説明

溶射ガン装置及び溶射ガン装置における金属粉排出方法

【課題】溶滴生成時に生じパイロットノズル周囲に溜まる金属粉をガンヘッド本体外へと排出させて電極間以外の部位で通電するのを防止できる溶射ガン装置を提供する。
【解決手段】パイロットノズル3に形成した第2噴出孔6から噴出されるアトマイズエアーの勢いで、陰極2と金属材料8を通電して溶融した溶滴を溶射噴流9として被溶射体に吹き付ける溶射ガン装置において、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まるスス・フューム等の金属粉を、アトマイズエアー供給路7から分岐させた分岐流路18へ供給したアトマイズエアーで、ガンヘッド本体外へ排出させる。金属粉のガンヘッド本体外への排出は、溶射噴流9の被溶射体への吹き付け完了後にアトマイズエアー供給路7に設けたバルブ19を開くようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融させた金属材料を噴霧状にし噴出させて被溶射体に被膜を被着形成する溶射ガン装置及びその金属粉排出方法に関し、詳細には、溶滴生成時に生じるスス・フューム等の金属粉をガンヘッド本体から取り除く技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エンジンブロックのシリンダボア内壁に合金溶射層を形成する溶射ガン装置が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
この種の溶射ガン装置のうち電気方式に分類されるトーチは、電極間で通電することにより金属材料を溶融するが、金属溶融時に発生したスス及びフュームが誘電体となり、電極間以外で通電することがある。電極間以外で通電すると、発生した熱によりトーチが溶損する恐れがある。
【0004】
これを解決するため、トーチのノズル先端にエアーブローを吹き付ける、或いは、吹き付けエアーを常時ノズル先端に吹き付けてスス及びフュームを吹き飛ばすことが考えられる。
【特許文献1】特開2006−322049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ノズル先端からエアーブローを吹き付けると、逆流によるエアー及びガスの経路詰まりが生じ、スス及びフュームの排出効果が期待できない。
【0006】
そこで、本発明は、溶滴生成時に生じパイロットノズル周囲に溜まる金属粉をガンヘッド本体外へと排出させて電極間以外の部位で通電するのを防止できる溶射ガン装置及びその金属粉排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶射ガン装置は、上記した課題を解決することを目的として、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉を、ガンヘッド本体に設けたアトマイズエアー供給路を流れるアトマイズエアーを吹き付けることにより、ガンヘッド本体外へと排出させる金属粉排出手段を設けた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガンヘッド本体に金属粉排出手段を設けたので、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉にアトマイズエアーを吹き付けてガンヘッド本体外へと排出させることができる。これにより、パイロットノズル周囲に溜まった金属粉が導電体となって陰極と導通することを回避でき、溶射ガンの溶損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
「第1実施形態」
図1は第1実施形態の溶射ガン装置の断面図である。この溶射ガン装置は、例えば自動車用エンジンにおけるアルミ合金製のシリンダブロックのボア内面に金属材料を溶融させてなる溶滴を溶射噴流として噴出させることにより、ボア内面に溶射被膜を形成する装置である。
【0011】
溶射ガン装置は、図1に示すように、メインボディとなるガンヘッド本体1と、このガンヘッド本体1に設けられた陰極2と、この陰極2の前方に設けられ、着火時のみ陰極2と通電してパイロットアークを発生するパイロットノズル3と、パイロットノズル3の中心に形成された第1噴出孔4へと溶射ガス(プラズマガス)を供給する溶射ガス供給路5と、パイロットノズル3の第1噴出孔4を中心としてその回りに複数形成された第2噴出孔6へとアトマイズエアーを供給するアトマイズエアー供給路7と、第1噴出孔4から噴出される溶射ガスの雰囲気中で前記陰極2と通電して溶融される金属材料8と、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉をアトマイズエアーを吹き付けてガンヘッド本体外へと排出させる金属粉排出手段と、を備え、第2噴出孔6から噴出されるアトマイズエアーの勢いで溶融した溶滴を溶射噴流(溶射フレーム)9として被溶射体に吹き付けるように構成されている。
【0012】
ガンヘッド本体1は、溶射ガンのメインボディーとなるもので、例えば銅により形成されている。陰極2は、ガンヘッド本体1に取り付けられたコレット10に対して螺合結合されるコレットキャップ11にて、前記コレット10に固定されている。陰極2は、例えばタングステンから形成されている。コレット10は、ガンヘッド本体1と同じく銅から形成され、コレットキャップ11は鉄から形成されている。
【0013】
パイロットノズル3は、着火時のみ陰極2と通電してパイロットアークを発生する陽極として機能することから、例えば導電性を有した銅からなる。かかるパイロットノズル3は、前記陰極2の前方に設けられ、その中心に溶射ガスを噴出する第1噴出孔4を有している。また、このパイロットノズル3には、アトマイズエアーを噴出する第2噴出孔6が形成されている。第2噴出孔6は、第1噴出孔4を中心としてその回りに円形状をなすように所定間隔を置いて複数形成されている。これら複数の第2噴出孔6は、何れも第1噴出孔4の延長線上の一点に集まるようにアトマイズエアーを噴出させる。
【0014】
前記パイロットノズル3は、ガンヘッド本体1に取り付けられた樹脂からなるバッフルプレート12に装着されている。また、パイロットノズル3は、ノズルリング13と樹脂からなる押さえプレート14によってガンヘッド本体1に固定されている。
【0015】
溶射ガス供給路5は、ガンヘッド本体1の一側面からコレット10に形成された溶射ガス導入穴15へと通じる第1溶射ガス路5aと、溶射ガス導入穴15からコレットキャップ11の外周囲を通って陰極2の前方へと通じるバッフルプレート12に形成された第2溶射ガス路5bと、からなる。陰極2の前方に導かれた溶射ガスは、パイロットノズル3に形成された第1噴出孔4からヘッド前方へと噴出される。
【0016】
アトマイズエアー供給路7は、ガンヘッド本体1の一側面からバッフルプレート12とガンヘッド本体1との間に形成されたアトマイズエアー導入穴16へと通じる第1アトマイズエアー路7aと、アトマイズエアー導入穴16からパイロットノズル3に形成された第2噴出孔6へと通じるバッフルプレート12に形成された第2アトマイズエアー路7bと、からなる。
【0017】
金属材料8は、押さえプレート14の前方に設けられた金属材料供給プレート16の材料供給経路17より第1噴出孔4及び第2噴出孔6の前方に送り出される。かかる金属材料8は、例えば炭素鋼よりなる線材として形成され、図示を省略する送給装置によって順次送られるようになっている。この金属材料8は、第1噴出孔4から噴出される溶射ガスによる雰囲気中で前記した陰極2と通電されて溶融される。溶融された溶滴は、第2噴出孔6から噴出されるアトマイズエアーの勢いで前方に噴出されて溶射噴流(溶射フレーム)9となる。この溶射噴流9をシリンダブロックのボア内面に噴出させることにより、ボア内面に溶射被膜が形成される。
【0018】
金属粉排出手段は、アトマイズエアー供給路7から分岐させた分岐流路18と、該分岐流路18とアトマイズエアー供給路7にアトマイズエアーを選択的に供給するバルブ19と、からなる。分岐流路18は、アトマイズエアー供給路7から分岐してパイロットノズル3とこのパイロットノズル3の外周囲を取り囲む部位との微細な隙間に出口20が通じるように形成されている。前記隙間は、ガンヘッド本体1、バッフルプレート12、パイロットノズル3、押さえプレート14などの各部品を組み付けたときに各部品間の界面に生じる微細な隙間である。
【0019】
図1では、パイロットノズル外周囲の一部とバッフルプレート外周囲の一部に跨って形成された排出用孔22に、分岐流路18の出口20が臨むようになっている。この例では、排出用孔22を形成し、その排出用孔22に分岐流路18の出口20を設けているが、排出用孔22が無くてもよい。
【0020】
なお、バッフルプレート12には、溶射ガス供給路5からの溶射ガスとアトマイズエアー供給路7からのアトマイズエアーの漏れを防止するためのシール部材21が複数箇所に設けられている。シール部材21には、例えばOリングが採用される。
【0021】
以上のように構成された溶射ガン装置においては、最初に陰極2と陽極として機能するパイロットノズル3とを通電してパイロットアークを発生させる。パイロットアーク発生後は、陰極2とパイロットノズル3間を通電させない。次に、陰極2と金属材料8間を通電する。このとき、溶射ガス供給路5を通して第1噴出孔4から溶射ガスを噴出させ、前記金属材料8と陰極2間で電気を作り易い雰囲気にする。こうすることで、陰極2と金属材料8間が通電し易くなる。次に、金属材料8を材料供給経路17から順次送り出し、該金属材料8と陰極2間を通電させて当該金属材料8を溶融する。溶融された金属材料8の溶滴は、アトマイズエアー供給路7を通して第2噴出孔6から噴出されるアトマイズエアーの勢いで溶射噴流9となる。
【0022】
前記噴射噴流9をシリンダブロックのボア内面に噴出させて溶射被膜を形成し終えたらアトマイズエアー供給路7に設けたバルブ19を分岐流路18へと切り替える。噴射噴流9を噴射し続けると、ススやフューム等の金属粉が発生し、この金属粉がパイロットノズル3の外周囲に溜まる。金属粉は、微細な粒子であるため、パイロットノズル3とノズルリング13との界面や第2噴出孔6から進入し、当該パイロットノズル3の外周囲を取り囲む押さえプレート14やバッフルプレート12と該パイロットノズル3との間の微細な隙間に入り込む。金属粉が堆積した場合、当該金属粉が導電物質として機能して前記陰極2と導通し、堆積した部位が溶損する。
【0023】
そこで、溶射噴流9の被溶射体への吹き付け完了後に、バルブ19を分岐流路18へ切り替えれば、第2噴出孔6へのアトマイズエアーの供給が停止される一方で、分岐流路18にのみアトマイズエアーが流れる。分岐流路18を流れたアトマイズエアーは、金属粉が溜まり易いパイロットノズル3とこのパイロットノズル3の外周囲を取り囲む部位との微細な隙間に設けた出口20から噴出される。その結果、パイロットノズル3の外周囲の微細な隙間に堆積する金属粉を、ガンヘッド本体外へと排出させることができる。
【0024】
以上のように構成された溶射ガン装置によれば、ガンヘッド本体1に金属粉排出手段を設けたことにより、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉にアトマイズエアーを吹き付けてガンヘッド本体外へと排出させることができるため、パイロットノズル周囲に溜まった金属粉が導電体となって陰極2と導通することを回避でき、溶射ガンの溶損を防止できる。
【0025】
また、本実施形態の溶射ガン装置によれば、金属粉排出手段を、アトマイズエアー供給路7から分岐させた分岐流路18と、この分岐流路18とアトマイズエアー供給路7にアトマイズエアーを選択的に供給するバルブ19と、で構成したので、既存のアトマイズエアーを利用することができる。つまり、従来のように金属粉をノズル先端に噴出させて吹き飛ばすエアーを使用する必要が無くなると共に、吹き付けたエアーにより逆流して経路詰まりが生じるのを防止でき、ガンヘッド本体外へと堆積した金属粉を排出することができる。
【0026】
また、本実施形態の溶射ガン装置によれば、分岐流路18の出口20を、パイロットノズル3とこのパイロットノズル3の外周囲を取り囲む部位との微細な隙間に設けたので、前記隙間に堆積する金属粉に直接アトマイズエアーが吹き付けられることになるから、当該金属粉をガンヘッド本体外へ無理なく排出させることができる。
【0027】
また、本実施形態の溶射ガン装置によれば、被溶射体へ溶射噴流9を吹き付け完了後にバルブ19を開いて分岐流路18にアトマイズエアーを供給するので、堆積した金属粉をこのアトマイズエアーで排出でき、次に溶射噴流9を噴出する際には金属粉の無い状態に戻すことができる。
【0028】
また、本実施形態の金属粉排出方法によれば、溶射噴流9の被溶射体への吹き付け完了後、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉を、アトマイズエアー供給路7から分岐させた分岐流路18を介してアトマイズエアーを吹き付けてガンヘッド本体外へと排出させるので、陰極2と導通し易いススやフューム等の金属粉を排除することができる。
【0029】
「第2実施形態」
図2は第2実施形態の溶射ガン装置の断面図である。第2実施形態では、分岐流路18の出口20を、パイロットノズル3を固定するバッフルプレート12の外周囲とこれに対向するガンヘッド本体1との微細な隙間に配置した例である。図2では、ガンヘッド本体1とバッフルプレート12間をシールするシール部材21の前方に、前記分岐流路18の出口20を設けている。
【0030】
第2実施形態の溶射ガン装置では、第1実施形態と同様、溶射噴流9を被溶射体へ吹き付け完了後にバルブ19を開いて分岐流路18にアトマイズエアーを供給することで、パイロットノズル3の外周囲の微細な隙間に堆積する金属粉を、ガンヘッド本体外へと排出させることができる。
【0031】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は第1実施形態の溶射ガン装置の断面図である。
【図2】図2は第2実施形態の溶射ガン装置の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…ガンヘッド本体
2…陰極
3…パイロットノズル(陽極)
4…第1噴出孔
5…溶射ガス供給路
6…第2噴出孔
7…アトマイズエアー供給路
8…金属材料
9…溶射噴流(溶射フレーム)
10…コレット
12…バッフルプレート
14…押さえプレート
17…材料供給経路
18…分岐流路
19…バルブ
20…出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンヘッド本体に設けられた陰極と、
前記陰極の前方に設けられ、着火時のみ該陰極と通電してパイロットアークを発生する陽極となるパイロットノズルと、
前記パイロットノズルの中心に形成された第1噴出孔へと溶射ガスを供給する溶射ガス供給路と、
前記パイロットノズルの前記第1噴出孔を中心としてその回りに複数形成された第2噴出孔へとアトマイズエアーを供給するアトマイズエアー供給路と、
前記第1噴出孔から噴出される溶射ガスの雰囲気中で前記陰極と通電して溶融される金属材料を供給する供給経路と、
を備え、前記第2噴出孔から噴出されるアトマイズエアーの勢いで溶融した溶滴を溶射噴流として被溶射体に吹き付ける溶射ガン装置であって、
前記溶滴生成時に生じて前記パイロットノズル周囲に溜まる金属粉をアトマイズエアーを吹き付けて前記ガンヘッド本体外へと排出させる金属粉排出手段を設けた
ことを特徴とする溶射ガン装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶射ガン装置であって、
前記金属粉排出手段は、前記アトマイズエアー供給路から分岐させた分岐流路と、該分岐流路と該アトマイズエアー供給路にアトマイズエアーを選択的に供給するバルブと、からなる
ことを特徴とする溶射ガン装置。
【請求項3】
請求項2に記載の溶射ガン装置であって、
前記分岐流路の出口を、前記パイロットノズルとこのパイロットノズルの外周囲を取り囲む部位との微細な隙間に設けた
ことを特徴とする溶射ガン装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の溶射ガン装置であって、
前記バルブを、前記溶射噴流の被溶射体への吹き付け完了後に開いて前記分岐流路にアトマイズエアーを供給する
ことを特徴とする溶射ガン装置。
【請求項5】
アトマイズエアーを噴出させ金属材料を溶融した液滴を溶射噴流として被溶射体に吹き付ける溶射ガン装置における金属粉排出方法において、
前記溶射噴流の被溶射体への吹き付け完了後、溶滴生成時に生じてパイロットノズル周囲に溜まる金属粉を、アトマイズエアー供給路から分岐させた分岐流路を介してアトマイズエアーを吹き付けてガンヘッド本体外へと排出させる
ことを特徴とする溶射ガン装置における金属粉排出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195883(P2009−195883A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43250(P2008−43250)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】