説明

減圧乾燥機及び運転制御方法

【課題】減圧乾燥機において、被処理物の乾燥効率を向上させ、乾燥時間の短縮化を図る。また、乾燥工程中の被処理物の温度を適切な範囲に収めて被処理物の品質劣化を抑制する、減圧乾燥機およびその制御方法を提供する。
【解決手段】ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて、真空ポンプで撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う、高速撹拌式減圧乾燥機であって、撹拌槽に空気などの気体を供給する配管と空気流量調整機構を備えて、流量調整した気体を撹拌槽に導入して該撹拌槽の内圧を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャケットを備えた高速撹拌式減圧乾燥機及び運転制御方法に関し、特に、バイオ廃棄物の再利用や薬品・食料の製造などの分野に利用できる低温乾燥が可能な減圧乾燥機とその運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャケットを備えた高速撹拌式減圧乾燥機は、撹拌槽に収納された材料を回転翼で高速撹拌して材料の隅々を撹拌槽内の雰囲気に曝して液体を放出させ易くし、槽内を減圧して低温蒸発させると共に槽内の蒸気を排出することにより、材料表面に付着しあるいは内部に含まれていた液体成分を除去して、材料を乾燥させる。このとき、ジャケットに熱媒を循環させて槽内を加熱あるいは保温することで乾燥を効率化することができるが、滅菌や焦げ付きを避けるため過熱を嫌う材料の場合はジャケットによる加熱条件を調整して、比較的低温で乾燥をすることもできる。
高速撹拌式減圧乾燥機は、湿潤原料粉体を乾燥させる他、原液を濃縮したり、原料粉体を混合したり、造粒したりするために利用することができる。また、コーティングや練合に利用することもできる。
【0003】
一方、最近、ビールメーカや酒造業者から大量に放出されるビール残液、ビール粕や酒粕を家畜の飼料にする試みが盛んになされている。酒等を絞った後の残液や粕は、蛋白質、繊維質、ミネラルなど栄養が豊富で良質な飼料となりうる。さらに、酒麹などの菌が特別の働きをする可能性があり、これらを餌にすることにより家畜の成育や産卵、養肉などに好影響を及ぼすことが期待されている。また、従来産業廃棄物として処分されていたこれらの材料を飼料として活用することは、環境保護の立場からも好ましい。
こうしたビール粕等は、そのまま給餌するわけでなく、乾燥により酒分や水分を適度に除去したものを与える必要がある。しかし、菌類等の微生物にある程度の活性を保持させるため、乾燥を急いで材料を焦がしたりせず、材料を適度な低温に維持しながら乾燥することが求められる。
【0004】
このような低温乾燥の目的には、ジャケットを備えた高速撹拌式減圧乾燥機は好適であるが、実際に試験をしてみると乾燥時間が掛かるので、より一層効率化を図ることが好ましい。特に、大量のビール残液や粕などの処理が求められるときに、乾燥工程に通常勤務時間以上の時間が掛かると、作業員の残業を増やしたり交代制にして作業員の数を増やしたりする必要が生じて、事業性が悪化する。また、作業時間が通常勤務時間より短くできたときでも、例えば4時間以下になれば、勤務時間中に複数のバッチが仕込めるようになるので、より好ましい。
【0005】
発明者らは、条件に合う乾燥を行うために種々の試験を繰り返す過程で、攪拌機のエアシール量を過剰にすると乾燥が進むことを知った。これは、すなわち、定率乾燥期間において空気流が被乾燥材料表面の水分をさらって行く作用が減圧による乾燥効果を凌ぐ効率を有する場合があるということである。
発明者らはこうした発見に触発されて、鋭意研究の結果、従来の高速撹拌式減圧乾燥機に改良を加えることにより、被乾燥材料中の水分を効率よく除去する減圧乾燥機を提供するに至ったのである。また、発明者らはこのような特殊な減圧乾燥機を適切に運転するために、目的にかなった巧妙な運転制御方法を案出した。
【0006】
特許文献1には、汚泥の乾燥に供する間接加熱式撹拌乾燥機について、被処理物の性状が変動したときにも水分値や粒径がほぼ均一な乾燥品を得ることのできる運転制御方法が開示されている。開示された運転制御方法は、処理槽内における被処理物の乾燥状態に応じて乾燥機に供給する熱量を例えば3段階に調節して、被処理物の乾燥速度を調整することを特徴とする。
【0007】
この方法によれば、被処理物に伝導する熱量を常に最適な状態とすることによって、水分値及び粒径を所望なものとした乾燥汚泥を得ることができる。被処理物の乾燥状態は、例えば、処理槽内温度及び排気温度が所定値より高いか低いかにしたがって4つに分類して判定することができる。
しかし、処理槽からの伝熱係数は原料種類によって異なるため、被処理物が変わると、温度と熱量の関係を別の関数に切り替える必要がある。また、新しい被処理物を扱うたびに、試行錯誤的手法により新しい関係を見出して関数を作成する必要がある。本開示方法では、このような煩雑さを避けることができない。なお、本開示方法は、空気流による乾燥作用を利用するものではない。
【0008】
特許文献2には、従来の減圧乾燥機に気流噴出ノズルを設けた改良発明が開示されている。回転翼の回転で撹拌槽内に投入した粉体を撹拌、混合、乾燥させる場合、原料粒子は半径方向での反転運動を繰り返すが、原料粉体が塊状になると、この塊状になった原料粒子は撹拌槽の中央部に集中することになる。開示された発明は、回転翼の上端より上側でかつ撹拌される原料粉体の表面より下側に対応する撹拌槽の側壁に、接線より内側に向けて気流噴出ノズルを設けたところに特徴がある。
【0009】
このように気流噴出ノズルを配置することから、反転運動中の原料粒子に対して気流を確実に接触させることができ、またノズルが槽の側壁に開口するため風量不足になることがなく、湿潤粉体であっても良好な撹拌混合及び乾燥を行うことができる。
しかし、本開示方法では、熱風との接触により被処理物を乾燥させるので、減圧乾燥機のように、被処理物の温度上昇を抑えながら乾燥して、被処理物の品質を変えないようにすることが難しい。また、本開示方法には、乾燥が進むにしたがって気流を使った乾燥の能率が低下することについて配慮がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−185343号公報
【特許文献2】特開2007−054729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、減圧乾燥機において、被処理物の乾燥効率を向上させ、乾燥時間の短縮化を図ることである。また、乾燥工程中の被処理物の温度を適切な範囲に収めて、被処理物の品質劣化を抑制する減圧乾燥機の運転制御方法を提供することである。
特に、バッチ処理に掛かる時間を短縮して乾燥工程の合理化を図ると共に、熱消費量を抑えた減圧乾燥機の運転制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の減圧乾燥機は、ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて、真空ポンプで撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う、高速撹拌式減圧乾燥機であって、撹拌槽に空気などの気体を供給する配管と撹拌槽に供給する気体の流量調整機構を備えて、流量を調整した気体を撹拌槽に導入して内圧を調整することができるようにしたことを特徴とする。
流量調整した気体は、攪拌機の軸シール用エアの配管を利用して撹拌槽に導入されるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明の減圧乾燥機は、撹拌槽における被処理物の温度(品温)を検出する品温検出端、もしくは、撹拌槽の排気管における排気温度を検出する排気温度検出端、および撹拌槽内の圧力を検出する圧力発信器を備え、これら検出された品温もしくは排気温度に対応する飽和蒸気圧に対して所定の圧力差を維持するように、流量調節弁を用いて制御する運転制御機構を備えて、この運転制御機構により流量調整した気体を撹拌槽に導入するようにしてもよい。
【0014】
なお、運転制御機構は、品温検出端もしくは排気温度検出端から供給される検出信号に基づいて品温もしくは排気温度に対応する飽和蒸気圧を算定し、算定された飽和蒸気圧に所定のバイアスを加えた値を設定値として出力する演算装置と、圧力発信器から供給される圧力信号に基づいて撹拌槽の内圧を設定値に維持するように流量制御する制御装置とを備えるものであってもよい。
【0015】
また、本発明の減圧乾燥機の運転制御方法は、ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて真空ポンプで撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う高速撹拌式減圧乾燥機に対して、撹拌槽における被処理物の温度(品温)もしくは撹拌槽の排気温度を検出し、撹拌槽内の圧力を検出して、これら温度と対応する飽和蒸気圧に対して予め設定された所定の圧力差を維持するように、撹拌槽に導入する気体の量を調整することを特徴とする。
さらに、本発明の減圧乾燥機の運転制御方法は、品温または排気温度を監視して、これら温度が所定値以上に上昇したときに気体の導入量を減少させて減圧度を上げることにより温度上昇を抑制し、これら温度が所定値より低下したときに気体の導入量を増加させて減圧度を下げることにより温度低下を抑制するようにしてもよい。
【0016】
本発明の減圧乾燥機は、撹拌槽内の圧力を調節することによって、蒸発速度を調整することも可能である。湿潤した被処理物の表面に付着した水分を除去して乾燥する定率乾燥過程では、気体で搬出される蒸気量が多いので、撹拌槽に気体を導入することにより能率的に乾燥することができる。一方、被処理物の内部に浸潤した水分を除去する減率乾燥過程では、減圧により内部の水分が表面に滲出されるようにすることが必要なので、外部から導入される気体の量を制限して有効に減圧できるようにすることにより、能率的に乾燥することができる。
【0017】
本発明の減圧乾燥機では、撹拌槽に導入する気体の量を調整することで撹拌槽内の減圧度合いを調整することができる。この減圧度によって被処理物中の蒸発する物体の沸点を調整することにより、品温の制御が可能になる。
また、蒸発物質は、多くは水であるが、エタノール、メタノール、アセトンなど、各種の溶剤であってもよい。また、撹拌槽に導入される気体は、蒸発物質の蒸気を搬送する気体であればよいので、空気に限らず、窒素その他の各種ガスを利用することができる。
なお、撹拌羽根の軸シール部は、適量のシールエアを撹拌槽内に流し込むことで槽内から被処理物が滲出しないようにしている。そこで、減圧調整用気体の導入路として軸シール部を利用すれば、撹拌槽に気体導入ノズルを追加する必要が無く、設備の簡素化が図れる。
【0018】
また、ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて真空ポンプで撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う高速撹拌式減圧乾燥機において、撹拌槽内の圧力は被処理物中の水分の蒸発量によって左右されるので、本発明の運転制御方法を適用して、適当な量の気体を導入して蒸発量を調整することにより減圧乾燥機の乾燥効率を向上させることができる。
【0019】
また、乾燥工程中は蒸発量の変化により撹拌槽内の圧力が変動して品温が安定しないが、本発明の運転制御方法を適用することにより、乾燥中の品温の変化幅を抑制して許容範囲内に収まるように管理することができる。
蒸発物が溶剤であって真空配管中に溶剤処理装置が設けてある場合には、本発明の運転制御方法を適用することにより、溶剤処理装置の負荷変動を抑制して安定な運転をさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の1実施形態に係る減圧乾燥機の運転制御系のフローチャートである。
【図2】本実施形態の減圧乾燥機の運転制御方法にしたがって運転したときの減圧乾燥機内における被乾燥物の温度変化例を示したグラフである。
【図3】本実施形態の運転制御方法にしたがって運転した減圧乾燥機内の圧力変化例を示したグラフである。
【図4】本実施形態の運転制御方法にしたがって運転した減圧乾燥機における被乾燥物の含水率変化例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る減圧乾燥機および運転制御方法の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0022】
本実施形態に係る運転制御方法を適用する減圧乾燥機は、図1に示す通り、ジャケット2付きの撹拌槽1に撹拌羽根4を備えて、真空ポンプ15で撹拌槽1を減圧しあるいはさらにジャケット2に熱媒体を流通させて加温することにより被処理物20の乾燥を行う、高速撹拌式減圧乾燥機であって、空気流量の調整を含めて減圧乾燥機の運転を制御する運転制御機構21を備えて、流量を調整した空気を撹拌槽1に導入することができるようにしたものである。
この高速撹拌式減圧乾燥機は、二重槽として構成された撹拌槽1の底部に垂直軸周りに回転する撹拌羽根4を配置し、撹拌羽根4を上端に固定した回転駆動軸5の下端が動力伝達機構11を介して駆動用電動モータ12に連動連結されている。
【0023】
また、撹拌槽1の天井部には被処理物20を供給する材料供給口14と、真空ポンプ15に繋がって撹拌槽1の雰囲気を排出する排気口が設けられている。排気口にはバグフィルタ3が装備されていて、撹拌槽1内の粒子が真空ポンプ15に流れ込まないようになっている。なお、撹拌槽1内で溶剤を放出する場合に溶剤が外気に放出されることを防止するため、撹拌槽1と真空ポンプ15の間に溶剤回収装置17を設けても良い。大気開放弁16は、撹拌槽1内に外気を導入して撹拌槽1内を大気圧に戻すために使用する。
【0024】
撹拌槽1の側壁の底面に近い位置には、乾燥された製品などを排出する開口が設けられている。撹拌槽1内の製品などは、高速回転する撹拌羽根4によって壁に押し付けられ、開口から排出される。この開口には、排出ダンパーシュート13が設備されている。排出ダンパーシュート13は、この開口を開閉する蓋を備えていて、製品を排出するときには、この蓋を開くことにより撹拌羽根4によって開口に押し付けられた製品を撹拌槽1の外に引き出し、下方に排出させる。
【0025】
撹拌槽1の外壁に形成されたジャケット2には、熱媒体供給装置18で適当な温度に調整された温熱水、蒸気、熱媒油などの熱媒体が供給され、撹拌槽1の内部温度あるいは収納されている材料の温度(品温)を適度に保持することができる。
なお、撹拌羽根4の回転駆動軸5は、ユニット化されシールボックス10に収められたシールシステムによりエアシールされており、撹拌槽1内の材料が軸を伝って外に漏れ出さないようになっている。シール用のシールエアは、エアコンプレッサ6で製造された加圧空気をレギュレータ7で調圧して、シールボックス10に供給している。
【0026】
このような、ジャケット2付きの撹拌槽1に撹拌羽根4を備えて真空ポンプ15で撹拌槽1を減圧することにより被処理物20の乾燥を行う高速撹拌式減圧乾燥機では、撹拌槽1に被処理物20となる湿潤物を投入して、撹拌槽1を真空引きしながら、優れた撹拌作用を有する撹拌羽根4を回転駆動すると、被処理物20は撹拌羽根4の回転による遠心力によって半径方向に移動させられると共に、撹拌羽根4の形状がもたらす被処理物20の反転運動と、減圧により水などの沸点が低下して対象物からの蒸発を活発化させる現象とで、被処理物20から水分がよりよく蒸発して、効率よく乾燥するようになる。
【0027】
ところで、湿り材料は固体、液体、気体から成り立っており、表面付近に水が保持されている状態の湿り材料を乾燥する場合、一般に、初期状態から乾燥条件に対応した状態へ変化する材料予熱期間である乾燥第1期と、材料の表面から材料の中心まで一定温度に保持され、含水量が直線的に減少する乾燥第2期と、表面温度が急激に上昇し中心温度もこれを追いかけるように上昇する乾燥第3期と、表面温度の上昇率は緩くなるが中心温度が急激に上昇して乾燥の終結にいたって加熱温度と一致するようになる乾燥第4期とを経過することになる。
【0028】
ここで、材料の含水量の時間変化率を求めると、乾燥第2期は含水量の時間変化率が一定になるのでこれを定率乾燥期間といい、乾燥第3期と乾燥第4期は含水量の時間変化率が時間と共に次第に減少するので、減率乾燥期間と呼ばれる。
定率乾燥期間は、材料の表面や材料の間に存在する液体や気体の水分が除去されることにより乾燥が進む期間である。また、減率乾燥期間は、材料表面に液相の水が存在しなくなって、材料内部の水分が蒸発したり表面に浸出したりして内部から乾燥が進む期間である。
【0029】
従来の減圧乾燥機では、撹拌槽内に低圧雰囲気を形成して、湿り材料に付着する水分の沸点を低下させることにより蒸発を活発化し、放出された水分を雰囲気と一緒に排出することにより材料を乾燥する。
乾燥を促進するために、ジャケットに供給する熱媒体の温度を上昇させることができるが、菌類等の微生物の保持や焦げ付きの防止が必要な場合には、撹拌槽内の被処理物が高温体に触れることを避けるため熱媒体温度に制約がある。したがって、ジャケット付き減圧乾燥機でも、乾燥時間を十分短縮することができなかった。
【0030】
これに対して、本実施形態の減圧乾燥機では、撹拌槽1に空気を導入して乾燥を促進する。撹拌槽1に導入された空気は、湿潤な材料の間を流通する間に、湿潤な材料の表面を濡らしている水を飽和するまで吸収しあるいは微細な水滴として随伴して十分湿るので、撹拌槽内で大量の水分を担持するようになった空気を真空ポンプ15で吸引して外気に放出させる。特に乾燥第2期では気流による乾燥効果が大きい。
【0031】
撹拌槽1に空気を導入するには、槽底に空気ノズルを設けて新鮮な空気を送入すればよい。なお、空気を僅かずつ漏らし込むことによって内容物が外部に漏洩することを防止するエアシールを施した回転駆動軸5を有する減圧乾燥機では、シールエアに乾燥用の空気を加えて、シールエア供給ノズルを介して槽内に空気を導入するようにすることができる。エアシール機構を利用して乾燥用空気を導入する場合は、撹拌槽1に別途空気ノズルを設ける必要が無く、空気量の増量で対処でき、またエアコンプレッサ6やレギュレータ7なども共用できる場合も多く、経済的である。
【0032】
本実施形態の減圧乾燥機では、清浄な空気を撹拌槽1内に導入して、湿潤な被処理物に空気流を接触させて水分を空気側に移動させた上、槽内の空気を真空ポンプで排出することにより被処理物の水分除去を行って乾燥するようにした。このようにして、先に説明した材料予熱期間(乾燥第1期)と定率乾燥期間(乾燥第2期)における乾燥を効率よく行うようにすることができた。
【0033】
しかし、空気接触による乾燥は、定率乾燥期間(乾燥第2期)までしか効果が無く、被処理物表面の水分が消失した後に材料内部から水分を放出させる減率乾燥期間(乾燥第3期、乾燥第4期)では、被処理物を囲む雰囲気の圧力が低くて水の沸点が低下するほど、また雰囲気の湿度が低くジャケットとの温度差が大きいほど乾燥が進むことになる。このため、外部から導入した空気がむしろ悪影響を及ぼすので、減率乾燥期間に移行する時期になったら空気供給を抑制して適度な減圧状態にすることが好ましい。
【0034】
高速撹拌式減圧乾燥機は、被乾燥物の塊の表面から乾燥する静止乾燥と異なり被乾燥物を撹拌することにより流動化して減圧するので、乾燥初期において撹拌槽内に多量の蒸気が放出される。この状態で空気導入量を増大すれば、導入した空気が飽和状態に近い状態で排気されるため、被乾燥物からの蒸発が促進されて乾燥度が上がる。一方、乾燥後期においては蒸発量が減少し、積極的に空気を導入しても圧力が上昇して沸点が上がり、熱の損失が拡大するだけで蒸発量はかえって低下する。
【0035】
このため、撹拌槽内で発生した蒸気を置換する程度の空気を導入することが適当であり、被処理物からの蒸発量に応じて適切な空気導入量を定めるようにすることが好ましいことが分かった。なお、この方法は、減率乾燥期間への移行期間において空気が悪影響を及ぼさないように空気供給を抑制して適度な減圧状態にするものである。
そこで、被処理物の品温を監視し、撹拌槽内圧が品温に相当する飽和蒸気圧に所定の圧力を加算した圧力になるように空気導入量を調整したところ、蒸発量の変化に追従して空気供給量が加減されることになり、乾燥効率が大きく向上することになった。
本実施形態の運転制御方法は、この方式を採用したものである。
【0036】
撹拌槽内圧と飽和蒸気圧との差圧は8〜10kPaが適当で、この範囲より小さい差圧とした場合は持ち出し水分量が減少して乾燥時間が長くなり過ぎ、この範囲より大きな差圧とした場合には空気量が過剰になった。
ただし、乾燥する物質の種類、一度に乾燥する量、発生する蒸気量や真空ポンプの容量、ジャケットの設定温度などによって、飽和蒸気圧に加算する最適な差圧量が異なるため、乾燥条件について試行錯誤的に最適値を求めて適宜調整できるように運転制御機構21を構成することが好ましい。
【0037】
本実施形態では、運転制御機構21に、空気流量の調整をする制御装置22と制御装置22に流量設定値を供給する演算装置23が含まれる。
温度検出端25が撹拌槽1に設けられていて、乾燥中の製品の温度(品温)を監視しておき、パソコンなどで形成された演算装置23に品温を入力すると、演算装置23は品温に対応する蒸気圧を算出し、この蒸気圧に対して適当な正のバイアスを加えた設定圧力を算定する。
【0038】
この設定圧力は目標値として制御装置22に供給され、制御装置22は空気供給配管のレギュレータ7の下流に設けられた流量制御弁9を操作して空気供給を調整することにより、撹拌槽1の内圧が設定圧力になるように追値制御を行う。
流量制御弁9に供給される空気はレギュレータ7により調圧されたものであるので、安定した制御操作が可能である。
【0039】
このような追値制御によれば、撹拌槽1内がそのときの温度に対応する飽和蒸気圧に所定の差圧を加えた圧力を維持するように撹拌槽1に空気を供給するので、定率乾燥期間においては、ほぼ自動的に空気接触による効率的な蒸発を確保することができる。さらに定率乾燥期間の後期や減率乾燥期間では撹拌槽1内に放出される蒸気量が減少するにつれて空気量も減少するので、空気の供給を自動的に抑制することができる。
なお、飽和蒸気圧の算出には、品温に代えて、撹拌槽1の内温、あるいは撹拌槽1の排気側配管に温度検出端26を設けて測定する排気温度を使用することもできる。
【0040】
さらに、乾燥段階が減率乾燥期間に達して蒸発量が減少すると、被処理物の温度が定率乾燥期間と比べて激しく上昇するので、被処理物の温度(品温)を監視しておいて、温度が急上昇した時点で空気流を制限する措置を執ることにより撹拌槽内を効果的に減圧するようにして、材料内部からの蒸発を促進させるようにすることができる。
また、乾燥段階が減率乾燥期間に達して蒸発量が減少すると被処理物からの発塵が増加し、バグフィルタの目詰まりが発生する。蒸発量の減少に追従して空気量を減少させる運転は、バグフィルタの目詰まりを抑制する点でも望ましい。
【0041】
また、ビール粕を乾燥して家畜の飼料にする場合など、乾燥が完了したときに乾燥後の製品が適度な湿りを有することが好ましいときには、湿度を監視していて望む湿度に到達したときに乾燥工程を終了するようにしてもよい。なお、同じ条件下で乾燥工程を繰り返す場合は、目標とする乾燥状態に至るための操作時間、撹拌槽内圧力、空気量、ジャケット熱媒体の温度や流量などについて最適な運転条件を経験的に求めておいて、それに従って操作するようにしても良い。
【0042】
また、空気供給配管には遮断弁8が設けられていて、撹拌槽1内温の上限値超越など、異常時には、運転制御機構21の演算装置23から発生される指令信号により空気の供給を緊急遮断できるようになっている。
【0043】
図2は、本実施形態における減圧乾燥機の運転制御方法にしたがって運転したときの撹拌槽内の被処理物の温度変化例を示したグラフ、図3は、撹拌槽の圧力変化例を示したグラフ、図4は、撹拌槽における被処理物の含水率変化例を示したグラフである。
試験に使った減圧乾燥機は、容量が2000リットルの撹拌槽を備えたハイスピードバキュームドライヤーFS−VDMC−2000J型(商品名:深江パウテック株式会社製)で、試験のため、含水率63%のビール粕650kgについて、撹拌羽根の回転数を100rpmとしジャケット熱媒体として0.18MPaGの飽和水蒸気を使って、バッチ的に乾燥処理した。
【0044】
試験は、撹拌槽1に大量の空気(770Nl/min)を導入した場合(空気大量導入)と少量の空気(240Nl/min)を導入した場合(空気少量導入)と、本発明における手法を適用した場合(本発明)について行った。ここでは、ビール粕に含まれる酵母などの微生物を損ねないため、80℃以下で処理することを条件とした。
【0045】
本実施形態の運転制御方法は、品温の測定結果に基づいて品温に対応する飽和蒸気圧を算定し、算定された飽和蒸気圧に所定のバイアスを加算した値を目標値として圧力制御装置に供給し、圧力制御装置で空気の流量調節弁を調整して撹拌槽内の圧力を制御する。この試験では、飽和蒸気圧に加算する圧力値を8〜10kPaとした。なお、品温に代えて、撹拌槽の排気温度を利用することもできる。
【0046】
飽和蒸気圧は、演算装置23の記憶部に格納した対象物質の蒸気圧表あるいは蒸気圧曲線を使い温度に基づいて算定することができる。また、例えばアントワン式など、適宜の近似式を利用して求めても良い。
アントワン式は、下のように表現される。
log P = A − B / ( t + C )
ここで、Pは飽和蒸気圧(Pa)、tは温度(K)、A,B,Cは物質毎に決められたパラメータである。水の場合は、A=10.09、B=1668.21、C=45.15がよいとされている。アントワン式は、パラメータの少ない単純な式でありながら、比較的広い範囲で飽和蒸気圧を良く表す式としてよく利用されている。
【0047】
図2は、撹拌槽1の品温検出端25で測定した、撹拌槽内の被処理物の温度(品温)の変化を観察した結果を示したものである。
図2を見ると、空気少量導入の場合には、乾燥工程初期の材料予熱期間では品温が急激に上昇するが、空気の供給量が少ないため撹拌槽内の減圧度が高まり、すなわち高真空になって、被処理物を湿らせている水の沸点が低下するため、定率乾燥期間では比較的低温の状態で推移している。
また、空気大量導入の場合は、導入された空気が槽内圧力を低下させないため比較的高温の状態で推移するが、定率乾燥期間中期の経過時間150分ごろから品温が低下し始める。これは、乾燥の進行と共に被乾燥物からの水分蒸発量が減少するので、撹拌槽1における導入空気の比率が増大して空気の冷却効果が現れてくるためである。
【0048】
これに対して、本実施形態における減圧乾燥機の運転制御方法にしたがって運転したときの品温変化は、定率乾燥期間において遅くまで温度低下が起こらず、高温状態における水分除去作用をより長時間維持することが分かる。一方、減率乾燥期間に移行する頃に空気供給量が低流量に切り替わると、その後は空気少量導入の場合と同様の温度水準で推移することになる。
【0049】
図3は、撹拌槽1の本体あるいは排気口に設けられた圧力発信器24で測定した撹拌槽の圧力変化を示したものである。なお、併記された点線のグラフは、撹拌槽1の品温に対応する飽和蒸気圧を示すものである。品温に対応する飽和蒸気圧は、見かけ上、図2の温度変化と相似的に変化する。
【0050】
図3を見ると、空気少量導入の場合には、空気の供給量が少ないため、撹拌槽の圧力が飽和蒸気圧に対して僅かに圧力が高い程度で推移しており、真空ポンプ15による減圧吸引が主な吸湿作用となっていることが分かる。
また、空気大量導入の場合は、空気少量導入の場合と比較すると槽内の圧力が大きく上昇し、乾燥の進行で被乾燥物からの水分蒸発量が減少しても、空気導入量が大きいため空気の冷却効果が現れ品温が低下する一方、撹拌槽内の圧力は飽和蒸気圧よりかなり高い水準で推移する。
【0051】
これに対して、本実施形態における運転制御方法にしたがって運転するときは、制御装置を用いて空気供給量を調整することにより、撹拌槽内圧が品温に対応する飽和蒸気圧に所定のバイアスを加えた圧力になるようにするので、図3中の「本発明」と表記したグラフのように圧力が推移する。
【0052】
図4は、撹拌槽における被乾燥物の含水率変化を示したグラフである。
図4には、初めに含水率が65%であった被処理物が、乾燥処理によって徐々に含水率を低下させていく様子が表されており、製品としての目標含水率25%になるまでの処理時間が読み取れる。
製品の含水率が目標の25%に達するまで、空気少量導入の場合には定率乾燥期間の水分持ち去り量が少ないため340分を要した。また、空気大量導入の場合は空気量過多のため冷却効果が生じて特に240分以降の効率が低下して製品の含水率が25%に達するまで280分要した。
【0053】
これに対して、本実施形態における運転制御方法にしたがって運転するときは、空気量が蒸気量と対応して調整されるため高い乾燥効率を実現することができて、製品の含水率が25%に達するまでに245分しか掛からなかった。
このように、本発明の減圧乾燥機の運転制御方法は、乾燥の各段階に応じて適正な気体流量に制御するので、被処理物を効率よく乾燥し、短時間で乾燥工程を完了することができる。
なお、作業員の勤務形態から、4時間前後で乾燥できる場合は、1日の勤務時間内に複数のバッチを処理することも可能になるので、作業効率を飛躍的に向上させることが期待される。
【0054】
また、撹拌槽内で激しい撹拌をすると被処理物により大きな撹拌熱が発生するので、本運転制御方法にも、品温を監視していて品温低下量が所定の値を超えた場合には、撹拌羽根の回転数を増加させて撹拌熱により品温を回復させる制御を付加することが好ましい。
【0055】
さらに、撹拌槽に導入する空気を予め除湿して予熱する装置を付加しても良い。
空気取り込み部に設ける除湿予熱装置は、取り込み空気に対する外気温や湿度の影響を抑えて、撹拌槽における乾燥性能を安定させることができる。
また、取り込み空気を予熱することで、撹拌槽における空気の冷却効果を抑制し、品温の低下を防止することができる。
【0056】
なお、乾燥段階が減率乾燥期間に達して蒸発量が減少すると品温および排気温度が急激に上昇するので、これらの温度の急上昇を検知したときに乾燥工程の終点と判定することができる。また、同じ条件で繰り返し乾燥工程を行う場合は、目標とする乾燥状態に至るまでの作業時間を予め確認しておいて、タイマーを使って管理することもできる。タイマーを使う方法は極めて簡単でありながら比較的信頼性が高いので、好適に利用することができる。撹拌槽の排気管に湿度検出器を設けて、排気中の湿度を直接に測定して、製品の目標湿度に達したら、乾燥が完了したとして、工程を終了するようにしても良い。
【0057】
また、上の実施例では、品温または排気温度と槽内圧力とに基づいて水分率制御を行っているが、撹拌槽の排気管に設けた湿度検出器により得た排気中の湿度を制御量として、目標値と比較した偏差に基づいて撹拌槽に供給する空気量を調整することにより、製品中の水分率を制御するようにしても良い。この方法によっても、撹拌槽内の湿度が製品湿度に近づくにつれて空気供給量を減少させて、合理的に乾燥することができる。
【0058】
なお、本実施例では、撹拌槽内の被処理物の乾燥を幇助する気体として空気を使った例を説明したが、撹拌槽に導入する気体は蒸発物質の蒸気を搬送することができればよいので、窒素その他の各種ガスを適宜利用することができることはいうまでもない。例えば、被処理物質が酸化で変質し易い場合は、窒素や炭酸ガスなどの不活性ガスを選択することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る減圧乾燥機及びその運転制御方法は、食品や薬品など広い分野において乾燥対象物を効率よく短時間で乾燥させることに有効に利用できる。特に、高度に湿ったビール粕を適当な湿度を持った家畜飼料にする場合などに適用すると、乾燥工程の短時間化に貢献して、生産性を大いに向上させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 撹拌槽
2 ジャケット
3 バグフィルタ
4 撹拌羽根
5 回転駆動軸
6 エアコンプレッサ
7 レギュレータ
8 遮断弁
9 流量制御弁
10 シールボックス
11 動力伝達機構
12 駆動用電動モータ
13 排出ダンパーシュート
14 材料供給口
15 真空ポンプ
16 大気開放弁
17 溶剤回収装置
18 熱媒体供給装置
20 被処理物
21 運転制御機構
22 制御装置
23 演算装置
24 圧力発信器
25 品温検出端
26 排気温度検出端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて真空ポンプで撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う高速撹拌式減圧乾燥機であって、前記撹拌槽に気体を供給する配管と該撹拌槽に供給する気体の流量を調整する調整機構を備えて、前記流量調整した気体を該撹拌槽に導入して該撹拌槽の内圧を調整することを特徴とする減圧乾燥機。
【請求項2】
前記流量調整した気体は、前記攪拌羽根の回転駆動軸のシールエアと一緒に同じ配管を通って前記撹拌槽に導入されることを特徴とする、請求項1記載の減圧乾燥機。
【請求項3】
前記撹拌槽における被処理物の温度(品温)を検出する品温検出端もしくは該撹拌槽の排気管における排気温度を検出する排気温度検出端を備え、該撹拌槽の内圧を検出する圧力発信器と、気体流量を調整する流量調節弁と、該品温検出端もしくは排気温度検出端により検出された品温もしくは排気温度に対応する飽和蒸気圧に対して所定の圧力差を加えた圧力に前記撹拌槽の内圧を維持するように前記流量調節弁を調整する運転制御機構とを備えることを特徴とする、請求項1または2記載の減圧乾燥機。
【請求項4】
前記運転制御機構が、前記品温検出端もしくは前記排気温度検出端から供給される検出信号に基づいて品温もしくは排気温度に対応する飽和蒸気圧を算定し、算定された飽和蒸気圧に所定のバイアスを加えた値を設定値として出力する演算装置と、前記圧力発信器から供給される圧力信号に基づいて前記撹拌槽の内圧を該設定値に維持するように該撹拌槽に導入する気体の流量制御をする制御装置とを備えることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の減圧乾燥機。
【請求項5】
ジャケット付きの撹拌槽に撹拌羽根を備えて真空ポンプで該撹拌槽を減圧することにより被処理物の乾燥を行う高速撹拌式減圧乾燥機に対して、該撹拌槽における前記被処理物の温度(品温)もしくは該撹拌槽の排気温度を検出し、該撹拌槽内の圧力を検出して、前記品温もしくは前記排気温度と対応する飽和蒸気圧に対して予め設定された所定の圧力差を維持するように、前記撹拌槽に導入する気体の量を調整することを特徴とする減圧乾燥機の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117709(P2012−117709A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266102(P2010−266102)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(503245465)株式会社アーステクニカ (54)
【出願人】(399008058)深江パウテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】