説明

滑り軸受を具備した軸受機構

【課題】 ラック軸との衝突音をなくし得る上に、直動摩擦抵抗を減少でき、しかも、直動開始時と直動中との直動摩擦抵抗の差を小さくできると共にラック軸の外径寸法誤差及びハウジングの内径の真円度等に影響されないで、安定した直動摩擦抵抗を得ることができ、而して、ラック軸を円滑に支承できてラック軸の直動をよりスムースに行わせることができ、その上、ハンドルでの操舵感覚を向上できると共にフラッター抑制効果を十分に維持できる軸受機構を提供すること。
【解決手段】 軸受機構1は、円筒状の内周面2を有したハウジング3と、ハウジング3内に挿着されていると共に円筒状の外周面4を有したラック軸5と、ハウジング3の内周面2とラック軸5の外周面4との間に介在された滑り軸受6とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のラック軸を直動自在に支承するためにラック軸とハウジングとの間に介在される滑り軸受を具備した軸受機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の操舵用のラック軸を直動自在に支承するラック軸用軸受としては合成樹脂からなる滑り軸受が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−347105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
滑り軸受は、転がり軸受に比べ、価格が安く、振動吸収性に優れるという利点を有するものの、滑り軸受とラック軸との間に適度のクリアランス(軸受隙間)を必要とするため、ラック軸に生じる振動によりラック軸と滑り軸受との間に衝突音を発生し、自動車を運転する者に不快音として伝達されるという問題がある。この衝突音の発生を抑制すべく滑り軸受とラック軸との間のクリアランスを小さくすると、摩擦トルクが増大する上に、直動開始時と直動中との摩擦トルクの差が大きくなると共にラック軸の外径寸法誤差によるスティックスリップ現象等に起因して直動中において摩擦トルクの変動が生じる等の摩擦トルクの安定性を阻害する要因となる。
【0005】
また、ラック軸は、滑り軸受を介してハウジングに直動自在に支承されるのであるが、ハウジングの内径の真円度は通常それ程高くなく、斯かるハウジング内に合成樹脂からなる滑り軸受を圧入、固定すると、ハウジングの内径の真円度に影響されて滑り軸受が歪んでラック軸との間のクリアランスに差異が生じ、これによっても摩擦トルクの安定性を阻害することにもなる。
【0006】
特許文献1には、ラック軸との衝突音をなくし得る上に、直動摩擦抵抗を減少でき、しかも、直動開始時と直動中との直動摩擦抵抗の差を小さくできると共にラック軸の外径寸法誤差及びハウジングの内径の真円度等に影響されないで、安定した直動摩擦抵抗を得ることができ、而して、ラック軸を円滑に支承できてラック軸の直動をよりスムースに行わせることができる滑り軸受及び斯かる滑り軸受を具備した軸受機構が提案されている。
【0007】
この軸受機構では、滑り軸受をハウジングから軸方向に抜け出さないように滑り軸受をハウジングに係止させるのであるが、ハウジングに溝を設ける一方、滑り軸受に鍔(爪)を設けて、鍔を溝に嵌合させてこれにより抜け出し防止のための係止を行う場合等では、溝への鍔の装着を可能にするために溝において鍔とハウジングとの間にクリアランス(隙間)が存在することになる。斯かるクリアランス(隙間)が存在すると、塗布されたグリース等の潤滑剤の影響で滑り軸受とハウジングとの間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受とラック軸との間の静止摩擦抵抗が大きい場合には、ラック軸の直動開始時には滑り軸受がラック軸と共にハウジングに対してクリアランス分だけ直動され、その後、滑り軸受に対してラック軸が直動されることになり、両摩擦抵抗の差異によりハンドルでの操舵感覚が損なわれる虞がある。
【0008】
またラック軸用の軸受機構は、路面走行時の車輪からラック軸に加わる微振動を操舵輪に伝達させないようにする機能(フラッター抑制効果)をも有しているが、上記のようなクリアランス(隙間)が存在する軸受機構では、ラック軸の振動と共に滑り軸受自体も振動してフラッター抑制効果が十分に得られない虞もある。
【0009】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ラック軸との衝突音をなくし得る上に、直動摩擦抵抗を減少でき、しかも、直動開始時と直動中との直動摩擦抵抗の差を小さくできると共にラック軸の外径寸法誤差及びハウジングの内径の真円度等に影響されないで、安定した直動摩擦抵抗を得ることができ、而して、ラック軸を円滑に支承できてラック軸の直動をよりスムースに行わせることができ、その上、ハンドルでの操舵感覚を向上できると共にフラッター抑制効果を十分に維持できる軸受機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の軸受機構は、円筒状の内周面を有したハウジングと、このハウジング内に挿着されていると共に円筒状の外周面を有したラック軸と、ハウジングの内周面とラック軸の外周面との間に介在された滑り軸受とを具備しており、ここで、ハウジングはその内周面に係止溝を有しており、滑り軸受は、円筒状の軸受本体と、この軸受本体に設けられていると共に軸受本体の軸方向の一方の端面から軸受本体の軸方向の他方の端面に向かって伸びた一方のスリットと、軸受本体に設けられていると共に軸受本体の他方の端面から軸受本体の一方の端面に向かって伸びた他方のスリットと、軸受本体の内側に設けられていると共に軸心周りの方向において互いに離間した複数の摺動面と、軸受本体の外面に設けられた少なくとも一つの装着溝と、軸受本体の外面から径方向に突出すると共に軸受本体を縮径させるように装着溝に嵌装された弾性リングと、ハウジングの係止溝に弾性的な締め代をもって配されていると共にハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制する規制手段とを具備しており、弾性リングは、その外周面で締め代をもってハウジングに嵌装されており、軸受本体は、摺動面を介してラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けて当該ラック軸の外周面に装着されている。
【0011】
本発明の軸受機構によれば、軸受本体がハウジングの内周面に挿入されると、軸受本体の外周面から突出する弾性リングは、ハウジングの内周面に対して締め代をもって弾性変形し、当該弾性変形によりハウジングの内径の真円度等の寸法誤差を吸収できる。また斯かる軸受機構によれば、軸受本体の両端面に対して開口端を有したスリットにより縮径自在となっている軸受本体は、弾性リングによって縮径されてその内部に挿通されたラック軸を複数の摺動面を介して締め付けるので、ラック軸との間のクリアランスを零にできて、ラック軸との間の衝突をなくし得、結果として不快音として伝達される衝突音の発生をなくし得る上に、直動開始時と直動中との直動摩擦抵抗の差を小さくできると共にラック軸の外径寸法誤差を吸収できて安定した直動摩擦抵抗を得ることができる。
【0012】
更に本発明の軸受機構によれば、規制手段がハウジングの係止溝に弾性的な締め代をもって配されると共にハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制するために、滑り軸受とハウジングとの間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受とラック軸との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸の直動開始時に滑り軸受がラック軸と共にハウジングに対して軸方向に直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受をハウジングに対して保持でき、ラック軸の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受に対して軸方向にラック軸が直動されることになり、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる。
【0013】
好ましい例では、規制手段は、軸受本体の一方の端面側の外面に一体的に設けられていると共にハウジングの内周面の係止溝に配された鍔と、軸受本体の一方の端面側に設けられた円弧状溝と、この円弧状溝に嵌装されていると共に軸受本体の一方の端面側から軸方向に突出した他の弾性リングとを具備しており、鍔は、ハウジングの内周面の係止溝に他の弾性リングによる弾性的な締め代をもって配されている。斯かる規制手段の例においては、鍔の軸方向の一方の端面は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面と対面しており、鍔の軸方向の他方の端面は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触しており、他の弾性リングにおいて軸受本体の一方の端面側から軸方向に突出した部位は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触して弾性的に圧縮されているとよい。円弧状溝は、鍔の軸方向の一方の端面自体に設けられていてもよいが、これに代えて軸受本体の一方の端面自体に設けられていてもよく、更には、鍔の軸方向の一方の端面と軸受本体の一方の端面とに渡って設けられていてもよく、したがって、他の弾性リングは、鍔の軸方向の一方の端面自体から軸方向に突出していても、これに代えて軸受本体の一方の端面自体から軸方向に突出していても、更には、通常は面一にされる鍔の軸方向の一方の端面と軸受本体の一方の端面との両方の端面から軸方向に突出していてもよい。
【0014】
他の好ましい例では、規制手段は、軸受本体の一方の端面側の外面に一体的に設けられていると共にハウジングの内周面の係止溝に配された鍔と、この鍔の径方向の外面に設けられた円弧状溝と、この円弧状溝に嵌装されていると共に鍔の径方向の外面から径方向に突出した他の弾性リングとを具備しており、鍔は、ハウジングの内周面の係止溝に他の弾性リングによる弾性的な締め代をもって配されている。斯かる規制手段の他の例においては、鍔の軸方向の一方の端面は、係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触しており、鍔の軸方向の他方の端面は、係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触しており、他の弾性リングにおいて鍔の径方向の外面から径方向に突出した部位は、係止溝を規定するハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面に接触して弾性的に圧縮されているとよい。
【0015】
上記の例で、鍔は、少なくとも一個設けられていればよく、好ましくは一方のスリットの個数と同数設けられている。
【0016】
規制手段はまた、装着溝に連通されていると共に軸方向に伸びて軸受本体の外面に設けられた少なくとも一対の軸方向溝と、弾性リングの軸方向の両端面から一体的に軸方向に伸びて対応の軸方向溝に嵌装されていると共に夫々が軸受本体の軸方向の対応する端面から軸方向に突出してハウジングの内周面の係止溝に配された少なくとも一対の軸方向弾性突起とを有して、一対の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位によりハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制するようになっていてもよく、この場合、係止溝は、ハウジングの軸方向に対して直交する一対の壁面と、ハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面とで規定されて、一方の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性的に圧縮されていると共に係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触し、他方の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性的に圧縮されていると共に係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触し、弾性リングは、その外周面でハウジングの軸心周りの方向に伸びて係止溝を規定する壁面に接触し、一対の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性リングの径方向の厚みよりも小さい径方向の厚みを有しているとよい。
【0017】
装着溝に嵌装された弾性リングは、弾性リングの弾性係数にもよるが、その外径が、ハウジングの内周面の径よりも0.3mmから1.0mm程度大きいものを、その内径が、装着溝の底面の径よりも0.3mmから1.0mm程度小さいものを好ましい例として提示し得るが、要は、ハウジングの内周面に対して締め代をもち、かつ複数の摺動面を介してラック軸を適度な弾性力で締め付けて摺動面とラック軸との間のクリアランスを零とする程度に、軸受本体の外周面から突出すると共に軸受本体を縮径させるようになっていればよく、具体的には、少なくとも、外径がハウジングの内周面の径よりも大きく、内径が溝の底面の径よりも小さければよい。
【0018】
いずれの弾性リングも、断面円形状の所謂Oリングであってよいが、その他の断面X字形状、断面U字形状又は断面台形状のリング等であってもよく、弾性リングを形成する弾性材料としては、天然ゴム、合成ゴム、弾性を有する熱可塑性合成樹脂、例えばポリエステルエラストマーのいずれであってもよい。
【0019】
円筒状の内周面を有すると共にこの内周面に係止溝を有したハウジングの当該内周面と、このハウジング内に挿着されると共に円筒状の外周面を有したラック軸の当該外周面との間に介在される本発明の滑り軸受は、円筒状の軸受本体と、この軸受本体に設けられていると共に軸受本体の一方の端面から軸受本体の他方の端面に向かって伸びた一方のスリットと、軸受本体に設けられていると共に軸受本体の他方の端面から軸受本体の一方の端面に向かって伸びた他方のスリットと、軸受本体の内側に設けられていると共に軸心周りの方向において互いに離間した複数の摺動面と、軸受本体の外面に設けられた少なくとも一つの装着溝と、軸受本体の外面から径方向に突出すると共に軸受本体を縮径させるように装着溝に嵌装された弾性リングと、ハウジングの係止溝に弾性的な締め代をもって配されると共にハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制する規制手段とを具備しており、ここで、弾性リングはその外周面で締め代をもってハウジングに嵌装されると共に軸受本体は摺動面を介してラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けて当該ラック軸の外周面に装着されるようになっている。
【0020】
本発明による滑り軸受を上述の軸受機構に用いることにより、ラック軸を円滑に支承できてラック軸の直動をよりスムースに行わせることができ、その上、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる軸受機構を提供することができる。
【0021】
本発明においては、軸受本体には一方及び他方のスリットの夫々を複数個設けてもよく、各スリットは一対の摺動面の間を通って伸びて、一方及び他方のスリットは、軸心周りの方向において交互に配されているとよく、各摺動面は、軸受本体の両端面から軸方向において所定距離だけ離れた位置間で軸受本体の内側に設けられているとよく、また、複数の摺動面は、軸心周りの方向において等間隔に配されているとよく、好ましい例では、軸受本体の外周面には軸方向において互いに離間された少なくとも二つの装着溝が設けられており、各装着溝に軸受本体の外周面から突出すると共に軸受本体を縮径させるように弾性リングが嵌装されており、軸方向において二つの装着溝間に摺動面の軸方向の中央部が位置しており、各摺動面は、軸方向において二つの装着溝間で軸受本体の内側に設けられていてもよく、また軸方向において二つの装着溝を越えて軸受本体の内側に設けられていてもよい。
【0022】
本発明において、装着溝に嵌装される弾性リングは、装着溝の容積よりも大きな体積を有しているとよい。弾性リングは、装着溝において隙間なしに軸受本体にぴったりと配されている必要はなく、軸受本体に対して若干の隙間をもって装着溝に嵌装されていてもよく、軸受本体の外周面から径方向に突出する弾性リングの部位がハウジングによって正規に押圧された場合に変形して装着溝を完全に埋めるようになっていてもよく、或いはこのようにハウジングによって正規に押圧された場合にも軸受本体に対して若干の隙間をもつ一方、意図しない外力によりハウジングがラック軸に対して正規の位置から偏心して部分的にハウジングによって強く押圧された場合には斯かる過度に押圧された部位で変形して溝を完全に埋めて剛性を増大し、これによりハウジングの意図しない偏心に逆らうようになっていてもよい。
【0023】
滑り軸受は、好ましくは、ハウジングに対して自由端部となる部位での軸受本体の径方向の最大厚みの0.3%から10%の幅をもったクリアランスがハウジングの内周面と自由端部となる部位での軸受本体の外周面との間に生じるようになっている。クリアランスが0.3%よりも少ないと、意図しない外力によりハウジングがラック軸に対して正規の位置から偏心した場合に、ハウジングが容易に軸受本体に接触して異常音等を発生させる虞があり、クリアランスが10%よりも大きいと、意図しない外力によりハウジングがラック軸に対して正規の位置から容易に大きく偏心して軸受機構による調心効果を低下させる虞があり、したがって、上記のようになっていると、ハウジングの軸受本体への接触を回避できてハウジングをラック軸に対して正規の位置に確実に保持できる。
【0024】
本発明においては、各摺動面は 平坦面又は円弧状の突面若しくは凹面であってもよく、各摺動面が平坦面である場合には、径方向において互いに対面すると共に互いに平行な摺動面間の距離は、各端面における軸受本体の内径よりも小さくても、各摺動面が円弧状の突面である場合には、径方向において互いに対面する摺動面の頂部間の距離は、各端面における軸受本体の内径よりも小さくても、各摺動面が円弧状の凹面である場合には、径方向において互いに対面する摺動面の底部間の距離は、各端面における軸受本体の内径よりも小さくてもよい。
【0025】
各摺動面において、それが平坦面である場合には、軸心周りの方向のその中央部でラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けるようになっていても、それが円弧状の突面である場合には、その頂部でラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けるようになっていても、そして、それが円弧状の凹面である場合には、その底部でラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けるようになっていてもよく、円弧状の凹面は、ラック軸の外周面の曲率よりも小さな曲率又は実質的に同一の曲率を有しているとよい。
【0026】
好ましい例では、軸受本体の内側は、軸受本体の一方の端面から摺動面の軸方向の一端まで伸びると共に徐々に縮径した一方のテーパ面と、軸受本体の他方の端面から摺動面の軸方向の他端まで伸びると共に徐々に縮径した他方のテーパ面とを具備しており、ここで、一方のテーパ面は、他方のテーパ面の軸方向長より長い軸方向長を有していてもよく、一方のテーパ面は、他方のテーパ面のテーパ角度より大きなテーパ角度を有していてもよく、斯かるテーパ面を有した滑り軸受によれば、一方のテーパ面側から軸受本体をラック軸の外周面へ容易に装着できる結果、組付け工数を大幅に削減できる。
【0027】
本発明の軸受機構において、複数の摺動面と軸受本体とは、合成樹脂から一体成形されたものであり、複数の摺動面と軸受本体とを形成する合成樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂及び四ふっ化エチレン樹脂などの熱可塑性合成樹脂を好ましい例として挙げることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ラック軸との衝突音をなくし得る上に、直動摩擦抵抗を減少でき、しかも、直動開始時と直動中との直動摩擦抵抗の差を小さくできると共に、ラック軸の外径寸法誤差及びハウジングの内径の真円度等に影響されないで、安定した直動摩擦抵抗を得ることができ、而して、ラック軸を円滑に支承できてラック軸の直動をよりスムースに行わせることができ、その上、ハンドルでの操舵感覚を向上できると共にフラッター抑制効果を十分に維持できる軸受機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の好ましい例において滑り軸受の図2に示すI−I線矢視断面を含む説明図である。
【図2】図1に示す例の滑り軸受の左側面説明図である。
【図3】図1に示す例の滑り軸受の右側面説明図である。
【図4】図1に示す例において滑り軸受の外観説明図である。
【図5】図1に示す例の一部拡大説明図である。
【図6】本発明の好ましい他の例の説明図である。
【図7】図6に示す例の滑り軸受の外観説明図である。
【図8】図6に示す例の説明図である。
【図9】本発明の好ましい例において滑り軸受の図10に示すIX−IX線矢視断面を含む説明図である。
【図10】図9に示す例の滑り軸受の左側面説明図である。
【図11】図9に示す例の滑り軸受の右側面説明図である。
【図12】図9に示す例において滑り軸受の外観説明図である。
【図13】図9に示す例の一部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図を参照して本発明及びその好ましい実施例を説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0031】
図1から図5において、本例の軸受機構1は、円筒状の内周面2を有したハウジング3と、ハウジング3内に挿着されていると共に円筒状の外周面4を有したラック軸5と、ハウジング3の内周面2とラック軸5の外周面4との間に介在された滑り軸受6とを具備している。
【0032】
ハウジング3は、その内周面2に円環状の係止溝11を有しており、係止溝11は、ハウジング3の軸心Xに沿う方向である軸方向Aに対して直交する円環状の一対の壁面12及び13と、ハウジング3の軸心X周りの方向である円周方向Bに伸びる円環状の壁面14とで規定されている。
【0033】
軸方向Aに移動自在なラック軸5は、一方ではステアリングホイールに、他方では車輪に夫々連結機構を介して連結されており、斯かる連結機構は知られているので説明を省く。
【0034】
滑り軸受6は、円筒状の軸受本体21と、軸受本体21の一方の端面22から軸方向Aであって軸受本体21の他方の端面23に向かって伸びて軸受本体21に設けられた六個のスリット24と、軸受本体21の他方の端面23から軸方向Aであって軸受本体21の一方の端面22に向かって伸びて軸受本体21に設けられた六個のスリット25と、軸受本体21の内側に設けられていると共にスリット24及び25により円周方向Bにおいて互いに離間した複数、本例では十二個の摺動面としての円弧状の凹面26と、軸受本体21の外面27に設けられた少なくとも一つ、本例では二つの装着溝28と、軸受本体21の外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28の夫々に嵌装された弾性リング29と、ハウジング3の係止溝11に弾性的な締め代をもって配されていると共にハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制する規制手段30とを具備している。
【0035】
軸受本体21及び凹面26は、合成樹脂、例えばポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性合成樹脂から一体成形されたものである。
【0036】
夫々が実質的にラック軸5の外周面4の曲率と同一の曲率を有する十二個の凹面26は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち30°の角度間隔に配されており、各凹面26は、軸受本体21の両端面22及び23から軸方向Aにおいて所定距離だけ離れた位置間であって軸方向Aにおいて二つの装着溝28を越えて軸受本体21の内側に設けられており、しかも、各凹面26の軸方向Aの中央部は、軸方向Aにおいて二つの装着溝28間に位置している。
【0037】
軸受本体21の内側は、凹面26に加えて、端面22から凹面26の軸方向Aの一端31まで伸びると共に徐々に縮径したテーパ面32と、端面23から凹面26の軸方向Aの他端33まで伸びると共に徐々に縮径したテーパ面34と、端面22から軸方向Aに伸びて各スリット25の軸方向Aの一端に接続された溝35と、端面23から軸方向Aに伸びて各スリット24の軸方向Aの一端に接続された溝36とを具備しており、各凹面26は、端面22及び23における軸受本体21の内径よりも小さい内径を有しており、端面22における軸受本体21は、端面23における軸受本体21の内径よりも小さい内径を有している。
【0038】
端面22側において開口する各スリット24は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち60°の角度間隔に配されていると共に、軸方向Aにおいて端面23側の装着溝28を超えて伸びており、端面23側において開口すると共に円周方向Bにおいてスリット24間に配された各スリット25もまた、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち60°の角度間隔に配されていると共に、軸方向Aにおいて端面22側の装着溝28を超えて伸びており、斯かるスリット24及び25は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち30°の角度間隔であって円周方向Bにおいて交互に配されている。
【0039】
スリット24及び25の夫々は、一個でもよいが、本例のように構成されていると、軸受本体21の縮径を均等に且つ容易に得ることができるので好ましい。
【0040】
軸受本体21の外面27に軸方向Aにおいて互いに離間されて設けられている二つの装着溝28は、軸受本体21の外面27側での環状の三つの突起37、38及び39により規定されており、突起37、38及び39における軸受本体21の外面27の径は、夫々互いに等しい一方、ハウジング3の内周面2の径より小さい。
【0041】
本例では、ハウジング3に対して自由端部となる部位、即ちハウジング3に係合しない端面23側の突起39の部位での軸受本体21の径方向の最大厚みTの0.3%から10%の幅(厚み)Dをもったクリアランス40がハウジング3の内周面2と軸受本体21の自由端部となる部位での外面27との間に生じるようになっており、これにより、ハウジング3の内周面2が軸受本体21の突起39の部位での外面27に接触することを回避できる上に、ハウジング3をラック軸5に対して正規の位置に確実に保持できる。
【0042】
Oリングからなる各弾性リング29は、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない一方、装着溝28に装着されている状態で、ハウジング3の内周面2の径よりも大きい外径を有し、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない上に、装着溝28にも装着されていない状態で、装着溝28の底面41の径よりも小さい内径を有しており、而して、軸受本体21の突起37、38及び39における外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28に嵌装されている弾性リング29の夫々は、嵌装される装着溝28の容積よりも大きな体積を有しており、締め付けられて変形して隙間なしに装着溝28に充填されても部分的に外面27から突出するようになっている。
【0043】
各弾性リング29は、その外周面で締め代をもってハウジング3の内周面2に嵌装されており、軸受本体21は、その外面27とハウジング3の内周面2との間にクリアランス40をもってハウジング3の内周面2に配されていると共に凹面26を介してラック軸5を弾性リング29の弾性力をもって締め付けてラック軸5の外周面4に装着されている。
【0044】
規制手段30は、軸受本体21の端面22側の外面27に一体的に設けられていると共にハウジング3の内周面2の係止溝11に配された六個の円弧状の鍔42と、軸受本体21の端面22に設けられた円弧状溝43と、円弧状溝43に嵌装されていると共に端面22から突出したOリング等からなる円環状の弾性リング44とを具備している。
【0045】
鍔42の軸方向Aの一方の端面45は、係止溝11を規定するハウジング3の軸方向Aに対して直交する一方の壁面12と対面しており、鍔42の軸方向Aの他方の端面47は、係止溝11を規定するハウジング3の軸方向Aに対して直交する他方の壁面13に接触しており、弾性リング44において鍔42の軸方向Aの一方の端面45と面一の端面22から軸方向Aに突出した部位46は、係止溝11を規定する一方の壁面12に接触して弾性的に圧縮されており、鍔42の軸方向Aの他方の端面47は、係止溝11を規定する他方の壁面13に接触しており、而して、鍔42は、ハウジング3の内周面2の係止溝11に弾性リング44による弾性的な締め代をもって配されており、規制手段30は、鍔42と端面22から軸方向Aに突出すると共に円弧状溝43に配された弾性リング44とによりハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するようになっている。
【0046】
以上の軸受機構1では、軸受本体21の外面27の装着溝28に弾性リング29を嵌装することにより、スリット24及び25を有する軸受本体21は、弾性リング29の弾性圧縮力により縮径され、軸受本体21が縮径された状態の滑り軸受6はハウジング3内に配置され、その後、軸受本体21の内側にラック軸5を挿入することにより、軸受本体21は弾性リング29の弾性圧縮力に抗してスリット24により拡径すると共にラック軸5はその外周面4で弾性リング29の弾性圧縮力をもって凹面26により締め付けられることになる一方、各弾性リング29は、その外周面で締め代をもってハウジング3の内周面2に接触されることになり、しかも、弾性的な締め代をもった弾性リング44の部位46の圧縮変形により鍔42と弾性リング44とは軸方向Aにおいて隙間なしに係止溝11に配されることになる。
【0047】
したがって、凹面26とラック軸5との間のクリアランスは零となり、軸受本体21とラック軸5との間の衝突をなくし得、結果として運転者に不快音として伝達される衝突音の発生はなく、軸受本体21の装着溝28に嵌装された弾性リング29はハウジング3の内周面2に対して締め代をもっているので、弾性リング29は弾性変形し、当該弾性変形によりハウジング3の内径の真円度等の寸法誤差を吸収でき、しかも、規制手段30の鍔42と弾性リング44とがハウジング3の係止溝11に弾性的な締め代をもって配されると共にハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するために、弾性リング29とハウジング3の内周面2との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる。
【0048】
上記の規制手段30では、弾性リング44が端面22に設けられているが、これに代えて又はこれと共に図6から図8に示すように、弾性リング44は鍔42の径方向の外面51に設けられていてもよい。即ち、図6から図8に示す規制手段30は、係止溝11に配された鍔42に加えて、鍔42の夫々の表面である径方向の半円環状の外面51に設けられた円弧状溝52と、円弧状溝52に嵌装されていると共に鍔42の外面51から径方向に突出した弾性リング44とを具備しており、鍔42の軸方向Aの一方の端面45は、係止溝11を規定するハウジング3の壁面12に接触しており、鍔42の軸方向Aの他方の端面47は、係止溝11を規定するハウジング3の他方の壁面13に接触しており、鍔42の径方向の外面51から径方向に突出した弾性リング44の部位53は、係止溝11を規定するハウジング3の壁面14に接触して弾性的に圧縮されており、弾性的に圧縮された弾性リング44でもって軸方向Aの厚みが広がるように撓み変形された鍔42は、ハウジング3の内周面2の係止溝11に弾性リング44による弾性的な締め代をもって配されている。なお、弾性リング44の部位53は、ハウジング3の壁面14に単に接触するだけで弾性的に圧縮されていなくてもよく、この場合、弾性リング44は、鍔42の軸方向Aの厚みを広げるように円弧状溝52に嵌装されているとよい。
【0049】
弾性リング44でもって軸方向Aの厚みが広がるようにされていると共に係止溝11に配された鍔42によりハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するようになっている図6から図8に示す軸受機構1でも、軸受本体21の外面27から突出する各弾性リング29は、ハウジング3の内周面2に対して締め代をもって弾性変形し、当該弾性変形によりハウジング3の内径の真円度等の寸法誤差は吸収され、スリット24及び25により縮径自在となっている軸受本体21は、弾性リング29によって縮径されてその内側に挿通されたラック軸5を凹面26で締め付けるので、ラック軸5との間のクリアランスを零にでき、ラック軸5との間の衝突をなくし得、しかも、凹面26が合成樹脂からなるために、ラック軸5の外周面4との間の摩擦トルクを小さくすることができる上に、規制手段30の鍔42がハウジング3の係止溝11に弾性リング44による弾性的な締め代をもって配されてハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するために、弾性リング29とハウジング3の内周面2との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、したがって、図6から図8に示す軸受機構1によっても、運転者に不快音として伝達される衝突音の発生をなくし得、ステアリング操作をよりスムースに行わせることができる上に、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる。
【0050】
上記の軸受機構1は、端面22側と端面23側とにおいて非対称である滑り軸受6を具備しているが、これに代えて、図9から図13に示すように端面22側と端面23側とにおいて対称な滑り軸受6を具備していてもよい。即ち、図9から図13に示す滑り軸受6は、円筒状の軸受本体21と、軸受本体21の一方の端面22から軸方向Aであって軸受本体21の他方の端面23に向かって伸びて軸受本体21に設けられた三個のスリット24と、軸受本体21の他方の端面23から軸方向Aであって軸受本体21の一方の端面22に向かって伸びて軸受本体21に設けられた三個のスリット25と、軸受本体21の内側に設けられていると共に円周方向Bにおいてスリット24及び25により分断されて複数個の摺動面としての六個の円弧状の凹面26と、軸受本体21の外面27に設けられた一つの装着溝28と、軸受本体21の外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28に嵌装された弾性リング29と、ハウジング3の係止溝11に弾性的な締め代をもって配されていると共にハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制する規制手段30とを具備しており、係止溝11は、壁面12及び13に加えて、内周面2の一部を構成する円周方向Bに伸びた円環状の壁面14で規定されており、装着溝28は、軸方向Aにおいて凹面26の中央部に配されており、テーパ面32は、テーパ面34と同一の軸方向Aの長さを有しており、溝35は、端面22から軸方向Aに伸びて各スリット25の軸方向Aの一端に接続されており、溝36は、端面23から軸方向Aに伸びて各スリット24の軸方向Aの一端に接続されており、端面22側において開口する各スリット24は、円周方向Bにおいて互いに120°の角度間隔に配されていると共に軸方向Aにおいて装着溝28を超えて伸びており、端面23側において開口すると共に円周方向Bにおいてスリット24間に配された各スリット25もまた、円周方向Bにおいて互いに120°の角度間隔に配されていると共に軸方向Aにおいて装着溝28を超えて伸びており、斯かるスリット24及び25は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち60°の角度間隔であって、円周方向Bにおいて交互に配されている。
【0051】
図9から図13に示す滑り軸受6において、軸方向Aに伸びた扁平状の弾性リング29は、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない一方、装着溝28に装着されている状態で、ハウジング3の内周面2の径よりも大きい外径を有し、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない上に、装着溝28にも装着されていない状態で、装着溝28の底面41の径よりも小さい内径を有しており、而して、軸受本体21の外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28に嵌装されており、その外周面で締め代をもってハウジング3の内周面2に嵌装されており、これにより、軸受本体21は、その外面27とハウジング3の内周面2の壁面14との間にクリアランス40をもってハウジング3の内周面2の壁面14に配されていると共に、凹面26を介してラック軸5を弾性リング29の弾性力をもって締め付けてラック軸5の外周面4に装着されている。
【0052】
図9から図13に示す軸受機構1において、規制手段30は、装着溝28に連通されていると共に軸方向Aに伸びて軸受本体21の外面27に設けられた少なくとも一対、本例では六対の軸方向溝61及び62と、弾性リング29の軸方向Aの両端面63及び64から一体的に軸方向Aに伸びるように対応の軸方向溝61及び62に嵌装されていると共に夫々が軸受本体21の軸方向Aの対応する端面22及び23から軸方向Aに突出してハウジング3の内周面2の係止溝11に配された少なくとも一対、本例では六対の軸方向弾性突起65及び66とを有しており、各対の軸方向弾性突起65及び66の軸方向Aに突出した部位67及び68によりハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するようになっており、軸方向Aに突出した軸方向弾性突起65の部位67は、係止溝11を規定すると共にハウジング3の軸方向Aに直交する一方の壁面12に接触して弾性的に圧縮されており、軸方向Aに突出した軸方向弾性突起65の部位68は、係止溝11を規定すると共にハウジング3の軸方向Aに直交する他方の壁面13に接触して弾性的に圧縮されており、各対の軸方向弾性突起65及び66の夫々は軸方向Aの途中に段部69を有しており、各軸方向弾性突起65は、弾性リング29の軸方向Aの端面63から段部69までは弾性リング29の径方向の厚みと同一の径方向の厚みを有しており、段部69からその自由端までは弾性リング29の径方向の厚みよりも小さい径方向の厚みを有しており、同様に、各軸方向弾性突起66は、弾性リング29の軸方向Aの端面64から段部69までは弾性リング29の径方向の厚みと同一の径方向の厚みを有しており、段部69からその自由端までは弾性リング29の径方向の厚みよりも小さい径方向の厚みを有しており、而して、各対の軸方向弾性突起65及び66の軸方向Aに突出した部位67及び68は、弾性リング29の径方向の厚みよりも小さい径方向の厚みを有している。
【0053】
斯かる図9から図13に示す軸受機構1においても、軸受本体21の外面27から突出する弾性リング29は、ハウジング3の内周面2の壁面14に対して締め代をもって弾性変形され、当該弾性変形によりハウジング3の壁面14の内径の真円度等の寸法誤差は吸収され、スリット24及び25により縮径自在となっている軸受本体21は、弾性リング29によって縮径されてその内側に挿通されたラック軸5を凹面26で締め付けるので、ラック軸5との間のクリアランスを零にでき、ラック軸5との間の衝突をなくし得、しかも、凹面26が合成樹脂からなるために、ラック軸5の外周面4との間の摩擦トルクを小さくすることができる上に、規制手段30の軸方向弾性突起65及び66がハウジング3の係止溝11に弾性的な締め代をもって配されてハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を弾性的に規制するために、弾性リング29とハウジング3の内周面2の壁面14との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、したがって、図9から図13に示す軸受機構1によっても、運転者に不快音として伝達される衝突音の発生をなくし得、ステアリング操作をよりスムースに行わせることができる上に、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる。
【0054】
上記では、各摺動面を凹面26で構成したが、これに代えて、各摺動面を円弧状の突面又は平坦面で構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 軸受機構
2 内周面
3 ハウジング
4 外周面
5 ラック軸
6 滑り軸受
11 係止溝
21 軸受本体
22、23 端面
24、25 スリット
26 凹面
27 外面
28 装着溝
29 弾性リング
30 規制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内周面を有したハウジングと、このハウジング内に挿着されていると共に円筒状の外周面を有したラック軸と、ハウジングの内周面とラック軸の外周面との間に介在された滑り軸受とを具備しており、ハウジングはその内周面に係止溝を有しており、滑り軸受は、円筒状の軸受本体と、この軸受本体に設けられていると共に軸受本体の軸方向の一方の端面から軸受本体の軸方向の他方の端面に向かって伸びた一方のスリットと、軸受本体に設けられていると共に軸受本体の他方の端面から軸受本体の一方の端面に向かって伸びた他方のスリットと、軸受本体の内側に設けられていると共に軸心周りの方向において互いに離間した複数の摺動面と、軸受本体の外面に設けられた少なくとも一つの装着溝と、軸受本体の外面から径方向に突出すると共に軸受本体を縮径させるように装着溝に嵌装された弾性リングと、ハウジングの係止溝に弾性的な締め代をもって配されていると共にハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制する規制手段とを具備しており、弾性リングは、その外周面で締め代をもってハウジングに嵌装されており、軸受本体は、摺動面を介してラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けて当該ラック軸の外周面に装着されている軸受機構。
【請求項2】
規制手段は、軸受本体の一方の端面側の外面に一体的に設けられていると共にハウジングの内周面の係止溝に配された鍔と、軸受本体の一方の端面側に設けられた円弧状溝と、この円弧状溝に嵌装されていると共に軸受本体の一方の端面側から軸方向に突出した他の弾性リングとを具備しており、鍔は、ハウジングの内周面の係止溝に他の弾性リングによる弾性的な締め代をもって配されている請求項1に記載の軸受機構。
【請求項3】
係止溝は、ハウジングの軸方向に対して直交する一対の壁面と、ハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面とで規定されており、鍔の軸方向の一方の端面は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面と対面しており、鍔の軸方向の他方の端面は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触しており、他の弾性リングにおいて軸受本体の一方の端面側から軸方向に突出した部位は、係止溝を規定すると共にハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触して弾性的に圧縮されている請求項2に記載の軸受機構。
【請求項4】
規制手段は、軸受本体の一方の端面側の外面に一体的に設けられていると共にハウジングの内周面の係止溝に配された鍔と、この鍔の径方向の外面に設けられた円弧状溝と、この円弧状溝に嵌装されていると共に鍔の径方向の外面から径方向に突出した他の弾性リングとを具備しており、鍔は、ハウジングの内周面の係止溝に他の弾性リングによる弾性的な締め代をもって配されている請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受機構。
【請求項5】
係止溝は、ハウジングの軸方向に対して直交する一対の壁面と、ハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面とで規定されており、鍔の軸方向の一方の端面は、係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触しており、鍔の軸方向の他方の端面は、係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触しており、他の弾性リングにおいて鍔の径方向の外面から径方向に突出した部位は、係止溝を規定するハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面に接触して弾性的に圧縮されている請求項4に記載の軸受機構。
【請求項6】
規制手段は、装着溝に連通されていると共に軸方向に伸びて軸受本体の外面に設けられた少なくとも一対の軸方向溝と、弾性リングの軸方向の両端面から一体的に軸方向に伸びて対応の軸方向溝に嵌装されていると共に夫々が軸受本体の軸方向の対応する端面から軸方向に突出してハウジングの内周面の係止溝に配された少なくとも一対の軸方向弾性突起とを有しており、一対の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位によりハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制するようになっている請求項1に記載の軸受機構。
【請求項7】
係止溝は、ハウジングの軸方向に対して直交する一対の壁面と、ハウジングの軸心周りの方向に伸びる壁面とで規定されており、一方の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性的に圧縮されていると共に係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する一方の壁面に接触しており、他方の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性的に圧縮されていると共に係止溝を規定するハウジングの軸方向に対して直交する他方の壁面に接触しており、弾性リングは、その外周面でハウジングの軸心周りの方向に伸びて係止溝を規定する壁面に接触している請求項6に記載の軸受機構。
【請求項8】
一対の軸方向弾性突起の軸方向に突出した部位は、弾性リングの径方向の厚みよりも小さい径方向の厚みを有している請求項6又は7に記載の軸受機構。
【請求項9】
円筒状の内周面を有すると共にこの内周面に係止溝を有したハウジングの当該内周面と、このハウジング内に挿着されると共に円筒状の外周面を有したラック軸の当該外周面との間に介在される滑り軸受であって、円筒状の軸受本体と、この軸受本体に設けられていると共に軸受本体の一方の端面から軸受本体の他方の端面に向かって伸びた一方のスリットと、軸受本体に設けられていると共に軸受本体の他方の端面から軸受本体の一方の端面に向かって伸びた他方のスリットと、軸受本体の内側に設けられていると共に軸心周りの方向において互いに離間した複数の摺動面と、軸受本体の外面に設けられた少なくとも一つの装着溝と、軸受本体の外面から径方向に突出すると共に軸受本体を縮径させるように装着溝に嵌装された弾性リングと、ハウジングの係止溝に弾性的な締め代をもって配されると共にハウジングに対する軸受本体の軸方向の移動を弾性的に規制する規制手段とを具備しており、弾性リングはその外周面で締め代をもってハウジングに嵌装されると共に軸受本体は摺動面を介してラック軸を弾性リングの弾性力をもって締め付けて当該ラック軸の外周面に装着される滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−203617(P2010−203617A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100410(P2010−100410)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【分割の表示】特願2005−53952(P2005−53952)の分割
【原出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】