温度補償回路、ならびに電子機器
【課題】 曲線状の周波数温度特性を持つ水晶発振回路に対し、必要なメモリ量と計算の負荷を極力小さく抑えながら、温度に依存しない高い精度を維持することのできる、温度補償機能を持った電子時計を提供することを目的とする。
【解決手段】 温度補償を行う温度範囲を複数の所定温度区間に分割し、所定温度区間ごとにその境界点を実測した値から作成した1次式による1次補間で大まかな補正を行い、更に、それぞれの所定温度区間に対してその中間点を頂点とした2次式を用いて2次補間を行って元の周波数温度特性と1次補間直線との差異を相殺することで、高い精度で安定した周波数温度特性を作りあげることができる。
【解決手段】 温度補償を行う温度範囲を複数の所定温度区間に分割し、所定温度区間ごとにその境界点を実測した値から作成した1次式による1次補間で大まかな補正を行い、更に、それぞれの所定温度区間に対してその中間点を頂点とした2次式を用いて2次補間を行って元の周波数温度特性と1次補間直線との差異を相殺することで、高い精度で安定した周波数温度特性を作りあげることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の温度に依存せずに精度を維持するための温度補償回路と、該温度補償回路を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
指針を用いて時刻を表示するアナログ電子時計や、液晶パネルを用いて時刻を表示するデジタル電子時計、あるいはそれらの中でも腕時計タイプの物や壁掛けタイプの物など、近年では数多くの電子時計が流通、活用されている。このような電子時計においては、高い精度を得るために32,768Hzなどの高い周波数を持った水晶振動子を源信として時間を計測、それを元に現在の時刻を管理して表示するという形式が一般的となっている。しかし、源信となる水晶振動子を始め、それに付随する発振回路など、様々な構成要素は自身の温度によって性能が変化する温度特性を持つために、電子時計を使用する環境の温度によって計時の精度が変動してしまうことも周知のことである。これは例えば、電子腕時計を腕に着けて携帯している場合と、涼しい机の中に保管している場合では、電子腕時計の周囲温度が大きく異なるために精度にずれが生じ、最終的に電子腕時計の時刻そのもののずれに繋がってしまうといった問題を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような温度特性に起因する精度ずれを起こさない電子時計を実現するための手法として、電子時計が周囲の温度を検知し、この温度に応じて自身の発振回路を調整することで温度特性を相殺する、温度補償の手法が提案されている。
【0004】
この温度補償の手法の一例として、特許文献1の温度補償水晶発振器では、温度センサで取得した温度情報を、水晶振動子の温度特性に対応させた折れ線特性を有する電圧に変換する回路を持ち、その電圧を水晶振動子に印加することで周波数を変動させ、水晶振動子の温度特性を相殺する方法を採っている。
【0005】
また、類似の例として、特許文献2のディジタル温度補償発振器においても、温度検出器にて取得した温度情報を、記憶回路に保存された離散的な補償データと照らし合わせ、完全に温度情報に合致する補償データが存在すればそれを温度補償に用い、データが存在しない場合には周辺データに基く近似直線から温度補償量を算出し、この温度補償量を電圧に変換して発振器に加えることで、発振器の温度特性を相殺する方法を採っている。
【0006】
特許文献3のディジタルガンマ補正回路においては、目的こそ温度特性の補償ではないものの、温度特性のように曲線を描く映像のガンマ特性に対し、映像の入力データに応じたガンマ補正データをメモリ上のデータテーブルから読み出し、入力データに加算することで、所望の映像信号にあたるガンマ補正済みデータを形成する方法を採っている。
【0007】
また、特許文献4の温度補償付電子時計では、感温発振器のカウント値に記憶器からの数値情報を加算することで得た温度情報を、演算回路で2乗演算することで補正値を算出し、これを温度補償回路に与えて回路の出力を制御することで、水晶振動子の温度特性を相殺する方法を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−126304号公報(第6図)
【特許文献2】特開平7−162295号公報(図3)
【特許文献3】特開平2−70177号公報(第2図)
【特許文献4】特開昭58−143292号公報(第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1ないし特許文献2に記載の手法においては、複数の温度特性データとそれらの点を結ぶ近似直線を用いることで、発振器の温度特性に対応した大まかな補正を、小さなメモリ領域、小さな処理で実現することができるという効果はあるものの、発振器の温度特性は曲線であるために近似直線による補正部分においてはどうしても差異が生じてしまい、特に極めて高い精度が要求される電子時計においては、不充分な温度補償能力となってしまう可能性があるという課題を有していた。
【0010】
また、前記特許文献3に記載の手法においては、差分データを活用することで、複雑な曲線を描く特性に対しても少ないビット数で最適な補正値を提供できるという効果はあるものの、温度補償のように補正したい範囲が広く、かつ細かい分割で補正を行いたい場合には、必要な補正データの数量が相応に多くなり、非常に大きなメモリが必要になってしまうという課題を有していた。
【0011】
また、前記特許文献4に記載の手法では、2次特性を持つとされる水晶振動子に対して2乗演算した補正値を適用することから、水晶振動子の高精度な補正という観点からは有効性が高いと考えられるものの、実際の周波数温度特性は水晶振動子以外の周辺回路の温度特性の影響も受けるために、純粋な2次特性ではなく若干歪んだ曲線となるため、このような単独の2次式による補正は、頂点温度から離れるほどに大きな誤差を生じてしまう可能性があるという課題を有していた。更に、こういった単独の式による演算の場合、精度を高めるためには次数を上げる必要があり、これに伴う計算負荷の増大によって、電子時計の電子回路、ないしマイクロコンピュータでは対応が困難になってしまうという課題も有している。
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決しようとするもので、必要なメモリ量と計算負荷を極力抑えながら、水晶発振回路の周波数温度特性に対して適切な補正量を算出し、周辺温度に依存しない高い精度を維持することのできる、温度補償機能を持った電子時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明は、時刻の基準となる周波数温度特性を有する水晶発振回路と、周囲の温度を計測する温度センサと、前記水晶発振回路の出力を該温度センサの出力を元に補正する温度補償回路とを有する電子時計であって、該温度補償回路は、所定温度区間ごとに1次式で近似された温度補償用データを出力する1次補間回路と、該1次補間回路の出力と前記水晶発振回路の周波数温度特性の差異を補償する2次補間回路とを有し、該2次補間回路は該所定温度区間のそれぞれの中間点を頂点とする2次関数で表される温度補償用データを出力することを特徴とする。
【0014】
この構成によって、前記電子時計は、前記水晶発振回路の周波数温度特性を前記1次補間回路によって大まかに補償した後で、更に前記2次補間回路によって該1次補間回路による補償で生じた誤差を補償するため、広い温度範囲に亘って温度補償を行いたいような場合にも、該1次補間回路においては前記所定温度区間ごとの1次式の係数のみと少量のデータによって必要最低限の該周波数温度特性に対応した補正を行うことができ、更に該2次補正回路による2次曲線を用いた補正によって曲線を直線近似した際の誤差を適切に補正することができることにより、大きなメモリを必要とすることなく、かつ2次までの比較的負荷の軽い演算にて、高精度な温度補償を実現することができる。またこの時、該2次補正回路による補正は該所定温度区間のそれぞれの中間点を2次曲線の頂点としてい
るため、それぞれ少しずつ対象温度の幅や該1次補間後の誤差の傾向が異なる各々の該所定温度区間のいずれにおいても、該差異の最も大きいと考えられる該中間点を確実に補正すると共に、外中間点を中心に該所定温度区間全体を均等かつ滑らかに補正することができる。
【0015】
また、前記1次補間回路と前記2次補間回路にて演算に用いる係数は記憶手段に保持されており、このうち該2次補間回路にて用いる係数については全ての前記所定温度区間において共通の値が使用されることを特徴とする。
この構成によって、該記憶手段に保持しなければならないデータの量を削減し、容量の限られる電子時計のメモリをより効率良く利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、1次関数によって大まかな補正を行った上で2次関数を用いて精細な合せ込みを行うことにより、例えば小型の電子腕時計のように温度補償のために用意できるメモリ量に限度があったり、割ける演算の負荷が限られたりするような場合にも、容易かつ適切に温度補償を行って高い精度を維持することができる。更に、これらの温度補償演算の式は複数の実測温度、実測周波数を基準として作成されているため、水晶発振回路がそれを構成する様々な部品の影響によって複雑な周波数温度特性を持つような場合にも、比較的適切な温度補償を行える可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態における、温度補償の原理を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における、電子時計全体の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における、温度補償処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態における、記憶手段に保存されたデータの一覧表である。
【図5】本発明の第1の実施形態における、ゼロ位置補正の内容を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における、各温度区間の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]第1実施例
以下、図面を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態は、温度センサの測定値と記憶手段のデータを元に2段階の温度補償を演算し、これを用いて水晶発振回路などを含む基準信号発生回路の出力を補正することで、周辺温度に依存しない高精度の時刻情報を表示する例である。
[1−1]温度補償の原理
図1は本発明の第1の実施形態を示す図で、本発明の電子時計において行われる温度補償の一連の原理を示す説明図である。
【0020】
図1−1は、本発明の電子時計における周波数温度特性を一部抜き出したグラフであり、実線が基準信号発生回路の元々の周波数温度特性を表す。なお、以降の説明においては、周波数は言葉通りの周波数実値ではなく、本発明での意図するところから、目標の精度に対する精度の変位と言う意味で取り扱う。
【0021】
まず、前記基準信号発生回路の周波数温度特性に対し、例として、図中に円で示すように3点の実測を行う。該3点の実測点は、温度補償において補正に使われる値となると同時に、その温度は該温度補償の際の所定温度区間の境界点ともなる。
【0022】
次に、該3点の実測点の間、すなわち2つの所定温度区間に対し、図中に一点鎖線で示
すように、それぞれ実測点を繋ぐ形で一次式の補正直線を作成する。これが本発明における1次補間の直線で、その各温度における値が1次補間値d1となる。該1次補間の直線は、温度によって大きく変化しかつ様々な回路要因によって複雑な歪みを生じている該基準信号発生回路の周波数温度特性に、該所定温度区間単位で追従しており、その係数がメモリなどの記憶手段に保存されて温度補償の際に適宜呼び出される。
【0023】
温度補償に際し、前記基準信号発生回路の周波数温度特性から前記1次補間値d1を引いた結果が図1−2に示す1次補間後の周波数温度特性となる。ここで、該1次補間後の特性は、山形の曲線を描いていた該基準信号発生回路の周波数温度特性を直線で補間したため、所定温度区間ごとに小さな山なりの特性を示し、本発明の電子時計の目標精度が満たせていない。
【0024】
なお、図1−2に示す1次補間後の周波数温度特性値は、図1−1に示す周波数温度特性値より絶対値が小さいので、図1−2では、縦軸方向の精度のスケールを拡大して図示している。後述の図1−3、図1−4も同様である。
【0025】
図1−3は、前記1次補間後の周波数温度特性に対し、更に2次補間を行う過程を表したグラフである。2次補間では、図中に実線で示した該1次補間後の特性の山なりの特性を相殺する形で、周波数特性の補間を行い、精度を向上させる。
【0026】
2次補間においては、前記所定温度区間ごとに、図中に一点鎖線で示したような2次曲線を作成する。ここで、該2次曲線の頂点はそれぞれの該所定温度区間の中間点に位置し、2次式の各項の係数は事前に記憶手段に保存しておいた物を用いる。これが本発明における2次補間の曲線となると同時に、その各温度における値が2次補間値d2となる。
【0027】
この時、前記2次補間の曲線の係数はいずれの前記所定温度区間においても共通だが、該所定温度区間のそれぞれの中間点を頂点としているため、該所定温度区間ごとの微小な周波数温度特性の違いに対しても、さほど大きな不整合を起こさずに補間を行うことができ、これによる誤差は最終的に目的とする精度に対して充分に小さいことが期待できる。
【0028】
そして、前記1次補間後の周波数温度特性から前記2次補間値d2を引いたものが図1−4に示す2次補間後の周波数温度特性で、本発明の温度補償後の周波数温度特性であり、該電子時計に要求される目標精度を、温度に依存せずに確保することができる。
[1−2]電子時計の構成
次に、本発明の第1の実施形態における電子時計の全体構成について、図2を用いて説明する。
【0029】
図2において、11は電子時計の時間計測の基準となる基準信号発生回路であり、内部には源信を含む発振回路12と、出力を電子時計に必要な周波数に変換する分周回路13を持つ。基準信号発生回路11で生成された基準信号S22は、電子時計全体の動作を司る制御部21、及びその中にある計時カウンタ22に送信され、適宜タイミング管理や時刻管理に使用される。制御部21はこうして得た時刻情報を元に表示制御信号S61を生成し、表示手段61を駆動することで時刻をユーザに伝えることができる。
【0030】
また、これと並行して、制御部21は基準信号S22を基準に60秒に1回、温度補償制御信号S31を温度補償回路31に送り、温度補償処理を実行させる。温度補償回路31は内部に1次補間回路32と2次補間回路33を持ち、それぞれの補間処理での必要に応じて記憶手段41、温度センサ51に記憶読出信号S41a、温度計測信号S51aを送信、その返答として記憶データ41bと温度データS51bを受信し、温度補償の演算を行う。こうして算出された温度補償量は、基準制御信号S11として基準信号発生回路
11に伝えられ、分周回路13の設定変更による基準信号発生回路11の出力調整という形で電子時計の精度が制御される。
【0031】
なお、前記温度補償信号S31の送信タイミングは60秒周期に限定される物ではなく、好ましくは、電子時計のその他の演算や時刻管理などに支障をきたさず、消費電力にも問題がない範囲で極力周期を短くした方が、電子時計の精度を高めることができる。
[1−3]温度補償演算処理
次に、本発明の第1の実施形態における温度補償量を決定する処理について、図を用いて説明する。
【0032】
図3は本発明の第1の実施形態における、温度補償量を算出する演算処理の流れを示す図で、このうち図3−1は温度補償回路31が温度補償制御信号S31を受信した際に実行され、温度センサ51による温度の計測から始まり分周回路13の設定値を決定するまでの一連の処理を表したフローチャートである。また、図3−2、図3−3はそれぞれ、該一連の処理の中で行われる1次補間演算、2次補間演算の流れを詳細に示したフローチャート、図4はこれらの演算に用いる定数や係数で記憶手段41に保存されているデータの一覧表である。
【0033】
図3−1において、前述の温度補償制御信号S31をきっかけに温度補償回路31にてS301の処理が開始されると、処理はS302に移行し、温度センサ51に温度計測信号S51aが送付され、電子時計の温度の計測が行われる。ここで数秒の計測処理が行われ、温度センサ51より温度データS51b(以後この温度の値を温度データYと呼称する)が返信された後、処理はS303に移行する。
【0034】
S303では、基準値番号を表す変数nを0に初期化した上でS304に移行する。ここでいう基準値とは、1次補正の際に所定温度区間の境界となる温度のことで、基準値[1]〜[18]にそれぞれ温度が対応しており、これらの基準値は図4のように記憶手段41に保存されている。
【0035】
S304では、基準値番号nに1を加算する処理を行う。基準値[1]〜[18]には温度が昇順に設定されているため、初回でn=1となった際は最小の基準値(基準値[1])が選択されることになる。加算を終えるとS305に移行し、記憶手段41から基準値[n+1](初回は基準値[2])を読み出した上でS306に移行する。
【0036】
S306では、測定した温度データYと基準値[n+1]を比較し、大小の判定を行う。ここで温度データY≧基準値[n+1](S306:NO)であれば、電子時計の温度は基準値[n]から基準値[n+1]の間に含まれていないため、S304に移行し、nに1を加算してから再びS306の判定までの処理を行う。この処理は温度データY<基準値[n+1]となるまで繰り返される。
【0037】
S306において温度データY<基準値[n+1](S306:YES)であれば、電子時計の温度は基準値[n]から基準値[n+1]の間にあると判断される。そしてS307に移行し、図3−2に示す1次補間値d1演算フローチャートのS321に移行する。
【0038】
S321にて1次補間値d1の演算が開始すると、まずS322に移行し、記憶手段41から、係数a[n],b[n],c[n],B[n]の読み出しを行った上でS323に移行する。これらの係数は予め、前記所定温度区間が定められて基準値の温度と周波数が実測された際に計算されたもので、基準値[n]から基準値[n+1]の間の1次式を表す係数として[1]〜[17]までが図4のように記憶手段41に保存されている。
【0039】
S323では(数式1)にて1次式の演算が行われ、1次補間値d1が決定される。この計算が終了するとS324に移行、フローチャートの処理が終了して図3−1の温度補償演算フローチャートに戻り、S308の処理へと進む。
【0040】
d1=a(Y−B)+b+c(Y−B) ・・・(数式1)
S308では2次補間値d2の演算を行うため、図3−3に示す2次補間値d2演算フローチャートのS331に移行し、S332の処理が開始される。
【0041】
S332では前述の基準値[n]、及び係数A,Gが記憶手段41より読み出され、S333に移行する。係数A,Gは2次補間にて演算する2次式の係数で、事前に決定し、nに依存しない定数として図4のように記憶手段41に保存されている。
【0042】
S333では2次補間の演算の第一段階として、温度データYを含む所定温度区間の両端の基準値の平均値Kaを(数式2)で算出する。平均値Kaが算出されると、引き続きS334に移行する。
【0043】
Ka=(基準値[n]+基準値[n+1])/2 ・・・(数式2)
S334では平均値Kaを含めた(数式3)の2次式の演算が行われ、2次補間値d2が決定する。そしてS335に移行してフローチャートの処理を終え、図3−1の温度補償演算フローチャートに戻り、S309の処理へと進む。
【0044】
d2=A(Y−Ka)2+G ・・・(数式3)
【0045】
ところで、上記基準値[n]で区切られる各温度区間の幅は、全ての温度区間で一定ではない。図6に、基準信号発生回路の温度特性と、基準値[n]で区切られる各温度区間の関係を示す。図6よりわかるように、頂点温度に位置する温度区間T[n]が最も広く、頂点温度から遠ざかるT[n−1]、T[n−2]は、次第にその幅が狭くなっている(T[n−2]≦T[n−1]≦T[n])。これは、頂点温度付近は温度による周波数変化が最も少なく、頂点温度から遠ざかるに従い変化量が大きくなるので、頂点温度から遠ざかるに従い温度区間の幅を狭めることで、各区間における2次補間での補正量を均一化している。これにより、係数A,Gを各温度区間で共通化することが可能となる。
なお、上記式には等号が入っているが、これは、補正量が係数A,Gを共通使用できる範囲に入っていれば、同じ幅でも良いことを示している。
【0046】
S309ではここまでに算出した補間値d1及びd2を(数式4)のように合算する。また、続けてS310に進んで(数式5)にてゼロ位置補正値f0を反映させ、最終的な温度補償値dを決定する。なお、ゼロ位置補正値f0は電子時計の狙い値調整の工程で図4のように記憶手段41に保存される値で、例えば後工程での特性シフトを見込んで周波数狙い値をずらしたい時などに、図5で示すように電子時計の温度に関わらず一律で周波数をシフトするための値である。これらを経て温度補償値dが決定すると、S311に移行する。
【0047】
d=d1−d2 ・・・(数式4)
d=d−f0 ・・・(数式5)
S311では、ここまでに演算された温度補償値dの値を基準信号発生回路11の調整値として反映するため、分周回路13に設定するパラメータへと変換し、引き続きS312に移行する。
【0048】
S312では温度補償値dから算出されたパラメータを分周回路13に設定し、S31
3に移行して一連の温度補償演算の処理を完了する。これにより、温度補償の演算結果が基準信号発生回路11の出力に反映され、電子時計の精度が維持されることになる。
【0049】
なお、(数式1)においては同一の項に対し係数aとcを別々に乗じているが、これは元々1つの係数であったものを、第1の実施例における電子時計の演算回路の取り扱い可能な桁数に合わせて分割して効率化を図った物である。よって、例えば演算回路の性能が充分であればaとcを加算した値を用いることで項を減らしてもよいし、これに限らず1次式で表される範囲であれば自由に式変形を行った上で係数を定義してもよい。
【0050】
また、(数式3)においては(Y−Ka)に対する1次の項が存在しないが、これは計算処理の簡略化を目的としているため、処理能力に問題がないのであれば、1次の項の追加も含め、2次式の範囲での式の変形を行ってもよい。
【0051】
以上のように、本発明の第1の実施形態によって、温度センサ51の測定値と記憶手段41のデータを利用した2段階に分かれた温度補償を行うことで、小型の電子時計などでも対応可能な少ないメモリ量、比較的軽い計算負荷で、温度に依存しない高度な時刻精度を維持することが可能である。
【0052】
なお、上記実施形態においては、温度補償に用いる前記所定温度区間を基準値[1]〜[18]で分割して定義したが、基準値の数は18個に限った物ではなく、電子時計の駆動可能温度や記憶手段41の性能次第では、基準を増やして細分化することで温度補償精度を高めることもできるし、逆に減らすことでメモリ使用量を節約することもできる。
【0053】
また、上記実施形態においては、温度補償で算出した結果を分周回路13に反映することで精度の調整を行ったが、反映の方法はこれに限定される物ではなく、例えば印加電圧によって発振周波数が変化する水晶発振回路に対し、温度補償で算出した結果を電圧変換して印加するなどしてもよい。
【0054】
なお、好ましくは、ゼロ位置補正値f0を設定する際に、前記所定温度区間1つないし複数の範囲で複数温度の周波数を測定して調整すると、2次補間に用いる2次式の係数AおよびGを一定値としていることに起因する、温度補償後の周波数温度特性の若干の傾きや、前記所定温度区間の境界における微小な特性の段差に対し、これらの微小な誤差を進み方向と遅れ方向に振り分け、誤差の影響をより小さく抑えることができる。
【0055】
更に好ましくは、メモリ容量や計算負荷に余裕があれば、係数AとG、及び前記(Y−Ka)に対する1次の項の係数についても、係数aなどのように前記所定温度区間ごとに算出、保存しておくと、より精細な温度補償を行うことが可能となる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、電子時計について説明を行ったが、この電子時計には腕時計、掛け時計、置き時計などすべての種類の電子時計が含まれる。
【0057】
また、本発明の原理の適用は電子時計の温度補償に限定されるものではなく、温度や電圧、その他環境要因や信号などに依存する特性を持つ出力を補正する必要があれば、計測機器、テレビ、携帯電話機などの情報端末、更には自動車などを含む電子機器全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電子時計は、活用例として、年間での時刻ずれが数秒以内であることを特徴とした年差時計のような、極めて高度な精度維持が求められる電子時計に特に有効である。
【符号の説明】
【0059】
11 基準信号発生回路
12 発振回路
13 分周回路
21 制御部
22 計時カウンタ
31 温度補償回路
32 1次補間回路
33 2次補間回路
41 記憶手段
51 温度センサ
61 表示手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の温度に依存せずに精度を維持するための温度補償回路と、該温度補償回路を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
指針を用いて時刻を表示するアナログ電子時計や、液晶パネルを用いて時刻を表示するデジタル電子時計、あるいはそれらの中でも腕時計タイプの物や壁掛けタイプの物など、近年では数多くの電子時計が流通、活用されている。このような電子時計においては、高い精度を得るために32,768Hzなどの高い周波数を持った水晶振動子を源信として時間を計測、それを元に現在の時刻を管理して表示するという形式が一般的となっている。しかし、源信となる水晶振動子を始め、それに付随する発振回路など、様々な構成要素は自身の温度によって性能が変化する温度特性を持つために、電子時計を使用する環境の温度によって計時の精度が変動してしまうことも周知のことである。これは例えば、電子腕時計を腕に着けて携帯している場合と、涼しい机の中に保管している場合では、電子腕時計の周囲温度が大きく異なるために精度にずれが生じ、最終的に電子腕時計の時刻そのもののずれに繋がってしまうといった問題を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような温度特性に起因する精度ずれを起こさない電子時計を実現するための手法として、電子時計が周囲の温度を検知し、この温度に応じて自身の発振回路を調整することで温度特性を相殺する、温度補償の手法が提案されている。
【0004】
この温度補償の手法の一例として、特許文献1の温度補償水晶発振器では、温度センサで取得した温度情報を、水晶振動子の温度特性に対応させた折れ線特性を有する電圧に変換する回路を持ち、その電圧を水晶振動子に印加することで周波数を変動させ、水晶振動子の温度特性を相殺する方法を採っている。
【0005】
また、類似の例として、特許文献2のディジタル温度補償発振器においても、温度検出器にて取得した温度情報を、記憶回路に保存された離散的な補償データと照らし合わせ、完全に温度情報に合致する補償データが存在すればそれを温度補償に用い、データが存在しない場合には周辺データに基く近似直線から温度補償量を算出し、この温度補償量を電圧に変換して発振器に加えることで、発振器の温度特性を相殺する方法を採っている。
【0006】
特許文献3のディジタルガンマ補正回路においては、目的こそ温度特性の補償ではないものの、温度特性のように曲線を描く映像のガンマ特性に対し、映像の入力データに応じたガンマ補正データをメモリ上のデータテーブルから読み出し、入力データに加算することで、所望の映像信号にあたるガンマ補正済みデータを形成する方法を採っている。
【0007】
また、特許文献4の温度補償付電子時計では、感温発振器のカウント値に記憶器からの数値情報を加算することで得た温度情報を、演算回路で2乗演算することで補正値を算出し、これを温度補償回路に与えて回路の出力を制御することで、水晶振動子の温度特性を相殺する方法を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−126304号公報(第6図)
【特許文献2】特開平7−162295号公報(図3)
【特許文献3】特開平2−70177号公報(第2図)
【特許文献4】特開昭58−143292号公報(第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1ないし特許文献2に記載の手法においては、複数の温度特性データとそれらの点を結ぶ近似直線を用いることで、発振器の温度特性に対応した大まかな補正を、小さなメモリ領域、小さな処理で実現することができるという効果はあるものの、発振器の温度特性は曲線であるために近似直線による補正部分においてはどうしても差異が生じてしまい、特に極めて高い精度が要求される電子時計においては、不充分な温度補償能力となってしまう可能性があるという課題を有していた。
【0010】
また、前記特許文献3に記載の手法においては、差分データを活用することで、複雑な曲線を描く特性に対しても少ないビット数で最適な補正値を提供できるという効果はあるものの、温度補償のように補正したい範囲が広く、かつ細かい分割で補正を行いたい場合には、必要な補正データの数量が相応に多くなり、非常に大きなメモリが必要になってしまうという課題を有していた。
【0011】
また、前記特許文献4に記載の手法では、2次特性を持つとされる水晶振動子に対して2乗演算した補正値を適用することから、水晶振動子の高精度な補正という観点からは有効性が高いと考えられるものの、実際の周波数温度特性は水晶振動子以外の周辺回路の温度特性の影響も受けるために、純粋な2次特性ではなく若干歪んだ曲線となるため、このような単独の2次式による補正は、頂点温度から離れるほどに大きな誤差を生じてしまう可能性があるという課題を有していた。更に、こういった単独の式による演算の場合、精度を高めるためには次数を上げる必要があり、これに伴う計算負荷の増大によって、電子時計の電子回路、ないしマイクロコンピュータでは対応が困難になってしまうという課題も有している。
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決しようとするもので、必要なメモリ量と計算負荷を極力抑えながら、水晶発振回路の周波数温度特性に対して適切な補正量を算出し、周辺温度に依存しない高い精度を維持することのできる、温度補償機能を持った電子時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明は、時刻の基準となる周波数温度特性を有する水晶発振回路と、周囲の温度を計測する温度センサと、前記水晶発振回路の出力を該温度センサの出力を元に補正する温度補償回路とを有する電子時計であって、該温度補償回路は、所定温度区間ごとに1次式で近似された温度補償用データを出力する1次補間回路と、該1次補間回路の出力と前記水晶発振回路の周波数温度特性の差異を補償する2次補間回路とを有し、該2次補間回路は該所定温度区間のそれぞれの中間点を頂点とする2次関数で表される温度補償用データを出力することを特徴とする。
【0014】
この構成によって、前記電子時計は、前記水晶発振回路の周波数温度特性を前記1次補間回路によって大まかに補償した後で、更に前記2次補間回路によって該1次補間回路による補償で生じた誤差を補償するため、広い温度範囲に亘って温度補償を行いたいような場合にも、該1次補間回路においては前記所定温度区間ごとの1次式の係数のみと少量のデータによって必要最低限の該周波数温度特性に対応した補正を行うことができ、更に該2次補正回路による2次曲線を用いた補正によって曲線を直線近似した際の誤差を適切に補正することができることにより、大きなメモリを必要とすることなく、かつ2次までの比較的負荷の軽い演算にて、高精度な温度補償を実現することができる。またこの時、該2次補正回路による補正は該所定温度区間のそれぞれの中間点を2次曲線の頂点としてい
るため、それぞれ少しずつ対象温度の幅や該1次補間後の誤差の傾向が異なる各々の該所定温度区間のいずれにおいても、該差異の最も大きいと考えられる該中間点を確実に補正すると共に、外中間点を中心に該所定温度区間全体を均等かつ滑らかに補正することができる。
【0015】
また、前記1次補間回路と前記2次補間回路にて演算に用いる係数は記憶手段に保持されており、このうち該2次補間回路にて用いる係数については全ての前記所定温度区間において共通の値が使用されることを特徴とする。
この構成によって、該記憶手段に保持しなければならないデータの量を削減し、容量の限られる電子時計のメモリをより効率良く利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、1次関数によって大まかな補正を行った上で2次関数を用いて精細な合せ込みを行うことにより、例えば小型の電子腕時計のように温度補償のために用意できるメモリ量に限度があったり、割ける演算の負荷が限られたりするような場合にも、容易かつ適切に温度補償を行って高い精度を維持することができる。更に、これらの温度補償演算の式は複数の実測温度、実測周波数を基準として作成されているため、水晶発振回路がそれを構成する様々な部品の影響によって複雑な周波数温度特性を持つような場合にも、比較的適切な温度補償を行える可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態における、温度補償の原理を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における、電子時計全体の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における、温度補償処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態における、記憶手段に保存されたデータの一覧表である。
【図5】本発明の第1の実施形態における、ゼロ位置補正の内容を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における、各温度区間の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]第1実施例
以下、図面を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態は、温度センサの測定値と記憶手段のデータを元に2段階の温度補償を演算し、これを用いて水晶発振回路などを含む基準信号発生回路の出力を補正することで、周辺温度に依存しない高精度の時刻情報を表示する例である。
[1−1]温度補償の原理
図1は本発明の第1の実施形態を示す図で、本発明の電子時計において行われる温度補償の一連の原理を示す説明図である。
【0020】
図1−1は、本発明の電子時計における周波数温度特性を一部抜き出したグラフであり、実線が基準信号発生回路の元々の周波数温度特性を表す。なお、以降の説明においては、周波数は言葉通りの周波数実値ではなく、本発明での意図するところから、目標の精度に対する精度の変位と言う意味で取り扱う。
【0021】
まず、前記基準信号発生回路の周波数温度特性に対し、例として、図中に円で示すように3点の実測を行う。該3点の実測点は、温度補償において補正に使われる値となると同時に、その温度は該温度補償の際の所定温度区間の境界点ともなる。
【0022】
次に、該3点の実測点の間、すなわち2つの所定温度区間に対し、図中に一点鎖線で示
すように、それぞれ実測点を繋ぐ形で一次式の補正直線を作成する。これが本発明における1次補間の直線で、その各温度における値が1次補間値d1となる。該1次補間の直線は、温度によって大きく変化しかつ様々な回路要因によって複雑な歪みを生じている該基準信号発生回路の周波数温度特性に、該所定温度区間単位で追従しており、その係数がメモリなどの記憶手段に保存されて温度補償の際に適宜呼び出される。
【0023】
温度補償に際し、前記基準信号発生回路の周波数温度特性から前記1次補間値d1を引いた結果が図1−2に示す1次補間後の周波数温度特性となる。ここで、該1次補間後の特性は、山形の曲線を描いていた該基準信号発生回路の周波数温度特性を直線で補間したため、所定温度区間ごとに小さな山なりの特性を示し、本発明の電子時計の目標精度が満たせていない。
【0024】
なお、図1−2に示す1次補間後の周波数温度特性値は、図1−1に示す周波数温度特性値より絶対値が小さいので、図1−2では、縦軸方向の精度のスケールを拡大して図示している。後述の図1−3、図1−4も同様である。
【0025】
図1−3は、前記1次補間後の周波数温度特性に対し、更に2次補間を行う過程を表したグラフである。2次補間では、図中に実線で示した該1次補間後の特性の山なりの特性を相殺する形で、周波数特性の補間を行い、精度を向上させる。
【0026】
2次補間においては、前記所定温度区間ごとに、図中に一点鎖線で示したような2次曲線を作成する。ここで、該2次曲線の頂点はそれぞれの該所定温度区間の中間点に位置し、2次式の各項の係数は事前に記憶手段に保存しておいた物を用いる。これが本発明における2次補間の曲線となると同時に、その各温度における値が2次補間値d2となる。
【0027】
この時、前記2次補間の曲線の係数はいずれの前記所定温度区間においても共通だが、該所定温度区間のそれぞれの中間点を頂点としているため、該所定温度区間ごとの微小な周波数温度特性の違いに対しても、さほど大きな不整合を起こさずに補間を行うことができ、これによる誤差は最終的に目的とする精度に対して充分に小さいことが期待できる。
【0028】
そして、前記1次補間後の周波数温度特性から前記2次補間値d2を引いたものが図1−4に示す2次補間後の周波数温度特性で、本発明の温度補償後の周波数温度特性であり、該電子時計に要求される目標精度を、温度に依存せずに確保することができる。
[1−2]電子時計の構成
次に、本発明の第1の実施形態における電子時計の全体構成について、図2を用いて説明する。
【0029】
図2において、11は電子時計の時間計測の基準となる基準信号発生回路であり、内部には源信を含む発振回路12と、出力を電子時計に必要な周波数に変換する分周回路13を持つ。基準信号発生回路11で生成された基準信号S22は、電子時計全体の動作を司る制御部21、及びその中にある計時カウンタ22に送信され、適宜タイミング管理や時刻管理に使用される。制御部21はこうして得た時刻情報を元に表示制御信号S61を生成し、表示手段61を駆動することで時刻をユーザに伝えることができる。
【0030】
また、これと並行して、制御部21は基準信号S22を基準に60秒に1回、温度補償制御信号S31を温度補償回路31に送り、温度補償処理を実行させる。温度補償回路31は内部に1次補間回路32と2次補間回路33を持ち、それぞれの補間処理での必要に応じて記憶手段41、温度センサ51に記憶読出信号S41a、温度計測信号S51aを送信、その返答として記憶データ41bと温度データS51bを受信し、温度補償の演算を行う。こうして算出された温度補償量は、基準制御信号S11として基準信号発生回路
11に伝えられ、分周回路13の設定変更による基準信号発生回路11の出力調整という形で電子時計の精度が制御される。
【0031】
なお、前記温度補償信号S31の送信タイミングは60秒周期に限定される物ではなく、好ましくは、電子時計のその他の演算や時刻管理などに支障をきたさず、消費電力にも問題がない範囲で極力周期を短くした方が、電子時計の精度を高めることができる。
[1−3]温度補償演算処理
次に、本発明の第1の実施形態における温度補償量を決定する処理について、図を用いて説明する。
【0032】
図3は本発明の第1の実施形態における、温度補償量を算出する演算処理の流れを示す図で、このうち図3−1は温度補償回路31が温度補償制御信号S31を受信した際に実行され、温度センサ51による温度の計測から始まり分周回路13の設定値を決定するまでの一連の処理を表したフローチャートである。また、図3−2、図3−3はそれぞれ、該一連の処理の中で行われる1次補間演算、2次補間演算の流れを詳細に示したフローチャート、図4はこれらの演算に用いる定数や係数で記憶手段41に保存されているデータの一覧表である。
【0033】
図3−1において、前述の温度補償制御信号S31をきっかけに温度補償回路31にてS301の処理が開始されると、処理はS302に移行し、温度センサ51に温度計測信号S51aが送付され、電子時計の温度の計測が行われる。ここで数秒の計測処理が行われ、温度センサ51より温度データS51b(以後この温度の値を温度データYと呼称する)が返信された後、処理はS303に移行する。
【0034】
S303では、基準値番号を表す変数nを0に初期化した上でS304に移行する。ここでいう基準値とは、1次補正の際に所定温度区間の境界となる温度のことで、基準値[1]〜[18]にそれぞれ温度が対応しており、これらの基準値は図4のように記憶手段41に保存されている。
【0035】
S304では、基準値番号nに1を加算する処理を行う。基準値[1]〜[18]には温度が昇順に設定されているため、初回でn=1となった際は最小の基準値(基準値[1])が選択されることになる。加算を終えるとS305に移行し、記憶手段41から基準値[n+1](初回は基準値[2])を読み出した上でS306に移行する。
【0036】
S306では、測定した温度データYと基準値[n+1]を比較し、大小の判定を行う。ここで温度データY≧基準値[n+1](S306:NO)であれば、電子時計の温度は基準値[n]から基準値[n+1]の間に含まれていないため、S304に移行し、nに1を加算してから再びS306の判定までの処理を行う。この処理は温度データY<基準値[n+1]となるまで繰り返される。
【0037】
S306において温度データY<基準値[n+1](S306:YES)であれば、電子時計の温度は基準値[n]から基準値[n+1]の間にあると判断される。そしてS307に移行し、図3−2に示す1次補間値d1演算フローチャートのS321に移行する。
【0038】
S321にて1次補間値d1の演算が開始すると、まずS322に移行し、記憶手段41から、係数a[n],b[n],c[n],B[n]の読み出しを行った上でS323に移行する。これらの係数は予め、前記所定温度区間が定められて基準値の温度と周波数が実測された際に計算されたもので、基準値[n]から基準値[n+1]の間の1次式を表す係数として[1]〜[17]までが図4のように記憶手段41に保存されている。
【0039】
S323では(数式1)にて1次式の演算が行われ、1次補間値d1が決定される。この計算が終了するとS324に移行、フローチャートの処理が終了して図3−1の温度補償演算フローチャートに戻り、S308の処理へと進む。
【0040】
d1=a(Y−B)+b+c(Y−B) ・・・(数式1)
S308では2次補間値d2の演算を行うため、図3−3に示す2次補間値d2演算フローチャートのS331に移行し、S332の処理が開始される。
【0041】
S332では前述の基準値[n]、及び係数A,Gが記憶手段41より読み出され、S333に移行する。係数A,Gは2次補間にて演算する2次式の係数で、事前に決定し、nに依存しない定数として図4のように記憶手段41に保存されている。
【0042】
S333では2次補間の演算の第一段階として、温度データYを含む所定温度区間の両端の基準値の平均値Kaを(数式2)で算出する。平均値Kaが算出されると、引き続きS334に移行する。
【0043】
Ka=(基準値[n]+基準値[n+1])/2 ・・・(数式2)
S334では平均値Kaを含めた(数式3)の2次式の演算が行われ、2次補間値d2が決定する。そしてS335に移行してフローチャートの処理を終え、図3−1の温度補償演算フローチャートに戻り、S309の処理へと進む。
【0044】
d2=A(Y−Ka)2+G ・・・(数式3)
【0045】
ところで、上記基準値[n]で区切られる各温度区間の幅は、全ての温度区間で一定ではない。図6に、基準信号発生回路の温度特性と、基準値[n]で区切られる各温度区間の関係を示す。図6よりわかるように、頂点温度に位置する温度区間T[n]が最も広く、頂点温度から遠ざかるT[n−1]、T[n−2]は、次第にその幅が狭くなっている(T[n−2]≦T[n−1]≦T[n])。これは、頂点温度付近は温度による周波数変化が最も少なく、頂点温度から遠ざかるに従い変化量が大きくなるので、頂点温度から遠ざかるに従い温度区間の幅を狭めることで、各区間における2次補間での補正量を均一化している。これにより、係数A,Gを各温度区間で共通化することが可能となる。
なお、上記式には等号が入っているが、これは、補正量が係数A,Gを共通使用できる範囲に入っていれば、同じ幅でも良いことを示している。
【0046】
S309ではここまでに算出した補間値d1及びd2を(数式4)のように合算する。また、続けてS310に進んで(数式5)にてゼロ位置補正値f0を反映させ、最終的な温度補償値dを決定する。なお、ゼロ位置補正値f0は電子時計の狙い値調整の工程で図4のように記憶手段41に保存される値で、例えば後工程での特性シフトを見込んで周波数狙い値をずらしたい時などに、図5で示すように電子時計の温度に関わらず一律で周波数をシフトするための値である。これらを経て温度補償値dが決定すると、S311に移行する。
【0047】
d=d1−d2 ・・・(数式4)
d=d−f0 ・・・(数式5)
S311では、ここまでに演算された温度補償値dの値を基準信号発生回路11の調整値として反映するため、分周回路13に設定するパラメータへと変換し、引き続きS312に移行する。
【0048】
S312では温度補償値dから算出されたパラメータを分周回路13に設定し、S31
3に移行して一連の温度補償演算の処理を完了する。これにより、温度補償の演算結果が基準信号発生回路11の出力に反映され、電子時計の精度が維持されることになる。
【0049】
なお、(数式1)においては同一の項に対し係数aとcを別々に乗じているが、これは元々1つの係数であったものを、第1の実施例における電子時計の演算回路の取り扱い可能な桁数に合わせて分割して効率化を図った物である。よって、例えば演算回路の性能が充分であればaとcを加算した値を用いることで項を減らしてもよいし、これに限らず1次式で表される範囲であれば自由に式変形を行った上で係数を定義してもよい。
【0050】
また、(数式3)においては(Y−Ka)に対する1次の項が存在しないが、これは計算処理の簡略化を目的としているため、処理能力に問題がないのであれば、1次の項の追加も含め、2次式の範囲での式の変形を行ってもよい。
【0051】
以上のように、本発明の第1の実施形態によって、温度センサ51の測定値と記憶手段41のデータを利用した2段階に分かれた温度補償を行うことで、小型の電子時計などでも対応可能な少ないメモリ量、比較的軽い計算負荷で、温度に依存しない高度な時刻精度を維持することが可能である。
【0052】
なお、上記実施形態においては、温度補償に用いる前記所定温度区間を基準値[1]〜[18]で分割して定義したが、基準値の数は18個に限った物ではなく、電子時計の駆動可能温度や記憶手段41の性能次第では、基準を増やして細分化することで温度補償精度を高めることもできるし、逆に減らすことでメモリ使用量を節約することもできる。
【0053】
また、上記実施形態においては、温度補償で算出した結果を分周回路13に反映することで精度の調整を行ったが、反映の方法はこれに限定される物ではなく、例えば印加電圧によって発振周波数が変化する水晶発振回路に対し、温度補償で算出した結果を電圧変換して印加するなどしてもよい。
【0054】
なお、好ましくは、ゼロ位置補正値f0を設定する際に、前記所定温度区間1つないし複数の範囲で複数温度の周波数を測定して調整すると、2次補間に用いる2次式の係数AおよびGを一定値としていることに起因する、温度補償後の周波数温度特性の若干の傾きや、前記所定温度区間の境界における微小な特性の段差に対し、これらの微小な誤差を進み方向と遅れ方向に振り分け、誤差の影響をより小さく抑えることができる。
【0055】
更に好ましくは、メモリ容量や計算負荷に余裕があれば、係数AとG、及び前記(Y−Ka)に対する1次の項の係数についても、係数aなどのように前記所定温度区間ごとに算出、保存しておくと、より精細な温度補償を行うことが可能となる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、電子時計について説明を行ったが、この電子時計には腕時計、掛け時計、置き時計などすべての種類の電子時計が含まれる。
【0057】
また、本発明の原理の適用は電子時計の温度補償に限定されるものではなく、温度や電圧、その他環境要因や信号などに依存する特性を持つ出力を補正する必要があれば、計測機器、テレビ、携帯電話機などの情報端末、更には自動車などを含む電子機器全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電子時計は、活用例として、年間での時刻ずれが数秒以内であることを特徴とした年差時計のような、極めて高度な精度維持が求められる電子時計に特に有効である。
【符号の説明】
【0059】
11 基準信号発生回路
12 発振回路
13 分周回路
21 制御部
22 計時カウンタ
31 温度補償回路
32 1次補間回路
33 2次補間回路
41 記憶手段
51 温度センサ
61 表示手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度データを入力して、
2次温度特性を有する水晶発振回路の周波数温度特性を補償する温度補償回路であって、該温度補償回路は、
複数の温度区間ごとに、前記温度データに対する1次式で近似された温度補償用データを出力する1次補間回路と、
該1次補間回路の出力する温度補償用データと、
前記水晶発振回路の周波数温度特性との差分を補償する2次補間回路と、
を有し、
該2次補間回路は、前記各温度区間の中間点を頂点とする、
前記温度データに対する2次関数で表される温度補償データを出力するように構成されることを特徴とする温度補償回路。
【請求項2】
前記1次補間回路で使用される1次式の係数と、
前記2次補間回路で使用される2次式の係数を記憶する記憶手段を有し、
前記2次補間回路で使用される係数は、各温度区間全てで共通に使用される
ことを特徴とする請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項3】
前記温度区間の区間幅が、
前記水晶発振回路の2次温度特性の頂点付近で広く、
頂点から離れた区間ほど狭く設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の温度補償回路。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の温度補償回路と、
前記水晶発振回路を含む基準信号発生回路と、
前記温度データを出力する温度センサと、を有し、
前記温度補償回路は、前記温度補償データを前記基準信号発生回路に対する補償データとして出力する
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
前記基準信号発生回路の発生する基準信号により計時を行う
ことを特徴とする請求項4に記載の電子機器。
【請求項1】
温度データを入力して、
2次温度特性を有する水晶発振回路の周波数温度特性を補償する温度補償回路であって、該温度補償回路は、
複数の温度区間ごとに、前記温度データに対する1次式で近似された温度補償用データを出力する1次補間回路と、
該1次補間回路の出力する温度補償用データと、
前記水晶発振回路の周波数温度特性との差分を補償する2次補間回路と、
を有し、
該2次補間回路は、前記各温度区間の中間点を頂点とする、
前記温度データに対する2次関数で表される温度補償データを出力するように構成されることを特徴とする温度補償回路。
【請求項2】
前記1次補間回路で使用される1次式の係数と、
前記2次補間回路で使用される2次式の係数を記憶する記憶手段を有し、
前記2次補間回路で使用される係数は、各温度区間全てで共通に使用される
ことを特徴とする請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項3】
前記温度区間の区間幅が、
前記水晶発振回路の2次温度特性の頂点付近で広く、
頂点から離れた区間ほど狭く設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の温度補償回路。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の温度補償回路と、
前記水晶発振回路を含む基準信号発生回路と、
前記温度データを出力する温度センサと、を有し、
前記温度補償回路は、前記温度補償データを前記基準信号発生回路に対する補償データとして出力する
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
前記基準信号発生回路の発生する基準信号により計時を行う
ことを特徴とする請求項4に記載の電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−227870(P2012−227870A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96059(P2011−96059)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
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