説明

溝付きローラー及びそれを用いた炭素繊維の製造装置と製造方法

【課題】ローラーに特殊な溝を形成することによって、繊維束の扁平性を阻害しないで、繊維束ピッチだけを密とすることのできる溝付きローラーを提供すること。
【解決手段】ローラーの外周面に周方向に独立した複数の溝を有する溝付きローラーにおいて、該複数の溝は、交互に配置された浅い溝と深い溝とからなり、該浅い溝の深さをh1とし、該深い溝の深さをh2とするとき、2×h1≦h2≦3×h1の関係を満足しており、該深い溝の底面からh1の高さまでの断面形状と該浅い溝の断面形状はほぼ同一形状であり、かつ、該深い溝の溝頂部からh1の深さまでの壁部は、該浅い溝の壁部を兼ねていることを特徴とする溝付きローラー。本発明のローラーを用いることで、糸の扁平性を妨げることなく糸条(繊維束)の収束密度を上げることができ、その結果、品質、品位、安全性を下げることなく生産性だけを向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維等の製造工程において用いられる溝付きローラーに関し、とりわけ、ポリアクリロニトリル繊維束を耐炎化、炭素化する上で、より高生産性を有し、低価格で高品位な炭素繊維を得るための製造工程において用いられる溝付きローラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維、特にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、得られる炭素繊維強化複合材料(CFRP)は、その高い比強度・比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などの一般産業用途などに広く利用されている。
【0003】
従来、PAN系炭素繊維を製造する方法としては、数十〜数百本のPAN繊維束をシート状に引き揃え、200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱処理(酸化処理又は耐炎化処理)し耐炎化繊維を得、更に300℃〜800℃の不活性雰囲気中及び800〜1500℃の不活性雰囲気中で炭素化処理をして、炭素繊維を得ることが一般的である。そして、耐炎化、炭素化工程では、互いに隣接する繊維束同士のピッチを規制するために、溝付きローラーを用いることが一般的である(例えば、特許文献1〜3参照)。一方、炭素繊維の生産性を向上させるためには、生産速度を上げるか、若しくは繊維束の投入本数を上げる方法が効率の良い手段である。しかし、生産速度を上げる方法では、実質的な設備長が長くなり設備コスト、設置スペースが増大し、結果として、製造コストを下げることは困難となる。投入本数を上げる方法では、溝付きローラーの溝ピッチを狭めることによって可能であるが、溝ピッチを狭めることにより溝幅は狭くなり、繊維束の扁平性を妨げる結果となり、焼成ムラ、糸撚りの発生、蓄熱による発火の原因となる場合がある。
【特許文献1】特開2003−55843号公報
【特許文献2】特開2002−161432号公報
【特許文献3】特開平10−266024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、炭素繊維の生産性の向上に関する問題を解決するために、種々検討した結果、耐炎化、炭素化工程で使用される溝付きローラーについて、溝に特殊な工夫を凝らすことによって、繊維束の扁平性を阻害しないで、繊維束ピッチだけを密とすることのできる溝付きローラーを知見し本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載された発明は、ローラーの外周面に周方向に独立した複数の溝を有する溝付きローラーにおいて、該複数の溝は、交互に配置された浅い溝と深い溝とからなり、該浅い溝の深さをh1とし、該深い溝の深さをh2とするとき、2×h1≦h2≦3×h1の関係を満足しており、該深い溝の底面からh1の高さまでの断面形状と該浅い溝の断面形状はほぼ同一形状であり、かつ、該深い溝の溝頂部からh1の深さまでの壁部は、該浅い溝の壁部を兼ねていることを特徴とする溝付きローラーである。
【0006】
本発明の請求項2に記載された発明は、浅い溝の溝底部の幅をa1、溝頂部の幅をb1、深さをh1とし、深い溝の溝底部の幅をa2、溝頂部の幅をb2、中間部の幅をc2(溝頂部からの深さh1の位置)、深さをh2とするとき、b1=c2≧a1=a2=b2 及び2×h1=h2の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の溝付きローラーである。
【0007】
本発明の請求項3に記載された発明は、浅い溝の壁部の垂直からの傾きをθとするとき、下記式においてθ=15〜30°であることを特徴とする請求項1又は2記載の溝付きローラーである。
b1=a1+2(h1)tanθ
【0008】
本発明の請求項4に記載された発明は、溝の角部が丸面取りされているものであって、壁部の先端の深い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR1、壁部の先端の浅い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR3、中間部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR2、浅い溝及び深い溝の溝底部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR4とするとき、それぞれR1=0.2〜0.5mm、R2=1.0〜5.0mm、R3=0.2〜0.5mm、R4=0.5〜1.0mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の溝付きローラーである。
【0009】
本発明の請求項5に記載された発明は、ローラーの材質が、炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の溝付きローラーである。
【0010】
本発明の請求項6に記載された発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを含むポリアクリロニトリル繊維の耐炎化加工装置である。
【0011】
本発明の請求項7に記載された発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを含むポリアクリロニトリル繊維の炭素化加工装置である。
【0012】
そして、請求項8に記載された発明は、3,000~100,000本の単糸からなる実質的に撚りのないポリアクリロニトリル繊維束からなる原糸束を、請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを用いて処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溝付きローラーは、溝幅を変更することなく溝ピッチを狭めることができる。従って、本発明によれば、ポリアクリロニトリル繊維(糸)を耐炎化・炭素化する場合に、本発明のローラーを用いることで、糸の扁平性を妨げることなく糸条(繊維束)の収束密度を上げることができ、よって品質、品位、安全性を下げることなく生産性だけを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の溝付きローラーは、後述するように、典型的には炭素繊維の製造工程、とりわけポリアクリロニトリル繊維束(原糸束)の耐炎化工程及び炭素化工程で用いられるローラーに関するものである。しかし、本発明の溝付きローラーはその用途に限定されるものではなく、高生産性を目的とする各種繊維の製造工程において、繊維束の扁平性を阻害せず、繊維束ピッチだけを密とすることのできる特殊な溝付きローラーとして、有効に用いることができる。
【0015】
本発明の溝付きローラーについて、その概要を図面に基づいて説明する。図1は、従来公知の溝付きローラーの一例の溝部分の断面図であり、溝1はローラーの外周面に周方向に複数形成されており、各溝は壁部2によって隔てられている。これに対し、本発明の溝付きローラーの一例(請求項2の発明に相当する好ましい態様)の溝部分の断面図は、図2に示したようなものである。図2のものも、ローラーの外周面に周方向に独立した複数の溝を有しており、10は浅い溝、11は深い溝、12は各溝を隔てる壁部を示している。図2から分かるように、本発明のローラーは、交互に配置された浅い溝10と深い溝11とからなり、図2では、深い溝は浅い溝のほぼ2倍の深さを有しており、この深い溝の下半分の断面形状と浅い溝の断面形状はほぼ同一形状である。また、この深い溝の上半分の壁部12は、浅い溝の壁部12を兼ねていることが分かる。図2の様に構成することによって、溝幅を変更することなく溝ピッチを狭めることができるのである。
【0016】
図3は、図2に溝の寸法を記入したものである。図3に示したように、本発明の好ましい
態様(請求項2の発明)では、浅い溝の溝底部の幅をa1、溝頂部の幅をb1、深さをh1とし、深い溝の溝底部の幅をa2、溝頂部の幅をb2、中間部の幅をc2(溝頂部からの深さh1の位置)、深さをh2とするとき、b1=c2≧a1=a2=b2及び2×h1=h2の関係を満足し、深い溝の下半分の断面形状と浅い溝の断面形状はほぼ同一形状での溝付きローラーを示している。なお、本発明において、「ほぼ同一形状」とはローラーの製作精度の範囲内で同一形状であればよい。また、前記等号もローラーの製作精度の範囲内で等しいことを意味する。
【0017】
本発明の溝付きローラーにおいて、溝や壁部のコーナー等は、角部が丸面取り(曲面加工)されているものであってよい。好ましい態様は、図4に示したように、壁部の先端の深い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR1、壁部の先端の浅い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR3、中間部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR2、浅い溝及び深い溝の溝底部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR4とするとき、それぞれR1=0.2〜0.5mm、R2=1.0〜5.0mm、R3=0.2〜0.5mm、R4=0.5〜1.0mmの範囲にあるものである。なお、溝の角部が丸面取りされている場合においては、前記a1、b1、h1、a2、b2、c2、h2の寸法は、各角部(コーナー)が曲面ではなく、図3に示したような角部に形成されているものとして、図面上で求めた寸法を意味する。
【0018】
また、浅い溝の壁部の垂直からの傾きをθとするとき(図4参照)、下記式においてθ=15〜30°であるものが好ましい。
b1=a1+2(h1)tanθ
【0019】
壁の厚さ(図4のt)については特に制限はないが、加工の容易さや強度を考慮すると0.3〜1.0mmの範囲にあるのが好ましい。また、溝の深さh1は2.0〜5.0mm、溝の幅a1は2〜20mm、溝と溝のピッチ(図4のp2)は3〜25mmであるのが好ましい。本発明の溝付きローラーに設置される溝数は、ローラーの幅1m当たり50〜400溝、即ち、深い溝と浅い溝が交互に25〜200溝ずつ設置されるのが好ましい。
【0020】
図2〜4は本発明を分かり易く説明するために、好ましい態様を表したものであるが、本発明をより一般的に、図5を用いて説明する。即ち、本発明は、ローラーの外周面に周方向に独立した複数の溝を有する溝付きローラーにおいて、該複数の溝は、交互に配置された浅い溝と深い溝とからなり、該浅い溝の深さをh1とし、該深い溝の深さをh2とするとき、2×h1≦h2≦3×h1の関係を満足しており、該深い溝の底面からh1の高さまでの断面形状と該浅い溝の断面形状はほぼ同一形状であり、かつ、該深い溝の溝頂部からh1の深さまでの壁部は、該浅い溝の壁部を兼ねていることを特徴とする溝付きローラーである。そして、好ましい態様のものは、前述したように図3で表されるものである。深い溝の深さh2が、h1の3倍以下であれば、得られる炭素繊維の品質に与える悪影響はない。h2がそれよりも大きくなれば、溝ピッチが拡がり、本発明の目的の一つである生産性の向上に対する寄与が少なくなるので不適当である。一方、h2が、h1の2倍よりも小さくなると、深い溝の部分において浅い溝の断面形状と同一形状が取れなくなり、糸の扁平性が阻害されるので不適当である。また、この場合には開口部b2が小さくなり過ぎて、糸の解舒時に壁部に糸が引っ掛かり毛羽立ちなどの原因となる。
【0021】
本発明の溝付きローラーは、公知の技術で製作加工することができる。ローラーの材質としては、繊維束の張力及びローラー自身の自重に耐える材料である限り特に限定されないが、加工性・耐久性を重視して炭素鋼が好ましい。また、繊維束に与えるダメージを出来る限り軽減するために、平均表面粗さをRaとすると、Ra=5.0nm以下でローラー表面をバフ研磨することが好ましい。更には、摩擦による擦れによって繊維束に与えるダメージを出来る限り軽減するために、ローラー表面をメッキコーティングすることが好ましい。
【0022】
前記したような本発明の溝付きローラーは、以下に説明するポリアクリロニトリル(PAN)繊維の耐炎化加工装置、あるいは、炭素化加工装置において好ましく用いられる。本発明の溝付きローラーは、同様な方法で、他の人造繊維の製造工程においても用いることができるが、以下においては、PAN系炭素繊維の製造について説明する。
【0023】
本発明において、炭素繊維の製造方法に用いられるPAN繊維としては、従来公知のPAN繊維(共重合体を含む)が何ら制限なく使用できる。例えば、アクリロニトリルを90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有する単量体を単独又は共重合した紡糸溶液を紡糸して、炭素繊維原料(前駆体繊維)とする。紡糸方法としては、湿式又は乾湿式紡糸方法いずれの方法も用いることができるが、複合材料とする場合のマトリックス樹脂とのアンカー効果による接着性を考慮すると、表面にひだを有する湿式紡糸方法がより好ましい。また、凝固した後は、水洗・乾燥・延伸して炭素繊維原料とすることが好ましい。共重合する単量体としては、アクリル酸メチル、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が好ましい。
【0024】
このようにして得られる前駆体繊維を、本発明の溝付きローラーを用い、耐炎化繊維の製造法に従って耐炎化処理して耐炎化繊維を得ることができる。そして、この耐炎化繊維を本発明の溝付きローラーを用い、炭素化(必要に応じて、いわゆる黒鉛化処理することも含む)することによって非常に高い生産効率で炭素繊維を得ることができる。
【0025】
用いられるPAN繊維としては、原糸束が、3,000~100,000本の単糸からなる実質的に撚りのないポリアクリロニトリル繊維束を使用するのが好ましい。原糸束が3,000本以下の繊維束の場合は、生産性向上のみを考慮すると、本発明が有効であるが、ローラーへの巻き付きなどによる繊維束の品質安定化が難しいことや、もともと繊維の原単価が著しく高いことから、あまりコストメリットを得られない。一方、原糸束が100,000本以上の繊維束の場合は、耐炎化工程で蓄熱による切断トラブルが多く、また、生産工程への投入本数が著しく減少するため、本発明における効果が殆ど得られないので好ましくない。
【0026】
通常の耐炎化処理は、例えば、加熱空気等の酸化性雰囲気中200〜280℃、好ましくは、240〜250℃の温度範囲内で行われる。前駆体繊維の耐炎化処理は、通常、雰囲気ガス循環式の加熱炉で、前駆体繊維を、供給ローラーと引き取りローラー間に複数回、所定の荷重をかけて延伸又は収縮させながら通過させることによって行われるが、本発明の溝付きローラーはこの供給ローラーとして、あるいは供給ローラーと引き取りローラーの両方に用いられる。そして、通常、前駆体繊維は繊維束(ストランド)状態で処理されるので、ストランドはできるだけ収束された状態にあるのが、工程の安定性のために好ましい。特に、フィラメント数が20,000本以上の太いストランドの場合には、適当な油剤を付与してストランドの収束性を維持することが好ましい。
【0027】
耐炎化繊維を炭素化して炭素繊維を得る場合、通常、以下に説明するような炭素化処理が行われるが、本発明における溝付きローラーは、かかる炭素化工程でも用いることができる。第一炭素化処理では、耐炎化繊維を、不活性雰囲気中で、第一炭素化工程において、300〜900℃、好ましくは、500〜800℃の温度範囲内で、1.03〜1.07の延伸倍率で一次延伸処理し、次いで0.9〜1.01の延伸倍率で二次延伸処理して、繊維密度1.4〜1.7g/cmの第一炭素化処理繊維を得る。
【0028】
次いで、上記第一炭素化処理繊維を、不活性雰囲気中で、第二炭素化工程において800〜2100℃、好ましくは、1000〜1450℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて延伸処理して、第二炭素化処理繊維を得る。一次処理では、第一炭素化処理繊維の密度が一次処理中上昇し続ける範囲、同繊維の窒素含有量が10質量%以上の範囲で、同繊維を延伸処理するのが好ましい。二次処理においては、一次処理繊維の密度が変化しない又は低下する範囲で、同繊維を延伸処理するのが好ましい。第二炭素化処理繊維の伸度は2.0%以上、より好ましくは2.2%以上である。また、第二炭素化処理繊維の直径は、5〜6.5μmであるのが好ましい。また、これら焼成工程は、単一設備で連続して処理することも、数個の設備で連続して処理することも可能であり、特に限定されるものではない。更に、必要に応じて、第三炭素化処理において、上記第二炭素化処理繊維を1500〜2500℃、好ましくは、1550〜1900℃で更に炭素化又は黒鉛化処理される。
【0029】
上記第三炭素化処理繊維は、引き続いて表面処理を施こされる。表面処理には気相、液相処理も用いることができるが、工程管理の簡便さと生産性を高める点から、電解処理による表面処理が好ましい。また電解処理に使用される電解液は、従来の公知のものを使用することができ、硝酸、硝酸アンモニウム、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム等を用いることができ、無機酸、有機酸及びアルカリ問わず、特に限定されるものではない。
【0030】
上記表面処理繊維は、引き続いてサイジング処理を施こされる。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の実施例及び比較例により具体的に説明する。実施例及び比較例において得られた炭素繊維の炭素繊維の毛羽(ファズ)量の測定は、以下の方法により測定した。
【0032】
炭素繊維の毛羽(ファズ)量の測定:炭素繊維は細く、しかも破断伸びが小さい(高々2%)ため、取扱いによっては折損したり毛羽となったりする。即ち、折損した微小繊維を毛羽(ファズ)と称するが、製造工程中(プリカーサー、耐炎化、炭素化段階)だけでなく、その後の加工段階(プリプレグ、成形工程)中にも発生する。本実施例と比較例において、毛羽量の測定は次のごとく行った。直径2mmのクロムメッキされたステンレス棒を15mm間隔で、かつ、その表面をサイジングされた炭素繊維ストランドが120°の接触角で接触しながら通過するように、ジグザクに5本配置した。このステンレス棒間にサイジングされた炭素繊維ストランドをジグザグにかけ、ボビンからの炭素繊維ストランドの解舒テンションを200g/3,000フィラメントに設定して擦過させた。擦過後の炭素繊維ストランドをウレタンスポンジ(底面32mm×64mm、高さ10mm、重さ約0.25g)2枚の間にはさみ、125gの重りを、ウレタンスポンジ全面に荷重がかかるように載せ、炭素繊維ストランドを15m/分の速度で2分間通過させたときの、スポンジに付着した毛羽の重量を擦過毛羽量とした。
【0033】
[実施例1〜4、比較例1〜6]
アクリロニトリル95重量%/アクリル酸メチル4重量%/イタコン酸1重量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・オイリング・乾燥後、トータル延伸倍率が14倍になるようにスチーム延伸を行い、1733texの繊度を有するフィラメント数24,000の前駆体繊維を得た。かくして得られた前駆体繊維を後述する製造工程で、図6(形状A、比較例)と図4(形状B、実施例)に示したような溝形状の溝付きローラーを、供給ローラーと引き取りローラーとして用いて処理し、本発明の耐炎化繊維を得た。
【0034】
このとき用いたローラーは、材質として機械構造用炭素鋼(S45C)を用い、表面をRa=3.5nmにバフ研磨を行ったものである。また、ローラーの径はφ200、幅は1200mm、有効幅は1000mm、R1=0.2mm、R2=2.0mm、R3=0.2mm、R4=0.5mmであり、表1に記載の溝ピッチで溝加工を行ったものである。図6のような従来の溝付きローラーの場合には、繊維束を溝に通したときの状態は、図7に示したようになる。そして、図4のような本発明の溝付きローラーの場合には、繊維束を溝に通したときの状態は、図8に示したようになる。
【0035】
前記で得られた各種の耐炎化繊維を、窒素雰囲気中、炉内温度分布300〜580℃、延伸倍率1.01倍で第一炭素化を行った後、1000〜1450℃の温度範囲内で第二炭素化を行った。更に得られた第二炭素化繊維を、1400〜1850℃の温度範囲内で第三炭素化を行い、表面処理、サイジング処理を経た後、表1に示したような特徴を有する炭素繊維を得た。各炭素化工程で、図4と図6に示したような溝形状の溝付きローラーを、供給ローラーと引き取りローラーとして用いた。
【0036】
表1より、本発明の溝付きローラーを用いた実施例1〜4の場合には、従来のローラーを用いた比較例1〜4に比較して、品質は変わらず(ファズ平均値がほぼ同程度、表1では○印で示した)、より生産性が高い(対応する生産性比が高い、表1では○印で示した)炭素繊維が得られていることが分かる。比較例5と6は、それぞれ比較例1と2のローラーよりも溝ピッチを短くしたものを用い、生産性を高めた場合の結果であるが、かかる場合には、品位(ファズ平均値)が悪くなっているのが分かる。
【0037】
なお、表1において糸条数/mとは、ローラーの1m(メートル)幅当りに何本の糸が並んでいるかを表す値であり、同じ生産速度であれば、糸条数/mの数値が大きいほど生産性が高いことを示す。生産性比は、比較例1、2、3、4の糸条数/mをそれぞれ基準として、実施例1の糸条数/m÷比較例1の糸条数/m、実施例2の糸条数/m÷比較例2の糸条数/m、実施例3の糸条数/m÷比較例3の糸条数/m、実施例4の糸条数/m÷比較例4の糸条数/m、比較例5の糸条数/m÷比較例1の糸条数/m、比較例6の糸条数/m÷比較例2の糸条数/mの値を求めたものである(同じフィラメント数同士でそれぞれ比較)。また、b1とb2は、b1=a1+2h1tanθ、b2=a2+2(h2−h1)tanθ−2h1tanθから計算された値である。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の溝付きローラーは、典型的には炭素繊維の製造工程、とりわけポリアクリロニトリル繊維束の耐炎化工程及び炭素化工程で用いられるローラーとして用いられる。しかし、本発明の溝付きローラーはその用途に限定されるものではなく、高生産性を目的とする各種繊維の製造工程において、繊維束の扁平性を阻害せず、繊維束ピッチだけを密とすることのできる特殊な溝付きローラーとして、有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来の溝付きローラーの溝部分の断面概略図である。
【図2】本発明の溝付きローラー(好ましい態様)の溝部分の断面概略図である。
【図3】本発明の溝ローラー(好ましい態様)の寸法を説明するための断面概略図である。
【図4】本発明の溝付きローラー(好ましい態様)の、角部が丸面取り(曲面加工)されているものの断面概略図、及び、実施例で用いた本発明の溝付きローラー(B)の溝部分の寸法を説明するための概略図である。
【図5】本発明の溝付きローラーを説明するための溝部分の断面概略図である。
【図6】比較例で用いた従来の溝付きローラー(A)の溝部分の寸法を説明するための概略図である。
【図7】図6のローラーの溝に繊維束が通されている状態を示す図である。
【図8】図4のローラーの溝に繊維束が通されている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 従来の溝付きローラーの溝
2 従来の溝付きローラーの壁部
10 本発明の溝付きローラーの浅い溝
11 本発明の溝付きローラーの深い溝
12 本発明の溝付きローラーの壁部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラーの外周面に周方向に独立した複数の溝を有する溝付きローラーにおいて、該複数の溝は、交互に配置された浅い溝と深い溝とからなり、該浅い溝の深さをh1とし、該深い溝の深さをh2とするとき、2×h1≦h2≦3×h1の関係を満足しており、該深い溝の底面からh1の高さまでの断面形状と該浅い溝の断面形状はほぼ同一形状であり、かつ、該深い溝の溝頂部からh1の深さまでの壁部は、該浅い溝の壁部を兼ねていることを特徴とする溝付きローラー。
【請求項2】
浅い溝の溝底部の幅をa1、溝頂部の幅をb1、深さをh1とし、深い溝の溝底部の幅をa2、溝頂部の幅をb2、中間部の幅をc2(溝頂部からの深さh1の位置)、深さをh2とするとき、b1=c2≧a1=a2=b2 及び2×h1=h2の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の溝付きローラー。
【請求項3】
浅い溝の壁部の垂直からの傾きをθとするとき、下記式においてθ=15〜30°であることを特徴とする請求項1又は2記載の溝付きローラー。
b1=a1+2(h1)tanθ
【請求項4】
溝の角部が丸面取りされているものであって、壁部の先端の深い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR1、壁部の先端の浅い溝側の角部の丸面取り部分の曲率半径をR3、中間部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR2、浅い溝及び深い溝の溝底部の角部の丸面取り部分の曲率半径をR4とするとき、それぞれR1=0.2〜0.5mm、R2=1.0〜5.0mm、R3=0.2〜0.5mm、R4=0.5〜1.0mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の溝付きローラー。
【請求項5】
ローラーの材質が、炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の溝付きローラー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを含むポリアクリロニトリル繊維の耐炎化加工装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを含むポリアクリロニトリル繊維の炭素化加工装置。
【請求項8】
3,000~100,000本の単糸からなる実質的に撚りのないポリアクリロニトリル繊維束からなる原糸束を、請求項1〜5のいずれか1項記載の溝付きローラーを用いて処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−71410(P2010−71410A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240709(P2008−240709)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】