説明

溶液製膜方法及び設備

【課題】エンドレスチェーンの伸びを抑制し、軸角度バラツキを抑えたTACフィルムを得る。
【解決手段】TACと溶媒とによりドープを調製する。ドープを流延ダイから流延バンド上に流延して流延膜を形成する。流延膜を湿潤フィルム74として剥ぎ取る。湿潤フィルム74をテンタ式乾燥機35に送り込み、1.1〜1.4倍に延伸する。エンドレスチェーン103,104の各リンクの接合部分に、PTFE系ドライベアリングを用いる。1年程度の長期間の使用であっても、磨耗によるエンドレスチェーン103,104の伸びが抑えられる。このエンドレスチェーンの伸び抑制によって、得られるフィルム82の軸角度バラツキが、±0.5°/1000mとなり、光学特性に優れたフィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法及び設備に関し、より詳しくは光学用フィルムに好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムを製造するための溶液製膜方法及び設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(TAC)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、溶融製膜方法などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法では、先ず、ジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒にポリマーなどを溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。次に、ドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。そして、流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を湿潤フィルムと称する)として剥ぎ取る。次に、テンタ式乾燥機に湿潤フィルムを搬送して、乾燥させつつその幅方向に延伸、必要に応じて緩和を行い、軸ズレを制御したフィルムにする。このフィルムを乾燥及び冷却などを行った後にフィルムロールとして巻き取る。なお、軸ズレとは、フィルムを延伸した際にその幅方向で遅相軸が異なる現象をいう。
【0004】
テンタ式乾燥機では、テンタクリップを用いてフィルムの両側縁部を把持しフィルムを幅方向で延伸する。テンタクリップは無端で走行するエンドレスチェーンに取り付けられている。エンドレスチェーンは、内リンクと外リンクとを交互にピンで連結させたものであり、ピンの外周にはローラが回転自在に取り付けられている。ローラは、チェーンスプロケットと係合することにより、チェーンスプロケットの回転に伴い移動する。これにより、レール上でエンドレスチェーンが移動し、このチェーン移動によってテンタクリップもフィルムを把持しながら移動する。前記ローラと前記ピンとの間にはベアリングが取り付けられており、このベアリングはローラとピンとの磨耗を防止する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
フィルムの軸ズレの制御方法として、熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルムが面内に有する屈折率楕円体の長軸方向に一定張力を掛け、且つガラス転移点Tg(℃)未満の温度雰囲気下で熱処理している(例えば、特許文献1参照)。これにより、屈折率楕円体は短軸方向に緩やかに延伸され、フィルム面内の屈折率の異方性を低減する方向に作用し、フィルム表面の平滑性を維持したまま面内の配向ムラが低減する。
【0006】
また、フィルムの軸ズレの制御方法として、テンタ式乾燥機でフィルムを延伸する際に、フィルム幅方向のレターデーションの最大値と最小値との差が最小となる延伸温度よりも2℃以上高い温度に設定して延伸し、延伸方向に対する遅相軸のズレがフィルム全幅にわたって±0.7℃以内とするフィルムの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、溶液製膜法によりフィルムを製造する際に、テンタ式乾燥機を用いて幅方向にフィルムを延伸する延伸工程、次にその状態でフィルムを保持する保持工程及び幅方向にフィルムを緩和する緩和工程を行うことが知られている(例えば、特許文献3参照)。この場合に、テンタ式乾燥機で幅方向における延伸率として3%以上延伸し、延伸工程及び保持工程での平均乾燥速度をA%/sec、緩和工程での平均乾燥速度をB%/secとしたとき、2.0≦A/B≦4.1となる条件にしている。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【特許文献1】特開平09−230141号公報
【特許文献2】特開2000−241628号公報
【特許文献3】特開2003−300248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1記載の方法では、フィルムの光学性能についての記述がなされているが、その具体的手段については、特に開示されていない。また、前記特許文献2に記載の方法では、延伸工程を行う際に、フィルムの面内レターデーション値(Re値)が、最大値と最小値との差が最小となる延伸温度を決定する必要があり、この試行実験に多大な時間がかかるという問題が生じている。さらに、前記特許文献3記載の方法では、テンタ式乾燥機に使用するエンドレスチェーンは負荷がかかった状態での連続駆動により、擦動部分が磨耗し、全体の伸びとして表れる場合がある。この伸びが不均一に生じると搬送速度にムラが生じる問題がある。
【0009】
また、溶融製膜方法ではテンタ式延伸機でのフィルムの延伸倍率が高いことが一般に知られている。また、延伸は、高温で常に行うためエンドレスチェーンには金属ベアリングが用いられている。これに反して、溶液製膜方法では、テンタ式乾燥機でのフィルムの延伸倍率は通常2倍未満で行われている。また、エンドレスチェーンは湿潤フィルムを噛み込む際には、湿潤フィルム中の溶媒の発泡を防ぐため室温近傍の温度とする必要がある。また、テンタ式乾燥機内では、湿潤フィルムの乾燥を行うため必然的に下流側に向けてエンドレスチェーンの温度が上昇する。このような入口側と出口側とでの大きな温度変化に対応しつつ、エンドレスチェーンの伸びなどの不良を発生させないドライベアリングの選択が問題となっている。
【0010】
本発明の目的は、フィルムの製造工程、特にセルロースアシレートフィルムの製造工程において、搬送しながらフィルムを幅方向に延伸するテンタ式乾燥機のエンドレスチェーン用のドライベアリングについて素材と使用条件とを最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ってテンタ式乾燥機に送り、無端チェーンに取り付けたクリップにより前記湿潤フィルムの側縁部を把持して搬送する間に、前記湿潤フィルムに乾燥風を吹き付けてフィルムとする溶液製膜方法において、前記無端チェーンを構成する各リンクの連結部に、耐圧強度が300MPa以上の樹脂製ドライベアリングを用い、前記フィルムの幅方向に1.1倍以上1.5倍以下の範囲で前記湿潤フィルムを延伸することを特徴とする。
【0012】
本発明の溶液製膜設備は、セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ってテンタ式乾燥機に送り、無端チェーンに取り付けたクリップにより前記湿潤フィルムの側縁部を把持して搬送する間に、前記湿潤フィルムに乾燥風を吹き付けてフィルムとする溶液製膜設備において、前記無端チェーンを構成する各リンクの連結部に、耐圧強度が300MPa以上の樹脂製ドライベアリングを用い、前記フィルムの幅方向に1.1倍以上1.5倍以下の範囲で前記湿潤フィルムを延伸することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記樹脂製ドライベアリングの樹脂として、フッ素系樹脂又はポリエーテルエーテルケトンを用いることを特徴とする。さらに、前記フッ素系樹脂が、ポリ四フッ化エチレン,ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂,四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体,エチレン四フッ化エチレン共重合体,ポリフッ化ビニリデン,ポリクロロ三フッ化エチレンまたはポリフッ化ビニルのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする。また、前記樹脂製ドライベアリングにかかる面圧を2MPa以上8MPa以下とすることを特徴とする。さらに、前記テンタ式乾燥機で前記湿潤フィルムを搬送する際に、前記樹脂製ドライベアリングにかかる面圧変動を3%以下に抑制することを特徴とする。また、前記樹脂製ドライベアリングの寸法誤差が、内径に対し0.2%以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶液製膜方法及び設備によれば、無端チェーンを構成する各リンクの連結部に、耐圧強度が300MPa以上の樹脂製ドライベアリングを用い、前記フィルムの幅方向に1.1倍以上1.5倍以下の範囲でフィルムを延伸するから、エンドレスチェーンの伸びを抑制することができる。したがって、湿潤フィルムを延伸する際にその延伸の変動が抑制され、延伸方向に対する遅相軸のズレが少なくなり、フィルムの軸角度のバラツキの発生が抑制される。
【0015】
樹脂製ドライベアリングの樹脂にフッ素系樹脂又はポリエーテルエーテルケトンを用いることにより、エンドレスチェーンの耐磨耗性を上げることができ、磨耗に起因して発生する軸角度バラツキが抑制されたフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0017】
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0018】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0019】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0020】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)を作製することができる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0021】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0022】
本発明に用いられるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0023】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0024】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0025】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらは適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0026】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0027】
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。まず始めに、溶媒が溶媒タンクから溶解タンクに送られる。次にホッパに入れられているTACが、計量されながら溶解タンクに送り込まれる。また、添加剤溶液は、必要量が添加剤タンクから溶解タンクに送り込まれる。なお、添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンクに送り込むことが可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて溶解タンクに送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンクの中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンクに送り込むこともできる。
【0028】
前述した説明においては、溶解タンクに入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、TACを計量しながら溶解タンクに送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンクに予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
【0029】
溶解タンクには、その外面を包み込むジャケットと、モータにより回転する第1攪拌機とが備えられている。さらに、溶解タンクには、モータにより回転する第2攪拌機が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。そして、ジャケットに伝熱媒体を流すことにより溶解タンクは温度調整されており、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機,第2攪拌機のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液を得る。
【0030】
膨潤液は、ポンプにより加熱装置に送られる。加熱装置は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液中の固形分を溶解させてドープを得る。以下、この方法を加熱溶解法と称する。なお、この場合に膨潤液の温度は、50℃〜120℃であることが好ましい。また、膨潤液を−100℃〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に充分溶解させることが可能となる。ドープを温調機により略室温とした後に、濾過装置により濾過してドープ中に含まれる不純物を取り除く。濾過装置に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ22は、図1のフィルム製造ライン20中のストックタンク21に送られここに貯留される。
【0031】
ところで、上記のように、一旦膨潤液を調製し、その後にこの膨潤液をドープとする方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造コストの点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを調製し、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を行うことが好ましい。このような方法を用いる際には、濾過装置で濾過されたドープをフラッシュ装置に送り、フラッシュ装置内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置により回収される。回収された溶媒は再生装置によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
【0032】
また、濃縮されたドープは、ポンプによりフラッシュ装置から抜き出される。さらに、ドープに発生した気泡を抜くために泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法が適用され、例えば超音波照射法が挙げられる。ドープは続いて濾過装置に送られて、異物が除去される。なお、濾過する際のドープの温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。そしてドープ22はストックタンク21に送られ、貯蔵される。
【0033】
以上の方法により、TAC濃度が5質量%〜40質量%であるドープを製造することができる。より好ましくはTAC濃度が15質量%以上30質量%以下であり、最も好ましくは17質量%以上25質量%以下の範囲とすることである。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100質量%とした場合に1質量%以上20質量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用することができる。
【0034】
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られたドープ22を用いてフィルムを製造する方法を説明する。図1はフィルム製造ライン20を示す概略図である。ただし、本発明は、図1に示すようなフィルム製造ラインに限定されるものではない。フィルム製造ライン20には、ストックタンク21、濾過装置30、流延ダイ31、回転ローラ32,33に掛け渡された流延バンド34及びテンタ式乾燥機35などが備えられている。さらに耳切装置40、乾燥室41、冷却室42及び巻取室43などが配されている。
【0035】
ストックタンク21には、モータ60で回転する攪拌機61が取り付けられている。そして、ストックタンク21は、ポンプ62及び濾過装置30を介して流延ダイ31と接続している。
【0036】
流延ダイ31の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ31の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ31を作製することが好ましい。これにより流延ダイ31内をドープ22が一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ31の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ31のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ31のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ31内部における剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されていることが好ましい。
【0037】
流延ダイ31の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.1倍〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ31に温調機(図示しない)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ31にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ31の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ31に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)62の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製造ライン20中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて製品フィルムの幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0038】
流延ダイ31のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ31と密着性が良く、ドープ22との密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23 ,TiN,Cr23などが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0039】
流延ダイ31のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部、ダイスリット端部及び外気が形成する三相接触線の周辺部付近に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.1mL/min〜1.0mL/minで供給することが、流延膜中への異物混合を防止するために好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
流延ダイ31の下方には、回転ローラ32,33に掛け渡された流延バンド34が設けられている。回転ローラ32,33は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド34は無端で走行する。流延バンド34は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/分〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ32,33に伝熱媒体循環装置63が取り付けられていることが好ましい。流延バンド34は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ32,33内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ32,33の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
【0041】
流延バンド34の幅は特に限定されるものではないが、ドープ22の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド34は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド34の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0042】
なお、回転ローラ32,33を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。この場合には、回転ローラ32,33の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド34や回転ローラ32,33)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0043】
流延ダイ31、流延バンド34などは流延室64に収められている。流延室64には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備65と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)66とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置67が流延室64の外部に設けられている。また、流延ダイ31から流延バンド34にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ68が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0044】
流延膜69中の溶媒を蒸発させるため送風口70,71,72が流延バンド34の周面近くに設けられている。また、流延直後の流延膜69に乾燥風が吹き付けられることによる流延膜69の面状変動を抑制するため流延ダイ31近傍の送風口70には遮風板73が設けられていることが好ましい。
【0045】
また、流延室64内の圧力及び温度をオンラインで測定するオンライン圧力計(以下、圧力計と称する)とオンライン温度計(以下、温度計と称する)とが設けられている。そしてこれら圧力計と温度計とは図示しないコントローラに接続されている。そして、圧力計,温度計で測定される圧力値及び温度はオンラインでコントローラに送信される。圧力計,温度計は特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができるが、圧力計には差圧計が、温度計には熱電対が用いられることが好ましい。
【0046】
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機35の下流の耳切装置40には、切り取られたフィルム82の側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ90が接続されている。またテンタ式乾燥機35にも圧力計と温度計とが設けられており、測定される圧力値及び温度はオンラインでコントローラに送信される。なお、テンタ式乾燥機35の形態は後に詳細に説明する。
【0047】
乾燥室41には、多数のローラ91が備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置92が取り付けられている。そして、図1においては、乾燥室41の下流に冷却室42が設けられているが、乾燥室41と冷却室42との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。冷却室42の下流には、フィルム82の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)93が設けられている。図1においては、強制除電装置93は、冷却室42の下流側とされている例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フィルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ94が強制除電装置93の下流に適宜設けられる。また、巻取室43の内部には、フィルム82を巻き取るための巻取ローラ95と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ96とが備えられている。
【0048】
次に、以上のようなフィルム製造ライン20を使用してフィルム82を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ22は、攪拌機61の回転により常に均一化されている。ドープ22には、この攪拌の際にも可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤を混合させることもできる。
【0049】
ドープ22は、ポンプ62により濾過装置30に送られてここで濾過された後に、流延ダイ31から流延バンド34上に流延される。回転ローラ32,33の駆動は、流延バンド34に生じるテンションが10N/m〜10N/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド34と回転ローラ32,33との相対速度差は、0.01m/min以下となるように調整する。流延バンド34の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド34が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド34の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき流延バンド34の位置制御機(図示しない)にフィードバック制御を行い、流延バンド34の位置の調整を行うことがより好ましい。さらに、流延ダイ31直下における流延バンド34について、回転ローラ33の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室64の温度は、温調設備65により−10℃〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室64の内部で蒸発した溶媒は回収装置67により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0050】
流延ダイ31から流延バンド34にかけては流延ビードが形成され、流延バンド34上には流延膜69が形成される。流延時のドープ22の温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャンバ68により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−2000Pa〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ68にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、用いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために流延ダイ31のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲であることが好ましい。
【0051】
流延膜69は、流延バンド34の走行とともに移動し、このときに送風口70,71,72により流延膜69に乾燥風があてられて溶媒の蒸発が促進される。そして、この乾燥風の吹き付けにより流延膜69の面状が変動することがあるが、遮風板73がこの変動を抑制している。なお、流延バンド34の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。また、流延室64内の圧力は圧力計で測定される。圧力値は0.09MPa(絶対圧力)〜0.105MPaの範囲とする。また流延室64内の温度は温度計で測定される。温度は、10℃〜50℃の範囲とする。これら値を保持するためにコントローラから温調設備65の温度制御,送風口70,71,72からの送風温度,送風風量などを適宜コントロールする。
【0052】
流延膜69は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム74として剥取ローラ75で支持されながら流延バンド34から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20質量%〜250質量%であることが好ましい。その後に多数のローラが設けられている渡り部80を搬送させて、テンタ式乾燥機35に湿潤フィルム74を送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム74の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部80では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム74にドローテンションを付与させることも可能である。
【0053】
テンタ式乾燥機35に送られている湿潤フィルム74は、その両端部がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。また、テンタ式乾燥機35の内部を複数の区画の温度ゾーンに分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。テンタ式乾燥機35を用いて湿潤フィルム74を幅方向に延伸させることも可能である。このように、渡り部80及び/またはテンタ式乾燥機35で湿潤フィルム74の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。なお、テンタ式乾燥機35の形態は後に詳細に説明する。
【0054】
湿潤フィルム74は、テンタ式乾燥機35で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フィルム82として下流側に送り出される。フィルム82の両側端部は、耳切装置40によりその両縁が切断される。切断された側端部は、図示しないカッターブロワによりクラッシャ90に送られる。クラッシャ90により、フィルム側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。なお、このフィルム両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0055】
両側端部を切断除去されたフィルム82は、乾燥室41に送られ、さらに乾燥される。乾燥室41内の温度は、特に限定されるものではないが、50℃〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室41においては、フィルム82は、ローラ91に巻き掛けられながら搬送されており、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置92により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室41の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室41は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置40と乾燥室41との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム82を予備乾燥すると、乾燥室41においてフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、これによりフィルム82の形状変化をより抑制することができる。
【0056】
フィルム82は、冷却室42で略室温まで冷却される。なお、乾燥室41と冷却室42との間に調湿室(図示しない)を設けても良く、この調湿室でフィルム82に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フィルム82のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0057】
また、強制除電装置93により、フィルム82が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。図1では冷却室42の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ94を設けて、フィルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0058】
最後に、フィルム82を巻取室43内の巻取ローラ95で巻き取る。この際には、プレスローラ96で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム82は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム82の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルム82の厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0059】
テンタ式乾燥機35について図2を用いて説明する。テンタ式乾燥機35は、右レール101と左レール102と、これらレール101,102に案内されるエンドレスチェーン(無端チェーン)103,104とチェーン駆動部105とから構成されている。エンドレスチェーン103,104には湿潤フィルム74の両縁を把持するフィルムクリップ106が所定のピッチで多数取り付けられている(図2では、説明のため、それらの一部を図示している)。フィルムクリップ106は、湿潤フィルム74の側端部を把持しながら、各レール101,102に沿って移動する。これにより、湿潤フィルム74は入口107から入り、幅方向に延伸されながら、図示しない乾燥機により乾燥される。そして、延伸後のフィルム82は出口108から送り出される。
【0060】
本発明において、湿潤フィルム74からフィルム82への幅方向の延伸率は、1.1倍以上1.5倍以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上1.4倍以下である。幅方向の延伸率を上記の範囲内にすることにより、エンドレスチェーンの伸びが抑制される。したがって、湿潤フィルムを延伸する際にその延伸の変動が少なくなり、延伸方向に対する遅相軸のズレが少なくなる。これにより、フィルムの軸角度のバラツキが抑制される。
【0061】
エンドレスチェーン103,104は原動スプロケット110,111及び従動スプロケット112,113との間に掛け渡されている。エンドレスチェーン103は右レール101、エンドレスチェーン104は左レール102に案内される。原動スプロケット110,111は入口107側に設けられており、これらはチェーン駆動部105のモータ114,ギア列115により回転駆動される。また、従動スプロケット112,113は出口108側に設けられている。
【0062】
エンドレスチェーン103,104は、図3(b)に示すように多数の内リンク120と外リンク130とが連結されて構成されている。図3(a)には、内リンク120の平面図を示す。内リンク120は、内プレート121,122の間にローラ123,124が配置されている。ローラ123,124のピン接触面123a,124aには、本発明に係る樹脂製ドライベアリング125,126,127,128が組み込まれている。なお、樹脂製ドライベアリング125〜128の取り付け形態は図示したものに限定されるものではない。例えば、ローラ123,124の両端部にドライベアリング125〜128を用いた分断タイプの代わりに、1個の連続したタイプのドライベアリングを用いてもよい。
【0063】
前記樹脂製ドライベアリング125〜128の耐圧強度は300MPa以上であり、この耐圧強度は高ければ高いほど好ましい。本発明において耐圧強度とは、ASTMD695の樹脂の圧縮強度の既定による方法で算出される値を用いる。
【0064】
前記樹脂製ドライベアリング125〜128の樹脂は、特に限定されるものではない。しかしながら、フッ素系樹脂又はポリエーテルエーテルケトンを用いることが好ましい。なお、フッ素系樹脂は特に限定されるものではないが、ポリ四フッ化エチレン,ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂,四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体,エチレン四フッ化エチレン共重合体,ポリフッ化ビニリデン,ポリクロロ三フッ化エチレンまたはポリフッ化ビニルなどが好ましく用いられる。
【0065】
前記樹脂製ドライベアリング125〜128の寸法誤差が、その内径に対して0.2%以内であることが好ましく、この寸法誤差は少ないほどよい。樹脂製ドライベアリング125〜128の寸法誤差を0.2%以内とすることにより、エンドレスチェーン103,104の搬送のムラが減少する。これにより、湿潤フィルム74を幅方向に延伸する際の延伸倍率の精度が上がり、得られるフィルム82の光学特性の品質が上昇する。
【0066】
外リンク130は、外プレート131,132及びピン133から構成される。ピン133が内リンク120のローラ124内に挿入されて、他方の外プレート132に接合されることで固定される。
【0067】
このときに樹脂製ドライベアリング127,128(樹脂製ドライベアリング125,126も同様である。)にかかる面圧を2MPa以上8MPa以下とすることが好ましく、より好ましくは3MPa以上7MPa以下であり、最も好ましくは4MPa以上6MPa以下である。面圧が2MPa未満であると、湿潤フィルム74(又はフィルム82)の搬送速度にムラが生じる場合がある。また、面圧が8MPaを超えると樹脂製ドライベアリングの磨耗が進み、メンテナンスに過大な負荷が生じるおそれがある。そして、面圧が3MPa以上7MPa以下の範囲、さらには面圧が4MPa以上6MPa以下の範囲のように、その範囲を狭めていくと、搬送速度ムラの発生率が低下するとともに、メンテナンス負荷が軽減され、且つこれらのバランスが取れて、より一層適した状態になる。なお、本発明において、樹脂製ドライベアリングにかかる面圧は、シリンダの油圧測定法によりチェーンテンションを求め、このチェーンテンションをドライベアリング接触部の面積で割ったものを用いている。
【0068】
前記樹脂製ドライベアリング125〜128にかかる面圧変動は5%以下に抑制することが好ましく、より好ましくは3%以下である。また、面圧変動の抑制は公知の方法で行うことができる。例えば、スプロケット110〜113に鋼製,鋳鉄製を用い、歯数を17枚以上の奇数のものを用いることにより面圧変動の抑制が可能である。さらには、チェーン駆動部105を構成するモータ114,ギア列115に精度が高いものを用いることにより面圧変動が抑制される。
【0069】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0070】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用することができる。
【0071】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0072】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0073】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0074】
さらに前記セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0075】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m 〜1000mg/m含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用することができる。
【0076】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。これらは、本発明にも適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。
【0077】
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフィルム(TACフィルム)を得ることができる。前記TACフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例】
【0078】
以上、本発明に係る溶液製膜方法を実施例として行った。エンドレスチェーン103,104に使用する樹脂製ドライベアリング125〜128には、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)系ドライベアリング(大同メタル製DDU01)で耐圧強度が下記表1のものを用い、その面圧(測定法;テンショク/接触面積)を表1に示す値にして、テンタ式乾燥機35を1年間使用した後に、得られたフィルム82の軸角度バラツキ(°/1000m)を表1に示す。軸角度バラツキは、自動複屈折計(KOBRA21DH(王子計測(株))にて、フィルム82を長さ方向で10mおきに、幅方向で等間隔に7点の軸角度を測定して、その平均値を求め、平均値のバラツキを評価した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から判るように、耐圧強度が500MPaでその面圧を5MPaとした実施例1では、軸角度バラツキが±0.2°/1000mであり、光学フィルムとしての評価は「〇」であった。また、耐圧強度が400MPaでその面圧を5MPaとした実施例2では軸角度バラツキが±0.3°/1000mであり、光学フィルムとしての評価は「〇」であった。また、耐圧強度が300MPaでその面圧を5MPaとした実施例3では軸角度バラツキが±0.5°/1000mであり、光学フィルムとしての評価は「〇」であった。これに対して、耐圧強度が400MPaでその面圧を10MPaとした比較例1では、軸角度バラツキが±0.6°/1000mであり、軸角度バラツキがやや大きくなり、対象とする製品によって使用不可となる可能性があり、評価は「△」であった。また、耐圧強度が200MPaでその面圧を5MPaとした比較例2では、軸角度バラツキが±2°/1000mとなり、使用不可であり、評価は「×」であった。同様に、耐圧強度が200MPaでその面圧を10Mpとした比較例3では、軸角度バラツキが±5°/1000mとなり、使用不可であり、評価は「×」であった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の溶液製膜方法を実施するためのフィルム製造ラインを示す概略図である。
【図2】本発明のフィルム製造ラインで用いるテンタ式乾燥機の概略図である。
【図3】テンタ式乾燥機のエンドレスチェーンのリンクを示す概略図である。
【符号の説明】
【0082】
20 フィルム製造ライン
35 テンタ式乾燥機
74 湿潤フィルム
82 フィルム
103,104 エンドレスチェーン
106 フィルムクリップ
120 内リンク
121,122 内プレート
123,124 ローラ
125,126,127,128 樹脂製ドライベアリング
130 外リンク
131,132 外プレート
133 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ってテンタ式乾燥機に送り、無端チェーンに取り付けたクリップにより前記湿潤フィルムの側縁部を把持して搬送する間に、前記湿潤フィルムに乾燥風を吹き付けてフィルムとする溶液製膜方法において、
前記無端チェーンを構成する各リンクの連結部に、耐圧強度が300MPa以上の樹脂製ドライベアリングを用い、
前記フィルムの幅方向に1.1倍以上1.5倍以下の範囲で前記湿潤フィルムを延伸することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記樹脂製ドライベアリングの樹脂として、フッ素系樹脂又はポリエーテルエーテルケトンを用いることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記フッ素系樹脂が、ポリ四フッ化エチレン,ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂,四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体,エチレン四フッ化エチレン共重合体,ポリフッ化ビニリデン,ポリクロロ三フッ化エチレンまたはポリフッ化ビニルのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記樹脂製ドライベアリングにかかる面圧を2MPa以上8MPa以下とすることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記テンタ式乾燥機で前記湿潤フィルムを搬送する際に、前記樹脂製ドライベアリングにかかる面圧変動を3%以下に抑制することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記樹脂製ドライベアリングの寸法誤差が、内径に対し0.2%以内であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ってテンタ式乾燥機に送り、無端チェーンに取り付けたクリップにより前記湿潤フィルムの側縁部を把持して搬送する間に、前記湿潤フィルムに乾燥風を吹き付けてフィルムとする溶液製膜設備において、
前記無端チェーンを構成する各リンクの連結部に、耐圧強度が300MPa以上の樹脂製ドライベアリングを用い、
前記フィルムの幅方向に1.1倍以上1.5倍以下の範囲で前記湿潤フィルムを延伸することを特徴とする溶液製膜設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−245643(P2007−245643A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75145(P2006−75145)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】