説明

溶融炉の監視方法、並びに該溶融炉の測定器具及び監視装置

【課題】炉底耐火物の侵食量とスラグ層及びメタル層の厚さを簡単に且つ正確に測定することができる溶融炉の監視方法、並びに該溶融炉の測定器具及び監視装置を提供する。
【解決手段】長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材からなる測定器具1を用い、測定基準となる時点にて、測定口31から測定器具を垂直方向に挿入し炉底から測定口近傍の基準位置までの距離Hを予め測定しておき、所定時間運転した後、同様にして炉底から基準位置までの距離Hを測定し、これらの測定距離H、Hの差から炉底耐火物の侵食量を算出するとともに、測定器具挿入時、棒状部材を金属薄材で被覆した測定器具を炉底まで挿入し、該金属薄材が溶融して孔部に溶融スラグ或いは溶融メタルが流入した後、該測定器具を引き抜いてスラグ又はメタルが存在する孔部長さを測定することによりスラグ層及びメタル層の厚さを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉の炉底に施工された炉底耐火物の侵食量を測定することができるとともに、スラグ層とメタル層の夫々の厚さを簡単に且つ正確に測定することを可能とした溶融炉の監視方法、並びに該溶融炉の測定器具及び監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却残渣、都市ごみ、或いは産業廃棄物等を溶融処理する溶融炉は、廃棄物の無害化、減容化及び資源化の観点からその必要性が高まりつつある。溶融炉には、重油等を燃料として被処理物を溶融するバーナ式溶融炉や、電気を熱源として被処理物を溶融する電気抵抗式溶融炉及びプラズマ式溶融炉等が知られている。
【0003】
一例として、プラズマ式溶融炉につき図5を参照して説明する。プラズマ式溶融炉50は、炉頂部から垂下される主電極51と、炉底59に配設される炉底電極52とを有し、これらの両電極間に直流電圧53を印加することによりプラズマアークを発生する。そして、投入ホッパ55より炉本体54内に投下された被処理物をプラズマ熱により加熱して溶融する。被処理物は溶融して溶融スラグ56と、これより比重が大である溶融メタル57が炉本体54内に溜まり、出滓口58より排出される。炉本体54内は高温に維持されるため、その内部は耐火材60により形成され、この耐火材60を鋼板製のケーシング63により被覆した構造となっている。炉底の耐火構造は、溶融メタルに接触する内側は侵食に強いアーチ状レンガ61を配設し、このレンガ61とケーシング63の間に耐火レンガ62を配設した構成などがある。
【0004】
溶融炉では、炉内から溶融メタルや溶融スラグが漏れ出す可能性があり、水蒸気爆発等の危険性があることから炉底は水冷却しない場合が多い。しかし、自然空冷の場合は冷却が弱く、耐火物がメタルやスラグによって侵食されてしまう。
そこで、溶融炉を安定的に運転するためには、炉底耐火物の侵食を的確に把握し、これに応じた運転計画を立てることが重要となる。従来、炉底耐火物の侵食量を把握する際には、図6に示されるように、休炉時に酸素ランス70によってメタル層57を溶断して炉底レンガ61表面を露出させ、耐火物厚さを測定していた。しかし、メタル層は分厚く硬いため、除去するのに時間がかかるという問題があった。また、メタル除去にランスなどを用いると、炉底レンガ61が損傷することがあり、健全であった耐火レンガ61も交換しなければならないことがある。
【0005】
さらに炉底耐火物の侵食量を監視するための別の方法として、特許文献1(特許第3385831号公報)には、炉の物質収支式、運動量収支式及びエネルギー収支式に基づいて、炉底レンガの温度分布と金属溶融体の流動と温度分布とを算出し、時間の進展に伴う耐火レンガの温度分布を求め、この温度分布に基づいてレンガの損耗を判定するようにした炉底の侵食ラインの推定方法が開示されている。これは、溶融炉の運転中に炉底レンガの侵食を判定する装置であり、炉底レンガの損耗ラインを予測することが可能となっている。
【0006】
また、溶融炉の安定運転に際して必要とされる他の監視項目の一つとして、メタル層とスラグ層の厚さ監視がある。溶融炉の炉底は、図5に示したようにスラグ層とメタル層が積層して貯留された状態となっているが、運転に伴い溶融スラグは随時出滓口からオーバーフローにより炉外に排出され、溶融スラグよりも比重が大きい溶融メタルは炉底下部に貯まり、運転を長時間継続するとメタル層が厚くなり反対にスラグ層の割合が低くなる。スラグ層が薄くなると電源電圧が変動し運転に支障をもたらす惧れがあるため、メタル層が溶融炉の炉底にどの程度溜まっているか運転中に把握する必要がある。そして適切な時期に溶融炉を傾動させてメタル層を排出するようにしている。また溶融メタルには有害な重金属等が含まれており、これらを有効利用するために溶融スラグとは分離して処理する必要があるが、溶融メタルの排出時期を誤ると炉の稼働率に影響する。
【0007】
従来は溶融炉の運転者の経験により溶融メタルの排出を行っていたが、運転者の経験値に依存せず正確に傾動操作等の運転管理を行なうために、メタル層或いはスラグ層厚さを正確に計測するための技術が種々提案、実用化されている。例えば、特許文献2(特開平7−146167号公報)に記載されるように棒状体を挿入して浮力による見かけ比重の変化率からスラグ層厚さ及びメタル層厚さを求める方法、或いは電圧変動が著しくなったことでスラグ層が浅くなったことを検知する方法、或いはスラグ面やメタル面と炉底の電位差から検知する方法等が挙げられる。
【0008】
【特許文献1】特許第3385831号公報
【特許文献2】特開平7−146167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、溶融炉を安定運転するためには、炉底耐火物の侵食量を正確に把握するとともにスラグ層の厚さ及びメタル層の厚さ(スラグ層とメタル層の比率)を正確に把握する必要がある。
しかしながら、炉底耐火物の侵食量測定において、特許文献1に記載される方法は計算が煩雑であり、また誤差が計算結果に与える影響が大きくなる場合が考えられ、正確に且つ簡単に侵食量を計算することは困難であった。また、メタルを溶断して直接的に炉底耐火物厚さを測定する方法では正確な計測が可能であるが、一旦溶融炉の運転を停止してスラグ層及びメタル層を冷却しなければならず、運転を継続的に行なうことができないという問題があった。
【0010】
一方、メタル層厚さ及びスラグ層厚さの計測において、特許文献2に記載される方法では棒状体を溶融炉内に入れて浮力が測定できるまで、ある程度長く浸漬時間を確保しなければならず棒状体の耐久性に問題があり、また溶融スラグ等から棒状体が受ける浮力も正確に計ることは困難である。さらに、電極の電圧変動や電位差等を用いて電気的にメタル層又はスラグ層厚さを計測する方法では、被処理物の性状によって与えられる影響が大きく、スラグ性状によつて電圧が変化するため正確にメタル層又はスラグ層厚さを計測することは難しかった。
【0011】
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、溶融炉の運転を完全に停止することなく炉底耐火物の侵食量を正確に測定することができ、同時にスラグ層厚さ及びメタル層厚さを簡単に且つ正確に測定することを可能とした溶融炉の監視方法、並びに該溶融炉の測定器具及び監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、溶融炉の炉底耐火物の侵食量を測定するとともに、炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の夫々の厚さを測定する溶融炉の監視方法であって、
長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材からなる測定器具を用い、
前記溶融炉の炉蓋に設けられた測定口から前記測定器具を垂直方向に挿入し、炉底から測定口近傍の基準位置までの距離Hを該測定器具により予め測定しておき、
前記溶融炉を所定時間運転した後、同様にして前記測定器具により炉底から前記基準位置までの距離Hを測定し、前記測定した距離H、Hの差から炉底耐火物の侵食量を算出するとともに、
前記所定時間運転した後の測定器具挿入時に、前記棒状部材を金属薄材で被覆した測定器具を炉底まで挿入するようにし、該金属薄材が溶融して前記孔部に溶融スラグ又は溶融メタルが流入した後該測定器具を引き抜き、スラグ又はメタルが存在する孔部の長さを測定することによりスラグ層及びメタル層の厚さを求めることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材からなる測定器具を用いることにより、炉底耐火物の侵食量と、スラグ層厚さ及びメタル層厚さとを同時に測定することが可能で、且つ簡単な装置構成で以ってこれらを正確に測定することが可能となる。延いては、これらの測定データを用いて適切な運転計画の立案、修正が可能となり、安定した溶融炉の運転が可能となる。
【0014】
即ち、炉底耐火物の侵食量測定基準となる時点と、所定時間運転した後にて、炉底から測定口近傍の基準位置までの距離を測定器具により相対的に測定し、これらの距離の差を求めることにより簡単に且つ正確に炉底耐火物の侵食量を把握することが可能となる。
また、測定器具に複数の孔部を形成したことにより、スラグ層及びメタル層に挿入した際に該孔部に溶融スラグ又は溶融メタルが流入し、該測定器具を引き抜いた後、孔部に残存するスラグ又はメタルの距離を測定するのみでスラグ層厚さ及びメタル層厚さを測定することができるため、簡単に且つ正確にこれらの層厚さを把握することが可能となる。
さらに本発明では、炉内が溶融状態のまま各種測定を行なうことができるため、溶融炉を停止して炉内が冷却するのを待つ必要がなく、炉内を監視しながら継続的に運転を行なうことができる。
【0015】
上記した発明において、前記所定時間運転した後の測定器具挿入時に、該測定器具を挿入してから引き抜くまでの浸漬時間が、前記金属薄材が溶融又は半溶融する時間以上で、且つ前記棒状部材がその周囲のスラグ層又はメタル層の温度まで昇温する時間未満であることが好ましい。
このように、前記測定器具の浸漬時間を前記金属薄材が溶融又は半溶融する時間以上とすることで、孔部に確実に溶融スラグ又は溶融メタルが流入するようにし、且つ前記棒状部材がその周囲のスラグ層又はメタル層の温度まで昇温する時間未満とすることで、孔部に流入して棒状部材の冷熱の作用により部分的に固化した溶融スラグ又は溶融メタルが再溶融することを防止し、引き上げた後にも確実にメタル又はスラグを孔部に残存させることが可能となる。
【0016】
また、溶融炉の炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の厚さを測定する溶融炉の測定器具であって、
前記測定器具は、長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材を備え、前記メタル層より低い融点を有する金属薄材により該棒状部材を被覆された構造を有し、
該測定器具は、前記溶融炉の炉蓋に設けられた測定口から前記スラグ層及び前記メタル層に対して垂直方向に炉底に到達するまで挿入された後引き抜かれ、前記孔部に流入した同一物質の長尺方向長さを測定することによりスラグ層厚さ及びメタル層厚さを求めることを特徴とする。
これにより、簡単な装置構成で以って炉底耐火物の侵食量とスラグ層厚さ及びメタル層厚さとを同時に且つ正確に測定することが可能である。
【0017】
さらに、前記棒状部材が中空状鋼管であり、前記孔部は該中空状鋼管の中空部に連通していることを特徴とする。
これにより、測定器具を挿入した際に中空部を介して空気が抜けて、溶融スラグ又は溶融メタルが孔部に流入しやすくなる。
【0018】
さらにまた、前記金属薄材がアルミ箔であることを特徴とする。
これにより、アルミ箔の巻き回数によって薄材厚さを容易に調整可能であるとともに、溶融しても環境に無害で且つ低コストとすることが可能である。
【0019】
また、溶融炉の炉底耐火物の侵食量を測定するとともに、炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の夫々の厚さを測定する溶融炉の監視装置であって、
前記スラグ層厚さ及び前記メタル層厚さを測定するための上記した測定器具と、前記溶融炉の炉蓋に設けられ該測定機器を前記スラグ層及び前記メタル層に対して垂直方向に挿入する測定口とを備えるとともに、
前記測定器具は、前記炉底から前記測定口近傍の基準位置までの距離を測定する手段を有し、前記炉底耐火物の侵食量測定基準となる時点における距離Hと、所定時間運転後における距離Hとを比較することにより炉底耐火物の侵食量を求めるようにしたことを特徴とする。
これにより、簡単な装置構成で以って炉底耐火物の侵食量とスラグ層厚さ及びメタル層厚さとを同時に且つ正確に測定することが可能であり、延いては溶融炉の安定的な運転を保障する監視装置を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
以上記載のごとく本発明によれば、簡単な構成で以って、炉底耐火物の侵食量とスラグ層厚さ及びメタル層厚さを同時に且つ正確に測定することができ、これにより安定的な運転を支援することができる溶融炉の監視方法、並びに測定器具及び監視装置を提供することが可能である。
また本発明では、炉内が溶融状態のままで各種測定を行なうことができるため、溶融炉を停止して炉内が冷却するのを待つ必要がなく、炉内を監視しながら継続的に運転を行なうことができる。
【0021】
さらに、前記測定器具が具備する棒状部材を中空状鋼管とし、該中空状鋼管に形成した孔部をその中空部に連通させることにより、測定器具を挿入した際に中空部を介して空気が抜けて、溶融スラグ又は溶融メタルが孔部に流入しやすくなる。
さらにまた、前記測定器具に被膜する金属薄材をアルミ箔とすることにより、アルミ箔の巻き回数によって薄材厚さを容易に調整可能であるとともに、溶融しても環境に無害で且つ低コストとすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1本発明の実施例に係る装置を具備した溶融炉を示す側断面図、図2は本実施例に係る測定器具の棒状部材を示す側面図、図3は該測定器具の挿入前の状態を示す側断面図、図4は該測定器具の挿入後の状態を示す側断面図である。
本実施例では、焼却残渣、都市ごみ、或いは産業廃棄物を溶融処理する溶融炉を対象とし、特に廃棄物を焼却処理後の灰を処理する灰溶融炉に適している。尚、以下の実施例ではプラズマ式溶融炉を例に挙げて説明しているが、限定的な記載がない限り、プラズマ式溶融炉の他にも電気抵抗式溶融炉に適用可能である。
【0023】
図1を参照して、本実施例に係る装置が適用されるプラズマ式溶融炉10につき説明する。
プラズマ式溶融炉10は、炉本体14の炉蓋から主電極11が垂下され、これに対向して炉底から炉底電極12が挿設されている。主電極11は不図示の可動装置により昇降可能で、炉底電極12は炉本体14に固定される。プラズマ式灰溶融炉10では、これらの電極11、12間に直流電源により直流電流を通流して炉内にプラズマアーク24を発生させる。投入ホッパ21より投入された被処理物は、炉壁に設けられた被処理物投入口20より炉内に投下され、プラズマアーク熱及び前記電極間を流れる電流のジュール熱により溶融処理され、溶融スラグ(スラグ層)22として炉底に溜まる。また溶融スラグ22の下部には比重差により溶融メタル(メタル層)23が形成されている。溶融後は、適宜出滓口25より排出される。
炉本体14の側壁及び蓋部の内側は不定形耐火材15で形成され、炉底17には、侵食に強いアーチ状の耐火レンガ18が内側に配設され、その下に耐火レンガ19が配設される。これらの耐火物の外表面は鋼板製のケーシング16で被覆されている。尚、夫々の耐火物の配置、構造は特に上記に限定されない。
【0024】
さらに本実施例では、炉蓋に測定口31を備えるとともに、該測定口31から炉内に挿入され、炉底耐火物18の侵食量、スラグ層厚さ及びメタル層厚さを測定するための測定器具1を備えている。
前記測定口31は、少なくとも前記測定器具1が挿入可能な開口面積を有し、該測定器具1を炉底に向けて垂直方向に挿入できる形状に構成されている。該測定口31は、スラグ層厚さ、メタル層厚さ、或いは炉底耐火物の侵食量の測定が必要となる部位の鉛直上方に設けられ、複数設けられていてもよい。
【0025】
前記測定器具1については、図2乃至図4に具体的な図を示す。
図2及び図3に示すように、該測定器具1は、長尺方向に複数の孔部3が形成された棒状部材2と、該棒状部材2を被覆する金属薄材4とから構成される。
前記棒状部材2の長さは、前記測定口31入口から炉底(炉底耐火物18の上面)までの距離よりも長いものとする。また該棒状部材2は、少なくともスラグ層22よりも融点が高い材料を用いることが好ましい。また該棒状部材2は、中実状であっても中空状であっても構わないが、より好ましくは中空状とする。さらに、該棒状部材2は二重管構造としてもよい。該棒状部材2としては、SGP管等の鋼管が適している。
【0026】
前記棒状部材2の前記孔部3は、一定間隔Dで同一線上に複数形成されている。好適には、長尺方向に対して直角方向に切り込みを入れた目盛り状に形成するとよい。前記棒状部材2が中空管(二重管構造を含む)の場合には、該孔部3は中空部2aに連通するように形成する。
例えば、孔部3間の間隔Dは7〜15mm、好適には10mmとし、図示されるように目盛り状孔部3とした場合、孔部3の深さは3〜5mmとし、中空管の肉厚は1.3〜1.5mmとする。
【0027】
前記金属薄材4は、着脱自在となっており、またその厚さを調整可能とすることが好ましい。該金属薄材4には、メタル層23の融点よりも低い融点を有する材質が用いられ、好適にはアルミ箔等が用いられる。アルミ箔を用いた場合、所定肉厚のアルミ箔を棒状部材2に複数層巻回して薄材厚さを適宜調整するとよい。
【0028】
次に、図1を参照して本実施例における溶融炉10の監視方法につき説明する。ここでいう監視とは、炉底耐火物18の侵食量の測定、スラグ層厚さ及びメタル層厚さの測定を含み、これらを保温運転中或いは休止直後等に測定することによりデータを収集し、運転計画に反映させることにより溶融炉10の安定した運転を可能とする。
炉底耐火物18の侵食量の測定においては、まず前記測定口31の近傍で、耐火物が存在しない固定された位置を基準位置として定めておく。そして、運転開始前或いは保温運転中の侵食量測定基準となる時点において、炉底から前記基準位置までの距離Hを前記測定器具1により予め測定しておく。
本実施例において炉底から基準位置までの距離Hの測定は、炉底耐火物の侵食前と侵食後を相対的に比較するのみであるので、測定器具1を挿入した状態で、前記基準位置に対応する部分に印32をつけておくだけでよい。尚、このとき前記測定器具1は、金属薄材4で被覆されていないものでよい。
【0029】
溶融炉10を所定時間運転した後、炉底耐火物18の侵食量を測定する際には、一旦溶融炉10を保温運転に移行或いは休止し、前記測定口31より前記測定器具1をスラグ層22及びメタル層23に対して垂直に、炉底に到達するまで挿入し上記した方法と同様にして炉底から基準位置までの距離Hを測定する。これは、測定器具1を炉底まで挿入した後、該測定器具1の前記基準位置に対応する部分に印33をつけるだけでよい。
そして、前記測定基準となる時点と前記所定時間運転した後の測定距離H、Hの差、即ち2つの印32、33間の距離が炉底耐火物18の侵食量となる。尚、測定器具1を挿入する際には作業員が手作業により挿入してもよいが、これを引き抜く際には安全性を確保するためにクレーン30により該測定器具1の上端を引き上げるようにする。
【0030】
さらに本実施例では、上記した炉底耐火物18の侵食量測定と同時に、以下の方法によりスラグ層厚さ及びメタル層厚さを測定する。
溶融炉10を所定時間運転した後の前記測定器具1挿入前に、棒状部材2に金属薄材4を被覆しておく。該金属薄材4を被覆した測定器具1を測定口31から炉底に到達するまで挿入すると、前記金属薄材4が溶融又は半溶融して孔部3がスラグ層22或いはメタル層23に露出し、溶融スラグ或いは溶融メタルが該孔部3に流入して棒状部材2の保有する冷熱により部分的に固化する。固化したスラグ又はメタルが再溶融しないうちにクレーン30により測定器具1を引き上げる。このとき、測定器具1を挿入してから引き抜くまでの浸漬時間は、金属薄材4が溶融又は半溶融する時間以上で、且つ棒状部材2が、熱平衡によりその周囲のスラグ層22又はメタル層23の温度まで昇温する時間未満とすることにより、上記した作用が達成され、引き上げた際確実にメタル又はスラグが孔部3に残存することとなる。
【0031】
引き上げた後の測定器具1は、図4のようになる。同図に示されるように、棒状部材2を被覆していた金属薄材4は溶融して無くなり、孔部3にはスラグ220又はメタル230が残存した状態となっている。該孔部3は長尺方向に複数存在するため、同一物質(スラグ又はメタル)が存在する孔部の距離を測定することで、スラグ層22の厚さ或いはメタル層23の厚さを正確に測定することが可能となる。図2に示すように、スラグが流入した孔部3の距離はスラグ層厚さTとなり、メタルが流入した孔部3の距離はメタル層厚さTとなる。
【0032】
本実施例によれば、長尺方向に複数の孔部3が形成された棒状部材2からなる測定器具1を用いることにより、炉底耐火物18の侵食量と、スラグ層厚さ及びメタル層厚さとを同時に測定することが可能で、且つ簡単な装置構成で以って正確にこれらを測定することが可能となる。延いては、これらの測定データを用いて適切な運転計画の立案、修正が可能となり、安定した溶融炉の運転が可能となる。
【0033】
即ち、炉底耐火物18の侵食量測定基準となる時点と、所定時間運転した後にて、炉底から炉蓋(測定口近傍)の基準位置までの距離H、Hを測定器具1により相対的に測定し、これらの距離の差を求めることにより簡単に且つ正確に炉底耐火物18の侵食量を把握することが可能となる。
また、測定器具1に複数の孔部3を形成したことにより、該測定器具1をスラグ層22及びメタル層23に挿入した際に、該孔部3に溶融スラグ又は溶融メタルが流入し、該測定器具1を引き抜いた後孔部3に残存するスラグ又はメタルの距離を測定するのみでスラグ層厚さ及びメタル層厚さを測定することができるため、簡単に且つ正確にこれらの層厚さを把握することが可能となる。
さらに本実施例では、炉内が溶融状態のままで各種測定を行なうことができるため、溶融炉10を停止して炉内が冷却するのを待つ必要がなく、炉内を監視しながら継続的に運転を行なえる。
【0034】
また、前記測定器具1に金属薄材4を被覆することにより、該測定器具1の先端が炉底に到達してから孔部3に溶融スラグ又は溶融メタルが流入するため、該測定器具1を挿入する過程にて溶融スラグが孔部3に流入することがなく、スラグ層とメタル層の境界を明確にし、夫々の層の厚さを正確に測定することが可能となる。
さらに、前記金属薄材4をアルミ箔とすることにより、積層回数によって薄材厚さを容易に調整可能で、また環境に無害で低コストとすることができる。
さらにまた、棒状部材2を中空状として孔部3を中空部2aに連通させることにより、測定器具1を挿入した際に中空部2aを介して空気が抜けて、溶融スラグ又は溶融メタルが孔部3に流入しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、簡単な装置構成で以って、炉底耐火物の侵食量とスラグ厚さ及びメタル厚さを同時に且つ正確に測定することが可能であるため、プラズマ式溶融炉、電気抵抗式溶融炉、バーナ式溶融炉、旋回式溶融炉、反射式溶融炉等の各種溶融炉に好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例に係る装置を具備した溶融炉を示す側断面図である。
【図2】本実施例に係る測定器具を示す側面図である。
【図3】該測定器具の挿入前の状態を示す側断面図である。
【図4】該測定器具の挿入後の状態を示す側断面図である。
【図5】一般的なプラズマ式溶融炉の断面図である。
【図6】従来の耐火物厚さ測定方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
1 測定器具
2 棒状部材
2a 中空部
3 孔部
4 金属薄材
10 溶融炉
11 主電極
12 炉底電極
14 炉本体
16 鉄皮
17 炉底
18、19 炉底耐火物
20 被処理物投入口
22 スラグ層(溶融スラグ)
23 メタル層(溶融メタル)
220 流入スラグ
230 流入メタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉の炉底耐火物の侵食量を測定するとともに、炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の夫々の厚さを測定する溶融炉の監視方法であって、
長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材からなる測定器具を用い、
前記炉底耐火物の侵食量測定基準となる時点にて、前記溶融炉の炉蓋に設けられた測定口から前記測定器具を垂直方向に挿入し、炉底から測定口近傍の基準位置までの距離を該測定器具により予め測定しておき、
前記溶融炉を所定時間運転した後、同様にして前記測定器具により炉底から前記基準位置までの距離を測定し、前記測定基準となる時点と前記所定時間運転した後の測定距離の差から耐火物の侵食量を算出するとともに、
前記所定時間運転した後の測定器具挿入時に、前記棒状部材を金属薄材で被覆した測定器具を炉底まで挿入するようにし、該金属薄材が溶融して前記孔部に溶融スラグ或いは溶融メタルが流入した後、該測定器具を引き抜いてスラグ又はメタルが存在する孔間の長さを測定することによりスラグ層及びメタル層の厚さを求めることを特徴とする溶融炉の監視方法。
【請求項2】
前記所定時間運転した後の測定器具挿入時に、該測定器具を挿入してから引き抜くまでの浸漬時間が、前記金属薄材が溶融又は半溶融する時間以上で、且つ前記棒状部材がその周囲のスラグ層又はメタル層の温度まで昇温する時間未満であることを特徴とする請求項1記載の溶融炉の監視方法。
【請求項3】
溶融炉の炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の厚さを測定する溶融炉の測定器具であって、
前記測定器具は、長尺方向に複数の孔部が形成された棒状部材を備え、前記メタル層より低い融点を有する金属薄材により該棒状部材を被覆した構成を有し、
該測定器具は、前記溶融炉の炉蓋に設けられた測定口から前記スラグ層及び前記メタル層に対して垂直方向に炉底に到達するまで挿入された後引き抜かれ、前記孔部に流入した同一物質の長尺方向長さを測定することによりスラグ層厚さ及びメタル層厚さを求めることを特徴とする溶融炉の測定器具。
【請求項4】
前記棒状部材が中空状鋼管であり、前記孔部は該中空状鋼管の中空部に連通していることを特徴とする請求項3記載の溶融炉の測定器具。
【請求項5】
前記金属薄材がアルミ箔であることを特徴とする請求項3記載の溶融炉の測定器具。
【請求項6】
溶融炉の炉底耐火物の侵食量を測定するとともに、炉底に貯留したスラグ層と該スラグ層下方に貯留したメタル層の夫々の厚さを測定する溶融炉の監視装置であって、
前記スラグ層厚さ及び前記メタル層厚さを測定するための請求項3乃至5の何れかに記載の測定器具と、前記溶融炉の炉蓋に設けられ該測定機器を前記スラグ層及び前記メタル層に対して垂直方向に挿入する測定口とを備えるとともに、
前記測定器具は、前記炉底から前記測定口近傍の基準位置までの距離を測定する手段を有し、前記炉底耐火物の侵食量測定基準となる時点における前記距離と、所定時間運転後における前記距離とを比較することにより炉底耐火物の侵食量を求めるようにしたことを特徴とする溶融炉の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−121754(P2009−121754A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296543(P2007−296543)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】