説明

溶融金属浴の光学分析システム

高速アルゴンガス流(3)が、ランス(1)から溶融金属浴(4)に通され、火炎包囲層(2)により凝集性を維持されることで、遠隔又は間隔をあけた観測点(9)からアルゴンガス流を通じて縦方向に溶融金属浴を見るためにアルゴンガス流による鮮明な観測通路を提供する溶融金属浴(4)の光学分析システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、溶融金属、例えばスチールの精錬に関し、更に具体的に言えば、精錬中の溶融金属浴を分析することに関する。
【背景技術】
【0002】
スチール等の金属は一般に、耐火物内張り容器において、導入材料、例えば、金属を生み出すスクラップ、銑鉄、鉱石、石灰石、ドロマイト等を加熱して溶融状態にし、得られた溶融金属浴中に酸素を吹き込んで不純物を酸化することにより製造され精錬される。処理の開始前に導入材料の正確な化学組成を知ることは必ずしも可能ではない。したがって、組成は、導入材料が溶融状態となり十分に混合された後で決定せざるを得ない。更に、溶融金属浴の変化する組成は、精錬容器内容物に入れる添加剤のタイミング及び量を知るために少なくとも定期的に決定されなければならない。溶融金属浴の組成を決定するための標準方法は、製造工程を停止し、少量の材料のサンプルを取り出し、このサンプルを質量分析計で分析することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
連続オンライン測定は更に望ましいが、高温並びに塵埃、煙及びスラグの存在が、測定装置を溶融金属浴の内側に配置することを許さない。当業者は、これらの問題に対処するために、溶融金属浴の表面近くで光ファイバーを使用するか、レンズ、鏡及びプリズム等の補助具を使用して溶融金属浴からのデータを分析装置に送ることを試みている。しかしながら、そのような構成は、これらの組み立てが複雑であり、精錬工程中で維持することが困難であり、したがって集められたデータの精度を損ない、そのようなデータを基にした分析の完全性を損なうので不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの態様は、
(A)アルゴンガス流をランスから送り出し、前記アルゴンガス流を火炎包囲層で取り囲むことにより凝集性アルゴンガス流を形成する工程、
(B)前記凝集性アルゴンガス流を溶融金属浴に通す工程、
(C)前記凝集性アルゴンガス流を通して縦方向に見て、前記溶融金属浴を観察し、そこから光学データを得る工程、及び
(D)前記光学データを分析装置に送る工程
を含む、溶融金属浴の光学分析方法。
【0005】
(A)溶融金属浴を含む溶融金属炉、
(B)凝集性アルゴンガス流を前記溶融金属浴に通すための噴射端部を有するランス、
(C)前記噴射端部の反対の端部の前記ランス上に設けられ、前記ランスからのアルゴンガスの漏洩を防ぐための加圧密閉を提供すると同時に、光学的に透明な観察ポートを提供し、光学的データを得るために前記凝集性アルゴンガス流を通して縦方向に前記溶融金属浴を観察するために配置された観測窓、及び
(D)分析装置及び前記光学データを前記分析装置に送るための手段
を含む、溶融金属浴の光学分析装置。
【0006】
本明細書において使用される「火炎包囲層」という用語は、少なくとも1つの別の不燃焼ガス流の周りの燃焼流を意味する。
【0007】
本明細書で使用される「凝集性ガス流」という用語は、その直径が実質的に一定のままであるガス流を意味する。
【0008】
本明細書で使用される「溶融金属浴」という用語は、溶融金属を含み、またスラグを含んでもよい金属精錬炉の内容物を意味する。
【0009】
本明細書で使用される「光学データ」という用語は、溶融金属浴から間隔を置いたレシーバーにより感知できる溶融金属浴の特徴を表す値を意味する。
【0010】
本明細書で使用される「縦方向に」という用語は、主軸に沿う方向を意味する。
【0011】
本明細書で使用される「観測窓」という用語は、ランスにおけるアルゴンガスの加圧流及び光ファイバーケーブル又はその他の光学部品との間の密閉を提供することのできる、サファイア又は石英等の光学的に透明な材料を意味する。光源、例えば、レーザー等は、凝集性アルゴンガスジェットを通して観察される溶融金属浴のエネルギーを増加して分析の有効性を改善するために観測窓に取り付けられてもよい。
【0012】
本発明は、図面を参照して詳細に説明される。ここで図面を参照すると、溶融金属4及び溶融していてもよく及び/又は固体であってもよい、溶融金属のプール上のスラグ層5を含む溶融金属浴を含む溶融金属炉10が示される。一般的に、溶融金属は鉄又はスチールを含む。スラグ層は、一般的に、1つ又は複数の酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム及び酸化鉄を含む。
【0013】
ランス1は溶融金属浴へのアルゴンガスを供給するように配置している。図において例示される実施形態は好ましい実施形態であり、ランスは溶融金属浴の表面に垂直の方向で溶融金属浴に対してアルゴンガスを供給するように配置している。或いはまた、ランスは、浴の表面に対して角度を付けてアルゴンガスを供給するように炉10の側壁を通して配置することもできる。
【0014】
本発明の実施に当って、アルゴンは、それを通して光学観測がなされるガスとして使用される。酸素又はその他の反応性ガスを使用する従来の感知システムとは違って、アルゴンは、溶融金属に関するその不活性さにより、遠隔観測位置から溶融金属の更に鮮明な光学観察を提供する。更に、アルゴンガスの重さは、従来のシステムで使用される通常の更に軽いガスよりも溶融金属においてより良好に画定した衝撃部位を生み出す。アルゴンガスの不活性さに基づいてガス−金属衝撃部位における跳ね返りとその他の視覚障害とが共に低減されることにより、アルゴンガスの密度に基づいて衝撃部位がより良好に画定されることとあいまって、従来のシステムを用いて可能であるよりも更に鮮明な光学観察が可能となる。このより鮮明な光学観察はより良好なデータの獲得を可能にし、データの分析を改善する。
【0015】
アルゴンガスは、高速で、好ましくは音速又は超音速でランスから供給される。一般的に、ランスから供給されるアルゴンガス流3の速度は、少なくとも1000フィート/秒(fps)、好ましくは少なくとも1500fpsの速度を有する。最も好ましくは、アルゴンガス流はランスからの噴射時に超音速を有し、また、浴表面と接触するときも超音速を有する。
【0016】
燃料及び酸化剤は、アルゴンガス流の周りにランスから供給され、アルゴンガス流3の周りに火炎包囲層2を形成するために燃焼する。好ましくは、図において示される通り、火炎包囲層は、ランスの噴射端部から浴まで、炉内のアルゴンガス流の全体の長さまで伸びる。火炎包囲層2を形成するために使用される燃料は好ましくはガスで、メタン又は天然ガス等の任意の燃料であってもよい。火炎包囲層2を形成するために使用される酸化剤は、空気、空気よりも高い酸素濃度を有する酸素に富む空気、又は少なくとも90モル%の酸素濃度を有する市販酸素であってもよい。
【0017】
火炎包囲層2は、周囲ガス、例えば、炉ガスがアルゴンガス流3の中に引き込まれない又は同伴されないようにし、これによりアルゴンガス流3の速度の著しい減少を防ぎ、アルゴンガス流3の直径、一般的に、少なくとも20d(ここで、dは、そこからガス流3が噴射されるランス噴射の際のノズルの直径である)の距離について著しく増加しないようにするのに役立つ。即ち、火炎包囲層2は、凝集性ガス流としてのアルゴンガス流3を、一般的に少なくとも20dの距離について確立し維持するのに役立つ。好ましくは、図において示される通り、アルゴンガス流3は、ランスから浴への凝集性ガス流である。
【0018】
浴上のスラグ層及び煙を突き抜けるためのアルゴンガスの凝集性ジェットの使用は、従来のやり方では想像も付かない。標準のランスから発するガス流は長い距離からスラグ層を突き抜けず、その性質を正確に測定するための溶融金属浴の鮮明な観察を提供しない。シュラウド(shroud)燃料ガスの使用は、濃縮された又は凝集性アルゴンガス流を生成するのに必要とされる。シュラウドガスは、また、スラグが完全に突き抜けられているかどうかを決定するために使用することのできるナトリウム、カリウム、CaO、及びMnO等の元素及び分子の燃焼により特定の波長で光信号を発生する。
【0019】
幾つかの波長で光の強度を測定することのできる分光計又はその他の装置の使用が採用される。2つの別々の波長は温度を測定するのに使用される。その他の波長は種々の元素、例えば、炭素、ケイ素、銅、クロム等の量を測定するのに使用される。なおその他の波長は、観察領域における酸化物、例えば、CaO、MnO、及びMgO等の存在を表示し、これらの酸化物を含むスラグが完全に突き抜けられているかどうかを決定するのに使用することができる。スラグ層の貫通の更なる表示は、シュラウド燃料によるナトリウム及びカリウムの燃焼からの光信号の、発光スペクトルから吸収スペクトルへの転換である。これは、不活性アルゴンガスがスラグ層を完全に突き抜けるときに発生することが知られている。
【0020】
ガス流3における浴通過アルゴンガスは、浴を混合することにより溶融金属を精錬するのを助けるのに役立つ。好ましくは、図において示される通り、アルゴンガス流3の高速及び凝集性は、ガス流3がスラグ層5を通過して溶融金属4中に深く入り込み、アルゴンガス流3中の浴に送達されたガスの混合作用を高めるのに役立つ。
【0021】
上で検討された通り、例えば、その組成、温度及び/又は溶融したスクラップの比率を決定するために溶融金属の状態を少なくとも定期的に、好ましくは連続的にモニターすることが望ましい。本発明の実施に当っては、これらのパラメータは観測窓9による観測によりモニターされる。図において示される通り、観測窓9は、噴射端部の反対の端部のランス1上に設けられ、ランスからのアルゴンガスの漏洩を防ぐための加圧密閉を与えると同時に、光学的に透明な観察ポートを用意する。この漏洩防止はガス損失を減少させるだけではなく、アルゴンガス流の形成及び凝集性の維持にマイナスの影響を与え得る圧力不均衡の可能性を減少させるのに役立つ。凝集性ガス流の形成及び維持は従来の感知システムでは達成できない。
【0022】
アルゴンガス流3中への炉ガス、煙、粒子等の同伴を防ぐアルゴンガス流3の凝集性は、観測窓9から溶融金属浴までの鮮明な観測線を形成するのを可能にする。これは、凝集性アルゴンガス流3により提供される遮るもののない通路を通じて縦方向に見ることで溶融金属浴を観察することを可能にする。この観察は浴からの光学データの収集を可能にする。凝集性アルゴンガスジェットを通じた溶融金属の観察により集めることのできるデータとしては、光高温計による温度、分光分析による溶融金属浴及びスラグに含まれている種々の元素の量の測定、並びに例えば、温度傾向の分析による溶融スクラップの比率等の方法の条件等が挙げられる。
【0023】
光学データは、例えば、光ファイバーケーブル又はレンズ及び鏡のシステムを含んでもよい光導体部品8により分析装置7へ送られる。分析装置7は、例えば、光学分光計、光高温計、又はこれらの装置の組合せであってもよい。分析装置7はデータを使用して溶融金属浴の温度及び組成の測定を与え、これにより、オペレーターが精錬方法の所望の終点に達することを容易にするために、追加の導入材料、融剤、合金、電気エネルギー、及び酸素等反応性剤の量及びタイミングを調整することを可能にする。
【0024】
溶融金属浴の現在の温度及び溶融金属浴に残っている炭素、クロム、マンガン又はその他の元素の量を観察することにより、オペレーターは、金属の処理が、製造される金属のタイプに対して指定された条件にいつ達したかを決定することができる。更に、銅等のある或種の微量元素の量が製造される金属の量に対して制限外にあると観察された場合には、オペレーターは、処理の完了前に製品を規格に合わせるために調整することができる。溶融されたスクラップの比率を知ることにより、オペレーターは、追加のスクラップを炉に添加する適切な時間を知る。
【0025】
本発明の使用により、溶融金属浴の表面の近くでの光ファイバーの使用又はレンズ、鏡及びプリズム等の補助具の使用を必要とすることなく、溶融金属浴の特性の連続且つオンライン測定を得ることができる。本発明が好ましい実施形態を参照として詳細に記載されたが、当業者は、特許請求の精神及び範囲内において本発明のその他の実施形態が存在することを認識する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施で使用されうる1つの好ましい構成の単純化された断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルゴンガス流をランスから送り出し、前記アルゴンガス流を火炎包囲層で取り囲むことにより凝集性アルゴンガス流を形成する工程、
(B)前記凝集性アルゴンガス流を溶融金属浴に通す工程、
(C)前記凝集性アルゴンガス流を通して縦方向に見て、前記溶融金属浴を観察し、そこから光学データを得る工程、及び
(D)前記光学データを分析装置に送る工程
を含む、溶融金属浴の光学分析方法。
【請求項2】
前記火炎包囲層が前記ランスから前記溶融金属浴にまで伸びる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凝集性アルゴンガス流が、前記溶融金属浴に接触するときに超音速を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(A)溶融金属浴を含む溶融金属炉、
(B)凝集性アルゴンガス流を前記溶融金属浴に通すための噴射端部を有するランス、
(C)前記噴射端部の反対の端部の前記ランス上に設けられ、前記ランスからのアルゴンガスの漏洩を防ぐための加圧密閉を提供すると同時に、光学的に透明な観察ポートを提供し、光学的データを得るために前記凝集性アルゴンガス流を通して縦方向に前記溶融金属浴を観察するために配置された観測窓、及び
(D)分析装置及び前記光学データを前記分析装置に送るための手段
を含む、溶融金属浴の光学分析装置。
【請求項5】
前記凝集性アルゴンガス流を通過するための光を発生させるための光源を更に含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記光源がレーザーである、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ランスが、前記溶融金属浴の表面に対して垂直方向の前記溶融金属浴への前記凝集性アルゴンガス流を供給するように配置している、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
光学データを前記分析装置に送るための前記手段が、前記観測窓から前記分析装置まで通る光ファイバーを含む光導体部品を含む、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記分析装置が光学分光計を含む、請求項4に記載の装置。
【請求項10】
前記分析装置が高温計を含む、請求項4に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−537014(P2008−537014A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556179(P2007−556179)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/004167
【国際公開番号】WO2006/091362
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】