説明

溶液からポリマーを回収する方法

水との共沸混合物を有する極性非プロトン性有機溶媒(PAOS)、およびPAOSと混和性で、水と非混和性であり、かつ相分離剤(PSA)として作用し、その沸点が水/PAOS共沸混合物の沸点未満である非極性有機化合物を含むポリマーの溶液中に、水蒸気および場合によって液体の水を注入することによってポリマーを回収する方法であり、注入される水蒸気の量が、ストリッピングによるPSAの実質的な除去および共沸蒸留によるPAOSの実質的な除去をもたらすのに十分であり、水の総量がポリマーの沈殿を生じさせるのに十分である方法であって、ポリマー溶液が、少なくともポリマーの沈殿の間にアルコールも含むことを特徴とする、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーを含有する溶液からポリマーを回収する方法およびまた、このような方法を含む再生使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、主として固体状態において、様々な形態で広範に用いられる。しかし、時に、それらの存在の1つの段階またはその他において、それらは、通常溶媒中の溶液の形態で、液体媒体中に存在しており、次いで、それからそれらを抽出することが必要である。したがって、ある種の重合方法(溶液重合法として知られている)の最後において、ある種の再生使用方法の過程において、およびポリマーベースの物品または塗料を製造するためのある種の設備の洗浄の間に、ポリマー溶液に直面する。溶液から出発して、固体状態でポリマーを回収することには一般に、少なくとも1つの溶媒蒸発工程が含まれる。
【0003】
従って、本出願人名義の出願国際公開第01/70865号パンフレットには、ポリマーを再生使用させる方法であって、それによれば、ポリマーを溶解させることができ、かつ沈殿媒体中に水蒸気を注入することによる共沸蒸留によってその沈殿媒体からストリッピングさせることができるように水との共沸混合物を有する溶媒と、そのポリマーを接触させることが記載されている。
国際公開第01/70865号パンフレットの方法において、ポリマーを溶媒と接触させるとき、相分離剤(PSA)も存在し、それは溶媒によるポリマーの溶解を改善する効果を有する。好ましくは、溶媒は極性有機溶媒、より詳細にはケトンであり、PSAは、5〜7個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素である。
国際公開第01/70865号パンフレットの主題である発明は、ある種の相分離剤をポリマー溶媒/ポリマー非溶媒混合物に添加すると、この混合物の沈降を容易にする(これは、この溶媒および非溶媒が連続的にまたは1つのバッチから次へのいずれかで再生使用される、ループ再生使用方法の文脈において特に有用である)のみならず、問題のポリマーに関して溶媒豊富相の溶解力を増加させることが可能になるという驚くべき観察に基づいている。結果として、この方法は、より柔軟で、エネルギー消費が少なく、かつ費用があまりかからなくなる。
【0004】
しかし、本出願人名義の出願国際公開第05/100461号パンフレットも、ポリマーの完全な沈殿前に実質的に全てのPSAを除去することを推奨している。これは、このPSAがポリマー粒子に対して凝集効果を有するようにみえるからである。したがって、好ましくは、ポリマーの沈殿前にその液体媒体からPSAを完全にストリッピングさせることができるように、PSAは水/溶媒共沸混合物の沸点未満の沸点を有するか、または、水/溶媒共沸混合物の沸点未満の沸点を有する、水との共沸混合物を有する、のいずれかである。PSAを完全にストリッピングさせなければならないということは、それが多量の蒸気を消費するので、経済的観点からPSAは不具合をきたしている。
【0005】
さらに、なおポリマー粒子の凝集を防止する(したがって、より濃縮された溶液で作用することができる)観点で、本出願人名義の出願国際公開第05/017010号パンフレットでは、溶媒および非溶媒に関して異なる親和性を有し、かつその方法の異なる時に導入される異なる2つの懸濁化剤の使用が推奨されている。しかし、これらの分散剤は高価である。
最後に、前述の出願では、凝集を克服し、したがって、粒径を改良する観点でも真空下で沈殿を行うことが推奨されている。これは、その方法の装置および安全の観点から不利益をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、要約すると、ポリマー粒子が凝集することを防止するために、本出願人は今まで、全てのPSAを同時にストリッピングさせ、高価な懸濁化剤を使用し、かつ真空下で沈殿させることが必要であると考えていた。
しかし、本出願人は、その後、沈殿媒体中にアルコールが存在すると、前述の注意(条件)なしで作用することができる点さえまでも、PSAの存在によって誘発された粒子凝集の現象を克服することができることを見いだした。
さらに、多くのアルコールが水と共沸混合物を有するので、水との共沸混合物が、水/溶媒共沸混合物の沸点より高い沸点を有するアルコールについてアルコールが選択されるという条件で(アルコールは、溶媒の共沸蒸留によって起こるポリマーの沈殿の間に存在していなければならないので)、本出願人の現在の装置および方法(共沸蒸留による有機物の除去に基づいた)は、さらなる投資をすることなく使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、水との共沸混合物を有する極性非プロトン有機溶媒(PAOS)、およびPAOSと混和性であって、水と非混和性であり、相分離剤(PSA)として作用し、その沸点が水/PAOS共沸混合物の沸点未満である非極性有機化合物を含むポリマーの溶液中に、水蒸気および場合によって液体の水を注入することによって、ポリマーを回収する方法であり、注入される水蒸気の量がストリッピングによるPSAの実質的な除去および共沸蒸留によるPAOSの実質的な除去を生じさせるのに十分であり、ならびに水の総量がポリマーの沈殿を生じさせるのに十分である方法であって、少なくともポリマーの沈殿の間に、このポリマー溶液がアルコールも含むことを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各実施例においてケーブルスクラップ(FC001=標準グレード)を試料としたときの嵩密度(BD)測定の結果を表すグラフである。
【図2】各実施例においてケーブルスクラップ(FC005:過剰可塑化グレード)を試料としたときの嵩密度(BD)測定の結果を表すグラフである。
【図3】各実施例においてケーブルスクラップ(FC001=標準グレード)を試料としたときの粒径測定の結果を表すグラフである。
【図4】各実施例においてケーブルスクラップ(FC005:過剰可塑化グレード)を試料としたときの粒径測定の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましくは、上に説明した理由のために、これは、水との共沸混合物を有するアルコールであり、その沸点は、水/PAOS共沸混合物の沸点より高い。最も特に好ましくは、有機液体の実質的に全てが媒体から除去されるまでおよび水中のポリマー粒子のみが残存するまで、媒体の共沸蒸留を推進することができるために、水/アルコール共沸混合物は、水の沸点未満の沸点を有する。
【0010】
本発明による方法によって回収が対象とされているポリマーは、任意の性質のものであってもよい。それは、熱可塑性樹脂またはエラストマーであってもよいが、いずれの場合も、溶媒に溶解させることができ、したがって、架橋されていないかまたは軽度に架橋されている樹脂である。それは、起こり得る顆粒化を除き溶融によっていずれの成形も行っていない未使用の(すなわちバージンの)樹脂、または使用された樹脂(製造スクラップまたは再生使用樹脂)であってもよい。それは、非極性ポリマー、例えば、エチレン(PE)のポリマーまたはプロピレン(PP)のポリマーであってもよい。それは、極性ポリマー、例えば、スチレンモノマー、アクリル酸モノマーおよびハロゲン化エチレン性不飽和モノマーあるいは、エチレンとビニルアルコール(EVOH)または酢酸ビニル(EVA、EBAなど)とのコポリマー由来のポリマーであってもよい。それは、例えば、ビスフェノールAとホスゲンとの反応によって得られるポリカーボネートなどの縮合反応から得られる熱可塑性ポリマーであってもよい。それはまた、ポリアミドであってもよい。
【0011】
上記のポリマーおよびポリマーブレンドの全ての中で、塩化ビニル由来のポリマー−ホモポリマー(PVC)、またはコポリマー(例えば、酢酸ビニルとのコポリマー、すなわち、VC/VAcコポリマー)であって、少なくとも50質量%の塩化ビニルを有するポリマーによって;またはPVCの溶解度パラメータに近い溶解度パラメータを有するポリマー(PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PVA(ポリビニルアルコール)およびPUR(ポリウレンタン)など)によって、良好な結果が得られている。「近い」という用語は、一般に約1.8を超えて互いに異ならない溶解度パラメータ(MP1/2で表して)を定義すると理解される。以下も好適であり得る:ポリカーボネート(PC)、ポリエステル、ポリアミド、ABS(アルリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー)、SAN(スチレン/アクリロニトリルコポリマー)、SMA(スチレン−co−無水マレイン酸コポリマー)、TPUR(熱可塑性ポリウレタン)および無定形ポリエステルなどのポリマー。
【0012】
本発明による方法はまた、同じ性質のものまたは異なる性質のものであるかにかかわらず、前述のポリマーのブレンドに適用される。
【0013】
ポリマーは任意の形態であってもよい。それは、恐らくは液体またはペースト状態における、恐らくはさらに溶媒中の溶液における、重合、混合または処理のスクラップであってもよい。それはまた、1種または複数の通例の添加剤、例えば、強化繊維を含めて、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、難燃剤、顔料、充填剤などを含む固体の物品であってもよい。これらの繊維は、任意の性質、天然または合成のものであってもよく;また、ガラス繊維、セルロース繊維またはプラスチック繊維を用いることもできる。それらは通常、プラスチック繊維、特にポリエステル繊維である。
【0014】
本発明による方法は、溶液中の、すなわち、極性非プロトン性有機溶媒である前記ポリマーの溶媒を含む液体媒体に溶解させた任意のポリマーの回収に適用される。本発明によれば、ポリマーが少なくとも部分的に可溶性、通常は完全に可溶性であるこの溶媒は一般に、ポリマーの溶解度パラメータに近い溶解度パラメータ(その定義および実験値は、「Properties of Polymers(ポリマーの特性)」、D.W.ヴァン・クレヴレン(D.W.Van Krevelen)、1990年編、200〜202頁、およびまた、「Polymer Handbook(ポリマー・ハンドブック)」、J.ブランドルアップ(J.Brandrup)およびE.H.イメルガット(E.H.Immergut)編、第二版、IV−337からIV−359頁にみられる)を有する液体である。「近い」という用語は、一般に約1.8を超えて互いに異ならないポリマーのおよび溶媒の溶解度パラメータ(MPa1/2で表して)を定義すると理解される。
【0015】
本発明によれば、この溶媒は非プロトン性(すなわち、例えば、アルコールと対照的に、水素結合を生成し得る水素原子を欠いている)および極性(すなわち、非ゼロの双極子モーメントを有している)である。これは、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)またはケトンであってもよい。ケトン、特に、MEK(メチルエチルケトン)またはDEK(ジエチルケトン)は、多くのポリマー、特に、前述のポリマー(PVCまたはPVCの溶解度パラメータに近い溶解度パラメータを有するポリマー)に関して良好な結果を与える。「溶媒」という用語は、単一の物質および物質の混合物の両方を意味すると理解される。
【0016】
本発明によれば、このポリマー溶液はまた、その役割が上に説明され、PAOSと混和性であって、水と非混和性である非極性有機化合物であるPSAを含む。これは、好ましくは、5から7個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素である。特に溶媒としてMEKまたはDEKとともに、相分離剤としてn−ヘキサンまたはイソヘキサン(2−メチルペンタン)を選択することによって優れた結果が得られた。後者は、その沸点があまり高くない(大気圧でn−ヘキサンの69℃と比較して60℃)ことを考慮すると特に好適である。
【0017】
最後に、このポリマー溶液は、少なくともポリマーの沈殿の間に(好ましくは、いずれかの水が注入される前に)、アルコール、好ましくは、その沸点が水/PAOS共沸混合物の沸点を超える、水との共沸混合物を有するアルコールを含む。メタノール以外は、主要部分の線状脂肪族アルコールはこの見地から好適である。特に、C2〜C6線状脂肪族アルコールは、特に好適であり、最も特には、C3〜C5線状脂肪族アルコールである。より高い数の炭素数を有するアルコールは事実、最終ストリッピング中に容易に除去されず、回収されるPVC粒子中に捕捉されたままである危険性がある。
【0018】
同様に、水を多く蒸発させ過ぎないために、水/アルコール共沸混合物が低い水含量を有することが好ましい。したがって、イソプロパノールおよびtert−ブチルアルコール(2−メチル−2−プロパノール)が特に好適である(水とのそれらの共沸混合物は、約12質量%の水を含む)。
【0019】
ポリマーを溶解させる液体媒体は、PAOSおよびPSAの外に、他の有機または無機化合物を含んでもよい。特に、閉ループを稼動させる再生使用方法の場合に(これは追って説明される)、溶媒は、再生使用液体流であることができ、特定の量の非溶媒(水)を含むことができる。
【0020】
ポリマーがPVCである場合、溶解液体媒体(I)が、2質量%から8質量%のアルコール(最も特に好ましくは、3質量%から4.5質量%のアルコール(好ましくは、イソプロパノール))、13%から17%のPSA(好ましくは、イソヘキサン)および4%から6%の水を含み、残り(すなわち、69質量%から79質量%)はPAOS(好ましくは、MEK)から構成されている場合に、良好な結果が得られた。媒体中に約15%のPSAを有することにより、多くのタイプのPVCスクラップ(さらに水を含む)の有効な沈降および溶解が可能になり、PVC粒子の嵩密度(BD)を大きく低減させることを避けるのみならず、PSAの分離能を落とすことを避けるために8%のアルコールを超えないことが好ましい。
【0021】
回収されるポリマーの液体媒体中の濃度は、広範囲に変わり得る。一般に、ポリマーの量は、液体媒体の総質量に対して5質量%超、好ましくは10質量%超、最も特には15質量%超に相当する。溶解ポリマーのこの量は、一般に、溶液の総質量の60質量%、好ましくは40質量%を超えず、最も特には、35質量%またはさらに25質量%を超えない(追って参照)。ポリマー濃度が低過ぎると、溶媒の除去に大きなエネルギー消費をもたらす。ポリマー濃度が高過ぎると、溶液の流動性およびその取扱性を損なう。
【0022】
本発明によれば、ストリッピング(蒸発)によるPSAの、および共沸蒸留によるPAOSの(またはさらにアルコールの)実質的な除去を生じさせる十分な量で、水蒸気が液体媒体中に注入される。
【0023】
本出願人名義の出願国際公開第05/014705号パンフレットの主題である、本発明の1つの特に有利な変形によれば、液体の水も、転相(すなわち、水相が分散している連続有機相から構成される媒体から有機相が(連続)水相に分散している媒体への変化)に近づけるために媒体に添加されるが、それを達成しない。この変形は、水蒸気をあまり消費しないので経済的観点から有利である。この液体の水は必ずしも純粋である必要はなく;それは溶媒およびアルコールを含んでもよく、より具体的には、前もってまたは並行して行われた同様の方法から回収される水相からなってもよい(追って参照)。同じ理由のために、液体の水および/または水相は、前述の転相を生ずることに役立たせるために水蒸気に加えて添加してもよい。
【0024】
一般に、本発明の文脈内で、このポリマー溶液は、水相が場合によって分散している有機相からなる。本発明の1つの特に有利な変形において、それを超えることなくその転相に近づけるために、液体の水相がこの有機相に添加され、次いで、転相前に溶液から少なくとも一部のPSAを除去するように水蒸気が注入される。これは、ポリマーを溶解させるために役立たせることおよび水相および有機相の起こり得る沈降の両方において有効であるように出発溶液中に必要とされるPSAの量(これは、PVCの場合約15%である:上記参照)が一般に、多過ぎるのでアルコールはポリマーの最終的な沈殿を生じさせる転相の間に有機相を十分に親水性にさせることができないからである。
【0025】
第1の変形において、PSAは、蒸気を注入することによって、ポリマーの沈殿前に(すなわち、転相前に)、液体媒体から実質的に除去される(すなわち、その質量%未満の濃度に減少させられる)。この変形において、本出願人名義の出願国際公開第05/100461号パンフレットに記載されたように、媒体の組成がそれへの共沸組成の液体または蒸気を添加することによって調整される条件で、溶液中比較的高いポリマー濃度(例えば、上記媒体(I)に関して最大35質量%のPVC)で作用させることができる。
【0026】
この変形において、PSAを除去する過程で、ポリマーの予備沈殿(すなわち、μmのオーダーの直径を有し、有機相に分散しているポリマーの小粒の形成)が一般に見られ、実際の沈殿(100のμmのオーダーの直径を有する凝集粒の粒子を形成するための)は好ましくは、蒸気および追加の液体の水を注入することによって生じ、好ましくは適切に撹拌しながら、転相を達成し、それを超えて進行する。この撹拌は、例えば、機械的撹拌によって、気体の注入によってなどの任意の知られている装置によって与えることができる。好ましくは、これは、例えば、機械的撹拌機を用いる強力な機械的撹拌であってもよい。少なくとも500rpm(またはさらに数千rpm)でのロータ回転を有する撹拌機は、良好な結果を与える。
【0027】
他の変形において(すなわち、PSAが実質的に除去されず、かつ少なくとも数%が転相の間に液体媒体中に残る場合)、2つの下位の変形が以下のいずれかに区別され得る:
−上に説明したとおりの共沸組成の液体または蒸気で媒体の組成を調製する間に水蒸気が注入され、大きな割合(少なくとも半分)のPSAが蒸発され、その後、転相を生じる;この場合、溶液中の比較的高いポリマー濃度で作用することも可能である(例えば、上記媒体(I)に関して最大35質量%のPVC)、
−または、純粋の蒸気が注入される(これは、PSAを部分的に除去する効果も有する)が、媒体の組成を調整することはなく、この場合、溶液のポリマー濃度を限定することがより良い(例えば、媒体(I)に関して25質量%のPVCに)。
【0028】
しかし、この二番目の下位の変形(PSAの部分的除去に関する)は、大量の共沸混合物を蒸発させることがもはや必要ない利点を有し、これは実際、エネルギー節約の観点から他の変形と同等になる。この下位の変形において、ポリマーの予備沈殿は、水蒸気の注入によって引き起こされ、これはまた、媒体のPSA含量を低減させる効果も有する。最も特に好ましくは、この目的のために注入される蒸気の量は、溶液のPSA含量を少なくとも半分、またはさらに三分の二に(例えば、媒体(I)の場合に4質量%に近い値に)低減させるのに十分であり、その後、転相が生じ(好ましくは、液体の水および追加の蒸気の両方による)、好ましくは激しく撹拌しながら、最終的にポリマーを沈殿させる(上記参照)。
【0029】
したがって、これらの2つの好ましい変形において、予備沈殿は、蒸気の注入の間に生じて、少なくとも一部のPSAを除去し、一方、最終的な沈殿(転相)は、液体および蒸気の形態の両方において水を注入することによって生じる。したがって、これらの変形は、順に以下の工程を含む:
−ポリマーの沈殿を引き起こすには不十分である量で、出発溶液に液体の水を添加する工程;
−転相を生じさせることなくポリマーを予備沈殿させるのに、およびPSAを少なくとも部分的に蒸発させるのに十分である量で水蒸気を添加する工程;および
−転相を生じさせ、ポリマーを最終的に沈殿させるために水蒸気および液体の水を添加する工程。
予備沈殿は、形成されているポリマー粒の存在に関連したもや(haze)の出現によって、または任意の適切な測定(例えば、濁度測定)によって目視で観察してもよい。
【0030】
本発明による方法が、バッチ様式でおよびループにおいて(すなわち、蒸気の回収、蒸気の凝縮およびPSAを用いて沈降させた後での(有機および水)相の再使用を伴う)稼動する溶解/沈殿によってポリマーを再生使用する方法である場合に、第2の変形(PSAの部分的除去を伴う)は、しかし、本方法のより大きな柔軟性という、さらなる利点を有する。
【0031】
これは、PSAを完全にストリッピングさせることができるために、「純粋」(PSAを含まない)である水/溶媒共沸組成物を有することがもはや必要でないからである。したがって、並行にいくつかのバッチを稼動させること(これは、溶解工程が沈殿よりも速くなるので、並行におよび連続的に稼動するいくつかの沈殿反応装置を有する単一の溶解反応装置のみを使用することが可能であるから有利である)、および種々の沈殿反応装置から得られる蒸気全てを単一の沈降槽に供給することが可能である。次いで、この槽は、溶媒(有機相)および水(水相)の貯蔵として使用され得る。
【0032】
したがって、本発明はまた、ポリマーを再生使用するための方法であって、以下の工程:
−特に、上に定義されたとおりのPAOS、PSAおよびアルコールを含む液体媒体中にポリマーを溶解させる工程;
−上に定義されたとおりの方法を用いてポリマーを回収する工程;
−この方法から生じる蒸気を凝縮させて、液体を得る工程;
−この液体を沈降させて、PSAと、主要部分のPAOSおよびアルコールと、少量部分の水とを含む有機相、ならびに主要部分の水と、少量部分のPAOSおよびアルコールとを含む水相を得る工程;および
−場合によって、溶解液体媒体として有機相の少なくとも一部分を用いて先行の工程をループにおいて繰り返す工程
を含む、方法に関する。
【0033】
この方法において、ポリマーがPVCである場合、有機相の組成は好ましくは、上記の組成(I)である。この有機相と平衡状態で沈降する際の水相の組成に関して好ましくは、以下の質量割合:80.5/2/17.5における以下:水/プロパノール/MEKである。
【0034】
1つの有利な変形によれば、水相の一部はまた、抜き取られて、上に説明したとおりに転相に近づけるために使用される。そして、上に既に述べた1つの特に有利な変形によれば、最終の沈殿(転相)は、好ましくは激しく撹拌しながら、好ましくは液体形態および蒸気形態の両方の水を用いることによって、引き起こされる。一般に、この水は、前のバッチの最後で回収された水である(特に:それは、最終ストリッピング後にPVC粒子が回収された、水であってもよい)。
【0035】
この変形において、槽中の液体媒体の容量および組成が、その方法を稼動態勢にすることができるために実質的に一定であるように、種々のバッチを推進すること(上記の工程の繰り返し)が有利である。実務で良い結果を与える進行の1つの手法は、上に説明したように転相に近づけるために少なくとも一部の水相を抜き取ること;転相を生じさせるために蒸気および追加の水を用いて、次いで、完了までストリッピングおよび共沸蒸留を推進し、主として水から構成される媒体中に懸濁した十分に形成したポリマー粒子を得ること;および水からこれらの粒子を分離することにある。好ましくは、バッチ(次のバッチ、上記参照)の転相を生じさせるために水を使用することができるように、この水の少なくとも一部は保存され、残りは(必要に応じて)そのループから除去される。
この粒子は、流体から固体を分離するための任意の従来の手段、例えば、沈降、遠心分離(スピニング)、ろ過などによって回収する(最終ストリッピング後に水から分離する)ことができる。
【0036】
このような方法において、溶解は一般に、大気圧に少なくとも等しい、またはさらには1.5バールに少なくとも等しい圧力下で行われる。有利には、この圧力は10バール、好ましくは5バールを超えない。沈殿が一般に、まさに最大の大気圧(上記参照)である圧力で生じると考えれば、一般に、沈殿前に溶液の圧力を減少させる(すなわち、それを「フラッシュ」蒸発下に置く)ことが有利である。
このような方法において、溶解温度は一般に、少なくとも85℃、またはさらには110℃であり;一般に125℃、またさらには115℃を超えない。溶媒、非溶媒および/または相分離剤の爆発および分解のいずれの危険性も避けるために、不活性雰囲気下、例えば、窒素下で作用させることが有利であることも判明し得る。
【実施例】
【0037】
本発明は、実施例1および実施例2によって非限定的な手法で例証される。これらのそれぞれにおいて、(質量で)15%のイソヘキサン、5%の水および80%のMEKを含む溶媒から出発して、いくつかの試験を、ループ(生成した蒸気の凝縮、槽内での沈降、増加させる量のイソプロパノール(図を参照)を導入後に得られる有機(溶媒)相および無機(水)相の再使用を伴う)で行った。このイソプロパノールが導入されているとき、PSA濃度を15%の値に維持するためにかなりの量のPSA(イソヘキサン)を添加した。
【0038】
これらの試験のそれぞれにおいて、ケーブルスクラップ(FC001=標準グレード;FC005:過剰可塑化グレード;これらのグレードは、約50%のPVC樹脂、25%の可塑剤および25%のフィラーの平均付近で変化した組成を有し、FC005グレードは、平均でもう少し多くの可塑剤(すなわち、27から30%)を含む)由来の45kgのPVCを、180kgの上記のとおりの溶媒に溶解させた。
【0039】
溶解は、100℃において、3バール下で行った。
このようにして得られた溶液をろ過し、最大1バールのフラッシュ蒸発下に置いた。その中に、沈降槽中有機相と平衡状態の65kgの水相を導入した。
それぞれの実施例においてそれぞれのグレードのPVCについて実験(一連の試験)を行った。
【0040】
実施例1
イソヘキサンが完全に蒸発してしまうまで(これは、温度(常圧における)を共沸混合物の沸点の温度に安定化させることによって確実にされる)、比(225kg/時間)/(70kg/時間)で、水相ならびに液体形態および蒸気形態における水/MEK共沸混合物(質量比:11/89)65kgを、この溶液中に導入した。
次に、媒体の転相を生じさせるのに十分な量で、沈殿水(45リットル)および水蒸気(120kg/時間の流量で)を導入し、水蒸気の注入を沈殿媒体が100℃に達するまで続けた。
一方で、PVC粒子を回収し、そのBDおよび粒径(平均直径)を測定し、他方で、生成した蒸気を凝縮させて、次の試験を行うことができるようにした。0および1%のイソプロパノールを含む溶解溶媒を用いて行った試験を、真空(0.6バール)下で、ならびに一次分散剤(水相とともに導入された72.5%加水分解ポリビニルアルコール)および二次分散剤(二番目の水後に導入された40%加水分解ポリビニルアルコール)を用いて行った。その他の試験は、分散剤を用いることなく大気圧で行った。
【0041】
実施例2
PVCの予備沈殿を観察するのに十分な量で、水相および水蒸気65kgをこの溶液中に導入した。
次に、媒体の転相を生じさせるのに十分な量で、沈殿水(105リットル)および水蒸気(120kg/時間の流量で)を導入し、水蒸気の注入を沈殿媒体が100℃に達するまで続けた。
一方で、PVC粒子を回収し、そのBDおよび粒径(平均直径)を測定し、他方で、生成した蒸気を凝縮させて、次の試験を行うことができるようにした。
【0042】
図1から図4は、BDおよび粒径測定についてそれぞれ得られた結果を図示する。
そこでは、有効には、1.5質量%のイソヘキサンから少なくとも出発して、真空下および分散剤の存在下での働き(working)は必要ないことを理解することができる。
量的には、イソプロパノールが存在すると、沈殿反応装置の壁への物質の沈着(通常「硬皮生成(crusting)」として知られている)の出現が減少することが観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水との共沸混合物を有する極性非プロトン性有機溶媒(PAOS)、およびPAOSと混和性で、水と非混和性であり、かつ相分離剤(PSA)として作用し、その沸点が水/PAOS共沸混合物の沸点未満である非極性有機化合物を含むポリマーの溶液中に、水蒸気および場合によって液体の水を注入することによってポリマーを回収する方法であり、注入される水蒸気の量が、ストリッピングによるPSAの実質的な除去および共沸蒸留によるPAOSの実質的な除去をもたらすのに十分であり、水の総量がポリマーの沈殿を生じさせるのに十分である方法であって、前記ポリマー溶液が、少なくとも前記ポリマーの沈殿の間にアルコールも含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アルコールが、水との共沸混合物を有し、その沸点が前記水/PAOS共沸混合物の沸点より高いが、水の沸点未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、ホモポリマー(PVC)、またはコポリマーのいずれかである塩化ビニル由来のポリマー、およびPVCのものと近い溶解度パラメータを有するポリマーから選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記PAOSがMEK(メチルエチルケトン)またはDEK(ジエチルケトン)であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記PSAがイソヘキサンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコールが、C2〜C6線状脂肪族アルコールであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールが、イソプロパノールおよび/またはtert−ブチルアルコール(2−メチル−2−プロパノール)であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー溶液は水相が場合によって分散している有機相からなること;この有機相に液体の水相が添加されるが、転相(すなわち、有機相が分散している連続水相への変化)を生じさせるには不十分な量であること;および、そのようにして得られた液体媒体に蒸気を注入することにより、その転相前に前記PSAの少なくとも一部がそれから除去されること、を特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記転相が、水蒸気および液体の水の添加によって引き起こされることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
−PAOS、PSAおよびアルコールを含む液体媒体にポリマーを溶解させる工程;
−請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を用いて前記ポリマーを回収する工程;
−この方法から生じる蒸気を凝縮させて、液体を得る工程;
−前記液体を沈降させて、前記PSAと、主要部分の前記PAOSおよびアルコールと、少量部分の水とを含む有機相、ならびに主要部分の水と、少量部分のPAOSおよびアルコールとを含む水相を得る工程;
−場合によって、溶解液体媒体として前記有機相の少なくとも一部分を用いて先行の工程をループにおいて繰り返す工程
を含む、ポリマーを再生使用する方法。
【請求項11】
前記ポリマーがPVCであり、前記有機相が、で2質量%から8質量%のアルコール、13質量%から17質量%のPSAおよび4質量%から6質量%の水を含み、残り(すなわち、69質量%から79質量%)がPAOSから構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルコールがイソプロパノールであり、前記PSAがイソヘキサンであり、前記PAOSがMEKである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記水相の少なくとも一部が抜き取られ、前記ポリマーの予備沈殿を生じさせるには不十分である量で前記ポリマー溶液に添加され;水蒸気および追加の水を用いて転相を生じさせ;ストリッピングおよび共沸蒸留を完了まで推進させて、水から主として構成される媒体中に懸濁させた十分に形成されたポリマー粒子を得て;これらの粒子を水から分離させる、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−539313(P2010−539313A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525352(P2010−525352)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062447
【国際公開番号】WO2009/037316
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】