説明

溶融金属容器のガス吹き込み部構造

【課題】溶融金属容器の底部に配置されるガス吹き込み部において、ガス吹き込み耐火物の寿命を延長することのできる溶融金属容器のガス吹き込み部構造を提供する。
【解決手段】ガス吹き込み耐火物1と、ガス吹き込み耐火物1の外周面に接する羽口耐火物4から構成される溶融金属容器11のガス吹き込み部において、羽口耐火物4の外周に円筒耐火物5を配置し、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に耐火物8を充填する。これにより、ガス吹き込み耐火物の寿命を大幅に延長することが可能となる。特に、ガス吹き込み耐火物1と羽口耐火物4の溶融金属側表面位置が、溶融金属容器の底部耐火物13の溶融金属側表面に対して溶融金属側に突き出ている構造において、円筒耐火物5の溶融金属側表面位置を同じく溶融金属側に突き出た構造とすることにより、本発明の効果を顕著に発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器に受容した溶融金属中にガスを吹き込むためのガス吹き込み部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属を精錬する際、溶融金属容器の底部に配置したガス吹き込み部からガスを吹き込み、溶融金属を攪拌することが行われている。ガス吹き込みによって溶融金属を攪拌し、溶融金属の成分調整及び精錬や清浄化が可能となることが知られている。例えばVAD法やLF(レードル・ファーネス)法においては、取鍋中の溶融金属を加熱するとともに、底部に設置したポーラスプラグ等を通してのアルゴンガス攪拌により溶融金属を攪拌する。取鍋内の溶融金属をアルゴンガス吹き込みで攪拌しながら成分調整を行う簡易取鍋精錬法(アルゴン攪拌法、SAB法、CAS法など)においても、底部に設置したポーラスプラグ等を通してのアルゴンガス攪拌により溶融金属を攪拌する。
【0003】
溶融金属容器の底部に設けるガス吹き込み部については、多孔質の耐火物からなるポーラスプラグ、底面から上面まで貫通した一定のスリットを有する耐火物からなるスリットプラグ、または、底面から上面まで貫通した細孔を有する耐火物からなる細孔プラグのガス吹き込みプラグを通してガスを溶融金属中に吹き込む。このガス吹き込み部は、高温の溶融金属に接触して高温に加熱されながら、常温の吹き込みガスによって冷却されるという厳しい熱的環境にさらされ、損傷しやすい状況にある。また、溶融金属容器の底部耐火物の熱膨張にともない、ガス吹き込み部の耐火物外周面の応力が高まり、ガス吹き込み部耐火物の先端部に集中荷重がかかることによる折損等の損傷が生じる。このようにしてガス吹き込み部耐火物が早期に損傷すると、底部耐火物全体の寿命を低下させることにもなる。
【0004】
ガス吹き込み部耐火物の寿命を延長するため、種々の工夫がなされている。ガス吹き込みプラグをそのまま底部耐火物中に埋設するのではなく、ガス吹き込みプラグの外周を円筒状の耐火物で被覆することが行われる。円筒状の耐火物はスリーブ耐火物あるいは羽口耐火物と呼ばれる。ガス吹き込みプラグの外周に接して円筒状のスリーブ耐火物で被覆することによってガス吹き込み耐火物を形成し、さらにこのガス吹き込み耐火物の外周に接して円筒状の羽口耐火物を配置することも行われる。
【0005】
特許文献1においては、多孔質(ポーラス)耐火物とそれを保持するスリーブ耐火物を用い、ポーラス耐火物とスリーブ耐火物の稼動面が周囲の底部耐火物稼動面よりも凸状に突き出ている構造が開示されている。凸状に突き出す構造を有することで、稼働中の熱衝撃による損耗そしてガスの気泡が引き起こす損耗等を回避して羽口寿命の延長化が可能になるとしている。
【0006】
特許文献2においては、ガス吹き込み耐火物はポーラス耐火物ではなく、貫通した通気口を有するガス吹き込みパイプであるが、ガス吹き込みパイプを内包する耐火物層(羽口スリーブ)を設け、羽口スリーブを周方向に2〜7分割する構造が開示されている。羽口スリーブを分割することにより、熱応力を低減し、耐火物の亀裂を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−317221号公報
【特許文献2】特開平8−246023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のように、ポーラス耐火物とそれを保持するスリーブ耐火物を、周囲の底部耐火物よりも突き出た構造を採用した場合、スリーブ耐火物における突き出た部分の根本に亀裂が入り、結局ポーラス耐火物とスリーブ耐火物においてその亀裂が成長し、ポーラス耐火物の損傷にいたることがわかった。図5(a)に示すように、ポーラスプラグの外周に接して円筒状のスリーブ耐火物で被覆することによってガス吹き込み耐火物を形成し、さらにこのガス吹き込み耐火物の外周に接して円筒状の羽口耐火物を配置する場合であっても、ガス吹き込み耐火物と羽口耐火物を周囲の底部耐火物よりも突き出た構造とした場合、同様の現象が発生する(図5(b))。
【0009】
特許文献2に記載のように、ガス吹き込み耐火物の周囲に配置する耐火物(特許文献2の羽口スリーブ)を円周方向に複数に分割した場合、分割目地への地金差しが発生し、結局はガス吹き込み耐火物の寿命を延長するには至らない。ポーラスプラグの外周に接して円筒状のスリーブ耐火物で被覆することによってガス吹き込み耐火物を形成し、さらにこのガス吹き込み耐火物の外周に接して円筒状の羽口耐火物を配置する場合であって、さらにその外側に円周方向に分割した耐火物を配置した場合も同様である。
【0010】
本発明は、溶融金属容器の底部に配置されるガス吹き込み部において、ガス吹き込み耐火物の寿命を延長することのできる溶融金属容器のガス吹き込み部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)ガス吹き込み耐火物1と、ガス吹き込み耐火物1の外周面に接する羽口耐火物4から構成される溶融金属容器11のガス吹き込み部において、羽口耐火物4の外周に円筒耐火物5を配置し、ガス吹き込み耐火物1、羽口耐火物4、円筒耐火物5のいずれも、その溶融金属側表面位置16が、溶融金属容器の底部耐火物13の溶融金属側表面位置16に対し、溶融金属20側に突き出ており、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に耐火物8を充填してなることを特徴とする溶融金属容器のガス吹き込み部構造。
(2)羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に不定形耐火物8aを充填してなることを特徴とする上記(1)に記載の溶融金属容器のガス吹き込み部構造。
(3)羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間は目地部7であり、目地部7に目地耐火物8bを充填してなることを特徴とする上記(1)に記載の溶融金属容器のガス吹き込み部構造。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ガス吹き込み耐火物と、該ガス吹き込み耐火物の外周面に接する羽口耐火物から構成される溶融金属容器のガス吹き込み部において、前記羽口耐火物の外周に円筒耐火物を配置し、羽口耐火物の外周と円筒耐火物の内周との間の空間に耐火物を充填することにより、ガス吹き込み耐火物の寿命を大幅に延長することが可能となる。
【0013】
特に、ガス吹き込み耐火物と羽口耐火物の溶融金属側表面位置が、溶融金属容器の底部耐火物の溶融金属側表面に対して溶融金属側に突き出ている構造において、円筒耐火物の溶融金属側表面位置を同じく溶融金属側に突き出た構造とすることにより、本発明の効果を顕著に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の溶融金属容器のガス吹き込み部構造の一例を示す図であり、(a)はA−A矢視部分断面図、(b)は上から見た部分図である。
【図2】本発明の溶融金属容器のガス吹き込み部構造の一例を示す図であり、(a)はA−A矢視部分断面図、(b)は上から見た部分図である。
【図3】本発明の溶融金属容器のガス吹き込み部構造における各耐火物の突出状況を示す図であり、(a)(b)は本発明例、(c)は従来例である。
【図4】本発明の円筒耐火物の形状を示す斜視断面図である。
【図5】従来の溶融金属容器のガス吹き込み部構造を示す矢視部分断面図であり、(a)は築造当初、(b)は亀裂が発生した状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜5に基づいて本発明を説明する。尚、以下の説明については、ガス吹き込みプラグとしてポーラスプラグに代表させて説明するが、底面から上面まで貫通した一定のスリットを有する耐火物からなるスリットプラグ、または、底面から上面まで貫通した細孔を有する耐火物からなる細孔プラグであってもよく、ガス吹き込みプラグの態様を限定するものではない。
【0016】
溶融金属容器11の底部に配置したガス吹き込み部については、ガス吹き込み耐火物1と、ガス吹き込み耐火物1の外周面に接する羽口耐火物4から構成される。
【0017】
ガス吹き込み耐火物1については、通常は多孔質のポーラスプラグを通してガスが供給される。ポーラスプラグをそのままガス吹き込み耐火物とすることもできるが、好ましくは図1、2、5に示すように、ポーラスプラグ2の外周に接して円筒状のスリーブ耐火物3で被覆し、ポーラスプラグ2とスリーブ耐火物3を含めて一体のガス吹き込み耐火物1を形成することができる。
【0018】
ガス吹き込み耐火物1において、ポーラスプラグ2は溶融金属20に接する側の半径が小さくなる円錐台形状を形成し、ポーラスプラグ2をスリーブ耐火物3で被覆したガス吹き込み耐火物1の外形は、ポーラスプラグ2を内包している部分は円錐台形状をなしている。ガス吹き込み耐火物1の溶融金属側端部においてポーラスプラグ2が露出しており、ガス吹き込み耐火物1の反対側端部にはポーラスプラグ2にガスを供給するガス供給口21が設けられている。ポーラスプラグ2としては、材質がアルミナであり、気孔率が30%程度の耐火物が用いられる。スリーブ耐火物3としては、アルミナスピネル材質を用いると好ましい。
【0019】
ガス吹き込み耐火物において、ポーラスプラグを通してガスを通過させるのではなく、上記のとおり、耐火物に開けた開口部を通してガスを通過させることにしても良い。
【0020】
羽口耐火物4は、ガス吹き込み耐火物1を包み込むように貫通孔を有している。羽口耐火物4の外形については、マス形状、スリーブ形状、円柱形状、角柱形状のいずれを用いても良い。外形が円柱形状である場合、羽口耐火物4の外周と貫通孔の内周は同心円を形成している。ガス吹き込み耐火物1の外形が円錐台形状である場合は、羽口耐火物4の貫通孔についても、ガス吹き込み耐火物1の円錐台形状に沿うように、溶融金属側の半径が小さくなるような円錐台形状をなしている。羽口耐火物4としてはアルミナスピネル材質、アルミナマグネシア材質を用いると好ましい。
【0021】
溶融金属容器11の底部には、底部耐火物13が敷き詰められている。ガス吹き込み耐火物1の溶融金属側表面の位置は、従来例を図5に示すように、ガス吹き込み耐火物1を底部耐火物13よりも溶融金属側に突出させる。これにより、ガス吹き込み耐火物中のポーラスプラグの長さを長くすることができる。ポーラスプラグを用いたガス吹き込み部を有する溶融金属容器を使用するに際し、使用時間の経過と共にポーラスプラグが溶融金属側から溶損が進行するが、ポーラスプラグの長さが長いほど、ボーラスプラグの寿命を長くすることができるので好ましい。図3(c)に示すように、ポーラスプラグの溶融金属側端部の直径をd0とし、底部耐火物表面に対するガス吹き込み耐火物表面の突出量をh1としたとき、h1を、(0.2〜1.2)×d0の範囲内とすると好ましい。
【0022】
羽口耐火物4についても、その溶融金属側表面の位置を底部耐火物13よりも突出させる。羽口耐火物4の位置を、ガス吹き込み耐火物1の溶融金属側表面の位置と概略等しい位置まで突出させる。ガス吹き込み耐火物1の表面と羽口耐火物4の表面の位置差を、0〜0.2×d0の範囲内とすると好ましい。即ち図3(c)に示すように、底部耐火物表面に対する羽口耐火物表面の突出量をh2としたとき、0≦h−h≦0.2×d0とする。
【0023】
溶鋼容量300トンの取鍋を用い、取鍋内の溶鋼を攪拌するため、ポーラスプラグを用い、アルゴン流量を60Nm/Hr程度とし、1chあたり50分程度のアルゴンガス吹き込みを行う場合について、本発明と従来技術を対比しながら説明を行う。
【0024】
図1、図5(a)に示すように、d0=82mmであるポーラスプラグ2と周囲のスリーブ耐火物3からなるガス吹き込み耐火物1と、羽口耐火物4を用いた。ガス吹き込み耐火物1の溶融金属側端部外径は115mm、羽口耐火物4の外径は402mmである。ポーラスプラグ2の材質はアルミナ、スリーブ耐火物3の材質はアルミナスピネル、羽口耐火物4の材質はアルミナスピネルである。
【0025】
従来技術において、ガス吹き込み耐火物と羽口耐火物を底部耐火物から溶融金属側に突出させない場合、ポーラスプラグが溶鋼側から溶損することによってポーラスプラグの寿命が定まり、ガス吹き込み耐火物1の寿命は8ヒート(溶鋼ヒートを意味する。以下、同じ。)程度であった。また、図5(a)に示すように、ガス吹き込み耐火物1と羽口耐火物4を底部耐火物13から溶融金属側に突出させ、h1=115mm、h2=100mmとして取鍋(溶融金属容器11)底部に設置した場合、ポーラスプラグ2の総長さが180mmから295mmに長くなった分、ガス吹き込み耐火物の寿命延長の効果があるものの、図5(b)に示すように、底部耐火物表面から突出した羽口耐火物4にき裂22が入り、そのき裂22部分で折損し、その結果としてガス吹き込み耐火物1も同じ位置で折損し、そのためにガス吹き込み耐火物1の寿命が定まることとなった。ガス吹き込み耐火物1の溶損による寿命は16ヒート程度となったが、ガス吹き込み耐火物1のみを交換して操業した4ヒート後、羽口耐火物4は折損し、その結果として、ガス吹き込み耐火物1も折損した。結局、ガス吹き込み耐火物1の平均寿命は10ヒート、羽口耐火物の寿命は20ヒートであった。
【0026】
次に、本発明について説明する。
【0027】
以上の従来技術の問題点に鑑み、本発明においては、図1〜4に示すように、羽口耐火物1の外周に円筒耐火物5を、パーマレンガ14の上に配置し、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に耐火物8を充填することとした。円筒耐火物5は図4に斜視断面図を示すように貫通口を有する円筒形状であり、その外周と内周は同心円とすることができる。円筒耐火物5の内周の内側に羽口耐火物4が配置される。円筒耐火物5の外周の形状、内周の形状については、隣接する耐火物の形状に合わせて適切な形状とする。図4(a)は内周、外周ともに円筒状とした例である。図4(b)に示すように外周のみをテーパー状、図4(c)に示すように内周、外周ともテーパーを有する円錐形状としても良い。円筒耐火物5の中空部に羽口耐火物4及びガス吹き込み耐火物1を配置し、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に耐火物8を充填することにより、これら耐火物を一体の構造体とすることができる。その結果、溶融金属容器の底部耐火物13から羽口耐火物4に及ぼす膨張圧力を低減するとともに、一体の構造物としての高強度化を図ることができる。
【0028】
本発明の円筒耐火物5を用いることにより、ポーラスプラグ2の寿命を大幅に延長することが可能となる。図5に示すような従来の羽口耐火物4を用いた保護のみでは、ガス吹き込み耐火物1を底部耐火物13から突出させた場合の突出部の折損を防ぐことができなかったが、さらに円筒耐火物5を用い、円筒耐火物5をも底部耐火物13から突出させることにより、突出部の折損を防止することが可能となる。円筒耐火物5は、外径が大きいことにより、軸に垂直な面における断面積が大きくなるので、底部耐火物13から突出した部分にせん断力が働いたとしても、折損に対して対抗力が生まれるものと推定される。円筒耐火物5の外径を700mmφ以上とすることにより、せん断力に十分に対抗することが可能となる。
【0029】
本発明において、円筒耐火物5を円周方向に一体の耐火物として形成する。特許文献2に記載のように、耐火物を円周方向に分割すると、分割した継目部において地金差しが発生する問題があるが、本発明においては円筒耐火物5を円周方向に一体としているので、地金差しの問題を解消することができる。
【0030】
図1に示すように、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に不定形耐火物8aを充填する場合には、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の距離は50〜100mm程度とする。不定形耐火物8aの材質として、高流動性かつ高膨張性であるアルミナマグネシア系、あるいは、アルミナスピネル系を用いると好ましい。図2に示すように、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6を目地部7とする場合には、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の距離は2〜5mm程度とする。目地部7に充填する目地耐火物8bの材質としてアルミナ系熱硬性耐火モルタルを用いると好ましい。羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6に不定形耐火物8a又は目地耐火物8bを充填するので、不定形耐火物8a又は目地耐火物8bが応力緩和効果を発揮し、羽口耐火物4の折損を防止する効果を有する。
【0031】
不定形耐火物8aとして、流動性は振動フロー値で220φから240φが望ましい。物質性状は1400℃での線変化率が+1.0%から+1.6%が望ましい。高流動性は充填性に、高膨張性は噛み込み効果に作用し、両者の相乗効果として密着性が向上する。目地耐火物8bとしては、一般的なアルミナシリカ系等のものが使用される。
【0032】
円筒耐火物5の厚みは100〜200mm程度とすると良い。円筒耐火物5の材質としては、好ましくはアルミナマグネシア材質、アルミナスピネル材質のプレキャスト耐火物とする。プレキャスト耐火物ではなく、レンガとしても良い。
【0033】
ガス吹き込み耐火物1と羽口耐火物4を溶融金属容器11の底部耐火物13から突出させる場合、円筒耐火物5をも突出させることで効果を発揮することができる。羽口耐火物4の外径をd1としたとき、円筒耐火物5の溶融金属側表面と羽口耐火物4の溶融金属側表面との位置差を0〜0.25×d1の範囲とすると良い。即ち、図3(a)(b)に示すように、円筒耐火物5の溶融金属側表面を底部耐火物13の溶融金属側表面に対して突出させ、突出量をh3としたとき、0≦h2−h3≦0.25×d1の範囲とすると良い。
【0034】
ガス吹き込み耐火物1と羽口耐火物4を底部耐火物13から溶融金属側に突出させ、h1=115mm、h2=100mmとして取鍋(溶融金属容器11)底部に設置する場合において、本発明の円筒耐火物5を適用した。円筒耐火物5をアルミナマグネシア材質のプレキャスト耐火物とし、円筒耐火物の外径を900mm、内径を600mmとした。円筒耐火物5の溶融金属側表面を底部耐火物13の溶融金属側表面に対して突出させ、突出量をh3とし、h3=100mmとした。本発明方法で溶鋼のアルゴン吹き込みを実施したところ、円筒耐火物5が折損することはなく、羽口耐火物4の折損は見られなくなった。円筒耐火物5、羽口耐火物4の溶融金属側表面が徐々に溶損するとともに、ポーラスプラグ2についてはそれらよりも速く溶損が進み、ポーラスプラグ2の溶損量が220mm程度となったところで使用を中止した。ガス吹き込み耐火物1の寿命は17ヒート程度であり、その時点で羽口耐火物4は未だ使用可能であった。羽口耐火物1の外周と円筒耐火物4の内周との間の空間を目地部8bとした場合も同様であった。ガス吹き込み耐火物1の平均寿命を、前記従来技術の10ヒートから17ヒートに向上するという効果を得ることができる。
【0035】
円筒耐火物5の外周と、底部耐火物13の側面との間隔は、30〜300mm程度とし、この隙間にアルミナマグネシア系材質、アルミナスピネル系材質の不定形流し込み耐火物9を充填すると良い。円筒耐火物5の外周に不定形流し込み耐火物層を設けることにより、不定形流し込み耐火物層が応力緩和効果を発揮し、底部耐火物13から受ける応力を緩和することができる。
【0036】
本発明を適用する溶融金属容器11において、底部耐火物13としては、プレキャスト耐火物、レンガ、流し込み材を用いることができる。
【実施例】
【0037】
溶鋼容量300トンの取鍋を用い、取鍋内の溶鋼を攪拌するため、ポーラスプラグを用い、アルゴン流量を60Nm/Hr程度とし、1chあたり50分程度のアルゴンガス吹き込みを行う場合について、本発明を適用した。
【0038】
ガス吹き込み耐火物は、ポーラスプラグと周囲のスリーブ耐火物からなる。ポーラスプラグの溶融金属側端部外径d0=82mmであり、ガス吹き込み耐火物の溶融金属側端部外径は115mmである。ポーラスプラグの材質はアルミナ、スリーブ耐火物の材質はアルミナスピネルを用いた。ガス吹き込み耐火物の外側に羽口耐火物を配置する。羽口耐火物の外周は円柱形であり、外径は400mmである。羽口耐火物の内周は、ガス吹き込み耐火物形状にならって円錐台形状としている。羽口耐火物としてアルミナスピネル材質のプレキャスト耐火物を用いた。羽口耐火物の成分組成は後述の表1に示すとおりである。
【0039】
まず、従来例について図5に基づいて説明する。
【0040】
取鍋の底部耐火物13はプレキャスト耐火物であり、羽口耐火物4の外周とプレキャスト耐火物(底部耐火物13)との間に100mmの間隔を有している。底部のプレキャスト耐火物と羽口耐火物との間隙には、不定形耐火物9として、後述の表1に示す成分組成を有するアルミナマグネシア系の不定形流し込み耐火物を充填した。
【0041】
第1の方法では、ガス吹き込み耐火物と羽口耐火物を底部耐火物から溶融金属側に突出させず、即ち、h1=0mm、h2=0mmとして取鍋底部に設置した。ポーラスプラグの総長さは180mmである。
【0042】
第1の方法では、ポーラスプラグが溶鋼側から溶損することによってポーラスプラグの寿命が定まり、ガス吹き込み耐火物の寿命は8ヒート程度であった。
【0043】
これに対し第2の方法では、図5(a)に示すように、ガス吹き込み耐火物1と羽口耐火物4を底部耐火物13から溶融金属側に突出させ、h1=115mm、h2=100mmとして取鍋底部に設置した。この場合、底部耐火物13と羽口耐火物4の間隙に充填する不定形流し込み耐火物の溶融金属側表面は、羽口耐火物と接する位置において羽口耐火物表面と同じ位置となるよう、傾斜を持たせている。
【0044】
第2の方法を適用したところ、ポーラスプラグの総長さが180mmから295mmに長くなった効果があり、ガス吹き込み耐火物の寿命は向上した。しかし第2の方法では、図5(b)に示すように、底部耐火物表面から突出した羽口耐火物にき裂22が形成され、突出した根本部分で折損し、その結果としてガス吹き込み耐火物1も同じ位置で折損し、そのためにガス吹き込み耐火物1の寿命が定まることとなった。ガス吹き込み耐火物1の溶損による寿命は16ヒート程度となったが、ガス吹き込み耐火物1のみを交換して操業した4ヒート後、羽口耐火物4は折損し、その結果として、ガス吹き込み耐火物1も折損した。結局、ガス吹き込み耐火物1の平均寿命は10ヒート、羽口耐火物の寿命は20ヒートであった。
【0045】
【表1】

【0046】
次に本発明例について説明する。
【0047】
従来例の上記第2の方法、即ち、ガス吹き込み耐火物と羽口耐火物を底部耐火物から溶融金属側に突出させる場合であって、ポーラスプラグの総長さを295mmとし、h1=115mm、h2=100mmとして取鍋底部に設置する場合において、図1に示す本発明の円筒耐火物5を適用した。円筒耐火物5を、表1に示す成分を有するアルミナマグネシア材質のプレキャスト耐火物とし、円筒耐火物5の外径を900mm、内径を600mmとした。円筒耐火物5の溶融金属側表面を底部耐火物13の溶融金属側表面に対して突出させ、突出量をh3とし、h3=100mmとした。円筒耐火物5の内周と羽口耐火物4の外周との間は100mmであり、ここに表1に示す高流動性かつ高膨張性であるアルミナマグネシア系の不定形耐火物を不定形耐火物8aとして充填した。円筒耐火物5の外周と、底部耐火物13であるプレキャスト耐火物との間隔を100mm程度とし、この隙間に同じ表1に示す不定形耐火物を不定形耐火物9として充填した。
【0048】
上記本発明方法で溶鋼のアルゴン吹き込みを実施したところ、円筒耐火物5が折損することはなく、羽口耐火物4の折損は見られなくなった。円筒耐火物5、羽口耐火物4の溶融金属側表面が徐々に溶損するとともに、ポーラスプラグ2についてはそれらよりも速く溶損が進み、ポーラスプラグの溶損量が220mm程度となったところで使用を中止した。ガス吹き込み耐火物の寿命は17ヒート程度まで向上した。円筒耐火物5、羽口耐火物4は共に、33ヒートまで使用可能であった。
【0049】
次に、図2に示すように、羽口耐火物4の外周と円筒耐火物5の内周との間の空間6を目地部7とし、円筒耐火物5の外径を705mm、内径を405mm、h3=100mmとした。円筒耐火物5の内周と羽口耐火物4の外周との間の目地部7は2.5mmであり、ここにアルミナ系熱硬性耐火モルタルの目地耐火物8b(Al23:57質量%、SiO2:35質量%)を充填した。円筒耐火物5の外周と、取鍋底部耐火物13であるプレキャスト耐火物との間隔を100mm程度とし、この隙間に同じ表1に示す不定形耐火物を不定形耐火物9として充填した。この本発明方法で溶鋼のアルゴン吹き込みを行ったところ、耐火物の溶損状況は、目地の代わりに不定形耐火物を充填した本発明方法と同様の改善効果を得ることができ、ガス吹き込み耐火物の寿命は17ヒート程度まで向上した。円筒耐火物5、羽口耐火物4は共に、33ヒートまで使用可能であった。
【符号の説明】
【0050】
1 ガス吹き込み耐火物
2 ポーラスプラグ
3 スリーブ耐火物
4 羽口耐火物
5 円筒耐火物
6 空間
7 目地部
8 耐火物
8a 不定形耐火物
8b 目地耐火物
9 不定形耐火物
11 溶融金属容器
12 底部
13 底部耐火物
14 パーマレンガ
15 鉄皮
16 溶融金属側表面位置
20 溶融金属
21 ガス供給口
22 き裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吹き込み耐火物と、該ガス吹き込み耐火物の外周面に接する羽口耐火物から構成される溶融金属容器のガス吹き込み部において、前記羽口耐火物の外周に円筒耐火物を配置し、前記ガス吹き込み耐火物、羽口耐火物、円筒耐火物のいずれも、その溶融金属側表面位置が、溶融金属容器の底部耐火物の溶融金属側表面に対し、溶融金属側に突き出ており、羽口耐火物の外周と円筒耐火物の内周との間の空間に耐火物を充填してなることを特徴とする溶融金属容器のガス吹き込み部構造。
【請求項2】
前記羽口耐火物の外周と円筒耐火物の内周との間の空間に不定形耐火物を充填してなることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属容器のガス吹き込み部構造。
【請求項3】
前記羽口耐火物の外周と円筒耐火物の内周との間の空間は目地部であり、該目地部に目地耐火物を充填してなることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属容器のガス吹き込み部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255074(P2010−255074A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109367(P2009−109367)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】