減衰力制御装置
【課題】 ダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたときであっても、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化を抑えることができる減衰力制御装置を提供すること。
【解決手段】 例えば4個のダンパのうちの2個のダンパが異常ダンパであるときは、異常内容に応じて2個の異常ダンパの減衰力FNG1,FNG2が推定される。また、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|およびピッチ要求減衰力差|ΔP|の大小比較に基づいて、H式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる2個の関係式が決定される。決定された2個の関係式から求められた各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【解決手段】 例えば4個のダンパのうちの2個のダンパが異常ダンパであるときは、異常内容に応じて2個の異常ダンパの減衰力FNG1,FNG2が推定される。また、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|およびピッチ要求減衰力差|ΔP|の大小比較に基づいて、H式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる2個の関係式が決定される。決定された2個の関係式から求められた各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を可変的に制御する減衰力制御装置が知られている。一般的に車両には前後左右の各車輪に対応して4個のサスペンション装置が取り付けられており、これら4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性が減衰力制御装置によって制御される。ダンパの減衰力特性を可変制御するにあたって、各ダンパの減衰力特性をそれぞれ独立に制御する単輪制御方式、あるいはバネ上部材(車体)の3方向のモード振動(ヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動)を抑制するように4個のダンパの減衰力特性を協調して制御するモード制御方式などが適用される。
【0003】
モード制御方式は、バネ上部材の全体的な挙動を踏まえて各ダンパの減衰力特性を制御する方式であるので、バネ上部材の各方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)の振動を効果的に抑制することができる。このため単輪制御方式と比較して乗り心地性能がより向上するというメリットを持つ。しかし、バネ上部材のヒーブ方向(重心点位置の上下方向)、ロール方向(前後軸周り方向)、ピッチ方向(左右軸周り方向)にそれぞれ作用する減衰力の制御目標値である3個の要求減衰力(ヒーブ要求減衰力、ロール要求減衰力、ピッチ要求減衰力)から4個のダンパの減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力を求めることになるため、ヒーブ要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(ヒーブ−各輪要求減衰力関係式)、ロール要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(ロール−各輪要求減衰力関係式)およびピッチ要求減衰力と各輪要求減衰力と力の釣り合いを表す関係式(ピッチ−各輪要求減衰力関係式)に加え、各輪要求減衰力についての何らかの拘束条件を用いなければ、全ての各輪要求減衰力を求めることができない。
【0004】
特許文献1は、モード制御方式において、上記3個の関係式に、各輪要求減衰力の総和が最小になるという拘束条件式を加えることにより、4個の各輪要求減衰力を求める減衰力制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−248921号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、車両に取り付けられている4個のサスペンション装置のダンパのうちのいくつかのダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたとき、例えばダンパの減衰力特性を変更制御するアクチュエータなどの可変制御手段が作動不能になったときなどは、その異常ダンパの減衰力特性を制御することはできない。この場合において、単輪制御方式によりダンパの減衰力特性を個別制御している場合には、あるダンパが異常である場合であっても、その異常の結果生じたバネ上部材の振動の抑制を他の正常なダンパの減衰力特性の制御により補うことができる。しかし、モード制御方式によりサスペンション装置の減衰力を制御している場合には、各ダンパが協調してバネ上部材の振動を抑制するように各ダンパの減衰力特性が制御されるので、あるダンパの異常が他のダンパの減衰力特性の制御に悪影響を及ぼす。このため異常ダンパが存在することにより発生する減衰力特性の制御不足を他のダンパの減衰力特性の制御により補うことができない。
【0007】
例えば上記特許文献1に記載の減衰力制御においては、異常ダンパが存在していても、上記3個の関係式および1個の拘束条件式を用いて全ての各輪要求減衰力が算出される。つまり、異常ダンパについての各輪要求減衰力も他の正常ダンパについての各輪要求減衰力と同様に制御変数(未知数)に設定され、各輪要求減衰力が全て計算により算出される。しかし、異常ダンパは計算により与えられた要求減衰力を発生するように制御することができないので、実際には異なった減衰力を発生する。これにより異常ダンパが発生する減衰力と他の正常ダンパが発生する減衰力との間のバランスが崩れ、各モード振動(ヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動)を効果的に抑えこむことができない。その結果、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化を招く。
【0008】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、モード制御方式により車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置において、いくつかのダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたときであっても、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化をできるだけ抑えることができる減衰力制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の減衰力制御装置は、車両のバネ上部材の各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置であり、バネ上部材の振動を抑制するように、バネ上部材のヒーブ方向に作用するヒーブ減衰力の制御目標値であるヒーブ要求減衰力Freq_Hと、バネ上部材のロール方向に作用するロール減衰力の制御目標値であるロール要求減衰力Freq_Rと、バネ上部材のピッチ方向に作用するピッチ減衰力の制御目標値であるピッチ要求減衰力Freq_Pをそれぞれ計算するモード要求減衰力計算手段と、4個の各ダンパのうち1個乃至3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が発生している場合に、前記異常が発生している異常ダンパの減衰力を推定する異常輪減衰力推定手段と、前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hと4個の各ダンパが発生する各輪減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すヒーブ−各輪要求減衰力関係式、前記ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すロール−各輪要求減衰力関係式、前記ピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に、前記異常輪減衰力推定手段により推定された前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式のうち少なくとも1個の関係式から、前記異常が発生していない正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する正常輪要求減衰力計算手段とを備える。そして、減衰力制御装置は、前記正常輪要求減衰力計算手段により計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動を制御する。
【0010】
上記発明によれば、車両に取り付けられる4個のダンパのうち1個〜3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が生じている場合、すなわち1〜3個のダンパが異常ダンパである場合に、その異常ダンパが発生している減衰力が推定される。推定された減衰力は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表されている異常ダンパについての各輪要求減衰力に必要に応じて当てはめられる。この当てはめにより各関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力が制御変数(未知数)から除外される。そして、各関係式の一部または全部に基づいて、制御変数である正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。
【0011】
このように本発明においては、異常ダンパが存在する場合はその異常ダンパについての各輪要求減衰力が上記3個の関係式の制御変数から除外される。これにより各関係式は、各モード要求減衰力(ヒーブ要求減衰力,ロール要求減衰力、ピッチ要求減衰力)と正常ダンパについての各輪要求減衰力との関係を表す式となる。これらの関係式に基づいて正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、バネ上部材のモード振動が効果的に抑えられる。すなわち本発明によれば、異常ダンパが存在する場合には、異常ダンパを制御対象から除外し、正常ダンパのみの減衰力特性制御により各モード振動が抑制される。このように減衰力特性の制御を行うことにより、異常ダンパの存在が他の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を及ぼすことはない。したがって、ダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたときであっても、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化をできるだけ抑えることができる。
【0012】
また、異常ダンパの減衰力は異常輪減衰力推定手段により推定される。推定された減衰力が各関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。これにより、正常ダンパについての各輪要求減衰力は異常ダンパが実際に発生すると推定される減衰力を踏まえて計算される。こうして計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより減衰力の制御性能が向上し、乗り心地がより向上する。
【0013】
前記モード要求減衰力計算手段は、バネ上部材の振動が抑制されるように、具体的に言えばバネ上部材の各モード方向の振動が抑制されるように、例えば所定の制御理論にしたがって各モード要求減衰力が計算される。所定の制御理論としては、非線形H∞制御理論が適用され得る。具体的には車両の4輪モデルに基づいて設計される制御システム(一般化プラント)に非線形H∞制御理論を適用し、H∞制御問題を満たすように制御入力が決定される。決定された制御入力に基づいて各モード要求減衰力が求められる。
【0014】
また、前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動が不能である作動不能異常である場合に、前記可変制御手段の作動が不能であることによって固定された前記異常ダンパの減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定するものであるのがよい。異常の内容が作動不能異常である場合、例えば可変制御手段としてのアクチュエータが何らかの原因により固着したような場合は、異常ダンパの減衰力特性は、異常が発生した時点における減衰力特性に固定される。したがって、固定された減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を正確に推定することができる。なお、固定された減衰力特性は、例えばアクチュエータに備え付けてあるエンコーダなどのセンサの検出値に基づいて推定することができる。
【0015】
ちなみにダンパの減衰力特性は、通常はサスペンションストローク速度に対する減衰力の変化特性により表される。この減衰力特性は可変制御手段により変更可能とされており、変更可能な減衰力特性がF−V特性図(F−Vマップ)によって表される。よって、作動不能異常時にF−V特性図から特定することができる異常ダンパの減衰力特性と現在のサスペンションストローク速度とから異常ダンパが発生している減衰力を正確に推定することができる。また、ダンパの減衰力特性は段階的に設定され、その特性が段数表示されることが多い。よって、作動不能異常発生時における異常ダンパの減衰力特性を表す段と現在のサスペンションストローク速度とから異常ダンパが発生している減衰力を正確に推定することができる。
【0016】
また、前記可変制御手段は、制御対象のダンパの減衰力特性の制御停止時に、そのダンパの減衰力特性が予め決められた減衰力特性である特定減衰力特性になるように構成されているのがよい。そして、前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が、前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段が作動可能であるが正常に作動しない作動不良異常である場合に、前記異常ダンパの減衰力特性の制御を停止するとともに、前記特定減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定するものであるのがよい。これによれば、異常の内容が作動不良異常である場合は、異常ダンパの減衰力特性の制御が停止される。制御停止により異常ダンパの減衰力特性が特定減衰力特性になる。したがって、特定減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を正確に推定することができる。この場合において、上記特定減衰力特性は、例えばダンパが最も大きい減衰力を発生するような減衰力特性であるのがよい。また、ダンパが最も小さい減衰力を発生するような減衰力特性であってもよい。
【0017】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが1個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された1個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式から3個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する3輪要求減衰力計算手段を備えるのがよい。これによれば、異常ダンパが1個であるときは、上記3個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に異常輪減衰力推定手段にて推定された異常ダンパの推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、各関係式中の制御変数が3個になる。このため、各輪要求減衰力に関する何らかの拘束条件式を用いることなく3個の関係式から3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。そして、拘束条件による制限を受けることなく計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0018】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが2個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された2個の関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する2輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、異常ダンパが2個であるときは、上記3個の関係式から選択された2個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、選択された2個の関係式中の制御変数が2個になる。このため2個の関係式から2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。こうして求められた正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0019】
この場合において、前記2輪要求減衰力計算手段は、ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第1要求減衰力計算手段と、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第2要求減衰力計算手段と、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第3要求減衰力計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をヒーブ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるヒーブ要求減衰力であるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|であるヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算するヒーブ要求減衰力差計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をロール−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるロール要求減衰力であるロール要求減衰力推定値Freq_R*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|であるロール要求減衰力差|ΔR|を計算するロール要求減衰力差計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をピッチ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるピッチ要求減衰力であるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|であるピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算するピッチ要求減衰力差計算手段と、を備えるものであるのがよい。そして、減衰力制御装置は、前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|、前記ロール要求減衰力差|ΔR|および前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|のうち前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合には前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御するものであるのがよい。
【0020】
上記発明によれば、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|,ピッチ要求減衰力差|ΔP|の大きさが比較される。そして、これらの要求減衰力差の中で大きさが最も小さい要求減衰力差に係る振動モード(ヒーブ、ロール、ピッチ)についての関係式以外の2個の関係式を用いて計算される各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には、ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御され、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式を用いて計算される各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御され、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合にはヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0021】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*とヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値を表す。ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*は、ロール−各輪要求減衰力関係式とピッチ−各輪要求減衰力関係式とを用いて正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算により得られた2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力および2個の異常ダンパの推定減衰力をヒーブ−要求減衰力関係式に当てはめることにより算出される。この推定値とモード要求減衰力計算手段により求められた実際に必要なヒーブ要求減衰力との差が小さいということは、3個の関係式のうちヒーブ−各輪要求減衰力を除いた2個の関係式を用いて各輪要求減衰力を計算した場合に、計算により得られた各輪要求減衰力により発生されるヒーブ減衰力(ヒーブ要求減衰力推定値)と実際に必要なヒーブ要求減衰力との乖離が少ないことを示す。よってこの場合には、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ヒーブ振動も効果的に抑制される。同様に、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合に、ロール−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ロール振動も効果的に抑制される。同様に、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合に、ピッチ−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ピッチ振動も効果的に抑制される。
【0022】
また、前記2輪要求減衰力計算手段は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式について予め設定された優先順位の高い2個の関係式に表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算するものであってもよい。この場合、前記優先順位は車両の乗り心地に影響する大きさを考慮して設定されるものであるとよい。また、前記優先順位の最も高い関係式はロール−各輪要求減衰力関係式であり、前記その次に優先順位の高い関係式はヒーブ−各輪要求減衰力関係式であると良い。これによれば、車両の乗り心地への影響が大きい関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、乗り心地の悪化がより一層抑えられる。
【0023】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが3個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された1個の関係式に表される3個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定した3個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記1個の関係式から1個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する1輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、異常ダンパが3個であるときは、上記3個の関係式から選択された1個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、選択された1個の関係式中の制御変数が1個になる。このため1個の関係式から1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。こうして求められた正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0024】
この場合、3個の関係式の中から1個の関係式を選択するにあたり、上述のように乗り心地への影響度等を考慮して3個の関係式の優先順位を予め設定し、最も優先順位の高い関係式を選択するようにしてもよい。あるいは、後述する実施形態にて述べるように、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|,ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|,ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|のそれぞれの大きさの比較結果に基づいて、3個の関係式の中から1個の関係式を選択してもよい。
【0025】
また、本発明の減衰力制御装置は、前記異常ダンパが0個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式と、ロール−各輪要求減衰力関係式と、ピッチ−各輪要求減衰力関係式と、4個の各輪要求減衰力の関係を制限する拘束条件として予め定められた各輪拘束条件とに基づいて、4個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する4輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、全てのダンパが正常である場合に、3個の関係式と、各輪要求減衰力についての拘束条件とを用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて、4個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置の全体概略図である。
【図2】本実施形態に係るサスペンション装置を模式的に示した図である。
【図3】本実施形態に係る電気制御装置の概略図である。
【図4】本実施形態に係るサスペンションECUを機能毎に分けて表した図である。
【図5】本実施形態に係るモード要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図6A】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6B】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6C】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6D】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6E】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6F】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図7】車両の4輪モデルを表す図である。
【図8】一般化プラントのブロック線図である。
【図9】F−V特性図である。
【図10】バルブの構造を示す概略斜視図である。
【図11】モード要求減衰力差の計算例を示す表である。
【図12A】他の例に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図12B】他の例に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置1の全体を表す概略図である。このサスペンション制御装置1は、4個のサスペンション装置10(右前輪側サスペンション装置10FR,左前輪側サスペンション装置10FL,右後輪側サスペンション装置10RR,左後輪側サスペンション装置10RL)と、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLの作動を制御する電気制御装置20を備える。
【0028】
右前輪側サスペンション装置10FRは、バネ上部材HAと右前輪WFRとの間に介装され、その一端側(上端側)にてバネ上部材HAの右前方側(右前輪位置)に連結され、他端側(下端側)にてバネ下部材LAを介して右前輪WFRに連結される。左前輪側サスペンション装置10FLは、バネ上部材HAと左前輪WFLとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの左前方側(左前輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して左前輪WFLに連結される。右後輪側サスペンション装置10RRは、バネ上部材HAと右後輪WRRとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの右後方側(右後輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して右後輪WRRに連結される。左後輪側サスペンション装置10RLは、バネ上部材HAと左後輪WRLとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの左後方側(左後輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して左後輪WRLに連結される。本明細書において、サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLを総称する場合には、これらを単にサスペンション装置10および車輪Wと記載する場合もある。
【0029】
サスペンション装置10はバネ11とダンパ(ショックアブソーバ)12とを備えている。バネ11およびダンパ12は、その一端(上端)にてバネ上部材HAに接続され、その他端にてバネ下部材LAに接続される。バネ11は、本実施形態においては金属製のコイルバネにより構成されるが、エアサスペンション装置などに用いられる空気バネを用いてもよい。バネ下部材LAは、タイヤを含む車輪Wに連結されたナックルや、一端がナックルに連結されたロアアームなどにより構成され、サスペンション装置10を支持する。バネ上部材HAはサスペンション装置10により支持される部材であり、車体を含む。
【0030】
ダンパ12は、シリンダ121と、ピストン122と、ピストンロッド123を備える。シリンダ121は、内部に粘性流体(例えば、オイルなど)が封入された筒状部材であり、その下端にてバネ下部材LA(詳しくは、ロアアーム)に連結される。ピストン122はシリンダ121内に配置される。このピストン122によりシリンダ121の内部が上室R1と下室R2とに区画される。ピストン122は、シリンダ121内を軸方向に移動可能である。ピストンロッド123は、その下端にてピストン122に連結され、その上端にてバネ上部材HAに連結される。また、ピストン122には、上室R1と下室R2とを連通する連通路が形成されている。
【0031】
このように構成されたダンパ12において、車輪Wが路面凹凸を乗り越えるなどによりバネ上部材HAが路面に対して相対変位した場合、バネ上部材HA側に連結されたピストン122が、バネ下部材LA側(路面側)に連結されたシリンダ121内を相対変位する。この相対変位に伴いピストン122に形成された連通路内を粘性流体が流通する。粘性流体が連通路内を流通するときに発生する抵抗によりバネ上部材HAの振動が減衰する。
【0032】
バネ11は、図に示されるように、その下端にてシリンダ121の外周に取付けられたリテーナに連結され、その上端にてバネ上部材HAに連結される。このバネ11は、路面に対するバネ上部材HAの相対変位に伴う弾性力を発生する。
【0033】
図2は、本実施形態に係るサスペンション装置10を模式的に示した図である。図2に示されるように、サスペンション装置10には本発明の可変制御手段に相当する可変絞り機構13が取付けられている。可変絞り機構13はバルブ131およびアクチュエータ132を有する。バルブ131は、ピストン122に形成された連通路124に設けられていて、回転することにより連通路124の少なくとも一部の流路断面積の大きさ、すなわちバルブ開度OPを変化させる。アクチュエータ132は例えばステッピングモータなどにより構成することができる。図1には、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLに取付けられたアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLが示されている。これらのアクチュエータは、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLのダンパ12の上部に配置され、バネ上部材HAに固定されている。また、アクチュエータ132は、例えばピストンロッド123の内部に配されるコントロールロッドなどによってバルブ131に連結される。したがって、アクチュエータ132が作動するとそれに伴いバルブ131が作動し、バルブ開度OPが変更される。バルブ開度OPの変更により、連通路124の流路断面積が変更される。その結果、連通路124内を粘性流体が流通するときに発生する抵抗力の大きさが変更される。これによりダンパ12の減衰力特性(減衰係数)が変更される。なお、ダンパ12の減衰力特性は、バルブ131の回転角の変化によって段階的に変更されるようになっている。
【0034】
図3は、電気制御装置20を構成する各要素の接続構成を概略的に示す図である。図3に示されるように、電気制御装置20は、サスペンション電子制御ユニット(以下、サスペンションECU)21と、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLと、路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RLと、ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RLと、ロール角加速度センサ224と、ピッチ角加速度センサ225と、回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLと、駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLと、を備える。電気制御装置20は、バネ上部材HAの各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置10のダンパ12の減衰力特性を制御する減衰力制御装置に相当する。
【0035】
バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLは、バネ上部材HAの各輪位置(右前輪位置,左前輪位置,右後輪位置,左後輪位置)に取付けられており、その位置におけるバネ上部材HAの上下方向に沿った加速度である右前輪側バネ上加速度xb_fr",左前輪側バネ上加速度xb_fl",右後輪側バネ上加速度xb_rr",左後輪側バネ上加速度xb_rl"をそれぞれ検出する。路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RLは、各車輪Wに連結したバネ下部材LAに取付けられており、各バネ下部材LAの上下方向に沿った加速度を計測することにより、各バネ下部材LAに連結する車輪Wの接地路面の上下方向に沿った加速度である右前輪側路面加速度xr_fr",左前輪側路面加速度xr_fl",右後輪側路面加速度xr_rr",左後輪側路面加速度xr_rl"をそれぞれ検出する。ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RLは、各サスペンション装置10に取付けられており、サスペンション装置10のダンパ12のストローク変位量、すなわちシリンダ121に対するピストン122の相対変位量を計測することにより、各輪位置における路面に対するバネ上部材HAの上下方向に沿った変位量である右前輪側バネ上−路面間相対変位量xs_fr(=xr_fr-xb_fr)、左前輪側バネ上−路面間相対変位量xs_fl(=xr_fl-xb_fl)、右後輪側バネ上−路面間相対変位量xs_rr(=xr_rr-xb_rr)、左後輪側バネ上−路面間相対変位量xs_rl(=xr_rl-xb_rl)をそれぞれ検出する。
【0036】
ロール角加速度センサ224はバネ上部材HAに取付けられており、バネ上部材HAのロール方向(前後軸周り方向)の角度変位を表すロール角θRの角加速度(ロール角加速度)θR"を検出する。ピッチ角加速度センサ225もバネ上部材HAに取付けられており、バネ上部材HAのピッチ方向(左右軸周り方向)の角度変位を表すピッチ角θPの角加速度(ピッチ角加速度)θP"を検出する。回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLは各アクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに取り付けられており、各アクチュエータの作動量(例えば回転角)を計測することにより、各アクチュエータに連結したバルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlを検出する。
【0037】
サスペンションECU21は、CPU,ROM,RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータである。サスペンションECU21の入力側には、上述した各種センサが接続されていて、これらのセンサからの検出信号が入力されるようになっている。サスペンションECU21は、各種センサからの検出信号に基づいて、後述するフローチャートに示される処理を実行することにより、アクチュエータ132の作動を制御するための駆動信号を出力する。これによりサスペンション装置10の各ダンパ12の減衰力特性が制御される。
【0038】
駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLは、サスペンションECU21の出力側に接続されている。駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLは、それぞれ各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLに対応するアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに接続されており、サスペンションECU21から出力された駆動信号に基づいて、アクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに駆動電流を出力する。
【0039】
図4は、サスペンションECU21の内部構成を機能ブロックごとに表した図である。図に示されるように、サスペンションECU21は、その内部にモード要求減衰力計算部211と各輪要求減衰力計算部212を有する。モード要求減衰力計算部211は、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを計算し、これらの要求減衰力を出力する。ヒーブ要求減衰力Freq_Hは、バネ上部材の重心位置の上下方向に作用する減衰力(ヒーブ減衰力)の制御目標値である。ロール要求減衰力Freq_Rは、バネ上部材の重心点にてロール方向に作用する減衰力(ロール減衰力)の制御目標値である。ピッチ要求減衰力Freq_Pは、バネ上部材の重心点にてピッチ方向に作用する減衰力(ピッチ減衰力)の制御目標値である。
【0040】
各輪要求減衰力計算部212は、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを入力するとともに、これらの要求減衰力に基づいて、右前輪側要求減衰力Freq_fr,左前輪側要求減衰力Freq_fl,右後輪側要求減衰力Freq_rrおよび左後輪側要求減衰力Freq_rlを計算し、計算した各要求減衰力を表す信号を各対応した駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLに出力する。右前輪側要求減衰力Freq_frは右前輪側サスペンション装置10FRのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。左前輪側要求減衰力Freq_flは左前輪側サスペンション装置10FLのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。右後輪側要求減衰力Freq_rrは右後輪側サスペンション装置10RRのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。左後輪側要求減衰力Freq_rlは左後輪側サスペンション装置10RLのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。
【0041】
上記構成のサスペンション制御装置1において、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLの検出値から得られる各輪位置におけるバネ上加速度のいずれか一つが所定の閾値を越えた場合、サスペンションECU21のモード要求減衰力計算部211はモード要求減衰力計算処理を、各輪要求減衰力計算部212は各輪要求減衰力計算処理を、それぞれ実行する。
【0042】
図5は、モード要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。モード要求減衰力計算部211はこの処理を図5のステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)100にて開始する。次いで、S102にて、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RL、路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RL、ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RL、ロール角加速度センサ224、ピッチ角加速度センサ225から検出値を入力する。次に、S104にて、入力した検出値を演算(例えば微分または積分)することにより、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下速度(バネ上速度)xb_fr',xb_fl',xb_rr',xb_rl'、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下変位量(バネ上変位量)xb_fr,xb_fl,xb_rr,xb_rl、各輪位置における路面の上下速度(路面上下速度)xr_fr',xr_fl',xr_rr',xr_rl'、各輪位置における路面の上下変位量(路面上下変位量)xr_fr,xr_fl,xr_rr,xr_rl、各輪位置における路面上下速度に対するバネ上速度(バネ上−路面間相対速度)xs_fr',xs_fl',xs_rr',xs_rl'、バネ上部材の重心位置の上下変位量(ヒーブ変位量)xH、ロール角θR、ピッチ角θP、ヒーブ速度xH'、ロール角速度θR'、ピッチ角速度θP'、ヒーブ加速度xH"など、計算に必要な量を計算する。
【0043】
次いで、S106にて、非線形H∞制御理論を適用することにより、ヒーブ要求減衰係数Creq_H,ロール要求減衰係数Creq_R,ピッチ要求減衰係数Creq_Pを計算する。この計算をする際に、図7に示される車両の4輪モデルが力学的な運動モデルとして用いられる。この4輪モデルから導き出されるバネ上部材HAの重心位置におけるヒーブ(上下)運動方程式、ロール運動方程式、ピッチ運動方程式は、それぞれ下記式(eq.1)〜式(eq.3)のように表される。
【数1】
【数2】
【数3】
上記式(eq.1)中のMbはバネ上部材HA(車体)の質量、xH"はバネ上部材HAの重心位置の上下加速度(ヒーブ加速度)である。また、上記式(eq.2)中のIRはロール慣性モーメント、θR"はロール角加速度、Tfは前輪側のトレッド、Trは後輪側のトレッドである。また、上記式(eq.3)中のIPはピッチ慣性モーメント、θP"はピッチ角加速度、Lはホイールベースである。計算を簡素化するため、Tf,Tr,Lは「2」に設定することができる。
【0044】
また、上記式(eq.1)〜(eq.3)中のffr,ffl,frr,frlは、サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLによりバネ上部材HAの各輪位置に上下方向に作用する上下力である。これらの上下力は、バネ11およびダンパ12が発生する力の合力であり、下記式(eq.4)により表される。
【数4】
上記式(eq.4)中のFfr,Ffl,Frr,Frlは各サスペンション装置10のダンパ12が発生する減衰力、Kfr,Kfl,Krr,Krlは各サスペンション装置10のバネ11のバネ定数である。
【0045】
また、バネ上部材HAの重心位置にて上下方向に作用する減衰力をヒーブ減衰力FH,ロール方向に作用する減衰力をロール減衰力FR,ピッチ方向に作用する減衰力をピッチ減衰力FPとすると、これらの減衰力(モード減衰力)と、各ダンパの減衰力(各輪減衰力)との力の釣り合いを表す関係は、下記式(eq.5)〜(eq.7)のように表される。
【数5】
【数6】
【数7】
【0046】
ヒーブ減衰力FHはヒーブ減衰係数CHとヒーブ変位速度xH'の積CH・xH'により、ロール減衰力FRはロール減衰係数CRとロール角速度θR'の積CR・θR'により、ピッチ減衰力FPはピッチ減衰係数CPとピッチ角速度θP'の積CP・θP'により、それぞれ表される。したがって、上記式(eq.1)〜(eq.3)は、下記式(eq.8)〜(eq.10)のように表すことができる。
【数8】
【数9】
【数10】
【0047】
また、各輪位置におけるバネ上変位量xb_fr,xb_fl,xb_rr,xb_rlと、ヒーブ変位量xH、ロール角θR、ピッチ角θPとの関係は、モード変換行列を用いて下記式(eq.11)のように表すことができる。
【数11】
【0048】
上記した運動方程式および関係式によって、4輪モデルの状態空間表現が、下記式(eq.12)のように表される。
【数12】
【0049】
上記式(eq.12)において、状態量xp,外乱w,制御入力u,評価出力zpは、例えば下記式(eq.13)のように与えられる。
【数13】
また、上記式(eq.12)中のAp,Bp1,Bp12(xp),Cp1,Dp12(xp)は係数行列であり、上記式(eq.12)が成り立つように定められる。
【0050】
式(eq.12)に基づいて、図8に示される一般化プラントが設計される。この一般化プラントに表される評価出力zpには周波数重みWs(s)が、制御入力uには周波数重みWu(s)が、それぞれ作用している。一般化プラントの状態空間表現は、上記式(eq.12)に示される4輪モデルの状態空間表現,下記式(eq.14)に示される周波数重みWs(s)の状態空間表現および下記式(eq.15)に示される周波数重みWu(s)の状態空間表現を用いて、下記式(eq.16)のように表される。
【数14】
【数15】
【数16】
【0051】
式(eq.16)は双線形システムである。したがって、下記式(eq.17)に示されるリカッチ不等式を満たす正定対称行列Pが存在するならば、一般化プラントを内部安定にし、且つL2ゲインを正定数γ以下にするための制御則u=k(x)を得ることができる。
【数17】
【0052】
このとき、制御則u=k(x)は、例えば下記式(eq.18)のように与えられる。
【数18】
このようにして、非線形H∞制御理論を適用して算出された制御則から制御入力uが求められる。そして、制御入力uから、ヒーブ減衰係数CHの制御目標値であるヒーブ要求減衰係数Creq_H、ロール減衰係数CRの制御目標値であるロール要求減衰係数Creq_R、ピッチ減衰係数CPの制御目標値であるピッチ要求減衰係数Creq_Pが得られる。
【0053】
モード要求減衰力計算部211は、S106にて上記のようにしてヒーブ要求減衰係数Creq_H,ロール要求減衰係数Creq_Rおよびピッチ要求減衰係数Creq_Pを求めた後は、S108に進み、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_R,ピッチ要求減衰力Freq_Pを計算する。ヒーブ要求減衰力Freq_Hはバネ上部材HAのヒーブ方向の振動を抑制するように設定されるヒーブ減衰力FHの制御目標値であり、ヒーブ要求減衰係数Creq_Hにヒーブ速度xH'を乗じることにより計算される。ロール要求減衰力Freq_Rはバネ上部材HAのロール方向の振動を抑制するように設定されるロール減衰力FRの制御目標値であり、ロール要求減衰係数Creq_Rにロール角速度θR'を乗じることにより計算される。ピッチ要求減衰力Freq_Pはバネ上部材HAのピッチ方向の振動を抑制するように設定されるピッチ減衰力FPの制御目標値であり、ピッチ要求減衰係数Creq_Pにピッチ角速度θP'を乗じることにより計算される。バネ上部材HAにこれらの要求減衰力が作用することにより、バネ上部材HAの各モード方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)の振動が抑制される。次いで、モード要求減衰力計算部211はS110に進み、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_R,ピッチ要求減衰力Freq_Pを出力する。その後、S112に進んでこの処理を終了する。図5に示されるモード要求減衰力計算処理が、本発明のモード要求減衰力計算手段に相当する。
【0054】
図6A〜図6Fは、各輪要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。各輪要求減衰力計算部212はこの処理を図6AのS200にて開始する。次いで、S202にて、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを入力する。続いて、S204にて、各回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLから各バルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlを入力する。
【0055】
次に、S206にて、バネ上部材HAの各輪位置に取り付けられている4個のサスペンション装置のダンパ12の減衰力特性の制御が全て正常に実行されているか否かを判定する。この判定は、例えば、サスペンションECU21が駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLを介して各アクチュエータ132に出力する信号と、S204にて入力したバルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlとを比較することにより行うことができる。この判定結果がYesである場合、すなわち全てのダンパ12が正常に作動している場合はS208に進む。
【0056】
S208にて、各輪要求減衰力計算部212は、下記式(eq.19)に示すH式,式(eq.20)に示すR式,式(eq.21)に示すP式および、予め設定された拘束条件Sを用いて、4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを計算する。
【数19】
【数20】
【数21】
【0057】
上記式(eq.19)〜式(eq.21)中の各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlは、バネ上部材HAの各輪位置に取り付けられたサスペンション装置10のダンパ12が発生する減衰力の制御目標値であり、Freq_frは右前輪側要求減衰力、Freq_flは左前輪側要求減衰力、Freq_rrは右後輪側要求減衰力、Freq_rlは左後輪側要求減衰力である。また、式(eq.19)に示されるH式(ヒーブ−各輪要求減衰力関係式)はヒーブ要求減衰力Freq_Hと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.5)にヒーブ要求減衰力Freq_Hおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。式(eq.20)に示されるR式(ロール−各輪要求減衰力関係式)は、ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.6)にロール要求減衰力Freq_Rおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。式(eq.21)に示されるP式(ピッチ−各輪要求減衰力関係式)はピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.7)にピッチ要求減衰力Freq_Pおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。上記式(eq.19)〜式(eq.21)からわかるように、ヒーブ要求減衰力Freq_Hは各輪要求減衰力の総和Freq_fr+Freq_fl+Freq_rr+Freq_rlにより表される。ロール要求減衰力Freq_Rは左輪側の要求減衰力の和Freq_fl+Freq_rlと右輪側の要求減衰力の和Freq_fr+Freq_rrとの差により表される。ピッチ要求減衰力Freq_Pは後方輪側の要求減衰力の和Freq_rr+Freq_rlと前方輪側の要求減衰力の和Freq_fr+Freq_flとの差により表される。
【0058】
また、拘束条件Sは、各輪要求減衰力同士の関係を制限する条件として予め設計者により定められる。例えばバネ上部材HAのねじれが生じないという条件が拘束条件Sとして予め定められる。あるいは、4個のダンパ12に対応して設けられているアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLの作動量の総和が最も小さくなるという条件が拘束条件Sとして予め定められる。以下の説明においては、4個のダンパに対応して設けられているアクチュエータの作動量の総和が最も小さくなるという拘束条件Sを用いて各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを求める例を示す。
【0059】
まず、上記式(eq.20)と式(eq.21)を加算することにより下記式(eq.22)が、式(eq.19)と式(eq.20)を加算することにより下記式(eq.23)が、式(eq.19)と式(eq.21)を加算することにより下記式(eq.24)が、それぞれ導出される。
【数22】
【数23】
【数24】
【0060】
式(eq.22)〜式(eq.24)および、下記式(eq.25)に表されるパラメータaにより、各輪要求減衰係数は、下記式(eq.26)〜式(eq.29)のように表される。
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【0061】
上記式(eq.26)〜式(eq.29)からわかるように、パラメータaを適宜決定することによって、各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを同時に決定することができる。パラメータaは設計者によって適宜決定することができる。他の実施の形態においては、例えば予めパラメータaを0や1等の固定値に設定しておき、設定されたパラメータaを上記式(eq.26)〜式(eq.29)に代入することにより各輪要求減衰力を決定してもよい。本実施形態にて説明する例においては、パラメータaを逐次変動していった場合における各輪要求減衰力を計算し、得られた各輪要求減衰力と現在の各輪減衰力との差の総和が最も小さくなるときに設定されているパラメータaの値を用いて各輪要求減衰力を計算する。上記総和はアクチュエータの作動量の総和を示す。したがって、上記総和が最も小さくなるときに設定されるパラメータaの値を用いて各輪要求減衰力を算出することにより、式(eq.19)〜式(eq.21)を満たし、且つ各アクチュエータの作動量の総和が最も小さくなるように各輪要求減衰力が決定される。
【0062】
各輪要求減衰力計算部212は、S208にて上記例示した手法等を用いて4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを計算した後は、S210に進み、各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlに対応する信号を各駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLに出力する。その後S212に進み、この処理を終了する。各駆動回路は入力された信号に基づいて、各対応するアクチュエータ132に駆動電流を出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各バルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、各ダンパ12の減衰力がそれぞれ各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとなるように、各ダンパ12の減衰力特性が制御される。全てのダンパが正常ダンパであるとき、つまり異常ダンパが0個であるときにS208にて3個の関係式(H式,R式,P式)および1個の拘束条件Sに基づいて4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する処理が、本発明の4輪要求減衰力計算手段に相当する。
【0063】
全てのダンパが正常である場合は上記のように4個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、S206の判定結果がNoである場合、すなわち4個のダンパのうちの1個以上のダンパの減衰力特性の制御に異常が生じている場合は、各輪要求減衰力計算部212はS214に進み、異常が生じている異常ダンパの減衰力特性を制御するためのアクチュエータの制御を停止する。これにより異常ダンパの減衰力特性の制御が停止される。次いで、S216にて、異常ダンパは1個であるか否かを判定する。異常ダンパが1個である場合(S214:Yes)はS218に進み、異常の内容が作動不能異常であるか否かを判定する。作動不能異常とは、アクチュエータ132やバルブ131が何らかの原因によって固着するなどにより、可変絞り機構13の作動が不能となる異常である。異常内容がアクチュエータ固着などによる作動不能異常である場合(S218:Yes)は、各輪要求減衰力計算部212はS220に進む。そして、S220にて、F−V特性図を参照し、固定段における減衰力特性から異常ダンパの推定減衰力FNGを計算する。
【0064】
図9はダンパ12の減衰力特性を表すF−V特性図である。この特性図の横軸はバネ上−路面間相対速度V(すなわちサスペンションストローク速度)であり、縦軸は減衰力Fである。図からわかるようにダンパ12の減衰力特性は、バネ上−路面間相対速度に対する減衰力の変化特性である。本実施形態において減衰力特性はバルブ131の回転作動により段階的に設定され、設定段により減衰力特性が表される。図に示される例によれば、設定可能な段数がD1〜D9段であり、設定段が大きくなるほど発生される減衰力が大きくなる。
【0065】
ダンパ12が正常であるときは、バルブ131の回転角の変更により設定段を適宜変更することによってダンパ12の減衰力特性が変更制御されるが、作動不能異常が発生しているときは、設定段がある段に固定されるためにそのダンパの減衰力特性を制御することができない。つまり、作動不能異常が生じている異常ダンパの減衰力特性は固定され、固定された段(固定段)により表される減衰力特性にしたがって減衰力が発生される。このことは、固定された減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGを推定することができることを意味する。例えば固定段が図9に示されるD6段であり、現在のバネ上−路面間相対速度がV1であれば、D6段により表される減衰力特性と相対速度V1とから求められる減衰力F1が異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGであると推定される。
【0066】
したがって、各輪要求減衰力計算部212は、S220にて、異常ダンパに対応する回転角センサから入力したバルブ131の回転角から得られる減衰力特性の固定段と、その異常ダンパが取り付けられている各輪位置におけるバネ上−路面間相対速度とに基づき、図9に示されるF−V特性図を参照して異常ダンパの推定減衰力FNGを計算する。このS220にて固定された異常ダンパの減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を推定する処理が、本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。
【0067】
また、S218の判定結果がNoである場合、つまりダンパの異常内容が作動不能異常ではない場合は、各輪要求減衰力計算部212はS219に進み、異常内容が作動不良異常であるか否かを判定する。作動不良異常は、可変絞り機構13が作動可能ではあるが指令通りに作動しない(正常に作動しない)という異常である。この判定結果がNoである場合は、異常内容が判別できないので、S212に進んでこの処理を終了する。一方、この判定結果がYesである場合、すなわち異常内容が作動不良異常である場合は、S222に進み、フルハード段(最高段)における減衰力特性から、異常ダンパの減衰力FNGを推定する。
【0068】
本例においては、ダンパ12の減衰力特性の制御が停止された場合、バルブ131が流体力によって自然に回転し、そのダンパ12の減衰力特性を表す設定段が、最も大きい減衰力を発生するフルハード段(最高段)になる。図10は、本実施形態におけるバルブ131の構造の一例を示す図である。図に示すように、バルブ131には、流体が流通する流体ポートPが形成されている。流体ポートPは円筒状のバルブ131の周方向に延びており、一端側の開口面積が他端側の開口面積よりも小さい。このため流体ポートPを介して出入りする流体によって、ポートPの他端側の圧力が一端側の圧力よりも大きくなる。このような圧力差によってバルブ131が自ら図の矢印方向に回転する。矢印方向に回転した場合、バルブ開度が小さくなりダンパの設定段がフルハード段に向かう。したがって、制御停止後に流体力によってバルブ131が図示矢印方向に回転することによりダンパ12の減衰力特性の設定段は次第に高い段に移行し、やがてフルハード段に落ち着く。なお、このようなポートの形状の工夫に変えて、電気的な力あるいは機械的な力により強制的にバルブ131を回転させて、ダンパ12の減衰力特性を表す設定段をフルハード段にしてもよい。
【0069】
したがって、各輪要求減衰力計算部212は、S222にて、図9のF−V特性図を参照し、フルハード段(D9段)における減衰力特性およびそのときのバネ上−路面間相対速度(例えばV2)とから求められる減衰力(例えばF2)を異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGと推定する。本実施形態においてはフルハード段(D9段)における減衰力特性が本発明の特定減衰力特性に相当する。また、S222にて、フルハード段における減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を推定する処理が、本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。
【0070】
S220またはS222にて異常ダンパの推定減衰力FNGを計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS224に進み、H式、R式、P式中の各輪要求減衰力のうち、異常ダンパに対応する各輪要求減衰力に推定減衰力FNGを代入する。その後、S226に進み、異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNGが当てはめられたH式,R式,P式を用いて他の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。この場合において、制御変数(未知数)である正常輪についての各輪要求減衰力は3個であるので、拘束条件Sを用いることなく3個の関係式(H式,R式,P式)から残りの3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算することができる。このS226における処理が、本発明の正常輪要求減衰力計算手段および3輪要求減衰力計算手段に相当する。
【0071】
S226にて3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS228に進み、計算した3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力に対応する駆動信号を、正常ダンパに対応する各駆動回路に出力する。正常ダンパに対応する各駆動回路は入力された信号に基づいて、駆動電流を各対応するアクチュエータ132に出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各対応するバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、正常ダンパの減衰力がS226にて求められた各輪要求減衰力となるように、各正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0072】
上記のように、本実施形態によれば、4個のダンパのうちの1個のダンパが異常ダンパであるときは、その異常ダンパの減衰力FNGが推定され、推定減衰力FNGがH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNGが当てはめられた3個の関係式から3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、さらに計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。つまり、異常ダンパを除外して正常ダンパのみの減衰力特性を制御することにより、バネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が抑えられる。よって、1個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が他の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。その結果、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0073】
異常ダンパが1個である場合は上記のようにして3個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、S216の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパが2個以上である場合は、各輪要求減衰力計算部212はS230に進む。S230にて各輪要求減衰力計算部212は異常ダンパが2個であるか否かを判定する。異常ダンパが2個である場合(S230:Yes)はS232に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1およびFNG2を計算する。推定減衰力FNG1,FNG2の計算方法は、異常ダンパが1個であるときに計算された推定減衰力FNGの計算方法と同一である。S232の処理が本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。次いで、S234にて、H式、R式、P式中の各輪要求減衰力のうち、2個の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1およびFNG2を代入する。
【0074】
続いて各輪要求減衰力計算部212はS236に進み、R式とP式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は、第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2として記憶される。S236の処理が本発明の第1要求減衰力計算手段に相当する。次いで、S238に進み、H式とP式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2として記憶される。S238の処理が本発明の第2要求減衰力計算手段に相当する。次に、S240に進み、H式とR式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2として記憶される。S240の処理が本発明の第3要求減衰力計算手段に相当する。このようにして、2個の正常ダンパについて3通りの組み合わせの各輪要求減衰力が計算される。
【0075】
2個の正常ダンパの各輪要求減衰力の計算例を以下に示す。この計算例において、2個の異常ダンパは、右前輪側サスペンション装置10FRのダンパおよび左後輪側サスペンション装置10RLのダンパである。右前輪側サスペンション装置10FRのダンパの推定減衰力はFNG1,左後輪側サスペンション装置10RLのダンパの推定減衰力はFNG2である。また、求めるべき正常ダンパについての各輪要求減衰力は、左前輪側要求減衰力Freq_flおよび右後輪側要求減衰力Freq_rrである。また、正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算するときに用いる式は、R式およびH式である。この場合、R式およびH式に異常ダンパの推定減衰力を代入すると、R式およびH式が下記式(eq.30)のように表される。
【数30】
【0076】
R式−H式より下記式(eq.31)が、R式+H式より下記式(eq.32)が、それぞれ得られる。
【数31】
【数32】
【0077】
式(eq.31)を変形することにより右後輪側要求減衰力Freq_rrが式(eq.33)のように、式(eq.32)を変形することにより左前輪側要求減衰力Freq_flが式(eq.34)のように、それぞれ算出される。
【数33】
【数34】
【0078】
なお、S236〜S240の計算処理において、H,R,P式の中から選択される2個の関係式と、求める2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力の組み合わせによっては、計算結果を得ることができない場合が存在する。そのような場合には、正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めずに次のステップに進む。
【0079】
3通りの組み合わせの各輪要求減衰力を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS242にてヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*を計算する。さらにS244にてロール要求減衰力推定値Freq_R*を、S246にてピッチ要求減衰力推定値Freq_P*を計算する。ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*は、S236にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をH式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるヒーブ要求減衰力である。ロール要求減衰力推定値Freq_R*は、S238にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をR式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるロール要求減衰力である。ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*は、S240にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をP式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるピッチ要求減衰力である。
【0080】
各推定値の計算例を示す。推定減衰力FNG1が左前輪側要求減衰力Freq_flに、推定減衰力FNG2が右後輪側要求減衰力Freq_rrにそれぞれ対応し、第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1が右前輪側要求減衰力Freq_frにそれぞれ対応し、第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2が左後輪側要求減衰力Freq_rlにそれぞれ対応している場合、各推定値はそれぞれ下記式(eq.35)〜式(eq.37)により計算される。
【数35】
【数36】
【数37】
【0081】
なお、S242〜S246の計算をする場合において、各推定値を計算するときに用いられる正常ダンパについての各輪要求減衰力が求められていないときは、各推定値を計算により求めることができない。この場合には、その推定値が非常に大きな値に設定される。
【0082】
その後、各輪要求減衰力計算部212は、S248にてヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算する。ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|である。S248の処理が本発明のヒーブ要求減衰力差計算手段に相当する。
【0083】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS250に進み、ロール要求減衰力差|ΔR|を計算する。ロール要求減衰力差|ΔR|は、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|である。S250の処理が本発明のロール要求減衰力差計算手段に相当する。
【0084】
ロール要求減衰力差|ΔR|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS252に進み、ピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算する。ピッチ要求減衰力差|ΔP|は、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|である。S252の処理が本発明のピッチ要求減衰力差計算手段に相当する。
【0085】
なお、要求減衰力差を計算するときに用いられる要求減衰力推定値がS242〜S246にて計算により求めることができずに非常に大きな値に設定されている場合は、要求減衰力差も非常に大きな値になる。つまり、計算により求められた要求減衰力推定値を用いて計算された要求減衰力差は、設定された要求減衰力推定値を用いて計算された要求減衰力差よりも小さい。
【0086】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|,ピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS254に進み、3個の要求減衰力差の中でヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS258に進み、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS236にてR式およびP式を用いて算出した第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_RPV1およびFreq_RPV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。正常ダンパに対応する各駆動回路は入力された信号に基づいて、駆動電流を各対応するアクチュエータ132に出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各対応するバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、各正常ダンパの減衰力が第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性がそれぞれ制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0087】
また、S254の判定結果がNoである場合はS256に進む。S256にて各輪要求減衰力計算部212は、3個の要求減衰力差の中でロール要求減衰力差|ΔR|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS260に進み、ロール要求減衰力推定値Freq_R*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS238にてH式およびP式を用いて算出した第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_HPV1およびFreq_HPV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより2個の正常ダンパの減衰力が第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2となるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0088】
また、S256の判定結果がNoである場合、つまり3個の要求減衰力差の中でピッチ要求減衰力差が最小である場合はS262に進む。そして、S262にて、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS240にてH式およびR式を用いて算出した第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_HRV1およびFreq_HRV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより2個の正常ダンパの減衰力が第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2となるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0089】
上記のように本実施形態によれば、4個のダンパのうちの2個のダンパが異常ダンパであるときは、異常の内容に応じてこれら2個の異常ダンパの減衰力が推定され、推定減衰力FNG1,FNG2がH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNG1,FNG2が当てはめられた3個の関係式の中から選択された2個の関係式から2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このように異常ダンパを除外して正常ダンパのみの減衰力特性を制御することによりバネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が抑えられる。よって、2個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が他の2個の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。したがって、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0090】
また、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|およびピッチ要求減衰力差|ΔP|の大小比較に基づいて、推定減衰力FNG1,FNG2が当てはめられたH式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる2個の関係式が決定され、決定された2個の関係式から求められた各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。具体的には、3個の要求減衰力差|ΔH|,|ΔR|,|ΔP|の中で、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合にはR式およびP式を用いて計算された第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合にはH式およびP式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合にはH式およびR式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。そして、正規の各輪要求減衰力とみなされた要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0091】
図11は、各モード(ヒーブ,ロール,ピッチ)の要求減衰力差の計算例を示した表である。この例によれば、非線形H∞制御理論を適用することにより計算されたヒーブ要求減衰力Freq_Hが3、ロール要求減衰力Freq_Rが10、ピッチ要求減衰力Freq_Pが8である。また、R式およびP式を用いて計算された第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2をH式に代入することにより算出されるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*が2、H式およびP式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2をR式に代入することにより算出されるロール要求減衰力推定値Freq_R*が13、H式およびR式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2をP式に代入することにより算出されるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*が6である。したがって、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は1、ロール要求減衰力差|ΔR|は3、ピッチ要求減衰力差|ΔP|は2である。ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さいため、第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。
【0092】
3方向のモード(ヒーブ,ロール,ピッチ)のうちのあるモード(例えばヒーブ)の要求減衰力推定値は、そのモード以外の2方向のモード(例えばロールおよびピッチ)の要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(例えばR式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力によりバネ上部材HAの振動を減衰制御した場合に発生すると予測されるそのモードの要求減衰力である。また、あるモードの要求減衰力差(例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|)は、そのモードの要求減衰力推定値(例えばヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*)と、そのモードの振動を抑えこむために実際に必要な要求減衰力(例えばヒーブ要求減衰力Freq_H)との差の大きさを表す。この差が大きいということは、そのモードに関する要求減衰力推定値と実際に必要な要求減衰力との乖離が大きいことを示す。したがって、あるモードの要求減衰力差(例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|)が大きい場合において、そのモード以外のモードに関する2個の関係式(例えばR式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力(例えば第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2)に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、そのモードの振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、そのモードの振動(例えばヒーブ振動)を十分に抑えこむことができない。
【0093】
また、あるモードの要求減衰力差が小さいということは、そのモードに関する要求減衰力推定値と実際に必要な要求減衰力との乖離が小さいことを示す。したがって、あるモードの要求減衰力差(例えばロール要求減衰力差|ΔR|)が最も小さい場合において、そのモード以外のモードに関する2個の関係式(例えばH式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力(例えば第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2)に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、そのモードの振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いので、そのモードの振動(例えばロール振動)を効果的に抑えこむことができる。
【0094】
このようなことから、本実施形態のように、要求減衰力差が最も小さいモード以外のモードに関する2個の関係式を用いて算出された各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、各モードの振動を効果的に抑えこむことができ、車両の乗り心地をより向上させることができるのである。
【0095】
異常ダンパが2個である場合は上記のようにして減衰力が制御される。これに対し、S230の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパが3個以上である場合は、各輪要求減衰力計算部212はS264に進み、異常ダンパが3個であるか否かを判定する。この判定結果がNoである場合、すなわち全てのダンパが異常である場合は、減衰力を制御することができない。したがって、この場合はS212に進んでこの処理を終了する。
【0096】
一方、S264の判定結果がYesである場合、すなわち異常ダンパの個数が3個である場合はS266に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を計算する。推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3の計算方法は上記に述べた通りである。S266の処理が本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。次いで、S268に進み、H,R,P式中の各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlのうち、異常ダンパに対応する要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を代入する。
【0097】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S270にて、H式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとして記憶される。次いで、S272にて、R式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はロール各輪要求減衰力Freq_RVとして記憶される。次に、S274にて、P式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとして記憶される。このようにして、1個の正常ダンパについて3通りの各輪要求減衰力が計算される。
【0098】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S276にて、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|を計算する。ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|は以下のように計算される。まず、S270にてH式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3をR式の各対応する各輪要求減衰力に代入することによりロール要求減衰力を計算する。計算された要求減衰力はヒーブ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:H*として記憶される。次に、ヒーブ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R:H*-Freq_R|を計算する。こうして計算された差の絶対値がヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|である。
【0099】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S278にて、ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|を計算する。ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|は、S270にてH式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをP式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたヒーブ固定ピッチ要求減衰力推定値Freq_P:H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P:H*-Freq_P|である。
【0100】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S280にて、ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|を計算する。ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|は、S272にてR式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをH式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたロール固定ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H:R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H:R*-Freq_H|である。
【0101】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S282にて、ロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|を計算する。ロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|は、S272にてR式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをP式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたロール固定ピッチ要求減衰力推定値Freq_P:R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P:R*-Freq_P|である。
【0102】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S284にて、ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|を計算する。ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|は、S274にてP式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをH式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたピッチ固定ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H:P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H:P*-Freq_P|である。
【0103】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S286にて、ピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|を計算する。ピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|は、S274にてP式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをR式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたピッチ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R:P*-Freq_R|である。
【0104】
次に、各輪要求減衰力計算部212は、S288にて、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|とヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|とを加算することによりロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|を計算する。続いて、S290にて、ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|とロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|とを加算することによりヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|を計算する。次いで、S292にて、ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|とピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|とを加算することによりヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|を計算する。
【0105】
その後、各輪要求減衰力計算部212はS294に進み、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS297に進み、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。駆動回路は入力された信号に基づいて、対応するアクチュエータ132に駆動電流を出力する。アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動によりバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、1個の正常ダンパの減衰力がヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0106】
また、S294の判定結果がNoである場合はS296に進み、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS298に進み、ロール各輪要求減衰力Freq_RVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このロール各輪要求減衰力Freq_RVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより1個の正常ダンパの減衰力がロール各輪要求減衰力Freq_RVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0107】
また、S296の判定結果がNoである場合は、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が最小である。この場合はS299に進み、ピッチ各輪要求減衰力Freq_PVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このピッチ各輪要求減衰力Freq_PVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより1個の正常ダンパの減衰力がピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0108】
このように、本実施形態によれば、4個のダンパのうちの3個のダンパが異常ダンパであるときは、これら3個の異常ダンパの減衰力が推定され、推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3がH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3が当てはめられた3個の関係式の中から選択された1個の関係式から1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このように異常ダンパを除外して1個の正常ダンパのみの減衰力特性を制御することによりバネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が最も効果的に抑えられる。よって、3個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。したがって、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0109】
また、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|,ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|,ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|の大小比較に基づいて、H式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる1個の関係式が選択される。具体的には、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|の中で、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が最も小さい場合にはH式が選択されるとともにH式を用いて計算されたヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が最も小さい場合にはR式が選択されるとともにR式を用いて計算されたロール各輪要求減衰力Freq_RVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が最も小さい場合にはP式が選択されるとともにP式を用いて計算されたピッチ各輪要求減衰力Freq_PVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。そして、正規の各輪要求減衰力とみなされた各要求減衰力に基づいて1個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0110】
ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|は、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|とヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|との和である。ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|は、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを用いて計算されたロール要求減衰力推定値Freq_R*と実際に必要なロール要求減衰力Freq_Rとの差の大きさを表し、ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|は、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを用いて計算されたピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と実際に必要なピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の大きさを表す。つまり、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が大きいということは、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とロール要求減衰力Freq_Rとの乖離、および、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とピッチ要求減衰力Freq_Pとの乖離が大きいということを表している。したがって、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が大きい場合にヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ロール方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ロール振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができない。同様に、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が大きい場合にロール各輪要求減衰力Freq_RVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ヒーブ方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ヒーブ振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができない。同様に、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が大きい場合にピッチ各輪要求減衰力Freq_PVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ヒーブ方向およびロール方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ヒーブ振動およびロール振動を効果的に抑えこむことができない。
【0111】
これに対し、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が小さいということは、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とロール要求減衰力Freq_Rとの乖離、および、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とピッチ要求減衰力Freq_Pとの乖離が小さいということを表している。したがって、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が小さい場合にヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ロール方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにロール振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができる。同様に、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が小さい場合にロール各輪要求減衰力Freq_RVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ヒーブ方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにヒーブ振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができる。同様に、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が小さい場合にピッチ各輪要求減衰力Freq_PVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ヒーブ方向およびロール方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにヒーブ振動およびロール振動を効果的に抑制することができる。
【0112】
したがって、本実施形態の制御方法にしたがって1個の正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、各モードの振動を効果的に抑制することができる。
【0113】
(変形例)
上記した実施形態によれば、異常ダンパが2個あるいは3個であるときに、各モードの要求減衰力差の大小比較に基づいて3個の関係式の中から選択された2個あるいは1個の関係式を用いて正常ダンパの各輪要求減衰力が計算され、計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、以下に述べる変形例では、異常ダンパが2個あるいは3個であるときに、H式,R式およびP式の3個の関係式の中から、予め定められた優先順位にしたがって選択された2個あるいは1個の関係式を用いて正常ダンパの各輪要求減衰力が計算される。
【0114】
図12Aおよび図12Bは、変形例に係る減衰力制御の流れを示すフローチャートの一部である。これらのフローチャートは、図6BのフローチャートのS216の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパの個数が1個ではない場合に、図6C以降のフローチャートに代えて行われる処理を表す。
【0115】
すなわち、各輪要求減衰力計算部212は図6BのS216の判定結果がNoである場合に、図12AのS330にて異常ダンパが2個であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS332に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2を計算する。次いで、S334にて、H式,R式,P式中の各輪要求減衰力のうち、2個の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2を代入する。続いて、S336にて、R式およびH式により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能であるか否かを判定する。計算可能である場合にはS340に進み、H式およびR式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2を計算する。そして、S346にて第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0116】
S336の判定結果がNoである場合は、各輪要求減衰力計算部212はS338に進み、R式およびP式により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能であるか否かを判定する。計算可能である場合にはS342に進み、R式およびP式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2を計算する。そして、S348にて第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0117】
S338の判定結果がNoである場合は、正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能な関係式の組み合わせはH式およびP式のみである。したがってこの場合、各輪要求減衰力計算部212はS344に進み、H式およびP式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2を計算する。そして、S350にて第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0118】
本例においては、H式,R式,P式の3個の関係式の優先順位が予め定められ、定められた優先順位にしたがって正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する関係式が選択される。具体的には、最も優先順位の高い重要な式がR式、次に優先順位の高い式がH式、最も優先順位の低い式がP式として、予め定められている。そして、原則的に最も優先順位が高い式(R式)および次に優先順位が高い式(H式)により2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。しかし、上記2式を用いて各輪要求減衰力が計算できない場合には、最も優先順位が高い式(R式)および最も優先順位が低い式(P式)により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。これらの2式を用いても各輪要求減衰力が計算できない場合には、残りの組み合わせであるH式およびP式を用いて正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。
【0119】
3個の関係式の優先順位は、様々な観点から定めることができる。例えば、3方向のモードのうち、どのモードの振動を減衰するのが乗員にとって乗り心地性が向上するかに基づいて優先順位を決定することができる。一般的に乗員が最も不快を感じる振動はロール方向の振動であり、次に大きく不快を感じる振動がヒーブ方向の振動である。したがって、3個の関係式の優先順位は本例のように高い方からR式,H式,P式となるように予め設定することができる。もちろんその他の観点に基づいて優先順位を決定してもよい。また、乗員の好みに応じて抑制するモード振動の優先順位を決定できるようにしてもよい。
【0120】
また、図12AのS330の判定結果がNoである場合は、各輪要求減衰力計算部212は図12BのS352に進み、異常ダンパが3個であるか否かを判定する。この判定結果がNoである場合は異常ダンパが4個である。4個全てのダンパが異常であるときはダンパの減衰力特性を制御することはできない。したがってこの場合はS212に進んでこの処理を終了する。一方、S352の判定結果がYesである場合はS354に進む。
【0121】
S354にて各輪要求減衰力計算部212は異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を計算する。次いで、S356にて、R式中の各輪要求減衰力のうち、異常ダンパに対応する3個の各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を代入する。続いて、S358にて、R式に基づいて正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVを計算する。次いでS360にてロール各輪要求減衰力Freq_RVを出力する。そのS212に進んでこの処理を終了する。
【0122】
このように本例によれば、異常ダンパが3個であるときは、R式に基づいて1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。3個の関係式のうちどの関係式に基づいて1個のダンパについての各輪要求減衰力を計算するのかは、予め定めておくことができる。本例においては、3個の関係式の優先順位が高い方からR式,H式,P式と定められているため、正常ダンパが1個であるときは、優先的にR式に基づいて各輪要求減衰力が計算される。優先順位の定め方は様々な観点から行うことができる。また、乗員の好みに応じて優先順位を決定できるようにしてもよい。
【0123】
以上説明したように、本実施形態によれば、ダンパに異常が生じた場合、その異常ダンパを除いた正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、正常ダンパの減衰力特性の制御性能の悪化を抑えることができる。また、異常ダンパが複数存在するときは、3個の関係式から乗り心地などに関して最も好ましい関係式として選択される2個あるいは1個の関係式に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このため、異常発生時における減衰力特性の制御性能の悪化を極力抑えることができる。
【符号の説明】
【0124】
1…サスペンション制御装置、10FR,10FL,10RR,10RL…サスペンション装置、11…バネ、12…ダンパ、13…可変絞り機構(可変制御手段)、131…バルブ、132…アクチュエータ、20…電気制御装置(減衰力制御装置)、21…サスペンションECU、211…モード要求減衰力計算部、212…各輪要求減衰力計算部、FNG…推定減衰力、Freq_H…ヒーブ要求減衰力、Freq_R…ロール要求減衰力、Freq_P…ピッチ要求減衰力、Freq_fr…右前輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_fl…左前輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_rr…右後輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_rl…左後輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を可変的に制御する減衰力制御装置が知られている。一般的に車両には前後左右の各車輪に対応して4個のサスペンション装置が取り付けられており、これら4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性が減衰力制御装置によって制御される。ダンパの減衰力特性を可変制御するにあたって、各ダンパの減衰力特性をそれぞれ独立に制御する単輪制御方式、あるいはバネ上部材(車体)の3方向のモード振動(ヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動)を抑制するように4個のダンパの減衰力特性を協調して制御するモード制御方式などが適用される。
【0003】
モード制御方式は、バネ上部材の全体的な挙動を踏まえて各ダンパの減衰力特性を制御する方式であるので、バネ上部材の各方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)の振動を効果的に抑制することができる。このため単輪制御方式と比較して乗り心地性能がより向上するというメリットを持つ。しかし、バネ上部材のヒーブ方向(重心点位置の上下方向)、ロール方向(前後軸周り方向)、ピッチ方向(左右軸周り方向)にそれぞれ作用する減衰力の制御目標値である3個の要求減衰力(ヒーブ要求減衰力、ロール要求減衰力、ピッチ要求減衰力)から4個のダンパの減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力を求めることになるため、ヒーブ要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(ヒーブ−各輪要求減衰力関係式)、ロール要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(ロール−各輪要求減衰力関係式)およびピッチ要求減衰力と各輪要求減衰力と力の釣り合いを表す関係式(ピッチ−各輪要求減衰力関係式)に加え、各輪要求減衰力についての何らかの拘束条件を用いなければ、全ての各輪要求減衰力を求めることができない。
【0004】
特許文献1は、モード制御方式において、上記3個の関係式に、各輪要求減衰力の総和が最小になるという拘束条件式を加えることにより、4個の各輪要求減衰力を求める減衰力制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−248921号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、車両に取り付けられている4個のサスペンション装置のダンパのうちのいくつかのダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたとき、例えばダンパの減衰力特性を変更制御するアクチュエータなどの可変制御手段が作動不能になったときなどは、その異常ダンパの減衰力特性を制御することはできない。この場合において、単輪制御方式によりダンパの減衰力特性を個別制御している場合には、あるダンパが異常である場合であっても、その異常の結果生じたバネ上部材の振動の抑制を他の正常なダンパの減衰力特性の制御により補うことができる。しかし、モード制御方式によりサスペンション装置の減衰力を制御している場合には、各ダンパが協調してバネ上部材の振動を抑制するように各ダンパの減衰力特性が制御されるので、あるダンパの異常が他のダンパの減衰力特性の制御に悪影響を及ぼす。このため異常ダンパが存在することにより発生する減衰力特性の制御不足を他のダンパの減衰力特性の制御により補うことができない。
【0007】
例えば上記特許文献1に記載の減衰力制御においては、異常ダンパが存在していても、上記3個の関係式および1個の拘束条件式を用いて全ての各輪要求減衰力が算出される。つまり、異常ダンパについての各輪要求減衰力も他の正常ダンパについての各輪要求減衰力と同様に制御変数(未知数)に設定され、各輪要求減衰力が全て計算により算出される。しかし、異常ダンパは計算により与えられた要求減衰力を発生するように制御することができないので、実際には異なった減衰力を発生する。これにより異常ダンパが発生する減衰力と他の正常ダンパが発生する減衰力との間のバランスが崩れ、各モード振動(ヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動)を効果的に抑えこむことができない。その結果、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化を招く。
【0008】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、モード制御方式により車両のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置において、いくつかのダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたときであっても、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化をできるだけ抑えることができる減衰力制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の減衰力制御装置は、車両のバネ上部材の各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置であり、バネ上部材の振動を抑制するように、バネ上部材のヒーブ方向に作用するヒーブ減衰力の制御目標値であるヒーブ要求減衰力Freq_Hと、バネ上部材のロール方向に作用するロール減衰力の制御目標値であるロール要求減衰力Freq_Rと、バネ上部材のピッチ方向に作用するピッチ減衰力の制御目標値であるピッチ要求減衰力Freq_Pをそれぞれ計算するモード要求減衰力計算手段と、4個の各ダンパのうち1個乃至3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が発生している場合に、前記異常が発生している異常ダンパの減衰力を推定する異常輪減衰力推定手段と、前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hと4個の各ダンパが発生する各輪減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すヒーブ−各輪要求減衰力関係式、前記ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すロール−各輪要求減衰力関係式、前記ピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に、前記異常輪減衰力推定手段により推定された前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式のうち少なくとも1個の関係式から、前記異常が発生していない正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する正常輪要求減衰力計算手段とを備える。そして、減衰力制御装置は、前記正常輪要求減衰力計算手段により計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動を制御する。
【0010】
上記発明によれば、車両に取り付けられる4個のダンパのうち1個〜3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が生じている場合、すなわち1〜3個のダンパが異常ダンパである場合に、その異常ダンパが発生している減衰力が推定される。推定された減衰力は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表されている異常ダンパについての各輪要求減衰力に必要に応じて当てはめられる。この当てはめにより各関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力が制御変数(未知数)から除外される。そして、各関係式の一部または全部に基づいて、制御変数である正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。
【0011】
このように本発明においては、異常ダンパが存在する場合はその異常ダンパについての各輪要求減衰力が上記3個の関係式の制御変数から除外される。これにより各関係式は、各モード要求減衰力(ヒーブ要求減衰力,ロール要求減衰力、ピッチ要求減衰力)と正常ダンパについての各輪要求減衰力との関係を表す式となる。これらの関係式に基づいて正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、バネ上部材のモード振動が効果的に抑えられる。すなわち本発明によれば、異常ダンパが存在する場合には、異常ダンパを制御対象から除外し、正常ダンパのみの減衰力特性制御により各モード振動が抑制される。このように減衰力特性の制御を行うことにより、異常ダンパの存在が他の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を及ぼすことはない。したがって、ダンパの減衰力特性の制御に異常が生じたときであっても、バネ上部材の振動抑制に対する制御性能の悪化をできるだけ抑えることができる。
【0012】
また、異常ダンパの減衰力は異常輪減衰力推定手段により推定される。推定された減衰力が各関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。これにより、正常ダンパについての各輪要求減衰力は異常ダンパが実際に発生すると推定される減衰力を踏まえて計算される。こうして計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより減衰力の制御性能が向上し、乗り心地がより向上する。
【0013】
前記モード要求減衰力計算手段は、バネ上部材の振動が抑制されるように、具体的に言えばバネ上部材の各モード方向の振動が抑制されるように、例えば所定の制御理論にしたがって各モード要求減衰力が計算される。所定の制御理論としては、非線形H∞制御理論が適用され得る。具体的には車両の4輪モデルに基づいて設計される制御システム(一般化プラント)に非線形H∞制御理論を適用し、H∞制御問題を満たすように制御入力が決定される。決定された制御入力に基づいて各モード要求減衰力が求められる。
【0014】
また、前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動が不能である作動不能異常である場合に、前記可変制御手段の作動が不能であることによって固定された前記異常ダンパの減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定するものであるのがよい。異常の内容が作動不能異常である場合、例えば可変制御手段としてのアクチュエータが何らかの原因により固着したような場合は、異常ダンパの減衰力特性は、異常が発生した時点における減衰力特性に固定される。したがって、固定された減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を正確に推定することができる。なお、固定された減衰力特性は、例えばアクチュエータに備え付けてあるエンコーダなどのセンサの検出値に基づいて推定することができる。
【0015】
ちなみにダンパの減衰力特性は、通常はサスペンションストローク速度に対する減衰力の変化特性により表される。この減衰力特性は可変制御手段により変更可能とされており、変更可能な減衰力特性がF−V特性図(F−Vマップ)によって表される。よって、作動不能異常時にF−V特性図から特定することができる異常ダンパの減衰力特性と現在のサスペンションストローク速度とから異常ダンパが発生している減衰力を正確に推定することができる。また、ダンパの減衰力特性は段階的に設定され、その特性が段数表示されることが多い。よって、作動不能異常発生時における異常ダンパの減衰力特性を表す段と現在のサスペンションストローク速度とから異常ダンパが発生している減衰力を正確に推定することができる。
【0016】
また、前記可変制御手段は、制御対象のダンパの減衰力特性の制御停止時に、そのダンパの減衰力特性が予め決められた減衰力特性である特定減衰力特性になるように構成されているのがよい。そして、前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が、前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段が作動可能であるが正常に作動しない作動不良異常である場合に、前記異常ダンパの減衰力特性の制御を停止するとともに、前記特定減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定するものであるのがよい。これによれば、異常の内容が作動不良異常である場合は、異常ダンパの減衰力特性の制御が停止される。制御停止により異常ダンパの減衰力特性が特定減衰力特性になる。したがって、特定減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を正確に推定することができる。この場合において、上記特定減衰力特性は、例えばダンパが最も大きい減衰力を発生するような減衰力特性であるのがよい。また、ダンパが最も小さい減衰力を発生するような減衰力特性であってもよい。
【0017】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが1個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された1個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式から3個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する3輪要求減衰力計算手段を備えるのがよい。これによれば、異常ダンパが1個であるときは、上記3個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に異常輪減衰力推定手段にて推定された異常ダンパの推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、各関係式中の制御変数が3個になる。このため、各輪要求減衰力に関する何らかの拘束条件式を用いることなく3個の関係式から3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。そして、拘束条件による制限を受けることなく計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0018】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが2個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された2個の関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する2輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、異常ダンパが2個であるときは、上記3個の関係式から選択された2個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、選択された2個の関係式中の制御変数が2個になる。このため2個の関係式から2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。こうして求められた正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0019】
この場合において、前記2輪要求減衰力計算手段は、ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第1要求減衰力計算手段と、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第2要求減衰力計算手段と、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第3要求減衰力計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をヒーブ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるヒーブ要求減衰力であるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|であるヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算するヒーブ要求減衰力差計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をロール−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるロール要求減衰力であるロール要求減衰力推定値Freq_R*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|であるロール要求減衰力差|ΔR|を計算するロール要求減衰力差計算手段と、2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をピッチ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるピッチ要求減衰力であるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|であるピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算するピッチ要求減衰力差計算手段と、を備えるものであるのがよい。そして、減衰力制御装置は、前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|、前記ロール要求減衰力差|ΔR|および前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|のうち前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合には前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御するものであるのがよい。
【0020】
上記発明によれば、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|,ピッチ要求減衰力差|ΔP|の大きさが比較される。そして、これらの要求減衰力差の中で大きさが最も小さい要求減衰力差に係る振動モード(ヒーブ、ロール、ピッチ)についての関係式以外の2個の関係式を用いて計算される各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には、ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御され、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式を用いて計算される各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御され、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合にはヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0021】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*とヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値を表す。ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*は、ロール−各輪要求減衰力関係式とピッチ−各輪要求減衰力関係式とを用いて正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算により得られた2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力および2個の異常ダンパの推定減衰力をヒーブ−要求減衰力関係式に当てはめることにより算出される。この推定値とモード要求減衰力計算手段により求められた実際に必要なヒーブ要求減衰力との差が小さいということは、3個の関係式のうちヒーブ−各輪要求減衰力を除いた2個の関係式を用いて各輪要求減衰力を計算した場合に、計算により得られた各輪要求減衰力により発生されるヒーブ減衰力(ヒーブ要求減衰力推定値)と実際に必要なヒーブ要求減衰力との乖離が少ないことを示す。よってこの場合には、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ヒーブ振動も効果的に抑制される。同様に、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合に、ロール−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ロール振動も効果的に抑制される。同様に、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合に、ピッチ−各輪要求減衰力関係式を除いた他の2式を用いて2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算し、計算した各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、ピッチ振動も効果的に抑制される。
【0022】
また、前記2輪要求減衰力計算手段は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式について予め設定された優先順位の高い2個の関係式に表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算するものであってもよい。この場合、前記優先順位は車両の乗り心地に影響する大きさを考慮して設定されるものであるとよい。また、前記優先順位の最も高い関係式はロール−各輪要求減衰力関係式であり、前記その次に優先順位の高い関係式はヒーブ−各輪要求減衰力関係式であると良い。これによれば、車両の乗り心地への影響が大きい関係式を用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、乗り心地の悪化がより一層抑えられる。
【0023】
また、前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが3個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された1個の関係式に表される3個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定した3個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記1個の関係式から1個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する1輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、異常ダンパが3個であるときは、上記3個の関係式から選択された1個の関係式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力が当てはめられる(代入される)ことにより、選択された1個の関係式中の制御変数が1個になる。このため1個の関係式から1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めることができる。こうして求められた正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0024】
この場合、3個の関係式の中から1個の関係式を選択するにあたり、上述のように乗り心地への影響度等を考慮して3個の関係式の優先順位を予め設定し、最も優先順位の高い関係式を選択するようにしてもよい。あるいは、後述する実施形態にて述べるように、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|,ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|,ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|のそれぞれの大きさの比較結果に基づいて、3個の関係式の中から1個の関係式を選択してもよい。
【0025】
また、本発明の減衰力制御装置は、前記異常ダンパが0個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式と、ロール−各輪要求減衰力関係式と、ピッチ−各輪要求減衰力関係式と、4個の各輪要求減衰力の関係を制限する拘束条件として予め定められた各輪拘束条件とに基づいて、4個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する4輪要求減衰力計算手段を備えるものであるのがよい。これによれば、全てのダンパが正常である場合に、3個の関係式と、各輪要求減衰力についての拘束条件とを用いて計算された各輪要求減衰力に基づいて、4個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置の全体概略図である。
【図2】本実施形態に係るサスペンション装置を模式的に示した図である。
【図3】本実施形態に係る電気制御装置の概略図である。
【図4】本実施形態に係るサスペンションECUを機能毎に分けて表した図である。
【図5】本実施形態に係るモード要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図6A】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6B】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6C】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6D】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6E】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図6F】本実施形態に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図7】車両の4輪モデルを表す図である。
【図8】一般化プラントのブロック線図である。
【図9】F−V特性図である。
【図10】バルブの構造を示す概略斜視図である。
【図11】モード要求減衰力差の計算例を示す表である。
【図12A】他の例に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【図12B】他の例に係る各輪要求減衰力計算処理の流れの一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態に係る車両のサスペンション制御装置1の全体を表す概略図である。このサスペンション制御装置1は、4個のサスペンション装置10(右前輪側サスペンション装置10FR,左前輪側サスペンション装置10FL,右後輪側サスペンション装置10RR,左後輪側サスペンション装置10RL)と、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLの作動を制御する電気制御装置20を備える。
【0028】
右前輪側サスペンション装置10FRは、バネ上部材HAと右前輪WFRとの間に介装され、その一端側(上端側)にてバネ上部材HAの右前方側(右前輪位置)に連結され、他端側(下端側)にてバネ下部材LAを介して右前輪WFRに連結される。左前輪側サスペンション装置10FLは、バネ上部材HAと左前輪WFLとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの左前方側(左前輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して左前輪WFLに連結される。右後輪側サスペンション装置10RRは、バネ上部材HAと右後輪WRRとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの右後方側(右後輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して右後輪WRRに連結される。左後輪側サスペンション装置10RLは、バネ上部材HAと左後輪WRLとの間に介装され、一端側にてバネ上部材HAの左後方側(左後輪位置)に連結され、他端側にてバネ下部材LAを介して左後輪WRLに連結される。本明細書において、サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLを総称する場合には、これらを単にサスペンション装置10および車輪Wと記載する場合もある。
【0029】
サスペンション装置10はバネ11とダンパ(ショックアブソーバ)12とを備えている。バネ11およびダンパ12は、その一端(上端)にてバネ上部材HAに接続され、その他端にてバネ下部材LAに接続される。バネ11は、本実施形態においては金属製のコイルバネにより構成されるが、エアサスペンション装置などに用いられる空気バネを用いてもよい。バネ下部材LAは、タイヤを含む車輪Wに連結されたナックルや、一端がナックルに連結されたロアアームなどにより構成され、サスペンション装置10を支持する。バネ上部材HAはサスペンション装置10により支持される部材であり、車体を含む。
【0030】
ダンパ12は、シリンダ121と、ピストン122と、ピストンロッド123を備える。シリンダ121は、内部に粘性流体(例えば、オイルなど)が封入された筒状部材であり、その下端にてバネ下部材LA(詳しくは、ロアアーム)に連結される。ピストン122はシリンダ121内に配置される。このピストン122によりシリンダ121の内部が上室R1と下室R2とに区画される。ピストン122は、シリンダ121内を軸方向に移動可能である。ピストンロッド123は、その下端にてピストン122に連結され、その上端にてバネ上部材HAに連結される。また、ピストン122には、上室R1と下室R2とを連通する連通路が形成されている。
【0031】
このように構成されたダンパ12において、車輪Wが路面凹凸を乗り越えるなどによりバネ上部材HAが路面に対して相対変位した場合、バネ上部材HA側に連結されたピストン122が、バネ下部材LA側(路面側)に連結されたシリンダ121内を相対変位する。この相対変位に伴いピストン122に形成された連通路内を粘性流体が流通する。粘性流体が連通路内を流通するときに発生する抵抗によりバネ上部材HAの振動が減衰する。
【0032】
バネ11は、図に示されるように、その下端にてシリンダ121の外周に取付けられたリテーナに連結され、その上端にてバネ上部材HAに連結される。このバネ11は、路面に対するバネ上部材HAの相対変位に伴う弾性力を発生する。
【0033】
図2は、本実施形態に係るサスペンション装置10を模式的に示した図である。図2に示されるように、サスペンション装置10には本発明の可変制御手段に相当する可変絞り機構13が取付けられている。可変絞り機構13はバルブ131およびアクチュエータ132を有する。バルブ131は、ピストン122に形成された連通路124に設けられていて、回転することにより連通路124の少なくとも一部の流路断面積の大きさ、すなわちバルブ開度OPを変化させる。アクチュエータ132は例えばステッピングモータなどにより構成することができる。図1には、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLに取付けられたアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLが示されている。これらのアクチュエータは、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLのダンパ12の上部に配置され、バネ上部材HAに固定されている。また、アクチュエータ132は、例えばピストンロッド123の内部に配されるコントロールロッドなどによってバルブ131に連結される。したがって、アクチュエータ132が作動するとそれに伴いバルブ131が作動し、バルブ開度OPが変更される。バルブ開度OPの変更により、連通路124の流路断面積が変更される。その結果、連通路124内を粘性流体が流通するときに発生する抵抗力の大きさが変更される。これによりダンパ12の減衰力特性(減衰係数)が変更される。なお、ダンパ12の減衰力特性は、バルブ131の回転角の変化によって段階的に変更されるようになっている。
【0034】
図3は、電気制御装置20を構成する各要素の接続構成を概略的に示す図である。図3に示されるように、電気制御装置20は、サスペンション電子制御ユニット(以下、サスペンションECU)21と、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLと、路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RLと、ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RLと、ロール角加速度センサ224と、ピッチ角加速度センサ225と、回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLと、駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLと、を備える。電気制御装置20は、バネ上部材HAの各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置10のダンパ12の減衰力特性を制御する減衰力制御装置に相当する。
【0035】
バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLは、バネ上部材HAの各輪位置(右前輪位置,左前輪位置,右後輪位置,左後輪位置)に取付けられており、その位置におけるバネ上部材HAの上下方向に沿った加速度である右前輪側バネ上加速度xb_fr",左前輪側バネ上加速度xb_fl",右後輪側バネ上加速度xb_rr",左後輪側バネ上加速度xb_rl"をそれぞれ検出する。路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RLは、各車輪Wに連結したバネ下部材LAに取付けられており、各バネ下部材LAの上下方向に沿った加速度を計測することにより、各バネ下部材LAに連結する車輪Wの接地路面の上下方向に沿った加速度である右前輪側路面加速度xr_fr",左前輪側路面加速度xr_fl",右後輪側路面加速度xr_rr",左後輪側路面加速度xr_rl"をそれぞれ検出する。ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RLは、各サスペンション装置10に取付けられており、サスペンション装置10のダンパ12のストローク変位量、すなわちシリンダ121に対するピストン122の相対変位量を計測することにより、各輪位置における路面に対するバネ上部材HAの上下方向に沿った変位量である右前輪側バネ上−路面間相対変位量xs_fr(=xr_fr-xb_fr)、左前輪側バネ上−路面間相対変位量xs_fl(=xr_fl-xb_fl)、右後輪側バネ上−路面間相対変位量xs_rr(=xr_rr-xb_rr)、左後輪側バネ上−路面間相対変位量xs_rl(=xr_rl-xb_rl)をそれぞれ検出する。
【0036】
ロール角加速度センサ224はバネ上部材HAに取付けられており、バネ上部材HAのロール方向(前後軸周り方向)の角度変位を表すロール角θRの角加速度(ロール角加速度)θR"を検出する。ピッチ角加速度センサ225もバネ上部材HAに取付けられており、バネ上部材HAのピッチ方向(左右軸周り方向)の角度変位を表すピッチ角θPの角加速度(ピッチ角加速度)θP"を検出する。回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLは各アクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに取り付けられており、各アクチュエータの作動量(例えば回転角)を計測することにより、各アクチュエータに連結したバルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlを検出する。
【0037】
サスペンションECU21は、CPU,ROM,RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータである。サスペンションECU21の入力側には、上述した各種センサが接続されていて、これらのセンサからの検出信号が入力されるようになっている。サスペンションECU21は、各種センサからの検出信号に基づいて、後述するフローチャートに示される処理を実行することにより、アクチュエータ132の作動を制御するための駆動信号を出力する。これによりサスペンション装置10の各ダンパ12の減衰力特性が制御される。
【0038】
駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLは、サスペンションECU21の出力側に接続されている。駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLは、それぞれ各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLに対応するアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに接続されており、サスペンションECU21から出力された駆動信号に基づいて、アクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに駆動電流を出力する。
【0039】
図4は、サスペンションECU21の内部構成を機能ブロックごとに表した図である。図に示されるように、サスペンションECU21は、その内部にモード要求減衰力計算部211と各輪要求減衰力計算部212を有する。モード要求減衰力計算部211は、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを計算し、これらの要求減衰力を出力する。ヒーブ要求減衰力Freq_Hは、バネ上部材の重心位置の上下方向に作用する減衰力(ヒーブ減衰力)の制御目標値である。ロール要求減衰力Freq_Rは、バネ上部材の重心点にてロール方向に作用する減衰力(ロール減衰力)の制御目標値である。ピッチ要求減衰力Freq_Pは、バネ上部材の重心点にてピッチ方向に作用する減衰力(ピッチ減衰力)の制御目標値である。
【0040】
各輪要求減衰力計算部212は、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを入力するとともに、これらの要求減衰力に基づいて、右前輪側要求減衰力Freq_fr,左前輪側要求減衰力Freq_fl,右後輪側要求減衰力Freq_rrおよび左後輪側要求減衰力Freq_rlを計算し、計算した各要求減衰力を表す信号を各対応した駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLに出力する。右前輪側要求減衰力Freq_frは右前輪側サスペンション装置10FRのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。左前輪側要求減衰力Freq_flは左前輪側サスペンション装置10FLのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。右後輪側要求減衰力Freq_rrは右後輪側サスペンション装置10RRのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。左後輪側要求減衰力Freq_rlは左後輪側サスペンション装置10RLのダンパ12により発生される減衰力の制御目標値である。
【0041】
上記構成のサスペンション制御装置1において、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RLの検出値から得られる各輪位置におけるバネ上加速度のいずれか一つが所定の閾値を越えた場合、サスペンションECU21のモード要求減衰力計算部211はモード要求減衰力計算処理を、各輪要求減衰力計算部212は各輪要求減衰力計算処理を、それぞれ実行する。
【0042】
図5は、モード要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。モード要求減衰力計算部211はこの処理を図5のステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)100にて開始する。次いで、S102にて、バネ上加速度センサ221FR,221FL,221RR,221RL、路面上下加速度センサ222FR,222FL,222RR,222RL、ストロークセンサ223FR,223FL,223RR,223RL、ロール角加速度センサ224、ピッチ角加速度センサ225から検出値を入力する。次に、S104にて、入力した検出値を演算(例えば微分または積分)することにより、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下速度(バネ上速度)xb_fr',xb_fl',xb_rr',xb_rl'、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下変位量(バネ上変位量)xb_fr,xb_fl,xb_rr,xb_rl、各輪位置における路面の上下速度(路面上下速度)xr_fr',xr_fl',xr_rr',xr_rl'、各輪位置における路面の上下変位量(路面上下変位量)xr_fr,xr_fl,xr_rr,xr_rl、各輪位置における路面上下速度に対するバネ上速度(バネ上−路面間相対速度)xs_fr',xs_fl',xs_rr',xs_rl'、バネ上部材の重心位置の上下変位量(ヒーブ変位量)xH、ロール角θR、ピッチ角θP、ヒーブ速度xH'、ロール角速度θR'、ピッチ角速度θP'、ヒーブ加速度xH"など、計算に必要な量を計算する。
【0043】
次いで、S106にて、非線形H∞制御理論を適用することにより、ヒーブ要求減衰係数Creq_H,ロール要求減衰係数Creq_R,ピッチ要求減衰係数Creq_Pを計算する。この計算をする際に、図7に示される車両の4輪モデルが力学的な運動モデルとして用いられる。この4輪モデルから導き出されるバネ上部材HAの重心位置におけるヒーブ(上下)運動方程式、ロール運動方程式、ピッチ運動方程式は、それぞれ下記式(eq.1)〜式(eq.3)のように表される。
【数1】
【数2】
【数3】
上記式(eq.1)中のMbはバネ上部材HA(車体)の質量、xH"はバネ上部材HAの重心位置の上下加速度(ヒーブ加速度)である。また、上記式(eq.2)中のIRはロール慣性モーメント、θR"はロール角加速度、Tfは前輪側のトレッド、Trは後輪側のトレッドである。また、上記式(eq.3)中のIPはピッチ慣性モーメント、θP"はピッチ角加速度、Lはホイールベースである。計算を簡素化するため、Tf,Tr,Lは「2」に設定することができる。
【0044】
また、上記式(eq.1)〜(eq.3)中のffr,ffl,frr,frlは、サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLによりバネ上部材HAの各輪位置に上下方向に作用する上下力である。これらの上下力は、バネ11およびダンパ12が発生する力の合力であり、下記式(eq.4)により表される。
【数4】
上記式(eq.4)中のFfr,Ffl,Frr,Frlは各サスペンション装置10のダンパ12が発生する減衰力、Kfr,Kfl,Krr,Krlは各サスペンション装置10のバネ11のバネ定数である。
【0045】
また、バネ上部材HAの重心位置にて上下方向に作用する減衰力をヒーブ減衰力FH,ロール方向に作用する減衰力をロール減衰力FR,ピッチ方向に作用する減衰力をピッチ減衰力FPとすると、これらの減衰力(モード減衰力)と、各ダンパの減衰力(各輪減衰力)との力の釣り合いを表す関係は、下記式(eq.5)〜(eq.7)のように表される。
【数5】
【数6】
【数7】
【0046】
ヒーブ減衰力FHはヒーブ減衰係数CHとヒーブ変位速度xH'の積CH・xH'により、ロール減衰力FRはロール減衰係数CRとロール角速度θR'の積CR・θR'により、ピッチ減衰力FPはピッチ減衰係数CPとピッチ角速度θP'の積CP・θP'により、それぞれ表される。したがって、上記式(eq.1)〜(eq.3)は、下記式(eq.8)〜(eq.10)のように表すことができる。
【数8】
【数9】
【数10】
【0047】
また、各輪位置におけるバネ上変位量xb_fr,xb_fl,xb_rr,xb_rlと、ヒーブ変位量xH、ロール角θR、ピッチ角θPとの関係は、モード変換行列を用いて下記式(eq.11)のように表すことができる。
【数11】
【0048】
上記した運動方程式および関係式によって、4輪モデルの状態空間表現が、下記式(eq.12)のように表される。
【数12】
【0049】
上記式(eq.12)において、状態量xp,外乱w,制御入力u,評価出力zpは、例えば下記式(eq.13)のように与えられる。
【数13】
また、上記式(eq.12)中のAp,Bp1,Bp12(xp),Cp1,Dp12(xp)は係数行列であり、上記式(eq.12)が成り立つように定められる。
【0050】
式(eq.12)に基づいて、図8に示される一般化プラントが設計される。この一般化プラントに表される評価出力zpには周波数重みWs(s)が、制御入力uには周波数重みWu(s)が、それぞれ作用している。一般化プラントの状態空間表現は、上記式(eq.12)に示される4輪モデルの状態空間表現,下記式(eq.14)に示される周波数重みWs(s)の状態空間表現および下記式(eq.15)に示される周波数重みWu(s)の状態空間表現を用いて、下記式(eq.16)のように表される。
【数14】
【数15】
【数16】
【0051】
式(eq.16)は双線形システムである。したがって、下記式(eq.17)に示されるリカッチ不等式を満たす正定対称行列Pが存在するならば、一般化プラントを内部安定にし、且つL2ゲインを正定数γ以下にするための制御則u=k(x)を得ることができる。
【数17】
【0052】
このとき、制御則u=k(x)は、例えば下記式(eq.18)のように与えられる。
【数18】
このようにして、非線形H∞制御理論を適用して算出された制御則から制御入力uが求められる。そして、制御入力uから、ヒーブ減衰係数CHの制御目標値であるヒーブ要求減衰係数Creq_H、ロール減衰係数CRの制御目標値であるロール要求減衰係数Creq_R、ピッチ減衰係数CPの制御目標値であるピッチ要求減衰係数Creq_Pが得られる。
【0053】
モード要求減衰力計算部211は、S106にて上記のようにしてヒーブ要求減衰係数Creq_H,ロール要求減衰係数Creq_Rおよびピッチ要求減衰係数Creq_Pを求めた後は、S108に進み、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_R,ピッチ要求減衰力Freq_Pを計算する。ヒーブ要求減衰力Freq_Hはバネ上部材HAのヒーブ方向の振動を抑制するように設定されるヒーブ減衰力FHの制御目標値であり、ヒーブ要求減衰係数Creq_Hにヒーブ速度xH'を乗じることにより計算される。ロール要求減衰力Freq_Rはバネ上部材HAのロール方向の振動を抑制するように設定されるロール減衰力FRの制御目標値であり、ロール要求減衰係数Creq_Rにロール角速度θR'を乗じることにより計算される。ピッチ要求減衰力Freq_Pはバネ上部材HAのピッチ方向の振動を抑制するように設定されるピッチ減衰力FPの制御目標値であり、ピッチ要求減衰係数Creq_Pにピッチ角速度θP'を乗じることにより計算される。バネ上部材HAにこれらの要求減衰力が作用することにより、バネ上部材HAの各モード方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)の振動が抑制される。次いで、モード要求減衰力計算部211はS110に進み、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_R,ピッチ要求減衰力Freq_Pを出力する。その後、S112に進んでこの処理を終了する。図5に示されるモード要求減衰力計算処理が、本発明のモード要求減衰力計算手段に相当する。
【0054】
図6A〜図6Fは、各輪要求減衰力計算処理の流れを示すフローチャートである。各輪要求減衰力計算部212はこの処理を図6AのS200にて開始する。次いで、S202にて、ヒーブ要求減衰力Freq_H,ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを入力する。続いて、S204にて、各回転角センサ226FR,226FL,226RR,226RLから各バルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlを入力する。
【0055】
次に、S206にて、バネ上部材HAの各輪位置に取り付けられている4個のサスペンション装置のダンパ12の減衰力特性の制御が全て正常に実行されているか否かを判定する。この判定は、例えば、サスペンションECU21が駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLを介して各アクチュエータ132に出力する信号と、S204にて入力したバルブ131の回転角φfr,φfl,φrr,φrlとを比較することにより行うことができる。この判定結果がYesである場合、すなわち全てのダンパ12が正常に作動している場合はS208に進む。
【0056】
S208にて、各輪要求減衰力計算部212は、下記式(eq.19)に示すH式,式(eq.20)に示すR式,式(eq.21)に示すP式および、予め設定された拘束条件Sを用いて、4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを計算する。
【数19】
【数20】
【数21】
【0057】
上記式(eq.19)〜式(eq.21)中の各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlは、バネ上部材HAの各輪位置に取り付けられたサスペンション装置10のダンパ12が発生する減衰力の制御目標値であり、Freq_frは右前輪側要求減衰力、Freq_flは左前輪側要求減衰力、Freq_rrは右後輪側要求減衰力、Freq_rlは左後輪側要求減衰力である。また、式(eq.19)に示されるH式(ヒーブ−各輪要求減衰力関係式)はヒーブ要求減衰力Freq_Hと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.5)にヒーブ要求減衰力Freq_Hおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。式(eq.20)に示されるR式(ロール−各輪要求減衰力関係式)は、ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.6)にロール要求減衰力Freq_Rおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。式(eq.21)に示されるP式(ピッチ−各輪要求減衰力関係式)はピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとの力の釣り合いを表す関係式であり、上記式(eq.7)にピッチ要求減衰力Freq_Pおよび各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを当てはめることにより得られる。上記式(eq.19)〜式(eq.21)からわかるように、ヒーブ要求減衰力Freq_Hは各輪要求減衰力の総和Freq_fr+Freq_fl+Freq_rr+Freq_rlにより表される。ロール要求減衰力Freq_Rは左輪側の要求減衰力の和Freq_fl+Freq_rlと右輪側の要求減衰力の和Freq_fr+Freq_rrとの差により表される。ピッチ要求減衰力Freq_Pは後方輪側の要求減衰力の和Freq_rr+Freq_rlと前方輪側の要求減衰力の和Freq_fr+Freq_flとの差により表される。
【0058】
また、拘束条件Sは、各輪要求減衰力同士の関係を制限する条件として予め設計者により定められる。例えばバネ上部材HAのねじれが生じないという条件が拘束条件Sとして予め定められる。あるいは、4個のダンパ12に対応して設けられているアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLの作動量の総和が最も小さくなるという条件が拘束条件Sとして予め定められる。以下の説明においては、4個のダンパに対応して設けられているアクチュエータの作動量の総和が最も小さくなるという拘束条件Sを用いて各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを求める例を示す。
【0059】
まず、上記式(eq.20)と式(eq.21)を加算することにより下記式(eq.22)が、式(eq.19)と式(eq.20)を加算することにより下記式(eq.23)が、式(eq.19)と式(eq.21)を加算することにより下記式(eq.24)が、それぞれ導出される。
【数22】
【数23】
【数24】
【0060】
式(eq.22)〜式(eq.24)および、下記式(eq.25)に表されるパラメータaにより、各輪要求減衰係数は、下記式(eq.26)〜式(eq.29)のように表される。
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【0061】
上記式(eq.26)〜式(eq.29)からわかるように、パラメータaを適宜決定することによって、各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを同時に決定することができる。パラメータaは設計者によって適宜決定することができる。他の実施の形態においては、例えば予めパラメータaを0や1等の固定値に設定しておき、設定されたパラメータaを上記式(eq.26)〜式(eq.29)に代入することにより各輪要求減衰力を決定してもよい。本実施形態にて説明する例においては、パラメータaを逐次変動していった場合における各輪要求減衰力を計算し、得られた各輪要求減衰力と現在の各輪減衰力との差の総和が最も小さくなるときに設定されているパラメータaの値を用いて各輪要求減衰力を計算する。上記総和はアクチュエータの作動量の総和を示す。したがって、上記総和が最も小さくなるときに設定されるパラメータaの値を用いて各輪要求減衰力を算出することにより、式(eq.19)〜式(eq.21)を満たし、且つ各アクチュエータの作動量の総和が最も小さくなるように各輪要求減衰力が決定される。
【0062】
各輪要求減衰力計算部212は、S208にて上記例示した手法等を用いて4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlを計算した後は、S210に進み、各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlに対応する信号を各駆動回路23FR,23FL,23RR,23RLに出力する。その後S212に進み、この処理を終了する。各駆動回路は入力された信号に基づいて、各対応するアクチュエータ132に駆動電流を出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各バルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、各ダンパ12の減衰力がそれぞれ各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlとなるように、各ダンパ12の減衰力特性が制御される。全てのダンパが正常ダンパであるとき、つまり異常ダンパが0個であるときにS208にて3個の関係式(H式,R式,P式)および1個の拘束条件Sに基づいて4個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する処理が、本発明の4輪要求減衰力計算手段に相当する。
【0063】
全てのダンパが正常である場合は上記のように4個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、S206の判定結果がNoである場合、すなわち4個のダンパのうちの1個以上のダンパの減衰力特性の制御に異常が生じている場合は、各輪要求減衰力計算部212はS214に進み、異常が生じている異常ダンパの減衰力特性を制御するためのアクチュエータの制御を停止する。これにより異常ダンパの減衰力特性の制御が停止される。次いで、S216にて、異常ダンパは1個であるか否かを判定する。異常ダンパが1個である場合(S214:Yes)はS218に進み、異常の内容が作動不能異常であるか否かを判定する。作動不能異常とは、アクチュエータ132やバルブ131が何らかの原因によって固着するなどにより、可変絞り機構13の作動が不能となる異常である。異常内容がアクチュエータ固着などによる作動不能異常である場合(S218:Yes)は、各輪要求減衰力計算部212はS220に進む。そして、S220にて、F−V特性図を参照し、固定段における減衰力特性から異常ダンパの推定減衰力FNGを計算する。
【0064】
図9はダンパ12の減衰力特性を表すF−V特性図である。この特性図の横軸はバネ上−路面間相対速度V(すなわちサスペンションストローク速度)であり、縦軸は減衰力Fである。図からわかるようにダンパ12の減衰力特性は、バネ上−路面間相対速度に対する減衰力の変化特性である。本実施形態において減衰力特性はバルブ131の回転作動により段階的に設定され、設定段により減衰力特性が表される。図に示される例によれば、設定可能な段数がD1〜D9段であり、設定段が大きくなるほど発生される減衰力が大きくなる。
【0065】
ダンパ12が正常であるときは、バルブ131の回転角の変更により設定段を適宜変更することによってダンパ12の減衰力特性が変更制御されるが、作動不能異常が発生しているときは、設定段がある段に固定されるためにそのダンパの減衰力特性を制御することができない。つまり、作動不能異常が生じている異常ダンパの減衰力特性は固定され、固定された段(固定段)により表される減衰力特性にしたがって減衰力が発生される。このことは、固定された減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGを推定することができることを意味する。例えば固定段が図9に示されるD6段であり、現在のバネ上−路面間相対速度がV1であれば、D6段により表される減衰力特性と相対速度V1とから求められる減衰力F1が異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGであると推定される。
【0066】
したがって、各輪要求減衰力計算部212は、S220にて、異常ダンパに対応する回転角センサから入力したバルブ131の回転角から得られる減衰力特性の固定段と、その異常ダンパが取り付けられている各輪位置におけるバネ上−路面間相対速度とに基づき、図9に示されるF−V特性図を参照して異常ダンパの推定減衰力FNGを計算する。このS220にて固定された異常ダンパの減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を推定する処理が、本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。
【0067】
また、S218の判定結果がNoである場合、つまりダンパの異常内容が作動不能異常ではない場合は、各輪要求減衰力計算部212はS219に進み、異常内容が作動不良異常であるか否かを判定する。作動不良異常は、可変絞り機構13が作動可能ではあるが指令通りに作動しない(正常に作動しない)という異常である。この判定結果がNoである場合は、異常内容が判別できないので、S212に進んでこの処理を終了する。一方、この判定結果がYesである場合、すなわち異常内容が作動不良異常である場合は、S222に進み、フルハード段(最高段)における減衰力特性から、異常ダンパの減衰力FNGを推定する。
【0068】
本例においては、ダンパ12の減衰力特性の制御が停止された場合、バルブ131が流体力によって自然に回転し、そのダンパ12の減衰力特性を表す設定段が、最も大きい減衰力を発生するフルハード段(最高段)になる。図10は、本実施形態におけるバルブ131の構造の一例を示す図である。図に示すように、バルブ131には、流体が流通する流体ポートPが形成されている。流体ポートPは円筒状のバルブ131の周方向に延びており、一端側の開口面積が他端側の開口面積よりも小さい。このため流体ポートPを介して出入りする流体によって、ポートPの他端側の圧力が一端側の圧力よりも大きくなる。このような圧力差によってバルブ131が自ら図の矢印方向に回転する。矢印方向に回転した場合、バルブ開度が小さくなりダンパの設定段がフルハード段に向かう。したがって、制御停止後に流体力によってバルブ131が図示矢印方向に回転することによりダンパ12の減衰力特性の設定段は次第に高い段に移行し、やがてフルハード段に落ち着く。なお、このようなポートの形状の工夫に変えて、電気的な力あるいは機械的な力により強制的にバルブ131を回転させて、ダンパ12の減衰力特性を表す設定段をフルハード段にしてもよい。
【0069】
したがって、各輪要求減衰力計算部212は、S222にて、図9のF−V特性図を参照し、フルハード段(D9段)における減衰力特性およびそのときのバネ上−路面間相対速度(例えばV2)とから求められる減衰力(例えばF2)を異常ダンパの減衰力(推定減衰力)FNGと推定する。本実施形態においてはフルハード段(D9段)における減衰力特性が本発明の特定減衰力特性に相当する。また、S222にて、フルハード段における減衰力特性に基づいて異常ダンパの減衰力を推定する処理が、本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。
【0070】
S220またはS222にて異常ダンパの推定減衰力FNGを計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS224に進み、H式、R式、P式中の各輪要求減衰力のうち、異常ダンパに対応する各輪要求減衰力に推定減衰力FNGを代入する。その後、S226に進み、異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNGが当てはめられたH式,R式,P式を用いて他の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。この場合において、制御変数(未知数)である正常輪についての各輪要求減衰力は3個であるので、拘束条件Sを用いることなく3個の関係式(H式,R式,P式)から残りの3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算することができる。このS226における処理が、本発明の正常輪要求減衰力計算手段および3輪要求減衰力計算手段に相当する。
【0071】
S226にて3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS228に進み、計算した3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力に対応する駆動信号を、正常ダンパに対応する各駆動回路に出力する。正常ダンパに対応する各駆動回路は入力された信号に基づいて、駆動電流を各対応するアクチュエータ132に出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各対応するバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、正常ダンパの減衰力がS226にて求められた各輪要求減衰力となるように、各正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0072】
上記のように、本実施形態によれば、4個のダンパのうちの1個のダンパが異常ダンパであるときは、その異常ダンパの減衰力FNGが推定され、推定減衰力FNGがH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNGが当てはめられた3個の関係式から3個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、さらに計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。つまり、異常ダンパを除外して正常ダンパのみの減衰力特性を制御することにより、バネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が抑えられる。よって、1個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が他の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。その結果、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0073】
異常ダンパが1個である場合は上記のようにして3個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、S216の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパが2個以上である場合は、各輪要求減衰力計算部212はS230に進む。S230にて各輪要求減衰力計算部212は異常ダンパが2個であるか否かを判定する。異常ダンパが2個である場合(S230:Yes)はS232に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1およびFNG2を計算する。推定減衰力FNG1,FNG2の計算方法は、異常ダンパが1個であるときに計算された推定減衰力FNGの計算方法と同一である。S232の処理が本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。次いで、S234にて、H式、R式、P式中の各輪要求減衰力のうち、2個の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1およびFNG2を代入する。
【0074】
続いて各輪要求減衰力計算部212はS236に進み、R式とP式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は、第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2として記憶される。S236の処理が本発明の第1要求減衰力計算手段に相当する。次いで、S238に進み、H式とP式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2として記憶される。S238の処理が本発明の第2要求減衰力計算手段に相当する。次に、S240に進み、H式とR式を用いて残りの2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する。計算により得られた各輪要求減衰力は第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2として記憶される。S240の処理が本発明の第3要求減衰力計算手段に相当する。このようにして、2個の正常ダンパについて3通りの組み合わせの各輪要求減衰力が計算される。
【0075】
2個の正常ダンパの各輪要求減衰力の計算例を以下に示す。この計算例において、2個の異常ダンパは、右前輪側サスペンション装置10FRのダンパおよび左後輪側サスペンション装置10RLのダンパである。右前輪側サスペンション装置10FRのダンパの推定減衰力はFNG1,左後輪側サスペンション装置10RLのダンパの推定減衰力はFNG2である。また、求めるべき正常ダンパについての各輪要求減衰力は、左前輪側要求減衰力Freq_flおよび右後輪側要求減衰力Freq_rrである。また、正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算するときに用いる式は、R式およびH式である。この場合、R式およびH式に異常ダンパの推定減衰力を代入すると、R式およびH式が下記式(eq.30)のように表される。
【数30】
【0076】
R式−H式より下記式(eq.31)が、R式+H式より下記式(eq.32)が、それぞれ得られる。
【数31】
【数32】
【0077】
式(eq.31)を変形することにより右後輪側要求減衰力Freq_rrが式(eq.33)のように、式(eq.32)を変形することにより左前輪側要求減衰力Freq_flが式(eq.34)のように、それぞれ算出される。
【数33】
【数34】
【0078】
なお、S236〜S240の計算処理において、H,R,P式の中から選択される2個の関係式と、求める2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力の組み合わせによっては、計算結果を得ることができない場合が存在する。そのような場合には、正常ダンパについての各輪要求減衰力を求めずに次のステップに進む。
【0079】
3通りの組み合わせの各輪要求減衰力を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS242にてヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*を計算する。さらにS244にてロール要求減衰力推定値Freq_R*を、S246にてピッチ要求減衰力推定値Freq_P*を計算する。ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*は、S236にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をH式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるヒーブ要求減衰力である。ロール要求減衰力推定値Freq_R*は、S238にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をR式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるロール要求減衰力である。ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*は、S240にて計算した2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2および、S232にて推定した2個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2をP式中の各対応するダンパについての各輪要求減衰力に代入することにより得られるピッチ要求減衰力である。
【0080】
各推定値の計算例を示す。推定減衰力FNG1が左前輪側要求減衰力Freq_flに、推定減衰力FNG2が右後輪側要求減衰力Freq_rrにそれぞれ対応し、第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1が右前輪側要求減衰力Freq_frにそれぞれ対応し、第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2が左後輪側要求減衰力Freq_rlにそれぞれ対応している場合、各推定値はそれぞれ下記式(eq.35)〜式(eq.37)により計算される。
【数35】
【数36】
【数37】
【0081】
なお、S242〜S246の計算をする場合において、各推定値を計算するときに用いられる正常ダンパについての各輪要求減衰力が求められていないときは、各推定値を計算により求めることができない。この場合には、その推定値が非常に大きな値に設定される。
【0082】
その後、各輪要求減衰力計算部212は、S248にてヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算する。ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|である。S248の処理が本発明のヒーブ要求減衰力差計算手段に相当する。
【0083】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS250に進み、ロール要求減衰力差|ΔR|を計算する。ロール要求減衰力差|ΔR|は、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|である。S250の処理が本発明のロール要求減衰力差計算手段に相当する。
【0084】
ロール要求減衰力差|ΔR|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS252に進み、ピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算する。ピッチ要求減衰力差|ΔP|は、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|である。S252の処理が本発明のピッチ要求減衰力差計算手段に相当する。
【0085】
なお、要求減衰力差を計算するときに用いられる要求減衰力推定値がS242〜S246にて計算により求めることができずに非常に大きな値に設定されている場合は、要求減衰力差も非常に大きな値になる。つまり、計算により求められた要求減衰力推定値を用いて計算された要求減衰力差は、設定された要求減衰力推定値を用いて計算された要求減衰力差よりも小さい。
【0086】
ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|,ピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算した後は、各輪要求減衰力計算部212はS254に進み、3個の要求減衰力差の中でヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS258に進み、ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS236にてR式およびP式を用いて算出した第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_RPV1およびFreq_RPV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。正常ダンパに対応する各駆動回路は入力された信号に基づいて、駆動電流を各対応するアクチュエータ132に出力する。各アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動により各対応するバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、各正常ダンパの減衰力が第1ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1および第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性がそれぞれ制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0087】
また、S254の判定結果がNoである場合はS256に進む。S256にて各輪要求減衰力計算部212は、3個の要求減衰力差の中でロール要求減衰力差|ΔR|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS260に進み、ロール要求減衰力推定値Freq_R*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS238にてH式およびP式を用いて算出した第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_HPV1およびFreq_HPV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより2個の正常ダンパの減衰力が第1ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1および第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV2となるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0088】
また、S256の判定結果がNoである場合、つまり3個の要求減衰力差の中でピッチ要求減衰力差が最小である場合はS262に進む。そして、S262にて、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*を計算するときに用いた正常ダンパについての各輪要求減衰力、つまりS240にてH式およびR式を用いて算出した第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2を2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、これらの各輪要求減衰力Freq_HRV1およびFreq_HRV2を表す駆動信号を2個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより2個の正常ダンパの減衰力が第1ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1および第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV2となるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0089】
上記のように本実施形態によれば、4個のダンパのうちの2個のダンパが異常ダンパであるときは、異常の内容に応じてこれら2個の異常ダンパの減衰力が推定され、推定減衰力FNG1,FNG2がH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNG1,FNG2が当てはめられた3個の関係式の中から選択された2個の関係式から2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このように異常ダンパを除外して正常ダンパのみの減衰力特性を制御することによりバネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が抑えられる。よって、2個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が他の2個の正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。したがって、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0090】
また、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|,ロール要求減衰力差|ΔR|およびピッチ要求減衰力差|ΔP|の大小比較に基づいて、推定減衰力FNG1,FNG2が当てはめられたH式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる2個の関係式が決定され、決定された2個の関係式から求められた各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。具体的には、3個の要求減衰力差|ΔH|,|ΔR|,|ΔP|の中で、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合にはR式およびP式を用いて計算された第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合にはH式およびP式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合にはH式およびR式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。そして、正規の各輪要求減衰力とみなされた要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0091】
図11は、各モード(ヒーブ,ロール,ピッチ)の要求減衰力差の計算例を示した表である。この例によれば、非線形H∞制御理論を適用することにより計算されたヒーブ要求減衰力Freq_Hが3、ロール要求減衰力Freq_Rが10、ピッチ要求減衰力Freq_Pが8である。また、R式およびP式を用いて計算された第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2をH式に代入することにより算出されるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*が2、H式およびP式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2をR式に代入することにより算出されるロール要求減衰力推定値Freq_R*が13、H式およびR式を用いて計算された第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2をP式に代入することにより算出されるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*が6である。したがって、ヒーブ要求減衰力差|ΔH|は1、ロール要求減衰力差|ΔR|は3、ピッチ要求減衰力差|ΔP|は2である。ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さいため、第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2が2個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。
【0092】
3方向のモード(ヒーブ,ロール,ピッチ)のうちのあるモード(例えばヒーブ)の要求減衰力推定値は、そのモード以外の2方向のモード(例えばロールおよびピッチ)の要求減衰力と各輪要求減衰力との力の釣り合いを表す関係式(例えばR式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力によりバネ上部材HAの振動を減衰制御した場合に発生すると予測されるそのモードの要求減衰力である。また、あるモードの要求減衰力差(例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|)は、そのモードの要求減衰力推定値(例えばヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*)と、そのモードの振動を抑えこむために実際に必要な要求減衰力(例えばヒーブ要求減衰力Freq_H)との差の大きさを表す。この差が大きいということは、そのモードに関する要求減衰力推定値と実際に必要な要求減衰力との乖離が大きいことを示す。したがって、あるモードの要求減衰力差(例えばヒーブ要求減衰力差|ΔH|)が大きい場合において、そのモード以外のモードに関する2個の関係式(例えばR式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力(例えば第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2)に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、そのモードの振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、そのモードの振動(例えばヒーブ振動)を十分に抑えこむことができない。
【0093】
また、あるモードの要求減衰力差が小さいということは、そのモードに関する要求減衰力推定値と実際に必要な要求減衰力との乖離が小さいことを示す。したがって、あるモードの要求減衰力差(例えばロール要求減衰力差|ΔR|)が最も小さい場合において、そのモード以外のモードに関する2個の関係式(例えばH式およびP式)を用いて算出された各輪要求減衰力(例えば第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2)に基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、そのモードの振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いので、そのモードの振動(例えばロール振動)を効果的に抑えこむことができる。
【0094】
このようなことから、本実施形態のように、要求減衰力差が最も小さいモード以外のモードに関する2個の関係式を用いて算出された各輪要求減衰力に基づいて、2個の正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、各モードの振動を効果的に抑えこむことができ、車両の乗り心地をより向上させることができるのである。
【0095】
異常ダンパが2個である場合は上記のようにして減衰力が制御される。これに対し、S230の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパが3個以上である場合は、各輪要求減衰力計算部212はS264に進み、異常ダンパが3個であるか否かを判定する。この判定結果がNoである場合、すなわち全てのダンパが異常である場合は、減衰力を制御することができない。したがって、この場合はS212に進んでこの処理を終了する。
【0096】
一方、S264の判定結果がYesである場合、すなわち異常ダンパの個数が3個である場合はS266に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を計算する。推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3の計算方法は上記に述べた通りである。S266の処理が本発明の異常輪減衰力推定手段に相当する。次いで、S268に進み、H,R,P式中の各輪要求減衰力Freq_fr,Freq_fl,Freq_rr,Freq_rlのうち、異常ダンパに対応する要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を代入する。
【0097】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S270にて、H式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとして記憶される。次いで、S272にて、R式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はロール各輪要求減衰力Freq_RVとして記憶される。次に、S274にて、P式に基づいて残りの1個の正常ダンパについての要求減衰力を計算する。計算により得られた要求減衰力はピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとして記憶される。このようにして、1個の正常ダンパについて3通りの各輪要求減衰力が計算される。
【0098】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S276にて、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|を計算する。ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|は以下のように計算される。まず、S270にてH式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3をR式の各対応する各輪要求減衰力に代入することによりロール要求減衰力を計算する。計算された要求減衰力はヒーブ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:H*として記憶される。次に、ヒーブ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R:H*-Freq_R|を計算する。こうして計算された差の絶対値がヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|である。
【0099】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S278にて、ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|を計算する。ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|は、S270にてH式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをP式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたヒーブ固定ピッチ要求減衰力推定値Freq_P:H*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P:H*-Freq_P|である。
【0100】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S280にて、ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|を計算する。ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|は、S272にてR式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをH式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたロール固定ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H:R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H:R*-Freq_H|である。
【0101】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S282にて、ロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|を計算する。ロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|は、S272にてR式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをP式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたロール固定ピッチ要求減衰力推定値Freq_P:R*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P:R*-Freq_P|である。
【0102】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S284にて、ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|を計算する。ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|は、S274にてP式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをH式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたピッチ固定ヒーブ要求減衰力推定値Freq_H:P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H:P*-Freq_P|である。
【0103】
続いて各輪要求減衰力計算部212は、S286にて、ピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|を計算する。ピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|は、S274にてP式を用いて計算した1個の正常ダンパについてのピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとS266にて計算した3個の異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3とをR式の各対応する各輪要求減衰力に代入することにより計算されたピッチ固定ロール要求減衰力推定値Freq_R:P*とS108にて非線形H∞制御理論を適用することにより算出されたロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R:P*-Freq_R|である。
【0104】
次に、各輪要求減衰力計算部212は、S288にて、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|とヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|とを加算することによりロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|を計算する。続いて、S290にて、ロール固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHR|とロール固定ピッチ要求減衰力差|ΔPR|とを加算することによりヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|を計算する。次いで、S292にて、ピッチ固定ヒーブ要求減衰力差|ΔHP|とピッチ固定ロール要求減衰力差|ΔRP|とを加算することによりヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|を計算する。
【0105】
その後、各輪要求減衰力計算部212はS294に進み、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS297に進み、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。駆動回路は入力された信号に基づいて、対応するアクチュエータ132に駆動電流を出力する。アクチュエータ132は入力された駆動電流に基づいて作動する。アクチュエータ132の作動によりバルブ131の回転作動が制御される。このような可変絞り機構13の作動制御により、1個の正常ダンパの減衰力がヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0106】
また、S294の判定結果がNoである場合はS296に進み、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が最小であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS298に進み、ロール各輪要求減衰力Freq_RVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このロール各輪要求減衰力Freq_RVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより1個の正常ダンパの減衰力がロール各輪要求減衰力Freq_RVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0107】
また、S296の判定結果がNoである場合は、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|のうちで、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が最小である。この場合はS299に進み、ピッチ各輪要求減衰力Freq_PVを1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなし、このピッチ各輪要求減衰力Freq_PVを表す駆動信号を1個の正常ダンパに対応する駆動回路に出力する。これにより1個の正常ダンパの減衰力がピッチ各輪要求減衰力Freq_PVとなるように減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0108】
このように、本実施形態によれば、4個のダンパのうちの3個のダンパが異常ダンパであるときは、これら3個の異常ダンパの減衰力が推定され、推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3がH式,R式,P式中の異常ダンパについての各輪要求減衰力に当てはめられる。そして、推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3が当てはめられた3個の関係式の中から選択された1個の関係式から1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算され、計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このように異常ダンパを除外して1個の正常ダンパのみの減衰力特性を制御することによりバネ上部材HAのヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動が最も効果的に抑えられる。よって、3個のダンパに異常が生じたときであっても、その異常が正常ダンパの減衰力特性の制御に悪影響を与えることはない。したがって、バネ上部材HAの振動抑制に対する制御性能の悪化が抑えられる。
【0109】
また、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|,ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|,ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|の大小比較に基づいて、H式,R式,P式の中から正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力を求めるために用いる1個の関係式が選択される。具体的には、3個の要求減衰力差|ΔRPH|,|ΔHPR|,|ΔHRP|の中で、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が最も小さい場合にはH式が選択されるとともにH式を用いて計算されたヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が最も小さい場合にはR式が選択されるとともにR式を用いて計算されたロール各輪要求減衰力Freq_RVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされ、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が最も小さい場合にはP式が選択されるとともにP式を用いて計算されたピッチ各輪要求減衰力Freq_PVが1個の正常ダンパについての正規の各輪要求減衰力とみなされる。そして、正規の各輪要求減衰力とみなされた各要求減衰力に基づいて1個の正常ダンパの減衰力特性が制御される。
【0110】
ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|は、ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|とヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|との和である。ヒーブ固定ロール要求減衰力差|ΔRH|は、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを用いて計算されたロール要求減衰力推定値Freq_R*と実際に必要なロール要求減衰力Freq_Rとの差の大きさを表し、ヒーブ固定ピッチ要求減衰力差|ΔPH|は、ヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVを用いて計算されたピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と実際に必要なピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の大きさを表す。つまり、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が大きいということは、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とロール要求減衰力Freq_Rとの乖離、および、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とピッチ要求減衰力Freq_Pとの乖離が大きいということを表している。したがって、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が大きい場合にヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ロール方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ロール振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができない。同様に、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が大きい場合にロール各輪要求減衰力Freq_RVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ヒーブ方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ヒーブ振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができない。同様に、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が大きい場合にピッチ各輪要求減衰力Freq_PVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときは、ヒーブ方向およびロール方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が大きく異なるので、ヒーブ振動およびロール振動を効果的に抑えこむことができない。
【0111】
これに対し、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が小さいということは、ロール要求減衰力推定値Freq_R*とロール要求減衰力Freq_Rとの乖離、および、ピッチ要求減衰力推定値Freq_P*とピッチ要求減衰力Freq_Pとの乖離が小さいということを表している。したがって、ロール−ピッチ要求減衰力差|ΔRPH|が小さい場合にヒーブ各輪要求減衰力Freq_HVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ロール方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにロール振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができる。同様に、ヒーブ−ピッチ要求減衰力差|ΔHPR|が小さい場合にロール各輪要求減衰力Freq_RVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ヒーブ方向およびピッチ方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにヒーブ振動およびピッチ振動を効果的に抑えこむことができる。同様に、ヒーブ−ロール要求減衰力差|ΔHRP|が小さい場合にピッチ各輪要求減衰力Freq_PVに基づいて正常ダンパの減衰力特性を制御したときには、ヒーブ方向およびロール方向の振動を抑えこむために必要な減衰力と実際に発生される減衰力が近いためにヒーブ振動およびロール振動を効果的に抑制することができる。
【0112】
したがって、本実施形態の制御方法にしたがって1個の正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、各モードの振動を効果的に抑制することができる。
【0113】
(変形例)
上記した実施形態によれば、異常ダンパが2個あるいは3個であるときに、各モードの要求減衰力差の大小比較に基づいて3個の関係式の中から選択された2個あるいは1個の関係式を用いて正常ダンパの各輪要求減衰力が計算され、計算された各輪要求減衰力に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。これに対し、以下に述べる変形例では、異常ダンパが2個あるいは3個であるときに、H式,R式およびP式の3個の関係式の中から、予め定められた優先順位にしたがって選択された2個あるいは1個の関係式を用いて正常ダンパの各輪要求減衰力が計算される。
【0114】
図12Aおよび図12Bは、変形例に係る減衰力制御の流れを示すフローチャートの一部である。これらのフローチャートは、図6BのフローチャートのS216の判定結果がNoである場合、すなわち異常ダンパの個数が1個ではない場合に、図6C以降のフローチャートに代えて行われる処理を表す。
【0115】
すなわち、各輪要求減衰力計算部212は図6BのS216の判定結果がNoである場合に、図12AのS330にて異常ダンパが2個であるか否かを判定する。この判定結果がYesである場合はS332に進み、異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2を計算する。次いで、S334にて、H式,R式,P式中の各輪要求減衰力のうち、2個の異常ダンパについての各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2を代入する。続いて、S336にて、R式およびH式により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能であるか否かを判定する。計算可能である場合にはS340に進み、H式およびR式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2を計算する。そして、S346にて第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ヒーブ−ロール各輪要求減衰力Freq_HRV1,Freq_HRV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0116】
S336の判定結果がNoである場合は、各輪要求減衰力計算部212はS338に進み、R式およびP式により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能であるか否かを判定する。計算可能である場合にはS342に進み、R式およびP式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2を計算する。そして、S348にて第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ロール−ピッチ各輪要求減衰力Freq_RPV1,Freq_RPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0117】
S338の判定結果がNoである場合は、正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算可能な関係式の組み合わせはH式およびP式のみである。したがってこの場合、各輪要求減衰力計算部212はS344に進み、H式およびP式を用いて2個の正常ダンパについての第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2を計算する。そして、S350にて第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2を出力する。これにより正常ダンパの減衰力が第1,第2ヒーブ−ピッチ各輪要求減衰力Freq_HPV1,Freq_HPV2となるように、正常ダンパの減衰力特性が制御される。その後S212に進んでこの処理を終了する。
【0118】
本例においては、H式,R式,P式の3個の関係式の優先順位が予め定められ、定められた優先順位にしたがって正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する関係式が選択される。具体的には、最も優先順位の高い重要な式がR式、次に優先順位の高い式がH式、最も優先順位の低い式がP式として、予め定められている。そして、原則的に最も優先順位が高い式(R式)および次に優先順位が高い式(H式)により2個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。しかし、上記2式を用いて各輪要求減衰力が計算できない場合には、最も優先順位が高い式(R式)および最も優先順位が低い式(P式)により正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。これらの2式を用いても各輪要求減衰力が計算できない場合には、残りの組み合わせであるH式およびP式を用いて正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。
【0119】
3個の関係式の優先順位は、様々な観点から定めることができる。例えば、3方向のモードのうち、どのモードの振動を減衰するのが乗員にとって乗り心地性が向上するかに基づいて優先順位を決定することができる。一般的に乗員が最も不快を感じる振動はロール方向の振動であり、次に大きく不快を感じる振動がヒーブ方向の振動である。したがって、3個の関係式の優先順位は本例のように高い方からR式,H式,P式となるように予め設定することができる。もちろんその他の観点に基づいて優先順位を決定してもよい。また、乗員の好みに応じて抑制するモード振動の優先順位を決定できるようにしてもよい。
【0120】
また、図12AのS330の判定結果がNoである場合は、各輪要求減衰力計算部212は図12BのS352に進み、異常ダンパが3個であるか否かを判定する。この判定結果がNoである場合は異常ダンパが4個である。4個全てのダンパが異常であるときはダンパの減衰力特性を制御することはできない。したがってこの場合はS212に進んでこの処理を終了する。一方、S352の判定結果がYesである場合はS354に進む。
【0121】
S354にて各輪要求減衰力計算部212は異常ダンパの推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を計算する。次いで、S356にて、R式中の各輪要求減衰力のうち、異常ダンパに対応する3個の各輪要求減衰力に推定減衰力FNG1,FNG2,FNG3を代入する。続いて、S358にて、R式に基づいて正常ダンパについてのロール各輪要求減衰力Freq_RVを計算する。次いでS360にてロール各輪要求減衰力Freq_RVを出力する。そのS212に進んでこの処理を終了する。
【0122】
このように本例によれば、異常ダンパが3個であるときは、R式に基づいて1個の正常ダンパについての各輪要求減衰力が計算される。3個の関係式のうちどの関係式に基づいて1個のダンパについての各輪要求減衰力を計算するのかは、予め定めておくことができる。本例においては、3個の関係式の優先順位が高い方からR式,H式,P式と定められているため、正常ダンパが1個であるときは、優先的にR式に基づいて各輪要求減衰力が計算される。優先順位の定め方は様々な観点から行うことができる。また、乗員の好みに応じて優先順位を決定できるようにしてもよい。
【0123】
以上説明したように、本実施形態によれば、ダンパに異常が生じた場合、その異常ダンパを除いた正常ダンパの減衰力特性を制御することにより、正常ダンパの減衰力特性の制御性能の悪化を抑えることができる。また、異常ダンパが複数存在するときは、3個の関係式から乗り心地などに関して最も好ましい関係式として選択される2個あるいは1個の関係式に基づいて正常ダンパの減衰力特性が制御される。このため、異常発生時における減衰力特性の制御性能の悪化を極力抑えることができる。
【符号の説明】
【0124】
1…サスペンション制御装置、10FR,10FL,10RR,10RL…サスペンション装置、11…バネ、12…ダンパ、13…可変絞り機構(可変制御手段)、131…バルブ、132…アクチュエータ、20…電気制御装置(減衰力制御装置)、21…サスペンションECU、211…モード要求減衰力計算部、212…各輪要求減衰力計算部、FNG…推定減衰力、Freq_H…ヒーブ要求減衰力、Freq_R…ロール要求減衰力、Freq_P…ピッチ要求減衰力、Freq_fr…右前輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_fl…左前輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_rr…右後輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)、Freq_rl…左後輪側要求減衰力(各輪要求減衰力)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバネ上部材の各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置において、
バネ上部材の振動を抑制するように、バネ上部材のヒーブ方向に作用するヒーブ減衰力の制御目標値であるヒーブ要求減衰力Freq_Hと、バネ上部材のロール方向に作用するロール減衰力の制御目標値であるロール要求減衰力Freq_Rと、バネ上部材のピッチ方向に作用するピッチ減衰力の制御目標値であるピッチ要求減衰力Freq_Pをそれぞれ計算するモード要求減衰力計算手段と、
4個の各ダンパのうち1個乃至3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が発生している場合に、前記異常が発生している異常ダンパの減衰力を推定する異常輪減衰力推定手段と、
前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hと4個の各ダンパが発生する各輪減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すヒーブ−各輪要求減衰力関係式、前記ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すロール−各輪要求減衰力関係式、前記ピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に、前記異常輪減衰力推定手段により推定された前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式のうち少なくとも1個の関係式から、前記異常が発生していない正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する正常輪要求減衰力計算手段と、を備え、
前記正常輪要求減衰力計算手段により計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動を制御することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰力制御装置において、
前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動が不能である作動不能異常である場合に、前記可変制御手段の作動が不能であることによって固定された前記異常ダンパの減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減衰力制御装置において、
前記可変制御手段は、減衰力特性の制御停止時にダンパの減衰力特性が予め決められた特定減衰力特性になるように構成されており、
前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が、前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段が作動可能であるが正常に作動しない作動不良異常である場合に、前記異常ダンパの減衰力特性の制御を停止するとともに、前記特定減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが1個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された1個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式から3個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する3輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが2個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された2個の関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する2輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の減衰力制御装置において、
前記2輪要求減衰力計算手段は、
ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第1要求減衰力計算手段と、
ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第2要求減衰力計算手段と、
ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第3要求減衰力計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をヒーブ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるヒーブ要求減衰力であるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|であるヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算するヒーブ要求減衰力差計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をロール−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるロール要求減衰力であるロール要求減衰力推定値Freq_R*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|であるロール要求減衰力差|ΔR|を計算するロール要求減衰力差計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をピッチ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるピッチ要求減衰力であるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|であるピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算するピッチ要求減衰力差計算手段と、を備え、
前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|、前記ロール要求減衰力差|ΔR|および前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|のうち前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合には前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の減衰力制御装置において、
前記2輪要求減衰力計算手段は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式について予め設定された優先順位の高い2個の関係式に表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の減衰力制御装置において、
前記優先順位は車両の乗り心地に影響する大きさを考慮して設定されることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の減衰力制御装置において、
前記優先順位の最も高い関係式はロール−各輪要求減衰力関係式であり、前記その次に優先順位の高い関係式はヒーブ−各輪要求減衰力関係式であることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、
前記異常ダンパが3個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された1個の関係式に表される3個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された3個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記1個の関係式から1個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する1輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記異常ダンパが0個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式と、ロール−各輪要求減衰力関係式と、ピッチ−各輪要求減衰力関係式と、4個の各輪要求減衰力の関係を制限する拘束条件として予め定められた各輪拘束条件とに基づいて、4個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する4輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項1】
車両のバネ上部材の各輪位置にそれぞれ取り付けられた4個のサスペンション装置のダンパの減衰力特性を制御する減衰力制御装置において、
バネ上部材の振動を抑制するように、バネ上部材のヒーブ方向に作用するヒーブ減衰力の制御目標値であるヒーブ要求減衰力Freq_Hと、バネ上部材のロール方向に作用するロール減衰力の制御目標値であるロール要求減衰力Freq_Rと、バネ上部材のピッチ方向に作用するピッチ減衰力の制御目標値であるピッチ要求減衰力Freq_Pをそれぞれ計算するモード要求減衰力計算手段と、
4個の各ダンパのうち1個乃至3個のダンパの減衰力特性の制御に異常が発生している場合に、前記異常が発生している異常ダンパの減衰力を推定する異常輪減衰力推定手段と、
前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hと4個の各ダンパが発生する各輪減衰力の制御目標値である各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すヒーブ−各輪要求減衰力関係式、前記ロール要求減衰力Freq_Rと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すロール−各輪要求減衰力関係式、前記ピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪要求減衰力との間の力の釣り合いを表すピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に、前記異常輪減衰力推定手段により推定された前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式のうち少なくとも1個の関係式から、前記異常が発生していない正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する正常輪要求減衰力計算手段と、を備え、
前記正常輪要求減衰力計算手段により計算された正常ダンパについての各輪要求減衰力に基づいて、前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動を制御することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰力制御装置において、
前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段の作動が不能である作動不能異常である場合に、前記可変制御手段の作動が不能であることによって固定された前記異常ダンパの減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減衰力制御装置において、
前記可変制御手段は、減衰力特性の制御停止時にダンパの減衰力特性が予め決められた特定減衰力特性になるように構成されており、
前記異常輪減衰力推定手段は、前記異常の内容が、前記異常ダンパの減衰力特性を制御するための可変制御手段が作動可能であるが正常に作動しない作動不良異常である場合に、前記異常ダンパの減衰力特性の制御を停止するとともに、前記特定減衰力特性に基づいて前記異常ダンパの減衰力を推定することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが1個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された1個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記3個の関係式から3個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する3輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、前記異常ダンパが2個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された2個の関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する2輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の減衰力制御装置において、
前記2輪要求減衰力計算手段は、
ロール−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された2個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第1要求減衰力計算手段と、
ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびピッチ−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第2要求減衰力計算手段と、
ヒーブ−各輪要求減衰力関係式およびロール−各輪要求減衰力関係式にそれぞれ表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から残りの2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する第3要求減衰力計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をヒーブ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるヒーブ要求減衰力であるヒーブ要求減衰力推定値Freq_H*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ヒーブ要求減衰力Freq_Hとの差の絶対値|Freq_H*-Freq_H|であるヒーブ要求減衰力差|ΔH|を計算するヒーブ要求減衰力差計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をロール−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるロール要求減衰力であるロール要求減衰力推定値Freq_R*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ロール要求減衰力Freq_Rとの差の絶対値|Freq_R*-Freq_R|であるロール要求減衰力差|ΔR|を計算するロール要求減衰力差計算手段と、
2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力および前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力をピッチ−各輪要求減衰力関係式に表される各輪要求減衰力に当てはめることにより算出されるピッチ要求減衰力であるピッチ要求減衰力推定値Freq_P*と、前記モード要求減衰力計算手段により計算された前記ピッチ要求減衰力Freq_Pとの差の絶対値|Freq_P*-Freq_P|であるピッチ要求減衰力差|ΔP|を計算するピッチ要求減衰力差計算手段と、を備え、
前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|、前記ロール要求減衰力差|ΔR|および前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|のうち前記ヒーブ要求減衰力差|ΔH|が最も小さい場合には前記第1要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ロール要求減衰力差|ΔR|が最も小さい場合には前記第2要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御し、前記ピッチ要求減衰力差|ΔP|が最も小さい場合には前記第3要求減衰力計算手段により計算された2個の各輪要求減衰力に基づいて前記正常ダンパの減衰力特性を制御するための前記可変制御手段の作動を制御することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の減衰力制御装置において、
前記2輪要求減衰力計算手段は、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式について予め設定された優先順位の高い2個の関係式に表される2個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に2個の前記異常ダンパの前記推定減衰力が当てはめられた前記2個の関係式から2個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算することを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の減衰力制御装置において、
前記優先順位は車両の乗り心地に影響する大きさを考慮して設定されることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の減衰力制御装置において、
前記優先順位の最も高い関係式はロール−各輪要求減衰力関係式であり、前記その次に優先順位の高い関係式はヒーブ−各輪要求減衰力関係式であることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記正常輪要求減衰力計算手段は、
前記異常ダンパが3個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式、ロール−各輪要求減衰力関係式、ピッチ−各輪要求減衰力関係式の中から選択された1個の関係式に表される3個の前記異常ダンパについての各輪要求減衰力に前記異常輪減衰力推定手段により推定された3個の前記異常ダンパの推定減衰力が当てはめられた前記1個の関係式から1個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する1輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の減衰力制御装置において、
前記異常ダンパが0個であるときに、ヒーブ−各輪要求減衰力関係式と、ロール−各輪要求減衰力関係式と、ピッチ−各輪要求減衰力関係式と、4個の各輪要求減衰力の関係を制限する拘束条件として予め定められた各輪拘束条件とに基づいて、4個の前記正常ダンパについての各輪要求減衰力を計算する4輪要求減衰力計算手段を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2010−274720(P2010−274720A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127570(P2009−127570)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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