説明

測定チップおよびその作製方法

【課題】 表面プラズモン共鳴測定装置等の、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップにおいて、その樹脂製誘電体ブロックの薄膜層が形成される一面の平面度を高く保ち、また、樹脂の合流面ができることによる強度低下を防止する。
【解決手段】 誘電体ブロックを樹脂を用いて射出成形する際に、薄膜層が形成される一面を規定する型面4aに対向する位置に樹脂導入用ゲートGを配して射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面プラズモンの発生を利用して試料中の物質を定量分析する表面プラズモン共鳴測定装置等に用いられる測定チップに関するものである。
【0002】また本発明は、そのような測定チップを作製する方法に関するものである。
【0003】
【従来の技術】金属中においては、自由電子が集団的に振動して、プラズマ波と呼ばれる粗密波が生じる。そして、金属表面に生じるこの粗密波を量子化したものは、表面プラズモンと呼ばれている。
【0004】従来より、この表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、試料中の物質を定量分析する表面プラズモン共鳴測定装置が種々提案されている。そして、それらの中で特に良く知られているものとして、 Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号参照)。
【0005】上記の系を用いる表面プラズモン共鳴測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件となり、かつ、表面プラズモン共鳴条件を含む種々の入射角が得られるように入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0006】なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを偏向させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光あるいは発散光の状態で入射させてもよい。前者の場合は、光ビームの偏向にともなって反射角が変化する光ビームを、光ビームの偏向に同期移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
【0007】上記構成の表面プラズモン共鳴測定装置において、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角θSPで入射させると、該金属膜に接している試料中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と試料との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。
【0008】なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
【0009】この全反射減衰(ATR)が生じる入射角θSPより表面プラズモンの波数が分かると、試料の誘電率が求められる。すなわち表面プラズモンの波数をKSP、表面プラズモンの角周波数をω、cを真空中の光速、εとεをそれぞれ金属、試料の誘電率とすると、以下の関係がある。
【0010】
【数1】


試料の誘電率εが分かれば、所定の較正曲線等に基づいて試料中の特定物質の濃度が分かるので、結局、上記反射光強度が低下する入射角θSPを知ることにより、試料中の特定物質を定量分析することができる。
【0011】上記の系を用いる従来の表面プラズモン共鳴測定装置において、実用上は、試料に接触させる金属膜を測定毎に交換する必要がある。そこで従来は、この金属膜を平坦な板状の誘電体ブロックに固定し、それとは別に前記全反射を生じさせるための光カップラーとしてのプリズム状誘電体ブロックを設け、この後者の誘電体ブロックの一面に前者の誘電体ブロックを一体化するという手法が採用されていた。そのようにすれば、後者の誘電体ブロックは光学系に対して固定としておき、前者の誘電体ブロックと金属膜とを測定チップとして、この測定チップのみを試料毎に交換することが可能となる。
【0012】また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0013】上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の試料の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、試料の屈折率や、それに関連する試料の特性を分析することができる。
【0014】なおこの漏洩モード測定装置を用いる場合も、前述の表面プラズモン共鳴測定装置を用いる場合と同様に、装置の光学系に対して1つの誘電体ブロックを固定する一方、別の誘電体ブロックにクラッド層および光導波層を形成して測定チップとし、この測定チップのみを試料毎に交換することが可能である。
【0015】ところで、この交換可能とされた従来の測定チップを用いる場合は、その誘電体ブロックとプリズム状誘電体ブロックとの間に空隙が生じて屈折率が不連続となることを防止するため、それら両誘電体ブロックを屈折率マッチング液を介して一体化する必要が生じる。そのようにして両誘電体ブロックを一体化する作業は非常に煩雑であり、そのため、この従来の測定チップは、測定に際しての取扱い性が良くないものとなっている。特に、測定チップをターレット等の上に自動装填し、このターレットを回転させることにより、測定チップを光ビームを受ける測定位置に自動供給して測定を自動化するような場合は、測定チップの装填、取外しに手間取り、それが自動測定の能率向上を妨げる原因となりやすい。
【0016】またこの従来の測定チップは、屈折率マッチング液を使用することから、環境に与える悪影響も懸念されている。
【0017】上記の事情に鑑みて、屈折率マッチング液を使用する必要がなく、そして測定用光学系に対して簡単に交換することができる測定チップが提案されている(特願2001−92666号)。
【0018】この測定チップは、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記薄膜層との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップにおいて、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記薄膜層が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなることを特徴とするものである。
【0019】なお、この測定チップが前記表面プラズモン共鳴測定用のものである場合、上記薄膜層は金属膜から構成され、漏洩モード測定用のものである場合、上記薄膜層はクラッド層および光導波層から構成される。
【0020】また、上記測定チップを構成する誘電体ブロックにおいて、好ましくは、薄膜層が形成される一面の上方の空間を側方から囲んで、この一面の上に試料を保持する液溜めを画成する部分が形成される。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述の誘電体ブロックとしては、樹脂を射出成形してなるものが好適に用いられるが、従来、そのような樹脂製誘電体ブロックからなる測定チップにおいては、薄膜層が形成される一面の平面度が低い、圧縮や引っ張りに対する強度が低いといった問題が認められている。
【0022】そこで本発明は、薄膜層が形成される一面の平面度が高くて、圧縮や引っ張りに対する強度も高い樹脂製誘電体ブロックを備えた測定チップを提供することを目的とする。
【0023】また本発明は、そのような樹脂製誘電体ブロックを得ることができる、測定チップの作製方法を提供することを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】本発明による1つの測定チップの作製方法は、前述したような誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記薄膜層との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記薄膜層が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とするものである。
【0025】また本発明による別の測定チップの作製方法は、特に前述した表面プラズモン共鳴測定用の測定チップを作製するものであって、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる金属膜からなる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とするものである。
【0026】また本発明によるさらに別の測定チップの作製方法は、特に前述した漏洩モード測定用の測定チップを作製するものであって、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層、およびその上に形成されて試料に接触させられる光導波層からなる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記クラッド層との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、前記光導波層での導波モードの励起による全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記クラッド層が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とするものである。
【0027】なお、以上説明した各測定チップの作製方法において、前記樹脂導入用ゲートは、前記型面に対してほぼ垂直となる向きに配しておくことが特に望ましい。
【0028】また本発明による測定チップの作製方法において、誘電体ブロックの材料である樹脂としては、シクロオレフィンポリマーを用いることが望ましい。
【0029】一方本発明による測定チップは、以上説明した本発明による測定チップの作製方法によって作製されたことを特徴とするものである。
【0030】なお、この本発明による測定チップの誘電体ブロックにおいては、前記薄膜層が形成される一面の上方の空間を側方から囲んで、この一面の上に試料を保持する液溜めを画成する部分が形成されていることが望ましい。
【0031】
【発明の効果】まず、従来技術において、前述のような問題が生じる原因について説明する。図3は、表面プラズモン共鳴測定に用いられる測定チップの一例を示すものである。この測定チップ10は図示の通り、例えば概略四角錐の一部を切り取った形状の透明誘電体ブロック11と、この誘電体ブロック11の一面11aに形成された例えば金、銀、銅、アルミニウム等からなる金属膜12と、この金属膜12の上に側方が閉じられた空間を画成する筒状の試料保持枠13とから構成されている。誘電体ブロック11は、上記金属膜12が形成される面11aと、測定用光ビームが入射する面11bと、該光ビームが出射する面11cとを全て含む1つのブロックとして形成されている。試料保持枠13は、その中に液溜めとしての空間を画成するものであり、その空間内には例えば液体の試料が貯えられる。
【0032】本例の測定チップ10において、誘電体ブロック11および試料保持枠は、透明樹脂を用いて一体成形されている。この透明樹脂の好ましいものとしては、シクロオレフィンポリマー、PMMA、ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン等を挙げることができる。また、日本ゼオン株式会社が製造するシクロオレフィンポリマーの一つである「ZEONEX 330R」(商品名)も極めて好ましいものとして挙げることができる。なお本例では、金属膜12の上にセンシング媒体14が固定されているが、それについては後に詳述する。
【0033】上述の形状を有する樹脂製誘電体ブロック11は従来、基本的に図5に示すようにして射出成形により作製されていた。すなわち、誘電体ブロック11の外形形状を規定する空間3を画成する上型1と、この上型1側に突出したピン4を有する下型2とが用いられ、固定の下型2に対して上方から上型1が下降して密着することにより、上記空間3が閉じられるとともに、その空間3内に、液溜めを成形するピン4が進入した状態とされる。そして、上型1に形成されたゲートGから、溶融した樹脂が空間3内に導入されて、誘電体ブロック11が成形される。なおここで示すゲートGは、通常ピンゲートと称される形状のものである。
【0034】本発明者の研究によると、このような従来技術において生じる前述の問題は、根本的に、ゲートGが空間3の側方に位置していることに起因していることが判明した。つまり、空間3の側方にゲートGが位置していると、そこから空間3内に流入した溶融樹脂は図中2つの矢印で示すような経路で流れて、ピン4の先端面4aの上で合わさるようになる。そこで、このピン4の先端面4aで規定される誘電体ブロック11の面(これは図3に示した金属膜12が形成される面11aである)には、2つの樹脂の流れの合流面が線となって表れる。これは一般に「ウェルド」と称されており、この線が形成されたことにより上記誘電体ブロック11の一面11aの平面度が損なわれ、また、2つの樹脂の流れが合流した部分が、圧縮や引っ張りの力に対して弱いものとなってしまうのである。
【0035】さらにこの例では、下型2に直立固定させたピン4を用いているため、空間3の側方にゲートGが位置していると、例えば1000kg/cm程度にもなる高圧で樹脂を導入した際に、ピン4がその圧力で横方に倒れて、先端面4aが傾いて転写されたり、あるいは誘電体ブロック11の形状が不正なものになってしまうこともある。
【0036】なお誘電体ブロック11の一面11aには前述のように金属膜12が形成され、後述のように測定に際して光ビームがこの一面11aに照射されるので、この一面11aの平面度が低いと、測定精度が損なわれることになる。
【0037】本発明による測定チップの作製方法においては、上記の新しい知見に基づいて、樹脂導入用ゲートGを図6に示す位置に配して射出成形を行なうものである。つまりこのように、前記誘電体ブロック11の一面11aを規定する型面であるピン先端面4aに対向する位置にゲートGを配して射出成形することにより、誘電体ブロック11の一面11aのところで樹脂が合流することがなくなる。つまりこのとき樹脂は、図6中に2本の矢印で示すように、ピン先端面4aに向かって流れるようになる。
【0038】したがってこの場合は、樹脂が合流した部分において誘電体ブロック11の強度が低下することがなく、また誘電体ブロック11の上記一面11aにウェルドが発生することも防止される。さらに、図示のようなピン4を用いる場合でも、それが樹脂導入の圧力で横方に倒れることがなくなるので、先端面4aが傾いて転写されたり、あるいは誘電体ブロック11の形状が不正になることが防止される。
【0039】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の方法によって作製される表面プラズモン共鳴測定チップ(以下、単に測定チップという)10を用いる表面プラズモン共鳴測定装置の全体形状を示すものである。また図2はこの装置の要部の側面形状を示し、図3は測定チップ10の斜視形状を示している。まず、表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
【0040】図1に示す通りこの表面プラズモン共鳴測定装置は、複数の測定チップ10を支持するターンテーブル20と、測定用の光ビーム(レーザビーム)30を発生させる半導体レーザ等のレーザ光源31と、入射光学系を構成する集光レンズ32と、光検出器40と、上記ターンテーブル20を間欠的に回動させる支持体駆動手段50と、この支持体駆動手段50の駆動を制御するとともに、上記光検出器40の出力信号Sを受けて後述の処理を行なうコントローラ60と、試料自動供給機構70とを有している。
【0041】上記測定チップ10は図2および図3に示す通り、例えば概略四角錐の一部を切り取った形状の透明誘電体ブロック11と、この誘電体ブロック11の上面に形成された例えば金、銀、銅、アルミニウム等からなる金属膜12と、この金属膜12の上に側方が閉じられた空間を画成する筒状の試料保持枠13とから構成されている。誘電体ブロック11は、上記金属膜12が形成される一面11a(後述の界面を構成する面)と、光ビーム30が入射する面11bと、光ビーム30が出射する面11cとを全て含む1つのブロックとして形成されている。試料保持枠13の中には、後述のようにして例えば液体の試料15が貯えられる。
【0042】測定チップ10を構成する誘電体ブロック11および試料保持枠13は透明樹脂を用いて一体成形されており、ターンテーブル20に対して交換可能とされている。交換可能とするためには、例えばターンテーブル20に形成された貫通孔に、測定チップ10を嵌合保持させる等すればよい。
【0043】上記透明樹脂の好ましいものとしては、シクロオレフィンポリマー、PMMA、ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン等を挙げることができる。なお本例では、金属膜12の上にセンシング媒体14が固定されているが、それについては後に詳述する。また誘電体ブロック11を形成する材料として一般には、屈折率が1.45〜2.5程度の範囲内にあるものを用いるのが望ましい。その理由は、この屈折率範囲で実用的なSPR共鳴角が得られるからである。
【0044】ターンテーブル20は複数(本例では11個)の上記測定チップ10を、その回動軸20aを中心とする円周上に等角度間隔で支持するように構成されている。支持体駆動手段50はステッピングモータ等から構成され、ターンテーブル20を測定チップ10の配置角度と等しい角度ずつ間欠的に回動させる。
【0045】集光レンズ32は図2に示す通り、光ビーム30を集光して収束光状態で誘電体ブロック11に通し、誘電体ブロック11と金属膜12との界面(なお以下ではこの界面を便宜的に、誘電体ブロック11の一面11aと同じ付番「11a」を付して示す)に対して種々の入射角が得られるように入射させる。この入射角の範囲は、上記界面11aにおいて光ビーム30の全反射条件が得られ、かつ、表面プラズモン共鳴が生じ得る角度範囲を含む範囲とされる。
【0046】なお光ビーム30は、界面11aに対してp偏光で入射する。そのようにするためには、予めレーザ光源31をその偏光方向が所定方向となるように配設すればよい。その他、波長板や偏光板で光ビーム30の偏光の向きを制御してもよい。
【0047】光検出器40は、多数の受光素子が1列に配されてなるラインセンサーから構成されており、受光素子の並び方向が図2中の矢印X方向となるように配されている。
【0048】一方コントローラ60は、支持体駆動手段50からその回動停止位置を示すアドレス信号Aを受けるとともに、所定のシーケンスに基づいてこの支持体駆動手段50を作動させる駆動信号Dを出力する。またこのコントローラ60は、上記光検出器40の出力信号Sを受ける信号処理部61と、この信号処理部61からの出力を受ける表示部62とを備えている。
【0049】試料自動供給機構70は、例えば液体試料を所定量だけ吸引保持するピペット71と、このピペット71を移動させる手段72とから構成されたものであり、所定位置にセットされた試料容器73から試料をピペット71に吸引保持し、所定の停止位置にある測定チップ10の試料保持枠13内にその試料を滴下供給する。
【0050】以下、上記構成の表面プラズモン共鳴測定装置による試料分析について説明する。試料分析に際してターンテーブル20は、前述のように支持体駆動手段50によって間欠的に回動される。そして、ターンテーブル20が停止したとき所定位置に静止した測定チップ10の試料保持枠13に、上記試料自動供給機構70によって試料15が供給される。
【0051】その後ターンテーブル20が何回か回動されてから停止すると、試料保持枠13に試料15を保持している測定チップ10が、その誘電体ブロック11に前記光ビーム30が入射する測定位置(図2中の右側の測定チップ10の位置)に静止する状態となる。この状態のとき、コントローラ60からの指令でレーザ光源31が駆動され、そこから発せられた光ビーム30が前述のように収束する状態で、誘電体ブロック11と金属膜12との界面11aに入射する。この界面11aで全反射した光ビーム30は、光検出器40によって検出される。
【0052】光ビーム30は、上述の通り収束光状態で誘電体ブロック11に入射するので、上記界面11aに対して種々の入射角θで入射する成分を含むことになる。なおこの入射角θは、全反射角以上の角度とされる。そこで、光ビーム30は界面11aで全反射し、この反射した光ビーム30には、種々の反射角で反射する成分が含まれることになる。ここで、上記集光レンズ32等の光学系は、光ビーム30を界面11aにデフォーカス状態で入射させるように構成されてもよい。そのようにすれば、表面プラズモン共鳴の状態検出(例えば前記暗線の位置測定)の誤差が平均化されて、測定精度が高められる。
【0053】上述のように光ビーム30が全反射するとき、界面11aから金属膜12側にエバネッセント波がしみ出す。そして、光ビーム30が界面11aに対してある特定の入射角θSPで入射した場合は、このエバネッセント波が金属膜12の表面に励起する表面プラズモンと共鳴するので、この光については反射光強度Iが鋭く低下する。なお図4には、この全反射減衰現象が生じた際の入射角θと反射光強度Iとの関係を概略的に示してある。
【0054】そこで、光検出器40が出力する光量検出信号Sから各受光素子毎の検出光量を調べ、暗線を検出した受光素子の位置に基づいて上記入射角(全反射減衰角)θSPを求め、予め求めておいた反射光強度Iと入射角θとの関係曲線に基づけば、試料15中の特定物質を定量分析することができる。コントローラ60の信号処理部61は、以上の原理に基づいて試料15中の特定物質を定量分析し、その分析結果が表示部62に表示される。
【0055】測定を1つの試料15に対して1回だけ行なう場合は、以上の操作で測定が完了するので、測定を終えた測定チップ10をターンテーブル20から手操作により、あるいは自動排出手段を用いて排出すればよい。一方、1つの試料15に対して測定を複数回行なう場合は、測定終了後も測定チップ10をそのままターンテーブル20に支持させておけば、ターンテーブル20の1回転後に、その測定チップ10に保持されている試料15を再度測定にかけることができる。
【0056】以上説明した通り、この表面プラズモン共鳴測定装置は、複数の測定チップ10をターンテーブル20に支持させ、このターンテーブル20を移動させて各測定チップ10を順次測定位置に配置するように構成されているから、複数の測定チップ10の各試料保持枠13に保持させた試料15を、ターンテーブル20の移動にともなって次々と測定に供することができる。それにより、この表面プラズモン共鳴測定装置によれば、多数の試料15についての測定を短時間で行なうことが可能になる。
【0057】この測定チップ10は、従来なされていたように誘電体ブロック11を屈折率マッチング液を介して他の誘電体ブロックと光学的に結合させるような必要はないものである。したがって、この測定チップ10は取扱い性が良く、また屈折率マッチング液が環境に及ぼす悪影響から無縁のものとなり得る。
【0058】なお金属膜12の表面に固定されているセンシング媒体14は、試料15中の特定物質と結合するものである。このような特定物質とセンシング媒体14との組合せとしては、例えば抗原と抗体とが挙げられる。その場合は、全反射減衰角θSPに基づいて抗原抗体反応を検出することができる。
【0059】次に、測定チップ10を作製する本発明の方法の実施形態について説明する。図7は、本発明の一つの実施形態による方法で測定チップを作製する射出成形装置の一例を概略的に示すものである。図示の通りこの射出成形装置は、上下方向に移動自在とされた可動取付板80にスペーサブロック81を介して固定された下型2と、この下型2に密着、離間する上型1とから構成されている。
【0060】下型2は受け板82と、この上に組み付けられたストッパプレート83と、先に図6に示したものと同様のピン4とから構成されている。上型1は、下型2によって下側から押圧されると図示のように互いが上下方向に密着する可動型板84と、ランナープレート85と、ランナーストリッパプレート86と、固定取付板87とから構成されている。固定取付板87は上下方向位置が固定されており、下型2が図7の状態から所定距離下降すると、可動型板84とランナープレート85とランナーストリッパプレート86とが互いに離れつつ固定取付板87から離れる。
【0061】可動型板84には、図中左右方向に移動して、互いに密着したときに互いの間に空間3を画成する2つのスライダブロック84a、84bが組み込まれている。上型1と下型2とが密着すると、上記空間3内にピン4の先端部分が進入した状態となる。なおこの図7では、上記空間3のように溶融樹脂が流れる空間をハッチングを付して示してある。
【0062】ランナープレート85の上面とランナーストリッパプレート86の下面にはそれぞれ、両者が密着したとき互いに整合するランナー溝85a、86aが形成されている。またランナーストリッパプレート86には、上記ランナー溝86aに連続する樹脂導入通路86bが形成され、また固定取付板87には、該固定取付板87がランナーストリッパプレート86に密着したとき上記樹脂導入通路86bと連通する樹脂導入通路87aが形成されている。
【0063】上型1と下型2とを図7のように密着した状態とし、固定取付板87の樹脂導入通路87aから矢印Aで示すように溶融した透明樹脂を圧入させると、先に図6R>6を参照して説明したのと同様にピンゲートGから空間3内に樹脂が射出される。この樹脂が冷却固化した後に上型1と下型2とを離間させれば、図3に示した測定チップ10を構成する誘電体ブロック11が得られる。
【0064】このようにして誘電体ブロック11を射出成形する際、誘電体ブロック11の一面11aを規定する型面であるピン先端面4aに対向する位置にゲートGを配しておくことにより、樹脂が合流した部分において誘電体ブロック11の強度が低下したり、誘電体ブロック11の上記一面11aにウェルドが発生することが防止される。さらに、ピン4が樹脂導入の圧力で横方に倒れることがなくなるので、誘電体ブロック11の形状が不正になることが防止される。その理由は、先に図6を参照して詳しく説明した通りである。
【0065】以上の通りにして誘電体ブロック11を射出成形した後、この誘電体ブロック11の上記一面11aに金属膜12を形成し、さらにその上にセンシング媒体14を固定すると、図3に示した測定チップ10が得られる。
【0066】なお本発明による測定チップの作製方法は、以上説明したような形状の誘電体ブロック11を射出成形する場合に限らず、その他の形状の誘電体ブロックを射出成形する場合にも同様に適用可能であり、そして同様の効果を奏するものである。またゲートGも前述のピンゲートに限らず、その他の形状のゲート、例えばファンゲート等が適用されても構わない。
【0067】次に図8を参照して、本発明による測定チップを適用することができる別の測定装置について説明する。この図8は、本発明の方法によって作製可能な漏洩モード測定装置用測定チップ700と、それを用いる漏洩モード測定装置の側面形状を示すものである。
【0068】この漏洩モード測定装置は基本的に、図2に示した表面プラズモン共鳴測定装置と同様の構成を有するものである。一方測定チップ700は、誘電体ブロック11の一面(図中の上面)にクラッド層701が形成され、さらにその上に光導波層702が形成されてなるものである。
【0069】誘電体ブロック11は、例えば前述したような透明樹脂を用いて形成されている。一方クラッド層701は、誘電体ブロック11よりも低屈折率の誘電体や、金等の金属を用いて薄膜状に形成されている。また光導波層702は、クラッド層701よりも高屈折率の誘電体、例えばPMMAを用いてこれも薄膜状に形成されている。クラッド層701の膜厚は、例えば金薄膜から形成する場合で36.5nm光導波層702の膜厚は、例えばPMMAから形成する場合で700nm程度とされる。
【0070】上記構成の漏洩モード測定装置において、レーザ光源31から出射した光ビーム30を誘電体ブロック11を通してクラッド層701に対して全反射角以上の入射角で入射させると、該光ビーム30が誘電体ブロック11とクラッド層701との界面11aで全反射するが、クラッド層701を透過して光導波層702に特定入射角で入射した特定波数の光は、該光導波層702を導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層702に取り込まれるので、上記界面11aで全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。
【0071】光導波層702における導波光の波数は、該光導波層702の上の試料15の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、試料15の屈折率や、それに関連する試料15の特性を分析することができる。信号処理部61は、以上の原理に基づいて試料15中の特定物質を定量分析し、その分析結果が図示外の表示部に表示される。
【0072】上記の漏洩モード測定装置用測定チップ700を形成するに当たり、それを構成する誘電体ブロック11を射出成形する際に本発明の方法を適用すれば、この場合にも前述と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の方法によって作製された表面プラズモン共鳴測定チップを用いる表面プラズモン共鳴測定装置の全体図
【図2】図1の表面プラズモン共鳴測定装置の要部を示す一部破断側面図
【図3】本発明の一実施形態の方法によって作製された表面プラズモン共鳴測定チップを示す斜視図
【図4】表面プラズモン共鳴測定装置における光ビーム入射角と、光検出器による検出光強度との概略関係を示すグラフ
【図5】従来方法によって表面プラズモン共鳴測定チップを作製する様子を示す説明図
【図6】本発明の方法によって表面プラズモン共鳴測定チップを作製する様子を示す説明図
【図7】本発明の一実施形態による方法で測定チップを作製する装置を示す側断面図
【図8】本発明の方法によって作製される別の測定チップと、それを用いる漏洩モード測定装置の要部を示す一部破断側面図
【符号の説明】
1 上型
2 下型
3 空間
4 ピン
4a ピン先端面
10 表面プラズモン共鳴測定チップ
11 誘電体ブロック
11a 誘電体ブロックの一面
11b 誘電体ブロックの光入射面
11c 誘電体ブロックの光出射面
12 金属膜
13 試料保持枠
14 センシング媒体
15 試料
80 可動取付板
81 スペーサブロック
82 受け板
83 ストッパプレート
84 可動型板
85 ランナープレート
86 ランナーストリッパプレート
87 固定取付板
700 漏洩モード測定装置用測定チップ
701 クラッド層
702 光導波層
G ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記薄膜層との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記薄膜層が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とする測定チップの作製方法。
【請求項2】 誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる金属膜からなる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とする測定チップの作製方法。
【請求項3】 誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層、およびその上に形成されて試料に接触させられる光導波層からなる薄膜層と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記クラッド層との界面で全反射条件となり、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、前記光導波層での導波モードの励起による全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、全反射減衰を利用した測定装置に用いられる測定チップであって、前記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記クラッド層が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして樹脂から形成され、この誘電体ブロックに前記薄膜層が一体化されてなる測定チップの作製方法において、前記誘電体ブロックを、前記薄膜層が形成される一面を規定する型面に対向する位置に樹脂導入用ゲートを配して射出成形することを特徴とする測定チップの作製方法。
【請求項4】 前記樹脂導入用ゲートを、前記型面に対してほぼ垂直となる向きに配しておくことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の測定チップの作製方法。
【請求項5】 前記樹脂としてシクロオレフィンポリマーを用いることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の測定チップの作製方法。
【請求項6】 請求項1から5いずれか1項記載の測定チップの作製方法によって作製されたことを特徴とする測定チップ。
【請求項7】 前記誘電体ブロックにおいて、前記薄膜層が形成される一面の上方の空間を側方から囲んで、この一面の上に試料を保持する液溜めを画成する部分が形成されていることを特徴とする請求項7記載の測定チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−106991(P2003−106991A)
【公開日】平成15年4月9日(2003.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−299568(P2001−299568)
【出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(000005430)富士写真光機株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】