説明

溶接ビード切削幅測定方法

【課題】切削部の撮影画像が不明瞭なものとなる場合にも、溶接ビート切削幅の測定の信頼性を向上させうる撮影画像データ処理方法を提供する。
【解決手段】照明光をエリア光とし、該エリア光による測定領域の照明輝度をビード長手方向で相異なる三輝度とし、これら三輝度の各領域(A,B,C各部)の撮影画像を同時に画像処理して溶接ビード切削幅を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ビード切削幅測定方法に関し、特に電縫鋼管の外面ビード切削後の溶接部のビード切削幅の測定性能を効果的に向上させる、溶接ビード切削幅測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電縫管の溶接ビード切削後の形状を計測する際にスリット光とITVカメラによる光切断方法を持って鋼管ビード切削部の映像を捕らえる溶接ビード切削形状計測方法においてその断面形状映像を細線化処理し断面形状を算出しその断面形状の輝度により切削部と非切削部である母材とを区別し、その区別した切削部中央値と切削部右端の値と切削部左端の値とを求め、この三つの計測値をもとに左右計測値と母材中央値とをもって切削深さ量を算出し左右計測値をもって切削傾き量を算出することでビード切削形状を精度良く測定できることを特徴とする電縫管溶接ビード切削形状計測方法が記載されている。
【0003】
特許文献1の方法はスリット光による撮影画像を用いるものであるが、溶接ビード切削幅のみが測定対象であるときは、スリット(線)光ではなくエリア(面)光による撮影画像が用いられる場合もある。いずれにしても、その原理は、測定したい外面ビード切削部周辺に照明装置で光を照射し、該照射した部位をカメラで撮影し、該撮影した画像をもとに、切削部と非切削部とで光の反射率に差があることを利用して、受光レベル(輝度)の差によって切削部の境界を検出するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2618303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電縫鋼管の電縫溶接部の探傷性能は、溶接ビード切削幅の測定精度に大きく影響され、この測定精度が悪いと電縫溶接部の探傷性能の向上は望めない。ビード切削幅測定にあたり、スリット光、エリア光のいずれの撮影画像を用いる場合でも、輝度による切削部の境界検出を行うが、その際、溶接ビード切削部の表面性状は、管素材板幅の変動、切削部の境界近傍の性状、水乗り等の環境条件、管円周方向の捩れ等によって変化するため、切削部の撮影画像が不明瞭なものとなる場合が少なからずある。そのため信号処理として測定値の移動平均、異常データの排除など多くの演算処理が必要となっている。しかし、演算により平均化処理することで、溶接ビード切削幅の細かな変動を正確に測定することが困難であり、そのため電縫溶接部の探傷性能向上には限界があるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、その結果、溶接ビード切削幅の測定の信頼性を向上させうる撮影画像データ処理方法を見出し、本発明をなした。
すなわち本発明は、溶接ビード切削部を含む測定領域を照明器で照明しつつカメラで撮影し、その撮影画像を画像処理して溶接ビード切削幅を測定する溶接ビード切削幅測定方法において、照明光をエリア光とし、該エリア光による測定領域をビード長手方向で相異なる三輝度の領域とし、これら三輝度の各領域の撮影画像を同時に画像処理して溶接ビード切削幅を測定することを特徴とする溶接ビード切削幅測定方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ビード長手方向で相異なる三輝度の各領域の撮影画像を同時に画像処理するから、その三輝度領域間のビード幅測定値比較によるその場での異常値排除ができて、溶接ビード切削幅の測定信頼性が向上する。従って、本発明を電縫鋼管の電縫溶接部に適用した場合、電縫溶接部の探傷性能の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の効用についての説明図である。
【図2】本発明の効用についての説明図である。
【図3】本発明例に用いたビード幅測定装置を示す模式図であり、(a)は側面断面模式図、(b)は正面断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、溶接ビード切削部を含む測定領域を照明器で照明しつつカメラで撮影し、その撮影画像を画像処理して溶接ビード切削幅を測定するという点では、従来技術と同様である。尚、従来技術との重複範囲において、溶接ビード切削部(略してビード切削部)はビード長手方向に移動しつつ測定され、且つ画像処理では、撮影画像からビード幅方向の輝度分布を導出し、その分布内での輝度変化の大きさが第1位と第2位である二つのビード幅方向位置を検出して該二位置間がビード切削幅(以下、単にビード幅とも言う)であると同定し、該二位置間の距離を算出してビード幅の値とする。
【0010】
本発明では、照明光としてエリア光を用いる。エリア光は、相直交する二方向に広がるのでビード幅方向とビード長手方向との両方向に広がりを持つ測定領域を対象とする本発明に使えるが、スリット光では一方向にしか広がらないので本発明には使えない。
本発明では、エリア光による測定領域の照明輝度をビード長手方向で相異なる三輝度とする。これにより、測定領域を明確に三分割できてその三分割領域の撮影画像をそれぞれ特定できるから、単一照明輝度としていた従来では不可能であった、同一測定領域内の異なる三箇所の撮影画像を用いたその場での異常判定が可能となる。
【0011】
すなわち、これら三輝度の各領域の撮影画像を同時に画像処理し、算出した計3つのビード幅データを相互に比較し、うち1つが他の2つと大きく異なる場合、それを異常値として排除し、残りの2つの平均をその画像における代表データとする。かかる多数決による異常判定は、二輝度では多数派が決まらないので不可能なため、三輝度以上を要するが、四輝度以上とした場合、データ処理が複雑となり、その割には効果の向上程度が小さいことから、三輝度とした。
【0012】
尚、測定領域を三輝度領域に分割する方法としては、フィルタ面内の一方向の三領域で透過率を相異させたフィルタに照明光を通す方法や、反射板を用いて照明光の一部を反射させて、直射光のみの入射域(低輝度)、直射光と乱反射光との重畳入射域(中輝度)、直射光と正反射光との重畳入射域(高輝度)を形成する方法などが挙げられる。
本発明の効用について、図1、図2を用いて説明する。これらの図において、(a)はビード移動方向12に移動中の電縫鋼管10のビード切削部11を含む測定領域に形成された前記三輝度領域の各々に相当するA,B,C各部の撮影画像に、これらの撮影画像を同時に画像処理して得られたところの、ビード幅方向の輝度分布図を重ね合わせたものであり、(b)はA,B,C各部の輝度分布図にビード幅の測定値を記入したものである。図1と図2とでは測定領域内のビード切削部11の長手方向部位が相異する。尚、図2には測定領域及びA,B,C各部の画像処理範囲の概略サイズを示した。
【0013】
図1の場合、B部とC部とはビード切削幅(以下、単にビード幅とも言う)の測定値が10.2mmと10.3mmとでほぼ同じ値であり、一方、A部は9.7mmと前2者より小さい値である。そこで、A部の測定値を異常値として排除し、残りを平均した10.25mmを、この時の測定領域を通過中のビード長手方向部位のビード幅代表データとする。これは真値である可能性が高いといえる。
【0014】
図2の場合、A部とB部とはビード幅の測定値が10.1mmと10.2mmとでほぼ同じ値であり、一方、C部は10.9mmと前2者より大きい値である。そこで、C部の測定値を異常値として排除し、残りを平均した10.15mmを、この時の測定領域を通過中のビード長手方向部位のビード幅代表データとする。これは真値である可能性が高いといえる。
【0015】
ここで、従来の場合を考えると、従来は測定領域全体が一輝度領域であり、その一輝度としては図1、図2のA,B,C各部の輝度の何れかに相当する輝度が平等に現れうる。図1においてB又はC部相当輝度が現れた場合、測定値は真値である可能性が高いが、A部相当輝度が現れた場合、異常値である可能性が高いデータを代表データとしてしまう。又、図2においてA又はB部相当輝度が現れた場合、測定値は真値である可能性が高いが、C部相当輝度が現れた場合、異常値である可能性が高いデータを代表データとしてしまう。
【0016】
従って、本発明によれば、真値を測定できたはずであったにも拘わらず、その真値を見逃して異常値を代表データとしてしまうという不具合を防止できて、溶接ビード幅測定の信頼性が向上する。
【実施例】
【0017】
電縫鋼管の溶接ビード切削幅測定に本発明を適用し、従来と比較した。
なお、本発明例においては、照明光(エリア光)による測定領域が、ビード長さ方向で三輝度領域となるように、反射板を用いて直射光と正反射光との重畳入射域A部(高輝度領域)、直射光と乱反射光との重畳入射域B部(中輝度領域)、直射光のみの入射域C部(低輝度領域)を形成させた。図3は、本発明例で用いたビード幅測定装置を示す模式図であり、(a)は側面断面図、(b)は正面断面図を示す。このビード幅測定装置は、電縫鋼管10のビード切削部11を含む測定領域にエリア光を照射する照明器1を1つの筐体2に内蔵し、筐体2の光射出口部2Aに、照明器1から発した光の一部を反射させて該反射した中の正反射光を測定領域のビード移動方向12の三分割部の一端側の一部であるA部に入射させ、前記反射した中の乱反射光を前記三分割部の中央側の一部であるB部に入射させ、前記三分割部の他端側の一部であるC部には前記正反射光及び乱反射光を入射させない反射面4Aを有するフード4を配設したものである。そして、筐体2には、測定領域を撮影するカメラ3が内蔵されており、このカメラ3からの撮影画像データを、図示しない画像処理装置に伝送するようにしてある。画像処理装置では、伝送された撮影画像データから、三輝度の各領域からそれぞれビード幅を上述した方法により求め、得られた3つのビード幅のデータのうち、値が近い2つのデータの平均値をビード幅計測値する演算を行なった。なお、ビード幅計測値の演算にあたっては、ビード幅の大、中、小の3つのデータについて、大と中との差と、中と小との差が同一となった撮影画像からはビード幅計測値の演算は行なわないようにする処理ステップを設けている。
【0018】
また、従来例としては、図3の本発明例で用いたビード幅測定装置に対して、フード4が設置されていないビード幅測定装置を用いて、測定領域を直射光のみの入射域のみ(一輝度領域)とし、この一輝度領域の撮影画像を用いて、ビード切削部を含む領域についてビード幅方向の輝度分布を求め、この輝度分布からビード切削部の位置を同定することで、ビード切削幅を求めた。
【0019】
その結果、従来では約20分間の連続測定において、測定値の半数近くが異常と判定され、実際はそんなに異常値が多いはずはないので、測定の信頼性が不十分であった。尚、この測定異常の検出方法は、過去に蓄積された目視直接測定データの範囲外に測定値が入ったことをもって測定異常であると判定する方法である。これに対し、本発明例では、約20分間の連続測定において、測定異常が95%以上排除(測定値全数の5%未満まで低減)でき、測定の信頼性が向上した。
【符号の説明】
【0020】
1 照明器
2 筐体
2A 光射出口部
3 カメラ
4 フード
4A 反射面
10 電縫鋼管
11 ビード切削部(溶接ビード切削部)
12 ビード移動方向



【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ビード切削部を含む測定領域を照明器で照明しつつカメラで撮影し、その撮影画像を画像処理して溶接ビード切削幅を測定する溶接ビード切削幅測定方法において、照明光をエリア光とし、該エリア光による測定領域をビード長手方向で相異なる三輝度の領域とし、これら三輝度の各領域の撮影画像を同時に画像処理して溶接ビード切削幅を測定することを特徴とする溶接ビード切削幅測定方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−159383(P2012−159383A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18921(P2011−18921)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】