味を有する。
「有効成分」又は「a.i.」は、希釈剤又は溶剤でない添加物質を意味する。
「含む」又はその同類語は記載された特徴、工程、整数又は成分を特定するが、1又は2以上の他の特徴、工程、整数、成分又はそれらの群の存在又は添加を排除するものではない。「・・・から成る」又は「本質的に・・・から成る」又はその類語は「含む」もしくはその同義語に包含され、「本質的に・・・から成る」はそれが適用する組成物の特徴に物質的に影響しない物質を含むことを許容する。
「主要な量」は組成物中で50質量%を超える量を意味する。
「少量」は組成物中で50質量%未満を意味する。
「TBN」はASTM D2896によって測定される合計塩基数を意味する。
更に、本明細書では:
「リン含有率」はASTM D5185によって測定され;
「硫酸化灰含有率」 はASTM D874によって測定され;
「イオウ含有率」はASTM D2622によって測定され;
「kV100」はASTM D445によって測定される100℃の動粘度である。
又、用いられる種々の成分は、本質的且つ最適及び慣用であり、配合、保存又は使用条件下で反応する可能性もあり、本発明はかような如何なる反応の結果、得ることができる又は得られる製品をも供給する、ことも理解されるべきである。
更に、ここで示される如何なる上限及び下限量、範囲及び比率限界は互いに独立に結び付けられることも理解する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここでは、適切な場合には、本発明の夫々及び全ての観点に関連する本発明の特質をより詳細に次に記載する。
パラ−アルキル置換ジフェニルアミン
本発明のアルキル化ジフェニルアミンは、実際に、アルキル置換基の異性体の存在に由来する混合物であり、各ジフェニルアミン部分に結合するアルキル置換基の数は可変であり、各ジフェニルアミン部分に結合する置換基の位置も可変である。又、該混合物には未反応の(未置換の)ジフェニルアミンの様なパラ−アルキル置換基を有しない物質や1もしくは2つのオルソ位だけが置換する(後者がo'−置換である)物質が含まれる。
しかしながら、本発明の混合物は、大部分又は全てにおいて、1又は両方のパラ位(即ち、4及び/又は4')が置換された物質を含む。一つの位置だけでパラ位置換された物質はモノ置換物質として呼称され;二つの位置でパラ位置換された物質はジ置換物質として呼称される。本発明の混合物はさらに少量のトリ置換物質、即ち、二つのパラ位と一つのオルソ位が置換された物質、及び未反応のジフェニルアミンを包含する。通常、トリ置換物質の存在は潤滑油添加剤の性能上は望ましくないものと見做される。
既に示したように、該混合物は他のオルソ位置換物質を含んでもよい。それは、モノ−オルソ、ジ−オルソ及びオルソ−パラ置換物質を含んでもよい。かような物質は、幾つかの場合、混合物の10質量%未満、例えば5質量%程度までを構成する。しかしながら、それらの存在は潤滑油添加剤の性能を助長するとは考えられない。
大事なことは、パラ(モノ及び/又はジ)置換が本発明の混合物中で主要でなければならない、ということである。モノ体:ジ体の比率は100:0〜0:100、例えば90:10、80:20、又は70:30〜30:70の範囲であってもよい。好ましくは、モノ体:ジ体の比率は50:50を超え、例えば60:40超である。一つの実施態様において、アルキル化ジフェニルアミンは4-位だけがアルキル置換された物質から成る。
アルキル化剤がプロペンオリゴマーの混合物である場合、該アルキル基は3の倍数ではない炭素数のものを含んでもよい。これは本発明の置換されたジフェニルアミンを合成する際に用いられるアルキル化剤中にある分解プロパンオリゴマーの存在に由来する可能性がある。
本発明の置換されたジフェニルアミンの例として、最大百分率で存在するアルキル基の炭素数が15又は30である場合も言及される。最大百分率で存在するアルキル基の炭素数が15である場合、炭素数15のアルキル基が存在する全てのアルキル基の50%超を構成してもよく、しかし一方では、存在する全てのアルキル基の50%未満であってもよい。
さらに、本発明のジフェニルアミンについては、アルキル基の10%以下が炭素数9以下であり、アルキル基の10%以下が炭素数45以上である、と記載される。
次の点も注目されるべきである。クロマトグラフィー上の[面積/面積]比により測定される置換アルキル基の95%以上、例えば97%以上は9超の炭素数であってもよく;アルキル基の平均分子量は140〜340、例えば140〜300である。
【0009】
調製方法
アルキル化は、例えば、好ましくは芳香族化合物のフリーデル−クラフツアルキル化反応用ルイス酸触媒を用いることにより、触媒的に遂行される。その例としては、AlCl3と BF3及びそれらの誘導体を含む。
使用される触媒は当業界で既知の粘土触媒であってもよい。好ましい粘土触媒は、支配的に粘土鉱物モンモリロナイトから成るサブベントナイト類又はベントナイト類である。用いられる粘土の量は、反応物質であるジフェニルアミンの質量を基準にして1〜60質量%、好ましくは2〜20質量%である。
商業的に入手可能な粘土には下記の物を含み、夫々商標で特定される:Filtrol, Retrol, Fulcat, Fulmont 及び Katalysatorである。それらは酸活性化又は酸で浸出される粘土を含んでもよい。
粘土はアルミノシリケート類であり:三価のAl3+カチオンが酸素アニオンの8面体配列に結合している。二次元のMO6単位の繰り返しが8面体層を形成し、同様に、SiO4単位によって4面体層が形成される。粘土は四面体層と八面体層との相対数によって分類され、モンリロナイト(上記した)は二つの四面体層に八面体層が挟まれた構造をしている。
典型的例としては、アルキル化は大気圧乃至10バールの圧力下、120〜190℃の温度で進行する。
アルキル化剤対ジフェニルアミンの比率(質量:質量)は、例えば、1.5:1〜5:1の範囲であり、触媒の量は、反応物質であるジフェニルアミンの質量を基準にして、1〜10質量%の範囲で存在することが好ましい。アルキル化反応は、適宜、不活性雰囲気中で遂行してもよい。
【0010】
アルキル化剤の例として、C12、C15、C18及びC21プロペンオリゴマーを含む混合物を挙げることができ、該オリゴマーはC12、C18及びC21オリゴマー個々よりC15オリゴマーの質量を多く含有する。かような混合物は商業的に入手可能であり、その一つはChevron Oronite社 から市販されている“Pentamer K”であり、Propylene Pentamerなる名前を付され、「高度に分岐し、殆どがC15モノオレフィン」であると記載されている。
アルキル化剤対ジフェニルアミンのモル比は1:3〜6:1、好ましくは1:3〜1.5:1の範囲であり、又は2:1〜6:1、好ましくは4:1である。より好ましくは、1:3〜0.8:1である。
用いられるアルキル化剤は一つよりも多い意味の混合物であるか、あってもよい。第一に、それは炭素数が1より多いオリゴマーを含んでもよい。第二に、特定の炭素数のオリゴマーは一つよりも多い異性体で存在してもよい。特定の炭素数を有するオリゴマーに対するこの明細書での引用はそれらの互いに異なる異性体を包含するものとされる。本明細書における「オリゴマー」という語はそこで述べている炭素数を有する如何なるポリマーも意味し、それらは多くの炭素数を有するので、それらの内の幾つかは異なる文脈において「ポリマー」と呼ばれる。
好ましいアルキル化剤においては、炭素数9以下のオリゴマーと炭素数24以上のオリゴマーは共に混合物の10%以下を構成する。該アルキル化剤は分岐鎖C15プロペンオリゴマーの混合物から成ってもよい。
【0011】
潤滑粘度の油(A)
潤滑粘度の油(しばしば、「ベースストック」又は「ベースオイル」と呼称される)は潤滑油の主要な液体成分であり、その中に添加剤及び可能な他の油が混合して、例えば最終的な潤滑油(又は潤滑組成物)を製造する。
ベースオイルは濃縮物の製造に有用であると同様、それから潤滑油組成物を製造するのに有用であり、天然油(野菜、動物又は鉱物)及び合成潤滑油及びそれらの混合物から選択してもよい。それは粘度的に軽質の蒸留鉱物油から、ガスエンジンオイル、鉱物潤滑油、自動車オイル及び重質ディーゼル油の様な重質潤滑油までの範囲に亘る。通常、オイルの粘度は100℃で2〜30 mm2s-1、特に5〜20 mm2s-1である。
天然油は動物油と野菜油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油と水素精製され溶剤処理された、パラフィン系、ナフテン系及びパラフィン−ナフテン混合系の鉱物潤滑油、を含む。石炭又はシェールから誘導された潤滑粘度の油もまた有益なベースオイルである。
合成潤滑油としては以下の様な炭化水素油を含む:重合及びインター重合(interpolymerized)したオレフィン(例えば、ポリブテン類、ポリプロピレン類、プロピレン−イソブテンコポリマー類、塩素化ポリブテン類、ポリ(1-ヘキセン)類、ポリ(1-オクテン)類、ポリ(1-デセン)類、);アルキルベンゼン類(例えば、ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン類);ポリフェノール類(例えば、ビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェノール類);及びアルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類及びそれらの誘導体、類似物及び同族体。
もう一つの適当な群の合成潤滑油としてはジカルボン酸類(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類及びアルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノレン酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類)と種々のアルコール類(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。これらのエステル類の特定な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノレン酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、及びセバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モル及び2-エチルヘキサン酸2モルと反応させて得られる複雑なエステルを含む。
【0012】
合成油として有用なエステル類としては、C5〜C12モノカルボン酸類と、及びネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールの様なポリオール類及びポリオールエーテル類から製造されるものを含む。
本発明組成物には未精製油、精製油、再精製油を用いることができる。未精製油は天然又は合成源から精製工程を経ずに直接得られるものである。例えば、乾留(retort)操作から直接得られるシェール油、蒸留工程から直接得られる石油又はエステル化工程から直接得られるエステル油などは再処理されずに用いられる未精製油である。精製油は、1もしくはそれ以上の性質を改良するために1又はそれ以上の精製工程で処理される点を除いては、未精製油に類似している。例えば、蒸留、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、ろ過、浸出(percolation)などの多くの精製技術は当業者に公知である。再精製油は、既に用いられた精製油から精製油を得るために用いられるのと同様なプロセスによって得られる。このような再精製油は再生油又は再処理油とも知られており、消費された添加剤と油分解生成物を処理する技術を用いてしばしば付加的に処理される。
ベースオイルの他の例はガス対液体(「GTL」)ベースオイルであり、即ち、該ベースオイルは、フィッシャー−トロプシュ触媒を使用してH2とCOを含む合成ガスから製造されるフィッシャー−トロプシュ合成炭化水素から誘導してもよい。これらの炭化水素は、ベースオイルとして有用ならしめるために典型的に更なる処理を必要とする。例えば、それらは当業界で公知の方法で水素異性化され;水素分解及び水素異性化され;脱ワックス化され;又は水素異性化と脱ワックス化される必要がある。
潤滑粘度の油はグループI、グループII又はグループIII、ベースストックもしくは前述のベースストックのベースオイルブレンドを含んでもよい。好ましくは、潤滑粘度の油はグループII又はグループIIIベースストックであり、又はそれらの混合物であり、又はグループIのベースストックとグループII及びグループIIIの1以上との混合物である。好ましくは、潤滑粘度の油の主要な量はグループII、グループIII、グループIV又はグループVベースストック、又はそれらの混合物である。ベースストック又はベースストックブレンドの飽和含有率は、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上である。最も好ましくは、ベースストック又はベースストックブレンドの飽和物質含有率は90%超である。好ましくは、油又は油混合物のイオウ含有率は1質量%未満、好ましくは0.6質量%未満、最も好ましくは0.4質量%未満である。
【0013】
Noack揮発性試験(ASTM D5880)によって測定される油又は油混合物の揮発性は、好ましくは30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは16%である。好ましくは、油又は油混合物の粘度指数(VI)は85以上、好ましくは100以上、最も好ましくは約105〜140である。
本発明におけるベースストックやベースオイルに関する定義は、下記の様にベースストックを分類するAPI EOLCS 1509 における定義と同様である:
a)表1で規定される試験法を用いると、グループIのベースストックは90%未満の飽和物質及び/又はイオウを0.03%超を含み、粘度指数が80以上で120未満である。
b)表1で規定される試験法を用いると、グループIIのベースストックは90%以上の飽和物質及びイオウを0.03%以下含み、粘度指数が80以上で120未満である。
c)表1で規定される試験法を用いると、グループIIIのベースストックは90%以上の飽和物質及びイオウ0.03%以下を含み、粘度指数が120以上である。
d)グループIVのベースストックはポリアルファオレフィン類(PAO)である。
e)グループVのベースストックは、グループI、II、III、又はIVに含まれない他の全てのベースストックを包含する。
[表1−ベースストックの分析方法]

潤滑粘度の油は濃縮物形成量(例えば40〜60質量%の様に、30〜70質量%)で存在し、その結果、組成物は例えば添加剤の有効成分が1〜90質量%、例えば10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは20〜70質量%含む濃縮物の形態であり、本発明のパラ−アルキル置換ジフェニルアミンが、他の1又はそれ以上の添加助剤(co-additive)と共に含まれる唯一の添加剤である。
濃縮物中に用いられる潤滑粘度の油は適当な油質の典型的な炭化水素、キャリア流体、例えば鉱物潤滑油、又は他の適当な溶剤である。ここに記載されている様な潤滑粘度の油は、脂肪族、ナフテン系及び芳香族の炭化水素と同様、濃縮物のための適当なキャリア流体の例である。
濃縮物は、それらの使用前には添加剤ハンドリングの便利な方法であり、同様に、潤滑油組成物中における添加剤の溶液化又は分散液化を容易にする。1よりも多いタイプの添加剤(しばしば、「添加剤成分」と呼称される)を含む潤滑油組成物を調製する際、各添加剤は夫々濃縮物の形で別々に配合してもよい。しなしながら多くの場合、以降述べる様に、1種又はそれ以上の添加助剤を一つの濃縮物に含む所謂添加剤「パッケージ」(「アドパック」とも呼ばれる)を供給することは便利である。
【0014】
潤滑粘度の油は主要な量で供給され、少量の少なくとも1種の添加剤、必要に応じて、今後述べるような潤滑油組成を構成する1種又はそれ以上の添加助剤との組合せの形で供給してもよい。この事は、添加剤を直接油に添加するか、それらを濃縮物の形で添加して添加剤を分散又は可溶化することにより達成される。添加剤は当業者に公知の方法を用いて油に配合され、他の添加剤の配合より前か同時、又はその後に配合される。
ここで用いられる「油溶性」又は「油分散性」なる用語、又はそれらの類語は、全ての比率で油中に、化合物又は添加剤が溶解、可溶化、混和、又は懸濁可能であることを必ずしも示さない。しかしながら、化合物又は添加剤は、油が用いられる環境において所望の効果を発揮できる充分な程度に、油中に溶解するか又は安定に分散可能である。のみならず、他の添加剤を追加的に加えることは、もし望むなら、特定の添加剤を高レベルに混合することを許容する。
該潤滑油組成物は、添加することにより、特に内燃エンジン、例えば火花着火又は圧縮着火式の2−もしくは4−サイクルエンジンの機械的エンジン部品を潤滑するために用いられる。好ましくは、それらはクランクケース潤滑油である。
潤滑油組成物及び濃縮物は油性のキャリアとの混合前後で化学的に同一であってもなくても定義された成分を含む。本発明は混合前、又は混合後、又は混合前後両方において、定義された成分を含む組成物と濃縮物を含む。
濃縮物が潤滑油組成物を製造するために用いられる時、それらは濃縮物1質量部当たり潤滑粘度の油3〜100質量部、例えば5〜40質量部で希釈される。
【0015】
添加助剤](co-additives)
上記した様に、本発明組成物はある性能上の特徴を付与するため1種又はそれ以上の添加助剤を含むことが可能である。この様な添加助剤の例としては、分散剤、洗浄剤、防錆剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、抑泡剤、老化防止剤及び流動点降下剤である。これらの内、幾つかについて下記にて詳細に議論する。
無灰分散剤を潤滑油に添加すると、ガソリン−又はディーゼル−エンジン中で使用する際に、堆積物の形成を有効に減少する。本発明組成物に有用な無灰分散剤は粒子と会合して、これらを分散することができる官能基を有する油溶性重合性長鎖骨格を含む。典型的に、これらの分散剤はしばしば架橋構造を介して、高分子骨格に結合するアミン、アルコール、アミド又はエステルという極性部分を含む。例えば、無灰分散剤は長鎖炭化水素置換モノ−及びポリ−カルボン酸又はそれらの無水物の油溶性塩類、エステル類、アミノ−エステル類、アミド類、イミド類及びオキサゾリン類;長鎖炭化水素のチオカルボン酸塩誘導体;ポリアミン部分が直接結合している長鎖脂肪族炭化水素;長鎖炭化水素置換フェノールとホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンとの縮合によって生成されるマンニッヒ縮合生成物から選択できる。
【0016】
好ましくは、無灰分散剤は数平均分子量(

)が4,000以上、例えば、4,000〜20,000である「高分子量」の分散剤である。詳細な分子量範囲は分散剤の形成に用いられるポリマーのタイプ、存在する官能基の数及び採用される極性官能基のタイプに依存する。例えば、ポリイソブチレンから誘導された分散剤には、高分子量分散剤は数平均分子量1,680〜5,600のポリマー骨格をもった形で生成されたものがある。典型的には、商業的に調達可能なポリイソブチレンベースの分散剤類は、数平均分子量が900〜2,300であり、無水マレイン酸(分子量=98)で官能基化され、分子量約100〜約350のポリアミンで誘導体化されたポリイソブチレンポリマーを含有する。当業界で公知の方法を用いて得られる分散剤中に複合ポリマー鎖(multiple polymer chains)を組み込むことにより、より低分子量のポリマーも高分子量分散剤を調製するために用いてもよい。
ポリマーの分子量、特に数平均分子量(

)は、種々の公知の方法で決定できる。一つの便利な方法はゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)であり、その方法は分子量分布に関する情報も提供する。(W. W. Yau, J. J. Kirkland and D. D. Bly, "Modern Size Exclusion Liquid Chromatography", John Wiley and Sons, New York, 1979 を見よ。)もし、アミン含有分散剤(例えば、PIBSA-ポリアミン又はPIBSA-PAM)の分子量を決定しようとする場合、アミンの存在が分散剤をカラムに吸着させ、不正確な分子量測定となるであろう。GPC測定操作に習熟した人間にとっては、この問題は混合溶媒系を用いることにより小さくできることを理解する、例えば純粋なテトラヒドロフラン(THF)でなく、THFに少量のピリジンを混合する方法を取るのである。その問題は、アミンを無水酢酸でキャップしてキャップ基の数を基準に分子量を補正することにより、解決してもよい。特に、低分子量ポリマーの分子量を決定するもう一つの有益な方法は、蒸気圧浸透法である。(例えば、ASTM D3592 を見よ)
ポリマーの重合度Dpは:

であり、2種類のモノマーから成るコポリマーのDpは次式で与えられる。

好ましくは、本発明に用いられるポリマー骨格の重合度は30以上、典型的には30〜165、より好ましくは35〜100である。
【0017】
本発明において採用される好適な炭化水素類又はポリマー類としては、ホモポリマー類、インターポリマー類、又は低分子量炭化水素類を含む。一つの有用なポリマー種としては、エチレン及び/もしくは式H2C=CHR1を有する少なくとも一つのC3〜C28脂肪族オレフィンのポリマーを含み、R1はC1〜C26の炭素数である直鎖又は分岐のアルキル基(alkyl radical)であり、該ポリマーは炭素-炭素不飽和結合を含み、好適には高度の末端エテニリデン性不飽和結合を含むものである。本発明に用いられるポリマーの一つの好ましい種類としては、エチレンと少なくとも1種の上記式で表わされるα−オレフィンとのインターポリマーを含み、R1はC1〜C18アルキルであり、より好適にはC1〜C8アルキルであり、更に好適には炭素数C1〜C2 である。よって、有用なα−オレフィンモノマー類及びコモノマー類としては、例えば、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1、デセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、及びこれらの混合物(例えば、プロピレンとブテン-1の混合物、及び類似物)である。これらのポリマー中で模範的なのは、プロピレンのホモポリマー類、ブテン-1のホモポリマー類、プロピレン−ブテンコポリマー類、エチレン−プロピレンコポリマー類、エチレン−ブテン-1コポリマー類、及び類似物であり、該ポリマーは少なくとも幾つかの末端及び/又は内部不飽和を有する。好適なポリマー類としては、エチレンとプロピレンのコポリマー類及びエチレンとブテン-1のコポリマー類である。本発明のインターポリマー類は少量の、例えば0.5〜5モル%のC4〜C18非共役ジオレフィンコモノマーを含んでもよい。しかしながら、本発明のポリマー類としては、α−オレフィンのホモポリマー類、α−オレフィンコモノマーのインターポリマー類及びエチレンとα−オレフィンコモノマーとのインターポリマー類だけを含むことが推奨される。本発明で採用されるポリマー中のエチレンのモル含有率は好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%である。プロピレン及び/又はブテン-1がエチレンのコモノマーとして用いられる場合は、エチレン含有率がより多くもしくは少なく存在するかも知れないが、好ましくはこれらのコポリマー中のエチレンのモル含有率は45〜65%である。
【0018】
これらのポリマー類は、α−オレフィンモノマー、もしくはα−オレフィンモノマー類の混合物、もしくはエチレンと少なくとも1種のC3〜C28α−オレフィンモノマーを含む混合物を、1種以上のメタロセン(例えば、シクロペンタジエニル−遷移金属化合物)とアルモキサン(alumoxane)化合物を含む触媒系の存在下で、重合して合成することが可能である。このプロセスを用いると、ポリマー鎖の95%以上が末端エテニリデン型不飽和を有するポリマーを得ることができる。末端エテニリデン型不飽和を呈するポリマー鎖の含有率はFTIR分光分析、滴定法もしくはC13NMRにより決定される。後者のタイプのインターポリマーは、POLY−C(R1)=CH2で特性づけられ、該式において、R1はC1〜C26アルキル、好ましくはC1〜C18アルキル、より好ましくはC1〜C8アルキル、最も好ましくはC1〜C2アルキル(例えば、メチル又はエチル)であり、POLYはポリマー鎖を示す。R1アルキル基の鎖長は重合用に選択されるコモノマー種に拠って変わってくる。少量のポリマー鎖は末端エテニル、即ちビニル、不飽和、即ちPOLY−CH2=CH2を含むことができ、ポリマーの一部は内部モノ不飽和、例えば、R1が上記の通りの定義である、POLY−CH=CH(R1)を含むことができる。これらの末端不飽和インターポリマー類は、既知のメタロセン化学により調製可能であり、米国特許No.5,498,809; No.5,663,130;No.5,705,577;No.5,814,715;No.6,022,929 及びNo.6,030,930に記載されているように調製してもよい。
他の有用なポリマー種としては、イソブテン、スチレン、及び類似のモノマーのカチオン重合法により合成されるポリマー類を含む。この種の通常のポリマー類としては、ブテン含有率35〜75質量%、及びイソブテン含有率30〜60質量%を有するC4精製留分(refinery stream)を、三塩化アルミニウムもしくは三フッ化ホウ素の様なルイス酸触媒存在下で重合して得られるポリイソブテン類を含む。ポリ-n-ブテン類の製造に用いられる好ましいモノマー源はRaffinate IIの様な石油精製留分(petroleum feed streams)である。これらの原料(feedstock)は、例えば米国特許No.4,952,739において開示されている。ポリイソブチレンは、ブテン留分から(例えば、AlCl3もしくはBF3触媒を用いて)カチオン重合により容易に入手可能なので、本発明の最も好適なポリマー骨格である。この様なポリイソブチレンは、通常、分子鎖に沿って位置するポリマー鎖当たり約一個のエチレン性二重結合の量として、残存不飽和を含有する。
上記した様に、用いられるポリイソブチレンポリマー類は、通常、900〜2,300の炭化水素鎖をベースとする。ポリイソブチレンの製造方法は公知である。ポリイソブチレンはハロゲン化(例えば、塩素化)、熱“エン”反応、もしくは下記に示すような触媒(例えば、過酸化物)を用いたフリーラジカルグラフト反応によって官能基化(functionalized)できる。
【0019】
重合性炭化水素類と不飽和カルボン酸類、無水物又はエステル類との反応及びこれらの化合物から誘導体を調製するプロセスは米国特許No.3,087,936;No.3,172,892;No.3,215,707;No.3,231,587;No.3,272,746;No.3,275,554;No.3,381,022;No.3,442,808;No.3,565,804;No.3,912,764;No.4,110,349;No.4,234,435; 及びドイツ特許GB-A-1,440,219に開示されている。ポリマー又は炭化水素は、ハロゲン利用官能基化(例えば、塩素化)プロセスもしくは熱“エン”反応を利用して、ポリマー又は炭化水素を官能基部分又は薬剤、即ち、酸、無水物、エステル基等をポリマーまたは炭化水素鎖に付加させる条件で反応させ、主として炭素−炭素不飽和(エチレン性又はオレフィン性不飽和とも呼ばれる)反応サイトにおいてカルボン酸生成基(好ましくは酸又は無水物)により官能基化される。
触媒(例えば、過酸化物)を利用したフリーラジカルグラフト反応プロセスを用いる際、官能基化はポリマー鎖に沿ってランダムに行われる。選択的官能基化は、温度60〜250℃、好ましくは110〜160℃、例えば120〜140℃において、0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間かけて、ポリマー又は炭化水素の質量を基準に1〜8質量%、好ましくは3〜7質量%の量で、塩素又は臭素をポリマー中に通過させることにより、不飽和α-オレフィンポリマーをハロゲン化、例えば塩素化又は臭素化して達成できる。しかる後、ハロゲン化されたポリマー又は炭化水素(以降、「骨格」と呼称)は、例えば、モノ不飽和カルボン酸反応物質を100〜250℃、通常180〜235℃で、0.5〜10時間、例えば、3〜8時間の条件で、官能基を骨格に付加できる充分な量のモノ不飽和反応物質と反応させることが可能であり、その結果、得られた生成物はハロゲン化骨格のモル当たり、望ましいモル数のモノ不飽和カルボン酸反応物質を含むことになる。又その他に、該熱物質に塩素を添加する間に、骨格とモノ不飽和カルボン酸反応物質とを混合して加熱することができる。
炭化水素又はポリマー骨格は、例えば、カルボン酸生成基(好ましくは、酸又は無水物基)により、ポリマーまたは炭化水素鎖上の炭素−炭素不飽和部分で選択的に、或いは上記の3つのプロセスもしくはそれらの組合せ(任意の順序で)を利用して鎖に沿ってランダムに官能基化され得る。
【0020】
骨格の官能基化に用いられる好適なモノ不飽和反応物質は、モノ−及びジ−カルボン酸物質、即ち、酸、無水物、又は酸エステル物を含み、更に(i)モノ不飽和C4〜C10ジカルボン酸であって、(a)カルボキシル基はビシニル(即ち、隣接した炭素原子に位置する)であり、(b)該隣接炭素原子の少なくとも一方、好ましくは両方が該モノ不飽和の一部である;(ii)(i)のモノ−又はジ−エステルから誘導される無水物又はC1〜C5アルコールの様な(i)の誘導体類;(iii)炭素−炭素二重結合がカルボキシ基と共役している、即ち、−C=C−CO−構造のモノ不飽和C3〜C10モノカルボン酸;(iV)(iii)のモノ−又はジ−エステルから誘導されたC1〜C5アルコールの様な(iii)の誘導体を含む。モノ不飽和カルボキシル物(i)〜(iV)の混合物も使用してもよい。骨格との反応の際、モノ不飽和カルボキシル反応物質のモノ不飽和部分は飽和される。この様に、例えば、無水マレイン酸は骨格置換された無水コハク酸になるし、アクリル酸は骨格置換されたプロピオン酸になる。この様なモノ不飽和カルボキシル反応物質の好例としては、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロロマレイン酸、無水クロロマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、及び前記の低級アルキル(例えば、C1〜C4アルキル)の酸エステル、例えば、マレイン酸メチル、フマル酸エチル、及びフマル酸メチルである。モノ不飽和カルボキシル反応物質、好適に無水マレイン酸は、典型的にポリマー又は炭化水素の質量を基準に0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の範囲の量で用いられる。
【0021】
塩素化は通常出発オレフィンポリマーとモノ不飽和官能基化反応物質との反応性を上昇させるが、本発明での用途に用いることを目論んでいるポリマーと炭化水素には必要でなく、特に、高い末端結合含有率及び反応性を有する好適なポリマーと炭化水素には不必要である。よって、好ましくは、骨格とモノ不飽和官能性反応物質、例えば、カルボキシル反応物質は高温で接触させ、最初の熱「エン」反応を起こさせる。「エン」反応は公知である。
炭化水素又はポリマー骨格は種々の方法を用いて、該ポリマー鎖に沿って官能基をランダムに結合することにより、官能基化される。例えば、該ポリマーは、溶液中であろうと固体状態であろうと、上記した様に、フリーラジカル開始剤の存在下で、モノ不飽和カルボキシル反応物質によりグラフト化してもよい。溶液中で実施した場合、グラフト化は100〜260℃、好適には120〜240℃の範囲の高温で起こる。好ましくは、フリーラジカル開始グラフト化は、イニシャルの合計オイル溶液を基準にして、例えば1〜50質量%、好適には5〜30質量%のポリマーを含む鉱物潤滑油溶液中で完遂する。
【0022】
用いてもよいフリーラジカル開始剤は、過酸化物、ハイドロパーオキシド及びアゾ化合物であり、好ましくは、沸点100℃超で、グラフト温度範囲内で熱分解して、フリーラジカル類を供給する物質が好ましい。これらのフリーラジカル開始剤の代表には、アゾブチロニトリル、ビス-tert-ブチルパーオキシド及びジキュメンパーオキシドである。開始剤を用いる場合、典型的には反応混合溶液の質量を基準に0.005〜1質量%の範囲の量で用いられる。典型的には、前述のモノ不飽和カルボキシル反応物質とフリーラジカル開始剤は、質量比1.0:1〜30:1、好適には3:1〜6:1で用いられる。好適には、グラフト化は、窒素ブランケット下の様な不活性雰囲気中で実施される。生成するグラフトポリマーは、ポリマー鎖に沿ってランダムに付加されたカルボン酸(又はエステル又は無水物)基を有することにより特性化されるが、当然ながら、グラフト化されないポリマー鎖部分も残ることは理解されるべきである。上述したフリーラジカルグラフト化反応は本発明の他のポリマー類及び炭化水素類にも適用可能である。
官能基化された油溶性重合性炭化水素骨格は、反応に供されたポリアルケン1モル当たりに反応した不飽和カルボン酸類、その無水物又はそのエステル反応物の平均モル数である(それが官能基化されようとされまいと)官能性(functionality)により特性づけできる。官能性は生成混合物のケン化価(「SAP」)と仕込んだポリアルケンのMnを基にする。SAPは生成する製品混合物1gを完全に中和する際に消費されるKOHのmg数であり、ASTM D94を用いて決定できる。
無水マレイン酸とポリアルケンとを反応させる際に得られる製品混合物1モル当たりの平均コハク酸基数は次式を用いて決定される。
F = (SAP x Mn)/((112,200 x A.I.) - (SAP x 98))
ここで、SAPはケン化価であり;Mnは出発のオレフィンポリマーの数平均分子量であり;A.I.はコハク酸基含有反応生成物の有効成分含有率であり(残部は未反応のオレフィンポリマー、無水マレイン酸及び希釈剤である);そして、98は無水マレイン酸の分子量である。好ましくは、出発のオレフィンポリマーは数平均分子量が約1,500〜2,500のポリイソブチレンであり、且つ無水マレイン酸で誘導体化する結果、官能基化された該油溶性重合性炭化水素骨格の官能性又はコハク酸化比率(succination ratio)が約1.3〜1.7(例えば、1.3〜1.5)である。
【0023】
官能基化された油溶性高分子炭化水素骨格は、アミン、アミノアルコール、アルコール、金属化合物、又はこれらの混合物の様な、求核反応試薬によって更に誘導され、相当する誘導体を生成してもよい。官能基化されたポリマーを誘導体化するに有用なアミン化合物は少なくとも1種のアミンを含み、さらに1以上の追加のアミンまたは他の反応性基又は極性基を含むことができる。これらのアミンはヒドロカルビルアミン類であってもよいし、支配的にヒドロカルビル基が、例えば、水酸基、アルコキシ基、アミド基、ニトリル基、イミダゾリン基、及び同様なる他の官能基を含むヒドロカルビルアミン類であってもよい。特に、有用なアミン化合物はモノ-及びポリアミン類を含み、例えば、合計炭素数が2〜60、例えば2〜40(例えば、3〜20)であって、分子当たりの窒素原子数が1〜12、例えば3〜12、好適には3〜9である、ポリアルケン及びポリオキシアルキレン-ポリアミン類を含む。アルキレンジハライドとアンモニアとの反応で得られる様なアミン化合物の混合物は有利に用いられるべきであろう。好適なアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン;1,3-ジアミノプロパン;1,4-ジアミノブタン;1,6-ジアミノヘキサン;ジエチレントリアミンの様なポリエチレンアミン類;トリエチレンテトラミン;テトラエチレンペンタミン;および1,2-プロピレンジアミンの様なポリプロピレンアミン類;及びジ-(1,2-プロピレン)トリアミンを含む脂肪族飽和アミン類である。
他の有用なアミン化合物としては下記を含む;1,4-ジ(アミノメチル)シクロヘキサンの様な脂環式ジアミン類やイミダゾリン類の様な複素環式窒素化合物。他の有用な群のアミン類は、米国特許No.4,857,217;No.4,956,107;No.4,963,275;及びNo.5,229,022において開示されている通り、ポリアミド−及びその関連のアミド−アミン類である。又、米国特許No.4,102,798;No.4,113,639;No.4,116,876;及び英国特許No.989,409 に記載されている様な、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TAM)も有用である。デンドリマー類、星型アミン類、及び櫛構造アミン類も使用してもよい。同様に、米国特許No.5,053,152 に記載されている様な縮合アミン類も使用してもよい。官能基化ポリマーは、例えば、米国特許No.4,234,435、同No.5,229,022、及び欧州特許EP-A-208,560に記載されている通常の方法を用いて、アミン化合物と反応する。
【0024】
官能基化された油溶性重合性炭化水素骨格は又、一価アルコール及び多価アルコールの様なヒドロキシ化合物類や、又はフェノールとナフトールの様な芳香族化合物で誘導体化してもよい。好適な多価アルコール類はアルキレン鎖が2〜8個の炭素原子を含有するアルキレングリコール類を含む。他の有用な多価アルコール類としては、グリセロール、グリセロールモノオレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールのモノメチルエーテル、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びそれらの混合物を含む。エステル分散剤は、例えば、アリルアルコール、シンナミルアルコール、プロパルギルアルコール、1-シクロヘキセン-3-オール及びオレイルアルコールの様な不飽和アルコールからも誘導してもよい。無灰分散剤を生成可能な他の群のアルコール類としては、オキシアルキレン及びオキシアリレンを含むエーテル−アルコール類を含む。この様なエーテル−アルコール類としては、アルキレン基(alkylene radicals)が1〜8個の炭素原子を含むオキシ−アルキレン基(oxy-alkylene radicals)を150個以下有するエーテル−アルコール類によって例示される。エステル分散剤としては、コハク酸のジエステル又は酸エステル類、即ち、部分的にエステル化されたコハク酸類、同様に部分的にエステル化された多価アルコール類又はフェノール類、即ち、フリーのアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を有するエステルがある。エステル分散剤は、例えば、米国特許No.3,381,022に記載されている様な幾つかの公知の方法の一つにより、調製可能である。
【0025】
好ましい分散剤群としては、ポリアミン誘導ポリα−オレフィン分散剤、特に、エチレン/ブテンα−オレフィン及びポリイソブチレンベースの分散剤を含む。特に好適な分散剤は、無水コハク酸基で置換され、ポリエチレンアミン類と反応して得られたポリイソブチレンから誘導される無灰分散剤である。該ポリエチレンアミン類は、例えば、ポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン;又はポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン;例えばペンタエリスリトールの様なヒドロキシ化合物;及びそれらの混合物である。一つの特に好適な分散剤の組合せとしては、次の(A)〜(D)の組合せである。即ち、(A)無水コハク酸基で置換され、(B)例えば、ペンタエリスリトールの様なヒドロキシ化合物と反応したポリイソブチレンであって、;(C)ポリオキシアルキレンポリアミン、例えば、ポリオキシプロピレンジアミン、もしくは(D)ポリアルキレンジアミン、例えば、ポリエチレンジアミン及びテトラエチレンペンタミンであり、(A)1モル当たり、(B),(C)及び/又は(D)を0.3〜2モル用いた物。もう一つの好適な分散剤の組合せは、(A)ポリイソブテニル無水コハク酸と、(B)例えば、テトラエチレンペンタミンである、ポリアルキレンポリアミン、及び(C)多価アルコール又はポリヒドロキシ置換脂肪族一級アミン、例えば、米国特許No.3,632,511に記載されている様な、ペンタエリスリトール又はトリスメチロールアミノメタンとの組合せである。
【0026】
特に好ましい分散剤組成物は1種以上のポリアルケニルコハクイミドを含み、このポリアルケニルコハク酸はポリアルケニル置換無水コハク酸(例えば、PIBSA)、より好適には(i)Mnが約1,500〜約2,500であるPIBから誘導され、(ii)コハク酸化比率(succination ratio)が約1.3〜約1.7であるPIBSAとポリアミンとの反応生成物であり、該ポリアミン分散剤はカップリング比率(coupling ratio)が約0.6〜約1.25、好適には約0.6〜約1.1、最も好適には約0.6〜約0.95である。本明細書においては、「カップリング比率」はPIBSA中のコハク酸基数対ポリアミン反応物中の一級アミン基の数の比率として定義される。
他の群の無灰分散剤にはマンニッヒ塩基縮合生成物を含む。例えば、米国特許No.3,442,808に開示されている様に、一般的にこれらの生成物は、約1モルのアルキル置換モノ−もしくはポリ−ヒドロキシベンゼンと、1〜2.5モルのカルボニル化合物(類)(例えば、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒド)及び0.5〜2モルのポリアルキレンポリアミンとの縮合によって生成される。この様なマンニッヒ塩基縮合生成物には、ベンゼン環への置換基としてメタロセン触媒重合の重合生成物を含んでもよいし、又は、米国特許No.3,442,808に記載されているのと同様な方法で、コハク酸無水物に置換された該ポリマーを含む化合物と反応してもよい。メタロセン触媒系を用いて合成された官能基化及び/又は誘導体化されたオレフィンポリマーの例は上記文献に記載されている。
【0027】
該分散剤は、米国特許No.3,087,936及びNo.3,254,025において一般的に示される様に、ホウ素化などの様な種々の通常の後処理方法でさらに処理することが可能である。分散剤のホウ素化は、アシル窒素含有分散剤を、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸類、ホウ酸エステル類のようなホウ素化合物により、アシル化窒素組成物の1モルに対するホウ素原子のモル比として0.1〜20倍供給可能な量で、処理することにより、容易に達成される。有用な分散剤はホウ素として0.05〜2.0質量%、例えば0.05〜0.7質量%含む。製品中には脱水ホウ酸ポリマー類(主として、(HBO2)3)として出現するホウ素はアミン塩として分散剤のイミド類及びジイミド類に、例えばジイミドのメタボラート塩(metaborate salt)として、結合すると考えられる。ホウ素化は次の様に実施される、即ち、ホウ素化合物、好適にはホウ酸を、0.5〜4質量%、例えば1〜3質量%(アシル窒素化合物の質量を基準にして)を通常スラリーとしてアシル窒素化合物に添加した後、135〜190℃、例えば、140〜170℃において、1〜5時間攪拌加熱し、次いで脱窒素を行う。代わりに、水を除去しながら、ホウ酸をジカルボン酸物質とアミンとの熱反応混合物に対して添加することにより、ホウ素処理を実施することも可能である。当業界で既知の他の後反応プロセスも適用可能である。
【0028】
更に、該分散剤は所謂「キャップ化剤」を用いる反応により後処理してもよい。通常、この種の分散剤がエンジンシールに用いられるフルオロエラストマー製エンジンシールに対する悪影響を低減するために窒素含有分散剤はキャップ化されてきた。多数のキャップ化剤及びキャップ方法が知られている。公知の「キャップ化剤」の内、塩基性分散剤アミノ基を非塩基性基(例えば、アミド基又はイミド基)に転換する物が最適である。窒素含有分散剤とアセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸エチル(EAA))との反応は、例えば、米国特許No.4,839,071;No.4,839,072及びNo.4,579,675に記載されている。窒素含有分散剤とギ酸との反応は、例えば、米国特許No.3,185,704に記載されている。窒素含有分散剤と他の適当なキャップ化剤との反応生成物については下記の米国特許に記載されている。即ち、No.4,663,064(グリコール酸);No.4,612,132;No.5,334,321;No.5,356,552;No.5,716,912;No.5,849,676;No.5,861,363 (アルキル及びアルキレン−カーボナート類、例えば、エチレンカーボナート);No.5,328,622(モノエポキシド);No.5,026,495;No.5,085,788;No.5,259,906;No.5,407,591(ポリ(例えばビス)-エポキシド類)及びNo.4,686,054(無水マレイン酸又は無水コハク酸)である。以上のリストは完全なものではなく、他の窒素含有分散剤キャップ化方法も当業者間で公知である。
ピストン堆積物を適宜コントロールする為に、窒素含有分散剤を潤滑油組成物に対し、窒素として約0.03質量%〜約0.15質量%、好適には約0.07質量%〜約0.12質量%添加することができる。
金属含有又は灰形成性洗浄剤類は堆積物を減少させる又は取り除く洗浄剤としても、酸中和剤又は防錆剤としても機能するので、その結果、老化及び腐食を減じ、エンジンを長持ちさせる。一般的に、洗浄剤は極性基末端と長鎖疎水基とを含み、該極性基末端は酸性有機化合物の金属塩を含む。該塩は実質的に化学量論的量の金属を含み、その場合は、通常の又は中性の塩と呼称され、典型的には、合計塩基数もしくはTBN(ASTM D2896によって測定可能である)は0〜80である。過剰の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)とを反応させることにより、多量の金属塩基を組み込んでもよい。生成する過剰塩基洗浄剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された洗浄剤を含む。この様な過剰塩基洗浄剤のTBNは150以上であり、典型的には250〜450以上である。
【0029】
用いられる洗浄剤は油溶性の中性及び過剰塩基性のスルホナート類、フェナート類、硫化フェナート類、チオホスホナート類、サリチラート類、ナフテナート類及び他の油溶性カルボキシレートの金属塩であり、特に、アルカリ又はアルカリ土類金属、特にナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの塩を含む。最も多用される金属は洗浄剤中に存在し且つ潤滑油にも用いられるカルシウム及びマグネシウムであり、カルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムとの混合物である。特に有用な金属洗浄剤は中性及び過剰塩基性で、TBNが20〜450であるカルシウムスルフォナート類であり、TBNが50〜450である中性及び過剰塩基性のカルシウムフェナート類及び硫化フェナート類である。過剰塩基又は中性又は両方であっても、洗浄剤の組合せを用いてもよい。
石油の分留から、又は芳香族炭化水素類のアルキル化によって得られる様なアルキル置換芳香族炭化水素類のスルホン化によって典型的に得られるスルホン酸類からスルホナート類が調製される。それらの例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル、又はクロロベンゼン、クロロトルエン及びクロロナフタレンなどの様なハロゲン誘導体をアルキル化することによって得られるものが挙げられる。アルキル化は、触媒の存在下、炭素原子数が約3〜70超であるアルキル化剤により、実行してもよい。アルカリルスルホナート類は、通常、炭素原子数約9〜約80以上を含み、好適には、アルキル置換芳香族基当たり炭素原子数が約16〜約60である。
【0030】
油溶性のスルホナート類又はアルカリルスルホン酸類は金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボナート、カルボキシラート、スルフィド、ハイドロスルフィド、ナイトラート、ボラート及びエーテルで中和してもよい。金属化合物の量は最終製品の所望のTBNを考慮して選択されるが、典型的には、化学量論的に必要な約100〜220質量%(好適には125質量%以上)の範囲である。
フェノール類及び硫化フェノール類の金属塩は、酸化物又は水酸化物及び中性もしくは過剰塩基製品の様な適切な金属化合物との反応により合成され、当業界で公知の方法で得られる。硫化フェノール類はフェノールとイオウもしくは、硫化水素、モノハロゲン化イオウ又は二塩化イオウの様なイオウ含有化合物との反応で調製され、一般的に2以上のフェノール類がイオウ含有架橋によって連結している化合物の混合物である。
【0031】
ジヒドロカルビルジチオホスファート金属塩類は老化防止剤及び抗酸化性物質として多用される。金属はアルカリ金属又はアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、錫、モリブデン、マンガン、ニッケル又は銅である。亜鉛塩は、潤滑油組成物の全質量に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の量で潤滑油に最も一般的に使われる。それらは公知の方法に従って調製され、まず最初に、1以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応によりジヒドロカルビルジチオホスホン酸(DDPA)を形成させ、次いで生成したDDPAを亜鉛化合物で中和して、得られる。例えば、ジチオホスホン酸は一級及び二級アルコール類の混合物を反応させて製造してもよい。代わりに、一方のヒドロカルビル基が完全に二級であり、他方のヒドロカルビル基が完全に一級の性質を有するという、複数のジチオホスホン酸を調製することも可能である。亜鉛塩を製造するには、いずれの塩基性又は中性の亜鉛化合物を用いてもよく、酸化物、水酸化物、及び炭酸塩が最も一般に用いられる。市販の添加剤には、中和反応で過剰の塩基性亜鉛化合物を用いるため、しばしば過剰な亜鉛を含有する。
好適な亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスファート類はジヒドロカルビルジチオホスホン酸の油溶性塩であり、下式によって示される。

ここで、RとR'は1〜18、好適には2〜12の炭素原子数を含むヒドロカルビル基であって同一でも異なっていてもよく、該ヒドロカルビル基はアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリル基、及び脂環式基を含む。炭素原子数2〜8であるアルキル基がR及びR'として特に好適である。よって、該ヒドロカルビル基は、例えば、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、アミル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、n-オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2-エチルヘキシル基、フェニル基、ブチルフェニル基、シクロヘキシル基、メチルシクロペンチル基、プロペニル基、ブテニル基である。油溶解度を得るためには、ジチオホスホン酸の全炭素原子数(即ち、RとR')は一般に約5以上である。よって、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスファートは亜鉛ジアルキルジチオホスファート類を含む。本発明は、組成物の全質量を基準にしたリン含有率レベルとして0.02〜0.12質量%、好ましくは0.03〜0.10質量%含む潤滑油組成物と一緒に用いる際に、有用である。特に好ましくは、潤滑油組成物中のリン含有率レベルは、0.08質量%未満、例えば0.05〜0.08質量%である。一つの好適な実施態様において、本発明の潤滑油組成物は、主として(例えば、50モル%超、例えば60モル%超)二級アルコールから誘導された亜鉛ジアルキルジチオホスファートを含む。
【0032】
補助的な酸化防止剤もしくは抗酸化剤は鉱物油が使用中に劣化する傾向を抑制する。酸化劣化は潤滑油中に発生するスラッジ、金属表面上に堆積するワニス状物質、及び粘度上昇となって観測される。この様な補助的な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、本発明のパラ−アルキル化ジフェニルアミン類以外のジフェニルアミン類、好ましくはC5〜C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステル類のアルカリ土類金属塩、ノニルフェノールスルフィドのカルシウム塩、油溶性のフェナート類及び硫化フェナート類、ホスホ硫化又は硫化炭化水素類、リンエステル類、金属チオカルバメート類、米国特許No.4,867,890記載の油溶性銅化合物、及びモリブデン含有化合物を含む。
適当な粘度調整剤の代表例には、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンコポリマー類、ポリメタクリレート類、メタクリレートコポリマー類、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー類、スチレンとアクリルエステル類とのインターポリマー類、スチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン及びイソプレン/ブタジエンの部分水素化コポリマー類、及びブタジエンとイソプレンの部分水素化ホモポリマー類がある。特に好ましい粘度調整剤は水素化ポリジエンアームから誘導された星型粘度調整剤であり、該粘度調整剤はせん断安定性指数(shear stability index)(SSI)が35以上であり、より好ましくは、45以上のSSIを有する水素化(ポリジエン−ポリスチレン−ポリジエン)から誘導されるトリブロックアームを含む星型粘度調整剤である。
【0033】
最終潤滑油中に含まれる他の成分と混和性のある摩擦調整剤及び燃費向上剤も含むことができる。これらの例としては次の原料が含まれる。即ち、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル類、例えば、グリセリルモノオレート;長鎖ポリカルボン酸とジオールとのエステル類、例えば、二量体化した不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;及びアルコキシ化アルキル置換されたモノアミン類、ジアミン類及びアルキルエーテルアミン類、例えば、エトキシ化牛脂アミン及びエトキシ化牛脂エーテルアミンである。
他の公知の摩擦調整剤としては油溶性有機モリブデン化合物を含む。この様な有機モリブデン摩擦調整剤は潤滑油組成物に対して抗酸化性と老化防止性をも保証する。この様な油溶性有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカルバメート類、ジチオホスファート類、ジチオホスフィナート類、ザンテート類、チオザンテート類、スルフィド、それらの類似物質及び混合物を含む。特に好適な物は、モリブデンジチオカルバメート類、ジアルキルジチオホスファート類、アルキルザンテート類、及びアルキルチオザンテート類である。
更に、モリブデン化合物としては酸性モリブデン化合物であってもよい。これらの化合物はASTM試験法D-664又はD-2896滴定法により測定されるように塩基性窒素化合物との反応性があり、典型的に6価である。それらに含まれるのは、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属のモリブデン酸塩及び他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、 Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン又は類似の酸性モリブデン化合物である。
本発明の組成物に有用なモリブデン化合物には、次式で表される有機モリブデン化合物がある。
Mo(ROCS2)4 及び Mo(RSCS2)4
ここで、Rは、炭素原子数が一般にC1〜C30であり、好適にはC2〜C12であるアルキル、アリール、アラルキル及びアルコキシアルキルからなる群より選ばれた有機基であり、最も好適にはC2〜C12のアルキルである。特に好ましいのはモリブデンのジアルキルジチオカルバメート類である。
本発明の潤滑油組成物に有用なもう一つの有機モリブデン化合物群としては、3核モリブデン化合物、特に式Mo3SkLnQzで表される化合物及びそれらの混合物であり、Lは化合物を油中に溶解させるか或いは分散させるに充分な炭素数の有機基を有する配位子から独立に選択されるものであり、nは1〜4、kは4〜7、Qは水、アミン類、アルコール類、ホスフィン類、エーテル類の様な中性の電子供与性化合物群から選択され、zは0〜5であり非化学量論値を含む。全ての有機配位子には、総炭素原子数が21以上存在しなければならなく、例えば、炭素原子数は25以上、30以上、又は35以上である。
【0034】
分散剤−粘度指数向上剤は粘度指数向上剤及び分散剤の双方として機能する。分散剤−粘度指数向上剤の例としては、アミン類、例えばポリアミン類とヒドロカルビル置換モノ−又はジ−カルボン酸との反応生成物を含み、後者のヒドロカルビル置換基は該化合物に粘度指数向上性能を付与するために充分な鎖長を含む。一般に、粘度指数向上分散剤は下記の物質であってもよい。例えば、ビニルアルコールのC4〜C24不飽和エステル、もしくはC3〜C10不飽和モノカルボン酸又はC4〜C10ジ−カルボン酸と炭素数4〜20を有する不飽和窒素含有モノマーとのポリマー;C2〜C20オレフィンとアミン、ヒドロキシルアミン又はアルコールで中和した不飽和C3〜C10モノ−又はジ−カルボン酸とのポリマー;又はエチレンとC3〜C20オレフィンとのポリマーであって、更にその上にC4〜C20不飽和窒素含有モノマーをグラフトさせるか、ポリマー骨格に不飽和酸をグラフトして、グラフト化された酸のカルボキシル基とアミン、ヒドロキシアミン又はアルコールとを反応させる。
流動点降下剤は、別名「潤滑油流動性向上剤(LOFI)」として知られているが、流体が流れる又は注ぐことが可能な最低温度を低下させる。この様な添加剤はよく知られている。流体の低温流動性を改良する典型的な添加剤には、C8〜C18フマル酸ジアルキル/酢酸ビニルコポリマー類、及びポリメタクリレート類がある。泡コントロール性はポリシロキサン型抑泡剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンにより提供される。
上記添加剤の幾つかは複合効果を提供できる;例えば、ある一種の添加剤は分散剤−酸化防止剤の両方として作用する。このアプローチはよく知られており、ここで更なる説明は不要である。
【0035】
潤滑油組成物
マルチグレードの潤滑油は広い温度範囲に亘って機能する。典型的には、それらは10W-30又は5W-30という二つの数により同定される。マルチグレード名称(designation)の最初の数は、当該マルチグレード油に対する安全クランキング温度(例えば、-20℃)粘度要件と関係しており、高シェア速度下での低温クランキング・シミュレーター(CCS)により測定される(ASTM D5293)。一般に、低いCCS粘度を有する潤滑油は低温でエンジンにクランクをよりかけ易くするので、その様な環境温度でのエンジン始動性を改良する。
マルチグレード名称の二番目の数は通常の操作温度における潤滑油粘度と関係しており、100℃における動粘度(kV)として測定される(ASTM D445)。高温粘度要件は100℃における最低最高動粘度を一括する(bracket)。もし、エンジン稼働中に潤滑油層が過剰に薄化すると、高温での粘性は結果的なエンジン劣化を防止するために望ましい。しかしながら、過剰な粘性は不必要な粘性抵抗を起こし、燃料消費を増加させることになる潤滑油を作用させることになるので、潤滑油は過剰に粘性があってはならない。一般に、潤滑油のkV100値が低いほど、燃費テストで潤滑油が達成するスコアが高くなる。
この様に、与えられたマルチグレードオイルの名称に合格するためには、特定のマルチグレードオイルが低温及び高温での厳しい粘度要件を同時に満足しなければならず、該粘度要件はSAE J300の様なSAE規格によって設定されている。SAE J300において設定されている現在の粘度限界値は下記の通りである。
SAE粘度グレード

SAE J300スキームにおいては、マルチグレードオイルは低温及び高温双方での性能要件を満たす必要がある。例えば、SAE 5W-30マルチグレードオイルは5W及び30という粘度グレード要件を満足する粘度特性を有する、即ち、最高CCS粘度が3500×10-3 Pa.s at -25℃であり、最低kV100℃ が9.3 mm2/s で最高kV100が <12.5 mm2/sである。
【0036】
潤滑油の粘度特性は主としてベースストックの粘度特性、粘度調整剤の粘度特性及び高分子量分散剤の粘度特性に依存する。kV100が12.5 mm2/s以下、特に9.3 mm2/s以下であるSAE 0W 及びSAE 5Wマルチグレードクランクケース潤滑油、更に特に、kV100が12.5 mm2/s以下、特に 9.3 mm2/s以下であるSAE0Wマルチグレードクランクケース潤滑油、最も好適に9.3 mm2/s 未満である(a SAE0W20)マルチグレードクランクケース潤滑油は堆積物コントロール性(WPD)及びスラッジコントロール性(Sequence VD)がよく、高分子量分散剤の含量と関連するポリマー含量を減少させる手段無しには特に混合が困難である。本発明のパラ−アルキル化ジフェニルアミン類は良好なピストン堆積コントロール性を提供する低分子量選択肢を提供し、もって高分子量分散剤の量を低下させるので、本発明のパラ−アルキル化ジフェニルアミン類はこの様な低粘度及び極低粘度マルチグレード潤滑油組成物の組成に特に適している。
これらの低粘度及び極低粘度マルチグレード潤滑油組成物は本発明のパラ−アルキル化ジフェニルアミン類と、ポリアルケニルコハクイミドの様な、最小ポリマー含有量で高度な性能を供給する分散剤との組合せとして含むことが好ましい。該ポリアルケニルコハクイミドはポリアルケニル置換無水コハク酸(例、PIBSA)、より好ましくは、(i)Mnが約1,500〜約2,500であるPIBから誘導され、(ii)コハク酸化比率(succination ratio)が約1.3〜約1.7であるPIBSAと;ポリアミンとの反応生成物であり;該分散剤のカップリング比率(couping ratio)が約0.6〜約1.25、好適には約0.6〜約1.1、最も好適には約0.6〜約0.95であり;好適には潤滑油組成物として、分散剤高分子が2質量%以下、例えば1.5質量%以下であり、より好適には1質量%以下であり、及び/又は粘度調整剤が最小ポリマー含有量で高度の性能を発揮し、該粘度調整剤は、例えば水素化ポリジエンのアームから誘導される星型粘度調整剤であり、その「せん断安定性指数」(SSI)が35以上であり、より好適には、水素化(ポリジエン−ポリスチレン−ポリジエン)から誘導されるトリブロックアームを含むSSIが45以上の星型粘度調整剤である。好ましくは、これらの潤滑油組成物は更に少量のフェノール系抗酸化剤を含む。
【0037】
エンジン
本発明は、圧縮着火型及び火花着火型の2−又は4−シリンダー往復エンジンの様な、広範囲の内燃エンジンに適用可能である。例としては、乗用車用、商業用軽自動車及びハイウエイ用重量トラック用のエンジン;航空機用及び発電用エンジン、機関車及び船舶用設備;農業用、建設用及び混合用に用いられる重質オフハイウエイエンジンを含む。
【実施例】
【0038】
本発明を下記の実施例により説明するが、これらにより特許請求の範囲を限定するものではない。
[アルキル化ジフェニルアミン類(「DPA」)]
下記のアルキル化DPAを組成物に配合し、下記に示す通り試験を行った。
「C15DPAモノ」:支配的にモノ−パラ−アルキル化DPAであり、支配的にプロペン5量体(C15)から誘導されたアルキル基である、
「C15DPAジ」:支配的にジ−パラ−アルキル化DPAであり、支配的にプロペン5量体(C15)から誘導されたアルキル基である、
「C12DPAモノ」:支配的にモノ−パラ−アルキル化DPAであり、支配的にプロペン4量体(C12)から誘導されたアルキル基である、
「C9DPA」:支配的にジ−パラ−アルキル化DPAであり、支配的にプロペン3量体(C9)から誘導されたアルキル基である。
上記のDPA類の製造方法の一例として、「C15DPAモノ」の製法例を提示する。
ジフェニルアミン(169g;1.00モル)、三塩化アルミニウム(16.9g、10質量%)及びC15プロペン−ベースオレフィン留分オリゴマー(210g;1.00モル)を2L容5口丸底フラスコに充填した。該反応成分を窒素雰囲気下で190℃に加熱し、その温度において500rpmの速度で6時間攪拌した。反応器を60℃に冷却して、生成物を取り出し、次いで水酸化ナトリウム(120g、10%溶液)で処理した。生成した混合物を100gの水で2回洗浄した後、有機層を分離した。残存水分とオレフィンをロータリーエバポレーターで減圧除去すると、アルキル置換ジフェニルアミンが茶色のオイルとして得られ、そのアルキル基は支配的にモノ置換C15であった。未反応ジフェニルアミンを除去する前に、反応混合物は54.03%のジフェニルアミン、38.78%モノ−アルキル化ジフェニルアミン及び7.19%ジ−アルキル化ジフェニルアミンから成ることはHPLCにより判明した。ジフェニルアミンの除去後、生成物は84%がモノ−アルキル化ジフェニルアミンで16%がジ−アルキル化ジフェニルアミンから成り、置換位置はパラ位であった。
用いたオレフィン留分は、GCフィールドイオン化質量分析法(「FIMS」)によって分析した結果、C15が53.15%、C18が13.80%であり、他のオレフィン類が夫々10%未満であることが判明した。
「C15DPAジ」及び「C12DPAモノ」も同様の方法で作製した。「C9DPA」は商業的に入手可能な物を用いた。
【0039】
[組成物及び試験法]
SequenceIIIG試験(ASTM D7320)
上記のDPAは、1種以上の、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、老化防止剤、無灰分散剤、金属洗浄剤、摩擦調整剤、モリブデン−ベースの添加剤及び粘度調整剤と組み合わせて、夫々ガソリン車のクランクケース用潤滑油中に配合した。
潤滑油はSequenceIIIG試験法に依る試験に供され、得られた結果を下記の表に示す。

・注意事項:
PVIS:動粘度の増加率(最大150%までが許容値)
WPD:ピストンへの堆積物の重量(評点3.5以上が許容値)
ACLW:平均カムリフターの老化(average cam lifter wear)(最大60ミクロンまでが許容値)
*:不合格
表中に示されたもの以外では、各潤滑油は等しい性能であった(identical)。組成3と4はDPA由来の窒素含量%が同等である。C9 DPAはWPD試験に対して悪影響を及ぼすことが知られている。よって、アミン性抗酸化剤の処理割合が高いのでWPD性能が低いと予想された、組成3〜5がWPD試験をパスしたことは驚くべきことである。又、この結果はC15 DPA含有組成の一般的優位性を示しており、モノ−体と同程度の性能を与えるためにジ−体の質量パーセント処理率を増加しなければならないので、モノ体がジ体より良い。

組成1及び2の結果は、C9アルキル化ジフェニルアミンを0.9%及び1%含む組成物が、分散剤処理率が4〜4.2%でありながら、IIIG ピストン堆積物重量 (WPD)をパスできないことを示している。逆に、1.5%のC15 DPAで処理した組成3が、分散剤が同量でありながら改良されたIIIG WPD評点をもって合格することを示す。ヒンダードフェノールはIIIG WPD評点を改良できるが、エンジンのモデルテスト(engine test modelling)の結果、組成3,4,5での0.25%処理ではIIIG WPDの評点を相当改良するには不十分であり、IIIG WPDメリット値を比較すると、むしろ減少しているのではないかということを示す。
【0040】
SequenceVG試験(ASTM D5302)
下記のDPA、即ち、C15 DPAモノ、C12 DPAモノ及びC9 DPAを、1種もしくはそれ以上の、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、老化防止剤、無灰分散剤、金属洗浄剤、摩擦調整剤、モリブデン−ベースの添加剤及び粘度調整剤と組み合わせて、夫々ガソリン車のクランクケース用潤滑油中に配合した。得られた潤滑油はSequenceIIIG試験法に依り試験に供され、得られた結果を下表に示す。

・注意事項:
AES :平均エンジン・スラッジ(評点7.5以上が合格)
AEV :平均エンジン・ワニス(評点8.9以上が合格)
APV :平均ピストン・ワニス(評点7.5以上が合格)
RCS :ロッカーカバー・スラッジ(評点8.0以上が合格)
* :不合格

表中に示されたもの以外では、各潤滑油は等しい。C9 DPAはAES試験には有害であることが知られている。よって、C15 DPAモノがその試験でより良い性能を示すことは驚きである(組成6と7とを比較せよ)。さらに、C15 DPAモノがAES、AEV及びAPV試験においてC12 DPAモノより良い性能を示す(組成8と9とを比較せよ)。
組成6と7とを比較すると、全てのSequenceVG試験パラメーターにおいて、C15 DPAがC9アルキル化DPAより良好であることが分かる。
組成8と9とを比較すると、C15 DPAがAES、AEV及びAPVの点でC12 DPAより良いことが分かる。
【0041】
酸化試験
C15 DPAモノとC9 DPAとを、1種もしくはそれ以上の、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、老化防止剤、無灰分散剤、金属洗浄剤、摩擦調整剤及びモリブデン−ベースの添加剤と組み合わせて、夫々ガソリン車のクランクケース用潤滑油中に配合した。
2セットの潤滑油を配合した。最初のセットの成分としては、C15 DPAモノ又はC9 DPAを1.5質量%、モリブデンを質量基準で75ppm;第二のセットの成分としては、C15 DPAモノ又はC9 DPAを0.7質量%、モリブデンを質量基準で200ppmを夫々配合した。他の点では、全ての潤滑油組成物は同等である。
合計4種類の潤滑油をASTM D7097に従って、「中程度の高温におけるエンジンオイルの熱酸化シミュレーション」試験又はMHT TEOST試験に供した。
結果を下表に示す。

*:ASTM標準から算出した。
上表の結果は生成した堆積物のmg数で表している。即ち、結果を比較すると、再現性を考慮しても、値が低いほど耐酸化性が良好なことを示す。
組成11は組成10に匹敵する耐酸化性を呈する。
組成13は組成12より良い耐酸化性を呈する。
しかしながら、C15 DPAモノがC9 DPAより分子量が高いので、これらは驚くべき結果である。即ち、それはアミン窒素含有率が低いので、処理率が同等であれば耐酸化性が劣ると予想されたからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペンの様な分岐鎖アルケンのオリゴマー類混合物の形態であるアルキル化剤により触媒的にジフェニルアミンをアルキル化することを含むパラ−アルキル置換ジフェニルアミンの合成方法であって、最大百分率で存在するオリゴマーの炭素数が15〜24の範囲内であり、炭素数9以下のオリゴマーが該混合物中の25%以下であり、炭素数24〜36のオリゴマーが該混合物中の50%以下であり、該百分率の全てがクロマトグラフィー上の[面積/面積]比により測定される値である、方法。
【請求項2】
最大百分率で存在するオリゴマーがC15オリゴマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭素数9以下のオリゴマーと炭素数24以上のオリゴマーが合計で該混合物中の10%以下を構成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アルキル化剤が分岐鎖C15プロペンオリゴマー類の混合物から成るものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルキル化剤対ジフェニルアミンのモル比が1:3〜6:1、好ましくは1:3〜1.5:1、より好ましくは1:3〜0.8:1の範囲内である、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
潤滑粘度の油及び下記の成分を含む、又は混合して得られる組成物であって;
(A)添加剤成分として、下記に定義されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミン:
(i)アルキル基又はアルキル基群はプロペンの様な分岐鎖アルケンのオリゴマー類から誘導される分岐鎖であり、最大百分率で存在するアルキル基の炭素数が15〜45、好ましくは15であり、炭素数9以下のアルキル基が25%以下、炭素数45以上のアルキル基が25%以下であり;
(ii)置換されたジフェニルアミンの25%以下がトリアルキル置換であり;そして
(iii)置換されたジフェニルアミンの10%以下がオルソ−置換であり、
しかも前記百分率は、全てクロマトグラフィーによる[面積/面積]比として測定されるものである、組成物。
【請求項7】
潤滑粘度の油及び請求項1乃至5のいずれかに記載の方法により得られた又は得ることができるパラ−アルキル置換ジフェニルアミンを含む、もしくは混合して得られる組成物。
【請求項8】
最大百分率で存在するアルキル基が炭素数15又は30である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
アルキル基の10%以下が炭素数9以下であり、アルキル基の10%以下が炭素数45以上である、請求項6乃至8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
無灰分散剤、金属洗浄剤、腐食防止剤、ジヒドロカルビルジチオホスファート金属塩、抗酸化物、流動点降下剤、摩擦調整剤及び消泡剤から選択される、(A)以外の1種又は2種以上の添加剤を含む、請求項6乃至9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
(A)及び(B)を含む又は混合して製造される組成物:
(A)潤滑粘度の油;及び
(B)添加剤成分として、プロペンの様な分岐鎖アルケンのオリゴマー混合物の形態を取ったアルキル化剤でジフェニルアミンを触媒的にアルキル化して得られた、又は得ることができるパラ−アルキル置換ジフェニルアミンであり、該混合物はプロペンオリゴマー中、質量基準でプロペン5量体を最も多く含む。
【請求項12】
ジフェニルアミンが4-位及び/又は4'-位でアルキル置換され、適宜、少量の未反応ジフェニルアミンとトリ−置換物質とを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
アルキル化ジフェニルアミンが4-位のみアルキル置換された物質から成る、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
少量のモノ−オルソ及び/又はジ−オルソ及び/又はオルソ−パラ置換物質を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項15】
モノ置換物質対ジ置換物質の質量比が70:30〜30:70の範囲内である、請求項12又は14に記載の組成物。
【請求項16】
置換アルキル基群の内、クロマトグラフィーによる[面積/面積]比として測定される97%が炭素数9を超えるものである、請求項11、14及び15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
アルキル化剤がC12、C15、C18及びC21のプロペンオリゴマー混合物であって、該オリゴマー混合物が質量基準でC12、C18及びC21オリゴマーのいずれよりC15オリゴマーを多く含有するものである、請求項11乃至16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
潤滑粘度の油が濃縮物形成量で存在する、請求項6乃至17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
潤滑粘度の油が主要な量で存在する、請求項6乃至17のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
アルキル基群の平均分子量が140〜340、例えば140〜300である、請求項6乃至19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
パラ−モノアルキル置換ジフェニルアミン対パラ−パラジアルキル置換ジフェニルアミンの質量比が90:10、例えば80:20又は70:30、から30:70の範囲内、好ましくは50:50超である、請求項6乃至12及び14乃至20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
置換アルキル基群の内、クロマトグラフィーによる[面積/面積]比として測定される95%以上、例えば97%以上が炭素数9を超えるものである、請求項6乃至21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
主要な量の潤滑粘度の油と下記の成分を夫々少ない量で含むクランクケース用潤滑油組成物:
(A)添加剤成分として、下記に定義されるパラ−アルキル置換ジフェニルアミン:
(i)該アルキル基又はアルキル基群は分岐であり、プロペンの様な分岐鎖アルケンのオリゴマー類から誘導されるものであり、最大百分率で存在するアルキル基の炭素数は12〜45であり、好ましくは炭素数12又は15であり、炭素数9以下のアルキル基が25%以下、炭素数45以上のアルキル基が25%以下であり;
(ii)置換されたジフェニルアミンの25%以下がトリアルキル置換であり;そして
(iii)置換されたジフェニルアミンの10%以下がオルソ−置換であり;及び
(B)無灰分散剤、金属洗浄剤、腐食防止剤、ジヒドロカルビルジチオホスファート金属塩、抗酸化剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、消泡剤及び粘度調整剤から選択される、(A)以外の1種又は2種以上の添加剤。
【請求項24】
Sequence III G Engine Oil Certification 試験法 (ASTM D7320)に依って測定される平均重量ピストン堆積評点が3.5超であり、及び/又はSequence VG Engine Oil Certification 試験法 (ASTM D5302)に依って測定される平均スラッジ評点が7.8超である、請求項23に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項25】
粘度調整剤を含み、ASTM D5293に依って測定される-20℃におけるCCS粘度が3500×10-3 Pa.s以下である、請求項23又は24記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項26】
-25℃におけるCCS粘度が3500×10-3 Pa.s以下である、請求項25に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項27】
-25℃におけるCCS粘度が3250×10-3 Pa.s以下である、請求項26に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項28】
-25℃におけるCCS粘度が3250×10-3 Pa.s未満である、請求項27に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項29】
ASTM D445に準拠して測定されるkV100が12.5 mm2/s以下である、請求項25乃至28のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項30】
kV100が9.3 mm2/s以下である、請求項29に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項31】
kV100が9.3 mm2/s未満である、請求項30に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項32】
数平均分子量が約1,500〜約2,500であり、且つ官能基化油溶性重合性炭化水素骨格のコハク酸化比率が約1.3〜約1.7であるポリイソブチレンから誘導されたコハクイミド分散剤を少量含む、請求項23乃至31のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項33】
該分散剤のカップリング比率が約0.6〜約0.95である、請求項32に記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項34】
該分散剤が組成物中の高分子含有率として2質量%以下の量で存在する、請求項32又は33のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項35】
粘度調整剤として、水素化ポリジエンのアームから誘導される星型粘度調整剤であって、そのせん断安定性指数(SSI)が35以上である星型粘度調整剤、より好適には、SSIが45以上の、水素化(ポリジエン−ポリスチレン−ポリジエン)から誘導されるトリブロックアームを含む星型粘度調整剤を含む、請求項23乃至34のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項36】
更に、少量のフェノール系抗酸化剤を含む、請求項23乃至35のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項37】
該潤滑粘度の油の50質量%以上がグループIIIもしくはそれ以上高級である、請求項23乃至36のいずれかに記載のクランクケース用潤滑油組成物。
【請求項38】
請求項23乃至37のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いる、内燃エンジンのクランクケース潤滑方法。
【請求項39】
請求項23で定義される添加剤成分(A)を少量含む潤滑油組成物で内燃エンジンのクランクケースを潤滑する際、(A)の代わりにパラ−ノニル−置換ジフェニルアミンを含む他の特定の潤滑油組成物と比較して、SequenceIIIG試験(ASTM D7320)に依るピストン堆積物平均重量として測定されるピストン清浄度を改良する方法。

【公表番号】特表2010−529141(P2010−529141A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511349(P2010−511349)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/066026
【国際公開番号】WO2008/154334
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】