説明

温度補償型圧電発振器

【課題】温度補償型圧電発振器の起動直後の温度ドリフトを低減させる手段を得る。
【解決手段】圧電振動素子6は変曲点の低温側及び高温側に夫々極大値及び極小値と有す
る周波数温度特性を有し、IC部品8は温度を感知する温度センサ31と、圧電振動素子
を補償する温度補償回路32と、圧電振動素子と共に電圧制御型発振器を形成する電圧制
御型発振回路33と、を備える。温度補償回路32は、1次成分回路と3次以上の高次成
分回路とを含む回路と、信号の処理回路35と、加算回路36と、を備え、電圧制御型発
振回路33から出力される周波数補償量と温度との関係が、圧電振動素子6の周波数温度
特性を正確に補償する補償量より少なく、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周
波数が減少するように補償回路32を調整した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として移動体通信機器に用いられる温度補償型圧電発振器に関し、特に温
度補償特性を改善して、移動体通信機器の電源投入後、速やかにその機能を発揮できるよ
うにした温度補償型圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電発振器は周波数安定度、小型軽量、堅牢性、低価格等により携帯電話等の通
信機器から水晶時計のような民生機器まで、多くの分野で用いられている。中でも圧電振
動子の周波数温度特性を補償した温度補償型圧電発振器(TCXO)は、周波数安定度を
必要とする携帯電話等に広く用いられている。
TCXOは、周知のように、可変容量素子等を用いて温度変化に応じて発振回路の負荷
容量を可変させるようにした圧電発振器である。温度変動による圧電振動子の周波数変化
に対して、これと逆に変化するように発振回路の負荷容量を制御し、圧電振動子の周波数
変化を相殺して補償する。近年では、圧電発振器の小型化要求に伴い可変容量を含めて発
振回路は1チップIC化されている。
【0003】
特開2008−252812公報(特許文献1)には、起動又は温度変化から所定の周
波数変化量で安定するまでの時間を短縮した温度補償型発振器が開示されている。温度補
償型発振器70は、水晶振動素子72と、水晶振動素子72の温度補償を行う集積回路素
子74と、水晶振動素子72及び集積回路素子74を収容する容器体75と、容器体75
を封止する蓋体78と、を備えている。
水晶振動素子72は、温度と周波数変化量との関係が三次関数的となる周波数特性を有
している。また、集積回路素子74は、温度を検出する温度センサ81と、三次関数発生
回路と一次成分発生回路とからなる温度補償回路82と、水晶振動素子72を発振させる
発振回路83と、加算回路84と、記憶手段85と、を備えている。
【0004】
容器体75は、矩形環状の枠部77が基板部76の両主面に一体で形成されたH型構造
をしており、一方の凹部(上側)の底面に水晶振動素子72用の接続パッドPが設けられ
ている。また、他方の凹部(下側)の底面に集積回路素子74を搭載用のパッドTが設け
られている。パッドTの一部は容器体75に設けられた内部配線Hにより、接続パッドP
と、外部接続端子Gとに接続している。
温度補償後の温度特性は、温度が25℃のときの周波数変化量(df/f)を0(pp
m)とし、温度tが1℃上昇するにつれて周波数変化量(df/f)が0.1(ppm)
以内の緩やかな勾配とする。つまり、最大の勾配は、温度が1℃の増加に対し周波数変化
量が0.1(ppm)減少する勾配となる。なお、温度が1℃上昇するにつれて周波数変
化量が0.1(ppm)減少する勾配となる適用温度範囲は、例えば、−40℃〜80℃
の範囲でも、25℃〜40℃の範囲でも良いと、開示されている。
【特許文献1】特開2008−252812公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、温度変化に対し周波数が三次関数的に変化する水晶振動子を用いた温
度補償型水晶発振器の温度補償方法が開示されている。特許文献1によると、温度補償回
路の一次成分を調整して、温度と周波数変化量との関係が、温度が高くなるにつれて周波
数変化量が下がるように温度補償を行う方法が示されている。
しかしながら、実際の圧電振動子、例えばATカット水晶振動子の周波数温度特性を正
確に表すには、温度に関する三次関数では誤差が生じ、最近では温度に関して四次成分以
上の項を含む多項式が必要になってきた。つまり、補償回路として、1次成分回路、3次
成分回路及び四次成分以上の回路構成が必要となってきた。そのため、特許文献1のよう
に一次成分のみを調整する方法では、最近の温度補償型圧電発振器への要求を満たすには
不十分であるという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、温度補償回路に四次成分以上の成
分を含んだ回路を用いて、電源投入後の周波数ドリフトを小さくした温度補償型発振器を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本発明に係る温度補償型圧電発振器は、電源投入後の周波数ドリフトを小
さくすべく、圧電振動素子と、IC部品と、前記圧電振動素子及びIC部品を収容するパ
ッケージ本体と、該パッケージ本体の一方の開口部を封止する蓋体と、を備えた温度補償
型圧電発振器であって、前記圧電振動素子は、変曲点の低温側及び高温側に夫々極大値及
び極小値と有する周波数温度特性を有し、前記IC部品は、温度を感知する温度センサと
、前記圧電振動素子の温度による周波数変化を補償する温度補償回路と、前記圧電振動素
子と協働して電圧制御型発振器を形成する電圧制御型発振回路と、を備え、前記温度補償
回路は、1次成分回路と3次以上の高次成分回路とを含む回路と、信号の処理回路と、加
算回路と、を備え、前記電圧制御型発振回路から出力される周波数補償量と温度との関係
が、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より小さく、温度の上昇
に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように処理回路及び補償回路を調整し
たことを特徴とする温度補償型圧電発振器である。
【0008】
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の1次
成分回路と3次以上の高次成分回路とを含む回路の係数、及び処理回路を調整するので、
温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少し、該温度補償型圧電発振器を例えば、G
PS装置に用いると電源の投入後、速やかにGPS装置が機能するという効果がある。
【0009】
[適用例2]温度補償型圧電発振器は、温度と前記周波数補償量との関係が、前記圧電
振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温
度補償型圧電発振器の周波数が減少するように前記3次成分回路を調整したことを特徴と
する適用例1に記載の温度補償型圧電発振器である。
【0010】
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の3次
成分回路を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する。温度補償
回路の1回路を調整するのみで容易であり、該温度補償型圧電発振器を例えば、GPS装
置に用いると電源の投入後、速やかに使用が可能になるという効果がある。
【0011】
[適用例3]温度補償型圧電発振器は、温度補償型圧電発振器は、温度と前記周波数補
償量との関係が、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なく
し、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように前記1次及び3
次成分回路を調整したことを特徴とする適用例1に記載の温度補償型圧電発振器である。
【0012】
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の1次
及び3次成分回路を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する。
温度補償回路の2つの回路を調整するので所望の特性に調整することが可能であり、該温
度補償型圧電発振器をGPS装置に用いると電源の投入後、速やかに使用が可能になると
いう効果がある。
【0013】
[適用例4]温度補償型圧電発振器は、温度と前記周波数補償量との関係が、前記圧電
振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温
度補償型圧電発振器の周波数が減少するように前記3次以上の高次成分回路を調整したこ
とを特徴とする請求項1に記載の温度補償型圧電発振器である。
【0014】
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の3次
以上の高次成分回路を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する
。周波数温度特性を所望の特性に調整することが可能であり、該温度補償型圧電発振器を
GPS装置に用いると起動後直ぐに使用が可能になるという効果がある。
【0015】
[適用例5]温度補償型圧電発振器は、温度と前記周波数補償量との関係が、前記圧電
振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温
度補償型圧電発振器の周波数が減少するように前記温度センサから得られる信号を前記処
理回路で処理し、2次成分を調整したことを特徴とする適用例1に記載の温度補償型圧電
発振器である。
【0016】
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の2次
成分を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する。2次成分の調
整は処理回路の記憶回路を調整するだけで極めて容易であり、該温度補償型圧電発振器を
GPS装置に用いると電源の投入後、速やかに使用が可能になるという効果がある。
【0017】
[適用例6]温度補償型圧電発振器は、常温から前記圧電振動素子の極小値を示す温度
の範囲において温度と前記周波数補償量との関係が、前記圧電振動素子の周波数温度特性
を正確に補償する補償量より少なくして、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周
波数が減少するように調整したことを特徴とする適用例1乃至5の何れか一項に記載の温
度補償型圧電発振器である。
【0018】
常温から圧電振動素子の極小値までの範囲で温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の
周波数が減少するように、温度補償回路の3次成分回路、1次及び3次成分回路、3次以
上の高次成分回路、2次成分、1次及び3次以上の高次成分回路の何れかを調整するので
、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する。該温度補償型圧電発振器をGPS
装置に用いると起動後直ぐに使用が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る温度補償型圧電発振器1の構造を示す概略断面図。
【図2】温度補償型圧電発振器1の回路構成を示すブロック回路図。
【図3】温度補償回路の構成を示すブロック回路図。
【図4】(a)は従来の温度補償型圧電発振器の経過時間と周波数偏差を示す図、(b)は本発明の温度補償方法を示す図、(c)は圧電振動素子及びIC部品の温度上昇を示す図。
【図5】(a)〜(e)は温度補償の過程を説明する図。
【図6】(a)は温度補償回路により生成される周波数補償量の温度特性、(b)は温度補償型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図7】1次成分回路の値を変化させた場合の、(a)は補償電圧の温度特性、(b)は温度補償型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図8】3次成分以上の回路の値を変化させた場合の、(a)は補償電圧の温度特性、(b)は温度補償型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図9】2次成分の値を変化させた場合の、(a)は補償電圧の温度特性、(b)は温度補償型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図10】5次成分回路の値を変化させた場合の、(a)は補償電圧の温度特性、(b)は温度補償型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図11】従来の温度補償型圧電発振器の構造を示す概略断面図。
【図12】従来の温度補償型圧電発振器の回路構成を示すブロック回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形
態に係る温度補償型圧電発振器1の構造を示す概略断面図、図2は温度補償型圧電発振器
1の回路構成を示すブロック図である。温度補償型圧電発振器1は、圧電振動素子6と、
IC部品8と、圧電振動素子6及びIC部品8を収容するパッケージ本体10と、該パッ
ケージ本体10の一方の開口部を封止する蓋体20と、を備えている。パッケージ本体1
0は、図1の断面図に示すように二階建て構造型(H型)をしており、パッケージ本体1
0の上面と下面に夫々設けた凹所14a、14b内に、圧電振動素子6とIC部品8を搭
載し、上面の凹所14aを蓋体20で気密封止した構成を有している。
温度補償型圧電発振器1のパッケージ本体10は、上面と下面に夫々凹所14a、14
bを有した縦断面形状が略H型の絶縁容器10aと、絶縁容器10aの矩形環状の外底面
の対向する2辺に沿って夫々突設した各段差部10bの底面に複数個ずつ配置した実装端
子15と、を備えている。上面側凹所14a内には圧電振動素子6を搭載するために、2
つの上面側内部パッド12aが設けられている。また、温度センサ、温度補償回路、発振
回路等を有するIC部品8を搭載するために、下面側凹所14bの天井面には下面側内部
パッド12bが配置されている。そして、各実装端子15と上面側内部パッド12aと下
面側内部パッド12bとの間を導通する内部配線13が、形成されている。
【0021】
温度補償型圧電発振器1は、パッケージ本体10の上面側内部パッド12aに圧電振動
素子6を、導電性接着剤16を介して接続固定して、上面側凹所14aを例えば金属製の
蓋体20にて気密封止する。そして、パッケージ本体10の下面側内部パッド12bにI
C部品8を、金バンプ17等を用いて接続固定した構成を備えている。なお、上面側凹所
14aを気密封止する際は、上面側凹所14a内部を真空にするか、内部に不活性ガス(
例えばN2)を封入して封止する。
プリント基板上に温度補償型圧電発振器1を実装する際には、各段差部10bの底面に
設けた実装端子15をプリント基板に形成したランドに半田を介して接続固定する。
【0022】
温度補償型圧電発振器1の回路構成は、図2のブロック回路図示すように圧電振動素子
6と、IC部品8とを備えている。圧電振動素子6は、圧電基板、例えばATカット水晶
基板の両主面に真空中で金属を蒸着して形成した金属薄膜(励振電極6a、6b)と、励
振電極6a、6bから圧電基板の端部に引出電極とを備えている。また、ATカット振動
素子6の例では水晶基板の切断角度により、種々の周波数温度特性が得られるが、温度補
償型圧電発振器1では変曲点より低温側及び高温側に夫々極大値及び極小値と有する周波
数温度特性を有する圧電振動素子6を用いる。一般的に圧電振動素子6の周波数温度特性
は、変曲点温度をt0とし、温度tに関する多項式(Cn(t−t0n+Cn−1(t−
0n-1+・・・+C3(t−t03+C2(t−t02+C1(t−t0))で表すこ
とができる。
また、IC部品8は、温度を感知するサーミスタまたはダイオード等の温度センサ31
と、圧電振動素子6の温度による周波数変化を補償する温度補償回路32と、可変容量素
子(バリキャップダイオード、nMOS−FET、pMOS−FET等)を有し圧電振動
素子6と協働して電圧制御型発振器を形成する電圧制御型発振回路33と、増幅回路34
と、を備えている。
【0023】
図3は温度補償回路32を説明するブロック回路図である。温度補償回路32は、1次
成分回路32a、3次成分回路32b、4次成分以上の回路と、温度センサ31からの信
号に基づいて1次〜n次成分回路32aの信号を処理する処理回路35と、1次〜n次成
分回路32aの信号を加算する加算回路36と、を備えている。なお、周知のように、温
度補電圧を生成する2次成分は、変曲点温度t0をシフトすることにより形成することが
できるので、IC部品8には電子回路としては含まれていない。
温度センサ31からの信号に基づき、圧電振動素子6の温度特性を補償するために必要
な補償量を処理装置35が演算し、1次〜n次の成分回路に各定数を出力する。1次〜n
次の成分回路の出力を加算するのが加算回路36であり、加算回路36の出力電圧Vcが
電圧制御型発振器33の可変容量素子に印加される。
【0024】
図4(a)は、従来の温度補償型圧電発振器の補償を説明する図であり、起動後、ある
いは温度変化後の経過時間t(sec)を横軸に、周波数偏差(Δf/f)を縦軸にして
いる。温度補償型圧電発振器の一般的な温度補償方法は、起動後十分に時間が経過(t2
)してから、圧電振動素子の任意の温度における周波数変化量α(t2)を測定し、この
変化量α(t2)を補償すべく、温度補償回路による補償量β(t2)がβ(t2)=α
(t2)となるように、温度補償回路の各成分(A1、A3、A4、A5・・)を決める

起動後、あるいは温度変化後の過渡期t1には温度センサが感知する温度Tβで温度補
償回路の補償量β(t1)を生成する。しかるに、図4(c)に示すように、過渡期(t
1)に圧電振動素子(Xtal)が呈する温度Tαは、Tα<Tβであり、圧電振動素子6の
周波数変動量α(t1)は補償量β(t1)より小さい。その結果、過渡期t1では補償
量が過多となり、所謂周波数ドリフトが生じる。
【0025】
図4(a)のβ(t)は、温度補償回路による補償量、α(t)は圧電振動素子の変化
量、γ(t)は温度補償がなされた後の温度補償型圧電発振器の周波数である。起動後、
あるいは温度変化後、時間taが経過すると曲線β(t)で示す補償量(Δf/f)は一
定となる。また、時間tbが経過すると、曲線α(t)で示す周波数変動量(Δf/f)
は一定となる。時間としてはta<tbであるり、経過時間tb以後はα(t)=β(t
)となる。
しかし、圧電振動素子6の周波数変動量α(t)と、温度補償回路32による補償量β
(t)とは、経過時間tによる変化量が異なるため、温度補償型圧電発振器(TCXO)
の周波数γ(t)は0とならず、初めに急速に立ち上がり、時間の経過と共に0に収斂す
る曲線となる。
曲線γ(t)は、起動後、又はある温度に変化した後の経過時間(t)で、温度センサ
31が感知する温度と、補償すべき圧電振動素子6の呈する温度との差により、TCXO
の周波数γ(t)は0ラインから急激に変化し、ピークに達した後、時間tbの経過後0
ラインに戻るような特性となる。このような急激に変化する周波数特性を有する温度補償
型圧電発振器は、GPSのように複数の衛星からの情報を瞬時に受信する装置には適さな
い。
【0026】
従来の温度補償型圧電発振器の周波数変化が、図4(a)のγ(t)で示すようになる
理由を具体的に説明する。初めに温度補償型圧電発振器が単体で、その構造が例えば、図
1に示すような二階建て構造型(H型)である場合を考える。
温度補償型圧電発振器の下面側凹所14bに配置したIC部品8は、内部の能動素子が
起動後に急速に発熱し、IC部品8は極めて小さいためチップ全体の温度が急に上昇する
。IC部品8に内蔵された温度センサ31はIC部品8の温度上昇を瞬時に感知し、IC
部品8に内蔵された温度補償回路32は補償電圧を生成し、補償電圧を電圧制御型発振器
33の可変容量素子に加え、補償量(Δf/f)が生成される。この補償量(Δf/f)
が図3(a)のβ(t)であり、短時間で一定値に収斂する。
【0027】
一方、圧電振動素子への熱伝導は2つの経路あり、第1の経路は発熱源であるIC部品
8から下面側内部パッド12bを経由して内部配線13に伝導し、上面側内部パッド12
a経由して、圧電振動素子6引き出し電極、励振電極6a、6bを介して圧電基板に伝導
する経路である。第2の経路は発熱源であるIC部品8から下面側内部パッド12bを介
してパッケージ本体10の絶縁容器10aに伝導し、絶縁容器10aの基板から上側凹所
14aの気体(N2)を介して圧電振動素子6に伝導する経路である。第1の経路の内部
配線13を経由する経路は金属製であるため熱伝導率は高いが、細く、あるいは薄いため
熱伝導量は小さい。また、パッケージ本体10の絶縁容器10a、気体(N2)を経由す
る熱伝導は、気体の熱伝導率が小さいため、この経路の熱伝導量も大きくない。これらの
理由のためIC部品の温度センサ31の感知する温度と、圧電振動素子6の呈する温度と
の間には温度差が生じ、両者の温度が等しくなるには時間がかかる。
従って、温度補償型圧電発振器を起動させた直後は、圧電振動素子6が呈する温度と、
温度センサ31が感知する温度とに差が生じることになり、圧電振動素子6に対し補償す
べき補償量と、温度補償回路から生じる補償量とが互いに異なることになる。そのため、
起動直後の周波数ドリフトが生じる。
【0028】
温度補償型圧電発振器を通信機器のプリント基板に実装し、通信機器を起動させる場合
は、プリント基板にはCPUや電源回路等が搭載されており、これら電子部品は起動直後
から発熱し、プリント基板は急速に温度が上昇する。このプリント基板に実装された温度
補償型圧電発振器は、自身のIC部品の発熱に加えプリント基板側からの熱の影響も受け
ることになる。温度補償型圧電発振器が二階建て構造型(H型)であると、IC部品8は
パッケージ本体10の下面側凹所14bに搭載されているため、プリント基板から実装端
子15、内部配線13を経由する経路からの熱伝導は、経路も短くIC部品8の温度は急
速に上昇する。また、プリント基板から輻射熱によってもIC部品8は温度上昇を来し、
温度センサ31はこの温度上昇を速やかに感知する。しかるに、圧電振動素子6への熱の
伝導は内部配線13を経由する経路も長く、パッケージ本体10を経由した熱伝導にも時
間を要し、温度センサの感知する温度と、圧電振動素子の温度との間には温度差が生じ、
実際の使用状態でも図3(a)のような周波数ドリフトが生じる。
【0029】
GPSシステムが高い測位精度を実現するためには、温度補償型圧電発振器の周波数安
定度が高いことが必要とされる。特に、携帯型のGPSの場合であればこれに搭載される
基準周波数源の周波数安定度には限界があると共に、受信機も移動する。このため、一般
的にはドップラー効果に基づく搬送波周波数の周波数偏移を演算してドップラー周波数を
測定する。ドップラー周波数と複数のGPS衛星を使って通信機器の移動速度のベクトル
を検出し、移動に伴う周波数ズレ(ドップラー効果によるズレ)を補正する。このとき同
時に通信機器内の基準発振器の周波数誤差も得られて補正される。しかし、補正可能な範
囲には限度があり基準発振器の周波数誤差が規定値よりも大きい場合には補正できず、G
PS装置は衛星からの信号を捕捉することができない。そのため信号を捕捉するまでには
温度補償型の温度分布が均一になるまで時間を要するという問題があった。
【0030】
本発明に係る温度補償型圧電発振器(TCXO)1の温度補償回路32の調整方法につ
いて、図4(b)を用いて説明する。図4(b)に示すα(t2)は、任意温度おいて時
間t2が経過して熱が定常状態に達したときの圧電振動素子6の周波数変動量である。β
(t2)は時間t2が経過した後の温度補償回路32による周波数補償量であり、β(t
2)=α(t2)である。本発明の補償方法は周波数補償量β(t2)より少ない周波数
補償量β’(t2)を用いて圧電振動素子6を補償する方法である。つまり、温度補償回
路32を調整して周波数補償量β’(t2)を生成することである。周波数補償量β’(
t2)が生成できれば、図4(b)に示すTCXO1の周波数変動γ’(t)は、過渡期
t1における周波数ドリフトも小さくなり、全時間に亘りGPSの仕様を満たすようにす
ることが可能となる。
【0031】
本発明に係る温度補償型圧電発振器1の温度補償方法について図面を用いて説明する。
図5(a)は縦軸を周波数偏差(Δf/f)、横軸を温度(T℃)とした圧電振動素子6
の周波数温度特性を示す曲線である。図5(b)の破線は、同図(a)の周波数温度特性
を正確に補償するための温度補償回路32の出力電圧Vcの温度特性である。本発明の調
整法は、図5(b)の実線で示すように、圧電振動素子6の周波数温度特性を正確に補償
する破線の補償電圧曲線に対し、極大及び極小値の補償電圧Vcの絶対値を夫々小さくし
て補償を行うのが特徴である。
図5(c)は電圧制御発振回路33に用いられる可変容量素子の容量C−電圧Vc特性
である。図5(d)に示す温度T−容量C特性は、図5(b)に示す温度補償回路32の
出力電圧Vc特性を可変容量素子に加えた場合に生成される容量特性である。図5(e)
は圧電振動素子6の負荷容量Cと周波数偏移の関係を示す負荷容量特性である。圧電振動
素子6に図5(d)の実線で示す温度T−容量C特性の容量を負荷させると、図6(a)
に示す温度Tと周波数補償量(Δf/f)との関係を示す周波数補償特性が得られる。こ
の周波数補償特性と、圧電振動素子の呈する周波数温度特性とを加算することにより、図
6(b)の実線で示す、温度の増加に伴い右下がりに減少する周波数温度特性が得られる
。図6(b)の破線は、図5(b)の破線で示す温度補償電圧を用いた場合の従来の周波
数温度特性である。図6(b)の実線は、図5(b)の実線で示す温度補償電圧、つまり
波線で示す温度補償電圧の極大値、極小値の絶対値よりも小さい温度補償電圧を用いて圧
電振動素子6を補償した場合の周波数温度特性であり、本発明の周波数温度特性は温度T
の増加に伴い右下がりに減少する。
【0032】
図7(a)は、温度補償型圧電発振器1の温度補償回路32の1次成分回路の定数値を
変化させた場合、温度補償回路32から得られる出力電圧Vcをシミュレーションして得
られた温度T−補償電圧Vcの曲線である。D2で示す曲線は補償電圧Vc曲線の最適値
であり、所定の温度範囲(例えば−30℃〜85℃)で周波数温度特性がほぼゼロになる
ように、温度補償回路32を設定した場合である。曲線D1は1次成分回路の定数値を適
正値より過大に、曲線D3は過小に設定した場合の出力電圧曲線である。
図7(b)は同図(a)に示したと温度補償回路32の出力電圧Vc(D1、D2、D
3)に基づいて得られた温度補償型圧電発振器1の周波数温度特性である。図7(b)の
曲線D2は、同図(a)の出力電圧曲線D2を用いて圧電振動素子6を補償した周波数温
度特性であり、平坦な特性をしている。図7(b)のD1、D3より温度補償回路32の
1次成分回路の定数値を適正値から変えることで、温度の増加に伴い右下がりの周波数温
度特性、あるいは右上がりの周波数温度特性が得られることが分かる。
図7(b)に示した周波数温度特性の図は、温度補償回路32の出力電圧Vcの変化に
より、周波数偏差(Δf/f)が大きく振れるようにシミュレーションした図である。曲
線D2とD1との間の曲線は、処理回路に備えるメモリを適宜設定することにより多数得
られ、温度補償型圧電発振器の構造、搭載されるプリント基板の温度上昇等を考慮して最
適な特性となるように設定すればよい。
なお、実際GPSに用いられる周波数温度特性の仕様の一例は、温度範囲(−30℃〜
85℃)で±0.5ppm程度である。
【0033】
図8(a)は温度補償型圧電発振器1の温度補償回路32の3次成分以上の回路の定数
値を変化させた場合、温度補償回路32から得られる出力電圧Vcのシミュレーションで
ある。D2で示す曲線は、周波数温度特性が所定の温度範囲(例えば−30℃〜85℃)
で、ほぼゼロになるように温度補償回路32を最適値に設定した場合の出力電圧Vcであ
る。曲線D1は3次成分以上の回路の定数値を適正値より過大に、曲線D3は過小に設定
した場合の出力電圧Vc曲線である。
図8(b)は(a)に示したと温度補償回路32の出力電圧Vc(D1、D2、D3)
に基づいて得られた温度補償型圧電発振器1の周波数温度特性である。図8(b)の曲線
D2は、同図(a)の出力電圧曲線D2を用いて圧電振動素子6を補償した周波数温度特
性であり、平坦な特性をしている。図8(b)より温度補償回路32の3次成分以上の回
路の定数値を変えることで、温度の増加に伴い右下がりの周波数温度特性、あるいは右上
がりの周波数温度特性を得ることが分かる。
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の3次
以上の高次成分回路を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する
。周波数温度特性を所望の特性に調整することが可能であり、温度補償型圧電発振器をG
PS装置に用いると起動後直ぐに使用が可能になるという効果がある。
【0034】
図9(a)は温度補償型圧電発振器1の温度補償回路32の2次成分の定数値を変化さ
せた場合、温度補償回路32から得られる出力電圧Vcのシミュレーションである。D2
で示す曲線は、周波数温度特性が所定の温度範囲(例えば−30℃〜85℃)でほぼゼロ
になるように、温度補償回路32を最適値に設定した場合の出力電圧Vcの曲線である。
曲線D1は2次成分の定数値を適正値より過大に、曲線D3は過小に設定した場合の出力
電圧曲線である。
なお、周知のように、処理回路に格納されている温度センサ31の温度−出力電圧特性
を適宜選択することにより2次成分を変えることが可能である。これは変曲点温度t0
含む温度(t−t0)の多項式で温度補償回路32を構成する場合に、変曲点t0をシフト
することに相当する。
図9(b)は(a)に示したと温度補償回路32の出力電圧Vc(D1、D2、D3)
に基づいて得られた温度補償型圧電発振器1の周波数温度特性である。図9(b)の曲線
D2は、同図(a)の出力電圧曲線D2を用いて圧電振動素子6を補償した周波数温度特
性であり、平坦な特性をしている。図9(b)より温度補償回路32の2次成分の定数値
を変えることで、温度の増加に伴い右下がりの周波数温度特性、あるいは右上がりの周波
数温度特性を得ることが分かる。
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の2次
成分を調整するので、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少する。2次成分の調
整は処理回路の記憶回路を調整するだけで極めて容易であり、温度補償型圧電発振器をG
PS装置に用いると電源の投入後、速やかに使用が可能になるという効果がある。
【0035】
図10(a)は温度補償型圧電発振器1の温度補償回路32の5次成分回路の定数値を
変化させた場合、温度補償回路32から得られる出力電圧Vcのシミュレーションである
。D2で示す曲線は、周波数温度特性が所定の温度範囲(例えば−30℃〜85℃)でほ
ぼゼロになるように温度補償回路32を設定した場合の出力電圧Vcの曲線である。曲線
D1は補償を適正値より過大に、曲線D3は過小に設定した場合の出力電圧曲線である。
図10(b)は、(a)に示したと温度補償回路32の出力電圧Vc(D1、D2、D
3)に基づいて得られた温度補償型圧電発振器1の周波数温度特性である。図10(b)
の曲線D2は、同図(a)の出力電圧曲線D2を用いて圧電振動素子6を補償した周波数
温度特性であり、平坦な特性をしている。図10(b)より温度補償回路32の5次成分
回路の定数値を変えることで、温度の増加に伴い右下がりの周波数温度特性、あるいは右
上がりの周波数温度特性を得ることが分かる。
【0036】
以上では温度補償回路の各回路と、回路の幾つかの組み合わせについて説明したが、温
度補償回路の3次成分回路、あるいは1次成分回路と3次成分回路を調整し、温度の増加
に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように調整してもよい。
このように調整すると、温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少し、温度補償型
圧電発振器をGPS装置に用いると電源の投入後、速やかに使用が可能になるという効果
がある。
【0037】
以上では温度補償回路の各回路と、回路の幾つかの組み合わせについて説明したが、1
次成分回路と3次以上の高次成分回路と2次成分との全てを調整して、温度補償型圧電発
振器の周波数温度特性を所望の特性になるように調整してもよい。
温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように温度補償回路の1次
成分回路と3次以上の高次成分回路とを含む回路の係数、及び処理回路を調整するので、
温度補償型圧電発振器の周波数ドリフトが減少し、温度補償型圧電発振器を例えば、GP
S装置に用いると電源の投入後、速やかにGPS装置が機能するという効果がある。
常温から圧電振動素子の極小値までの範囲で温度の増加に伴い温度補償型圧電発振器の
周波数が減少するように、温度補償回路の3次成分回路、1次及び3次成分回路、3次以
上の高次成分回路、2次成分、1次及び3次以上の高次成分回路の何れかを調整してもよ
い。
実用的には常温以上で温度の上昇に伴い周波数が減少するように温度補償型圧電発振器
を調整すれば、温度補償型圧電発振器をGPS装置に用いると起動後直ぐに使用が可能に
なるという効果がある。
【符号の説明】
【0038】
1…温度補償型圧電発振器、6…圧電振動素子、8…IC部品、10…パッケージ本体、
10a…絶縁容器、10b…段差部、12a…上面側内部パッド、12b…下面側内部パ
ッド、13…内部配線、14a、14b…凹所、15…実装端子、16…導電性接着剤、
17…金バンプ、20…蓋体、31…温度センサ、32…温度補償回路、33…電圧制御
型発振回路、34…増幅回路、35…処理回路、36…加算回路、α(t)…圧電振動素
子の周波数変化量、β(t)…補償回路による補償量、γ(t)…温度補償型圧電発振器
の周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動素子と、IC部品と、前記圧電振動素子及びIC部品を収容するパッケージ本
体と、該パッケージ本体の一方の開口部を封止する蓋体と、を備えた温度補償型圧電発振
器であって、
前記圧電振動素子は、変曲点の低温側及び高温側に夫々極大値及び極小値と有する周波
数温度特性を有し、
前記IC部品は、温度を感知する温度センサと、前記圧電振動素子の温度による周波数
変化を補償する温度補償回路と、前記圧電振動素子と協働して電圧制御型発振器を形成す
る電圧制御型発振回路と、を備え、
前記温度補償回路は、1次成分回路と3次以上の高次成分回路とを含む回路と、信号の
処理回路と、加算回路と、を備え、
前記電圧制御型発振回路から出力される周波数補償量と温度との関係が、前記圧電振動
素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なく、温度の上昇に応じて温度補償
型圧電発振器の周波数が減少するように処理回路及び補償回路を調整したことを特徴とす
る温度補償型圧電発振器。
【請求項2】
温度と前記周波数補償量との関係を、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償
する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少する
ように前記3次成分回路を調整したことを特徴とする請求項1に記載の温度補償型圧電発
振器。
【請求項3】
温度と前記周波数補償量との関係を、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償
する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少する
ように前記1次及び3次成分回路を調整したことを特徴とする請求項1に記載の温度補償
型圧電発振器。
【請求項4】
温度と前記周波数補償量との関係を、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償
する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少する
ように前記3次以上の高次成分回路を調整したことを特徴とする請求項1に記載の温度補
償型圧電発振器。
【請求項5】
温度と前記周波数補償量との関係を、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償
する補償量より少なくし、温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少する
ように前記温度センサから得られる信号を前記処理回路で処理し、2次成分を調整したこ
とを特徴とする請求項1に記載の温度補償型圧電発振器。
【請求項6】
常温から前記圧電振動素子の極小値を示す温度の範囲において温度と前記周波数補償量
との関係を、前記圧電振動素子の周波数温度特性を正確に補償する補償量より少なくし、
温度の上昇に応じて温度補償型圧電発振器の周波数が減少するように調整したことを特徴
とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の温度補償型圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−206443(P2010−206443A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48899(P2009−48899)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】