溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置
【課題】均一でしかも密な金属積層を精度良く実現することができる溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置を提供する。
【解決手段】ノズル1の入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、線状に成形された溶射材4をガス流と略平行な状態で入口側からノズル1内に挿入する溶射材挿入部5と、溶射材挿入部5の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した溶射材4を加熱溶解するレーザー装置とを備え、このレーザー装置より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル1内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを特徴とする。
【解決手段】ノズル1の入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、線状に成形された溶射材4をガス流と略平行な状態で入口側からノズル1内に挿入する溶射材挿入部5と、溶射材挿入部5の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した溶射材4を加熱溶解するレーザー装置とを備え、このレーザー装置より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル1内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に表面コーティング層を形成する溶射用ノズル、3次元積層造形用の噴射ノズルとして多目的に使用することができる溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、材料を溶融またはガス化させることなく不活性ガスとともに超音速流で固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー技術が広まりつつある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
コールドスプレー技術は、他の溶射方法と違い、熱による材料の特性変化がなく、被膜中の酸化を抑制することができるという利点があり、しかも、金属のみならず、樹脂にも適用することが可能である。この種のコールドスプレー技術は製膜を目的とするものが主であるが、これに限らず三次元造形の製造を目的とする溶射法に応用することも提案されている。
【0004】
三次元造形の製造が可能になった理由として、近年、急速に普及した三次元CADを利用した造形法がある。
【0005】
三次元CADを利用して立体構造物を造形するいわゆる三次元積層造形法は、ラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)と呼ばれ、三次元CAD上で入力された形状データを用いて機械加工することなく一層ずつ積層しながら立体モデル(三次元モデル)を直接形成(三次元積層造形)するものであり、当初は短時間で試作品等を造形するための方法として開発されたものである。
【0006】
最近ではこのラピッドプロトタイピングを利用して金型を造形することが可能になったことから、試作品分野以外の、例えば自動車、家電等の製造業でも製品の開発から出荷までの時間を短縮できコスト削減が図れるという理由で幅広く普及しつつある。
【0007】
三次元積層造形法にはa)光硬化性樹脂を用いる光造形法、b)粉末を用いる粉末積層法、c)インクジェット法、d)紙、プラスチックシートまたは金属等の薄板を積層する薄板積層法等が知られている。
【0008】
a)の光造形法としては、例えばカリフォルニア州バレンシアの3Dシステムズ社が製造し販売しているSLA1システムがある。このシステムは、UVレーザーによってレーザー光線が照射された表面の液体ポリマー・プラスチック材料を重合させて層を形成し、次いでその層を下降させ、所望の層厚が得られるまでレーザー生成重合プロセスを順次繰り返すことによって造形を行うというものである。
【0009】
b)の粉末積層法としては、テキサス州オースチンのDTM社による選択的レーザー焼結(SLS)と呼ばれる手法があり、この場合もレーザー光線を利用し、プラスチック粉体層を焼結するようになっている。
【0010】
c)のインクジェット法は、大別すると2種類の方式があり、その一つはマサチューセッツ工科大学で開発されたもので、澱粉や石膏の粉末層に対しバインダーをインクジェットで噴射し固めて積層造形する方法である。他の一つは造形用材料を直接噴射して積層造形する方法である。
【0011】
インクジェットで噴射し固める方法は、噴射を終了した後で不要部分の粉末を除去しなければならず、除去時に粉末が飛散するという問題がある。一方、造形用材料を直接、インクジェットで噴射する方法は材料粒子の飛散がなく装置の取り扱いが簡便である。
【0012】
d)の薄板積層法は、薄い金属箔層を用いて部品を形成するように適当な形状に切り取り、成形された積層ピースを相互に積み重ね、結合することによって関与する部品を形成するというものである。
【0013】
このように広範囲に利用されているラピッドプロトタイピングのほとんどは、樹脂による造形を目的としており、金属造形が可能な方法は、上記b)の選択的レーザー焼結による粉末積層法のみである。ところが、レーザー焼結による粉末積層法では、材料である金属粉末の表面をバインダーでコーティングするか、或いは低融点金属粉を混入させておく必要があり、材料コストが高くなる。また、焼結後にはバインダーが消失した部分が多孔状態となって残存するため、十分な強度が得られないという問題も解決されておらず、焼結後の熱歪を防止する目的で徐冷工程も必要である。このようにレーザー焼結による粉末積層法を金属造形として利用するには改善の余地があり、現状では研究段階にある。
【0014】
このような状況の中、ノズルから突出させた物質をレーザー光で加熱溶解し、圧縮ガスの圧力で溶融状態のまま基材に吐出する技術(例えば特許文献2参照)や、ガス流と平行に供給した金属材料の線材を放電により溶解し、ガス流で空中に飛翔させる技術が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−76157号公報
【特許文献2】特開平11−165061号公報
【特許文献3】特開2004−292940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載のものは、溶射材を保持するための保持部と、その端面から所定の間隔を空けて対向配置される対向部とを有し、保持部から突出させた溶射材を対向部の基準面に当接させ、レーザービームで溶射材を加熱溶融し、溶融した溶射材に対しその溶射材と直交する方向から圧縮ガスのガス圧を加えるため、流路を妨げるように突出した溶射材によってガス流が乱され、基材上の積層状態をコントロールすることが困難であるという問題がある。
【0016】
また、特許文献3に記載のものは、ノズルを形成する噴射装置本体に、ガスを送出するための細孔を有し、この細孔内に線材を通すためのガイドパイプが設けられ、細孔の先端近くに第1電極を、細孔から離れて線材の延長線上に第2電極が設けられている。そして各電極間に電圧を印加し電極間に位置する線材を溶融して溶融球を形成し、ガス流によってその溶融球を切り離し飛翔させるというものである。この特許文献3によれば、溶融球の大きさを均一にして噴出させることができるものの、ノズルから放射状に噴出された後のガス流によって溶融球を飛翔させるため、この場合も基材上の積層状態をコントロールすることは困難である。
【0017】
本発明は以上のような従来の溶射方法における問題を考慮してなされたものであり、均一でしかも密な金属積層を精度良く実現することができる溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る溶射ノズル装置は、ノズルの入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、線状に成形された溶射材をガス流と略平行な状態で入口側からノズル内に挿入する溶射材挿入部と、溶射材挿入部の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した溶射材を加熱溶解する溶射材溶解手段とを備え、この溶射材溶解手段より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを要旨とする。
【0019】
上記溶射ノズル装置における溶射材溶解手段として、溶射材挿入部の先端近傍で焦点が結ばれるレーザー装置を設けることができ、また、溶射材挿入部の先端近傍でアーク放電が通過するように対向した状態でノズル内壁に一対の放電電極を設けることもできる。
【0020】
さらにまた、複数本の溶射材をノズル内に挿入し得る溶射材挿入部を有し、各溶射材の先端部を、アーク放電を発生させる放電電極に構成することにより溶射材溶解手段とすることもできる。この場合、ノズルの入口側に設けられた中空室と、この中空室に連通しキャリアガスを対向流で導入するための二本のキャリアガス供給管とを有し、各キャリアガス供給管から中空室に吐出されるキャリアガスと衝突する位置に筒状の溶射材挿入部をそれぞれ配置すれば、ノズル流れ方向に垂直な断面内での旋回流れを減らすことができる。この結果、アーク溶解点において溶解液滴を壁面に向かって吹き付ける流れの成分を減らすことができる。
【0021】
上記溶射ノズル装置において、溶射材挿入部としてノズルの中心軸上に中空円管を配置した場合、この中空円管の外壁の一部を厚肉に形成することによってノズル内壁との間に超音速ガス流形成用のスロート部を形成することができる。
【0022】
上記溶射ノズル装置において、ノズル内壁に付着する溶射材凝固粒子を融点以上まで加熱する加熱手段を設ければ、加熱と同時にキャリアガスのみ供給することにより、ノズル内壁に付着した溶射材粒子を除去するクリーニングを行うことができる。
【0023】
また、この加熱手段を、溶射時にはノズル内の溶射材を加熱する構成にすれば、基材衝突時の溶射材粒子を所望の温度に設定することができるため、最適な付着が得られるようになる。
【0024】
上記加熱手段は、ノズルの周囲に高周波誘導コイルを巻回することによって構成することができ、また、ノズルの周囲にカーボンヒータを設けることによっても構成することができる。さらにまた、ノズル自体を、電極部を備えたカーボンまたはカーボンコンポジットで構成することにより、加熱手段とすることもできる。
【0025】
また、上記溶射材として異種材料から形成されたものを使用すれば、溶射材として合金を選択することができるようになる。
【0026】
本発明に係る溶射装置は、上記構成を有する溶射ノズル装置と、ノズルに対し管路を介して接続されキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置と、線状に成形された溶射材を溶射材挿入部に送り込む溶射材供給装置と、溶射材溶解手段としての放電電極またはレーザー装置に対し電圧を印加する電源装置とを備えてなることを要旨とする。
【0027】
上記溶射装置において、管路に介設されキャリアガス供給装置から供給されるキャリアガスの流量を制御する制御弁と、溶射材供給装置としての線状の溶射材を巻き取っているリールと、このリールから溶射材を巻き解きつつ溶射材挿入部に導入する駆動ローラと、制御弁の開閉、駆動ローラの回転・停止を制御する供給系制御部とを備えれば、基材に積層または堆積される溶射材を制御することができるようになる。
【0028】
また、上記駆動ローラを回転させるモータを有するとともに、ノズルから既堆積面までの堆積直前の距離を計測する位置センサを備え、上記供給系制御部が、三次元CADデータを読み込み、位置センサによって検出されたレベルと、三次元CADデータにおける目標堆積面レベルとの差に応じてモータの回転を制御すれば、積層または堆積される溶射材をより正確に制御することができるようになる。
【0029】
上記溶射装置においては、放電電極に印加する電圧またはレーザー装置の出力を制御する出力制御部を備えることができる。
【0030】
また、上記溶射材溶解手段としてレーザー装置およびこのレーザー装置とノズルとを接続するレーザー光伝送用光ファイバを有する場合、出力制御部はレーザー装置のシャッタの開閉を制御することにより、溶射材の溶融を制御することができる。
【0031】
また、上記ノズルから吐出されるガス温度を検出する温度センサと、ノズルの周囲に設けられまたは上記ノズルとしての加熱手段と、上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段とを有する場合、温度調節手段は、温度センサによって検出される検出温度に基づいて上記加熱手段に印加する電圧を制御することにより、ノズル内の溶射材粒子温度を正確に管理することができるようになる。
【0032】
また、上記ノズルの姿勢を変位させる駆動機構と、この駆動機構を制御する駆動系制御部とを有し、上記駆動系制御部が、三次元CADデータを読み込み、読み込まれた三次元CADデータに基づいて積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データにしたがって上記溶射材溶解手段によって溶解した溶射材粒子を一層ずつ基材に堆積するように駆動機構を制御すれば、三次元立体モデルを造形することができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の溶射ノズル装置によれば、均一でしかも密な金属積層を精度良く実現することができる。
【0034】
本発明の溶射ノズル装置によれば、溶射材挿入部がガス流と平行に配置されているためガス流を乱すことがなく、さらに、加熱手段を備えた溶射ノズル装置によれば、ノズル内壁に付着した溶射材粒子は加熱手段によって溶解剥離されるため、クリーニング効果を得ることができる。
【0035】
本発明の溶射装置によれば、基材に積層される溶射材を正確に制御することができ、また、三次元CADデータに基づいてノズルの姿勢を制御する溶射装置によれば、三次元立体モデルを精度良く造形することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0037】
図1は、本発明に係る溶射ノズル装置Nの構成を示したものである。
【0038】
同図において、ノズル1の内部には内径が一定である通路2が筒軸方向に形成されており、この通路2の上流側(キャリアガスの流れ方向において)にはキャリアガスの供給口3が設けられ、また、通路2の上流側で且つ通路2の中心軸上には溶射材料としてのワイヤ4を下流側に向けて送り出すための中空円管からなるガイド(溶射材挿入部)5が設けられている。
【0039】
このガイド5の外面は下流側に向けて径が次第に拡張されており、それにより、通路2内面との間で環状の隙間が最も狭くなるスロート部6が形成されている。なお、このスロート部6より下流側は再び径が縮小されガイド5の外径と同じになっている。
【0040】
また、ノズル1の長さはその内径の20〜40倍に設定され、長い直線部を持つことによりノズル1内で溶解された溶射材粒子(以下、粒子と略称する)のほとんどはノズルと平行に飛行する。それにより、広がりが抑制され基材に対し命中精度を高めることができるようになっている。
【0041】
ガイド5の先端から若干下流側に離れた位置、すなわちスロート部6よりも下流側において、通路2をY軸方向に横切るようにして、ノズル1の一方の側面1aから入射して他方の側面へとYbファイバーレーザー(以下、レーザー装置と略称する)の光軸が横断するようになっており、ガイド5の先端から突出したワイヤ4の先端に対し、レーザー光線の焦点が結ばれるようになっている。なお、本実施形態に使用されるレーザー装置(溶射材溶解手段)としては出力500Wのものを使用することができる。図中1a′はレーザー光入射部を示している。
【0042】
また、溶射ノズル1の周囲には、高周波電磁誘導コイル7が巻かれており、このコイル7は高周波電源8に接続されている。高周波をコイル7に印加することにより、タングステン等の高融点金属でできたノズル1を電磁誘導加熱するようになっている。
【0043】
この加熱は二つの用途に使用される。第一の用途はノズル1のクリーニングである。粒子がノズル内壁1cに凝固付着することがあり、定期的なノズル内部のクリーニングが必要となるからである。
【0044】
そこで、図2に示すように、溶射材融点以上で且つノズル金属融点を下回る条件でノズル1を高周波電磁誘導加熱し、キャリアガスを噴射することにより、付着粒子の除去を行うようになっている。熱電対9aは溶射材融点以上にノズル1が加熱されているかどうかを検出するためのものである。
【0045】
また、第二の用途としてはノズル1内のキャリアガス温度を所定の温度に調節するためにある。この場合、ノズル出口部に配置された熱電対9bによってキャリアガス温度を直接モニタし、モニタされたガス温度はノズル加熱制御部10に与えられる。
【0046】
ノズル加熱制御部10はノズル1が溶射材融点以上になるように、またはキャリアガス温度が所定温度になるようにコイル7に印加する電圧を制御する。キャリアガス温度を所定温度に調節する場合の上記加熱制御部10は温度調節手段として機能する。
【0047】
また、ノズル1の近傍にはスポット放射温度計11が配置されており、このスポット放射温度計11によって検出された基材12の表面温度もノズル加熱制御部10に与えられるようになっている。すなわち、基材12の温度が低い場合には粒子温度を高めにする必要があるため、スポット放射温度計11により溶射直前の基材温度を計測し、フィードバック制御をかけている。
【0048】
なお、上記コイル7をクリーニング用の加熱手段として使用する場合は、溶射処理が実施されていない時に所定の周期で加熱が行われ、粒子温度を調節する温度調節手段として使用する場合は、溶射処理時に加熱される。
【0049】
上記構成を有する溶射ノズル装置Nを用い、スロート部6よりも下流側でワイヤ4をレーザーによって加熱溶解する。
【0050】
このレーザーによる加熱溶解部は、ノズル1内におけるキャリアガス流路においてスロート部6よりも下流側に位置し、且つ、キャリアガス全圧p0が下記式(1)を満足する状態で動作するように構成されている。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、p0:キャリアガス全圧(スロート上流側圧力),pB:ノズル出口背圧,M:溶射材溶解部におけるマッハ数,κ:キャリアガスの比熱比である。
【0053】
また、溶射材溶解部におけるマッハ数Mは式(2)により、スロート部6の断面積A*および溶射材加熱溶解部の断面積A(図3参照)と関係づけられる。
【0054】
【数2】
【0055】
式(1)からわかるように、キャリアガスが窒素ガスの場合(κ=1.4),スロート部6下流のノズルマッハ数が例えばマッハ3(M=3)の領域ではpB/p0≦0.0272となり、スロート部6上流側の圧力が3.7MPa(p0=3.7×106Pa)でも、スロート部6通過後の超音速域では圧力が0.1MPa、ほぼ大気圧になる。従って、従来のコールドスプレーの粉体供給系とは異なり、特別な耐圧設計が不要になる。
【0056】
レーザーによって溶解された溶射材は、超音速流れの気流による剪断作用を受け、微粒子へとアトマイズされる。
【0057】
また、文献(Atomization and Spray,Arthur H.Lefebvre,Taylor&Francis(publisher),p30-37)には、平行流によるアトマイズ効果の実験式として式(3)が示されている。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、ρA:ガス密度,UA:ガス−粒子相対速度,D:粒子径,σ:液滴表面張力である。
【0060】
鉄系の材料を溶融させてマッハ数3の気流中に注入すると、式(3)より、φ10μm以下まで微粒化されることが予測される。
【0061】
アトマイズ後の粒子は超音速気流によって加速と冷却の各作用を受け、最終的に超音速の速度を持ってノズル1から噴出される。
【0062】
この間の加速と冷却は数値解析により見積ることができる。具体的には、準一次元圧縮性流体保存形表示の質量保存、運動量保存、エネルギ保存式を式(4)と、粒子の運動方程式(6)とを連立させて解く。
【0063】
【数4】
ここで、
【0064】
【数5】
ただし、ノズル壁1bの乱流熱伝達にはJohnson-Rubeshinの式(5)を用いる。
【0065】
【数6】
【0066】
また、sとeはガス相と第二相間の相互作用を表す運動量生成項とエネルギ生成項をそれぞれ表す。
粒子の速度は、粒子の運動方程式(6)を解くことにより得ることができる。
【0067】
【数7】
ただし、
【0068】
【数8】
ここで抗力係数にはKurtenの式(8)を用いている。
【0069】
【数9】
粒子の温度は、粒子のエネルギ方程式(9)を解くことにより得ることができる。
【0070】
【数10】
ただし、ノズル壁1bの温度がガス温度と等しくなる断熱壁の場合、
【0071】
【数11】
また、ノズル壁1bを加熱した等温壁の場合、
【0072】
【数12】
ここでヌセルト数にはRanz-Marshallの式(12)を用いている。
【0073】
【数13】
【0074】
ただし、上記各式中の記号の意味は下記の通りである。
A:ノズル断面積
CD:粒子の抗力係数
D:ノズル直径
d:粒子直径
f:壁面摩擦係数
g:重力加速度
h:比エンタルピ
ドットm:質量流量
Nu:ヌセルト数
p:ガス圧力
Pr:プラントル数
Re:レイノルズ数
T:温度
u:流速
x:ノズル流れ方向の距離
α:ステファン・ボルツマン定数
ε:放射率
κ:比熱比
λ:熱伝導率
μ:粘性係数
ρ:密度
【0075】
また、添字の意味は下記の通りである。
g:ガス
s:第二相(液滴、粒子、粉体)
x:ノズルスロート部からの距離
W:ノズル壁面
【0076】
図4および図5は、キャリアガスとして窒素ガスとヘリウムガスをそれぞれ用いた場合について、スロート部6からノズル出口までの距離に対するノズル内粒子温度及び粒子速度の関係を示したものである。
【0077】
図4(a)に示すグラフは、キャリアガスとして窒素ガスを使用した場合を示し、横軸は「スロート部からノズル出口までの距離」、縦軸は「粒子温度」と「粒子速度」を共通のスケールで示している。また、横軸において「ゼロ」はスロート部6の位置に相当し、グラフ中の特性Aは粒子温度の推移を、特性Bは粒子速度の推移をそれぞれ示している。
【0078】
溶射条件としてキャリアガス温度が600℃となるようにノズル壁を加熱し、窒素ガスの圧力を3.8MPa、ガス流量を1g/s、ワイヤ4の供給量を0.1g/sとした場合、アトマイズされた粒子の平均粒径は10μmであった。
【0079】
また、図4(b)はゼロ〜0.05mまでの範囲を横軸方向に拡大したものである。
【0080】
両図に示されるように、スロート部6から放出された粒子は約0.02mまでは急激に加速されるがそれ以上は加速の勾配は緩やかになる。そこでキャリアガスに窒素ガスを使用する場合のノズル長さとして0.02mを採用した。
【0081】
一方、粒子の温度はスロート部6から放出された後、冷却され続け0.02mで約1700K(グラフ中、ポイントa参照)まで低下し、基材に衝突した時の衝突速度は約400m/sである(グラフ中、ポイントb参照)。
【0082】
このように窒素ガスを用いた場合、粒子が基材に衝突する時の温度が高いため、溶射成形した層の強度を高めるためにはその後、基材に対する何らかの熱処理が必要になる。ところが、熱処理を行うと造形直後の形状と比較してある程度の歪が避けられない。
【0083】
したがって、溶射成形された形状において0.2mm程度の仕上り誤差を許容できる場合、或いは、溶射積層後に仕上げ機械加工が許されるような場合にはキャリアガスとして窒素ガスを使用することができる。また、その場合、粒子が凝固直後に基材に衝突するようにノズル長さを設定すればよい。
【0084】
詳しくは、溶射処理において粒子が凝固直後であることは材料の組織に良い影響を与える。平均粒径10μmの粒子がノズル1内を飛行している時、周囲のガスとの熱伝達および放射により104〜105K/sの冷却速度で急冷され、それにより、粒子が付着して得られる材料は極めて緻密な組織が得られる。そこで、凝固が終了するまでノズル1内を飛行することができるようにノズル長さを設定している。
【0085】
次に、図5(a)に示すグラフはキャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合のノズル内粒子の状態を示したものである。
【0086】
溶射条件としてキャリアガス温度が600℃となるようにノズル壁を加熱し、ヘリウムガスの圧力を3.8MPa、ガス流量を0.5g/s、ワイヤ4の供給量を0.1g/sとした場合、アトマイズされた粒子の平均粒径は10μmであった。
【0087】
なお、グラフ中の特性Cは粒子温度の推移を、特性Dは粒子速度の推移をそれぞれ示している。また、図5(b)はゼロ〜0.05mの範囲を横軸方向に拡大したものである。
【0088】
キャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合、ヘリウムの分子量が小さいために粒子は約1400m/sまで加速され続ける。一方、溶射材粒子の温度についてはヘリウムの熱伝導率が良いためにスロート部6から放出された後、急冷されノズル出口部では300Kまで低下する。
【0089】
図5の測定結果から、一般に540K以下であれば焼き戻しされることもないので、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合のノズル長さを0.04mmとした。粒子が基材に衝突する時の粒子温度は約540K(グラフ中、ポイントd参照)、衝突速度は約780m/s(グラフ中、ポイントc参照)である。
【0090】
粒子速度780m/sは基材に衝突付着する条件としては十分な速度になっている。したがって、本実施形態の条件で溶射を行えば基材に粒子が堆積していくことになる。
【0091】
また、基材衝突時の粒子温度は上記窒素ガスの場合(1700K)に比べて格段に低く、それにより造形後の熱処理は不要であり歪もほとんど生じない。しかも、衝突時の粒子速度は高速であるために、粒子が衝突した表面はクレーター状になりながら堆積が継続される。このとき、堆積層内部には空隙のない100%密度の安定した厚みの被膜が得られる。
【0092】
三次元堆積造形法では、本発明の溶射ノズル装置の持つ特性が大きな効果をもたらす。
【0093】
まず、選択的レーザー焼結(SLS)と比較すると、成形材料(溶射材)として線材に成形されたものを使用するためコストが低くなる。
【0094】
また、SLS法では熱可塑性樹脂でコーティングされた球状粒子を用いるため、金属成形体を得るのに2段階の焼結工程が必要になる。具体的には、レーザー熱源によって樹脂部分を溶融・固化するレーザー焼結と、レーザー焼結された成形体の結合剤を除去すると同時に金属粒子同士を固着させる本焼結である。
【0095】
これに対し、本実施形態による溶射ノズル装置では粒子を樹脂コーティングする必要がなく、結合剤が除去されることによって生じた多孔質の密度を高めるためにブロンズ等を溶浸させる必要もない。したがって、本実施形態によればSLS法の欠点を克服して精度の高い積層を得ることができるようになる。
【0096】
図6は上記構成を有する溶射ノズル装置Nで製膜処理を行う場合の構成を示したものである。
【0097】
同図において、ノズル1の筒軸方向延長線上に基材12が配置されている。
【0098】
ワイヤ4はワイヤリール(溶射材供給装置)13から巻き解かれ、溶射ノズル1の中心軸に沿って配置されているガイド5内を通過しながらノズル1内に供給されるようになっており、ワイヤ4の先端はガイド5の先端から突出するようになっている。
【0099】
突出したワイヤ4の先端に対し、レンズ14によってレーザー光の焦点が結ばれ、ワイヤ4の先端が溶解する。
【0100】
一方、キャリアガスは制御弁15によって流量が制御され、スロート部6上流側に供給される。供給されたキャリアガスはスロート部6を通過することによって超音速に加速され、上記溶解されたワイヤ4先端の溶射材をアトマイズする。
【0101】
アトマイズされた粒子はスロート部6から離れる際に急冷されるが、ノズル1内はコイル7によって加熱されていることにより、凝固点温度以下または変態点温度以下の高い温度に調節された状態で基材12の表面に衝突する。
【0102】
図7は本発明の溶射ノズル装置Nの別の実施形態を示したものである。
【0103】
同図に示す溶射ノズル装置N1において、ノズル20はセラミック製円筒からなり、その外周側にタングステン製からなる円筒21が同心円状に巻き付けられている。
【0104】
ガイド5の先端近傍におけるノズル20内壁には、一対の放電電極22a,22bが対向する状態で配置されており、この電極間に直流電圧23(交流電圧、パルス電圧であってもよい)が印加されるようになっている。
【0105】
各電極22a,22bに直流電圧が印加されると、電極間に放電が発生して電流が流れ、電極間に突出しているワイヤ4の先端がジュール熱によって溶解される。この構成では、上記電極22a,22bおよび直流電圧23が溶射材溶解手段として機能する。
【0106】
図8は本発明の溶射ノズル装置Nのさらに別の実施形態を示したものであり、ノズル内に挿入されるワイヤを一対とし、それらのワイヤを電極としてアーク放電を行うものである。
【0107】
なお、同図では内部構造が分かるように、装置をZ−Z′方向に二分割した一方の断面を示している。
【0108】
溶射ノズル装置N2は、内部に中空室24aを備えた耐圧構造からなる本体部24と、この本体部24からZ′軸方向に延設されたノズル部25と、X−X′軸に沿って本体部24に対し対向する側から接続された2本のキャリアガス供給配管(以下供給管と略称する)26,27とを備えている。
【0109】
詳しくは、本体部24内にはY−Y′方向から見て三角形状をなしZ−Z′方向から見て楕円形をなしている中空室24aが形成されている。この部屋24a内に二本のワイヤ4,4をガイドするためのガイド28,29がV字状に配置されており、各ガイド28,29の先端から送り出されるワイヤ4,4は、ノズル部25の中心軸p.a上で交わるようになっている。なお、上記ガイド28,29はZ′方向に向けて先細に形成された筒状部材で構成されている。
【0110】
上記一対のワイヤ4,4の後端は直流電圧(図示しない)と接続されており、ワイヤ4,4の先端はアーク放電を発生させるための電極を構成するようになっている。従って、上記ワイヤ4,4および直流電圧は溶射材溶解手段として機能する。
【0111】
上記ノズル部25の基端部には、上記構成を有するガイド28,29の先端部およびワイヤ4,4をノズル部25内に配置するための円錐状切欠部25aが形成されている。
【0112】
また、上記供給管26,27は中空室24aと連通しており、供給管26の出口26a近傍には上記ガイド28が配置され、供給管27の出口27a近傍には上記ガイド29が配置されている。このように構成することにより、ガイド28および29は、供給管26,27から吐出されるキャリアガスの流れに衝突する衝突板として機能させることができ、それにより、キャリアガスの動圧成分を減衰させ、中空室24a内を等方的に圧力が作用する静圧成分に変換することができるようになっている。
【0113】
その結果、中空室24a内ではキャリアガスの流速が減衰させられて旋回流れが弱まり、中空室24aおよびそれに連通するノズル部25を流れるキャリアガスの流速分布が一定になる。それにより、溶解されアトマイズされた後の溶射材粒子をノズル部25内に真っすぐ引き込むことが可能になる。
【0114】
図9は上記溶射ノズル装置N2を側面から見たものであり、p.tは溶射粒子の飛行軌跡を示している。同図からわかるように、溶射粒子はアーク溶解点mからノズル部25に向けてノズル内壁に衝突することなく、直進している。
【0115】
図10は溶射ノズル装置N2を平面から見たものであり、溶射粒子の飛行軌跡p.tは左右方向に広がることなく直進していることがわかる。
【0116】
ただし、図9および図10では数値解析により求めた溶射粒子の飛行軌跡を表示している。
【0117】
また、図11は中空室24a内でのキャリアガスの流れを側面から示したものである。同図に示すように、アーク溶解点m近傍におけるキャリアガスの流れは中空室24a内で上下に分かれる分岐点となっており、キャリアガスの主な流れ方向はノズル部25へと向かう軸方向成分のみとなっている。
【0118】
上記キャリアガスが上下に分かれる様子を図12に示す模式図を用いて説明する。
【0119】
同図(a)は図11におけるE−E矢視断面を示し、同図(b)は同じくF−F矢視断面を示している。
【0120】
図12(a)において、供給管26の出口26aから吐出されたキャリアガスはガイド28の側壁に衝突することにより動圧成分が減衰されるとともに略上下二つの流れfw1,fw2に分割される。また、供給管27の出口27aから吐出されたキャリアガスも同様にガイド29の側壁に衝突することにより動圧成分が減衰された状態で略上下二つの流れfw3,fw4に分割される。
【0121】
各ガイド28および29によって分割されたキャリアガスfw1,fw2およびfw3,fw4は中空室24aの中心に向けて対向流をなし中空室24aの中心部で衝突し、アーク溶解点mを点対象として回転する流れに変換される。それにより、アーク溶解点m近傍ではx−y断面内に速度を持たない流れの領域が形成される。
【0122】
この状態でキャリアガスはノズル部25に進み、ノズル部25内では図12(b)に示すようなキャリアガスの流れが形成される。その結果、溶解されアトマイズされた粒子pは、キャリアガスの流れの間に挟まれた状態でノズル部25内を飛行する。
【0123】
図13はノズル部25の中心軸p.aを通るキャリアガスの流速分布を示したものである。流速分布は流れ方向に垂直な方向の複数の線で示されるが、中心軸に対して対称であるため、中心軸に集中する粒子Pが壁面に接触することがほとんどない。
【0124】
なお、上記溶射ノズル装置N2では二本のワイヤ4,4で構成したが、ワイヤの本数はそれ以上の本数で構成することもでき、ワイヤを供給するガイドはワイヤの本数に応じた数を用意すればよい。
【0125】
図14は上記溶射ノズル装置Nを三次元堆積造形法に適用した場合の構成を示したものである。
【0126】
同図に示す溶射装置NDにおいて、30は3D(三次元)CADデータを読み込むコントローラである。
【0127】
コントローラ30は、読み込んだ3DCADデータから積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データに基づいてレーザー光またはアーク放電によって溶解された溶射材粒子を一層ずつ基材31に堆積することにより、所望の形状からなる三次元立体モデル(造形物)を得るようになっている。なお、以下の説明ではレーザー光で溶射材を溶解する場合を例に取り説明する。
【0128】
基材31はX軸、Y軸(紙面奥行き方向)、Z軸方向に移動させることができる搬送テーブル32に設けられ、また、ノズル33は図示しないロボットアームに取り付けられている。これら搬送テーブル32およびロボットアームからなる駆動機構は、上記コントローラ30の駆動系制御部30aによってそれぞれ3軸方向の移動が制御できるようになっている。
【0129】
キャリアガスとしてのヘリウムはヘリウムボンベ34からヘリウム容器35に一旦、貯留され、ヘリウム容器35とノズル33はガス供給路36を介して接続されている。このガス供給路36には電磁制御弁37が介設されている。
【0130】
この電磁制御弁37は遮断位置aと連通位置bとを有し、通常、バネ圧によって遮断位置aにあるが、コントローラ30の供給系制御部30bから開信号S1が入力されている期間、連通位置bに切り換わるようになっている。
【0131】
ノズル33に供給される溶射材としてのワイヤ4はワイヤリール13に巻き取られており、このワイヤリール13から巻き解かれるワイヤ4は駆動ローラ39によってノズル33に供給される。なお、駆動ローラ39はパルス制御可能なステッピングモータ38によって回転するようになっており、ステッピングモータ38は供給系制御部30bによって制御されるようになっている。
【0132】
具体的には、供給系制御部30bから送り信号S2がステッピングモータ38に与えられると、出力されたパルス数に応じて駆動ローラ39が回転しワイヤリール13が矢印E方向に回転しながらワイヤ4が矢印F方向に送り出され、ノズル33の上端部(入口側)33aからノズル33内に導入される。
【0133】
ノズル33のガイド5(図1参照)先端からワイヤ4の先端が突出すると、コントローラ30の出力制御部30cからレーザー装置40に対してレーザー回路のシャッタを開くシャッタ開信号S3が与えられ、レーザー装置40から照射されたレーザー光は突出したワイヤ4の先端で焦点を結びワイヤ4を溶解する。
【0134】
レーザー装置40によるワイヤ4の溶解動作は供給系制御部30bから開信号S1が出力されていることを前提とし、ヘリウム容器35からキャリアガスがノズル33内に送り込まれている。したがって、溶解した粒子は超音速のキャリアガスによってノズル33から基材31に対し噴射されることになる。
【0135】
なお、ノズル33およびそのロボットアーム、搬送テーブル32は気密状態が得られるチャンバ41内に収納されており、そのチャンバ41内は真空ポンプ42によって真空引きされることにより、酸素が除去されるようになっている。また、コントーラ30内の符号10は図2に示したノズル加熱制御部である。
【0136】
図15は、供給系制御部30bによって粒子の堆積量を制御する方法を示したものである。
【0137】
ノズル33の移動方向前側には位置センサ44が備えられ、この位置センサ44はノズル33の先端と基材12に堆積された既積層面との距離を計測し、供給系制御部30bに与えている。
【0138】
供給系制御部30bは、検出された距離に応じ、駆動ローラ39を駆動させるべくステッピングモータ38を制御する。例えば、範囲R1では目標堆積レベルに対し、既堆積レベルL1が低く堆積量が不足している。したがってこの場合は、ステッピングモータ38を駆動させ駆動ローラ39を介しワイヤ4をレーザー焦点に向けて送り続ける。
【0139】
一方、位置センサ44が目標堆積レベルを満足している既堆積レベルL2を検出すると、堆積の必要がないため、ステッピングモータ38を停止させる。それにより、ワイヤ4が供給されず溶射がストップする。
【0140】
次に、位置センサ44が既堆積レベルL3を検出すると、堆積不足であるため再度、ステッピングモータ38を駆動させ、ワイヤ4の供給を再開させる。それにより、目標積層レベルに到達するように溶射材粒子が溶射される。
【0141】
図14に戻って説明する。
【0142】
また、43はヘリウムを回収するためのヘリウム圧縮機であり、チャンバ41内のヘリウムを圧縮して高圧にしヘリウム容器35に戻すようになっている。それにより、高価なヘリウムを再利用するようになっている。
【0143】
なお、上記実施形態に示したワイヤ4は単独の素材からなる金属であってもよく、複数の金属素材を撚り合わせたものであってもよい。また、図8に示した溶射ノズル装置N2を使用する場合には、一方のワイヤ4と他方のワイヤ4の素材を変えることもできる。
【0144】
次に、図16はノズルを加熱する加熱手段に係る他の実施形態を示したものである。
【0145】
先に説明した実施形態では、ノズル1の周囲に配置したコイル7を用いてノズル1を高周波誘導加熱しノズル1の内面に付着した金属をクリーニングするように構成し、それにより、ノズル1内に付着した金属によってキャリアガスの流れが乱され溶射の精度が低下することを防止している(図2参照)。
【0146】
しかしながら、この加熱方法ではコイル7から放出された電磁波のエネルギーの一部がノズル1の加熱に利用されないことから、コイル7に付与した電気的エネルギーに対しノズル1の加熱に供せされる熱エネルギーの割合が低い。そこで、ノズルの温度調節時およびノズルクリーニング時のエネルギー効率を高めるために、図16に示すような加熱装置50を用いることができる。
【0147】
同図に示す加熱装置50は、ノズル1の周囲を囲むように設けられたカーボンヒータ51を備えている。
【0148】
このカーボンヒータ51は図17に示すように、円筒状の発熱部51aと、この発熱部51aの上部において相反する方向に配置された一対の電極部51b,51bと、これらの電極部51b,51bと発熱部51aの上端とを接続する電極接続部51c,51cとから構成されている。
【0149】
上記発熱部51aは、円筒体の上下両側から交互に一定の長さ形成されたスリット51d,51eによって複数部分に分割されている。
【0150】
また、図16に示したように、カーボンヒータ51の外側周囲を囲むようにしてカーボン繊維からなる筒状の断熱材52が配置され、この断熱材52を収容する容器53がさらに備えられている。
【0151】
なお、容器53内にはカーボン部品の酸化を防止する目的で不活性ガスが封入されており、上記電極部51bの先端はシールされた状態で上記容器53の側壁53aを貫通して外部に延設され、図示しない電源と接続できるようになっている。
【0152】
次に、上記構成を有する加熱装置50によってクリーニング動作を行う場合について説明する。
【0153】
図示しない電源から電極部51b,51b、電極接続部51c,51cを通じて発熱部51aに電力を供給すると、カーボンヒータ51は、通電によるジュール発熱によって内部から発熱する。それにより、タングステン製またはモリブデン等の高融点金属製、或いはセラミックス製のノズル1は発熱部51aからの輻射伝熱によって約2000℃に加熱され、ノズル1内壁に付着した金属が溶融される。
【0154】
また、高融点金属またはセラミックス製からなるノズル1をカーボンまたはカーボンコンポジット製のノズル1に代えると、金属製のノズルに比べてノズル表面の輻射率がさらに高まり、エネルギー効率をさらに高めることができる。
【0155】
次いでキャリアガスをノズル1内に噴射することにより、溶融した金属がノズル1外に排出されクリーニングが行われる。
【0156】
図18は加熱装置のさらに他の実施形態を示したものである。
【0157】
図16に示した加熱装置50ではノズル1の周囲にカーボンヒータ51を配置してノズル1を加熱したが、図18に示す加熱装置60では高融点金属またはセラミックス製からなるノズルをカーボン製ノズル61に代え、そのノズル61を直接、加熱するように構成している。なお、同図において図16と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0158】
加熱装置60は、ノズル61自体がカーボンまたはカーボンコンポジットにより構成されており、発熱部として機能するようになっており、ノズル61の上端部には相反する方向に一対の電極部51b,51bが接続されている。
【0159】
次に、上記構成を有する加熱装置60によってクリーニング動作を行う場合について説明する。
【0160】
図示しない電源から電極部51b,51bを通じてノズル61に電力を供給すると、ノズル61は、通電によるジュール発熱によって内部から発熱する。それにより、ノズル61は約2000℃に加熱され、ノズル61内壁に付着した金属が溶融される。
【0161】
次いでキャリアガスをノズル1内に噴射することにより、溶融した金属がノズル61外に排出されクリーニングが行われる。
【0162】
上記したようにノズルを加熱する手段としてカーボンヒータ51を使用すると、高周波誘導コイルを用いて溶射ノズルを誘導加熱する場合に比べ、溶射ノズルの加熱に供せられるエネルギーの利用効率を高めることができる。
【0163】
また、カーボンヒータ51を使用する構成に比べて部品点数を削減することができるため、メンテナンスが容易になるという利点がある。
【0164】
このように、上記構成を有する加熱装置50および加熱装置60によれば、ノズルの温度調節時或いはノズルクリーニング時において、コイル7を用いてノズル1を加熱する場合に比べ、ノズルの加熱に使われるエネルギーのロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明に係る溶射ノズル装置の構成を示す断面図である。
【図2】溶射ノズルの加熱装置の構成を示す説明図である。
【図3】ノズル内のスロート部断面積および加熱溶解部断面積の関係を示す説明図である。
【図4】(a)は窒素ガス使用時のノズル内粒子温度と粒子速度の関係を示すグラフであり、(b)は図4(a)の要部を拡大したグラフである。
【図5】(a)はヘリウムガス使用時のノズル内粒子温度と粒子速度の関係を示すグラフであり、(b)は図5(a)の要部を拡大したグラフである。
【図6】本発明に係る溶射装置を製膜用として使用する場合の構成を示す構成図である。
【図7】本発明に係る溶射装置を製膜用として使用する場合の別の構成を示す要部断面図である。
【図8】本発明に係る溶射ノズルの他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】図8に示す溶射ノズル内の粒子軌跡を示す側面断面図である。
【図10】図8に示す溶射ノズル内の粒子軌跡を示す平面断面図である。
【図11】図8に示す溶射ノズル内のキャリアガスの流れを示す側面断面図である。
【図12】図9のE−E断面におけるキャリアガスの流れを示す説明図である。
【図13】図9のF−F断面におけるキャリアガスの流れおよび粒子の状態を示す説明図である。
【図14】本発明に係る溶射装置を三次元堆積造形に使用する場合の構成を示すブロック図である。
【図15】溶射材粒子の堆積量を制御する方法を示す説明図である。
【図16】本発明に係る溶射ノズル加熱装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図17】図16に示すカーボンヒータの構成を示す斜視図である。
【図18】本発明に係る溶射ノズル加熱装置のさらに他の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0166】
1 ノズル
1a 側面
1a′ レーザー光入射部
1b ノズル壁
1c ノズル壁
2 通路
3 供給口
4 ワイヤ
5 ガイド
6 スロート部
7 コイル
8 高周波電源
9 熱電対
10 ノズル加熱制御部
11 スポット放射温度計
12 基材
13 ワイヤリール
14 レンズ
15 制御弁
N 溶射ノズル装置
ND 溶射装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に表面コーティング層を形成する溶射用ノズル、3次元積層造形用の噴射ノズルとして多目的に使用することができる溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、材料を溶融またはガス化させることなく不活性ガスとともに超音速流で固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー技術が広まりつつある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
コールドスプレー技術は、他の溶射方法と違い、熱による材料の特性変化がなく、被膜中の酸化を抑制することができるという利点があり、しかも、金属のみならず、樹脂にも適用することが可能である。この種のコールドスプレー技術は製膜を目的とするものが主であるが、これに限らず三次元造形の製造を目的とする溶射法に応用することも提案されている。
【0004】
三次元造形の製造が可能になった理由として、近年、急速に普及した三次元CADを利用した造形法がある。
【0005】
三次元CADを利用して立体構造物を造形するいわゆる三次元積層造形法は、ラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)と呼ばれ、三次元CAD上で入力された形状データを用いて機械加工することなく一層ずつ積層しながら立体モデル(三次元モデル)を直接形成(三次元積層造形)するものであり、当初は短時間で試作品等を造形するための方法として開発されたものである。
【0006】
最近ではこのラピッドプロトタイピングを利用して金型を造形することが可能になったことから、試作品分野以外の、例えば自動車、家電等の製造業でも製品の開発から出荷までの時間を短縮できコスト削減が図れるという理由で幅広く普及しつつある。
【0007】
三次元積層造形法にはa)光硬化性樹脂を用いる光造形法、b)粉末を用いる粉末積層法、c)インクジェット法、d)紙、プラスチックシートまたは金属等の薄板を積層する薄板積層法等が知られている。
【0008】
a)の光造形法としては、例えばカリフォルニア州バレンシアの3Dシステムズ社が製造し販売しているSLA1システムがある。このシステムは、UVレーザーによってレーザー光線が照射された表面の液体ポリマー・プラスチック材料を重合させて層を形成し、次いでその層を下降させ、所望の層厚が得られるまでレーザー生成重合プロセスを順次繰り返すことによって造形を行うというものである。
【0009】
b)の粉末積層法としては、テキサス州オースチンのDTM社による選択的レーザー焼結(SLS)と呼ばれる手法があり、この場合もレーザー光線を利用し、プラスチック粉体層を焼結するようになっている。
【0010】
c)のインクジェット法は、大別すると2種類の方式があり、その一つはマサチューセッツ工科大学で開発されたもので、澱粉や石膏の粉末層に対しバインダーをインクジェットで噴射し固めて積層造形する方法である。他の一つは造形用材料を直接噴射して積層造形する方法である。
【0011】
インクジェットで噴射し固める方法は、噴射を終了した後で不要部分の粉末を除去しなければならず、除去時に粉末が飛散するという問題がある。一方、造形用材料を直接、インクジェットで噴射する方法は材料粒子の飛散がなく装置の取り扱いが簡便である。
【0012】
d)の薄板積層法は、薄い金属箔層を用いて部品を形成するように適当な形状に切り取り、成形された積層ピースを相互に積み重ね、結合することによって関与する部品を形成するというものである。
【0013】
このように広範囲に利用されているラピッドプロトタイピングのほとんどは、樹脂による造形を目的としており、金属造形が可能な方法は、上記b)の選択的レーザー焼結による粉末積層法のみである。ところが、レーザー焼結による粉末積層法では、材料である金属粉末の表面をバインダーでコーティングするか、或いは低融点金属粉を混入させておく必要があり、材料コストが高くなる。また、焼結後にはバインダーが消失した部分が多孔状態となって残存するため、十分な強度が得られないという問題も解決されておらず、焼結後の熱歪を防止する目的で徐冷工程も必要である。このようにレーザー焼結による粉末積層法を金属造形として利用するには改善の余地があり、現状では研究段階にある。
【0014】
このような状況の中、ノズルから突出させた物質をレーザー光で加熱溶解し、圧縮ガスの圧力で溶融状態のまま基材に吐出する技術(例えば特許文献2参照)や、ガス流と平行に供給した金属材料の線材を放電により溶解し、ガス流で空中に飛翔させる技術が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−76157号公報
【特許文献2】特開平11−165061号公報
【特許文献3】特開2004−292940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載のものは、溶射材を保持するための保持部と、その端面から所定の間隔を空けて対向配置される対向部とを有し、保持部から突出させた溶射材を対向部の基準面に当接させ、レーザービームで溶射材を加熱溶融し、溶融した溶射材に対しその溶射材と直交する方向から圧縮ガスのガス圧を加えるため、流路を妨げるように突出した溶射材によってガス流が乱され、基材上の積層状態をコントロールすることが困難であるという問題がある。
【0016】
また、特許文献3に記載のものは、ノズルを形成する噴射装置本体に、ガスを送出するための細孔を有し、この細孔内に線材を通すためのガイドパイプが設けられ、細孔の先端近くに第1電極を、細孔から離れて線材の延長線上に第2電極が設けられている。そして各電極間に電圧を印加し電極間に位置する線材を溶融して溶融球を形成し、ガス流によってその溶融球を切り離し飛翔させるというものである。この特許文献3によれば、溶融球の大きさを均一にして噴出させることができるものの、ノズルから放射状に噴出された後のガス流によって溶融球を飛翔させるため、この場合も基材上の積層状態をコントロールすることは困難である。
【0017】
本発明は以上のような従来の溶射方法における問題を考慮してなされたものであり、均一でしかも密な金属積層を精度良く実現することができる溶射ノズル装置およびそれを用いた溶射装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る溶射ノズル装置は、ノズルの入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、線状に成形された溶射材をガス流と略平行な状態で入口側からノズル内に挿入する溶射材挿入部と、溶射材挿入部の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した溶射材を加熱溶解する溶射材溶解手段とを備え、この溶射材溶解手段より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを要旨とする。
【0019】
上記溶射ノズル装置における溶射材溶解手段として、溶射材挿入部の先端近傍で焦点が結ばれるレーザー装置を設けることができ、また、溶射材挿入部の先端近傍でアーク放電が通過するように対向した状態でノズル内壁に一対の放電電極を設けることもできる。
【0020】
さらにまた、複数本の溶射材をノズル内に挿入し得る溶射材挿入部を有し、各溶射材の先端部を、アーク放電を発生させる放電電極に構成することにより溶射材溶解手段とすることもできる。この場合、ノズルの入口側に設けられた中空室と、この中空室に連通しキャリアガスを対向流で導入するための二本のキャリアガス供給管とを有し、各キャリアガス供給管から中空室に吐出されるキャリアガスと衝突する位置に筒状の溶射材挿入部をそれぞれ配置すれば、ノズル流れ方向に垂直な断面内での旋回流れを減らすことができる。この結果、アーク溶解点において溶解液滴を壁面に向かって吹き付ける流れの成分を減らすことができる。
【0021】
上記溶射ノズル装置において、溶射材挿入部としてノズルの中心軸上に中空円管を配置した場合、この中空円管の外壁の一部を厚肉に形成することによってノズル内壁との間に超音速ガス流形成用のスロート部を形成することができる。
【0022】
上記溶射ノズル装置において、ノズル内壁に付着する溶射材凝固粒子を融点以上まで加熱する加熱手段を設ければ、加熱と同時にキャリアガスのみ供給することにより、ノズル内壁に付着した溶射材粒子を除去するクリーニングを行うことができる。
【0023】
また、この加熱手段を、溶射時にはノズル内の溶射材を加熱する構成にすれば、基材衝突時の溶射材粒子を所望の温度に設定することができるため、最適な付着が得られるようになる。
【0024】
上記加熱手段は、ノズルの周囲に高周波誘導コイルを巻回することによって構成することができ、また、ノズルの周囲にカーボンヒータを設けることによっても構成することができる。さらにまた、ノズル自体を、電極部を備えたカーボンまたはカーボンコンポジットで構成することにより、加熱手段とすることもできる。
【0025】
また、上記溶射材として異種材料から形成されたものを使用すれば、溶射材として合金を選択することができるようになる。
【0026】
本発明に係る溶射装置は、上記構成を有する溶射ノズル装置と、ノズルに対し管路を介して接続されキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置と、線状に成形された溶射材を溶射材挿入部に送り込む溶射材供給装置と、溶射材溶解手段としての放電電極またはレーザー装置に対し電圧を印加する電源装置とを備えてなることを要旨とする。
【0027】
上記溶射装置において、管路に介設されキャリアガス供給装置から供給されるキャリアガスの流量を制御する制御弁と、溶射材供給装置としての線状の溶射材を巻き取っているリールと、このリールから溶射材を巻き解きつつ溶射材挿入部に導入する駆動ローラと、制御弁の開閉、駆動ローラの回転・停止を制御する供給系制御部とを備えれば、基材に積層または堆積される溶射材を制御することができるようになる。
【0028】
また、上記駆動ローラを回転させるモータを有するとともに、ノズルから既堆積面までの堆積直前の距離を計測する位置センサを備え、上記供給系制御部が、三次元CADデータを読み込み、位置センサによって検出されたレベルと、三次元CADデータにおける目標堆積面レベルとの差に応じてモータの回転を制御すれば、積層または堆積される溶射材をより正確に制御することができるようになる。
【0029】
上記溶射装置においては、放電電極に印加する電圧またはレーザー装置の出力を制御する出力制御部を備えることができる。
【0030】
また、上記溶射材溶解手段としてレーザー装置およびこのレーザー装置とノズルとを接続するレーザー光伝送用光ファイバを有する場合、出力制御部はレーザー装置のシャッタの開閉を制御することにより、溶射材の溶融を制御することができる。
【0031】
また、上記ノズルから吐出されるガス温度を検出する温度センサと、ノズルの周囲に設けられまたは上記ノズルとしての加熱手段と、上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段とを有する場合、温度調節手段は、温度センサによって検出される検出温度に基づいて上記加熱手段に印加する電圧を制御することにより、ノズル内の溶射材粒子温度を正確に管理することができるようになる。
【0032】
また、上記ノズルの姿勢を変位させる駆動機構と、この駆動機構を制御する駆動系制御部とを有し、上記駆動系制御部が、三次元CADデータを読み込み、読み込まれた三次元CADデータに基づいて積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データにしたがって上記溶射材溶解手段によって溶解した溶射材粒子を一層ずつ基材に堆積するように駆動機構を制御すれば、三次元立体モデルを造形することができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の溶射ノズル装置によれば、均一でしかも密な金属積層を精度良く実現することができる。
【0034】
本発明の溶射ノズル装置によれば、溶射材挿入部がガス流と平行に配置されているためガス流を乱すことがなく、さらに、加熱手段を備えた溶射ノズル装置によれば、ノズル内壁に付着した溶射材粒子は加熱手段によって溶解剥離されるため、クリーニング効果を得ることができる。
【0035】
本発明の溶射装置によれば、基材に積層される溶射材を正確に制御することができ、また、三次元CADデータに基づいてノズルの姿勢を制御する溶射装置によれば、三次元立体モデルを精度良く造形することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0037】
図1は、本発明に係る溶射ノズル装置Nの構成を示したものである。
【0038】
同図において、ノズル1の内部には内径が一定である通路2が筒軸方向に形成されており、この通路2の上流側(キャリアガスの流れ方向において)にはキャリアガスの供給口3が設けられ、また、通路2の上流側で且つ通路2の中心軸上には溶射材料としてのワイヤ4を下流側に向けて送り出すための中空円管からなるガイド(溶射材挿入部)5が設けられている。
【0039】
このガイド5の外面は下流側に向けて径が次第に拡張されており、それにより、通路2内面との間で環状の隙間が最も狭くなるスロート部6が形成されている。なお、このスロート部6より下流側は再び径が縮小されガイド5の外径と同じになっている。
【0040】
また、ノズル1の長さはその内径の20〜40倍に設定され、長い直線部を持つことによりノズル1内で溶解された溶射材粒子(以下、粒子と略称する)のほとんどはノズルと平行に飛行する。それにより、広がりが抑制され基材に対し命中精度を高めることができるようになっている。
【0041】
ガイド5の先端から若干下流側に離れた位置、すなわちスロート部6よりも下流側において、通路2をY軸方向に横切るようにして、ノズル1の一方の側面1aから入射して他方の側面へとYbファイバーレーザー(以下、レーザー装置と略称する)の光軸が横断するようになっており、ガイド5の先端から突出したワイヤ4の先端に対し、レーザー光線の焦点が結ばれるようになっている。なお、本実施形態に使用されるレーザー装置(溶射材溶解手段)としては出力500Wのものを使用することができる。図中1a′はレーザー光入射部を示している。
【0042】
また、溶射ノズル1の周囲には、高周波電磁誘導コイル7が巻かれており、このコイル7は高周波電源8に接続されている。高周波をコイル7に印加することにより、タングステン等の高融点金属でできたノズル1を電磁誘導加熱するようになっている。
【0043】
この加熱は二つの用途に使用される。第一の用途はノズル1のクリーニングである。粒子がノズル内壁1cに凝固付着することがあり、定期的なノズル内部のクリーニングが必要となるからである。
【0044】
そこで、図2に示すように、溶射材融点以上で且つノズル金属融点を下回る条件でノズル1を高周波電磁誘導加熱し、キャリアガスを噴射することにより、付着粒子の除去を行うようになっている。熱電対9aは溶射材融点以上にノズル1が加熱されているかどうかを検出するためのものである。
【0045】
また、第二の用途としてはノズル1内のキャリアガス温度を所定の温度に調節するためにある。この場合、ノズル出口部に配置された熱電対9bによってキャリアガス温度を直接モニタし、モニタされたガス温度はノズル加熱制御部10に与えられる。
【0046】
ノズル加熱制御部10はノズル1が溶射材融点以上になるように、またはキャリアガス温度が所定温度になるようにコイル7に印加する電圧を制御する。キャリアガス温度を所定温度に調節する場合の上記加熱制御部10は温度調節手段として機能する。
【0047】
また、ノズル1の近傍にはスポット放射温度計11が配置されており、このスポット放射温度計11によって検出された基材12の表面温度もノズル加熱制御部10に与えられるようになっている。すなわち、基材12の温度が低い場合には粒子温度を高めにする必要があるため、スポット放射温度計11により溶射直前の基材温度を計測し、フィードバック制御をかけている。
【0048】
なお、上記コイル7をクリーニング用の加熱手段として使用する場合は、溶射処理が実施されていない時に所定の周期で加熱が行われ、粒子温度を調節する温度調節手段として使用する場合は、溶射処理時に加熱される。
【0049】
上記構成を有する溶射ノズル装置Nを用い、スロート部6よりも下流側でワイヤ4をレーザーによって加熱溶解する。
【0050】
このレーザーによる加熱溶解部は、ノズル1内におけるキャリアガス流路においてスロート部6よりも下流側に位置し、且つ、キャリアガス全圧p0が下記式(1)を満足する状態で動作するように構成されている。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、p0:キャリアガス全圧(スロート上流側圧力),pB:ノズル出口背圧,M:溶射材溶解部におけるマッハ数,κ:キャリアガスの比熱比である。
【0053】
また、溶射材溶解部におけるマッハ数Mは式(2)により、スロート部6の断面積A*および溶射材加熱溶解部の断面積A(図3参照)と関係づけられる。
【0054】
【数2】
【0055】
式(1)からわかるように、キャリアガスが窒素ガスの場合(κ=1.4),スロート部6下流のノズルマッハ数が例えばマッハ3(M=3)の領域ではpB/p0≦0.0272となり、スロート部6上流側の圧力が3.7MPa(p0=3.7×106Pa)でも、スロート部6通過後の超音速域では圧力が0.1MPa、ほぼ大気圧になる。従って、従来のコールドスプレーの粉体供給系とは異なり、特別な耐圧設計が不要になる。
【0056】
レーザーによって溶解された溶射材は、超音速流れの気流による剪断作用を受け、微粒子へとアトマイズされる。
【0057】
また、文献(Atomization and Spray,Arthur H.Lefebvre,Taylor&Francis(publisher),p30-37)には、平行流によるアトマイズ効果の実験式として式(3)が示されている。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、ρA:ガス密度,UA:ガス−粒子相対速度,D:粒子径,σ:液滴表面張力である。
【0060】
鉄系の材料を溶融させてマッハ数3の気流中に注入すると、式(3)より、φ10μm以下まで微粒化されることが予測される。
【0061】
アトマイズ後の粒子は超音速気流によって加速と冷却の各作用を受け、最終的に超音速の速度を持ってノズル1から噴出される。
【0062】
この間の加速と冷却は数値解析により見積ることができる。具体的には、準一次元圧縮性流体保存形表示の質量保存、運動量保存、エネルギ保存式を式(4)と、粒子の運動方程式(6)とを連立させて解く。
【0063】
【数4】
ここで、
【0064】
【数5】
ただし、ノズル壁1bの乱流熱伝達にはJohnson-Rubeshinの式(5)を用いる。
【0065】
【数6】
【0066】
また、sとeはガス相と第二相間の相互作用を表す運動量生成項とエネルギ生成項をそれぞれ表す。
粒子の速度は、粒子の運動方程式(6)を解くことにより得ることができる。
【0067】
【数7】
ただし、
【0068】
【数8】
ここで抗力係数にはKurtenの式(8)を用いている。
【0069】
【数9】
粒子の温度は、粒子のエネルギ方程式(9)を解くことにより得ることができる。
【0070】
【数10】
ただし、ノズル壁1bの温度がガス温度と等しくなる断熱壁の場合、
【0071】
【数11】
また、ノズル壁1bを加熱した等温壁の場合、
【0072】
【数12】
ここでヌセルト数にはRanz-Marshallの式(12)を用いている。
【0073】
【数13】
【0074】
ただし、上記各式中の記号の意味は下記の通りである。
A:ノズル断面積
CD:粒子の抗力係数
D:ノズル直径
d:粒子直径
f:壁面摩擦係数
g:重力加速度
h:比エンタルピ
ドットm:質量流量
Nu:ヌセルト数
p:ガス圧力
Pr:プラントル数
Re:レイノルズ数
T:温度
u:流速
x:ノズル流れ方向の距離
α:ステファン・ボルツマン定数
ε:放射率
κ:比熱比
λ:熱伝導率
μ:粘性係数
ρ:密度
【0075】
また、添字の意味は下記の通りである。
g:ガス
s:第二相(液滴、粒子、粉体)
x:ノズルスロート部からの距離
W:ノズル壁面
【0076】
図4および図5は、キャリアガスとして窒素ガスとヘリウムガスをそれぞれ用いた場合について、スロート部6からノズル出口までの距離に対するノズル内粒子温度及び粒子速度の関係を示したものである。
【0077】
図4(a)に示すグラフは、キャリアガスとして窒素ガスを使用した場合を示し、横軸は「スロート部からノズル出口までの距離」、縦軸は「粒子温度」と「粒子速度」を共通のスケールで示している。また、横軸において「ゼロ」はスロート部6の位置に相当し、グラフ中の特性Aは粒子温度の推移を、特性Bは粒子速度の推移をそれぞれ示している。
【0078】
溶射条件としてキャリアガス温度が600℃となるようにノズル壁を加熱し、窒素ガスの圧力を3.8MPa、ガス流量を1g/s、ワイヤ4の供給量を0.1g/sとした場合、アトマイズされた粒子の平均粒径は10μmであった。
【0079】
また、図4(b)はゼロ〜0.05mまでの範囲を横軸方向に拡大したものである。
【0080】
両図に示されるように、スロート部6から放出された粒子は約0.02mまでは急激に加速されるがそれ以上は加速の勾配は緩やかになる。そこでキャリアガスに窒素ガスを使用する場合のノズル長さとして0.02mを採用した。
【0081】
一方、粒子の温度はスロート部6から放出された後、冷却され続け0.02mで約1700K(グラフ中、ポイントa参照)まで低下し、基材に衝突した時の衝突速度は約400m/sである(グラフ中、ポイントb参照)。
【0082】
このように窒素ガスを用いた場合、粒子が基材に衝突する時の温度が高いため、溶射成形した層の強度を高めるためにはその後、基材に対する何らかの熱処理が必要になる。ところが、熱処理を行うと造形直後の形状と比較してある程度の歪が避けられない。
【0083】
したがって、溶射成形された形状において0.2mm程度の仕上り誤差を許容できる場合、或いは、溶射積層後に仕上げ機械加工が許されるような場合にはキャリアガスとして窒素ガスを使用することができる。また、その場合、粒子が凝固直後に基材に衝突するようにノズル長さを設定すればよい。
【0084】
詳しくは、溶射処理において粒子が凝固直後であることは材料の組織に良い影響を与える。平均粒径10μmの粒子がノズル1内を飛行している時、周囲のガスとの熱伝達および放射により104〜105K/sの冷却速度で急冷され、それにより、粒子が付着して得られる材料は極めて緻密な組織が得られる。そこで、凝固が終了するまでノズル1内を飛行することができるようにノズル長さを設定している。
【0085】
次に、図5(a)に示すグラフはキャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合のノズル内粒子の状態を示したものである。
【0086】
溶射条件としてキャリアガス温度が600℃となるようにノズル壁を加熱し、ヘリウムガスの圧力を3.8MPa、ガス流量を0.5g/s、ワイヤ4の供給量を0.1g/sとした場合、アトマイズされた粒子の平均粒径は10μmであった。
【0087】
なお、グラフ中の特性Cは粒子温度の推移を、特性Dは粒子速度の推移をそれぞれ示している。また、図5(b)はゼロ〜0.05mの範囲を横軸方向に拡大したものである。
【0088】
キャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合、ヘリウムの分子量が小さいために粒子は約1400m/sまで加速され続ける。一方、溶射材粒子の温度についてはヘリウムの熱伝導率が良いためにスロート部6から放出された後、急冷されノズル出口部では300Kまで低下する。
【0089】
図5の測定結果から、一般に540K以下であれば焼き戻しされることもないので、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用した場合のノズル長さを0.04mmとした。粒子が基材に衝突する時の粒子温度は約540K(グラフ中、ポイントd参照)、衝突速度は約780m/s(グラフ中、ポイントc参照)である。
【0090】
粒子速度780m/sは基材に衝突付着する条件としては十分な速度になっている。したがって、本実施形態の条件で溶射を行えば基材に粒子が堆積していくことになる。
【0091】
また、基材衝突時の粒子温度は上記窒素ガスの場合(1700K)に比べて格段に低く、それにより造形後の熱処理は不要であり歪もほとんど生じない。しかも、衝突時の粒子速度は高速であるために、粒子が衝突した表面はクレーター状になりながら堆積が継続される。このとき、堆積層内部には空隙のない100%密度の安定した厚みの被膜が得られる。
【0092】
三次元堆積造形法では、本発明の溶射ノズル装置の持つ特性が大きな効果をもたらす。
【0093】
まず、選択的レーザー焼結(SLS)と比較すると、成形材料(溶射材)として線材に成形されたものを使用するためコストが低くなる。
【0094】
また、SLS法では熱可塑性樹脂でコーティングされた球状粒子を用いるため、金属成形体を得るのに2段階の焼結工程が必要になる。具体的には、レーザー熱源によって樹脂部分を溶融・固化するレーザー焼結と、レーザー焼結された成形体の結合剤を除去すると同時に金属粒子同士を固着させる本焼結である。
【0095】
これに対し、本実施形態による溶射ノズル装置では粒子を樹脂コーティングする必要がなく、結合剤が除去されることによって生じた多孔質の密度を高めるためにブロンズ等を溶浸させる必要もない。したがって、本実施形態によればSLS法の欠点を克服して精度の高い積層を得ることができるようになる。
【0096】
図6は上記構成を有する溶射ノズル装置Nで製膜処理を行う場合の構成を示したものである。
【0097】
同図において、ノズル1の筒軸方向延長線上に基材12が配置されている。
【0098】
ワイヤ4はワイヤリール(溶射材供給装置)13から巻き解かれ、溶射ノズル1の中心軸に沿って配置されているガイド5内を通過しながらノズル1内に供給されるようになっており、ワイヤ4の先端はガイド5の先端から突出するようになっている。
【0099】
突出したワイヤ4の先端に対し、レンズ14によってレーザー光の焦点が結ばれ、ワイヤ4の先端が溶解する。
【0100】
一方、キャリアガスは制御弁15によって流量が制御され、スロート部6上流側に供給される。供給されたキャリアガスはスロート部6を通過することによって超音速に加速され、上記溶解されたワイヤ4先端の溶射材をアトマイズする。
【0101】
アトマイズされた粒子はスロート部6から離れる際に急冷されるが、ノズル1内はコイル7によって加熱されていることにより、凝固点温度以下または変態点温度以下の高い温度に調節された状態で基材12の表面に衝突する。
【0102】
図7は本発明の溶射ノズル装置Nの別の実施形態を示したものである。
【0103】
同図に示す溶射ノズル装置N1において、ノズル20はセラミック製円筒からなり、その外周側にタングステン製からなる円筒21が同心円状に巻き付けられている。
【0104】
ガイド5の先端近傍におけるノズル20内壁には、一対の放電電極22a,22bが対向する状態で配置されており、この電極間に直流電圧23(交流電圧、パルス電圧であってもよい)が印加されるようになっている。
【0105】
各電極22a,22bに直流電圧が印加されると、電極間に放電が発生して電流が流れ、電極間に突出しているワイヤ4の先端がジュール熱によって溶解される。この構成では、上記電極22a,22bおよび直流電圧23が溶射材溶解手段として機能する。
【0106】
図8は本発明の溶射ノズル装置Nのさらに別の実施形態を示したものであり、ノズル内に挿入されるワイヤを一対とし、それらのワイヤを電極としてアーク放電を行うものである。
【0107】
なお、同図では内部構造が分かるように、装置をZ−Z′方向に二分割した一方の断面を示している。
【0108】
溶射ノズル装置N2は、内部に中空室24aを備えた耐圧構造からなる本体部24と、この本体部24からZ′軸方向に延設されたノズル部25と、X−X′軸に沿って本体部24に対し対向する側から接続された2本のキャリアガス供給配管(以下供給管と略称する)26,27とを備えている。
【0109】
詳しくは、本体部24内にはY−Y′方向から見て三角形状をなしZ−Z′方向から見て楕円形をなしている中空室24aが形成されている。この部屋24a内に二本のワイヤ4,4をガイドするためのガイド28,29がV字状に配置されており、各ガイド28,29の先端から送り出されるワイヤ4,4は、ノズル部25の中心軸p.a上で交わるようになっている。なお、上記ガイド28,29はZ′方向に向けて先細に形成された筒状部材で構成されている。
【0110】
上記一対のワイヤ4,4の後端は直流電圧(図示しない)と接続されており、ワイヤ4,4の先端はアーク放電を発生させるための電極を構成するようになっている。従って、上記ワイヤ4,4および直流電圧は溶射材溶解手段として機能する。
【0111】
上記ノズル部25の基端部には、上記構成を有するガイド28,29の先端部およびワイヤ4,4をノズル部25内に配置するための円錐状切欠部25aが形成されている。
【0112】
また、上記供給管26,27は中空室24aと連通しており、供給管26の出口26a近傍には上記ガイド28が配置され、供給管27の出口27a近傍には上記ガイド29が配置されている。このように構成することにより、ガイド28および29は、供給管26,27から吐出されるキャリアガスの流れに衝突する衝突板として機能させることができ、それにより、キャリアガスの動圧成分を減衰させ、中空室24a内を等方的に圧力が作用する静圧成分に変換することができるようになっている。
【0113】
その結果、中空室24a内ではキャリアガスの流速が減衰させられて旋回流れが弱まり、中空室24aおよびそれに連通するノズル部25を流れるキャリアガスの流速分布が一定になる。それにより、溶解されアトマイズされた後の溶射材粒子をノズル部25内に真っすぐ引き込むことが可能になる。
【0114】
図9は上記溶射ノズル装置N2を側面から見たものであり、p.tは溶射粒子の飛行軌跡を示している。同図からわかるように、溶射粒子はアーク溶解点mからノズル部25に向けてノズル内壁に衝突することなく、直進している。
【0115】
図10は溶射ノズル装置N2を平面から見たものであり、溶射粒子の飛行軌跡p.tは左右方向に広がることなく直進していることがわかる。
【0116】
ただし、図9および図10では数値解析により求めた溶射粒子の飛行軌跡を表示している。
【0117】
また、図11は中空室24a内でのキャリアガスの流れを側面から示したものである。同図に示すように、アーク溶解点m近傍におけるキャリアガスの流れは中空室24a内で上下に分かれる分岐点となっており、キャリアガスの主な流れ方向はノズル部25へと向かう軸方向成分のみとなっている。
【0118】
上記キャリアガスが上下に分かれる様子を図12に示す模式図を用いて説明する。
【0119】
同図(a)は図11におけるE−E矢視断面を示し、同図(b)は同じくF−F矢視断面を示している。
【0120】
図12(a)において、供給管26の出口26aから吐出されたキャリアガスはガイド28の側壁に衝突することにより動圧成分が減衰されるとともに略上下二つの流れfw1,fw2に分割される。また、供給管27の出口27aから吐出されたキャリアガスも同様にガイド29の側壁に衝突することにより動圧成分が減衰された状態で略上下二つの流れfw3,fw4に分割される。
【0121】
各ガイド28および29によって分割されたキャリアガスfw1,fw2およびfw3,fw4は中空室24aの中心に向けて対向流をなし中空室24aの中心部で衝突し、アーク溶解点mを点対象として回転する流れに変換される。それにより、アーク溶解点m近傍ではx−y断面内に速度を持たない流れの領域が形成される。
【0122】
この状態でキャリアガスはノズル部25に進み、ノズル部25内では図12(b)に示すようなキャリアガスの流れが形成される。その結果、溶解されアトマイズされた粒子pは、キャリアガスの流れの間に挟まれた状態でノズル部25内を飛行する。
【0123】
図13はノズル部25の中心軸p.aを通るキャリアガスの流速分布を示したものである。流速分布は流れ方向に垂直な方向の複数の線で示されるが、中心軸に対して対称であるため、中心軸に集中する粒子Pが壁面に接触することがほとんどない。
【0124】
なお、上記溶射ノズル装置N2では二本のワイヤ4,4で構成したが、ワイヤの本数はそれ以上の本数で構成することもでき、ワイヤを供給するガイドはワイヤの本数に応じた数を用意すればよい。
【0125】
図14は上記溶射ノズル装置Nを三次元堆積造形法に適用した場合の構成を示したものである。
【0126】
同図に示す溶射装置NDにおいて、30は3D(三次元)CADデータを読み込むコントローラである。
【0127】
コントローラ30は、読み込んだ3DCADデータから積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データに基づいてレーザー光またはアーク放電によって溶解された溶射材粒子を一層ずつ基材31に堆積することにより、所望の形状からなる三次元立体モデル(造形物)を得るようになっている。なお、以下の説明ではレーザー光で溶射材を溶解する場合を例に取り説明する。
【0128】
基材31はX軸、Y軸(紙面奥行き方向)、Z軸方向に移動させることができる搬送テーブル32に設けられ、また、ノズル33は図示しないロボットアームに取り付けられている。これら搬送テーブル32およびロボットアームからなる駆動機構は、上記コントローラ30の駆動系制御部30aによってそれぞれ3軸方向の移動が制御できるようになっている。
【0129】
キャリアガスとしてのヘリウムはヘリウムボンベ34からヘリウム容器35に一旦、貯留され、ヘリウム容器35とノズル33はガス供給路36を介して接続されている。このガス供給路36には電磁制御弁37が介設されている。
【0130】
この電磁制御弁37は遮断位置aと連通位置bとを有し、通常、バネ圧によって遮断位置aにあるが、コントローラ30の供給系制御部30bから開信号S1が入力されている期間、連通位置bに切り換わるようになっている。
【0131】
ノズル33に供給される溶射材としてのワイヤ4はワイヤリール13に巻き取られており、このワイヤリール13から巻き解かれるワイヤ4は駆動ローラ39によってノズル33に供給される。なお、駆動ローラ39はパルス制御可能なステッピングモータ38によって回転するようになっており、ステッピングモータ38は供給系制御部30bによって制御されるようになっている。
【0132】
具体的には、供給系制御部30bから送り信号S2がステッピングモータ38に与えられると、出力されたパルス数に応じて駆動ローラ39が回転しワイヤリール13が矢印E方向に回転しながらワイヤ4が矢印F方向に送り出され、ノズル33の上端部(入口側)33aからノズル33内に導入される。
【0133】
ノズル33のガイド5(図1参照)先端からワイヤ4の先端が突出すると、コントローラ30の出力制御部30cからレーザー装置40に対してレーザー回路のシャッタを開くシャッタ開信号S3が与えられ、レーザー装置40から照射されたレーザー光は突出したワイヤ4の先端で焦点を結びワイヤ4を溶解する。
【0134】
レーザー装置40によるワイヤ4の溶解動作は供給系制御部30bから開信号S1が出力されていることを前提とし、ヘリウム容器35からキャリアガスがノズル33内に送り込まれている。したがって、溶解した粒子は超音速のキャリアガスによってノズル33から基材31に対し噴射されることになる。
【0135】
なお、ノズル33およびそのロボットアーム、搬送テーブル32は気密状態が得られるチャンバ41内に収納されており、そのチャンバ41内は真空ポンプ42によって真空引きされることにより、酸素が除去されるようになっている。また、コントーラ30内の符号10は図2に示したノズル加熱制御部である。
【0136】
図15は、供給系制御部30bによって粒子の堆積量を制御する方法を示したものである。
【0137】
ノズル33の移動方向前側には位置センサ44が備えられ、この位置センサ44はノズル33の先端と基材12に堆積された既積層面との距離を計測し、供給系制御部30bに与えている。
【0138】
供給系制御部30bは、検出された距離に応じ、駆動ローラ39を駆動させるべくステッピングモータ38を制御する。例えば、範囲R1では目標堆積レベルに対し、既堆積レベルL1が低く堆積量が不足している。したがってこの場合は、ステッピングモータ38を駆動させ駆動ローラ39を介しワイヤ4をレーザー焦点に向けて送り続ける。
【0139】
一方、位置センサ44が目標堆積レベルを満足している既堆積レベルL2を検出すると、堆積の必要がないため、ステッピングモータ38を停止させる。それにより、ワイヤ4が供給されず溶射がストップする。
【0140】
次に、位置センサ44が既堆積レベルL3を検出すると、堆積不足であるため再度、ステッピングモータ38を駆動させ、ワイヤ4の供給を再開させる。それにより、目標積層レベルに到達するように溶射材粒子が溶射される。
【0141】
図14に戻って説明する。
【0142】
また、43はヘリウムを回収するためのヘリウム圧縮機であり、チャンバ41内のヘリウムを圧縮して高圧にしヘリウム容器35に戻すようになっている。それにより、高価なヘリウムを再利用するようになっている。
【0143】
なお、上記実施形態に示したワイヤ4は単独の素材からなる金属であってもよく、複数の金属素材を撚り合わせたものであってもよい。また、図8に示した溶射ノズル装置N2を使用する場合には、一方のワイヤ4と他方のワイヤ4の素材を変えることもできる。
【0144】
次に、図16はノズルを加熱する加熱手段に係る他の実施形態を示したものである。
【0145】
先に説明した実施形態では、ノズル1の周囲に配置したコイル7を用いてノズル1を高周波誘導加熱しノズル1の内面に付着した金属をクリーニングするように構成し、それにより、ノズル1内に付着した金属によってキャリアガスの流れが乱され溶射の精度が低下することを防止している(図2参照)。
【0146】
しかしながら、この加熱方法ではコイル7から放出された電磁波のエネルギーの一部がノズル1の加熱に利用されないことから、コイル7に付与した電気的エネルギーに対しノズル1の加熱に供せされる熱エネルギーの割合が低い。そこで、ノズルの温度調節時およびノズルクリーニング時のエネルギー効率を高めるために、図16に示すような加熱装置50を用いることができる。
【0147】
同図に示す加熱装置50は、ノズル1の周囲を囲むように設けられたカーボンヒータ51を備えている。
【0148】
このカーボンヒータ51は図17に示すように、円筒状の発熱部51aと、この発熱部51aの上部において相反する方向に配置された一対の電極部51b,51bと、これらの電極部51b,51bと発熱部51aの上端とを接続する電極接続部51c,51cとから構成されている。
【0149】
上記発熱部51aは、円筒体の上下両側から交互に一定の長さ形成されたスリット51d,51eによって複数部分に分割されている。
【0150】
また、図16に示したように、カーボンヒータ51の外側周囲を囲むようにしてカーボン繊維からなる筒状の断熱材52が配置され、この断熱材52を収容する容器53がさらに備えられている。
【0151】
なお、容器53内にはカーボン部品の酸化を防止する目的で不活性ガスが封入されており、上記電極部51bの先端はシールされた状態で上記容器53の側壁53aを貫通して外部に延設され、図示しない電源と接続できるようになっている。
【0152】
次に、上記構成を有する加熱装置50によってクリーニング動作を行う場合について説明する。
【0153】
図示しない電源から電極部51b,51b、電極接続部51c,51cを通じて発熱部51aに電力を供給すると、カーボンヒータ51は、通電によるジュール発熱によって内部から発熱する。それにより、タングステン製またはモリブデン等の高融点金属製、或いはセラミックス製のノズル1は発熱部51aからの輻射伝熱によって約2000℃に加熱され、ノズル1内壁に付着した金属が溶融される。
【0154】
また、高融点金属またはセラミックス製からなるノズル1をカーボンまたはカーボンコンポジット製のノズル1に代えると、金属製のノズルに比べてノズル表面の輻射率がさらに高まり、エネルギー効率をさらに高めることができる。
【0155】
次いでキャリアガスをノズル1内に噴射することにより、溶融した金属がノズル1外に排出されクリーニングが行われる。
【0156】
図18は加熱装置のさらに他の実施形態を示したものである。
【0157】
図16に示した加熱装置50ではノズル1の周囲にカーボンヒータ51を配置してノズル1を加熱したが、図18に示す加熱装置60では高融点金属またはセラミックス製からなるノズルをカーボン製ノズル61に代え、そのノズル61を直接、加熱するように構成している。なお、同図において図16と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0158】
加熱装置60は、ノズル61自体がカーボンまたはカーボンコンポジットにより構成されており、発熱部として機能するようになっており、ノズル61の上端部には相反する方向に一対の電極部51b,51bが接続されている。
【0159】
次に、上記構成を有する加熱装置60によってクリーニング動作を行う場合について説明する。
【0160】
図示しない電源から電極部51b,51bを通じてノズル61に電力を供給すると、ノズル61は、通電によるジュール発熱によって内部から発熱する。それにより、ノズル61は約2000℃に加熱され、ノズル61内壁に付着した金属が溶融される。
【0161】
次いでキャリアガスをノズル1内に噴射することにより、溶融した金属がノズル61外に排出されクリーニングが行われる。
【0162】
上記したようにノズルを加熱する手段としてカーボンヒータ51を使用すると、高周波誘導コイルを用いて溶射ノズルを誘導加熱する場合に比べ、溶射ノズルの加熱に供せられるエネルギーの利用効率を高めることができる。
【0163】
また、カーボンヒータ51を使用する構成に比べて部品点数を削減することができるため、メンテナンスが容易になるという利点がある。
【0164】
このように、上記構成を有する加熱装置50および加熱装置60によれば、ノズルの温度調節時或いはノズルクリーニング時において、コイル7を用いてノズル1を加熱する場合に比べ、ノズルの加熱に使われるエネルギーのロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明に係る溶射ノズル装置の構成を示す断面図である。
【図2】溶射ノズルの加熱装置の構成を示す説明図である。
【図3】ノズル内のスロート部断面積および加熱溶解部断面積の関係を示す説明図である。
【図4】(a)は窒素ガス使用時のノズル内粒子温度と粒子速度の関係を示すグラフであり、(b)は図4(a)の要部を拡大したグラフである。
【図5】(a)はヘリウムガス使用時のノズル内粒子温度と粒子速度の関係を示すグラフであり、(b)は図5(a)の要部を拡大したグラフである。
【図6】本発明に係る溶射装置を製膜用として使用する場合の構成を示す構成図である。
【図7】本発明に係る溶射装置を製膜用として使用する場合の別の構成を示す要部断面図である。
【図8】本発明に係る溶射ノズルの他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】図8に示す溶射ノズル内の粒子軌跡を示す側面断面図である。
【図10】図8に示す溶射ノズル内の粒子軌跡を示す平面断面図である。
【図11】図8に示す溶射ノズル内のキャリアガスの流れを示す側面断面図である。
【図12】図9のE−E断面におけるキャリアガスの流れを示す説明図である。
【図13】図9のF−F断面におけるキャリアガスの流れおよび粒子の状態を示す説明図である。
【図14】本発明に係る溶射装置を三次元堆積造形に使用する場合の構成を示すブロック図である。
【図15】溶射材粒子の堆積量を制御する方法を示す説明図である。
【図16】本発明に係る溶射ノズル加熱装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図17】図16に示すカーボンヒータの構成を示す斜視図である。
【図18】本発明に係る溶射ノズル加熱装置のさらに他の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0166】
1 ノズル
1a 側面
1a′ レーザー光入射部
1b ノズル壁
1c ノズル壁
2 通路
3 供給口
4 ワイヤ
5 ガイド
6 スロート部
7 コイル
8 高周波電源
9 熱電対
10 ノズル加熱制御部
11 スポット放射温度計
12 基材
13 ワイヤリール
14 レンズ
15 制御弁
N 溶射ノズル装置
ND 溶射装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、
線状に成形された溶射材をガス流と略平行な状態で入口側からノズル内に挿入する溶射材挿入部と、上記溶射材挿入部の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した上記溶射材を加熱溶解する溶射材溶解手段とを備え、この溶射材溶解手段より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを特徴とする溶射ノズル装置。
【請求項2】
上記溶射材溶解手段として、上記溶射材挿入部の先端近傍で焦点が結ばれるレーザー装置が設けられている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項3】
上記溶射材溶解手段として、上記溶射材挿入部の先端近傍でアーク放電が発生するように対向した状態でノズル内壁に一対の放電電極が設けられている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項4】
複数本の上記溶射材を上記ノズル内に挿入し得る上記溶射材挿入部を有し、上記溶射材溶解手段として、各溶射材の先端部がアーク放電を発生させる放電電極に構成されている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項5】
上記ノズルの入口側に設けられた中空室と、この中空室に連通し上記キャリアガスを対向流で導入するための二本のキャリアガス供給管とを有し、各キャリアガス供給管から上記中空室に吐出されるキャリアガスと衝突する位置に筒状の上記溶射材挿入部をそれぞれ配置してなる請求項4記載の溶射ノズル装置。
【請求項6】
上記溶射材挿入部として上記ノズルの中心軸上に中空円管が配置され、この中空円管の外壁の一部が厚肉に形成されることによって上記ノズル内壁との間にスロート部が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項7】
上記ノズル内壁に付着する溶射材凝固粒子を融点以上まで加熱する加熱手段が設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項8】
上記加熱手段が、溶射時に上記ノズル内の溶射材粒子を加熱するように構成されている請求項7記載の溶射ノズル装置。
【請求項9】
上記加熱手段として上記ノズルの周囲に高周波誘導コイルが巻回されている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項10】
上記加熱手段として上記ノズルの周囲にカーボンヒータが設けられている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項11】
上記加熱手段として上記ノズル自体が電極部を備えたカーボンまたはカーボンコンポジットで構成されている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項12】
上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段が設けられている請求項1〜11のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項13】
上記溶射材は異種材料から形成されたものである請求項1〜12のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置と、
上記ノズルに対し管路を介して接続されキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置と、
上記線状に成形された溶射材を上記溶射材挿入部に送り込む溶射材供給装置と、
上記溶射材溶解手段としての放電電極またはレーザー装置に対し電圧を印加する電源装置と、
を備えてなることを特徴とする溶射装置。
【請求項15】
上記管路に介設され上記キャリアガス供給装置から供給されるキャリアガスの流量を制御する制御弁と、
上記溶射材供給装置としての上記線状の溶射材を巻き取っているリールと、
このリールから上記溶射材を巻き解きつつ上記溶射材挿入部に導入する駆動ローラと、
上記制御弁の開閉、上記駆動ローラの回転・停止を制御する供給系制御部と、を備えてなる請求項14記載の溶射装置。
【請求項16】
上記駆動ローラを回転させるモータを有するとともに、上記溶射ノズルから既堆積面までの堆積直前の距離を計測する位置センサを備え、上記供給系制御部は、三次元CADデータを読み込み、上記位置センサによって検出されたレベルと、三次元CADデータにおける目標堆積面レベルとの差に応じて上記モータの回転を制御するように構成されている請求項15記載の溶射装置。
【請求項17】
上記放電電極に印加する電圧またはレーザー装置の出力を制御する出力制御部を備えてなる請求項14〜16のいずれか1項に記載の溶射装置。
【請求項18】
上記溶射材溶解手段としてレーザー装置およびこのレーザー装置と上記ノズルとを接続するレーザー光伝送用光ファイバを有し、上記出力制御部は上記レーザー装置のシャッタの開閉を制御するように構成されている請求項17記載の溶射装置。
【請求項19】
上記ノズルから吐出されるガス温度を検出する温度センサと、上記ノズルの周囲に設けられまたは上記ノズルとしての加熱手段と、上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段とを有し、この温度調節手段は上記温度センサによって検出される検出温度に基づいて上記加熱手段に印加する電圧を制御するように構成されている請求項14〜18のいずれか1項に記載の溶射装置。
【請求項20】
上記ノズルの姿勢を変位させる駆動機構と、この駆動機構を制御する駆動系制御部とを有し、上記駆動系制御部は、三次元CADデータを読み込み、読み込まれた三次元CADデータに基づいて積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データにしたがって上記溶射材溶解手段によって溶解した溶射材粒子を一層ずつ基材に堆積するように上記駆動機構を制御する請求項14〜19のいずれか1項に記載の溶射装置。
【請求項1】
ノズルの入口側にキャリアガスを導入してその内部全域に超音速のガス流を形成し、そのガス流によって溶射材をアトマイズし放出する溶射ノズル装置であって、
線状に成形された溶射材をガス流と略平行な状態で入口側からノズル内に挿入する溶射材挿入部と、上記溶射材挿入部の先端近傍でその溶射材挿入部から突出した上記溶射材を加熱溶解する溶射材溶解手段とを備え、この溶射材溶解手段より溶解されアトマイズされた溶射材粒子をノズル内の超音速ガス流によって急冷し、凝固状態若しくは半凝固状態で放出するように構成されていることを特徴とする溶射ノズル装置。
【請求項2】
上記溶射材溶解手段として、上記溶射材挿入部の先端近傍で焦点が結ばれるレーザー装置が設けられている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項3】
上記溶射材溶解手段として、上記溶射材挿入部の先端近傍でアーク放電が発生するように対向した状態でノズル内壁に一対の放電電極が設けられている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項4】
複数本の上記溶射材を上記ノズル内に挿入し得る上記溶射材挿入部を有し、上記溶射材溶解手段として、各溶射材の先端部がアーク放電を発生させる放電電極に構成されている請求項1記載の溶射ノズル装置。
【請求項5】
上記ノズルの入口側に設けられた中空室と、この中空室に連通し上記キャリアガスを対向流で導入するための二本のキャリアガス供給管とを有し、各キャリアガス供給管から上記中空室に吐出されるキャリアガスと衝突する位置に筒状の上記溶射材挿入部をそれぞれ配置してなる請求項4記載の溶射ノズル装置。
【請求項6】
上記溶射材挿入部として上記ノズルの中心軸上に中空円管が配置され、この中空円管の外壁の一部が厚肉に形成されることによって上記ノズル内壁との間にスロート部が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項7】
上記ノズル内壁に付着する溶射材凝固粒子を融点以上まで加熱する加熱手段が設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項8】
上記加熱手段が、溶射時に上記ノズル内の溶射材粒子を加熱するように構成されている請求項7記載の溶射ノズル装置。
【請求項9】
上記加熱手段として上記ノズルの周囲に高周波誘導コイルが巻回されている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項10】
上記加熱手段として上記ノズルの周囲にカーボンヒータが設けられている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項11】
上記加熱手段として上記ノズル自体が電極部を備えたカーボンまたはカーボンコンポジットで構成されている請求項7または8記載の溶射ノズル装置。
【請求項12】
上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段が設けられている請求項1〜11のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項13】
上記溶射材は異種材料から形成されたものである請求項1〜12のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の溶射ノズル装置と、
上記ノズルに対し管路を介して接続されキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置と、
上記線状に成形された溶射材を上記溶射材挿入部に送り込む溶射材供給装置と、
上記溶射材溶解手段としての放電電極またはレーザー装置に対し電圧を印加する電源装置と、
を備えてなることを特徴とする溶射装置。
【請求項15】
上記管路に介設され上記キャリアガス供給装置から供給されるキャリアガスの流量を制御する制御弁と、
上記溶射材供給装置としての上記線状の溶射材を巻き取っているリールと、
このリールから上記溶射材を巻き解きつつ上記溶射材挿入部に導入する駆動ローラと、
上記制御弁の開閉、上記駆動ローラの回転・停止を制御する供給系制御部と、を備えてなる請求項14記載の溶射装置。
【請求項16】
上記駆動ローラを回転させるモータを有するとともに、上記溶射ノズルから既堆積面までの堆積直前の距離を計測する位置センサを備え、上記供給系制御部は、三次元CADデータを読み込み、上記位置センサによって検出されたレベルと、三次元CADデータにおける目標堆積面レベルとの差に応じて上記モータの回転を制御するように構成されている請求項15記載の溶射装置。
【請求項17】
上記放電電極に印加する電圧またはレーザー装置の出力を制御する出力制御部を備えてなる請求項14〜16のいずれか1項に記載の溶射装置。
【請求項18】
上記溶射材溶解手段としてレーザー装置およびこのレーザー装置と上記ノズルとを接続するレーザー光伝送用光ファイバを有し、上記出力制御部は上記レーザー装置のシャッタの開閉を制御するように構成されている請求項17記載の溶射装置。
【請求項19】
上記ノズルから吐出されるガス温度を検出する温度センサと、上記ノズルの周囲に設けられまたは上記ノズルとしての加熱手段と、上記ノズル内の溶射材粒子温度を所定温度に調節する温度調節手段とを有し、この温度調節手段は上記温度センサによって検出される検出温度に基づいて上記加熱手段に印加する電圧を制御するように構成されている請求項14〜18のいずれか1項に記載の溶射装置。
【請求項20】
上記ノズルの姿勢を変位させる駆動機構と、この駆動機構を制御する駆動系制御部とを有し、上記駆動系制御部は、三次元CADデータを読み込み、読み込まれた三次元CADデータに基づいて積層厚みにスライスした断面データを作成し、この断面データにしたがって上記溶射材溶解手段によって溶解した溶射材粒子を一層ずつ基材に堆積するように上記駆動機構を制御する請求項14〜19のいずれか1項に記載の溶射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−175426(P2006−175426A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334839(P2005−334839)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【特許番号】特許第3784404号(P3784404)
【特許公報発行日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【特許番号】特許第3784404号(P3784404)
【特許公報発行日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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