説明

溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂からなるピストンリング

【課題】溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなり、耐熱性、摩擦磨耗特性、シール特性が良好であるピストンリングを得る。また、得られたピストンリングは、ポリイミド樹脂本来の特性である、耐薬品性、耐久性、優れた機械特性などを併せもつ、優れたピストンリングを提供する。
【解決手段】溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂と炭素繊維からなる樹脂組成物に対し、特定量のフッ素樹脂及び黒鉛、オイル、および二硫化モリブデンからなる潤滑材を少なくとも1成分を含有することを特徴とする熱可塑性ポリイミド樹脂を成形してピストンリング2を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなり、耐熱性、シール特性が良好であるピストンリングに関し、かつ該樹脂組成物を用いることで、製造コストが著しく安価なピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングは、自動車部品、事務機器部品、コンプレッサー部品その他の摺動シール材に用いられている。その性能は、摩擦磨耗特性(自材の磨耗及び相手材の磨耗に対する特性)に優れ、かつシール性に優れていることである。ピストンリングは、通常、ピストン及びシリンダーの間に取り付けられており、金属を特殊処理した材質ものが多数使用されている。
【0003】
近年、燃焼率向上、エネルギー効率の観点からピストンリングのシール性向上が着目されているが、従来の金属材料では弾性率が高く柔軟性に劣るためにシール性をより向上させることに限界が生じている。
【0004】
シール性を向上させる手法として、樹脂製のピストンリングを用いることが、特開平11−336900公報(特許文献1)に記載されている。しかしながら、従来の熱可塑性樹脂では、自動車エンジンの内燃機関に代表されるように耐熱摺動を必要とする部品のシール部分に多く使用され、耐熱性が不足しているために、ピストンリングの材料としては、満足のいくものではなかった。
【0005】
一方で、熱硬化樹脂は、耐熱性に優れるが、溶融成形加工が出来ないために、ピストンリングに求められるような複雑な形状に対応できない問題が有り、耐熱性と溶融成形性を両立可能な樹脂材料が無かった。
【特許文献1】特開平11年336900公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなり、耐熱性、摩擦磨耗特性、シール特性が良好であるピストンリングを得ることにある。また、得られたピストンリングは、ポリイミド樹脂本来の特性である、耐薬品性、耐久性、優れた機械特性などを併せもつ、優れたピストンリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のピストンリングは、溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂と炭素繊維からなる樹脂組成物に対し特定量の潤滑材を含有することによって提供される。具体的には以下の[1]〜[5]の記載により提供される。
[1] 溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂50〜99重量部と炭素繊維50〜1重量部からなる樹脂組成物100重量部に対し、フッ素樹脂、グラファイト、オイル、および二硫化モリブデンからなる潤滑材を少なくとも1成分を総量0.5〜50重量部含有する熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなることを特徴とするピストンリング。
[2] 熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(1)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である前記[1]記載のピストンリング。
【0008】
【化1】

【0009】
(化学式(1)において、Xは直接結合、−SO−、−CO―、−C(CH−、−C(CF−、または−S―であり、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ水素原子、アルキル基、アルコシキ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン原子であり、またYは、下記化学式(2)からなる群より選ばれる基である。)
【0010】
【化2】

【0011】
[3] 熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(3)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である前記[1]記載のピストンリング。
【0012】
【化3】

【0013】
[4] 熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(4)および化学式(5)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド共重合体樹脂である前記[1]記載のピストンリング。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
(ただし、化学式(4)中のmおよび化学式(5)中のnは、ポリイミド共重合体の共重合比を示し、m/n=4から99(モル%/モル%)の範囲である。)
[5] 熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(6)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である前記[1]記載のピストンリング。
【0017】
【化6】

【発明の効果】
【0018】
溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂と炭素繊維とからなる樹脂組成物に対し、特定量のフッ素樹脂及びグラファイト、オイル、および二硫化モリブデンからなる潤滑材を少なくとも1成分を含有する熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなるピストンリングは、耐熱性、自材及び相手材の磨耗が著しく少ないという摩擦磨耗特性、およびシール性で優れているので、自動車分野を代表例とする様々な分野の内燃機関で使用されるシール目的のピストンリングとして極めて有用であり、かつ様々な応用用途が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[熱可塑性ポリイミド樹脂]
本発明における溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂とは、加重たわみ温度200℃以上を有するポリイミド樹脂のことである。
【0020】
本発明において用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂の対数粘度は特に限定されないが、一般的には0.35〜1.30dl/g、より好ましくは0.40〜1.20の範囲が好ましい。対数粘度が0.35dl/g未満になると、熱可塑性ポリイミド樹脂の分子量が小さく、機械強度に劣る。また、対数粘度が1.30dl/g以上のものは、熱可塑性ポリイミド樹脂の分子量が大きすぎ、成形体を射出成形や押出成形によって製造するための流動性に難が生じる。
【0021】
本発明におけるポリマーの対数粘度の測定は、パラクロロフェノール/フェノール(90/10重量比)の混合溶媒中、濃度0.5g/100mlの溶媒で200℃に加熱した後、35℃に冷却して測定される。対数粘度については、‘高分子ハンドブック’朝倉書店出版、日本分析化学学会片1995年度初版P58にその定義が記載されている。
【0022】
本発明において、溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂とは、上記条件を満たせば特に限定されないが、好ましい例として、上記の化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)、化学式(4)と化学式(5)とで表される共重合体、および化学式(6)で表される5種の熱可塑性ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0023】
上記の化学式(1)〜(6)で表される5種の熱可塑性ポリイミド樹脂は、それらの構造式に示されている相当する芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物とを原料として、有機溶媒の存在下または非存在下で反応させ、得られたポリアミド酸を化学式にまたは熱的にイミド化して製造できる。これらの具体的製造方法は、公知であるポリイミドの製造方法の条件をすべて利用することができる。
【0024】
化学式(1)で表される熱可塑性ポリイミド樹脂を取上げて、より具体的に説明すると、下記化学式(7)の芳香族ジアミン化合物と下記化学式(8)の芳香族テトラカルボン酸二無水物とを原料として用いる。
【0025】
【化7】

【0026】
(化学式(7)において、X、およびR1〜R4は前記同様である。)
【0027】
【化8】

【0028】
(化学式(8)において、Yは前記同様である。)
化学式(1)及び(7)中、R1、R2、R3、R4の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基、フルオロメトキシ基などのハロゲン化アルコキシ基、塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。好ましくは、水素原子である。
【0029】
化学式(1)及び(8)中、Yは、式(2)で表される4価の芳香族基であり、好ましくはベンゼン環であり、その場合、化学式(8)の芳香族テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物である。
【0030】
本発明において、好ましく用いられる溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂は、上記の化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)、化学式(4)と化学式(5)とで表される共重合体、および化学式(6)で表される5種である。
【0031】
本発明において、好ましく用いられる溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂5種を製造するに際し、本発明の課題を害さない範囲で、原料となる他の芳香族ジアミン化合物や芳香族テトラカルボン酸二無水物を一種または複数を組み合わせて用いて共重合化することができる。
【0032】
また、本発明で好ましく用いられる溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂同士、または他のポリイミド樹脂を用いて、本発明の課題を害さない範囲で任意にポリマーブレンドして用いても良い。
【0033】
本発明において、好ましく用いられる溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂5種の中で、特記すべきことは以下の通りである。
【0034】
化学式(3)のポリイミド樹脂は、三井化学株式会社製:商品名AURUM(登録商標)として購入可能である。
【0035】
化学式(4)と化学式(5)とで表されるポリイミド共重合体樹脂において、共重合比であるm/nは、4から99(モル%/モル%)の範囲であるが、より好ましくは5から99(モル%/モル%)、更に好ましくは6から99(モル%/モル%)である。
【0036】
[炭素繊維]
本発明に用いられる炭素繊維は、原料/製造方法により分類すると、レーヨン系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、気相成長炭素繊維(VGCF)などが挙げられる。好ましくは、レーヨン系、PAN系、ピッチ系が挙げられる。炭素繊維の使用量は、熱可塑性ポリイミド樹脂と炭素繊維との合計量100重量部中に50〜1重量部である。その量より上回ると、摺動時に樹脂組成物中の炭素繊維が相手金属を著しく磨耗させ好ましくない。好ましくは、40〜1重量部である。
【0037】
[フッ素樹脂]
本発明に用いられるフッ素樹脂は、次の(a)〜(f)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
(a)分子内に、化学式−(CFCF)−で表される繰り返し構造単位を有する4フッ化エチレン樹脂。
(b)分子内に、化学式−(CFCF)−および、化学式−〔CF(CF)CF〕−で表される繰り返し構造単位を有する4フッ化エチレン樹脂―六フッ化プロピレン共重合樹脂。
(c)分子内に、化学式−(CFCF)及び化学式−〔CF(OCF2m+1)CF〕 (式中、mは正の整数)で表される繰り返し構造単位を有する4フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂。
(d)分子内に、化学式−(CFCF)−および化学式−(CHCH)−で表される繰り返し構造単位を有する4フッ化エチレンーエチレン共重合樹脂。
(e)分子内に、化学式 −(CHCH)− および 化学式 −(CFClCF)−で表される繰り返し構造単位を有する3フッ化塩化エチレン−エチレン共重合樹脂。
(f)分子内に、化学式−(CFCH)−で表される繰り返し構造単位を有するフッ化ビニリデン樹脂。
【0038】
[グラファイト]
本発明に用いられるグラファイトは、原料/製造方法により分類すると、人造黒鉛、天然黒鉛(鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛)が挙げられるが、特に制限なく、いずれも使用することができる。但し、本発明に用いられるグラファイトは、炭素の純度が高いものが好ましく、固定炭素の純度が95%以上のものがより好ましい。
【0039】
[オイル]
本発明に用いられるオイルは、熱重量減量測定(DTA−TG)において、300℃における熱重量減量が10重量%以下である耐熱性の優れたオイルが好ましく用いられる。上記を満足する優れた耐熱性を有すれば、オイルの種類に特に制限はないが、好ましい具体例は、シリコンオイル、パーフルオロポリエーテル油、フェニルエーテル油、フッ素系オイルが挙げられる。但し、これからのオイルは、耐熱性の優れたオイルであることが当然であるが、本樹脂組成物の増粘を促進しないものであることも条件である。耐熱性の劣るオイルを使用すると、オイルの分解により発生するガスボイドが成形品内に残存し、その結果、磨耗特性等の特性に悪影響を及ぼす。
【0040】
[二硫化モリブデン]
本発明に用いられる二硫化モリブデンは、天然の鉱物を精製し、高純度化した市販品が使用可能である。
【0041】
[潤滑材の量]
本発明において、熱可塑性ポリイミド樹脂と炭素繊維からなるポリイミド樹脂組成物にフッ素樹脂、グラファイト、オイル、および二硫化モリブデンからなる潤滑材を少なくとも1成分を配合することによりポリイミド樹脂本来の柔軟性を発現しつつ、より耐熱性、摩擦磨耗特性に優れたピストンリングが得られる。そしてその特性は、それぞれの最適組成内でないと発現されない。フッ素樹脂、グラファイト、オイル、二硫化モリブデンなどの潤滑材の量は、ポリイミド樹脂と炭素繊維との総量100重量部に対して、0.5〜50重量部である。このましくは0.5〜45重量部、さらに好ましくは0.5〜40重量部である。50重量部を超えると樹脂の磨耗が著しく増大し好ましくない。0.5重量部未満では、摩擦磨耗特性に優れたピストンリングが得らない。
【0042】
[その他の添加材]
本発明のポリイミド樹脂組成物には必要に応じて本樹脂組成物の特性を損なわない範囲内で、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミ繊維、金属繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、アスベスト繊維、ロックウール繊維、アラミド繊維からなる群より少なくとも1種以上を含有してもよい。
【0043】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて、マイカ、ガラスビーズ、クレー、シリカ、アルミナ、ケイソウ、土、水和アルミナ、シラスバルーン、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイトなどの充填剤、あるいは滑剤、離型剤、安定剤、着色剤、結晶核剤、酸化防止剤、老化防止剤など一般的に樹脂に添加して用いられる材料を1種以上含有してもよい。
【0044】
更に、各種種液晶ポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート及び/又はポリフェニレンスルフィドなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を本発明のポリイミド樹脂組成物の特性を損なわない範囲で併用してよい。
【0045】
[ポリイミド樹脂組成物の製法]
本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物の製造は、特に限定されず、公知の製造方法が全て用いることができる。通常、単軸あるいは多軸の押出機を用いて連続的に行っても、混錬ロール、ブラベンダー等のバッチ式方法も実施可能である。加工温度は、用いるポリイミド樹脂の種類によって異なる。すなわち、それらのガラス転移温度や融点より求める、あるいは溶融流動開始する温度をメルトインデックスス計やフローテスターで求めて、その温度を参考するなどにより、更には実際に加工を行いながら、決定することができる。おおむね、ポリイミド樹脂の場合は、380〜440℃である。
【0046】
[ピストンリングの成形]
本発明のピストンリングの成形は、特に限定されず、公知の成形方法が全て用いることができる。通常、主に射出成形により成形加工することによって各種用途に使用が可能である。射出成形によって得られた成形品に切削加工を施し、最終形状に仕上げることで使用することも可能である。その他、押出成形、圧縮成形、及びトランスファー成形等の従来から知られる方法で成形加工することも可能である。成形加工温度は、上記の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物の製造における加工温度と同様である。
【0047】
[実施例]
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例における樹脂組成物の評価は以下の要領で実施した。
1)磨耗量(自材の磨耗量、相手材の磨耗量)
鈴木式の摩擦磨耗試験に準じ、相手材としてFC材(FCD45)を用い、室温下、オイル中(エンジンオイル)、6時間後の磨耗量を測定した。面圧は3MPa、速度は250m/minにて行った。
2)摩擦係数
鈴木式の摩擦磨耗試験に準じ、相手材としてFC材(FCD45)を用い、室温下、オイル中(エンジンオイル)、6時間後の磨摩擦係数を求めた。この時の、面圧は3MPa、速度は250m/minにて行った。
3)限界PV値
鈴木式の摩擦磨耗試験に準じ、相手材としてFC材(FCD45)を用い、室温下、速度(V)250m/min、オイル中(エンジンオイル)、6時間試験を行い樹脂組成物が座屈しない上限の面圧(P)を求め、そのときのP×V[(MPa)×(m/min)]の値を求めた。
4)オイル漏れ量(シール性)
直径52mmの熱可塑性ポリイミド樹脂ピストンリング(幅2.3mm、厚さ2.3mm、合い口0.3mm)をFC材(鋳鉄 FCD45)製ピストン、FC材(鋳鉄 FCD45)製ハウジングで構成された往復運動部分に装着し、オイルとしてトヨタ純正エンジンオイルを用い、2MPaの油圧と、ピストンストローク 100mm、2000rpmの往復運動を与え、100時間連続して試験を実施した。オイル温度は、120℃であった。100時間後のリング磨耗量(側面、外周面、軸溝)、ハウジング磨耗量を測定した。オイル漏れ量は80時間〜100時間の間のオイル漏れ量より、1分間あたりの漏れ量(cc/min)を算出した。オイル漏れ量を計測することによりピストンリングのシール性が把握可能である。
【0048】
[実施例1〜5]
化学式(3)の熱可塑性ポリイミド樹脂(三井化学(株)社製、商品名オーラム(登録商標)PD450)とフッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)を表1に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後、2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表1に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例6]
潤滑材としてフッ素樹脂の替わりにオイル(信越化学 シリコンオイル KF965−100)を用いる以外は、実施例1〜5と同様な方法によって行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例7]
潤滑材としてフッ素樹脂の替わりにグラファイト(日本黒鉛 ACP)を用いる以外は、実施例1〜5と同様な方法によって行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例8]
潤滑材としてフッ素樹脂の替わりに市販されている二硫化モリブデンを用いる以外は、実施例1〜5と同様な方法によって行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例9]
表1の実施例9に示す組成物を用い、かつ炭素繊維としてピッチ系炭素繊維(クレハ化学社製:M107)を用いる以外は実施例1〜5と同様な方法によって行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例10]
表1の実施例10に示す組成物を用い、かつフッ素樹脂としてフッ素樹脂(ダイキン工業社製:ルブロンL−5)を用いる以外は実施例1〜5と同様な方法によって行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例11〜15]
化学式(4)および(5)で示される熱可塑性ポリイミド共重合体樹脂(三井化学(株)社製、商品名オーラム(登録商標)PD500A)とフッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)表2に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表2に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
[実施例16〜20]
芳香族ジアミン化合物として1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、芳香族テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を原料とし、得られたポリアミド酸を熱的に熱的にイミド化して、化学式(6)の熱可塑性ポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド粉の対数粘度(ηinh)は、0.9dl/gであった。この化学式(6)である熱可塑性ポリイミド樹脂とフッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)表3に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表3に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
[比較例1〜3]
化学式(3)の熱可塑性ポリイミド樹脂(三井化学(株)社製、商品名オーラム(登録商標)PD450)と フッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)表4に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表4に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
[比較例4〜6]
化学式(4)および(5)で示される熱可塑性ポリイミド共重合体樹脂(三井化学(株)社製、商品名オーラム(登録商標)PD500A、m/n=9)とフッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)表5に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表5に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
[比較例7〜9]
芳香族ジアミン化合物として1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、芳香族テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を原料とし、得られたポリアミド酸を熱的に熱的にイミド化して、化学構造式が(6)の熱可塑性ポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド粉の対数粘度(ηinh)は、0.9dl/gであった。この化学構造式が(6)である熱可塑性ポリイミド樹脂とフッ素樹脂(旭硝子フロロポリマーズ(株)社製、商品名アフロンPTFE L−180)表6に示すような割合でミキサーを用いてドライブレンドし、その後2軸押出機を用いてPAN系炭素繊維(東邦テナックス(株)社製、商品名ベスファイトHTA−C6−UH)表6に示すような割合でサイドフィーダーより供給し400〜420℃で押出して造粒し、得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度400〜420℃、射出圧力230MPa、金型温度190℃)に供給し、前述した各試験法に定められた試験片を成形した。結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を成形してなるピストンリングは、自材及び相手材の磨耗が著しく少ない摩擦磨耗特性、およびシール性も優れているので極めて有用であり、様々な分野のシール目的のピストンリングとして応用が可能である。また、本発明のピストンリングは、高圧、高速の条件でも使用可能で、使用時のシール性がFC材などの金属材料と比較し著しく改良され、さらには、ピストン本体に組み付ける際のかじり及び変形がなく実用的である。更には、本ピストンリングは、実使用前(組み付け前)に熱処理すると効果的で、熱処理により結晶化度の上昇や寸法安定化などの効果が期待できる。
【0066】
上記の優れた特性を有する本発明のピストンリングは、具体的に例えば、自動車部品では、エンジン内のピストンリング、過給機(ターボ)、エアーコンプレッサー、ABS、ESC、オイルポンプなどのシールを目的としたシール材料、産業用では、空気、窒素、水素などの各種気体圧縮用コンプレッサーのピストンリングや建築機械のダンパー用のウェアーリングなどに用いる事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、実施例のおけるシール性(オイル漏れ量)の評価に対する評価装置の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1:FCD45製ピストン(往復部)
2:ピストンリング
3:FCD45製ハウジング
4:油圧計
5:オイル供給管
6:オイルポンプ
7:オイルバス
8:オイル漏れ量測定用バルブ
9:オイル漏れ量測定用オイル排出管
10:メスシリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂50〜99重量部と炭素繊維50〜1重量部からなる樹脂組成物100重量部に対し、フッ素樹脂、グラファイト、オイル、および二硫化モリブデンからなる潤滑材を少なくとも1成分を総量0.5〜50重量部含有する熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を溶融成形してなることを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(1)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である請求項1記載のピストンリング。
【化1】

(化学式(1)において、Xは直接結合、−SO−、−CO―、−C(CH−、−C(CF−、または−S―であり、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ水素原子、アルキル基、アルコシキ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン原子であり、またYは、下記化学式(2)からなる群より選ばれる基である。)
【化2】

【請求項3】
熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(3)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である請求項1記載のピストンリング。
【化3】

【請求項4】
熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(4)および化学式(5)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド共重合体樹脂である請求項1記載のピストンリング。
【化4】

【化5】

(ただし、化学式(4)中のmおよび化学式(5)中のnは、ポリイミド共重合体の共重合比を示し、m/n=4から99(モル%/モル%)の範囲である。)
【請求項5】
熱可塑性ポリイミド樹脂が、化学式(6)の繰り返し構造単位を有する溶融成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂である請求項1記載のピストンリング。
【化6】


【図1】
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【公開番号】特開2007−192242(P2007−192242A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8215(P2006−8215)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】